従業員の離職を防止するには?取り組むべき対策や改善事例を紹介
コロナ感染症の終息をむかえて大型連休には人々の外出や旅行が本格化するなかで、観光地では飲食店、宿泊場所となるホテルや旅館は働き手が不足していることがニュースに取り上げられていました。
スタッフが確保できないため、飲食店ではせっかくの来客をお断りする、宿泊業では収容人数を制限しながら営業しなければならなかったといいます。
業種を問わず企業が事業成長していくためには、人材の確保が重要な課題とされています。とりわけ流通小売業や飲食業など接客などがある職場ではとくに、事業運営のために従業員の確保が不可欠となります。
とはいえ、いったいどのような取り組みを推進していけばよいのか、なかなかつかめないものです。
的外れな対策を講じてしまっては、せっかく会社を挙げて努力しても離職率の改善にはつながらない恐れがあります。
今回は、離職防止について、なぜ対策が必要か、おもな離職理由とはなにか、企業が離職防止のために取り組むべき対策とはなにか、について解説します。また離職率低下につながった改善事例も紹介します。
離職防止とは
離職防止とは、社員の離職を防ぐために企業が行う対応策・改善策のことです。リテンション、リテンションマネジメントとも呼ばれています。リテンションは維持、保持を指していて、人事においては人材確保という意味合いで使われます。
離職防止の施策としては「労働条件の見直し」や「職場環境の改善」「教育・育成制度を充実させる」などが挙げられます。
離職の原因となるのが1つの理由に限らないため、離職防止のためには多方面からの対策検討が求められます。
企業の離職防止対策はなぜ重要か
内閣府が発表した令和4年版高齢化社会白書によると、日本の人口は少子高齢化によって今後減少傾向にあります。
生産労働人口(15歳~64歳)の人口は2021年では全体の約6割を占めていますが、2055年には約5割へと減少すると推計されています。15歳~64歳までとする労働人口は2021年で7450万人いますが、2055年では5028万人へと減ります。日本が抱えている問題として単純な人口減だけではなく、労働人口の割合が減り、働き手が不足するということが挙げられています。
内閣府「令和4年版高齢社会白書(全体版)」を参照し、筆者作成
また、新規採用者の3年以内の離職率は大卒入社で約3割に上ることがわかっています。仕事を一から教えて、やっと戦力になるまで成長したと思っていた従業員が離職してしまうのはとても残念なことです。
従業員の離職はある一定数存在しており、やむを得ない事由による部分もありますが、新人の離職理由が企業側にあるのならば、すぐに改善への施策を打つようにしましょう。
企業の成長には、人材が必要です。
企業にとって、せっかく採用し教育して育てた従業員が、離職してしまうことは大きなデメリットがあります。企業は離職を防止するために、対策を講じる必要があります。ここではなぜ企業にとって離職防止対策が重要なのか、理由を4つ取り上げます。
採用・教育コストが回収できない
厚生労働省のデータによると、新入社員が就職後3年以内に離職する割合は新規高卒者で36.9%、新規大卒者では31.2%です。3割を超える一定数の新入社員が入社3年以内に離職しています。
人材を確保するために採用活動を行い、新入社員に対して人材育成を行うにもコストが発生します。早期の離職によってかけたコストが無駄になりますし、辞めた人材の補填のために再度コストが発生することになります。
人材を1人採用し、業務を任せられるまで育成するには相応の予算が必要になっています。この点で離職防止の対策は重要であり、離職を防ぐ対策を打つことで、従業員それぞれが長期的に活躍してくれるようになり、コストの損失を防ぐことができます。
社員の負担が増える
離職者が発生すると業務を担う人材が減ってしまいます。業務が減るわけではないため、新規採用が間に合わない場合には離職者が担当していた業務を残る従業員が担うことになり、業務負担が増します。新たに業務を担う従業員にとっては慣れない業務のため生産性が低くなる、あるいは過度な業務量の増加によってサービスの質が低下する可能性があります。
また従業員の負担増に対して新規採用などの対策を打たなければ、不満が溜まった従業員が離職を考える可能性も出てきます。
こうなると企業にとっては次々と離職を考える従業員が現れて、負の連鎖が発生してしまう恐れがあります。
残っている従業員のモチベーションが低下してしまわないように、対策が重要だといえます。
社外的なイメージが悪くなる
いまは求職者が企業情報の確認をネット上で行うことが多い時代です。
SNSが普及してあらゆる場面で利用されているなかで、企業の情報や評判はネット上で拡散されていきます。
求職者は、志望企業の選定の際に企業情報のネガティブな面を把握したいと思っています。「離職率が高い」という情報には反応しやすく、これは応募者の減少につながり、採用活動にも影響を及ぼしかねません。このため優秀な人材を確保できない事態にもなりかねません。
今後の労働人口者の減少が見込まれているなかで、働きたい企業として求職者から選ばれるような企業であることは企業の成長・発展にとって重要です。
優秀な人材が流出する
離職率の高い企業は、優秀な人材を確保できない可能性があるだけではなく、いま働いている優秀な人材が流出してしまう可能性も持っています。
優秀な人材が離職してしまうと、事業活動が滞り、企業成長の鈍化やひいてはマイナス成長を招くおそれがあります。
実績を積み上げ、組織をまとめてリードしてきたキーパーソンが離職してしまうことは、企業の成長力や競争力の低下を招くこととなり、企業にとって大きな痛手となりかねません。大切な従業員が離職せずに自社で活躍を続けてもらうには離職防止の対策が重要だといえます。
従業員の主な離職理由とは
厚生労働省の「令和3年雇用動向調査結果の概要 転職入職者の状況」には、令和3年1年間の転職入職者が前職を辞めた理由が挙げられています。
男性では「その他の個人的理由」19.1%、「その他の理由(出向等を含む)」15.0%、「定年・契約期間の満了」16.5%が最も多く、次いで「職場の人間関係が好ましくなかった」8.1%となっています。
女性は「その他の個人的理由」24.6%、「定年・契約期間の満了」12.3%が最も多く、次いで「労働時間、休日等の労働条件が悪かった」10.1%が挙げられました。
働くにあたっては人間関係などの職場環境や長時間労働や休日の少なさなど勤務条件が悪いことが離職につながることがわかります。
理由1:人間関係が悪い
厚生労働省の調査によると「人間関係が好ましくなかったこと」が離職の理由として挙げられています。
家族よりも長い時間を過ごす職場での人間関係に悩むことは、従業員にとっては強いストレスとなります。特に管理職や先輩が理由もなく恐い場合など、ハラスメントになりかねないケースもあります。「上司の態度や言葉遣いが攻撃的・高圧的」「人によって態度が変わる」という職場では、若手社員に過度なストレスを与えてしまいかねません。とくに上司には部下に対して高圧的な態度や不当な扱いをしないよう徹底した教育が必要です。
新入社員においては、入社して間もないころはとくに仕事の進め方や将来のキャリア設計に対して、不安が大きいものです。
「上司や同僚の先輩に相談しにくい」「コミュニケーションがそもそも少ない」という環境では、若手社員が精神的に孤立してしまい、これが離職につながることが少なくありません。
理由2:勤務条件が悪い
いまは働き方改革が進み、従業員の価値観も多様化するなかで、ワークライフバランスを重視する人が増えています。給与や賞与が少ないという条件の他にも以下のような勤務条件の悪さが起因して離職につながるケースがあります。
- 長時間労働やサービス残業がある
- 有給休暇が取りにくい
- テレワークを利用できない
- 短時間勤務制度がない
定時を過ぎても帰りにくい雰囲気がある、上司が帰るまで部下も帰れない、残業している人が評価される風潮がある、など習慣化している場合には、企業で業務の見直しや効率化、または労働時間を減らす取り組みを検討してみましょう。
短時間勤務制度やフレックス制度の導入、テレワークの活用が許されていない企業は育児や介護を抱える従業員が離れてしまうことにつながります。多様な働きかたに対応できない企業は離職率が高くなる恐れがあります。
理由3:将来性がみえない
業績が不安定で企業の将来性がみえない、企業の事業拡大が想像できず、いつまでも年収アップが望めないと、組織に対して期待が持てない場合、従業員の不安は高まります。
また、人材育成や教育制度が整備されていないと自分自身の成長やスキルアップに対して不安を感じるケースもあります。成長意欲のある人材が不満を抱き、離職を考えるケースも少なくないでしょう。
離職防止対策が的外れになるケース
離職防止のために策を打ったにも関わらず成果が見られなかった場合、施策そのものに魅力がないケースとそもそも施策の目的となっている従業員のニーズがつかめていないことが考えられます。
良かれと思って待遇や条件を改善しても、そもそものニーズに対して的外れな内容であれば、離職率低減の効果を得ることはできません。
的外れとなってしまう離職防止対策とはどのようなものなのでしょうか。
給与を上げるだけでは離職防止にならない
企業側の思い込みで「社員の定着率は給料を上げれば高まるだろう」「福利厚生を充実させれば、従業員が辞めなくなるだろう」と安易に考えていては、結局どんな策を講じても的外れとなって、従業員の離職率を下げることは難しいでしょう。
『岡元文宏著「できる人材がすぐに辞めない職場のつくりかた」株式会社商業界』によると、企業が従業員のニーズを満たしていなことが離職につながっているとされています。
たとえば「給料の低さ」は離職の理由として挙げられますが、給与を上げれば従業員のニーズが満たされるわけではありません。「他社に転職で年収は下がってしまうが、職場の人間関係が悪く、はやく環境を変えたかった」という給与以外の理由で辞めているケースもあります。
退職に際して、辞める本当の理由を話さないこともあるでしょう。企業は、従業員の職場に対するニーズをしっかりと把握しておくことが重要だといえます。
課題に対して企業の取り組み姿勢が感じられない
従業員が抱いている職場への不満や課題が明らかになっていたとしても、それを改善していこうとする姿勢が感じられないと、より一層従業員の不満は大きくなってしまうでしょう。
たとえば上司の高圧的な態度や言葉に嫌気がさしていて、これを人事部や経営側が課題として把握して場合に、上司のパワーハラスメントその物以上に、その上司を咎める、マネジメント研修など教育を受けさせるなどせずに、そのまま放置している状況に対して失望したという理由で退職を決意するケースもあります。会社は、従業員のためになにもしてくれないと、働きたいという気持ちが薄れていくことになります。
やりがいが感じられない
従業員が職場に満足を感じる要因として、仕事のやりがいや達成感などが挙げられます。この満足を生む要因は内発的な動機づけが必要となります。モチベーションを高めたり、自律的な成長を促すやりがいや達成感が得られないと、働く意義が感じられなくなり、違う環境を選ぶことにつながっていきます。
これはハーズバーグの提唱する二要因理論で論じられています。二要因理論は不満足をもたらす要因(衛生要因)と満足をもたらす要因(動機づけ要因)は相関性のない別のものだといいます。
宮川淳哉氏の書籍「中小企業のための人事評価の教科書 総合法令出版」によると、この理論の重要なポイントは2つあり、1つめは衛生要因が満たされていなければ満足度は高まらないこと。2つめは衛生要因が満たされても、動機づけ要因が満たされなければ本当の意味でのパフォーマンスは発揮されないのだと言及しています。
働きやすい環境は衛生要因ですが、衛星要因を整えることだけをやっていても離職防止対策としては不十分です。達成感や承認などの動機づけ要因が満たされていないと、働きがいややりがい、または企業に対するエンゲージメントの向上にはつながらないといいます。
宮川淳哉著「中小企業のための人事評価の教科書」を参考に弊社で作成
企業が取り組むべき離職防止対策
リテンション施策を成功させるカギは退職者の心のなかにあるものです。給料だけでなく、多様な働きかたや評価制度、キャリアプランなど、離職率改善につながるヒントが豊富に詰まっています。
対策としては、従業員の不満などを把握すること、相談しやすい職場環境をつくること、自身が成長するキャリア形成の支援のしくみづくり、個人のライフスタイルに合致した勤務環境をつくることなど、があります。
仕事にもやりがいを持ちながら、スキルの向上や自己成長の実現が目指せる、ライフワークバランスの実現を図ることが重要です。
対策1:現状把握のたのアンケートを実施する
どのような対策をおこなえばよいかを考える前に、まずは離職の要因となる従業員の不満とはなにかを把握する必要があります。
(社)日本経済団体連合会 の報告書「経営環境の変化にともなう企業と従業員のあり方~新たな人事労務マネジメント上の課題と対応策~ 」によると、離職防止の対策としては現状の把握が重要だといいます。
まずはビアリングやアンケートなど実態調査を行い、職場における問題点を洗い出していきます。
実態調査から会社の将来性に対する不安や仕事に対する閉塞感、評価・待遇への不満、上司に対する失望感、職場における人間関係といった、従業員のモチベーションを下げてしまう要因が職場にあるかどうかを把握します。
この実態調査は定期的に行い、従業員の不満に感じる理由についてデータを積み重ねて取得しておくことで、自社が抱える問題の傾向を把握し、いますぐに対応すべき課題と将来的に解決していくべき課題の区別も可能となり、そのときにあった施策を展開しやすくなります。
対策2:例:1on1面談など、気軽に相談できる仕組みづくり
厚生労働省の調査によると、離職の理由には「人間関係が悪かった」が挙げられています。「気軽に相談しにくい」「上司のハラスメントが黙認されている」など上司との関係性がうまく築けないとストレスが溜まって労働意欲低下につながります。
新入社員は仕事を覚えきれないうちはわからないことばかりで、自分一人で判断することができないことが多いものです。こんな場合に何気ない質問も気軽にできる、相談できるようなしくみがあれば、疑問や悩みを一人で抱えこまずにすみます。
また、職場、組織における自分の役割を見失ってしまうこともあります。「自分はチームの役に立っているのだろうか」「何のためにこの作業をしているのだろうか」という不安が、新入社員の早期離職のきっかけになり得るのです。
上司との定期的な1対1の面談を設定することで、新入社員の不安に感じていることをヒアリングする、質問や疑問に答える、新入社員に期待の言葉をかけるといった時間をとることで、自己肯定感が高まり、やる気が出てくることも期待できます。
対策3:人材育成施策の見直しや研修制度の整備
自己成長が見込めないと感じると、従業員は今の職場で働くモチベーションを失ってしまいます。
自社に人材育成制度がありながら、従業員の成長やモチベーション向上につなげられていないのであれば、制度の内容を見直す必要があります。
また、人材育成のためのスキルアップのための研修制度の設定や効率的な学習のためにツール導入も、従業員の成長意欲を高めるものとして離職防止の対策に有効なひとつの方法といえます。業務の進め方を説明する動画をツールにアップしておき、従業員の必要なとき、都合がよいときにいつでも作業内容を確認することができるようにするなども、新入社員の疑問を解消することに寄与します。
対策4:多様な働きかたを導入する
多様な働きかた、柔軟な働きかたを導入することも離職防止の対策として有効になります。
育児や介護との両立が必要な社員にとって、時間に融通の利く「フレックスタイム制」や「時短勤務制度」があると仕事を続けていくことができます。
またテレワーク、在宅勤務を活用することで、通勤に時間をかけている従業員にとっては有効な離職防止の対策になります。
従業員のライフイベントに最大限配慮をすることで、仕事とプライベートがうまく両立できるような多様な働きかたを従業員に提示することは、離職防止対策のひとつとなりえますし、長期的な定着につなげやすくなります。
対策5:職場全体のコミュニケーションを活性化する
職場のコミュニケーションを活性化させることも、離職防止対策のひとつです。実際に職場の好ましくない人間関係も、若者が早期退職する主な理由として挙げられています。
前述の書籍では、人がすぐに辞める職場の特徴として、従業員同士の「会話がない」ことを挙げています。
何気ない雑談から職場のコミュニケーションが自然に生まれ、従業員の相互理解が深まること、アイディアや気づきを気兼ねなく伝えることができるようになり、職場全体に良い影響を及ぼします。書籍によるとANAは雑談を奨励しており、それがミスやエラーを未然に防いで事故発生の抑制に役立っているそうです。
「同じ職場の人間が協力してくれない」など職場の人間関係がうまくいっていないと、ストレスが溜まって労働意欲低下につながり、職場に行くこと自体が嫌になってしまいます。先輩からフォローしてもらえない、先輩から頑張りを認めてもらえないなど疎外感を感じることで、新入社員は精神的に孤立してしまうことにつながる恐れがあります。
新入社員の精神的な孤立を防ぐための対策としておすすめは、従業員同士のコミュニケーションを活性化してつながりを感じられるようなしくみを導入することです。
感謝の気持ちを記入して「サンクスカード」をお互いに贈り合うという方法を使っている企業もあります。これによって侵入社員は頑張りを正しく称賛されて、このことがモチベーションを高め、離職防止が期待できます。
また社内でツールを導入し、アプリなどを利用して従業員同士で感謝や称賛の気持ちを伝え合うのもひとつです。
作業を手伝ってもらったときに感謝の気持ちを伝えたり、ひとつの業務を覚えたときに頑張りを褒めるなど、メッセージを気軽に送れるので、すき間の時間にも新入社員をフォローすることができます。
これらのしくみを利用することで新入社員はまわりから大切にされている、と感じて、新入社員が抱く会社への愛着や貢献意欲が高まりやすくなるでしょう。
対策6:残業時間を削減する
岡元文宏氏の著書「できる人材がすぐに辞めない職場のつくりかた 株式会社商業界」
によると、人が辞めない職場が実践するマネジメントのひとつに「残業させないマネジメント」を取り上げています。
長時間労働や休日返上で仕事をしていると、仕事のパフォーマンスが低下しミスも増え、業績の低下を引き起こします。経営者や管理職の仕事の士気が下がると、部下や周囲のメンバーのモチベーションが下がってしまう恐れがあります。
岡本氏は書籍で、ちょっとした意識の持ち方、行動を変えることで残業時間は撲滅できると述べています。
まずはルーティン業務の見直しです。いま毎日すすめている業務をひとつひとつ本当に必要な業務なのかを見直したり、手順を変更するなどもっとも効率の良い方法に変えていくと労働時間の短縮につながります。
また、むだな書類を減らすことも労働時間を短縮することになります。
従業員に各自で業務にかかる時間を予測し、終了時間を宣言させることも有効です。時間を意識して行動するので作業効率が高まります。
書籍には、岡本氏が行った職場改善事例が挙げられています。
残業時間の削減を目的に、職場では終業の2時間前に夕礼を行い、業務の進捗状況を確認し合うようにしたといいます。その結果、残務が多い従業員は手伝いの協力を依頼することができるようになり、全員が終業時間内にタスクを完了できるように改善したそうです。
このようにルーティン業務の見直し、効率化や残業しないという意識づけによって、残業時間を削減することは可能です。
残業時間を削減し、プライベートを楽しむ時間が増えることで、家族との時間や趣味に費やす時間がとれます。仕事場から離れて視点を変えることで、新しいアイディアが生まれることもあります。
ライフワークバランスを重要視する従業員にとっても、残業時間が削減されることで、不満の解消につながります。
対策7:上司のマネジメント能力を向上させる
離職防止対策で、いくら上司とのコミュニケーションを活性化させたとしても、そもそも上司のマネジメント能力が低い場合には、新入社員の悩み解決にうまく機能しない可能性があります。
組織で仕事をする以上、自分以外の多くのひとと関わって業務に当たりますので、人間関係は無視することができません。
人間関係、特に上司との関係が離職の原因になっていますが、これは企業側に落ち度があるといえます。
管理職として部下を育成し、チームをまとめて、組織を強くしなければならない立場の人間が、新入社員のやる気をつぶして離職に向かわせることはあってはいけません。企業にとって損失を生み出すような人材に管理職を担わせること、そして管理職としてのマネジメント能力や上司としてあるべき態度や考えについて育成をしていないのは企業側の問題だといえます。
上司の能力不足やパワハラなどが理由で新入社員が離職するようなことを防ぐため、
管理職へのマネジメント能力研修をおこなうなど、教育に取り組むのもひとつです。
年齢や雇用形態や国籍など多様な人材が集まっているチームで成果を出すために、管理職がチームメンバーの働き方や考え方への理解を深めることができれば、上司と部下との人間関係の問題は改善することが期待でき、離職防止への有効な対策につながります。
適切な対策を講じたことで、離職率が改善した事例
厚生労働省「平成29年度 人材不足分野における人材確保のための雇用 管理改善促進事業」による若者が定着する職場づくり取組事例集」によると、企業・従業員双方に対するヒアリング調査を実施したところ、①労働条件、②職場環境、③人事制度の三つの課題が浮かび上がってきたとあります。
企業ごとに離職率が高くなっている理由、抱える課題は異なります。
それぞれの課題に対して取り組んだことで離職率が減少がみられ、離職防止対策として効果的だった事例を3つ紹介します。
シオジリプラス株式会社
シオジリプラス株式会社は眼鏡や補聴器などを販売を北海道で展開しています。順調に店舗を増やしてきましたが、コロナ禍で道東地域での出店が一時ストップ。また⼊社3〜4年の若⼿従業員の離職が課題となっていました。
【施策】コロナ期は⼈材確保と育成、定着の期間と設定
- コロナ禍後の出店を見据えて即戦⼒確保をはかるため、労働条件を改善
勤務シフトを工夫したことで年間休⽇数の増加を実現したことや、従業員のライフステージに合わせた雇⽤形態の柔軟な変更(⼀時的なパートへの変更や正規職員の短時間勤務制度の導⼊等)、賃⾦体系の改変等を行い、他社に⾒劣りしない就業環境となるよう整備しました。
- 従業員への丁寧な⾯談の実施
従業員にとって 満⾜とやりがいを感じられる職場を実現するために、上司と部下で丁寧な面談を行い、一人ひとりの興味や方向性、ワークスキルなどを把握するようにしました。
【効果】
- ⽣産性の向上がみられた
隠れた能⼒を活かす⼈材の配置を⾏ったことで、「社内兼業」が促進され、以前は外注していた業務を社内の⼈材でまかなえるようになりました。業務を内製化できて、⽣産性の向上が実現しました。
- 職場の満⾜度が高まった
丁寧な面談から聞き取った従業員の興味や趣味、能⼒に合わせた適材適所の配属を実施することができました。これが従業員のやる気アップに繋がって、⻑期的にみた離職防⽌を期待できるようになりました。
岡村ゼミナール株式会社
岡村ゼミナール株式会社は兵庫県で塾の運営を行っています。事業の特徴として勤務時間が午後から夜間にかかっていて、さらに長時間労働が常態化していたため休みが取りにくい風土があったといいます。
【施策】
- 就労環境の改善
講師の労働時間を短縮するため1クラス55分の授業を50分へと短縮しました。また月に7,8回開催していた会議を3,4回へと集約し減らしました。
- 労働環境の改善
表彰制度を取り入れて、会社が期待する行動(理念行動、教場の美化促進など)をとった講師を表彰(社長賞、会長賞など)しました。また、若手講師への研修制度を拡充し、模擬授業などの月次研修(入社2~3年目対象、1回1時間半程度)を毎月実施することにしました。
【効果】
- 労働時間の減少
労働時間は、授業時間を短縮した効果が出ており、減少傾向にあるそうです。会議のために会議場までの移動に片道1時間かかっていた講師もいて、会議開催回数を集約したことで、出席者の負担も減っているといいます。
- 講師とコミュニケーションが活性化
若手講師を対象とした月次研修によって生徒のやる気を出させ、かつ授業に集中させるスキルを習得できるなど、授業の方法・進め方が分かった、他の支店の若手講師とのコミュニケーションが活発化したといった良い影響がみられています。
キステム株式会社
キステム株式会社は、システム開発を行う情報通信業を奈良県で展開しています。今から10年ほど前に、若手従業員の離職が増加した時期がありました。原因は管理職の指導方法が現代の若手従業員の価値観に合わなかったこと。この原因に対して人事制度の改善を試みました。
【施策】管理職教育の徹底と若手従業員の声を積極的に聞き取る
- 管理職の教育プログラムを充実させた
若⼿従業員の離職を防ぐために行ったのは、管理職の教育プログラムの充実でした。パワーハラスメントやメンタルヘルスに関すること、若⼿を含む部下への指導⽅法など、理論面、実践面の両軸で研修を⾏っています。
「若⼿従業員の離職などの問題は管理職の評価にも影響する」という制度改⾰も進めたことで、管理職の意識改革を図りました。
- 人事が若手従業員と意見交換を図る
管理職への教育の徹底に加えて、⼈事権を持つ経営管理室のメンバーが中⼼となり、若⼿の声を聴くことにも取り組みました。
直属の上司がいない状況で、若⼿従業員と⾃由な意⾒交換を⾏う場を設けるとともに、普段の雑談の中からも若⼿の近況、会社に対する不満や要望、仕事や⼈間関係への不安などを共感しながら聞き取るようにしています。
【効果】
- 若⼿従業員の定着
取り組みの効果として、直近の5年の若⼿従業員の定着率はほぼ100%になりました。管理職の意識が⼤きく変わってきたことで、若⼿従業員の離職率が⼤きく低下し、取組の成果が見られています。
まとめ
企業が事業を安定して運営しつづけて、さらに成長していくには人材が必要です。
日本は少子高齢化を背景に、将来的に人材の確保が難しくなることがわかっています。せっかく入社した従業員が、「働きにくさを感じる」「自分の成長プランが見えない」と離職してしまうのは企業としては財産を失うようなものです。
従業員が働きたいと思う企業に、人材は集まります。
離職率が高いことで悩んでいるのであれば、自社の課題を見つけ、離職防止の策を練りましょう。人材から選ばれて、人材に恵まれる企業になるように、対策に取り組みましょう。