サービス品質を評価する6要素とは?品質向上に向けた取り組みや具体的な改善策も紹介
モノに溢れる現代。量より質を重視する消費者が増え、企業に求められるサービスのクオリティは増々上がってきています。
しかし、サービス改善といっても何をどうすれば良いのかわからず、悩んでいる方も多いのではないでしょうか。
そこで今回は、サービス品質を向上させる方法や、品質評価のための6要素などについて詳しく解説していきます。具体的な改善策なども紹介していますので、ぜひお役立てください。
サービス品質・サービス品質向上とは
サービス品質とは、顧客の期待に対する満足度の高さです。顧客の期待を上回るサービスを「サービス品質が高い」、顧客の期待を下回るサービスを「サービス品質が低い」といいます。
そして、顧客満足度を高めるため、サービスの改善に取り組むことを「サービス品質向上」といいます。
サービス業、主に接客を伴う業務で使われる単語というイメージがありますが、サービスはどの業界でも発生するものです。接客、電話対応、製品のサポート、製品を届けるまでのプロセス、商品の提案……など、これらはすべて企業が顧客に提供する「サービス」の一部です。
売上げが発生する以上、サービスにはクオリティが求められます。そのため、業界問わずサービス品質の向上に取り組む必要があると考えられるでしょう。
企業が提供するサービスの種類
サービスにはさまざまな種類がありますが、書籍『顧客はサービスを買っている』の著者である諏訪良武氏は、以下の3種類に分類されると述べています。
- モノを提供するサービス
- 情報を提供するサービス
- 快適を提供するサービス
「モノを提供するサービス」は、作った物や場所を提供するようなサービスを指します。製造業やホテル業、飲食業などがこちらに該当します。
「情報を提供するサービス」とは、情報や知識を提供するサービスのこと。広告業や人材紹介業、デザイン業などがその例です。
「快適を提供するサービス」は、顧客や利用者に安心や楽しさを提供するサービスのことです。医療業、レジャー業などが含まれます。
企業のサービスは、これら3種類を組み合わせて構成されていることが多いです。カフェでのサービス提供を例に挙げてみましょう。
飲食店の場合、料理という「モノ」を提供することがメインのサービスです。それだけでもサービスとして成立しますが、図の例のように「情報」「快適」サービスをプラスすることにより、サービスの品質が向上します。
逆に考えれば、3種類のうち欠けているサービスがあれば、それが品質向上のヒントになるということです。「モノ」の提供を行っている企業は「快適」や「情報」のサービスを、「快適」のサービスを行っている企業は「モノ」や「情報」のサービスを加えることで、品質向上が期待できます。
このように、サービスを分類する考え方は、改善点の発見に役立つでしょう。
サービス品質向上が生む効果
サービス品質向上への取り組みがこれほどまでに重要視されるのは、一体なぜなのでしょうか。主な4つの効果について見ていきましょう。
効果1.業績・利益の向上
サービスの品質が高まると、顧客満足度が上がります。そして、顧客満足度の向上には、リピート率アップやリピーター客の増加が見込めます。「店員の対応が良かったから」「期待以上に便利で有意義だったから」と、サービスや企業に良い印象を持った顧客は、再び利用したいと考えるのです。
リピート率、リピート客数以外に、購買金額の増加も期待できます。サービスの質に対して「対価を支払う価値がある」と判断した顧客は、再利用時、より高額な商品・サービスを購入する可能性があります。
また、サービスの良さが口コミで広まり、新規顧客の獲得につながる、なんてことも今や珍しくありません。このように、業績向上・利益向上のチャンスが見込まれるため、品質向上に努める企業が多いのです。
効果2.さらなるサービス・商品の質の向上
サービス品質の向上により利益が上がると、商品・サービスに投資できる資産が増えます。商品に使われる材料の品質を上げたり、設備を充実させたり、サービスの機能を増やしたりといったことが実現可能になるのです。
商品・サービスのクオリティアップに投資し、品質を上げることで、さらなる業績アップが期待できます。サービス品質向上が利益獲得につながり、その利益をまたサービス品質の向上に活かすというポジティブなサイクルを生むことができます。
効果3.企業価値の向上
新しい商品、新しいサービスが次々と誕生する現代。市場競争が一層激しくなるなか、企業が生き残り続けるには「強み」が必須です。
そこで武器となるのが、サービス品質です。
類似した商品が複数存在する場合、価格を除けば、顧客はサービスが良い方を選ぶのが一般的です。サービス品質の高さは、他社との差別化に有効といえます。価格競争から抜け出すきっかけにもなるでしょう。
また、サービス品質が高い企業は、社会からも良い印象を持たれる傾向にあります。企業価値が高まることにより、入社希望者が増え、優秀な人材が集まりやすくなるなど、人事にも良い影響を与えるでしょう。
効果4.従業員エンゲージメントの向上
サービス品質向上によって得た利益は、賞与や労働環境の改善など、働きやすい職場づくりへと活かすことも可能です。従業員に還元することで、従業員エンゲージメントの向上が期待できます。
企業に対するエンゲージメントが高まると、社員は、より意欲的に仕事に取り組むようになります。その結果、さらなるサービス品質の向上が見込まれるでしょう。
また、顧客にサービスを評価されること自体、従業員のモチベーションに影響を及ぼします。接客を褒められたり、売上げが上がったりすることでやる気が上がり、さらにサービス品質を高めようと取り組む従業員も多いです。
従業員エンゲージメントの向上には、ほかにも離職防止や生産性の向上など、さまざまな良い効果が期待できます。したがって、サービス品質向上への取り組みは、顧客、企業、従業員と幅広くメリットをもたらすといえるでしょう。
サービス品質を評価する6つの要素
サービス品質は目に見えるものではなく、測定するのは簡単ではありません。顧客1人1人の感覚は異なり、そのうえ顧客満足度は時と場合で変化するものなので、正確に把握するのは難しいのです。
それでも品質を高めるためには「指標」が必要です。そこで役立つのが、諏訪良武氏の著書『顧客はサービスを買っている』に記載されている6つの要素です。詳しく見ていきましょう。
要素1.正確性
良質なサービスには「正確性」が必須。どれほど店員の対応が良くても、顧客が求める商品・サービスと違うものを提供したり、会計にミスがあったりしては、顧客満足度は下がってしまいます。
正確性は、顧客がサービスに求める最低ライン、基礎であるともいえるでしょう。
要素2.迅速性
現代は、サービスにもスピードが求められています。提供が早いほど、顧客満足度が上がる傾向にあります。
反対に、サービス提供が遅いと顧客は不満を抱きやすいです。時間がかかればかかるほど、顧客の期待値が上がってしまうからです。たとえ商品・サービスの質が高くとも、満足度を上げるのが難しくなります。
よって、サービス品質を向上させるには、迅速性も必要であると考えられます。
要素3.柔軟性
サービスの平等性を保つには、ルールが必要です。しかし、あまりに融通がきかず、顧客の要望を拒否することが多くなると、顧客満足度が下がってしまいます。
反対に、顧客の要望に柔軟に応えられるサービスは高く評価されます。要求をそのまま承諾できない場合でも、新しいアイデアを提案するなど柔軟に対応することにより、顧客の満足度は高まります。
柔軟性のあるサービスを行うには、従業員が主体的に考え、行動できる環境とスキルが必要です。
要素4.共感性
共感性も、質の高いサービスを行ううえで必要です。顧客の声に寄り添う姿勢が、「ニーズ・期待に応えてくれる」という安心感と満足度につながります。
反対に、共感性のないサービスは、たとえそれが正攻法であっても顧客を満足させることはできません。世間一般に好評な商品でも、目の前の顧客が求めている物の条件に合わないのであれば、それは適切な提案ではないのです。
顧客満足度の高いサービスを提供するためには、いかに顧客の期待に応えられるかが重要。よって、サービス品質を高める際は、顧客の要望をリサーチし、深く理解することが大切です。
要素5.安心感
顧客に不安を与えるサービスは、当然のことながら、質が高いとはいえません。質問しても店員の受け答えが曖昧だったり、会計時にミスをしたりすると、顧客は不信感を抱きます。
反対に、「この企業(店)なら自分の要望に応えてくれる」「悩みを解決してくれる」と思えるサービスは顧客から高く評価されます。安心感が信頼へ変わり、結果、企業のファンを増やすことへとつながるでしょう。
要素6.好印象
接客を必要とする業種では、従業員の印象がサービスに対する評価に大きく影響します。言葉遣いや表情、立ち居振る舞い、声のトーンに温かみがある丁寧な応対は、サービス品質が高いという印象を与えます。
このことから、サービス品質を向上させる際は、従業員の接客時の印象もチェックすべきと考えられます。ただし、印象の受け取り方は人によって異なるため、評価は客観的な視点で行うことが大切です。
サービス品質向上への取り組み
サービス品質向上を成功させるには、適切な改善策と、それを講じるための準備が必要です。具体的にどのように進めれば良いのか、取り組みのプロセスについて見ていきましょう。
①現状の把握・分析
サービス品質向上のために何をすべきか見極めるためには、まず現状を把握することが重要です。例として、以下のような項目を調査します。
- 内容:自社が顧客に提供するサービスは何か
- プロセス:どのような流れ・仕組みでサービスを提供しているか
- 成果:結果的に顧客はどのようなサービスを受けとっているか
自社のサービスは「モノ・情報・快適のうち何に分類されるか」「顧客に何を提供できているか」「どのようなプロセスでサービスが行われているのか」などを調査し、サービスの現状を把握します。
企業が提供するサービスは、複雑かつ抽象的です。改善点が曖昧になりやすいため、このように分解し、情報を整理するところから始めるのがポイントです。
②顧客の期待を調査
サービス品質は、顧客の期待に対する満足度で測ります。そのため、顧客から「何を」「どのレベルで」期待されているのか知る必要があります。
そこで必要となるのが顧客リサーチです。既存顧客はもちろん、顧客候補、ターゲット層にもリサーチを行い、ニーズを探ることで、目指すべきサービスのゴールが見えてきます。
アンケート調査などで数値化することも大切ですが、顧客のリアルな声を聞くことも重要です。実際に接客を行う従業員に「見た・聞いた」ことをヒアリングし、顧客の本音を調査しましょう。
また、そのような調査を実現するには、従業員の高いコミュニケーション能力と、従業員の意見を随時拾えるシステムが必要です。サービス品質の向上に向けて、環境も整備すべきと考えられるでしょう。
③サービス品質の評価
次に、自社サービスの現状と顧客の期待を比較し、サービスの評価を行います。期待に対し、どれほど応えられているか、客観的な視点で見極めましょう。
評価する際は、先に述べた6つの要素が指標として参考になります。
サービス品質の評価の例(アパレルショップの場合)
正確性 |
迅速性 |
柔軟性 |
共感性 |
安心感 |
好印象 |
|
お出迎え |
〇 |
◎ |
◎ |
◎ |
◎ |
◎ |
声掛け |
〇 |
◎ |
〇 |
◎ |
〇 |
◎ |
商品提案 |
◎ |
〇 |
◎ |
◎ |
〇 |
◎ |
試着提案 |
◎ |
〇 |
〇 |
◎ |
◎ |
〇 |
悩み相談 |
◎ |
〇 |
〇 |
◎ |
〇 |
◎ |
会計 |
〇 |
◎ |
〇 |
ー |
〇 |
〇 |
お見送り |
◎ |
◎ |
◎ |
〇 |
◎ |
〇 |
上記図のように評価を可視化するのがポイントです。評価については例のような〇や◎以外にも1~5などの段階評価でも良いでしょう。
モデルとなる部署・従業員をいくつか選定し、傾向を探ることで、課題点が見えてきます。
④サービスのビジョンを作成
自社サービスの状況をつかめたところで、次にビジョンを作成します。顧客に「どのようなサービスで、どのような価値を提供したいのか」を明らかにすることにより、企業が目指す理想が明らかになります。
サービスビジョンは、企業ビジョンと同様、サービスの軸となる重要なものです。品質向上への取り組みはもちろん、新サービスの開発や従業員教育など、すべてにおける基準となります。従業員が一丸となって質の高いサービスを目指すため、明確なゴールを定めましょう。
⑤改善策の考案・実行
これまでの分析結果とビジョンをもとに、具体的な改善策を考案します。
改善策は、実現可能であることが重要です。人材や設備などの環境が整っており、いつ頃に実現可能か計画が立てられるものでなければ、失敗する可能性があります。改善策のシミュレーションを行い、実現性があるか確認しましょう。
サービス品質を向上させる具体的な改善策
サービス品質向上のために、具体的に何をすれば良いか迷うことも多いでしょう。そこでここからは、改善策の例を5つご紹介します。
自社の状況と目的に合わせて、適切な施策を選びましょう。
改善策1.ビジョンの共有
顧客との関わりでは、イレギュラーが発生することも珍しくありません。そのようなとき、従業員が柔軟に対応できるようにするには行動の判断基準が必要です。
サービスビジョンは、その基準となります。マニュアルに無いことが起きても、従業員はビジョンをもとに判断して行動できます。また「ビジョンから外れさえしなければ、行動が規制されない」という状態を作ることにより、従業員の行動に自由が与えられます。顧客の要望に応えやすくなるのです。
アクシデント発生時に良いサービスができる企業は、高く評価されます。従業員全員が適切に行動できるよう、企業が顧客に「届けたいもの」「提供したい価値」を明確にし、社内に共有しましょう。
改善策2.サービスの仕組みを見直す
組織のサービス品質を上げるには、質の高いサービスを提供するための仕組みづくりが重要です。人為的ミスやエラーが起きないシステムを構築することで、サービスの質を底上げできます。
掃除や梱包、レジ業務など高いスキルを必要としない業務は、マニュアル化することでミスを防げます。接客など、臨機応変な対応が求められる業務も、パターンごとの対応や判断基準を設定すれば、最低限必要なサービスの質を確保できます。
トラブルが起きないベースを作り、プラスαで従業員トレーニングを行うことで、クオリティの高いサービスを提供できるでしょう。
■参考記事はこちら
業務をマニュアル化するメリット・デメリットとは?効率的に進める方法や成功事例も紹介
改善策3.継続的に改善する仕組みを作る
顧客の要望と期待は、常に変わり続けるものです。サービス品質向上の施策を打っても、効果は永続的ではありません。そのため、継続して改善する仕組みづくりが必要です。
引用:諏訪良武(2012)『顧客はサービスを買っているー顧客満足向上のカギを握る事前期待のマネジメント』ダイヤモンド社
諏訪良武氏著書の『顧客はサービスを買っている』に記載されている図のように「リサーチ」「分析」「ビジョンの追求」「改善」「チェック」のサイクルを回すことで、継続的にサービスの質を上げることができます。どのようなスパンで、誰が筆頭となって改善に取り組むのか、予め計画しておきましょう。
改善策4.顧客の期待値を上げすぎない工夫
自社の商品・サービスを売り込むには、良さをアピールする必要があります。しかし、アピールによって期待値が高まりすぎると、購入時や利用時に満足度を上げるのが難しくなるため注意が必要です。
例えば飲食店では、待ち時間が長ければ長いほど料理に対する期待が高まります。本来の味以上のクオリティを求めてしまうため、結果満足することができないのです。
期待を上げすぎないようにするには、工夫が必要になります。先ほどの例でいえば、待ち時間の短縮や整理券の配布、入店可能時間を通知するシステムの導入などが挙げられます。待ち時間が苦にならないよう工夫することで、期待値が上がりすぎるのを防ぎます。
サービスに対し「必要以上に」期待させないことが、顧客の満足度を高めるポイントです。
改善策5.従業員のスキルを高める
サービス品質は、実際にサービスを行う従業員のスキルにかかっているといっても過言ではありません。スキルが高いほど、質の高いサービスを提供することが可能になります。
そのため、従業員のスキルアップの機会を設けることも大切です。必要なスキルは職種によって異なりますが、例えば接客を伴う販売業務を行う場合、接客スキルやコミュニケーションスキル、論理的思考などを伸ばすと、サービス品質の向上が期待できるでしょう。
また、参考になる人物や企業の例を見て学ぶこともスキルアップにつながります。社内研修と外部セミナーをうまく活用し、質の高いサービスを提供できる従業員を育てましょう。
まとめ
サービス品質の向上は、業界問わず多くの企業における重要な課題です。改善するのは難しく、時間と従業員1人1人の努力、そして地道な企業の取り組みが必要となるでしょう。
しかし、サービスの質の高さは、市場競争に打ち勝つための「切り札」となります。顧客に新しい価値を提供することも大切ですが、まずは既存サービスの見直しを行い、クオリティ全体の底上げを図りましょう。