新年度を迎えるにあたって、企業では組織改編や人事異動が行われ、引継ぎに忙しい職場も多いことでしょう。新人の入社がある企業もあり、人事や配属される職場では、新人への教育や業務指導に直面することになります。
新人教育は、入社したばかりの新人に最短で活躍してもらうために行います。いま、新人は新卒のほかに中途、パートやアルバイト、外国人労働者、シニア世代など多様化しており、教育担当者は、どのように教えることで新人を即戦力に変えることができるか、効果的な教え方ができているのか悩んでしまうかもしれません。
今回は仕事を教えることが上手な人の特徴や教え方のコツ、注意点などについて解説しますので、今後の業務を進めるうえで参考にしてください。
新人育成を進めるにあたり、新人教育担当者や人事教育部門には、不安や悩みが生じます。新人育成における課題にはどのようなものがあるのでしょうか。ここでは5つの課題を紹介します。
書籍「OJT完全マニュアル 部下を成長させる指導術」には、「適切な指導方法で運用しているはずなのに、部下が育たない」と悩む上司の声を聞くことがあるが、これは部下とのあいだに目標を共有し信頼関係を築くという土台ができていない場合が多くみられる、とあります
OJTを実施するにあたっては指導者と新人の部下の間にラポール(信頼関係)を構築することが大前提だといいます。このラポールの構築には指導者と部下の相互理解が欠かせません。指導者と新人とで年齢が大きく離れている場合、世代による価値観に違いが生じることは当然です。
相手に関心を持って相互理解を深めていくことで、価値観の違いを受け入れて同じ目標に向かって進むことができるようになります。新人をしっかりと観察し関心を持って、意見に共感し、信じて、敬意をはらうことで、指導者と新人の間に信頼関係が生まれていきます。
新人育成には、新人が教えても仕事を覚えないという課題も見られます。指導者は、OJTの中で新人が多くの気づきを得て学んでいくことを期待していますが、思うように部下の成長が見られず指導方法に悩んでしまうケースがあります。
書籍には、この場合には目標に向かって進む中で考える余地を与えるようにすると効果的だとあります。指導者は目標を明示しますが、ゴールまでの道筋は一定の範囲内で新人の裁量に任せるというやり方です。新人に自ら考える余地を与える方法です。新人が道を外れそうになった時には指導者がアドバイスを行って軌道修正します。この方法は新人、部下の気づき・学びを誘発しやすくなる指導法でもあります。
新人育成には新人のやる気がみられない、やる気を引き出せないという悩みもあります。力があるはずなのにやる気を見せない、業務に関して消極的にみえるという新人には、教育担当者もどのように指導していけばよいか困ってしまいます。
書籍では、このようなケースでは上司・教育担当者と新人・部下の双方が納得するような成長ゴールを設定することが重要だといいます。教育担当者は「期待する人物像」を、新人は「なりたい自分」の姿を提示して双方からゴールを検討することが重要です。このときに自社の理念を考慮して目指すゴールを設定します。
成長ゴールの設定には「知識」「行動」「価値観」の3つの視点から落とし込むと新人も理解がしやすいでしょう。たとえば知識の視点では「自社商品の特徴を説明できる」行動の視点では「ひとりで〇〇作業を行うことができる」などです。部下は何をすることが求められているのかが分かり、明確なゴールに向かって主体的に仕事に取り組めます。
部下がおとなしく、意欲があっても表に出てこないタイプの場合、まじめに取り組んでいる様子だが成果に表れず、教育しても成長が期待できないのではないかと思ってしまうことがあります。
書籍には、上司が部下の成長を信じることで、確実に部下が成長すると言及してます。これは教育心理学における心理的行動のひとつであるピグマリオン効果を指しています。「相手が成長すると信じて接すると本当に相手が成長する」という事象です。
たとえば部下が失敗したときに、部下の成長を信じていれば「この失敗は指導者の自分の指導に改善点がある」「次はできるはずだと再度チャレンジの機会を与えて支援する」と指導するでしょう。自分は期待されていると感じることでモチベーションが上がり、成長を期待していない場合と比べて、部下の成長度合いには差が生じます。
教育担当者には、OJTの教育担当者に選ばれたが自分の仕事もあるなかで、なかなか新人教育に前向きになれない、という課題もあります。このような場合、教育担当者にとってOJTは優れたマネージャーが備えるべき能力を強化する機会でもあります。
組織はOJTを通して新人の成長だけではなく、指導する教育担当者の成長も期待しています。教育担当者は指導、育成を通してマネージャーに不可欠となる「目標共有力」を強化させることができます。目標共有力とは、組織やチームにビジョンや目標を明確に示し浸透させて、メンバー全員で目標を共有することの能力です。
企業も、教育担当者は新人教育をすることで本人の成長と評価につながる仕組みにすることが重要です。これらを通して、教育担当者が「自分たちにも支援があり、適切な評価がなされるんだ」と感じるようになってはじめて、良い新人教育につながります。
仕事を教えることが上手な人と下手な人がいます。仕事の教え方が上手な人にはどのような特徴があるのでしょうか。
教えることが上手な人の特徴のひとつに「いかに相手の立場に立てるか」という点に標準を合わせて育成に取り組むことが挙げられます。
新人と言ってもバックボーンが異なるため、知っていることや理解していることは一人ひとり違うものです。相手の知識レベルを的確につかみ、それに合わせて「どのように伝えれば一番伝わりやすいか」を考えながら話します。
一方、教えるのが下手な人は考え方が自分本位であるため、自分の知識を誇示したいというスタンスで教えます。相手が自分の説明を理解しているかどうかを気に留めていないため、教わる側は内容がわからないままでいます。
教え上手な人は、常に教える相手のことを考えています。自分も新人の頃があって、その時はなにもわからなかったはずです。この時の気持ちを忘れずに、わからない人の気持ちを大切にするのが、教え上手になるための第一歩です。
新人は教わったばかりの業務を、初めから完璧に業務を遂行することはできません。教え方が上手な人は、教えてやらせてみた中で、良かった点、できていた点についてはしっかりと認めて褒めることができます。
相手を褒めながら教えることで、新人は自信をつけたり、意欲的に取り組むようになります。新人の成長や努力を認めることは、新人に習得すること、できるようになることに対して喜びを感じさせ、モチベーションを引き出すことができます。
ヴィランティ牧野悦子氏の著書「ポジティブフィードバック」によると、新人の行動や存在、結果を承認していることを肯定的な言葉で伝えることが、部下の育成には必要だとあります。新人の可能性を信じて肯定的に部下に対してフィードバックを行うなかで、部下は承認されていることを感じ前向きに進むことができます。
また、承認されていると感じる中では、新人は改善点の指摘も素直に受け入れることができます。
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ポジティブフィードバックとは?効果的に実施するためのポイントや例文を解説
教え方が上手な人は、業務の説明をする前に、その業務にはどのような意味があるのか、何の目的でこの業務を行うのか、その意義をしっかりと伝えています。教え方が上手い人は何のためにそれをするのかという、動機づけをしています。
OJTの現場では教育担当者が忙しい場合もあり、業務の意義や根拠の説明を省いてしまうことがあります。しかし、それでは理解度が半減してしまうことにつながってしまいます。
教え方が上手い人は適切なタイミングで新人に質問して、理解できているか、どの程度わかったのかを確認していきます。研修になかで、あるいはOJTにおいて、この適度な質問を行うによって、教わる側には「最後にいつも問題を出してくる」ということが分かっていますので、「質問に答えられるように準備しておこう、と覚える意欲が高まります。
適度なタイミングで質問することによって教わる側の緊張感が備わり、新人の知識の定着率が高まることが期待できます。
全体像がみえないままに作業工程の一つひとつを丁寧に教えてもらっても、それがどの部分のことなのかを想像することができません。
教えることが上手な人は、請け負っている仕事に対して、大まかな流れや内容を伝えて、仕事の全体像を把握させるようにしています。
全体像が見えていると、そこから細かく項目ごとの説明に入ったときに、その業務項目が全体のなかのどの位置にいるのかがわかりやすくなり、教わる側の理解がすすみます。
新人育成のうえで、やってはいけない行動や教え方はあるのでしょうか。これだけはNGという行動を5つ紹介します。
新人育成においてやってはいけないことのひとつ目は、業務の目的を教えないことです。職場はつねに動いています。業務が立て込んでいるときなどは、教育にかける時間が限られてしまうこともあり、最低限のことだけ伝えようとするケースもあります。このような場合では、業務の目的を教えずに作業の手順だけを教えることになります。
仕事の目的や意図を説明せず、業務の手順のみを教えてしまうと、新人は業務の意義を理解できないまま業務をこなすだけとなります。このような指導が続けば、新人は自発的な行動を取らなくなってしまう恐れがあります。
新人が、自ら仕事の目的や意義に気づくことを待っていると、それまで時間を要します。
業務を教えるときに目的や意義を丁寧に伝えると、新人は業務がなぜ行われるのか、それが何の役に立つのか、を理解できます。意義を理解していれば、その作業に意欲的に取り組むことができるでしょう。
新人ができたことを褒めないということもやってはいけないことのひとつです。
新人は初めて行う作業を習得しようとしています。はじめからできることばかりではなく失敗してしまうこともあるでしょう。新人の間違いに対して指摘し注意することは必要なことです。しかしその後にはフォローを欠かさないことが重要です。注意を受けてばかりいると新人のモチベーションが保てず、育成の効率は下がってしまうでしょう。
新人が新しい業務に行っても、初めから完全にはできないものです。間違えてしまったときには、注意するだけではなく、中にもできていた点や前よりうまく出来た点、チャレンジした点などをピックアップして褒めましょう。
また、出来ていなかった部分は一度にすべて指摘するのではなく、改善しやすいことから伝えて良いところを伸ばすようにすると、新人は自分で考えてできなかった部分を改善をしていくでしょう。
さらに、なぜ間違えたかを、今後同じように間違えないようにするにはどうすればよいかについて本人にフィードバックすることで、新人の成長につながります。
新人の育成においてやってはいけないことは、他の新人と比べることです。新人の業務に対する理解度は一人ひとり異なります。説明を受けて1回で理解できる人もいれば、回数を重ねないと把握できない人もいます。
そんなとき、「同じ新人の〇〇さんはもう次に進んでいる」、「他の人はすぐにできたのに」など、他人と比較した指導は絶対に行ってはいけません。
他人と比べられて自分が劣っていることを示されることで、新人のモチベーションが下がりますし、劣等感を感じて自信を失ってしまうことにつながります。
新人にとっては仕事あ初めての経験なので、できなくて当たり前であることを分かったうえで、新人の成長を期待した育成指導を心掛けましょう。
新人の認識や意見を聞くことなく指導をすることは、新人育成においてNG行為です。教育担当者は、業務に携わってきた経験から、どうしても自分の経験や意見を中心に話してしまいます。
人はこれまで経験してきたことがそれぞれ違うため、持っている価値観や知識が異なっています。企業に入社して同じ教育課程をたどっているとしても、成長過程は人それぞれです。
業務工程を教わった順番に習得していく人もいれば、すべての工程を教わってからひとつひとつの精度を上げていく人もいます。
どのように成長の軌道をみせるかは新人ごとに変わってくるため、自分の成長過程を正解としたアドバイスをしてしまうと新人の本来の成長スピードを遅くさせてしまうかもしれません。人それぞれの気づきや成長があることを意識することが大切です。
業務のやり方を実際にやって見せずに、抽象的な説明のみで教えるという方法は、新人への教え方としては不適切だといえます。
教え方の原則として「見せる・教える・やらせる・ほめる」という4原則が存在します。山本五十六の名言で「やってみせ、言って聞かせて、させてみせ、ほめてやらねば、人は動かじ」の言葉のとおりです。
この教え方は、育成・指導をする立場の教育担当者は大切にしなければいけません。
順番が重要で、まずは実際に目の前でやって見せることから始めます。新人は一連の動作を見ることで、業務の全体と流れをイメージすることができます。
説明文を読んだり、言葉で説明を受けても、その作業を見たこともない新人にとっては、正しく捉えることができないでしょう。
目の前でOJT指導者が作業を行っている様子を見ることで、手順を確認でき、どの工程に気を配る必要があるか、完了までにどのくらいの時間がかかるのかなどを把握できるとともに、成功イメージが強まるでしょう。新たな業務に取り組む意欲も増してきます。
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新人をいちはやく育て、即戦力に変える育成のコツにはどのようなものがあるのでしょうか。5つのコツについて解説します。
新人をいち早く即戦力に変える育成のコツには、相手の顔を見ながら話しをすることが挙げられます。人に何かを教えるときに相手の表情を見ていれば、それほど理解していないかもしれない、共感できていないのでは、などのようにいまの状態を見て取ることができます。新人の表情やしぐさから理解が進んでいないと感じたときには、違う例をとって話すなど、話し方を変えてもう一度同じことを説明してみましょう。
また説明するときの話し方も、相手に合わせることが大切です。
人はそれぞれ自分の話しやすい聞きやすいスピード、波長を持っています。大声で説明されると怒られている気持ちになったり、早口で説明されると急かされたような気持ちになってしまい、内容を覚えることから意識がそがれてしまう恐れがあります。
相手の話すテンポや声量に合わせて話すようにすると、安心して教育担当者に心を開いてくれるでしょう。
はじめに仕事の全体観、大きな枠から説明することも新人が効率よく業務を習得する教え方のコツに当てはまります。
新人教育を行ううえでは、まず仕事の全体像を共有することから始めます。大枠を把握させた上で、これから教える内容が全体像の中でどこを担っているか、どのような価値があるか、さらにどう繋がっていくかが分かるようになります。
育成・指導においてよくある失敗のひとつが、最初から事細かにすべてを説明してしまうことです。
全体像が見えないままに作業一つひとつを先に説明されると、その作業の位置付けや目的、意味がわからないままに作業に取り組むことになります。
一軒家を建てるにもはじめにどのような家を建てようとしているのか、間取りはどうか、などの情報共有がされ、骨組みを見せてもらえると頭の中に家の完成のイメージを構築することができます。
大枠が分かっているうえで、細部についての説明があれば、理解度が増していくのです。
新人を早く育成するコツとして、教えるときにシンプルでわかりやすい言葉を選ぶことも大切です。
その業界では当たり前に使っている専門用語があったとしても、業界未経験の新人には意味が分からないので、伝わらないということはよくあります。
さらにその企業でのみ使われる独自の言葉や単語も存在することがあります。長年その会社で働いている教育担当者にとっては専門用語や企業独自の言葉が当たり前になっているかもしれませんが、このような独特で専門的な表現は、新人の理解を妨げてしまうことにもなりかねません。
分かりにくい専門用語を具体的な例や日常的な言葉で置き換えるなど、シンプルで一般的な言葉を使って説明しましょう。
新人を早く一人前に育てるコツには、相手に伝わりやすく説明の仕方を工夫することが挙げられます。誰もがそうですが、自分がイメージできたことしか行動に移すことができません。新人に、教えたことを正しく行動に移してもらうためには、部下がイメージできるように説明を工夫する必要があります。
たとえば部下がイメージできる事例を使って説明することも、教わる側にとってイメージしやすくなる方法です。
新人にとって 身近なものにたとえた説明をするとイメージがつかみやすくなります。
新人がこれまでの体験してきた中に、たとえられるものを探します。たとえば部下との情報共有のなかから、アニメが好きな人ならアニメのシュチュエ―ションで説明する、など新人がイメージしやすい背景を設定して、説明すると理解が進みやすいでしょう。
育成対象者が成長することを期待して接することも、新人を即戦力に育てるコツだといえます。
ピグマリオン効果に表されるように「相手に期待をかけて接していると本当に相手は成長する」事象が起こるとされています。
期待されていると感じることで、新人は仕事へのモチベーションが上がり、期待に応えようと努力します。このことで新人の成長が早まることが期待できます。
教育担当者の教え方によって育成のレベルやスピードは変わってきます。しかし担当者の教え方以外にも新人育成のために工夫できる方法があります。新人育成のしくみを整えることで、新人の成長を促進することができます。
新人に限らず、人材育成において定期的なフォローアップを行うことは欠かすことができません。
書籍では、フィードバックなしでの仕事は「ナビのない状態で初めての場所に向かう」ようなものだとあります。
新人へのフィードバックをこまめに行うことで、仕事のやり方が明確になり、自ら考えて動くようになり、効果的に高品質の成果を出すことが期待できます。
マニュアルを準備して、OJTの前に、新人がこれから覚えていく作業内容を学習できるように環境を整えることも、効率的な新人育成には重要です。
マニュアルは文字や図表による説明文でも良いですが、作業工程などは動画で作成すると良いでしょう。動画は文字よりも多くの情報を届けることができます。学習する新人にとっても、作業における動き方がわかるので、自分が作業するイメージがしやすく、スムーズにOJTに移行することができるでしょう。
新人育成には、人材育成に特化したツールやシステムを導入することも有効です。
マニュアルの作成や配信以外にも、動画で学習する機能があり、OJT前に自主学習ができるツールもあります。多くのツールやシステムではスマートフォンで各自がいつでもどこでも学ぶことができますので、新人の即戦力化を促すことに効果的です。チェックリストやテスト機能もあり、受講者全員の習得度を測ることも可能です。
このようなシステムを導入することで、個人の習熟スキルを均一化することができます。
また教育担当者による教え方のバラツキも解消でき、教育担当者にかかる負担も減らすことができます。
今回は職場で教育担当や業務指導を行う方に向けて、新人への仕事の教え方のポイントを解説してきました。仕事を教える際に特に心がけたいのは、教える側も教わる側も互いに価値観を尊重する気持ちを持って教育・指導を丁寧に進めていくことです。
教える側は常に新人の言葉や表情、しぐさを見ながら、適切な表現で説明をしましょう。
また新人が質問したり意見を話したりしやすい環境をつくることも大切です。新人が育ちやすい土台を作り、育成・指導をしていきましょう。