店舗運営に欠かせない「OMO」の意味とは?成り立ちや関連用語との違いなどについて詳しく解説!
近年、小売業界で話題となっている「OMO」というワード。ネットニュースやSNSでもたびたび見かけますが、「どういう意味の単語なのかよくわからない」という方も多いはず。
そこで今回は、OMOについて詳しく解説します。混合されやすい「O2O」や「オムニチャネル」など関連用語の解説、OMOの施策例なども載せていますので、自社でOMOを推進したいと考えている管理職の方、小売業に携わる方、マーケティング・営業担当者の方はぜひお役立てください。
OMO「Online Merges with Offline」の意味
OMOは「Online Merges with Offline」の頭文字をとって略した言葉。「merge」には以下のような意味があります。
- <二つ(以上)のものを>併合する;溶け合わせる
- <…を>〔…に〕溶け込ませる, 没入さえる;併合する〔into〕
- <…を>〔…と〕合併する〔with〕
(引用元:「新英和中辞典」研究社)
直訳すると「オンラインをオフラインと合併する」という意味。日本語では「オンラインとオフラインの融合」と訳されることが多いです。
ここで言うオンラインとは、インターネットを利用したサービス、販売チャネル、もしくはデジタル技術のこと。具体的には以下のようなサービス、ツールを指します。
- オンラインショッピング
- モバイル決済
- AI
- チャットロボット etc.
対するオフラインとは、インターネットを利用しない、リアルでのサービスや販売チャネルのこと。具体的には以下のようなものを指します。
- リアル店舗
- 対面接客 etc.
これらを併合すること、融合させたビジネスモデルを「OMO」と呼びます。
従来のビジネスでは、オフラインとオフラインの間に隔たりがありました。オンライン、オフラインの販売チャネル・サービスをそれぞれ別物として扱い、顧客データも分けて管理されていました。
しかし、近年はデジタル技術の発展に伴い、人々はオンラインとオフラインの両方を駆使して消費活動を行なっています。買いたい物が決まっているときはオンラインで、実際に商品を手に取って見たい時はオフラインで、というように目的やシーンに合わせて使い分けているのです。
そのような消費者の行動に合わせたビジネススタイルとして、いま注目されているのが「OMO」。オンとオフの違いを意識させないサービスを提供することによる、顧客体験の向上が目的です。
OMOの歴史
OMOは、Google China元CEOのリ・カイフ(李開復)氏が提唱した概念。2017年9月ごろに提唱され、2017年12月の『ザ・エコノミスト誌』に掲載されたことをきっかけに、広く知られるようになりました。
その後、多くの企業がOMOを推進。特に中国での発展スピードが速く、あらゆるビジネスでオンライン・オフラインの融合が進められています。
中国の状況については、『アフターデジタル』という書籍にて以下のように述べられています。
中国では、オンラインがなくなってアフターデジタル社会になると、「オンラインが起点でありベースである」「リアルチャネルは、より深くコミュニケーションできる貴重な場とする」ということは当たり前だと思われています。”
(引用元:「藤井保文、尾原和啓(2020)『アフターデジタル』日経BP社」)
それに対し日本は、他国に比べるとOMOの発展がやや遅れていると言われています。原因は、キャッシュレス決済およびモバイル決済の普及率の低さが関係していると推測されます。
(引用元:「キャッシュレス・ロードマップ2022」一般社団法人キャッシュレス推進協議会)
「一般社団法人キャッシュレス推進協議会」が行った調査によると、2020年度の日本のキャッシュレス決済比率は29.8%。OMOが進んでいる中国と比べると、約3分の1です。
(引用元:引用元:「キャッシュレス・ロードマップ2022」一般社団法人キャッシュレス推進協議会)
しかし、2016年〜2021年の5年間で、日本のキャッシュレス決済比率は10%以上上昇。バーコード決済での支払額に関しては、2020年から急激に増えています。このことから、今後日本でもさらにキャッシュレス決済が進んでいくと考えられます。
キャッシュレス決済は、OMOを実現する上で欠かせない要素です。よって、今後日本の企業でもOMOの必要性が高くなっていくでしょう。
「O2O」「オムニチャネル」など関連用語の意味と違い
OMOと同様、近年小売業で「O2O」や「オムニチャネル」という言葉が注目を浴びています。OMOとはどのような違いがあるのでしょうか。
ここからは、類義語や関連用語の意味と違いについて解説していきます。
O2Oとは
OMOと字面も似ている「O2O」。まずはO2Oの意味から見ていきましょう。
O2Oの意味
O2Oは「Online to Offline」の頭文字をとって略した言葉。直訳すると「オンラインからオフラインへ」という意味です。
O2Oは「オンラインを利用して顧客をオフラインへ誘導すること」を指します。オンラインクーポンの配布や、SNSでの情報発信などのような施策が具体例です。
OMOとの違い
O2Oは、顧客をオンラインからオフラインへ誘導するためのもの。リアル店舗やオフラインサービスの売上げ向上、利益向上を目指します。企業目線で実施されるのが特徴です。
それに対しOMOは、顧客体験の向上が目的。「どうすれば顧客に喜ばれるか」「顧客にとって良いサービスを提供するには、何をすれば良いか」と、顧客目線で戦略を立てることを重視します。
またOMOの施策を実施する際は、顧客動向に合わせて戦略を立てます。オフラインへ誘導するO2Oとは違って、顧客がオンラインとオフラインを行き来することを前提に施策を講じるのです。
「もうO2Oの時代ではない。これからはOMOだ。」と言われることもあるように、OMOは”O2Oの進化系”として認識されています。オンラインとオフラインの隔たりがない現代には、O2OよりもOMOの方がより適しているでしょう。
オムニチャネルとは
OMOやO2O同様、小売業のビジネスに関する話題で語られることの多い「オムニチャネル」。OMOとはどのような違いがあるのでしょうか。詳しく見ていきましょう。
オムニチャネルの意味
オムニチャネルの「オムニ」とは「全体の」「すべての」という意味。すべてのチャネル、つまり「すべての販売経路、流通経路」を指します。
辞書には以下のように記載されています。
《omniは「全体の」の意》小売業者が、実店舗・ECサイト・SNS・通信販売など、あらゆる販売経路で顧客との接点をもつこと。また、販売経路を連携させ、そのような流通環境を構築すること。
(引用元:「デジタル大辞泉」小学館)
具体的な施策例には、「リアル店舗内で情報を受け取れる、モバイルアプリサービスの提供」「商品在庫検索機能付きのサイネージ設置」などがあります。
オンラインとオフライン、どちらでも同等のサービスを受けられるようにすること、もしくはそのような戦略を「オムニチャネル」と言います。
OMOとの違い
オンラインとオフラインを統合すること、オンラインとオフラインの隔たりをなくすことを意味する点では、OMOと同じです。ですが、目的に違いがあります。
オムニチャネルの主な目的は「購入促進」。オンラインでもリアルでも、どちらでもストレスなく商品・サービスを購入できるシステムを作ることで、顧客の購買を促すのが狙いです。
対するOMOは、顧客との接点を増やすことを目指します。購入後のアフターフォローや、日常的な有益情報の発信など、購入時以外でも顧客とコミュニケーションが取れるようにすることであり、購買を促進するためだけではないのです。
またO2O同様、オムニチャネルは企業視点で戦略が立てられるものです。OMOも、結果的に企業の利益につながりますが、あくまで目的は”顧客にとって”利益となるサービスを提供すること。顧客の目線に立つことが優先されます。
DXとは
小売業に限らず、今さまざまな業界で話題となっているDX。OMOとはどのような関係があるのでしょうか。言葉の意味から見ていきましょう。
DXの意味
DXとは「デジタルトランスフォーメーション」のこと。辞書では以下のように解説されています。
IT(情報技術)が社会のあらゆる領域に浸透することによってもたらされる変革。2004年にスウェーデンのE=ストルターマンが提唱した概念で、ビジネス分野だけでなく、広く産業構造や社会基盤にまで影響が及ぶとされる。デジタル変革。デジタル改革。DX。
(引用元:「デジタル大辞泉」小学館)
デジタル技術を用いて、企業や社会の変革を行うことを指します。具体的な例としては、小売店でのセルフレジ導入や、データ入力の自動化による業務効率化などが挙げられます。
OMOとの違い
DXは、ビジネスモデルに限らず社会や人々の生活、企業の内部管理体制など、さまざまなモノ・コトのデジタル化を指します。そして「変革」を意味する言葉です。
一方OMOは、ビジネスモデルや戦略を指すもの。デジタル技術を活用するという意味ではDXと共通していますが、「顧客との関わり方」や「顧客目線の重視」などDXにはない要素が含まれます。
また、OMOはオンラインとオフラインの飽和状態を表す言葉。単なるデジタル化ではないため、DXとは意味が違います。
アフターデジタルとは
OMOに関する事柄で語られることの多い「アフターデジタル」。どのような意味の言葉なのでしょうか。詳しく見ていきましょう。
アフターデジタルの意味
アフターデジタルとは「生活やビジネスがオンライン中心で、オフラインがオンラインに包まれた状態」「オフラインとオンラインの境目がない状態」という、現代の社会を表す言葉。『アフターデジタル』という書籍にて以下のように定義されています。
モバイルやIoT、センサーが遍在し、現実社会でもオフラインが無くなるような状況になると、「リアル世界がデジタル世界に包含される」という図式に再編成されます。こうした現象の捉え方を、私たちは「アフターデジタル」と呼んでいます。
(引用元:「藤井保文、尾原和啓(2020)『アフターデジタル』日経BP社」)
アフターデジタルの対義語に当たるのは「ビフォアデジタル」。リアル世界やオフラインが中心で、デジタル・オンラインが付加価値として扱われていた、従来の社会を表す言葉です。
アフターデジタルは、ビフォアデジタルにおけるデジタルとリアルの主従関係が逆転した社会、と表現されることもあります。
OMOとの違い
アフターデジタルは、社会を表す言葉。ビジネスモデルや考え方を表すOMOとは、そもそも言葉の性質が違います。
ただし、アフターデジタルとOMOは、全く関係ないわけではありません。
アフターデジタル社会では、OMOが必要不可欠。オンライン中心の社会で企業が生き残るためには、オンラインとオフラインを区別しない考え方が必要だからです。また、OMOを実現するにはアフターデジタルな社会が必要とも言えます。
よって、これら2つの単語はセットで語られることが多いのです。
OMOの実現に必要な4つの条件
近年、多くの企業が推進するOMOですが、実現するためには条件があります。OMO提唱者であるリ・カイフ氏が挙げる、4つの条件について見ていきましょう。
条件1.スマートフォンとモバイルネットワークの普及
OMOの実現には、いつでもどこでもオンラインにアクセスできる環境が必要です。その条件をクリアするためには、スマートフォンおよびモバイルネットワークの普及が欠かせません。
スマートフォンとモバイルネットワークがあれば、オフラインでオンラインを利用できる環境が整います。リアル店舗にいながら、モバイルアプリサービスやモバイル決済などのオンラインサービスが利用可能になるのです。
また、情報発信やアフターフォローなど、顧客とのコミュニケーション手段の選択肢も広がります。
とはいえこの条件は、現在多くの人々がスマートフォンを所持しており、どこでもインターネットに通信できることから、既にクリアされていると言えるでしょう。
条件2.モバイル決済の浸透
企業は、顧客の購買によって利益を得ています。その「購買」という行為をデジタル化し、かつリアル世界で物を買えるようにするには、モバイル決済システムが必要です。
スマートフォン1台で決済できれば、店舗でも自宅でも、どこでも商品を購入することができます。店員のいない、無人店でも買い物することも可能です。
つまり、顧客がオンラインとオフラインの境目を意識せず、自由に行き来することができるOMOの環境が作られるのです。
条件3.高品質で安価な情報取得センサーの普及
ここでの情報センサーとは、顧客情報を得ることができるツールのこと。来客数や客層などがわかるAIカメラや、商品棚に取り付けられる重量センサーなどが例です。
以前は、オフラインでの対面接客、オンラインの会員情報などから顧客情報を得るのが主流でした。オンラインとオフライン、それぞれの経路で情報を得るしかなかったのです。
しかし、情報取得センサーがあれば、オフラインでも顧客情報を取得できるようになります。詳細なデータも得ることができ、かつデータはデジタル化されるため、そのまま分析に活用することも可能です。
そのような高品質なツールが安価で出回れば、企業規模の大小問わず、OMOを実現しやすくなります。
条件4.AIの普及
OMOは、リアル世界で利用できるオンラインサービスだけでなく、オンラインで利用できるオフラインサービスも含まれます。例えば、オンラインショッピングで、リアル店舗のような接客が受けられるサービスなどです。
そのようなサービスを実現するのがAI。AIが、人間の代わりに業務を行うことで、オンラインでもリアル店舗同様のサービスを受けられるようになります。先の例で言えば、AIチャットボットをネット通販に導入することで、買い物に関する相談がオンラインでできるようになります。
以上4つの条件が揃えば、OMOは実現されます。「モバイルネットワークの普及」や「高品質で低価格な情報センサーの普及」などは、社会の状況に影響されるものではありますが、条件が揃えばどの業界・企業でもOMOは実現可能と言えます。
小売業に多いOMOの施策例4つ
OMOについてより深く知るため、施策例を4つご紹介します。小売業で実施されることの多い施策をご紹介しますので、OMOを推進しようと検討中の方はぜひお役立てください。
施策例1:ネット注文・店舗受け取りを可能にするサービス
ネット注文・店舗受け取りを可能にするサービスは、スーパーマーケットやホームセンターなどの小売店で進められているOMO施策。インターネットで購入した商品を店舗で受け取れたり、店舗に取り置きしたい商品をネットオーダーできたりするサービスです。
このようなサービスには、以下のようなメリットがあります。
- スーパーマーケットで商品を選ぶ時間を短縮できる
- 仕事や用事の帰りなど、顧客にとって都合の良いタイミングで受け取れる
- 「店舗に在庫がない」「商品が思っていたものと違った」などのトラブルを回避できる
ネット注文と店舗受け取りの両立は、買い物の効率化に役立ちます。顧客が自分の予定に合わせて、ストレスフリーに買い物できるのが利点です。
また、リアル店舗では在庫切れが発生する恐れがあります。オンラインショップは、実際の商品を目で見て確認できないのがデメリットです。それらの不便を解消してくれるのが、ネット注文とリアル店舗での商品受け渡しを融合させたOMO施策です。
施策例2:レジ会計不要のモバイル決済システム
近年、モバイル決済システムを導入する企業も増えてきています。モバイル決済には、例として以下のようなメリットが挙げられるでしょう。
- レジに並ぶ、会計するという動作が不要でスピーディーに買い物できる
- 「レジが不要」という新しい買い物の仕方を体験できる
- リアル店舗でも顧客情報を収集できる
- 顧客が登録するモバイルアプリを通じて接点を持つことができる
モバイル決済システムを導入している企業は、「アプリ1つで商品登録から決済までできるサービス」を提供していることが多いです。レジに並び、会計するという動作が省略され、効率よくスピーディーな買い物を実現します。
また飲食店では、店舗で提供する商品を自宅へ届けるサービスに、モバイル決済を導入している場合もあります。
さらに、モバイル決済の導入により、顧客情報の収集も可能に。顧客分析およびサービス改善に活用できるなど、企業側にもメリットがあります。
施策例3:チャットボットによるオンライン接客
ネット通販サイトに多く見られるのが、チャットボットを導入したOMO施策。従来不可能だった、オンラインでの接客を可能にするものです。
- ネット通販でもリアル店舗同様のサービスを受けられる
- ウィルス感染を懸念する顧客のニーズを満たす
- 顧客と商品購入時以外の接点を持てる
例えば、以上のようなメリットが期待できます。
特にファッション分野は、食品と違って専門家からのアドバイスを必要とする顧客が多いジャンル。チャットボットによるオンライン接客は、「何を買えば良いか迷う」「自分に似合うか不安」といった悩みを抱える顧客に応えるサービスです。
また、予想外の商品に出会えたときの喜びは、従来リアル店舗でしか味わえないものでした。
しかし、AI機能搭載のチャットボットならば、顧客のパーソナライズ化も可能。顧客が好みそうな商品、似合いそうな商品を提案するなど、リアル店舗同様のサービスを提供できるようになります。
施策例4:サイネージを活用したパーソナライゼーション
百貨店や商業施設では、サイネージを活用したOMO施策が進められています。利用できるサービスはさまざまですが、いずれもオンラインとリアルのそれぞれ欠点をカバーし、それぞれのメリットを活かしているのが特徴です。
具体的には、以下のようなメリットがあります。
- サイネージを使って得たデータを、オンライン通販で活用できる
- 店舗の在庫状況を取得し、在庫がない場合はその場でオンラインで購入できる
- 実際に店舗に行かずとも仮想試着ができる
実際に目で見て商品を確認したいとき、目的買いをしたいとき、買いたい物が決まっていないときと、顧客のシチュエーションによってニーズはさまざま。オンラインとオフラインを、時と場合に合わせて使い分けている顧客に対しては、このようなサイネージとAIを活用したOMO施策が有効です。
特に、オフラインでの買い物のメリットが大きいファッションや雑貨などの小売店は、このような「リアル店舗内でのデジタル技術」を活用した施策が効果的でしょう。
まとめ
世代を問わず多くの人々が、至る所でインターネットとつながっている現代。今後さらに技術が発展し、デジタル機器やオンラインサービスがさらに普及していくことを想定すれば、企業はOMOという考えを取り入れざるを得ないでしょう。
手遅れになる前に実施するため、まずは言葉の意味をきちんと理解しておくことが大切です。関連用語の意味と、それらとの違いも併せて改めて確認しておきましょう。