人材育成を行うにあたって目標を決めることはとても大切です。明確な目標があることで取り組む内容が具体化され、途中で方向性を見失わずに人材育成ができるようになるからです。
今回は、人材育成において目標設定が大切な3つの理由をはじめ、目標設定方法と職種別の設定例を例文付きでご紹介します。
加えて、目標設定のポイントや枠組みとなる手法についてもふれていきますので、ぜひ参考にしてください。
1つ目の理由は、掲げた目標を達成するためのステップを明確にできることです。人材育成では、目指すゴールを決めておくことで、目標達成への道のりを段階ごとに分けることができ、それぞれの取り組みを計画しやすくなります。
また、人材育成の流れを広く押さえられることはもちろん、社員が人材育成を通じて自身の達成度を確認しながら進められるため、最終目標に向けて一歩ずつ前進しやすくなるでしょう。
このように目標への道のりをわかりやすくすることで、管理する教育担当者も、取り組む側も着実にゴールに向かって成長しやすくなります。
2つ目の理由は、目標設定によって社員のモチベーションアップを図れることです。目標達成へのステップを明確にすると、社員が自らの到達点を把握できますが、それは同時に「目標を達成したい」という意欲を引き出すスイッチにもなります。
ステップごとに「もう少しの努力で到達できる」という気持ちで積み上げることで、達成時に充実感を得られるでしょう。そして、その繰り返しによって最終目標にたどりつくことが期待できます。
また、設定した目標が「自分にとって少し難しいレベル」であると、あと少しの工夫・改善で達成できると思えるため、「これならできる」というモチベーションにもつながりやすいでしょう。
反対に、目標が高すぎると「たどり着けるレベルではない」と思ってしまい、かえってモチベーションが下がることもあるため注意が必要です。
3つ目の理由は、目標を掲げることで企業としての方向性を社員に示せることです。会社のビジョンや事業方針、経営戦略などの「会社が目指す方向や道のり」を社員に示すことで、社員が自分自身で「自分には何ができるだろうか?」と自身の役割や価値を考えるきっかけとなるのです。
一つ例を見てみましょう。ある会社では、今年の目標として営業強化による業績向上を掲げ、これを社員に明確に示しています。そのため営業担当の社員は、自分には今「営業スキルの向上」が求められていると考え、先輩社員に指導を仰いだり、営業手法について自習する時間を確保するようになりました。
このように、企業の方向性を社員に示すことは、会社が目指す方向性にあわせて社員を効果的にスキルアップさせるためにも重要なポイントになるのです。
前章では人材育成で目標設定が必要な理由にふれてきましたが、実際にどのように目標を決めればよいのかわからない方もいるのではないでしょうか?そこで、ここでは目標設定の方法をステップ形式で解説していきます。
まずは会社の経営情報を明確にし、会社として目指すゴールを決めていきましょう。そうすることで、実現に向けて必要となる人材像が明確になり、人材育成の方向性が見えてきます。
たとえば業績の悪い事業があるとき、契約の更新や新規獲得が全くできていなかったり、かつ営業スキルの高い人材が不足していたらいかがでしょうか。
営業スキルのある人材を採用したり、営業スキルを向上させるために人材教育を行ったりすることが必要だと、多くの人が分かると思います。
このように、まずは会社の経営情報を明確し、人材育成の方向性をはっきりさせていくことから始めていきましょう。
続いてステップ2では、人材育成の目的を明確にしていきます。目的を明確にすることで社員が一丸となって取り組みやすくなり、モチベーションの維持にもつながるからです。
たとえば新事業を開始し、1年以内に軌道に乗せることを目標とした場合、その目標に向けて貢献できる人材の確保が必須でしょう。そこで、必要となる人材を「責任者」「管理者」「一般社員」に区分けし、それぞれに適した人材を育成しよう、という判断につながっていきます。
このように事業目標が決まると、そこを目指した人材育成の目的も絞られ、「誰をどのように育成すべきか」を明確化することができるのです。
また、この時に大切なポイントとして、育成対象となる社員に対して「どのようなスキルを獲得してほしいか」を明確に示すことが挙げられます。
育成対象の社員に対して、求めるスキルを明確に示し、スキルレベルを測るためのゴールを設定することで、社員は目的を見失うことなく効果的にスキルアップを目指すことができるでしょう。
またそのためには、人材育成の目的をどこに設定するのかを具体化することも大切です。後述するSMARTの法則に当てはめて、S(明確性)やAR(誰が取り組めるか・現実的か)の内容を考えてみてください。
人材育成の目的を明確にしたら、次に目標数値を設定していきます。目標の達成に向けた段階別のステップを決め、それぞれの評価基準を数字で表すことで、達成具合を明確に判断できるようになるでしょう。(このステップは後述するSMARTの法則の、M(測定・定量化可能)の部分にあたります)
具体的に見ていきましょう。たとえば新サービス開始後、多くの利用者を獲得するには顧客に納得してもらえる営業のスキルが必要です。その目標数値をみる場合、教育を行った前と後での成約率に着目し、その数字の変化から判断する方法があります。
この場合、目標数値としては「現状の成約率は〇%だが、〇か月後に〇%を目指す」という具合に設定をするとよいでしょう。
なお、目標設定の例文については後ほど職種別にくわしくご紹介します。
人材育成の目標数値を設定したら、最後に時間軸を盛り込んだ計画表に落とし込みます。人材育成の取り組みを段階別にスケジュール化し、計画表に記入していきましょう。
たとえば、新入社員に向けた人材育成では、以下のように計画表に含める情報を整理します。
期間 |
情報 |
入社1か月後 |
・取り組み:電話でのカスタマー対応研修を実施する。 ・目標:一般的な電話応対を自然にこなす。 ・測定方法:担当者が週1回モニタリングして評価点をつける。 |
入社3か月後 |
・取り組み:ロールプレイング研修で非定型の応対を学ぶ。 ・目標:イレギュラーな応対を自然にこなす。 ・測定方法:担当者が週1回モニタリングし、評価点をつける。 |
入社6か月後 |
・取り組み:クレーム対応研修をする。 ・目標:電話でのトラブル発生率を下げる。 ・測定方法:月1,2回のモニタリングと顧客満足度調査の結果をみる。 |
また、計画表を作成するときは、社員の業務スキルや役職などに応じて取り組む内容を変え、計画表に記載することをおすすめします。対象者を明確にすることで、その層にあわせた実用的な教育を行いやすくなるでしょう。
なお、人材育成の計画づくりについては以下の記事で詳しく解説していますので、あわせてご一読ください。
■参考記事はこちら
人材育成計画とは?基本の立て方や計画書のテンプレート例を紹介
人材育成の目標は、効果測定の精度を高めるためにも、計画的に進行し目標を管理することが大切です。また、スキルの定着と更なる成長のために社員をフォローすることも求められます。
その際に役立つのが、計画を見える化できる目標管理シートです。無料でダウンロードいただける育成計画書のテンプレートをご用意しましたので、ぜひご利用ください。
前章では、人材育成の目標設定の方法について手順をステップ式で見てきました。しかしながら、「具体的にどのように書けばいい?」「目標管理シートに書き込む例文も知りたい!」と思われた方もいるのではないでしょうか?
そこでここからは、そのような方のために、具体的な目標設定例を例文でご紹介していきたいと思います。以下のとおり、職種別に分けて紹介しますので、該当する職種の方はぜひ参考にしてください。
ご紹介する例文を実際の目標設定のヒントとしてぜひご活用ください。
営業職は売上などの数字を追うため、人材育成の目標値を定量化しやすい傾向があります。具体的に商品やサービスの契約率や販売率、問い合わせ件数などは、数字で表される典型例です。ここでは、営業職の目標設定を示す例文をご紹介します。
対象者 |
目標設定の例文 |
入社1年目の営業社員 |
月に〇回、電話対応研修で顧客を惹きつける営業トークのしかたを学び、営業電話での獲得率を〇%向上させる。 |
海外営業部所属の社員 |
週に〇日、社内でビジネス英語のクラスを開催し、海外企業に向けた提案営業の成果率を〇%以上向上させる。 |
マーケティング職も市場分析やデータ・統計を扱う業務が含まれるため、目標値を定量化しやすい傾向があります。たとえば、市場調査やニーズ分析において効果的な目標を設定し、マーケティング施策に取り組むことが可能です。ここでは、マーケティング職の目標設定を示す例文をご紹介します。
対象者 |
目標設定の例文 |
SNSの運用担当者・管理者 |
オンライン講座で随時SNS広告の運用方法を学び、半年以内にSNS経由の見込み客を〇万人獲得する。 |
マーケティング戦略の担当者・管理者 |
潜在顧客に向けたアプローチ法について〇〇で学び、LINEの登録率を前月比〇%アップさせる。 |
事務職は会社の各部門における事務作業を担うため、営業やマーケティング職と比べると目標値を定量化しにくい傾向があります。しかしながら事務職は業務の効率性と正確性が求められるため、ミスの発生数や稼働時間などを指標とすることが可能です。ここでは、事務職の目標設定を示す例文をご紹介します。
対象者 |
目標設定の例文 |
1年目の社員 |
パソコンのタイピング講習とミス対策教育を併用し、〇〇における事務作業のミスを前月比〇%減らす。 |
該当業務に携わる全員 |
受発注システムの使用方法に関する講習を受け、受発注業務にかかっていた時間を前月の〇時間から〇時間に減らす。 |
人事総務の目標値は、経費や無駄を省くことで定量化がしやすくなります。たとえば、社内の必需品や消耗品の購入に際して購入元を検討し、節約しながら使うことで経費の削減が可能です。また人事関連では、社員のエンゲージメントや離職率が指標となります。ここでは、人事総務の目標設定を示す例文をご紹介します。
対象者 |
目標設定の例文 |
全員 |
書類のペーパーレス化について社内で説明会を行い、経費を前月比〇%削減する。 |
人事業務に携わる社員 |
社員エンゲージメントを高める方法についての研修を受講後実践し、社員の離職率を〇%低下させる。 |
管理職における目標値は、部下の勤務環境の改善やスキル向上などを達成することで設定が可能です。たとえば、業務改善策による残業時間の削減や、スキル獲得による成約率の向上があります。ここでは、管理職の目標設定を示す例文をご紹介します。
対象者 |
目標設定の例文 |
部署の管理職・責任者 |
業務マニュアルの作成研修を受けてマニュアルを作成し、それを部下に共有しながら〇か月後の残業時間を〇割削減する。 |
部署の管理職・責任者・教育担当者 |
社内の報連相を徹底するために教育を行い、部署やチームの評価を〇点以上向上させる。 |
サービス職の目標値は、サービスの品質や売上、来店率の向上により定量化が可能です。たとえば定型業務の手順書をわかりやすく改善したり、接遇研修を実施したりすることで顧客満足度の向上につなげることができます。ここでは、サービス職の目標設定を示す例文をご紹介します。
対象者 |
目標設定の例文 |
管理職・責任者 |
飲食店で業務効率化に向けたサービス業務の手順書の作り方を学んで作成後、2か月後の顧客の回転率を〇%高める。 |
全員 |
カスタマーサービス研修を〇回実施して顧客対応について学び、〇ヶ月後の顧客満足度調査で〇点向上させる。 |
医療・介護職の目標値は、勤続年数やスキルレベル別に変えることが必要となります。目標を設定するには、超過労働になりがちな勤務体系を見直し、効率化できる部分を改善しながら稼働時間を減らすなどの方法があります。ここでは、医療・介護職の目標設定を示す例文をご紹介します。
対象者 |
目標設定の例文 |
1年目の看護士 |
先輩看護士がついて指導し、〇月までに採血を一人でできるようにする。 |
管理者・責任者 |
無駄な業務を減らして1日の流れをフロー化し、業務時間を月〇時間削減する。 |
ここまで人材育成の具体例を押さえてきましたが、目標の達成に向けて効果的に進めるにあたり、知っておくべきポイントが2つあります。人材育成を効果的に進めるうえで重要になりますので、覚えておきましょう。
まず、目標は達成可能な範囲で設定することが大切です。無理な目標設定は、かえって社員のモチベーションを奪ったり、つまずくきっかけになってしまい、人材育成を阻害する恐れがあるでしょう。
一つ、個人で飲食店を運営しているケースを考えてみます。事業拡大を目指して店舗を1年以内に10店舗増やすことを目標としていますが、店舗のアルバイトスタッフは現状10名で、正社員に関しては2名しかいません。
この場合、ホールや調理スタッフの育成が必要なのはもちろんですが、それ以前に店舗運営に必要な責任者の数が不足しているため、目標達成に向けた人材育成が実行できない恐れがあります。
そのため、店舗数を増やしたい場合は、「運営体制を整えたうえで人材育成を行うこと」「1店舗ずつ慎重に増やすこと」など、現実的な計画を立てることが重要になってくるでしょう。
人材育成の目標は、効果測定の指標をつくるためにも数値化をして示すことが重要です。この場合の定量的に示す手段は、取り組む内容によって変わります。参考までに、取り組む内容例と測定手段例をご紹介します。
取り組む内容例 |
測定手段例 |
クレームを減らすカスタマーサービス研修 |
クレーム件数・顧客満足度調査 |
営業トークを鍛えるワークショップ研修 |
成約率・販売率 |
1on1でのキャリア・教育相談 |
社員の離職率・満足度に関するアンケート |
オンラインを活用した見込み客へのアプローチ研修 |
サイトへのアクセス率・メルマガの登録者数 |
これらは、実際に人材育成に取り組む際に、「効果を可視化する手段」になりますので、自社で始める際にはぜひ取り入れてみてください。
前章では、人材育成の目標設定のポイントについてみてきましたが、「実際に、自社の場合は何をすればよいのかわからない」という方もいると思います。
そこで役に立つのが、目標設定の「フレームワーク(枠組み)」です。煩雑になりがちな情報を整理し、課題と解決策をみつけやすくしてくれるでしょう。
ここでは、目標設定に役立つ3つのフレームワークをご紹介します。ぜひ参考にしてください。
一つ目のフレームワークは、SMART(Specific・Measurable・Assignable・Realistic・Time-related)の法則です。目標と、誰がいつまでに何を実現できるかという点を明確化し、測定可能な取り組みをすることを目指せます。
概念 |
概要 |
Specific |
明確性 |
Measurable |
測定・定量化可能 |
Assignable(Achievable) |
誰が取り組めるか(達成可能か) |
Realistic(Relevant) |
現実的か(関連性がある) |
Time-related(Time-bound) |
いつ結果を得られるか(期限が明確) |
SMARTの法則は、アメリカのコンサルタント、ジョージ・T・ドラン氏が1981年、会社の経営者や管理者を対象に提唱しました。
Let me suggest therefore, that when it comes to writing effective objectives, corporate officers, managers, and supervisors just have to think of the acronym SMART.
翻訳:効果的な目標を作成するには、会社の役員や管理者、および監督者が、SMART の頭文字を考えるだけでよいということを提案します。
引用:George T. Doran「There's a S.M.A.R.T. way to write managements's goals and objectives.」
SMARTの法則は、40年以上経過した現在も、AssignableをAchievableに変えるなど、頭文字はそのままで変化しながら、多くの企業で適用されています。
MBO(Management by Objectives)とは「目標による管理」と呼ばれ、設定した目標の達成具合を管理する方法のことです。MBOは、経営思想家でありマネジメントの父でもある、P.F.ドラッカー氏によって、1954年の著書『現代の経営』にて提唱されました。
MBOの大まかなフレームワークは以下をご覧ください。
MBOでは、年間売上などの会社全体の目標設定から始まり、それを達成するために部署や個人の目標を決めていきます。そしてそれぞれが取り組みながら進捗管理を行い、その結果を評価する流れです。
MBOでは、経営視点から始まる大きな目標の達成に向けて、部署や個人が状況を理解し、それぞれに与えられたタスクに取り組みます。
そのため、MBOには以下のメリットがあります。
また、全社が一丸となって大きな目標達成に尽くせるため、経営陣と社員間のコミュニケーションを向上する効果も期待できます。
しかし、実際は想定どおりに進む場合もあればうまくいかない場合もあります。それらを含めて、MBOに関する理解を深めたい方は、詳細を記した以下の記事もあわせてご一読ください。
■参考記事はこちら
MBOとは?言葉の意味、目標設定の方法、効果的な運用管理のポイントなどわかりやすく解説!
OKR(Objectives and Key Results:OKR)は、達成目標(O)と主な成果(KR)を管理する手法です。米インテル社の元CEOであり、経営科学の父と呼ばれたアンディ・グローブ氏によって生まれました。その後IT企業を中心に取り入れられています。
当時インテル社に勤めていたジョン・ドーア氏は、グローブ氏からOKRについて学び、後にGoogle社にも導入して運用しています。
OKRの詳細については、以下をご覧ください。
OKRもMBOと同じように部署全体の目標と、個人が掲げる目標とがあり、達成具合を成果指標で判断します。ただしOKRでは若干難しい目標を設定し、達成率60~70%を目指していきます。これは実現可能な目標を設定し、100%の達成を目指すMBOとの大きな差です。
OKRを取り入れるメリットについて、Googleは以下のように言及しています。
OKR を使用すると、チームは大きな目標を見据えて専心し、完全には達成できなくても予想外の成果を挙げられるようになります。チームや個人が自らの殻を破り、仕事の優先順位を判断して、成功と失敗の両方から学ぶことができる点が、OKR のメリットと言えるでしょう。
なお、OKRは約3ヶ月ごとに目標を立てるのが一般的です。OKRの具体例を多く知り参考にしたいという方は、詳細を記した以下の記事もあわせてご一読ください。
■参考記事はこちら
OKRとは?言葉の意味から具体的な導入ステップまで簡単にわかりやすく解説!
今回は人材育成における目標について、設定すべき理由とその手順、職種別の具体例をご紹介しました。
人材育成は全社で取り組むことが大切です。会社の経営状況より目標を設定し、その成果を測定する指標を明確化していきます。部署や個人レベルでの目標を絞り込み、具体的な取り組みを実施していきましょう。
そして人材育成を進めていくうえでは、後半でご紹介した効果的な目標設定のポイントやフレームワークも役立つ内容となっていますので、ぜひ参考にご覧ください。また、弊社が独自に作成した無料の「育成計画書」も、ぜひ下記リンクよりダウンロードしてご活用いただけますと幸いです。