ナレッジベースとは?活用するメリットや作り方、導入時の注意点など詳しく解説
近年では、業務効率化や人材育成、サービス品質の向上を目的として、多くの企業がナレッジベースの構築・活用に注目しています。
特に小売・流通・飲食・レジャー業など、現場スタッフが多く属する業種では、マニュアルや業務フローの属人化を防ぐために、ナレッジベースの導入が効果的です。
本記事では、ナレッジベースの意味や導入メリット、活用方法、社内で使えるおすすめツールまでをわかりやすく解説します。
「ナレッジベースを導入したいが、何から始めればよいかわからない」とお悩みの方にとって、実践的なヒントになる内容です。
ナレッジベースとは?
ナレッジベースとは、業務に関する知識やノウハウを一元管理し、社内で共有・活用できるようにした情報データベースのことです。
主に社内利用を目的として構築されるもので、外部には非公開とし、企業内の貴重なナレッジ(知見)を蓄積・管理する役割を担います。
ここで言う「ナレッジ(知識)」とは、従業員が日々の業務を通じて得た経験、成功事例、手順書、業務マニュアル、トラブル対応策など、企業活動を支えるあらゆる情報資産を指します。ナレッジベースはこれらを検索可能な形式で整理・保存し、必要なときに誰もがアクセスできる仕組みを提供します。
ナレッジベースに蓄積される代表的な情報は以下の通りです:
- 業務マニュアル・操作手順書
- よくある質問(FAQ)やトラブルシューティングガイド
- プロジェクトの事例共有、成功パターン
- コールセンター対応履歴 など
また、ナレッジベースの大きな特長は、継続的に更新・追加ができることです。新たな知見や改善策が発見された際には、従業員自身がナレッジを登録・編集できるため、情報が常に最新の状態で維持されます。
適切に構築・運用されたナレッジベースは、属人化の解消、業務の標準化、教育コストの削減、現場の自己解決力の向上など、組織全体のパフォーマンス向上に大きく貢献します。
そもそも、ナレッジとは?という方はこちらの記事を参照ください!
「ナレッジとは?ビジネスシーンでの意味や活用する方法を解説!」
ナレッジベースが生まれた背景
ナレッジベースが今注目を集めている背景には、次のような企業をとりまく環境の変化があります。
1:人材の流動性が高まっている
近年、終身雇用制度の崩壊や転職市場の活発化により、人材の流動性が急速に高まっています。
その結果、従業員が持つナレッジ(知識・ノウハウ)が、退職や異動によって社内から失われるリスクが大きくなっています。
従来は、時間をかけて先輩社員から後輩へ知見を引き継ぐ文化が根づいていましたが、今ではその継承が難しくなり、業務の属人化やナレッジの断絶が課題となっています。
こうした背景から、ナレッジベースを活用した日常的な情報共有の仕組みが、企業の生産性と継続性を支える手段として注目されているのです。
2:働き方が多様化している
現在、働き方の多様化が進み、企業は優秀な人材を確保するために、リモートワークやフレックス制、在宅勤務など柔軟な制度を導入しています。
一方で、決まった時間に同じ場所へ集まる機会が減ったことで、社内での情報共有やナレッジの伝達が難しくなっているという課題も生まれています。
3:業務効率向上が求められている
業務効率の向上は、企業の持続的な成長において重要な課題です。2019年4月には「働き方改革関連法案」により、時間外労働の上限規制が導入され、より一層の生産性向上が求められています。
こうした環境変化に対応するためには、社内に散在する知的資産を一元的に集約し、組織全体で共有する仕組みが欠かせません。ナレッジベースに継続的に情報を蓄積していくことで、企業にとって大きな資産となります。
個人が保有するナレッジやノウハウを組織全体で共有し、有効に活用していくことが今後ますます求められています。
ナレッジベースを活用するメリット
ナレッジベースを構築し活用することのメリットにはどのようなものがあるのでしょうか。ここでは4つのメリットを紹介します。
メリット①:業務の効率化につながる
ナレッジベースを構築する最大のメリットのひとつは、組織全体の業務効率化に大きく貢献できる点です。
従業員同士のコミュニケーションは業務を円滑に進めるうえで欠かせませんが、些細な質問や確認が頻繁に発生すると、教える側の業務が中断され、結果として組織全体の生産性低下を招く恐れがあります。
そこで、基礎的な業務フローや情報をナレッジベースに登録しておくことで、従業員が自ら必要な情報を迅速に検索・参照できるようになります。これにより、質問の手間を省き業務効率を大幅に改善できます。
さらに、質問と回答の内容を随時ナレッジベースに蓄積することで、同様の疑問を持つ他の従業員もスムーズに問題解決ができ、組織全体の知識共有が促進されます。
メリット②:属人化の解消につながる
ナレッジベースの構築と活用は、業務の属人化解消にも大きく寄与します。
業務が属人化する主な原因は、業務に関するナレッジが蓄積されず、暗黙知のまま個人に依存してしまう点にあります。その結果、特定の従業員に業務が集中し、効率低下やリスク増大を招いてしまいます。
また、特定の担当者しか対応できない業務がある場合、その従業員の体調不良や離職により業務が滞る恐れもあります。
ナレッジベースにより暗黙知を形式知として蓄積し共有することで、複数の従業員が同じ業務を遂行できるようになり、属人化を解消できます。これにより、業務のスピードアップや品質向上が期待でき、組織全体の安定した運営につながります。
メリット③:業務品質の底上げにつながる
ナレッジベースの活用は、組織全体の業務品質向上にも大きく寄与します。
トラブル対応や疑問解決に関するナレッジがデータベースに蓄積されていれば、従業員は過去の解決事例を参考に迅速かつ的確に問題解決できるため、業務の停滞を防ぎます。
たとえば、PCの起動不良などの簡単なトラブルでも、ナレッジベースを検索して解決策を見つけられれば、作業効率を落とすことなく、組織全体の業務品質を維持できます。
さらに、顧客からの意見や要望、クレーム情報を蓄積・共有することで、その傾向分析や課題抽出が可能となり、各部署の業務改善を促進します。結果として、顧客満足度の向上にもつながるメリットがあります。
メリット④:人材育成の効率化につながる
人材の流動化が進む中、新入社員をはじめとした従業員の教育・育成は企業にとって大きな課題となっています。一日でも早く戦力として活躍してもらうためには、企業文化を含む業務知識やノウハウの理解が不可欠です。
ナレッジベースにこれらのノウハウが体系的に蓄積されていれば、業務の停滞を防ぎながら、スムーズな人材育成が可能となります。
新しいメンバーが自ら必要な情報や手順書、マニュアルを検索できる環境は、効率的に業務に必要な知識を習得するうえで大きな助けとなります。新人や若手従業員はベテランに都度相談することなく、自律的に問題を解決しながら成長できるようになります。
さらに、ナレッジベースが社内全体で共有されていれば、部署異動時にもノウハウを残して後任者に円滑に引き継ぐことができ、担当者交代による業務の停滞を防ぐことが可能です。
ナレッジベースの活用例
社内の「業務に関する知識」を集約したナレッジベースは具体的にどのようなシーンで活用されているのでしょうか。活用例を見ていきましょう。
活用例①:社内外向けにFAQ
ナレッジベースは、社内外向けのFAQとしても効果的に活用できます。FAQは、よくある質問とその回答をシンプルに整理したもので、質問に対して該当する情報をすぐに引き出せる仕組みです。
社内向けには、業務に関する情報や顧客からの問い合わせ内容、対応方法、製品情報などをナレッジベースに蓄積することで、必要な情報を素早く検索・共有できる環境を整えられます。
一方、社外向けのFAQは、顧客が問い合わせることなく疑問を自己解決できる利便性を提供します。これにより、電話やメールでの問い合わせ件数が減少し、社内の業務効率化にもつながるメリットがあります。
活用例②:組織で共有するナレッジベース
ナレッジベースは、社内の情報共有基盤として幅広く活用できます。社内向けFAQとしての利用に加え、他部署の情報確認や連携にも役立ちます。
特に規模の大きい企業では、部署間のコミュニケーションが取りづらく、業務進行状況やスケジュールが共有されにくいため、連携ミスや業務遅延のリスクが高まることがあります。
ナレッジベースには、業務マニュアルや成功事例だけでなく、各部署の進捗状況やプロジェクト情報、スケジュールなども登録可能です。これにより、他部署のメンバーも最新の状況を把握しやすくなり、円滑な連携を促進します。
部署間のコミュニケーションがスムーズにいかない場合でも、ナレッジベースの導入・活用によって社内状況の透明化が進み、業務効率の向上につながるでしょう。
活用例③:カスタマーサポートの対応に活用
カスタマーサポートチームにおけるナレッジベースは、お客様からの電話やメールでの問い合わせ対応に役立つ回答事例を共有する場として機能します。これにより、迅速かつ最適な対応策を見つけやすくなり、チーム全体の対応力向上に貢献します。
また、担当者の入れ替わりが頻繁にある場合でも、ナレッジベースが共有されていれば、新任担当者の教育ツールとして活用でき、スムーズな引き継ぎと早期戦力化を支援します。
活用例④:人材育成に活用
ナレッジベースは、社内の人材育成ツールとしても効果的に活用できます。新人研修やスキルアッププログラムの一環として、教育の質と効率を高めることが可能です。
例えば、OJTの現場では、育成担当者や上司が不在または多忙な際に新人の質問や疑問が滞りやすく、教育が途切れてしまうことがあります。しかし、ナレッジベースに業務の進め方やノウハウを蓄積しておけば、新人自身が必要な情報を検索し、マニュアルを参照しながら自律的に業務を進められます。
このようにナレッジベースを活用することで、人材育成にかかる時間や手間を削減し、コストを抑えつつ効率的な教育体制の構築が可能となります。
社内ナレッジベースの作り方
社内ナレッジベースはどのように作れば良いのでしょうか。ナレッジベースは既存の社内システムを活用することで進めていくことができます。より効率良くナレッジマネジメントを実施したい場合には専用のシステム・ツールを活用することも検討しましょう。
作り方①:ワードやExcelを使う
ナレッジベースは、企業が既に導入しているツールを活用して構築することも可能です。
具体的には、WordやExcel、Googleドキュメントやスプレッドシートなど、日常業務で使い慣れているツールを利用してナレッジをまとめ、共有ファイルとしてチーム全体で管理・活用する方法があります。紙にプリントアウトしてファイル保管するケースも見られます。
しかし、これらのツールはナレッジベース専用ではないため、更新作業やアクセス性に課題が生じることがあります。特に検索性やデータの一元管理、共有機能に限界があるため、効率的に活用するには工夫や複数ツールの組み合わせが必要です。
また、一から管理の仕組みを作る手間や、更新時の負荷がかかる点にも注意が必要です。
作り方②:ツールを採用する
専用のシステムやツールを活用してナレッジベースを構築する方法があります。ナレッジベース専用のツールは、効率的にナレッジを管理・活用するための多彩な機能を備えており、構成の基盤があらかじめ整っているため、誰でも簡単に編集・運用が可能です。
社内にシステムの専門知識を持つエンジニアがいない場合は、手厚いサポート体制が整ったツールを選ぶことが望ましいでしょう。
また、強力な検索機能や共有範囲の柔軟な設定など、運用の利便性を高める機能が豊富に用意されている点も大きな魅力です。利用したい機能や運用のしやすさを考慮し、適切なツールを選定することが重要です。
いずれの方法でも、事前に運用計画をしっかり策定し、ツール間の連携や使い勝手を確認することが、ナレッジベース構築と運用成功のポイントとなります。
ナレッジベースツールの種類
ナレッジベースツールには、データを整理して管理するだけのシンプルなツールの他にも、情報分析機能を搭載したツール、社内や社外からの質問・回答を蓄積できるツールなどさまざまな種類があります。
種類①:ナレッジマネジメントツール
ナレッジマネジメントツールとは、自社の既存システムと連携し、社内に散在するナレッジを集約・管理するためのツールです。データの検索が容易で、ナレッジを気軽に活用できます。ツールには、ナレッジの蓄積や共有に特化したもの、顧客対応用のFAQや社内Wikiを作成できるものなど、さまざまな種類があります。
種類②:データベース
データベースとは、決まったルールや形式で整理された大量のデータの集合体を指します。
応用範囲が広く、目的に応じてさまざまに活用できます。データの作成や編集、分析も可能で、必要な情報を条件に合わせて誰でも簡単に検索できるのが特徴です。例えば、以下のような条件でリストアップできます。
- 顧客情報から、20~30代女性をリストアップ
- 商品情報から、現在20%値下げ中の商品をリストアップ
- 購買履歴情報から、半年以内に2回以上購入実績のある人をリストアップ
紙やExcelで管理する方法もありますが、データベースを活用すれば大量のデータを一括管理でき、必要な情報を瞬時に取り出せます。
種類③:データマイニングツール
データマイニング(Data mining)とは、大量のデータを統計学や人工知能などの分析手法で解析し、新たな「知識」を見出す技術です。データマイニングツールは、企業が蓄積した膨大なデータをこれらの技術で分析し、有益な知見やトレンドを抽出するためのツールを指します。過去の事例や他社のデータも活用され、経営や営業の支援に役立てられています。
ただデータを蓄積するだけではビジネスに活かせませんが、データマイニングツールを使うことで、散在するデータを整理・分析し、そこから導き出された特徴や傾向を企業の「ナレッジ」として活用できます。このようにして初めて、データはビジネスの成果につながる資産となります。
種類④:社内wikiツール
社内wikiツールとは、インターネット百科事典「Wikipedia」の仕組みを取り入れた、社内専用の業務百科事典として活用できるツールです。誰でも自由に書き込みができ、業務ノウハウやマニュアルなどの知識を気軽に蓄積・共有できるのが特徴です。
これにより、部署ごとの業務内容や進行中のプロジェクトに関するさまざまなナレッジを、従業員が主体的にまとめやすくなり、多くの知見や情報を集約できる点が大きなメリットです。
ただし、社内wikiを効果的に運用するためにはルール作りが欠かせません。例えば、部署やプロジェクトごとに情報をカテゴリー分けしたり、書き込みを促進するために記入例を用意するなど、あらかじめ準備しておくことが望ましいでしょう。
種類⑤:グループウェア
グループウェアとは、社内の情報共有やコミュニケーションの活性化を目的として利用されるツールです。スケジュール管理、掲示板、メッセージ機能、チャット、社内SNSなど、多様な機能を備え、チーム内の円滑な連携を支援します。グループウェアを活用することで、情報やナレッジの共有が迅速かつスムーズになり、業務効率の向上につながります。
ナレッジベース導入の際の注意点
ナレッジベースの導入には多くのメリットがありますが、注意すべき点を理解していなければシステムを導入してもうまく活かすことができずデメリットになる可能性があります。ナレッジベース導入に際しては次のような注意点があります。
注意点①:更新しやすいかどうかを確認
ナレッジベースは一度導入して終わりではなく、常に最新の情報に更新され続けることが重要です。新しいナレッジや業務の変更点が発生した際に、誰もが簡単に登録・修正できる仕組みが整っていなければ、ナレッジベースはすぐに形骸化してしまいます。
操作が複雑だったり、登録の手間がかかると、従業員が更新を敬遠し、ナレッジが蓄積されなくなる可能性があります。そのため、できるだけ簡単な手順でナレッジの登録・編集ができることが重要です。
例えば、登録用テンプレートを用意したり、画像や動画、PDFなど複数のファイル形式に対応したりすることで、誰でも手軽に情報を追加できる環境を整えましょう。
また、パソコンだけでなくスマートフォンやタブレットからのアクセス・編集も可能にしておくことで、外出先や移動中にもナレッジを記録しやすくなり、更新漏れの防止にもつながります。
注意点②:検索しやすいかどうかを確認
ナレッジベースを導入する最大の目的は、社内に蓄積された情報を、必要としている従業員に効率よく提供することです。そのためには、従業員が欲しい情報にすぐアクセスできるよう、検索性に優れたシステムを選ぶことが重要です。
検索に時間や手間がかかるようでは、せっかく集めた知見が活用されず、ナレッジベースが形骸化してしまう恐れがあります。
注意点③:目的にあった機能かどうか
ナレッジベースを構築するためのツールは、タイプによって利用できる機能の範囲が異なります。
ナレッジの「収集・蓄積・分析・検索・共有」のどの機能を重視するか、あるいは他の業務と連携させたい機能があるかによって、選ぶべきツールも変わってきます。そのため、自社のニーズに合った機能を備えているかどうかを見極めたうえで、ツールを選定することが重要です。
ナレッジベースの構築・運用のしやすさに加えて、付随機能や連携のしやすさにも注目し、自社に最適なツールを選びましょう。
注意点④:導入効果が見えにくい
ナレッジベースの導入には多くのメリットがありますが、その効果が必ずしも数値として可視化されるわけではありません。共有されたナレッジの活用は成果として表れにくく、評価の対象になりづらい側面があります。
また、時間や手間をかけてナレッジを登録・提供している従業員に対して、明確な評価基準がないと、情報共有に対するモチベーションの低下を招く可能性があります。
そのため、ナレッジベースの活用状況(閲覧回数、参照頻度など)を可視化したり、ナレッジを追加・更新した従業員の貢献度を評価したりする仕組みづくりが求められます。
まとめ
今回は、ナレッジベースについて活用例や導入するメリット、社内での作り方、構築に適したツールの種類、注意点などを解説してきました。
ナレッジベースを導入することで、社内に蓄積された知識やノウハウを1カ所に集約でき、従業員が保管場所を探す手間なく必要な情報を取り出せるようになるため、社内全体での業務効率化や業務品質の向上が期待できます。
ナレッジベースは、必要な、取り出したい情報が検索しやすく、誰でも簡単に使えることが重要です。ナレッジベースの構築ツールを選ぶ際は、事前にしっかりと準備し、従業員の使いやすいものや、ITリテラシーに合ったものを選ぶようにしましょう。