人材育成を進めるうえで重要な「人材育成計画」。人口減少にともない人材を確保することが難しい今の時代において、人材育成ないし人材育成計画は企業存続のカギと言っても過言ではありません。
ところが、実際のところ
「人材育成計画は本当に必要なの?」「人材育成計画はどうやって立てたらいいの?」
と分からないことも多いことでしょう。
そこでこの記事では、人材育成計画の基本をはじめ、計画に必要なスキルや計画の立て方までくわしく解説していきます。人材育成計画に役立つ情報や無料エクセルテンプレートもご用意しておりますので、ぜひ最後までご覧ください。
人材育成計画とは、人材育成を成功させるための中長期にわたるプランニングのことを指します。教育、トレーニング、キャリア開発、スキル向上などの方法を組み合わせながら、従業員の成長を促し、組織全体の競争力を高めることを目的としています。
また人材育成計画を立てる際は、組織の経営戦略から逆算し、目標達成に必要となる従業員のスキルや能力を見極めながらプランニングを行っていきます。
人材育成計画の重要性を再認識するためにも、ここでメリットについて整理しておきましょう。
まず、1つ目のメリットとして「効率的な成長が期待できる」が挙げられます。
人材育成計画では、従業員のスキルや知識を着実に向上させるための戦略的なプランニングが行われます。そのため、育成対象となる従業員は計画に沿った教育を適切に受けることができ、効率的な成長につながるのです。
また、効率的に従業員が成長を遂げることは、結果として時間の無駄遣いやリソースの浪費を抑制することにもつながります。従業員の成長スピードが早いことは、間接的に生産性の向上に貢献しているとも言えるでしょう。
人材育成計画2つ目のメリットは「従業員のモチベーションアップにつながる」という点です。
従業員は、人材育成計画によって自身の目指すべき姿や努力の方向性が明確化することで、モチベーションを高く保ちやすくなります。自身で現状の課題に向き合い、目的意識をもって仕事に取り組むことができるでしょう。
また、人材育成計画の成果に対する報酬を設けることで、さらなるモチベーションの向上も期待できます。報酬としては、人事評価への反映をはじめ、表彰制度やキャリアアップの反映など、さまざまな方法が考えられるでしょう。
人材育成計画は、意外にも「人間関係の構築を促す」というメリットもあります。
教育担当者となる上司は、人材育成計画を通して部下の成長過程を見守り、指導していくことになりますが、その過程がまさにコミュニケーションの場として機能するのです。
育成計画を通して上司は部下に対する理解を深め、一方で部下は上司に対して「成長を期待してくれている」「ちゃんと見てくれている」と感じ、やる気と信頼が生まれていきます。
効果的な人材育成計画を立てるためには、「課題発見力」が欠かせません。組織内外の課題やニーズを的確に把握したうえで、課題をクリアにするための建設的な計画を立てることが求められるからです。具体的には、次のような分析や予測を行っていきます。
これらの分析・予測結果が人材育成計画の基盤となるため、課題発見力は最も重要なスキルといっても過言ではありません。
人材育成計画に欠かせないもう一つのスキルである「計画力」は、現状の課題に対する優先順位付けを行ったうえで、目標の設定から予算の配分、スケジュールの策定まで、計画の全体像を設計するためのスキルです。
計画が不十分な人材育成プランでは、非効率であるがゆえに無駄なリソースを浪費するだけでなく、計画に関わる従業員の混乱を招いたり、人材育成の成功率を下げる恐れもあります。そのため、計画力を活かして人材育成の実現可能性を高める必要があるのです。
人材育成計画には、「コミュニケーション力」も欠かせません。
人材育成計画においては、育成対象者に対して計画の目的や進捗状況を明確に伝えるとともに、進捗を把握しながら正しく導いていくことが重要です。互いに信頼関係を築きながら進めることで、人材育成の成功率が高まるでしょう。
しかし反対に、コミュニケーションに難のある従業員同士で進められる人材育成では、教育担当者に対する不信感などから誤解や混乱を招く恐れも。育成の成果を感じにくくなるため注意が必要です。
これまでの説明から、人材育成計画の必要性については十分にご理解いただけたかと思います。そこでここからは、より実践的な内容をご紹介していきましょう。まずは、人材育成計画の立て方から見ていきます。
まずは、人材育成計画における目的を明確化することから始めましょう。人材育成計画そのものの目的だけでなく、人材育成計画を立てる立場にある者としての目的、また教育を受ける者としての目的、それぞれが目的を考えることが大切です。
何事においても、物事を進めるうえで大切なのは「目的意識を持つこと」です。物事の目的と意味を理解しているのとそうでないのとでは、その成果に大きく差がでることでしょう。
一つ例を出して考えてみます。誰しも一度は「勉強が楽しくない。何のために勉強をするのだろう?」と考えたことがあると思います。考えた末、自分なりに「将来の夢を叶えるため」や「将来の選択肢を広げるため」などと目的を見いだせた人は、勉強に対する姿勢やモチベーションに変化が現れ、成果につながりやすくなります。
これが、“目的意識を持つ”ことの意義です。物事で成果が出る人とそうでない人の差は、ここにあるといえるでしょう。そのため、まずは目的の明確化が重要なのです。
目的の明確化の次は、現状の把握を進めていきましょう。
人材育成計画では、組織の経営戦略から逆算し、目標達成に必要となる従業員のスキルや能力を見極めながらプランニングを行う必要があるため、従業員の現状のスキルと能力を把握しておくことが前提となるのです。
また、従業員のスキルを把握する方法としては「アセスメントサーベイ」という調査方法があります。アセスメントサーベイでは、自己評価に加えて同僚や上司からの評価、顧客からのフィードバックなどを活用しながら人材開発に役立てていきます。
具体的な調査方法については下記の記事でご紹介しておりますので、ぜひ参考にご覧ください。
■参考記事はこちら
サーベイとは?代表的な種類や実施のメリット、具体的な手順までを解説!
現状の把握ができたら、次に必要なスキルの整理を行っていきましょう。
みなさんは、アメリカの経営学者ロバート・カッツが提唱した「カッツの理論」をご存じですか?この理論は、組織の中で活躍するために必要な管理能力を、「テクニカルスキル(技術的スキル)」「ヒューマンスキル(人間関係スキル)」「コンセプチュアルスキル(概念的スキル)」の3つに分けて捉えた理論です。
下図に示しているように、3つのスキルはそれぞれ、その人の立場に応じてバランスが変化します。たとえば管理職などの上層部ではコンセプチュアルスキル(概念的スキル)の重要度が最も高く、新人・若手など現場に近い立場の人ほどテクニカルスキル(技術的スキル)の重要度が高くなります。
人材育成計画におけるスキルの整理に迷ったときは、一度この理論を参考にしながら、教育対象者ごとに必要とされるスキルを整理してみるとよいでしょう。
なお、スキルの整理には「KPT」というフレームワークが役立ちます。ホワイトボードなどに付箋を貼り付けながら意見を出し合うようなイメージです。この方法についてもう少しくわしく知りたい方は、下記の記事を参考にしてください。
■参考記事はこちら
業務改善とは?目標の立て方やアイデア出しのためのフレームワークなど、効果的に進めるポイントを解説!
必要なスキルの整理ができたら、具体的な目標設定に移ります。
目標は、教育対象者と教育担当者の両者で意識を合わせながら行うとよいでしょう。教育担当者は、できる限り教育対象者の「こうなりたい」に寄りそいながら、教育担当者ご自身の「こうなってほしい」を実現できるように目標設定を行ってください。
また、目標に対する評価基準は、下記の例を参考にしながら「時間軸や成果物に対して測定可能なもの」を設定するとよいでしょう
目標設定まで終わったら、最後に目標達成に向けた教育手段の検討を行っていきましょう。教育手段としては、大きくオフラインで実施する方法とオンラインで実施する方法の2パターンがあり、下表のようにさまざまな研修形式があります。
研修の形式 |
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オフライン研修 |
・集合型研修(Off-JT) ・OJT(職場内訓練) |
オンライン研修 |
・eラーニング ・Webセミナー |
ざっくりと、オフライン研修は受講者に手厚い指導がしやすいメリットがあり、一方でオンライン研修は時間や場所を選ばないメリットがありますので、学習内容や受講者の性格に応じた教育手段を適宜選択するとよいでしょう。
なお、eラーニングについては、下記の記事にてeラーニングのメリット・デメリットからその導入方法までくわしくご紹介しておりますので、ぜひ参考にご覧ください。
■参考記事はこちら
eラーニングとは?メリット・デメリットから企業研修での効果的な活用方法までわかりやすく解説!
人材育成計画の立て方をご紹介しましたが、実際のところゼロから作成するのはハードルが高いことと思います。そこで、ゼロから作成した無料テンプレートをご用意しました。下記リンクよりダウンロードいただけますので、ぜひご活用ください。
厚生労働省では、人材開発に役立つ情報を多数提供しています。今回は、とくに人材育成計画に役立つ3つの内容をご紹介します。
それぞれ簡単に見ていきましょう。
職業能力評価シートは、職業能力評価基準で定められている「職務遂行のための基準」を簡略化したものであり、人材育成に有効な気づきを得るためのチェックシートです。従業員のスキルや能力を評価し、成長の方向性の見つめ直しに役立ちます。
また、評価シートによって「自分(または部下)の能力レベルはどの程度なのか」「次のレベルに上がるには何が不足してるのか」を具体的に把握することができるため、人材育成計画の「ステップ2.現状の把握」で活用するとよいでしょう。
■資料ダウンロード:厚生労働省「キャリアマップ、職業能力評価シート及び導入・活用マニュアルのダウンロード」
引用:厚生労働省「職業能力評価シートについて」
職業能力評価基準は、仕事をこなすために必要な「知識」や「技術・技能」に加えて、「成果につながる職務行動例(職務遂行能力)」を示したものです。組織内の役割や職務に必要なスキルを明確にすることができるため、人材育成計画の「ステップ3.必要なスキルの整理」で活用するとよいでしょう。
職業能力評価基準では、各企業でカスタマイズしやすいように業種・職種・職務別に整理してあり、2023年11月現在では、事務系9職種(業種横断的な経理・人事など)および、56業種(電気機械器具製造業、ホテル業、在宅介護業など)を整備しています。くわしくは下表をご覧ください。
■資料ダウンロード:厚生労働省「職業能力評価基準の策定業種一覧」
事務系9職種 |
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56業種 |
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建設業関係(7業種) |
型枠工事業、鉄筋工事業、防水工事業、左官工事業、造園工事業、総合工事業、電気通信工事業 |
製造業関係(13業種) |
電気機械器具製造業、プラスチック製品製造業、フルードパワー分野、ファインセラミックス製品製造業、自動車製造業、光学機器製造業、パン製造業、軽金属製品製造業、鍛造業、金属プレス加工業、石油精製業、ねじ製造業、鋳造業 |
運輸業関係(2業種) |
ロジスティクス分野、マテリアル・ハンドリング業 |
卸売・小売業関係(6業種) |
スーパーマーケット業、卸売業、DIY業、コンビニエンスストア業、専門店業、百貨店業 |
金融・保険業関係(2業種) |
クレジットカード業、信用金庫業 |
サービス業関係(16業種) |
ホテル業、市場調査業、外食産業、広告業、フィットネス産業、クリーニング業、在宅介護業、ボウリング場業、写真館業、産業廃棄物処理業、ビルメンテナンス業、旅館業、施設介護業、添乗サービス業葬祭業、エステティック業 |
その他(10業種) |
印刷業アパレル業、エンジニアリング業、自動販売機製造・管理運営業、イベント産業、プラントメンテナンス業、ウェブ・コンテンツ制作業(モバイル)、屋外広告業、ディスプレイ業、警備業 |
キャリアマップは、従業員のキャリアプランニングに役立つツールです。職業能力評価基準で設定されている基準をもとに、能力開発の標準的な道筋が示されています。人材育成計画の「ステップ4.具体的な目標設定」において、教育対象者のキャリアパスをイメージする際に役立つでしょう。
なお、キャリアマップでは職業能力評価基準の「レベル」と自社の資格等級制度をもとに「レベル」を時間軸上で展開することにより、自社版のキャリアマップを作成します。下記ダウンロード資料を活用しながら、従業員一人ひとりに応じたキャリアアップを作成してみてください。
■資料ダウンロード:厚生労働省「キャリアマップ、職業能力評価シート及び導入・活用マニュアルのダウンロード」
引用:厚生労働省「キャリアマップについて」
人材育成は人と人とが関わりながら進行していくものですので、正しい手順を踏んだからといって絶対に成功するものではありません。とはいえ、人材育成において大切なポイントに注意して進めることで、成功率はコントロールできるでしょう。
以下では、最後に人材育成計画を成功させるための重要なポイントについてお伝えいたしますので、ぜひ人材育成計画を進めるうえでの心得としてお含みおきください。
人材育成計画を進めるうえで最も大切なのが「目的を見失わないこと」です。組織としてどのような人材を求めているのか、そしてどのような人材に育てていきたいのかといった核となる部分は決して忘れないでください。
仮に、目的を見失い軸がぶれてしまうと、どこかで必ず「イメージと違う」「何のために研修を受けているのか分からない」「教育担当者を信頼できない」などと、人材育成をする側・される側の間ですれ違いが生じてしまいます。そのため人材育成計画を進めるうえでは、幾度と目的や方向性の確認を行いながら丁寧に進めてください。
人材育成計画においては、何ごとも受講者視点で考えることが大切です。とくに、新しい仕事を教えるときには、その目的・背景・重要性などを丁寧に伝えるとよいでしょう。
仮に、「この書類整理しておいて」とだけ伝えられた受講者の立場を考えてみましょう。新しい業務を任された受講者の気持ちは、(書類の整理って)「どうやるの?」「何のためにやるの?」「いつまでにやるの?」「どのくらい重要なものなの?」と疑問だらけです。
これでは、受講者に大きなストレスがかかるだけでなく、教育担当者との信頼関係を築くこともできず、人材育成計画が成功する可能性は極めて低くなるでしょう。
このように、人材育成計画では教育担当者がしっかりと受講者視点で物ごとを捉え指導していくことが重要なのです。「なぜ?」を繰り返しながら本質を見極め、適切な指導を心がけてください。
人材育成計画においては、総務や人事部門、教育担当者、配属先の上司、社長など多数の人が関わります。ところが、このような中で総務と人事部門、社長の言うことがそれぞれ違うとなればどうでしょうか?受講者は「何が正しくて、誰の言葉を優先したらいいのだろう…」と混乱してしまいます。
そのため人材育成計画ではこのような事態を避けるために、必ず「一貫性」が必要なのです。人事部門や教育担当者といった教育をマネジメントする側の人間は、あらかじめ企業理念や社長訓示といったものに目を通しておくとよいでしょう。
人材育成を進めるうえで重要な「人材育成計画」。今回は、人材育成計画の基本をはじめ、計画に必要なスキルや計画の立て方までくわしくご紹介いたしました。
人材育成計画の立て方は、簡単5ステップ。まずはこのステップを基本として進めてください。また本文では、この5ステップを進めるうえで役立つ情報についても紹介しておりますので、ぜひご覧ください。
そして本記事では、多くの人がつまずく「0→1」を解消するために、人材育成計画のエクセルテンプレートを無料で配布しております。下記リンクよりダウンロードいただけますので、ぜひ貴社の人材育成にお役立てください。