初めてOJTトレーナーを担当する際は、選ばれた喜びと自分に務まるんだろうかという不安があることでしょう。
そこで当記事では、OJTトレーナーの役割や必要なマインド・心構えから、OJTの進め方、成功させるためのポイント、よくある悩みへの解決策まで解説しました。近年増えているリモート環境でのOJTの進め方についても触れています。ぜひ最後までご覧ください。
現場での実務を通して仕事を覚えてもらう人材育成方法であるOJT(On The Job Training)。実務における即戦力となることを期待した方法で、個人に合わせた指導ができるのが最大のメリットです。OJTの期間は企業によりまちまちですが、概ね3カ月から1年かけて行います。このOJTの指導役となるのが、「OJTトレーナー」です。ちなみに教えられる側は「トレーニー」とよばれます。
OJTトレーナーは、コミュニケーションスキルや褒めるスキル、叱るスキル、フィードバックスキルなどが求められます。
初めてOJTトレーナーを担当することになったら、「自分に務まるんだろうか」「なぜ自分が選ばれたのだろうか」などと不安を感じる方も少なくないでしょう。そして、もしかしたら教える過程で自信を無くすこともあるかもしれません。
そんなときに思い出してほしいのが、全て自分ひとりで背負う必要はないということと、OJTトレーナーに選ばれたということは次のような資質をお持ちだということです。
この後にOJTトレーナーに必要なマインドや心構え、OJTの進め方・教え方、OJTを成功させるためのポイントなども解説しますので、ぜひ前向きに取り組んでいただきたいと思います。
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OJT教育のやり方や担当者のあるべき姿とは?成功に導くポイントを具体例を交えて解説!
OJTトレーナーの他に、メンターも社員をサポートする役割を担っています。メンターとOJTトレーナーの違いは、サポートする対象が異なる点です。
OJTトレーナーが指導するのは、実務に必要なスキルであり、主にチーム内の先輩や上司が1対1で行います。一方のメンターは、若手社員の悩みや不安、キャリアなどについて対話や相談をしながらサポートし、多くの場合は別部署の仕事上の上司ではない人が務めます。
つまりOJTトレーナーは実務、メンターは精神面のサポートを主に行うとご理解いただくといいでしょう。
OJTトレーナーは、実際の仕事を通して、仕事のやり方や向き合い方などを教えるという役割を担っています。ただし、単に仕事を教えればいいというわけではありません。教える相手にあわせて「何を教えるか」「どういった教え方が合っているか」を考え、計画的に、継続的に教えることが大事です。
例えば新卒入社の社員のOJTトレーナーになった場合は、業務そのもののやり方だけでなく、仕事への責任について理解を促したり、社会人としてのコミュニケーションなどについても指導が必要になるケースが出てきます。また自信を無くした社員のやる気を引き出すといったことも必要になるかもしれません。
一方で中途入社の社員に教える場合は、組織に適応してもらうためにアンラーニングが欠かせず、こちらのサポートが必要です。即戦力を期待され入社してきていますので、どうしても気負っている部分があります。しかし前職のやり方がそのまま通用しない場面が多々あり、アンラーニングが必要なのです。
OJTトレーナーに必要なマインドと心構えは次の4つです。
いずれにも共通しているのは、教える相手の成長をとことん考えることです。一つずつ見ていきましょう。
OJTでは教える側、教わる側の関係性が大事になってきます。良い関係を築くためには、相手の長所も短所も、その人自身の個性だと考えて認めて受け入れることが重要です。そしてOJTトレーナーは、自分自身の完璧ではない部分を認め、それも含めて相手と向き合うのがいいでしょう。完璧すぎると取っつきにくくなりがちで、不完全な部分を感じられると親近感がわくものです。
その上で、「やれば必ずできる」と相手を信じて向き合い続ける根気や相手への配慮、気配りが大事になってきます。
書籍「OJTで面白いほど自分で考えて動く部下が育つ本」の中で著者の松下直子氏は、「まず自らの思い込みを排除する」ことが大事だと述べています。人間は様々な経験を重ねるにしたがって既成概念にとらわれるようになり、それを判断基準にします。
OJTトレーナーをやっていると「そんなことはうちの会社でやったらいけない」と言いたくなることもあるかもしれませんが、そんなときには一度深呼吸して相手の話を聞いてみましょう。意外と相手のほうが固定観念に縛られず、正しい意見を言っているかもしれません。
OJTトレーナーは、褒めたり、叱ったり、フィードバックを行ったりしながら育成を行いますが、そのときに欠かせないのが相手の変化に気づくこと。そして「●●のやり方を変えたんだね。今の対応すごく良かったよ!」といったようにその場で声をかけることが大事です。
また特に入社して間もない期間は知らず知らずのうちにストレスを感じやすいものですね。「あれ?いつもと違うな」と何か兆しに気付いたら、「どうしたの?」と声をかけるといいでしょう。当然、相手が安心して話ができるような関係性も重要ですし、話してくれたら「言ってくれてありがとう」と伝えるなど受け止めることも大事になってきます。
前述の著書の中で松下氏は、『成長には「素直さ」と「勇気」が必要』だと述べています。その「素直さ」と「勇気」をOJTトレーナーはいかに引き出すかがポイントです。
素直さが欠けている場合は、成長してほしいから言っているというのを説明するのが大事とのこと。そして勇気を引き出すためには、叱咤激励ではなく、困難を克服する活力を与えると効果的だそうです。できている部分に注目すると勇気づけしやすく、OJTトレーナー自身が楽観的にプラス思考でのぞみ、感謝を伝えたり、進歩や成長を褒めたり、失敗を許容したり、話を聞いたりすることが大切です。
OJTの進め方は、「4段階職業指導法」をもとに次の4ステップで行うのが基本です。
それぞれ見ていきましょう。
OJTの最初のステップは、OJTトレーナーが実務をやってみせることです。集合型の研修やe-ラーニング、マニュアル等で既に説明済みの内容であっても、改めて見本を示します。教えられる側は、実際に見ることで、業務の全体像がつかめたり、具体的なイメージが持ちやすくなるでしょう。
OJTでは、やり方を覚えてもらうだけでは不十分です。ステップ1でやってみせた業務について、業務の目的や意味を説明し、業務への理解を深めてもらいましょう。阿吽の呼吸で説明しないで、一から十まで伝えるよう心がけます。
「なぜ、その仕事が必要なのか」「なぜ、このタイミングで行うのか」「なぜ、この方法で行うのか」など、一つひとつの行動の意味を丁寧に伝えることが大事です。
OJTトレーナーにとっては、当たり前のことでも相手は初めてです。メモをとったり、質問できる時間を設けたりするなど、余裕を持って進めます。
やってみせて、説明をしたら、いよいよ「やらせてみる(Do)」段階に入ります。聞くのと実際にやるのとでは違うため、失敗することもありますが、適宜、助言をしながら自分でやりきれるようサポートしましょう。
失敗こそ学びです。「ここに注意しないといけないんだな」といったことに気づくきっかけにもなります。小さな成功体験の積み重ねが、自信になり、さらなる成長につながるでしょう。
何事もやりっぱなしはよくありませんね。OJTも同様で最終ステップとして「評価・指導する(Check)」という段階を踏むことが大切です。「評価なんて、自分には……」と構えてしまう方は、振り返りの機会を持つと考えるといいでしょう。ステップ3で実際にやった結果をもとに、良かった点と改善したい点を伝えます。
仕事の成果だけで評価するのではなく、能力や意欲という切り口から成長を支援します。まずは、業務を遂行するために必要な能力や知識・技術は何なのか再確認しましょう。そのうえで、日々の行動がどうだったのかを伝えます。具体的に伝えるのがポイントです。
そして達成できなかったことがあれば、振り返りとともに再挑戦に向けた支援も行います。
新型コロナウイルス感染症の拡大により急速に広がったリモートワーク。OJTをリモート環境で進めるケースも出てきました。しかしリアルでやってきたことをそのままオンラインに当てはめようとすると、ひずみが出てしまいます。中でもコミュニケーションはリアルとオンラインとでは大きく異なりますね。そこで、ここではリアルで行っているOJTをどのようにオンラインに当てはめればよいかコミュニケーション面に絞り、ポイントを解説します。
書籍「対話型OJT 主体的に動ける部下を育てる知識とスキル」によるとリモート環境の場合、特に意識したい点は以下の3つだと言います。
一つずつ見ていきましょう。
リモートワークの場合、どうしても雑談や世間話の時間が減り、コミュニケーション量が減ってしまいます。そこで意識したいのが高頻度の接触を図ること。例えば、朝夕のミーティングを毎日短時間で行うのは有効でしょう。その日の行動のすり合わせや報連相を10分〜15分の短時間で行います。その中でOJTトレーナーは積極的に承認の声掛けを行うようにします。
オンラインでのミーティングはリアルよりも疲れます。集中し続けるのが難しいため、意識的に時間を決めて、10分〜15分、長くても30分以内を目安に行うのがいいでしょう。
オンラインだと「話者交代」のタイミングをとりにくくなります。だからこそ、ミーティングの際は事前に役割分担(進行役、記録役など)を行い、参加者全員が発話しやすい環境を作ることが大切です。
またいつでも相談できる環境を整えることも大事です。こうした環境が安心感につながり、仕事の効率を高めます。「あなたのことを気にかけている」という態度を伝えましょう。
OJTを成功させるためのポイントを5つ解説します。
一つずつ見ていきます。
OJTを成功させるためのポイントの1つめは、育成計画を立て、教わる側にも丁寧に伝えることです。OJTトレーナーは、業務の全体像が見えているので、順調なのかそうではないのかなど分かりますが、教わる側は見通しが立たず不安になってしまいます。
業務の全体像に対して、現在地がどこなのか分かるようにしましょう。
「評価」と聞くと構えてしまうかもしれませんが、一つ一つの業務で「ここまでできてほしい」といったことがあるはずです。そうした評価基準を明確に設けましょう。
そして評価基準をもとに、さまざまなタイミングでフィードバックを行います。振り返りこそ、教わる側にとっての貴重な成長機会です。
書籍「OJTで面白いほど自分で考えて動く部下が育つ本」によると、仕事の優先順位のつけ方と、ある程度の時間配分の目安を伝えることが大事だと言います。というのも、段取りが悪い部下というのは、この2つが上司とズレている場合が多くあるのだそうです。だから何度かこうしたやり取りをすることで、上司の期待する段取りを伝えます。加えて、やらないことを決めてあげることも重要です。
OJTトレーナーを任されると、自分がしっかりと教えなくてはと考えがちですが、一人で教えようとするとうまくいきません。
自分の仕事とOJTでの指導の両方を限られた勤務時間の中で完璧にやろうとすると、精神的にも肉体的にも負担が大きくなりすぎてしまいます。自分の仕事、OJTのどちらかに歪が出てしまうでしょう。
だからこそ同僚や先輩も巻き込みOJTを進めていく状況を作りましょう。教わる側にとっても、複数の人から教えてもらうことで、多様な考え方ややり方を学べますし、人間関係の構築にも役立ちます。
OJTトレーナーの経験は自身の成長にもつながります。人に説明しなければいけないので業務への理解が深まりますし、問題解決能力や指導力が向上し、管理職へのステップになります。ぜひ、自分のメリットも感じながらOJTを行ってください。
最後にOJTトレーナーのよくある悩みと解決策を書籍「OJTの基本~教え、教えられながら共に学び共に育つ」をもとに紹介します。
注意したいポイントは、次の6つです。
部下を理解するには、日頃の部下とのやり取りの中で、部下の持つ欲求をつかむことが大切です。部下にはそれぞれ個性があり、人間としての部下を理解しましょう。
部下に仕事を任せる際の前提になるのが、仕事の基準を明確にしておくことです。仕事の質、量、時間、方法などについて、OJTトレーナーと部下の間で妥当なものとして相互に了解を取ります。
また仕事を遂行するために必要な自由裁量の幅を与え、行動ではなく結果を見ます。当然、部下が行った仕事が期待どおりの成果を上げられなかったり、失敗したりすることもありますが、そのことは覚悟しておく必要があります。
仕事を指示した部下には、次のようなタイミングで報告や連絡を行うように習慣づけるといいでしょう。
報告内容は、以下のような観点で行ってもらいましょう。
初めてOJTトレーナーになった方向けに、OJTトレーナーの役割や必要なマインド、よくある悩みと解決策まで解説しました。
OJTを成功させるためには、一人で教えようとせず周囲を巻き込むことが大事です。自分の仕事とOJTでの指導の両方を限られた勤務時間の中で完璧にやろうとすると、精神的にも肉体的にも負担が大きくなりすぎてしまいます。抱え込まないようご注意ください。
OJTトレーナーの経験は自身の成長を促す機会にもなりますので、選ばれたことを前向きにとらえ、積極的に取り組むといいでしょう。