企業成長に欠かすことのできない、人材育成。人材育成には手間も時間もかかるため、やるからにはきちんと効果的なものにしたいと思いませんか?
そこで役立つのが、人材育成で使える「フレームワーク」です。人材育成に活用できるフレームワークは、過去の人材育成における成功事例をモデルとして作られたものであるため、これを用いることで人材育成を成功に導くことができるでしょう。
この記事では、そんな人材育成に活用できるフレームワークについて、そのメリットから具体的なフレームワークの紹介、フレームワークを活かすためのポイントなどをくわしく解説していきます。
人材育成の方法に悩まれている経営者の方や、人事担当者の方はぜひ参考にご覧ください。
人材育成においてフレームワークが重要である理由は、主に「人材育成を効果的なものにするため、かつ人材育成を効率的に実施するため」です。
ではなぜ、フレームワークを用いると効果的・効率的な人材育成が期待できるのでしょうか。くわしく説明をする前に、まずはフレームワークの基本からお伝えします。
ビジネスにおけるフレームワークとは、ある課題に対して共通に用いることができる、「考え方の枠組み」のことを指します。この枠組みがあることで、ビジネスのあらゆる場面で効率的かつ効果的に意思決定を行うことができるでしょう。
なお、ビジネスで活用できるフレームワークは、たとえば以下のような場面で活用できます。こうして見てみると、フレームワークは非常に多くの場面で活用できることが分かりますね。
フレームワークに沿って作業を行っているとき、無意識にフレームワークの活動そのものが目的化してしまうことがあります。目的はあくまで人材育成を効果的/効率的に進めることであり、フレームワークの活動自体はあくまでも手段に過ぎないことを、念頭に置いておきましょう。
とくに「フレームワークを活用しなければならない」「フレームワークの通りに進めなければならない」という思考に陥ってしまったときは注意が必要です。フレームワークは非常に便利なものですが、その目的を忘れてしまっては、かえって逆効果となってしまうでしょう。
フレームワークの基本をお伝えしたところで、ここからは具体的に人材育成においてフレームワークを活用するメリットについてご紹介していきたいと思います。
人材育成においてフレームワークを活用すると、大きく次のようなメリットがあります。くわしく見ていきましょう。
人材育成における目標設定は、人材育成の方向性を示したり、モチベーションの維持につなげたりと非常に重要な意味を持ちます。そのため、目標設定によって人材育成の効果が左右されるといっても過言ではありません。
しかし、目標設定とひと口にいっても、その項目や基準などの塩梅は非常に難しいものであり、頭を抱える方も少なくないことでしょう。そこで活用したいのが、目標設定に有効なフレームワークです。
目標設定に役立つフレームワークには、たとえば「SMARTの法則」があります。これを活用することで目標達成の精度が高まり、より効果的な人材育成が実現できるでしょう。くわしい取り組み方については後述しますので、ぜひ参考にご覧ください。
人材育成において、育成計画を立てることは非常に重要です。育成計画を立てることで、受講者の効率的な成長が期待できるほか、モチベーションの維持や人間関係の構築にも貢献してくれます。
とはいえ、育成計画は誰もが簡単に立てられるものではありません。育成計画は、受講者がすでに持っているスキルの把握から獲得したいスキルの選定、教育手段の検討など、手順が多く難しいものです。
そのため、まずは各ステップに応じてフレームワークを活用するのがおすすめです。たとえば、スキルの選定に迷ったときは「カッツ理論」を使用するとよいでしょう。受講者のレベルに応じて、現状どのようなスキルが必要とされているかを客観的に知ることができます。
なお、人材育成計画の具体的な立て方については、下記記事でくわしく解説しております。無料のエクセルテンプレートもご用意しておりますので、ぜひご覧ください。
■参考記事はこちら
人材育成計画とは?基本の立て方や計画書のテンプレート例を紹介
人材育成では、フレームワークを使用することで進捗管理がしやすくなるでしょう。
たとえば、目標設定においてフレームワークを使用することで、育成目標が具体的かつ明確になります。これにより、進捗の可視化が容易になり、指導者と受講者が互いに目標の達成度合いを把握しやすくなるでしょう。
このように、フレームワークには状況の可視化を促す働きがあり、これが人材育成における進捗管理をサポートしてくれるのです。
人材育成において、教育効果の測定方法や評価方法に頭を抱える方も少なくないでしょう。しかしこれも、フレームワークを活用することでクリアになります。
たとえば「カークパトリックモデル」というフレームワークでは、教育の効果測定に関するポイントを整理しており、これを活用することで成果を定量的に評価することができます。(このフレームワークの詳細は後述します。)
人事評価は、一歩間違えると受講者のモチベーションを低下させる恐れのある、非常にセンシティブなものです。フレームワークを活用しながら、適切で効果的な評価方法を取り入れていきましょう。
人材育成におけるフレームワークの活用は、受講者のモチベーション維持という面でもメリットがあります。フレームワークを活用することで目標到達までの道のりが可視化されやすく、気持ちを維持しやすくなるのです。
また、目標までの道のりが把握しやすくなることで、受講者が「今、何をすべきか」を理解し、自発的に行動しやすくなることも、モチベーション維持につながるでしょう。
さらには、フレームワークを活用することで受講者のレベルに合わせた「適度な目標設定」が可能となり、不必要に受講者のモチベーションを崩すことがない点もメリットといえるでしょう。
それでは、ここからは実際に人材育成で活用できるフレームワークをご紹介していきます。紹介するフレームワークは次の7つです。それぞれ見ていきましょう。
SMARTの法則は、主にプロジェクトの計画、業務目標、個人の成果目標など、あらゆる目標設定の際に活用できるフレームワークです。目標が不明確であったり、目標のレベル感に悩んだときには、SMARTの法則を使うことでクリアになるでしょう。
そして、SMARTの法則は以下のように、目標達成に必要な因子の頭文字を取って名づけられています。
概念 |
概要 |
Specific |
具体的であること |
Measurable |
測定・定量化可能であること |
Achievable |
達成可能であること |
Relevant |
関連性があること |
Time-bound |
期限が明確であること |
SMARTの法則では、目標をこれらの要素に基づいて整理し、各要素を明確に定義することで具体的かつ達成可能な目標が設定できるとされています。「目標設定→目標達成→新たな目標設定」を繰り返すことにより、段階的にレベルアップを促すことができるでしょう。
カッツ理論は、マネジメント層の人材に必要とされる3種類のスキルについて示した理論です。従業員の階層に応じて強化すべきスキルが明確になっているため、管理職などマネジメントを求められる人材の育成に役立つでしょう。
具体的に見てみましょう。カッツ理論では、組織の中で活躍するために必要な管理能力を、次の3種類のスキルで示しています。
図に示しているように、3つのスキルはそれぞれマネジメント層に応じて重要度が変化します。マネジメント層の人材育成を行う際は、一度この理論を参考にしながら育成するスキルを整理してみるとよいでしょう。
70:20:10フレームワークは、実際にアメリカで行われた調査をもとに導き出された法則です。リーダーシップ発揮のために役立つ事柄をその割合とともに示したもので、従来の育成方法に限界を感じている場合や、効果的な学習アプローチを模索する際に役立つでしょう。
この内容を見ると、リーダーシップの発揮には仕事の経験が最も重要な要素であることが分かります。加えて、他者との関わりのなかで得られる学びや、研修から得られる学びというものも、少なからずリーダーシップをサポートする要素であることが分かります。
つまり、リーダーの育成においては、これら3つの要素と割合を参考にしながら育成計画を立てることで、効果的な人材育成が期待できるでしょう。
カークパトリックモデルは、教育(研修)の効果測定に関するポイントを整理しているフレームワークです。人材育成においては、主に学習プログラムやトレーニングの成果を評価する際に活用するとよいでしょう。
カークパトリックモデルにおける、4段階の評価方法について説明します。
段階(レベル) |
評価内容 |
具体的な内容 |
レベル1 |
Reaction(反応) |
研修の満足度を5段階で評価する |
レベル2 |
Learning(学習) |
研修内容の理解度をテストで評価する |
レベル3 |
Behavior(行動) |
研修後の実践度をアンケート等で評価する |
レベル4 |
Results(業績) |
組織への影響(売上アップ等)を実際の数値で評価する |
このようにカークパトリックモデルでは、4段階のレベルに分けて効果を測定することで、教育(研修)の効果を定量的に確認することができます。そして、この評価方法を人材育成に活用することで研修の最適化につながり、結果として人材育成を成功に導いてくれるでしょう。
HPIとは、組織が直面している課題を現在の人材状況から洗い出し、解決を図るフレームワークです。具体的には、企業の目標に対して、本来あるべき人材の姿と現状とのギャップを洗い出し、その原因を分析し改善を図ります。
また、HPIは、組織の目標(経営計画など)と連動しながら課題解決を図るところがポイントです。このことを意識しながら、次に示す5つのステップをもとに進めていきましょう。
ステップ |
内容 |
詳細 |
ステップ1 |
課題の特定 |
組織の目標とのギャップや課題を洗い出す |
ステップ2 |
原因の分析 |
ギャップが生じる原因を分析する |
ステップ3 |
手法の選択 |
課題解決に向けた具体的な解決策を検討・設計する |
ステップ4 |
手法の実施 |
設計した解決策を実際に組織に導入し、実行に移す |
ステップ5 |
効果の評価 |
効果を評価し、必要に応じて調整や追加の対策を検討する |
氷山モデルは、物事の本質的な捉え方を示したフレームワークです。物事は、1割の目に見える部分と9割の目に見えない部分で構成されており、これを氷山の一角にたとえています。(氷山の1割は海面から突き出ており目に見えるが、9割は海の中にあり目には見えない)
そして、この考え方を人材育成にあてはめると、人材育成の成果というのは目に見えやすい成果と見えにくい成果があるということになります。
たとえばスキルや知識、態度といった部分は目で見やすく評価しやすいものですが、一方で価値観や責任感、考え方などは目では見えない、その人の潜在的な部分になります。
そのため、人材育成においては、従業員の行動(目に見える部分)がどのように引き起こされたのかを分析するためのツールとして活用したり、従業員の潜在的な能力や強みを理解するためのツールとして活用するとよいでしょう。
思考の6段階モデルは、教育において必要とされる能力について示したフレームワークです。思考を6つの段階に分け、各段階の能力を高めるトレーニングが教育において重要であるとされています。
段階(レベル) |
項目 |
内容 |
レベル1 |
知識 |
事実や概念、使い方を知っているか |
レベル2 |
理解 |
知識を説明できるか |
レベル3 |
応用 |
知識を他の場面で使えるか |
レベル4 |
分析 |
全体から要素を分け、個々を説明できるか |
レベル5 |
統合 |
個々を組み合わせて、全体をつくりだせるか |
レベル6 |
評価 |
基準から情報の価値を判断できるか |
人材育成においては、これら6つの段階を意識して計画立てることで、より効果的な人材育成を実現できるでしょう。
そこでここでは、フレームワークを活用するための手順を6つのステップでご紹介します。
フレームワークを行う前に、まずは人材育成の必要性や課題を明確に把握しましょう。現状の課題を理解することで、具体的かつ効果的な育成計画を構築できます。
現状を理解しないまま進めてしまうと、その後のステップで歪みが生じ、人材育成がスムーズに進まないどころか、人材育成そのものの効果が期待できなくなる恐れがあります。
そのため、必ず関係各所にヒアリングを行ったうえで進めていきましょう。
人材育成の課題を確認できたら、次に目標の確認を行いましょう。課題に対して、適切な目標が設定できているか、また関係者のなかで認識のズレはないかを確認していきます。
この時、経営目標や人材戦略と整合性が取れているかを意識しながら確認を進めるとよいでしょう。
実際に使用するフレームワークを選んでいきましょう。見出し「人材育成のフレームワーク7選」で紹介した内容を参考に、どこで・どのフレームワークを使用するかを検討してください。
なお、フレームワークの実行は多少なりとも従業員へ負担がかかるため、手あたり次第にフレームワークを活用するのはおすすめできません。
しっかりと目的に合った育成フレームワークを選択し、その理念や手法を関係者に共有しながら進めていくと効果的でしょう。
フレームワークを実行した後は、人材育成計画を策定していきます。具体的な計画を立てることで、効率的な成長が期待できるほか、受講者のモチベーションアップも期待できるでしょう。
そして、人材育成計画の立て方としては、大まかに以下の順序です。くわしくは下記記事でご紹介しておりますので、ぜひ参考にご覧ください。
■参考記事はこちら
人材育成計画とは?基本の立て方や計画書のテンプレート例を紹介
人材育成計画が完成したら、関係者への共有を行っていきましょう。人材育成を進めるうえでは、関係者の協力が必要不可欠です。できる限り、関係者間での齟齬が生まれないように、認識のすり合わせと調整を丁寧に行う必要があります。
また、人材育成の準備が整ったら、会社全体への共有も忘れずに行いましょう。人材育成は、思わぬところでサポートを要したり、関係者を越えて影響を与えてしまう恐れがあるものです。いざという時の被害を最小限に抑えるためにも、あらかじめ周囲からの理解を得られていると安心でしょう。
すべての準備が整ったら、いよいよ人材育成の開始です。育成計画に沿って進めていきましょう。
また、人材育成は必ずしも思いどおりに進んでいくものではありません。時には、育成計画の通りに進まないことや、思いのほか成果が出ない、といったこともあるでしょう。
そのような時は、ぜひ受講者や関係者とコミュニケーションを取りながら、計画や目標を調整しつつ進めてください。日頃から、日報などを通して日々の記録を残しておくと、このような時にも便利でしょう。
なお、日報の書き方についてはこちらの記事でくわしく解説しております。無料でダウンロードできる「日報テンプレート」もご用意しておりますので、ぜひご活用ください。
■参考記事はこちら
【例文&テンプレートあり】成長につながる日報とその書き方とは
人材育成でフレームワークを活用することには多くのメリットがあります。しかし、フレームワークは人材育成において万能なツールというわけではありません。フレームワークはあくまでも人材育成を効果的なものにするための一つの手段に過ぎず、その目的と性質を見失わないことが大切です。
「フレームワークを使ったから、効果的な人材育成ができるはずだ」「いつもより大きな成長が期待できるかもしれない」、フレームワークを使った人材育成では、無意識にこのような期待を持ってしまうことがあります。
しかし人材育成は、フレームワークを活用したからといって必ず成功するほど簡単なものではありません。フレームワークはあくまで人材育成をサポートする手段であり、人材育成の成功を保証するものではないのです。
また、人材育成は基本的に多くの時間を要するものです。フレームワークを活用したからといってすぐに成果を見込んだり、通常より大きな成長を期待したりするのは好ましくありません。育成対象者へのプレッシャーにもなり兼ねないため、時間と気持ちに余裕をもった対応を心がけましょう。
いざフレームワークを使ってみると、枠にはめて考えすぎるあまり頭を抱えてしまったり、フレームワークに沿って進行することが目的化し息詰まってしまうことがあります。
しかし、このようにフレームワークにこだわりすぎると、人材育成の柔軟性が失われ、効果的な人材育成は期待できなくなってしまいます。また、フレームワーク自体にストレスを感じたり、フレームワークがネックとなって人材育成に遅れが生じたりと、あらゆるリスクにつながるでしょう。
そのため、心がけとしてはフレームワークはあくまで手段であり、目的ではないことを念頭に置きながら、柔軟にフレームワークを調整しつつ進めていくことが大切です。
そのうえで、従業員の成長と組織の目標に焦点を当て、フレームワークに取り組んでいきましょう。
人材育成におけるフレームワークは多くの課題を解決してくれる手段となりますが、決してすべての状況を解決してくれるわけではありません。人材育成を効率よく進めるための環境整備やリソース不足なども課題となることが多いです。
そこで最後に、このような課題に直面している方々に向けた解決策を簡単にご紹介したいと思います。ぜひ参考にご覧ください。
人材育成マニュアルやeラーニング、評価制度などのシステムが整っていないことが、人材育成を始められない要因となっていることが多いようです。
とくに、一からマニュアルを整備したり評価制度を構築するには膨大な時間と費用がかかるため、この課題を解消したうえで人材育成を行うには、かなりハードルが高いといえるでしょう。
一方で、近年では人材育成に特化した外部ツールも多くありますので、活用してみるのも一つの手かもしれません。たとえばクラウド型eラーニングサービスの『shouin+』では、マニュアル作成から評価基準の構築、eラーニングのシステム提供など、人材育成の一貫したサポートが受けられます。
システム面がネックとなり人材育成に踏み切れていない場合は、ぜひ活用してみてください。
近年の人材不足により、人材育成にリソースを割いていられないとお悩みの会社も少なくないです。新入社員の入社も、本来なら歓迎したいのに「新人教育に時間を取られると思うと素直に喜べない」という声も実際に聞いたことがあります。
確かに、人材不足を解消するための人材育成であるはずなのに、そこでリソース不足が加速していては元も子もありません。可能であれば、時間や気持ちに余裕をもって取り組みたいところですよね。
そこで提案したいのが、外部ツールの活用です。やはりリソース不足を解消するためには、自社以外のリソースを活用することが一番の近道。人材育成に特化したツールであれば、その道のプロに任せることで、効果的な人材育成につながるメリットもあります。
そして外部ツールには、たとえば「外部講師」や「クラウド型eラーニングサービス」といった手段があります。これらはOJT(職場内教育訓練)と比べると、目的から内容、コストまで少しずつ違いがありますので、比較したうえで導入を検討するとよいでしょう。
なお、OJTとOFF-JTの違いについては、下記記事でくわしく解説しています。ぜひ参考にご覧ください。
■参考記事はこちら
OJTとOFF-JTの違いとは?各々のメリット・デメリットから事例まで詳しく紹介
企業成長に欠かすことのできない、人材育成。今回は、人材育成に活用できるフレームワークについて、そのメリットから具体的なフレームワークの紹介、フレームワークを活かすためのポイントなどをくわしく解説いたしました。
人材育成におけるフレームワークは、過去の人材育成における成功事例をモデルとして作られたものです。適切な方法で活用することで、効果的な人材育成が見込めるでしょう。今回ご紹介した注意点なども踏まえながら、ぜひ貴社の人材育成にご活用ください。