「ヒューマンエラーをなくしたい」「ヒューマンエラーの対策が知りたい」このようにお考えではありませんか?
ヒューマンエラーは、いずれ重大な事故や損失につながる可能性があるため、事前にどうにか対策をしたいと考えるのが当然です。しかし、「具体的にどうすべきかがわからない」という方も多いことでしょう。
そこでこの記事では、ヒューマンエラーを原因ごとに分類した上で、分類ごとの対策方法についてご紹介いたします。ぜひヒューマンエラー改善の参考にしてください。
まずは、ヒューマンエラーの定義を簡単にご紹介しておきましょう。
ヒューマンエラーとは「意図しない結果を生じる人間の行為」である。厚生労働省が運営するWebメディア「職場のあんぜんサイト」によると、このように定義されています。
少し難しい表現で分かりにくいかもしれませんが、単に「こんなはずじゃなかった!」と感じる人間の行動といえば分かりやすいと思います。
ヒューマンエラーの例としては、次のようなものがあげられます。
上記のような「こんなはずじゃなかった!」というミスは誰にでも経験があるものと思います。実際に厚生労働省の調べでは「労働災害の8割に人間の不安全な行動が含まれている」といわれるほど、ヒューマンエラーはどこにでも存在するミスなのです。
しかし完全には無くせないものの、重大な事故や損失につながる可能性がある以上、ヒューマンエラーへの対策は怠れません。そこで、以下の章ではヒューマンエラーの分類と対策についてくわしく解説していきますので、ぜひ一緒に理解を深めていきましょう。
なお、ヒューマンエラーの具体例や対策についてはこちらの記事でもくわしく解説していますので、ぜひ参考にしてください。
■参考記事
すべてのヒューマンエラーをひと括りにして解決策を見いだそうとするのはナンセンスです。なぜなら、ヒューマンエラーの原因はさまざまであり、効果的な解決策はその原因ごとに細かく異なるからです。
そのため、まずはヒューマンエラーをより細かくかみ砕き、その原因ごとに分類化してみることからはじめていきましょう。ここでは一度、厚生労働省が生衛業向けに制作している「生産性&
効率アップ必勝マニュアル」を参考に、ヒューマンエラーの分類について解説していきます。
ヒューマンエラーは、上図のように大きく「意図しない行動によるエラー」と「意図された行動によるエラー」に分類できます。
まずは、意図しない行動によるエラーからみていきましょう。意図しない行動によるエラーは、その原因から次の4つに分類できます。
<意図しないエラー4つの分類>
では、これら4つの分類にはどのような違いがあるのでしょうか。簡単に解説していきます。
後でやろうと思っていた仕事をし忘れたり、伝言を預かったものを間違えて伝えてしまったり。このような、やり忘れや記憶違いのエラーは、原因が「記憶」にあるものとして分類できます。
これらのように、情報自体が覚えにくいもの・覚えられない量であることや、時間経過による記憶の薄れなどが、「やり忘れ、記憶違い」の要因となります。
うっかり見逃してしまったり、見間違えてミスをしてしまったり。このような、見逃しや見間違いのエラーは、原因が「認知(認識)」にあるものとして分類できます。視覚に関するエラーだけでなく、聴覚や触覚・嗅覚など感覚にまつわるエラーも同様です。
これらのように、情報の質(字の読みやすさ、言葉の聞き取りやすさなど)や、情報の伝え方などが、「見逃し、見間違い」の要因となります。
置かれている状況に対して不適切な行動をとってしまうエラーは、原因が「判断力」にあるものとして分類できます。
これらのように、状況判断の困難さや意思決定の困難さが、「状況判断間違い」の要因となります。
すでに確立されている方法や手順に対して誤った行動をとってしまうエラーは、原因が「行動」にあるものとして分類できます。
このように、あらゆる道具に対する操作性の悪さが、「方法(手順)違い」の要因となります。
では次に、意図された行動によるエラーをみていきましょう。
これは意図しない行動によるエラーとは真逆で、エラーが発生するリスクを理解した上で行動を起こしてしまうエラーです。
これらのように、意図された行動によるエラーは「決まりを守ることに対する意識の低さ」や「作業の必要性に対する理解不足・納得不足」が要因となります。
ヒューマンエラーを5つに分類したところで、より理解を深めるために具体例をみていきましょう。
それぞれのエラーに対して、エラーが起こる要因なども合わせて解説していきます。ぜひ、自身の職場で起きているエラーがどの分類に当てはまるのかを考えながらご覧ください。
なお、具体的な対策方法については記事の最後にご紹介しております。
まずは、意図しない行動による4つのエラーからみていきます。
具体例 |
エラーが起こる要因の例 |
お客様からの注文を忘れてしまった |
・時間経過による記憶の薄れ ・多すぎる情報 ・覚えにくい情報 ・忙しさ等による焦り、注意力低下 |
お客様の電話番号を間違えて記憶していた |
これらの要因から、記憶に関するエラーは具体的に次のような状況下で起きやすいと考えられます。
<エラーが起きやすい状況>
具体例 |
エラーが起こる要因の例 |
タイムセールの値引き札を見逃し、定価で代金をいただいてしまった |
・情報の質の悪さ(見づらい等) ・伝え方の悪さ(声が小さい等) ・環境の悪さ(周囲がうるさい等) ・忙しさ等による焦り、注意力低下 |
注文情報が正しく伝わっておらず、誤った品物が用意されてしまった |
これらの要因から、認知に関するエラーは具体的に次のような状況下で起きやすいと考えられます。
<エラーが起きやすい状況>
具体例 |
エラーが起こる要因の例 |
後ろに並んでいたお客様を先に案内してしまった |
・状況理解の困難さ(お客様が整列していない等) ・意思決定の困難さ(マニュアルの不備等) ・社員同士のコミュニケーション不足 ・忙しさ等による焦り、注意力低下 |
アレルギーを持つお客様に、誤ってアレルギー食材を提供しようとしてしまった |
これらの要因から、判断力に関するエラーは具体的に次のような状況下で起きやすいと考えられます。
<エラーが起きやすい状況>
具体例 |
エラーが起こる要因の例 |
台車の移動中、思うように動かせずお客様にぶつかってしまった |
・操作性の悪さ(台車が古い等) ・忙しさ等による焦り、注意力低下 |
保管する書類を、廃棄する書類と間違えてシュレッダーにかけてしまった |
これらの要因から、行動に関するエラーは具体的に次のような状況下で起きやすいと考えられます。
<エラーが起きやすい状況>
意図された行動による具体例をみていきます。
具体例 |
エラーが起こる要因の例 |
お釣り(千円札)の枚数確認を怠ったら、枚数を間違えて渡してしまった |
・決まりを守ることに対する意識の低さ ・決まり事の内容への理解不足 ・決まり事の内容への納得不足 ・忙しさ等による焦り、注意力低下 |
面倒なのでダブルチェックを無視したら、エラーが起きてしまった |
これらの要因から、意図された行動によるエラーは具体的に次のような状況下で起きやすいと考えられます。
<エラーが起きやすい状況>
上記ではヒューマンエラーの原因として、人間の「記憶」「認知」「判断力」「行動」などをご紹介してきました。
ではなぜ、人間はこのような間違いを起こしてしまうのでしょうか。そこには、次にあげる3つの人間特性が大きく関わっています。
<エラーに関わる3つの人間特性>
「参照元(愛媛県看護協会):看護の知恵袋【Vol.135夏号】ワンポイント・アドバイス『人間はなぜ間違いを犯すのか』」
それでは、これら人間が生まれながらにして持っている3つの特性についてくわしくみていきましょう。「ヒューマンエラーを完全に無くすことはできない」といわれる理由がわかると思います。
人間の身体機能は、次のようなポイントで変化が起こります。
人間の体は、「疲労」と「加齢」によって機能が低下します。体が疲れると注意力が落ちたり、加齢により視力が悪くなったりするのが代表的な例でしょう。
また、人間の体には「サーカディアンリズム」と呼ばれる、体内時計の役割を果たす機能があります。この機能によって、眠りと体温をコントロールしているのです。体温が高いときは体を活動的に動かせますが、体温が低くなると眠気を生じ注意力が低下します。
これらの理由により、人間の生理的身体特性はヒューマンエラーの原因となってしまうのです。
とくに、前述したような記憶に起因する「やり忘れ、記憶違い」のエラーや、行動に起因する「方法(手段)違い」のエラーは、この特性が原因となることが多いでしょう。
人間は、視覚や聴覚、嗅覚などの五感で取り入れた情報を脳で処理し認識します。ところが、人間の脳は、次にあげるような特性からエラーを起こしてしまうことがあるのです。具体例をみてみましょう。
これらのように人間は、脳の処理過程において思い込みや偏見によってエラーを引き起こしたり、時には自身の都合の良いように解釈してしまったりすることがあります。「(これは間違いではなく)きっとアレのせいだ」とこじつけて解釈してしまうこともあるのです。
とくに、前述したような認知に起因する「見逃し、見間違い」などのエラーでは、背後にこれらの原因が隠れていることが多いでしょう。
集団の心理的特性とも呼ばれるこの特性は、人間が集団のなかにいる状態で起きる心理的特性を表します。たとえば、次のような状況を思い浮かべてください。
これらのように集団のなかで人間は、「上司に逆らえない」「みんなと違うことができない」「みんながいるから手を抜く」といった心理的状況に陥りやすくなります。
ほかにも「赤信号、みんなで渡れば怖くない」といった言葉を聞いたことがあるでしょう。これは「リスキーシフト現象」といい、集団になると人間は「自分がしていることはきっと正しい」と思い込みやすくなるのです。
とくに、前述したような「状況判断間違い」や「意図された行動によるエラー」は、この特性が原因となりやすいでしょう。
それでは最後に、ヒューマンエラーの分類ごとの対策方法を簡単にご紹介しておきましょう。これまでの「まとめ」としてぜひご覧ください。
「やり忘れ、記憶違い」まとめ
発生原因 |
記憶 |
発生要因 |
・時間経過による記憶の薄れ ・多すぎる情報量 ・覚えにくい情報 ・忙しさ等による焦り、注意力低下 |
注意すべき人間特性 |
生理的身体特性 |
「やり忘れ、記憶違い」のエラーは、「時間経過」および「情報量」「情報の性質」がカギとなります。そのため、解決策としては次のような方法が効果的でしょう。
<対策>
「見逃し、見間違い」まとめ
発生原因 |
認知 |
発生要因 |
・情報の質の悪さ(見にくい等) ・伝え方の悪さ(声が小さい等) ・環境の悪さ(周囲がうるさい等) ・忙しさ等による焦り、注意力低下 |
注意すべき人間特性 |
認知的特性 |
「見逃し、見間違い」のエラーは、「情報の質」および「情報の伝え方」がカギとなります。そのため、解決策としては次のような方法が効果的でしょう。
<対策>
「状況判断間違い」まとめ
発生原因 |
判断力 |
発生要因 |
・状況理解の困難さ(お客様が整列していない等) ・意思決定の困難さ(マニュアル不備等) ・社員同士のコミュニケーション不足 ・忙しさ等による焦り、注意力低下 |
注意すべき人間特性 |
社会心理学的特性 |
「状況判断間違い」のエラーは、「状況理解のしやすさ」および「意思決定のしやすさ」がカギとなります。そのため、解決策としては次のような方法が効果的でしょう。
<対策>
なお、下記の記事ではマニュアル作成のコツについてくわしくご紹介しています。無料テンプレートもダウンロードできますので、ぜひご活用ください。
■参考記事
【パワポで作成】わかりやすいマニュアルの作り方(無料テンプレート付き)
「方法(手順)違い」まとめ
発生原因 |
行動 |
発生要因 |
・操作性の悪さ(台車が古い等) ・忙しさ等による焦り、注意力低下 |
注意すべき人間特性 |
生理的身体的特性 |
「方法(手順)違い」のエラーは、物理的な「操作性」がカギとなります。そのため、解決策としては次のような方法が効果的でしょう。
<対策>
「意図された行動によるエラー」まとめ
発生原因 |
心理 |
発生要因 |
・決まりを守ることに対する意識の低さ ・決まりごとの内容への理解不足 ・決まりごとの内容への納得不足 ・忙しさ等による焦り、注意力低下 |
注意すべき人間特性 |
社会的心理学的特性 |
意図された行動によるエラーは「心理的要因」がカギとなります。そのため、解決策としては次のような方法が効果的でしょう。
<対策>
重大な事故や損失につながる可能性をもつ、ヒューマンエラー。今回は、ヒューマンエラーの対策方法を見いだす上で重要な「ヒューマンエラーの分類」についてくわしくご紹介しました。
見出し「分類別の対策方法」では、分類ごとの対策方法もご紹介していますので、ぜひ参考にご覧ください。
なお下記の記事では、より広い視点から考えたヒューマンエラーの対策方法もご紹介しています。貴社のヒューマンエラー削減対策にお役立ていただければ幸いです。
■参考記事
ヒューマンエラーを防止する対策方法とは?分類別のエラー例や具体的な対策方法をわかりやすく解説!