店舗を持つ小売業で欠かせないのが、売上管理や在庫管理・仕入管理、従業員管理といった「店舗管理」です。販売や接客などの日常業務を行いながら、こうした店舗管理を行うのは決して容易なことではありません。特に店長など店舗責任者に大きな負担がかかっているのが現状です。
多店舗経営の場合は、本部と各店舗の連携、店舗間の連携が大事になってきますので、店舗管理業務が滞ってしまうと、業務上でさまざまな問題が発生しかねません。
そこで当記事では、多店舗経営の店舗管理業務の内容と課題、解決方法のポイントについて解説しました。店舗管理業務の滞りや本部と各店舗とのコミュニケーション不足といった課題解決には、ITによる「効率化」がカギになります。ぜひ最後までご一読ください。
店舗管理とは、飲食店やアパレル、コンビニなどの店舗を運営・マネジメントすることを指します。店舗の規模により本社、スーパーバイザー、店長、従業員が分担して行っています。
具体的な業務としては、担当店舗の経営状況の把握、従業員管理、店舗の設備維持・管理などがあります。
こうした店舗管理は、従来から必要なものでしたが、近年は、新型コロナウイルス感染症の影響、DX(デジタルトランスフォーメーション)推進の波、慢性的な人手不足などにより、店舗管理にも変革のときがきています。
まずは、店舗管理の代表的な5つの仕事内容についてみていきましょう。
店舗管理業務の中でも欠かせないのが、「売上管理」です。日々の売上情報を記録・集計し、売上目標に対する進捗状況を把握するとともに、分析を行うことで今後の改善へとつなげます。
売上管理の軸は、業種などにより異なりますが、時間軸(週次・月次・年次)での分析に加えて、部門別、顧客別、地域別、担当者別などの軸で行われます。
売上管理の具体的な方法としては、エクセルで売上管理表を作成して管理している企業もあれば、会計ソフトや専門のシステムを導入している企業もあります。
商品の「在庫管理・仕入管理」は、利益を最大化するために重要な店舗管理業務のひとつです。具体的には、仕入れ先の選定、仕入れ金額の見積り、在庫数や販売数の把握・管理などを行います。
店舗では、商品を必要なときに、必要な分だけ提供できるように、適正な在庫を持つ必要があります。必要以上に在庫を抱えすぎると、管理コストがかかったり、廃棄ロスが増えたりする可能性がありますし、逆に在庫が足りないと販売機会の損失につながってしまいます。
在庫管理・仕入管理の方法としては、規模が小さければエクセルでも可能ですが、記録・入力漏れなどの人為的なミスが起こる可能性もあるため、在庫管理を行えるシステムを導入している企業が多いです。
顧客情報を集めている店舗では、この管理も大事になってきます。顧客管理は主に、お客様のニーズに応え、顧客満足度の向上につなげることを目的に行います。
具体的には、お客様情報の収集・管理はもちろんのこと、購入記録の分析を行ったり、情報を活用してダイレクトメールを送付するなどアプローチを行ったりと、行わなければいけない業務は多岐にわたります。
顧客管理は、エクセルで行っている店舗もあれば、専門のシステムを導入している店舗もあります。
店舗を運営するには、従業員のシフトを決めたり、勤怠を管理したりといったことも必要ですね。人件費を見積りつつ、従業員に無理のないシフトを組みます。従業員にとって働きやすい環境を作ることは、離職防止にもつながります。
また新人スタッフへのOJTをはじめとした研修、従業員のスキルに応じた能力開発、人材育成も必要です。
店舗の設備をチェックし、一定の水準を保つのも店舗管理業務のひとつです。施設の老朽化は避けられないものではありますが、定期的なメンテナンスにより、そのスピードを遅くすることは可能です。
そのためにも、毎日の清掃と施設の手入れが大事になってきます。また電球が切れていたり、トイレットペーパーが補充されていなかったり、日に焼けたポスターが貼ってあったりすると、店舗イメージを傷つけることにもなりかねません。設備維持・管理の業務は地味ではありますが、顧客の印象につながる大事な仕事です。
店舗管理を行ううえで、よくある課題には、店舗が抱える課題と本部が抱える課題があり、具体的には以下のようなものがあります。
一つずつ見ていきましょう。
ここまでお読みいただいてお分かりだと思いますが、店舗管理業務は全て重要であり、どの作業も時間と労力がかかります。これらに加えて、当然、接客などの日常業務もあるため、とても一人では手が回らないのが現状です。
例えば、売上管理をシステムなどを導入せずに、手作業でやっている場合は、売上の記録をするだけで精一杯。データを活用して売上改善の施策検討を行い、それを実行に移すところまでは手が回っていない店舗もあるでしょう。在庫管理・仕入管理も手作業だと限界がありますね。
そうなったときに後回しになりがちなのが、従業員への教育や働きやすい環境づくりなどの業務です。従業員の能力開発は、重要であり、優先度の高いものだと理解しつつも、目の前のタスクに追われると疎かになってしまいます。
従業員教育に時間を割ければ、店長にかわり店舗管理業務の一部をお願いできたり、接客などの日常業務を任せられたりするのですが、そうした時間を作れないためにさらに店長に負担が集中する……といった悪循環に陥っているケースも少なくありません。
店舗管理は、各店で行って完結ではなく、随時決められたタイミングで本部への報告も必要です。システムを導入している場合は、個別の報告なしでリアルタイムに本部でも同じ情報を閲覧できているケースもありますが、手動での報告の場合は負担が大きくなります。
報告するためには、データの集計を行い分析、資料の作成などが必要で、どうしても準備に時間がかかります。こうした業務に慣れていないと、その負担はなおさら大きいものになりますね。その結果、報告が不十分だったり、報告が遅れたりといった事態に陥ってしまいます。
本部という立場から店舗管理を見ると、各店舗からの報告がスムーズでない場合、各店舗の状況をリアルタイムで把握できず、現場の管理に支障をきたしているケースがあります。企業によっては、各店舗からの報告のフォーマットが決まっておらず、改めて本部でまとめ直しているケースも……。そうした場合は報告自体がスムーズでも現状の把握に時間がかかってしまいます。
各店舗の動きをリアルタイムで把握できないと、本部で販売戦略を検討することが難しくなりますし、現状把握が不十分なままでキャンペーンなどの施策を実施しても効果は限定的になってしまうでしょう。
多店舗経営において、本部と各店舗との連携は必要不可欠ですが、店長などが店舗管理業務に追われると、コミュニケーション不足が起き、本部からの指示が各店舗に反映されないといったことが起きています。本社で検討した販売戦略が各店舗で実施されなかったり、適切に伝わっていないことが理由で思うような成果が出なかったり……。
また本部としては、各店舗でのトラブルや困りごとの相談・サポートも大事な仕事ですが、店舗からこうした相談がなければ、本部はノウハウを持っていてもサポートすることができません。
店舗管理を行ううえでの店舗の課題も本部の課題も、解決するポイントは「効率化」です。特に小売業は人手不足が深刻な業界なので、人手を増やすことでの解決は現実的ではありません。ITを活用することで効率化をはかるのがいいでしょう。
店舗管理業務をITで効率化する方法には、例えば以下のようなものがあります。
一つずつ見ていきましょう。
店舗を効率よく運営・管理するために必要な機能を備えた店舗管理システムが販売されています。店舗管理システムには多種多様なものがあり、特定の機能に絞ったものもあれば、多数の機能をもつものもあり、業種や業態、規模、目的、用途にあわせて選ぶことが大切です。
例えば、受発注の負担を軽減したいのであれば「受発注システム」の導入がおすすめですし、売上管理・分析を効率化するのであれば「POSシステム(POSレジ)」が選択肢となるでしょう。その他、本部と店舗間の情報伝達をスムーズにするようなシステムなどもあります。
業務の効率化という意味で、キャッシュレスの導入は有効です。キャッシュレス決済による売上は自動で計算、管理ができるため売上の計算が不要になります。またシステムによっては、売上管理のための機能が実装されているものもあり、POSレジと連携することで複数の店舗の売上管理も可能になります。
そして顧客管理をしやすくなるというメリットもあります。キャッシュレス決済を導入することで、顧客の平均購入単価や属性別の人気商品などが確認できるため、マーケティング施策へつなげることもできるでしょう。
本部と各店舗の間でのコミュニケーションに課題を抱えている場合は、コミュニケーション方法の見直しを行いましょう。
本部から店舗への指示、連絡頻度が多すぎたり、連絡手段が統一されていなかったりすると、見落としや理解不足が起きやすくなります。また本部から受けた指示を各店舗でスタッフへ伝える際に、まとめ直す作業が発生している場合は、その点も改善ポイントになるでしょう。
連絡手段を統一するという意味で、何かしらコミュニケーションツールを導入するのは有効ですが、ツールを導入して終わりではなく、自社にあった運用ルールまで整備することが重要です。
従業員教育の負担を軽減するためには、店舗運営マニュアルの整備が有効です。
新しい従業員を採用したら、業務の基礎から教育が必要です。そのときにマニュアルがあれば、教える内容をすべて口頭で説明しなくて済みます。マニュアルを見せながら業務の基礎を伝達できるため、効率的に研修を進めることができるでしょう。また、店舗運営では最初に覚えることが多く身構えてしまう人も少なくありませんが、マニュアルがあることで心理的な負担を取り除くこともできるでしょう。
店舗運営マニュアルは人材育成の効率化以外にも、業務の標準化、従業員のスキルの平準化の実現という意味でも効果を期待できます。
店舗運営マニュアルを用意する際は、本部で統一したものを作成するのがいいでしょう。各店舗で用意すると、作成する負担が大きくなるだけでなく、店舗ごとにルールができてしまい、スタッフは異動のたびに新しいルールを覚えなくてはいけませんし、人手が足りないときに近隣の店舗でサポートしあうことも難しくなってしまいます。
店舗運営マニュアルを用意したら、いつでもスタッフが自由に確認できるようクラウド上などに保存しておくといいでしょう。マニュアルが充実してきたら、マニュアル用のデータベースを用意してキーワードで検索できるようにしておくと便利です。
■参考記事はこちら
店舗運営マニュアルの種類や作り方をわかりやすく解説!人材育成の効率化やスキル平準化に
新人スタッフの教育は、現場でOJT(On the Job Training)でしか行えないと考えがちですが、OJTも効率化が可能です。
新人が入るたびに毎回教えているような定型化されている内容をコンテンツ化し、新人スタッフがそれをe-ラーニングで学べる仕組みを整えます。同じコンテンツで学んでもらうことで、全てのスタッフが同じクオリティで学べる良さもあります。
このe-ラーニングでの研修は、本部で担当することも可能です。遠隔からのサポートであっても、質問やモチベーションアップのための助言に加えて、Web会議システムなどを使えば、ロールプレイングもできます。時間を合わせるのが難しい場合は、録画してそれを確認して教えることも可能です。
現場でのOJTは、店舗でも責任がある仕事を任されているベテランのアルバイトや社員が教えることが多く、なかなか十分な時間を割くのが難しい現状があります。でも基礎的な部分はe-ラーニングで学んでもらう形にすれば、限られた時間を有効に使い、現場でしか教えられない「実践」「フィードバック」といった部分に焦点を当て、しっかりと教育ができるでしょう。
店舗管理業務における課題には、ITを活用した効率化の側面から解決の糸口を見つけるのがポイントです。
具体的には、「店舗管理システムの導入」「キャッシュレス化の推進」「本部と各店舗がリアルタイムに情報共有できる仕組み作り」「店舗運営マニュアルの用意」「e-ラーニングの活用によるOJTの効率化」などが考えられます。
店舗管理業務は多岐にわたるので、一気に解決しようとせず、できる部分から進めていくことをおすすめします。