人時生産性を上げるには?計算式や業種別の平均、取り組み事例も紹介
労働人口の減少が進む今、人時生産性の向上は重要なミッションのひとつです。しかし、「人数を減らそうとすると業務がまわらなくなる」「効率化したはずなのに残業が減らない」などといった悩みを抱えている企業も多いのではないでしょうか。
本記事では、人時生産性を上げる7つの方法、そして取り組む際に意識すべき注意点ついて詳しく解説しています。基本的な言葉の意味や「労働生産性」との違い、そして具体的な企業事例などもご紹介していますので、人時生産性の向上を目指している方は、ぜひ最後までご覧ください。
人時生産性とは
そもそも人時生産性とは、どういうものなのでしょうか。言葉の意味と類義語との違いを確認しておきましょう。
言葉の意味
人時生産性は「労働者1人、1労働時間当たりの生産性」を指します。1人の従業員が1時間でどれほどの粗利を生み出せたかを表す指標です。読み方は「にんじせいさんせい」です。
粗利とは、商品やサービスを販売することで得られる利益のことです。売上高から売上原価を差し引くことで求められます。
従業員1人1時間で出る粗利が多いほど「人時生産性が高い」、つまり効率よく利益が生み出せていると判断できます。反対に人時生産性が低いと、利益を生み出すのに多くの労働時間を費やすこととなります。
非効率的な業務体制、長時間労働が強いられる労働環境は、企業に対する信用の低下を招きます。離職者の増加、入社希望者の減少、企業価値低下による売上げ減少と、さまざまな問題が生じる恐れがあるため、多くの企業が人時生産性の向上に取り組んでいるのです。
労働生産性、人時売上高との違い
労働生産性とは、投入した労働力(労働者数や労働時間)に対し、どれほどの成果物を生み出せたかを表す指標です。従業員1人当たりの生産性を指すこともあれば、1人1時間当たりの生産性を指すこともあります。
人時生産性は「従業員1人、労働時間1時間当たりの生産性」です。つまり、人時生産性は労働生産性の一部、1時間あたりの生産性に着目した場合の労働生産性であると言えます。
また、労働生産性は成果物の物量で測る場合と、付加価値額で測る場合の2種類があるのに対し、人時生産性は粗利高で測ります。付加価値と粗利はほぼ同義とあることから、人時生産性は「成果物の付加価値を基準とした場合の労働生産性」とも言えるでしょう。
そして、人時売上高とは「1労働時間あたりの売上高」のこと。従業員1人が1時間で、どれほど売上げたかを測る指標です。1人1時間当たりの売上げを調べる際は「人時売上高」を、どれほど効率よく利益を生み出せたかを調べる際は「人時生産性」を用います。
労働生産性と人時売上高、人時生産性は、内容も活用目的も異なるため、混同させないよう注意しましょう。
人時生産性の計算式
人時生産性は「粗利高÷総労働時間」という計算式で求めることができます。例えば、1カ月の粗利が100万円、総労働時間が160時間だった場合、「100万円÷160時間」で人時生産性は6,250円となります。従業員1人1時間あたり、6,250円の粗利を出しているということです。
正規雇用・非正規雇用で総労働時間が異なる場合の計算方法は、中小企業庁発行の資料に記載されている以下の計算式が参考になります。
人時生産性
=付加価値額÷{(一般労働者の月間労働時間(1人あたり平均)×社長・有給役員・正社員数)+(パートタイム労働者の月間実労働時間(1人あたり平均)×非正規社員数)}÷12カ月
引用:「中小小売業・サービス業の生産性分析」中小企業庁
このように、正規雇用社員と非正規雇用社員それぞれの総労働時間と従業員数を掛け、足した値で付加価値額を除することで、人時生産性を計算できます。
最近では生産性分析ツールを活用するケースも多いですが、システムが整っていない状況でも計算できるよう基本を抑えておきましょう。
4つの業種における人時生産性の平均
人時生産性の平均は、組織の規模や業種によって異なります。代表例として、4つの業種の平均を見てみましょう。
引用:「中小小売業・サービス業の生産性分析」中小企業庁
「中小小売業・サービス業の生産性分析」に記載されているデータによると、4業種の中で最も人時生産性が高かったのは製造業、最も低かったのは飲食業でした。業務の自動化が難しい業種、調理や接客など、人の手が必要な業務が多い業種は人時生産性が下がりやすいと考えられます。
ただし、過去には一部の大手飲食系企業が3,000~4,000円台の人時生産性をマークした、という記録もあります。
このように、人時生産性は業種、組織の規模、時期によって変わります。平均と比較して自社の状況を知ることも大切ですが、自分たちがどれほど人時生産性を上げるべきか、人時生産性を上げてどのようなことを成し遂げたいのか考えることが重要です。
人時生産性を上げるには?主な7つの方法
人時生産性を上げる方法は多岐に渡ります。自社に適した施策を見極めつつ、さまざまな角度からアプローチすることが大切です。
どのように改善するか迷った際は、以下の7つの方法を参考にしてみてください。
方法①業務効率化
人時生産性を向上させるということは、より少ない時間で、より多くの利益を出すということです。粗利を上げる、もしくは業務にかかる時間を減らすことによって人事生産性が上がると考えられます。
経済環境が不安定な今、売上げをアップさせるのは困難です。作業時間の短縮に取り組む方が堅実と言えるでしょう。
そこで必要となるのが「業務効率化」です。代表的な取り組みとして以下が挙げられます。
- 業務プロセスの見直し
- ツールの導入
- マニュアル作成 など
作業の流れや内容、作業環境などを改めて可視化してみると、意外な改善点が見つかるものです。それらに潜むムダを改善することで、業務にかかる時間を短縮できます。
ITツールの導入も、業務効率化における有効な手段のひとつです。作業の一部もしくはすべてを自動化することで、時間を短縮できるだけでなくミスも減らせます。トラブルの対応に追われていた時間も減らせるでしょう。
マニュアル作成は、業務の標準化に効果的です。仕事が遅い人、早い人のムラを無くすことで、業務全体を効率化できます。業務の品質向上による利益アップも狙えるでしょう。
普段行われている業務には、想像以上に無駄が隠れているものです。自社は「問題ないだろう」という思い込みを一度捨てて、客観的に分析することが、人事生産性を高めるポイントです。
方法②人材・人員配置の見直し
作業に時間がかかる原因として、従業員の能力と仕事内容のミスマッチが挙げられます。
誰しも不得意な仕事には時間がかかるものです。それぞれに得意な仕事だけを割り振るのは不可能ですが、できるかぎり特性を活かした業務を任せることで、時間短縮が見込めます。
また、モチベーション向上による作業のスピードアップも期待できます。自分の能力が活かされ、「より効率よく取り組める方法はないか」と自発的に成長するようになれば、さらに人時生産性が高まるでしょう。
人材の配置だけでなく、従業員の「数」の見直しも必要です。各業務の担当者数、各部署の人数が適切か、改めてチェックしましょう。
例えば、飲食業や宿泊業などの店舗業務では、時間帯や繁忙期・閑散期で人員数を変えるのもひとつの手です。人時生産性を細かく分析し、無駄のない人材・人員配置を実現しましょう。
方法③従業員のスキルアップ
効率よく業務をこなすには、知識とスキルが必要です。もちろん経験を積むことも不可欠ですが、知識・スキルを習得すれば、より早く成長できます。
よって、従業員教育も人時生産性の向上に効果的だと言えます。今ある能力を伸ばす方法のほか、全く新しいジャンルの知識・スキルを学ばせる方法もあります。今までにない経験を得ることで視野が広がり、従業員自ら効率の良い業務の取り組み方を思いつくこともあるでしょう。
また、業務効率化に役立つツールを導入する際も、使いこなすための知識とスキルが必要です。従業員教育には時間がかかりますが、より着実かつ継続的な人時生産性の向上を目指すのであれば必要だと言えるでしょう。
方法④在庫管理の見直し
粗利を上げることも、人時生産性の向上に繋がります。そして、粗利を上げるためには、売上げをアップさせる、あるいは売上原価を下げる必要があります。
業種によって捉え方は異なりますが、売上原価の多くを占めるのは仕入れです。在庫が売れ残ったり廃棄したりする量が多い場合は、仕入れを減らす必要があるでしょう。
在庫の無駄が減れば、在庫を管理するのにかかっていた人件費や、施設・設備の利用費なども削減できます。さらに、在庫管理に割いていた時間も短縮できます。
粗利を増やしつつ作業時間を短縮する、という効率的な方法なので、仕入れによって売上原価が高くなりやすい小売業、飲食業の企業はぜひ見直してみましょう。
方法⑤アウトソーシングの活用
作業の自動化、効率化には限度があります。どれほど工夫しても作業時間を短縮できない、というときは、アウトソーシングを活用するのもひとつの方法です。
外部に業務の一部を委託することで、自社が抱える業務の負担を減らすことができます。高度かつ専門的な知識・スキルが必要な業務を委託した場合は、効率化と共に業務クオリティの向上も期待できるでしょう。
外部サービスを利用するには費用がかかりますが、人時生産性が上がり、利益が増えれば結果的にプラスになります。とはいえ、必ずしも成功するとは限らないので、外部に任せた方が良いか、自社で改善すべきか見極めることが大切です。
方法⑥価格の見直し
経済環境などが原因で、どうしても売上原価を下げられないという場合もあります。そのようなときは価格の見直しも必要です。
自社の付加価値に合う価格か、市場と比較して適切かなど、改めて検討してみましょう。市場競争に負けないようにと価格を上げずに販売するのも1つの戦略ではありますが、あまりに不適切だと損失が増えます。損失が増えれば、商品やサービスを改善するための資金が減り、結局価格でしか勝負できないといった状況に陥る恐れもあります。
会社の利益と価値を確保するため、改めて自社が提供するサービスの価値と価格を見直してみましょう。
方法⑦サービスクオリティの向上
売上原価をゼロにすることは不可能です。作業時間の短縮にも限界があります。
それに対し、利益の向上には天井がありません。価格を上げるのか、売上げを伸ばすのかはその時々で異なりますが、いずれにせよサービスクオリティの向上が欠かせないと言えるでしょう。
より質の高いサービスを提供できれば、顧客満足度が上がり、売上げが上がります。価格を引き上げた場合でも、品質に見合っていれば顧客は納得します。
人時生産性アップに取り組む際は、「削る」ことばかりに執着するのではなく、利益を「増やす」ことにも目を向けることが大切です。
取り組む際の注意点やデメリット
人時生産性の向上は、企業の利益向上、労働環境改善、人手不足解消などといったさまざまなメリットをもたらします。しかし、リスクが全くないとは言い切れません。
取り組む際は、以下の4点に注意しましょう。
注意点・デメリット①コストカットによるリスク
人時生産性アップに向けてコストを削減する際は、主に以下の3つのリスクに注意が必要です。
- 在庫切れのリスク
- 商品やサービスのクオリティ低下
- 従業員の負担増加やトラブルの増加
コスト削減のためとはいえ、仕入れを減らしすぎると在庫切れを起こす可能性があります。利益を増やすための人時生産性向上施策であるのに、売ることができなくなるようでは本末転倒です。データをもとに分析し、在庫の「ムダ」を省くことが重要です。
また、原価が安くなるからといって商品・サービスのクオリティを下げてしまうと、顧客満足度が低下する恐れがあります。顧客が離れ、売上げが下がる原因となるため、価格と質のバランスには注意が必要です。
人員を減らす際は、従業員1人1人の負担が大きくなりすぎないよう配慮する必要があります。作業時間の短縮を指示する場合も同様です。一時的に人時生産性を上げることは可能ですが、ミスが増えたり、従業員エンゲージメントが下がったりする恐れがあります。
ついコストを削ることばかりに囚われてしまいがちですが、「利益を増やす」という本来の目的を見失わないようにしましょう。
注意点・デメリット②業務の属人化
業務効率を上げるには、従業員の能力に合わせて役割を与えることが大切です。ただし、その際は属人化に注意する必要があります。
その人が最も得意だからといって1人に任せきりにしてしまうと、代わりに業務を遂行できる人がいなくなります。担当者不在時は業務が滞り、離職した際は後任者を育てるのに時間がかかってしまうでしょう。
また、チームで協力して業務を進めることもできなくなります。その結果、業務効率が下がる恐れがあるので、属人化を防止するための対策が必要です。情報共有システムの強化やマニュアルの共有、従業員教育などを並行して行い、属人化による人時生産性の低下を防ぎましょう。
注意点・デメリット③価格改定による顧客離れ
価格を見直す際、特に価格を引き上げる場合は顧客離れに注意が必要です。たとえ会社側が「適切」と判断したとしても、顧客は納得できない可能性があります。
顧客が価格に不満を持つと、売上げが下がる恐れがあります。それでは人時生産性が上がったとは言えません。
そのため価格改定を行う際は、商品・サービスの価値を見極めて判断すること、そして顧客のニーズを把握することが重要だと言えます。顧客の要望に応える価値を提供できれば、たとえ価格が上がったとしても納得してもらえるでしょう。
また、他社とは異なる独自の価値をつけて、価格競争から抜け出すという手もあります。柔軟な思考で多角的に取り組むことが大切です。
注意点・デメリット④従業員の反発
組織が変わるときは、少なからず従業員の反発が起きるものです。人時生産性向上の取り組みも例外ではなく、従業員の中には「これ以上生産性を上げることはできない」「自分の負担が増えるのではないか」と考える人もいるでしょう。
しかし、取り組みを成功させるためには、組織全体の協力が必須です。よって、従業員が納得できるよう対策する必要があります。施策の目的やゴール、内容、メリット、リスクなどを説明する機会を設けましょう。
また、従業員を巻き込んで取り組むのも効果的です。人時生産性の明確な数値を提示し、どうすれば改善できるか共に考えることで、従業員の主体性・積極性を促せるでしょう。従業員の閃きから思わぬ解決の糸口が見つかることも珍しくありません。
生産性の向上を指示するのではなく、共に目指そうとするマインドを持つことが重要です。
人時生産性の取組事例
業務効率化、コスト削減を実施しても改善されないというときは、さらに一歩進んだ取り組みが必要です。
とはいえ、具体的に何をすれば良いか迷うこともあるでしょう。4つの企業事例をご紹介しますので、施策の考案に悩んでいる方はぜひ参考にしてみてください。
事例①株式会社ひまわり市場
「株式会社ひまわり市場」は、スーパーを運営する山梨県の企業。激しい価格競争と業務改善の限界を迎えていた当社は、商品ラインナップにイノベーションを起こし、売上げアップを成功させました。
以前は他社と似た商品を展開していましたが、価格競争から脱するため、高品質のオリジナル商品を揃えました。そして、価格ではなく、商品の価値が伝わるような内容で顧客へアピールしたところ、全国から来店者が集まるようになったのだそうです。
その結果、客単価・客数、売上げが3割増加。独自価値の創造と、それらを顧客へ伝える工夫、イノベーションを起こす柔軟な発想が、生産性アップの成功へと導いた事例です。
事例②株式会社クリスプ
カスタムチョップドサラダ専門店「CRISP SALAD WORKS(クリスプ・サラダワークス)」を運営する「株式会社クリスプ」。当社は、現場スタッフの負担を減らすことを目的として、モバイルオーダーアプリを全店に導入しました。
スマートフォンでの事前注文・決済が可能になったことで、顧客満足度が上がり、来店頻度が向上。同時にキャッシュレス化も実施し、顧客と従業員、双方の負担軽減を実現しました。
また、業務効率化によってスタッフの気持ちと時間に余裕ができ、より質の高い接客を提供できるようになったとのこと。業務の自動化が難しい飲食業に効果的な人時生産性向上アイデアと言えるでしょう。
事例③有限会社POライフ
「有限会社POライフ」は、義手や義足など装具の製作、販売を行っている企業。当社は最新型のインソール製作システムを導入し、業務効率化を実現しました。
ITツールの活用によって製作工程が減り、作業にかかる時間が約1時間短縮されたのだそう。空いた時間は技術開発に当てて、さらなる品質の向上に役立てています。
製品の品質が上がり、そのうえ短期納品も可能になったことで、顧客満足度が向上。従業員の残業時間を減らすことにも成功しました。
ツールの導入には費用がかかりますが、生産性の向上、売上げの向上、顧客・従業員の満足度向上に繋がるのであれば投資する価値があると考えられるでしょう。
■参考:有限会社POライフ 「はばたく中小企業・小規模事業者300社」2020生産性向上 | 中小企業庁
事例④タイガー産業株式会社
建設資材、建築金物の製造・販売を行っている「タイガー産業株式会社」。当社は、現場のアイデアを生かして製品開発を行い、差別化を実現。他社と比べて圧倒的な低コストを実現しました。
そんな当社の強みを支えているのが、ITを活用した情報管理システムです。当システムでは、各営業所、製造部門のデータをすべて一括で管理しています。データはリアルタイムで共有され、経営の意思判断に活用されています。
人時生産性の向上に限らず、イノベーションを起こすには従業員の閃きと協力が欠かせません。その土台作りとして、当社の事例を参考に情報管理・共有システムを強化しておくと良いでしょう。
■参考:タイガー産業株式会社 「はばたく中小企業・小規模事業者300社」2020生産性向上|中小企業庁
まとめ
人時生産性は目に見えるものではないため、大きな問題がない限り、つい蔑ろにしてしまいがちです。しかし、どれほど革新的な商品・サービスを開発しても、どれほど業績が伸びても、収益性が悪ければ利益を増やすことはできません。
組織が継続的に成長するためにも、効率よく利益を生み出す仕組みづくりが必要です。当記事にてご紹介した向上施策を参考に、できることから始めてみましょう。