雇用契約期間に定めのある「有期雇用契約」の従業員が、契約期間満了となると離職の手続きが必要です。中でも従業員が雇用保険に加入していて、いわゆる失業手当の受給を希望する場合は、ハローワークへ離職証明書の提出が求められます。
離職証明書は会社が作成し、離職理由を記載します。この離職理由が会社都合退職なのか、自己都合退職(更新の希望あり、希望なし)なのか、などにより失業手当の受給日数や受給開始時期が変わってきます。このため会社と退職者で認識にズレがあると、後々揉める可能性があり気を付けたいところです。
当記事では、契約期間満了時の離職理由を判別しやすいようフローチャートでまとめました。失業手当の手続き経験があまりない方でも理解しやすいように、制度についても解説していますので、理解度にあわせてお読みください。
雇用保険に加入していると、失業した際に失業手当等が給付されますが、受け取れる日数や支給開始までの期間が「離職理由」により大きく変わってきます。つまり退職者が、失業手当等を受けたいと思ったら、離職理由が非常に重要というわけです。
このため会社と退職者で認識に差異があると、退職後にトラブルになりかねません。人事担当者は丁寧にコミュニケーションをとり、手続き前に認識のすり合わせを行うことが大切です。
退職者が失業手当等の給付を希望する場合は、ハローワークが発行する「雇用保険被保険者離職票(離職票)」が必要で、この書類に離職理由が記載されます。
(参照元:「ハローワーク インターネットサービス」より)
離職票が交付される流れは以下の通りです。
離職票の発行には、会社がハローワークに提出する「離職証明書」が必要で、会社は離職証明書に離職理由を記載します。離職理由は、大きくわけて「会社都合」と「自己都合」の2種類があり、離職証明書では次の6項目から該当するものを選び記載します。また理由によっては資料の提出も必要です。
(1)採用又は定年後の再雇用時等にあらかじめ定められた雇用期限到来による離職
(2)労働契約期間満了による離職
(3)早期退職優遇制度、選択定年制度等による離職
(4)移籍出向
(1)解雇(重責解雇を除く。)
(2)重責解雇(労働者の責めに帰すべき重大な理由による解雇)
(3)希望退職の募集又は退職勧奨
(1)職場における事情による離職
(2)労働者の個人的な事情による離職(一身上の都合、転職希望等)
より詳しく知りたい方は、「雇用保険被保険者離職証明書についての注意(厚生労働省)」をご覧ください。
労働者が失業した場合や雇用継続が困難になる事由が生じた場合に、雇用保険から「失業等給付」を受けることができます。失業等給付は、必要な給付を行い、生活および雇用の安定を図ることが目的です。
失業等給付は大別して、「求職者給付」「就職促進給付」「教育訓練給付」「雇用継続給付」の4種類があります。このうちの「求職者給付」とは、失業補償機能を持った給付で、失業者の生活の安定を図るとともに、1日も早く再就職できるよう求職活動を支援するための給付です。
求職者給付には、一般被保険者に対する「基本手当(いわゆる失業手当)」、高年齢被保険者に対する「高年齢求職者給付」、短期雇用特例被保険者に対する「特例一時金」などがあります。全てを理解する必要はありませんが、失業等給付の全体像は以下の図のようになっています。参考程度にご覧ください。
(参照元:「厚生労働省愛知労働局資料」より)
求職者給付を受けるためにはハローワークでの手続きが必要です。そして求職者給付は、あくまでも再就職を目指す方を対象とした支援制度ですので、一部例外を除き、以下に該当する方には支給されません。
その他、離職日以前2年間の被保険者期間(雇用保険の被保険者であった期間のうち、離職日から1カ月ごとに区切った期間に賃金支払いの基礎となった日数が11日以上ある月を1カ月と計算)が12カ月に満たない場合なども求職者給付を受けることができません。なお離職理由により必要な被保険者期間は異なります。
求職者給付の受給資格は離職理由により「一般受給資格者」「特定受給資格者」「特定理由離職者」の3つに分けられ、基本手当の受給要件、受給開始日、受給期間が決まります。
どの区分に該当するか、雇用契約期間に定めのある派遣社員や契約社員、パート・アルバイトの場合は少し複雑になりますので、雇用期間の定めがない場合、ある場合にわけてフローチャートにまとめました。
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会社都合退職に該当する「特定受給資格者」、自己都合退職に該当する「特定理由離職者」「一般受給資格者」、それぞれの範囲について説明します。細かく複雑ですので、悩むときは管轄のハローワークに問い合わせるといいでしょう。
会社が倒産したり、解雇されたりした場合は会社都合退職となり、雇用保険では「特定受給資格者」に区分されます。個人の意思ではない事情で仕事をなくし、再就職の準備をする時間的な余裕がなく離職を余儀なくされたため手厚い保護を受けられるようになっているのです。
雇用契約期間に定めのある従業員が、3年以上勤めた後に雇用契約が更新されなかったために離職した場合や、労働契約締結時に更新されることが明示されていたのに更新されず離職に至った場合も「特定受給資格者」にあたります。
他にも、以下に該当する場合は特定受給資格者となります。
特定受給資格者の場合は、離職の日以前1年間に6カ月以上被保険者期間があれば基本手当の受給対象となります。
より詳しく知りたい方は厚生労働省の資料「特定受給資格者及び特定理由離職者の範囲と判断基準」をご覧ください。
自己都合退職のうち特定理由離職者は、特定受給資格者以外の者であり、期間の定めのある労働契約が更新されなかったことや(雇止め)、やむを得ない理由により離職した者を指します。
やむを得ない理由による離職とは、以下のようなケースを指します。
特定理由離職者の場合は、離職の日以前1年間に6カ月以上被保険者期間があれば基本手当の受給対象となります。
転職などの自分の意志での退職は自己都合退職となり「一般受給資格者」に区分されます。また定年退職者も一般受給資格者です。
本来は会社都合退職なのに、従業員へ退職届を書くように促してしまうと、ハローワークで自己都合退職だとみなされトラブルになることがあります。この点はご注意ください。
病気やケガ、妊娠・出産・育児、介護などで、離職後すぐに働くことができない場合もありますね。そうしたケースも考慮されており、離職後1年の基本手当の受給期間内に、働くことができない状態が 30 日以上続いた場合は、「受給期間延長」の手続きを行うことで、働くことができない日数を受給期間に加算できます。
また60 歳以上の定年等により離職して、しばらくの間休養する場合も、受給期間の延長が可能です。
基本手当の受給日数は、退職理由により異なります(障がい者等の就職困難者向けには別途定めがあります)。
退職理由 |
離職時の年齢 |
被保険者期間 |
||||
1年未満 |
1年以上 5年未満 |
5年以上 10年未満 |
10年以上 20年未満 |
20年以上 |
||
特定受給資格者・一部の特定理由離職者
|
30歳未満 |
90日 |
90日 |
120日 |
180日 |
- |
30歳以上 35歳未満 |
90日 |
120日 |
180日 |
210日 |
240日 |
|
35歳以上 45歳未満 |
90日 |
150日 |
180日 |
240日 |
270日 |
|
45歳以上 60歳未満 |
90日 |
180日 |
240日 |
270日 |
330日 |
|
60歳以上 65歳未満 |
90日 |
150日 |
180日 |
210日 |
240日 |
|
定年・契約期間満了・事故都合退職の方 |
65歳未満 |
- |
90日 |
90日 |
120日 |
150日 |
支給開始は、求職の申し込み後、7日間の待機終了後からになり、自己都合退職の場合はさらに3カ月の給付制限が経過した後からになります。
離職理由 |
解雇、定年、契約期間満了で離職 |
自己都合、懲戒解雇で離職 |
支給開始 |
離職票を提出し、求職申し込み後7日間の待機が経過した後 |
離職票を提出し、求職申し込み後7日間の待機+3カ月(給付制限)が経過した後 |
会社として従業員からの離職を拒むことはできませんが、できることなら離職は減らしたいものですね。
「令和2年転職者実体調査の概況(厚生労働省)」によると、離職者のうち76.6%が自己都合退職で、その理由は次の順に多いという結果が出ています。
(参照元:「令和2年転職者実体調査の概況(厚生労働省)」より)
一方で「令和2年雇用動向調査結果の概況」によると離職理由は多い順に次の通りでした。
以上の2つの調査結果より、ここでは離職につながる原因として「職場の人間関係」「仕事内容」「賃金・労働時間・休日等の条件」の3つについて解説します。
「職場の人間関係」を理由に退職した人の割合は、「令和2年雇用動向調査結果の概況」によると、女性は離職理由の第1位で13.3%と最も多く、男性だと第3位で8.8%という結果が出ています。
一方で、「若年者の離職理由と職場定着に関する調査(独立行政法人 労働政策研究・研修機構)」によると、離職を思いとどまった理由として「職場の人間関係が良好だから」が24.2%という結果も出ています。
(参照元:「若年者の離職理由と職場定着に関する調査」より)
つまり職場の人間関係は、離職する原因にもなれば、離職を防ぐ効果もあると言えるでしょう。職場の人間関係には、パワハラやセクハラなども影響するため、会社内に人間関係を相談できるような仕組みがない場合は、早めに対応することをおすすめします。
仕事内容に関することの中でも、勤続3ヵ月未満の早期離職と勤続3ヵ月以上での離職では、退職理由が少し異なります。
株式会社アイデムが総合求人サイト「イーアイデム」の会員に実施した「イーアイデム会員対象アンケート結果(2021年7月)」によると、「仕事量やそれに伴う責任が重すぎた」「体力的に厳しいと感じた」「仕事に興味が持てなくなった・失ったから」は、「勤続3ヵ月未満」で退職した人が約6割を占めているという結果が出ています。
そして「能力・実績に見合った評価がされなかった」「仕事量やそれに伴う責任が物足りなかった」は、「勤続3ヵ月以上」で退職した人が、それぞれ65%、73%を占めています。
(参照元:「株式会社アイデム リリース」より)
つまり、入社前に想定していた仕事内容とギャップが生じることが早期退職につながりやすく、勤続3ヵ月以上だと評価や仕事内容そのものが離職につながりやすい傾向が見られます。
仕事内容について離職防止対策を行う場合は、離職のタイミングが入社後いつが多いのかを把握したうえで自社にあった施策を考える必要があるでしょう。
「令和2年転職者実体調査の概況(厚生労働省)」の離職理由の第1位「労働条件(賃金以外)がよくなかったから」28.2%と第3位の「賃金が低かったから」23.8%。賃金以外の労働条件とは、労働時間や休日・休暇などを指します。
賃金については、働き手にとって非常に重要な点ですので、仕事に見合っていなかったり、将来的な年収アップを期待できなかったり、同業他社と比較して低かったりすると離職につながりやすいのは想像に難くないですね。
賃金以外の労働条件については、近年、働き方改革により長時間労働を是正する動きや有給休暇の取得の義務化などもあり、労働環境が整いつつある企業が増えていますが、一方で徹底できていない企業もあり、格差が生まれています。
またテレワーク・副業などの柔軟な働き方が広まりつつあるため、自社でそうした働き方ができないと離職へつながることも……。
多様な働き方が認知され始めたことで、働き手が「より良い労働環境」を求める傾向は今後も高まっていくでしょう。
ここまでにご紹介した離職につながる理由を踏まえたうえで、従業員の離職を減らすために会社としてできる対策を3つご紹介します。
離職理由のひとつに「賃金の低さ」がありますが、やみくもに給料をあげても、人は慣れてしまうので一時的な効果しか期待できません。時間が経つと、賃金が低いという印象になってしまう可能性が高いです。
このため会社として対策をするのであれば、賃金と密接に関係する「評価」を見直すことが重要です。従業員を適切に評価して、スキルや能力に合った賃金とします。そして、評価制度を可視化することで、平等性を保ち、従業員に「会社として何を望んでいるか、どうなれば給与が上がるのか」を明確化するのがいいでしょう。そうすることで、優秀な人材に、それに見合う給与を払えるようになり、従業員のモチベーション向上、会社の業績アップも期待できます。
フルタイムの正社員だけでなく、育児や介護をしながら働きたい人、パートナーの転勤によりフルリモートで働きたい方、一日数時間だけ働きたい方など、より個人の事情に沿った働き方が求められるようになってきています。
こうしたニーズを踏まえ、従業員が状況に合わせて、勤務時間や働く場所、働き方を選べるように選択肢を増やすのは離職防止のために有効です。その他、有給休暇を取得しやすい仕組みづくり、雰囲気づくりなども大事になってくるでしょう。
3ヵ月以内の早期離職が多かったり、アルバイトの離職率が高かったりする場合は特に、研修制度を整備して教育に力を入れるといいでしょう。教育が行き届くと、早く業務を覚えられるため、「自分にこの仕事は向いていないのでは……」と自信を失ったり、「仕事の面白さが分からない」と仕事への興味を失ったりということがグッと減ります。
とはいえ、従業員が離職するたびに、最初から教え直しだと、教育する側の負担は相当なものになり、充実した研修を準備するのは難しいのも現実でしょう。このため研修制度は、従業員がいつでも学べるeラーニングを中心に整備するのがおすすめです。eラーニングは、一度作成すれば、繰り返し利用できる良さがありますね。
最近は、動画やマニュアルを一通り閲覧してもらうといった従来からあるeラーニングの仕組みだけでなく、投稿動画を添削することで遠隔ロールプレイングを実施したり、SNSのように従業員間のコミュニケーションを促進したりできるものもあります。現場でのOJTコストを下げられるのも魅力ですね。
退職者が失業手当等を受給する際に、受給日数や受給開始時期などに影響する離職理由。中でも契約期間満了時の離職理由は、多くの要素で決まるため、慣れていても間違えやすいので注意しましょう。記事で紹介したフローチャートもご活用ください。