企業では新人教育や業務課題の見直し・改善の場面、新システムの導入時などにおいて、業務全体を見渡せるフローチャートが活用されています。
テレワークが浸透するなかで、多くの職場で業務レギュレーションは変更を余儀なくされ、これに伴って新しいフローチャートの作成や古くなったフローチャートのアップデートが迫られています。
しかしフローチャートをだれにとっても見やすく、分かりやすく作成するのは、そう簡単ではありません。
今回は、わかりやすいフローチャートの書き方を具体例を示して紹介し、よく利用される記号や分岐の表現方法まで解説します。手っ取り早く、フローチャートのテンプレートを利用したい方は以下から無料でダウンロードできます。
■参考記事はこちら
【2023年8月更新】フローチャートとは?書き方のポイント5つや作成手順などについて、わかりやすく解説!(無料テンプレート付き)
フローチャートとは、業務の流れを図で表したもので、業務工程を丸や長方形などの図形で示し、線や矢印を結んで作成されます。
医療現場の安全確保のため業務フローの見える化についてかかれた飯田修平氏の著書「業務工程(フロー)図作成の基礎知識と活用事例[演習問題付き] 第2版 (シリーズ医療安全確保の考え方と手法 3)」日本規格協会』によると、業務フローチャートは手順のひとつであるが、各職種の役割分担と責任権限を明確にして業務の流れに沿って図示し、情報の流れを記したものだといいます。
ここでは代表的な5つのフローチャートを紹介します。
(弊社で図を作成)
5種類の代表的なフローチャートの1つ目はワークフローチャートで、一般的な業務フローを示す場合に使われています。
多くの職場には、定められたルールに基づいて行う作業や業務がありますが、業務を正確かつ効率よくスムーズに進めるために、それぞれに手順があります。
小売業なら電話応対や出荷方法、販売業なら開店準備、お客様への声がけ、クロージング、レジ打ち、お見送りなどさまざまな業務がありますが、これらの業務をひとつずつ切り取って業務の流れ、出口までの方向性が順序立てて手順を図解したものが、ワークフローチャートです。
ワークフローチャートを見れば一人でも業務を滞りなく進めていけるので、人材の流入が多い部門や新人が配属になる場合においても効率的に人材教育を進めることができます。
ワークフローチャートはきれいにまとめることが目的ではありません。ワークフローチャートを利用することで、手順に漏れはないか、順序を間違えていないかがチェックでき、ミスの発生を防いでくれます。
(弊社で図を作成)
2つ目に紹介するのは意思決定フローチャートです。
経営の意思決定の場面から職場でのクレームなどの問題解決にまで、さまざまな場面で意思決定フローチャートが利用されています。意思を決めて業務工程を進めるにあたっては、データ分析をし情報を収集して問題がどこにあるのかを突き止めます。
抽出した問題点の解決のために企業、組織にとって、最適、最善となる行動を取ることが意思決定フローチャートの目的です。
直面する場面のなかでどのような選択肢があって、それぞれを選んだ先にどのような結果が見られるのかを検討し、判断していくことに意思決定フローチャートが役立ちます。
フローチャートの中でひし形の図形は「意思決定を通して次のステップに移る地点」を示しています。この下にある代替案となる選択肢は複数の結果、方向性に分かれることがありますが、多くは「はい」と「いいえ」の2択になります。
仕事では、想定できていないことが発生することがあります。その時に慌てないで対応できるように意思決定フローチャートは大きな方向性を示しています。
しかし、すべてこのチャートどおりに進めることが正しいかは別の話です。例えばクレームが発生した場合、先方の意向を無視してチャートに沿って回答を進めていけば、その対応自体がさらなるクレームとなってしまうこともあります。
状況に合わせた対応を取ることが大切であることを踏まえて、利用しましょう。
(弊社で図を作成)
業務には、関連する複数の部署を横断しながら、それぞれの役割に応じて工程を進めていくものもあります。
フローチャートは、誰が、いつ、どんな作業を、どのように進めていくかの指示が書かれていますが、複数の人や部署が関わる作業工程のフローチャートは、スイムレーン図を使うとわかりやすくなります。
縦長の長方形で仕切られている様子が競泳プールのように見えることから、スイムレーンと言われています。
飯田修平氏の著書によると、スイムレーンで各職種や役割を具体化することで、各職種や役割間の情報やモノ、帳票の受け渡しの見える化ができることがメリットだと言及しています。
各担当の業務は縦線で結ばれていますが、線が各レーンを超えた場合に引継ぎが存在し、モノ、情報と責任の伝達が行われます。書籍では、この引き継ぎを口頭での伝達による引継ぎでは十分とは言えず、業務フローチャートを作成することで役割と責任、権限所在を明確にでき、伝達ミスなどのリスクを回避できるとしています。
製造業であれば、商品の開発から製造、販売までの流れ、工程は複数の関連部署をまたいで進められますが、いつ、誰が何を、どのように進めるのか、工程の職務分掌を示したフローチャートを作成する場合に利用されます。
レーンの横に並ぶのが「誰が」という項目ですが、営業が、生産が、経理が、と横に並ぶこともありますし、担当、リーダー、部長、経営と階層別に並ぶこともあります。
(引用元:重大事象管理 (Critical Incident Management)を参考に弊社で図を作成)
文書フローチャートとは、他部署も含めて閲覧して欲しい文書の流れを示したものです。
関わる部門から部門へ、または企業から企業へと共有し渡していく文書の流れを、誰に対して、どのタイミングでどの方法で渡すかを示していて、送信ミスや送り漏れるなどのうっかりミスを未然に防ぐ効果があります。
フローチャートに関する文献「南山大学 数理情報学部 情報通信学科 2007 年度卒業論文要旨集 内部統制における業務プロセスの文書化方法の提案と評価」には、”文書化によって、分析する業務プロセスをあいまいなく記述し、視覚的に表現することを目指している”と書かれています。
文献によると、文書フローチャートは文書の流れを明確に表している一方で、文書を送る際に行うアクションについては記載されないといいます。このため文書を渡す具体的な方法を補うために他のフローチャートと組み合わせて使用することが望ましいと記載されています。
(引用元:BPMN 超入門を参考に弊社で図を作成)
5つ目はBPMN(Business Process Model and Notation)です。
BPMNで指定された共通の言語や記号を使用して、業務の開始から終了までのステップとプロセスをフローチャートで可視化する表記法です。
BPMNは、業種を横断した企業統合標準を開発している非営利団体「OMG(Object Management Group)」によって標準化されています。
企業独自の記号やルールでフローチャートを表記するのではなく、定められた共通の言語で記載するため、業種・業界の違う企業などの組織の外部にいる人にも分かりやすく業務を可視化できるのがメリットです。
企業内で他部門に渡って効率的に業務を進めたいときや取引先など他社へも横断したプロジェクトで連携を図りたいときに利用されています。
BPMNはフローチャートの一種で、すでに普及している「JIS」規格の定めるフローチャート記号とは異なる記号、ルールが適用されています。このため使いこなすにはBPMNのルールに関する知識が必要です。
フローチャートは、業務の進め方を図解したものですが、よく利用される記号があります。ここでは代表的な「日本工業規格(JIS)」にて定義された記述方式に沿った基本記号を3つ紹介します。
その他の記号に関しては以下の記事で詳しく解説しているので、あわせてご覧ください。
フローの開始と終了を表す記号です。前述の書籍によると開始点は黒で塗りつぶした丸で記述し、終了は黒と白の二重丸で表記します。開始点は1つですが、終了はひとつではないこともあります。
処理は、角の丸い長方形で表示します。アクションを示していて、なんらかの行動を行うことです。1つの処理記号につき、1つの処理を記載します。
作業工程の中で、条件によってフローの進む先が複数に分かれることを記しています。分岐点はひし形で表示します。前述の書籍には、分岐ノードは条件により進む方向が異なるときに使用するので、分岐の先には複数の選択肢を用意するとあります。
フローチャートでは分岐が登場するケースが多くみられます。
ここでは分岐方法のポイントについて、3つ説明します。
書籍によれば、分岐はひし形の記号で表され、[ ]をつけた分岐条件(ガード条件)を記述すると記載されています。分岐は属性や条件で分けられるもののほかに、意思決定の必要な分別にも利用されます。
フローチャートの中に分岐が多すぎると細分化しすぎて図が見にくくなるため、分岐を使いすぎないことも大切です。
例えば、申込書のチェックについてのフローチャートにおいて、記入内容の不備の有無で分岐させているフローチャートは単純な戻しを省略したほうが分かりやすくなります。
条件や属性によって、分岐の先に3以上の選択肢が存在する場合には、「はい、いいえ」や「不備あり、不備なし」「一致、不一致」のような2択の分岐表記を連続させていくよりも、一度に選択肢を多く設定した分岐表現をすることで、工程がすっきりと見えます。
分岐表記に限りませんが、フローチャートでチェックしていくアクション(行動)はその大きさを揃える必要があります。
書籍には1つのアクションに対して記載される動詞は1つだと言及しています。
病院の看護師の業務工程のなかに「点滴にラベルを貼り、輸液セットを接続し、ベッドサイドに行く」という場合が想定されますが、この中には貼る、接続する、行くという3つの動詞が存在しているので、アクションは3つに分けて記載すべきだと指摘しています。
フローチャートを一から作成するのは難しいと感じるかもしれませんが、テンプレートを利用すれば、分かりやすく見やすいフローチャートを作成することができます。ここでは、フローチャートの例を3つご紹介します。
1つ目は、レジで会計をする際にお客様にポイントカードの有無を確認する業務フローチャートです。
来店のお礼を述べるところがこのフローチャートの起点になります。フローチャートに沿って、ポイントカードを持っているか質問します。答えは2択になりここで分岐させます。「イエス」ならば、カードをお借りして、バーコードでカードをかざしたのちにカードを返す工程をたどり、終了します。
「ノー」の場合は、ポイントカードを作るかどうかを質問します。2つの選択肢に分岐しますが、作るならカードの説明をし、カードをお渡しして工程を終えます。カードを作る必要がなければ、案内を終了し、工程を終了します。
2つ目は、縦型のフローチャートです。レジ締めの工程を表しました。
レジを閉じた次の工程は、手作業で札、小銭を数えます。次にレジの表示金額と相違がないか確認します。
その上で「はい」「いいえ」の2方向に分岐します。「はい」の場合は翌日の準備工程まで進めます。「いいえ」の場合は返品の戻しレシートの有無を確認し、あればレジで返金操作をして翌日の準備工程まで進みます。
返品がなく、金額が合わない場合は店長に報告し帳票に記載します。明日の準備金を残して、売上げを金庫に保管して終了します。
最後は、スイムレーンチャートです。返品したいお客様と販売員、店長それぞれのアクションが縦に分かれて表記されています。
これがあることで、返品を処理する従業員は慌てることなくお客様に対応することができます。従業員が焦ってしまい、自己判断で返品を受けてしまうといった間違えた行動を取るリスクを減らす効果があります。
これらの3つの例を参考にして、以下の無料テンプレートを使ってフローチャートを作成してみましょう。
今回は5種類のフローチャートの書き方について解説しました。
フローチャートは誰が見ても情報共有ができるものでなければいけません。どこから始まるか、流れの全体をわかりやすく、行動の表現を明確にすることが大切です。
良いフローチャートを作成し、現場の業務効率改善に活用しましょう。