職場で新人が一番初めに覚える業務に「電話応対」があります。しかし、今の新人は電話に緊張する、恐怖を感じると、電話応対に苦手意識を持っている人が多いといいます。
1990年代中盤以降に生まれたZ世代といわれる今の新人たちのほとんどが、学生時代から携帯電話を持ち、メールやチャットでのやりとりやSNSによって、個人間のコミュニケーションを取ることに慣れています。電話においても、友人など既知の人から直接かかってきますので、他人の電話を取り次ぐという経験が乏しいという環境も、電話応対への苦手意識に大きく影響しています。
しかしビジネスにおいて、取引に関する連絡や問い合わせ、交渉などのやり取りに電話を利用することが非常に多く存在していて、電話応対を無視して仕事を進めることはできません。
今回は電話にスムーズに応対できるように、電話応対のマナーについて解説し、フローチャートを使ったマニュアルをご紹介します。苦手意識を克服してビジネスマンとして一歩を踏み出しましょう。
電話応対は、企業への問い合わせや取引先との連絡など幅広い内容に渡って、ビジネスシーンにおいて日常的に行われています。電話応対はメールや文書でのやりとりよりもスピードをもって回答が得られる、確認が取れるという特徴があり、企業として円滑に業務を進めるために必要な連絡手段です。電話応対は、そのクオリティによって企業の印象が左右され、また顧客満足度を高める手段として重要な業務になります。
非常に重要な業務のため、新入社員へのビジネスマナー研修では多くの企業が「電話応対」を取り入れています。電話応対は会社の代表として対応する、という自覚と責任感を持って取り組みましょう。
ここでは、電話を受けるときによくあるシチュエーションを4つ取り上げて、正しい対応を説明します。
会社への電話はさまざまな方面の取引先や関係者、あるいは消費者からかかってくる可能性があり、このために電話に出ることが怖くなって、電話応対に消極的になってしまいます。ビジネスコミュニケーション指導に詳しい大部千美子氏の書籍「ゼロから教えて電話応対(かんき出版)」によると、ビジネスシーンでの電話の受け方の流れには、おおまかな基本形があるといいます。
電話が鳴ったら、3コール以内に出て、自社の名前を名乗ります。相手が名乗ったら、復唱し、挨拶をします。相手の名指し人を確認し、復唱した上で電話を保留にし、取次ぎます。
来訪される方から、電話で駅から会社までの道を聞かれる場合もあります。
道案内は、簡潔に分かりやすく伝えることが大切です。
大部氏の書籍には、目印になりそうな建物を押さえておき、説明の仕方をあらかじめ準備しておくと良いと書かれています。
具体的には、相手がどこにいるのかを確認し、会社までの道順のなかで目印になる建物を伝え、左右の方向や数字を入れながら説明すると伝わりやすいといいます。
電話応対では、企業が提供しているサービスや商品に対するクレームを受けることもあります。クレームが入ったときには、いったん相手の話を最後まで聞くことが大切です。前述の大部氏の書籍には、人は自分の思いを聞いてもらえると相手の話を聞こうとするメカニズムがあると指摘しています。人は途中で話を遮られると、自分の話を聞いてもらえていないとクレームが増長してしまう恐れがあります。クレームの内容を認識したうえで相手の話を真摯に受け止め、ひと言お詫びを入れます。自分で対応できない場合には「社内での確認をしますのでお待ちください」とし、上長に指示を仰ぎましょう。
企業にもセールスの電話が入ることがあります。セールスや勧誘の電話に対して断るように指示を受けていた場合は、はっきりと断る旨を伝え、今後電話がかかってこないようにします。「必要であればこちらから連絡いたしますので今後ご連絡は不要です」と強く意思を伝えます。
書籍『ゼロから教えて電話応対』によると、セールス電話は名乗らず用件も言わないケースが多いので、「必要になりましたらこちらからご連絡しますので、ご連絡先を教えていただけますか」と相手先の情報を確認していくのも有効だとしています。判断がつかない場合には、上長に確認をとって対応します。
間違い電話を受けることもあります。間違い電話だと分かった場合は、こちらの会社名を伝えて、かけた先の電話番号を尋ねます。こちらの番号を伝えてどこが違っていたのかを教えてあげると相手は自分の間違いに納得します。
書籍『ゼロから教えて電話応対』には、けっして間違えてきた相手を責めるような態度をとらないこと、最後まで丁寧に応対することが大切だと言及されています。
電話応対は、声と言葉のみでコミュニケーションをとります。表情や身振りが見えないことを鑑みて、どのようなことに気をつければよいのでしょうか。ここでは電話応対の基本・マナーを4つ解説します。
ビジネスにおいて、3コール以内に電話を受けることが基本です。これは4回コールまで鳴ると、用事があって電話をかけてきた人が待たされていると感じてしまうからです。クレームがあって電話をしてきた人にとっては、電話まで待たされたと気分を害してしまい、クレームが拡大してしまうことにもなりかねません。電話が鳴ったら手を止めて電話対応を優先するようにしましょう。
4回以上コールが鳴った場合には「お待たせしました、〇〇です」と初めに受電が遅れたことをお詫びします。
電話を通じた会話は、通常の会話よりも声がこもって聞き取りにくい場合があります。声が低い人は、不機嫌そうに捉えられてしまうことがありますので、ワントーン高く発声するようにしましょう。
また、相手が聞き取りやすいようにゆっくりと話すこと、活舌よく話すこと、声の小さい人は大きく、声の大きい人はボリュームを抑えて話すことを心がけましょう。
書籍『ゼロから教えて電話応対』には、聞き取りにくい言葉として同音異義語(私立と市立、保険と保健など)や聞き間違えやすい言葉があると指摘しています。1月と7月は電話を通すと聞き取り間違いを起こしやすいので7月を「なながつ」などと言い換えると良いでしょう。
同音異義語 |
|
化学 |
科学 |
市立 |
私立 |
要領 |
容量 |
間違いやすい言葉 |
|
1(イチ) |
7(シチ) |
10人(じゅうにん) |
12人(じゅうににん) |
病院 |
美容院 |
アルファベット |
|
A |
J |
B |
V |
M |
N |
■参考:書籍『ゼロから教えて電話応対』
ビジネスの場では、言葉遣い、敬語を正しく使う必要があります。敬語には相手に敬意を表すことと、相手と自分の位置関係を明確にするという役割があります。尊敬語、謙譲語、丁寧語を正しく使い分けて話しましょう。
大部氏の書籍によると、尊敬語は相手を立てるものでそれに対して自分をへりくだる表現が謙譲語です。丁寧語は立場に関係なく丁寧な話し方をすることで相手への敬意を示すものとされています。
尊敬語と謙譲語の誤用例として、取引先からの電話で上司の不在を「まだ戻られていません」などと尊敬語を使ってしまうことがあります。
電話応対について書かれた日本アイラック株式会社著の『これだけは知っておきたい「電話応対マナー」の基本と常識』によると、このような間違いについては「 社員は身内。外部の人はお客様」と考えておくと防ぐことができるといいます。自社の人間は家族同様に捉えることが基本です。
また、書籍「ゼロから教えて電話応対」には会話に挟むあいづちにもポイントがあるとして、例えば2つ言葉を重ねるのは電話対応としては不適切だと書かれています。相手の話を聞いている場合のあいづちに「はいはい」と答えると気安い印象を受けますので注意が必要です。
丁寧すぎる言葉遣いにならないように気をつけましょう。「させていただく」など過剰な丁寧語も、かえって心象が悪くなります。「確認させていただきます」の場合、「確認する」ことに相手の許可が必要ないため、「確認いたします」となります。「うけたまわらせていただく」も二重敬語で、正しくは「うけたまわります」です。
単語 |
尊敬語 |
謙譲語 |
言う |
おっしゃる、言われる |
申す、申し上げる |
聞く |
お聞きになる |
拝聴する、伺う、承る |
する |
なさる |
致す |
いる |
いらっしゃる |
おる |
見る |
ご覧になる |
拝見する |
見せる |
お見せになる、見せられる |
お目にかける、ご覧に入れる |
行く |
いらっしゃる、おいでになる |
参る、伺う |
来る |
お見えになる、お越しになる |
参る |
会う |
お会いになる、会われる |
お目にかかる、お会いする |
食べる |
召し上がる、お食べになる |
いただく |
尋ねる |
お尋ねになる |
伺う、お尋ねする、お聞きする |
知っている |
ご存知である |
存じ上げている |
与える |
くださる |
差し上げる |
もらう |
お受け取りになる |
いただく、頂戴する |
■参考:書籍『ゼロから教えて電話応対』
相手からかかってきた電話は、相手の用件が済んで電話が完了します。電話を切るのは用事があってかけたほうが先、がマナーです。
ただし取引先や目上の人との電話については自分からかけた場合でも5秒ほど待ってみましょう。相手が先に切ったのを確認してから、こちらも受話器を置きます。相手が電話を切らないようであれば「失礼します」と声をかけて静かに切ります。
新人や電話対応初心者は経験による慣れがないため電話応対に苦手意識を持つ人が多いようです。電話が苦手という人の特徴について解説します。
若い世代では、個人の携帯電話を持っており、名前表示によりだれが電話をかけてきたのか分かった状態で受電しますが、これに慣れていると会社にかかってくる電話は相手が分からないため恐怖に感じるといいます。
株式会社manebiによるZ世代(21歳以上25歳以下)へのビジネスマナーに対する意識調査によると、苦手なビジネスマナーの第一位に「電話応対」が上がっており、4割以上のZ世代が電話が苦手と回答していました。
同調査において、失敗してしまったこととして「電話応対がうまく出来なかった」「言葉遣いが難しい」が挙げられる一方で、ビジネスマナーとして必要なものは「挨拶・返事」と「敬語・言葉遣い」が上位に並んでおり、言葉で対応する電話に対してビジネスマナーの重要性と難しさを感じていることが分かります。
引用:Z世代(21歳以上25歳以下)へのビジネスマナーに対する意識調査
z世代には完璧主義者が多く、ミスを指摘されるのが苦手な世代と言われます。
マーケティングアナリストの原田 曜平氏のレポート『次の社会の主役となる「Z世代」の若者たちに特徴的なSNSの接し方、活用法とは?』によると、Z世代はSNSを通して自己発信をし、「いいね」の評価を受けることが当たり前の状況で過ごしていることで、自己承認欲求が高いという特徴があるといいます。このため仕事においては自己評価を気にしすぎる傾向があり、周囲の目が気になって電話対応に苦手意識を持つ、うまく電話応対が出来なかった場合に指摘されると落ち込みやすいという特徴がみられます。
周囲の目を気にしてしまう人は電話応対を苦手と感じる傾向があるといえます。
もともと人との会話が苦手という人は、電話応対を苦手に感じてしまいます。人見知りである、自分に自信がない、内向的である人は知らない人との会話に緊張し、疲れを感じます。
会社での受電も架電も、初対面の人との会話がほとんどですので、電話応対に苦手意識を持ってしまいます。
「対面ではしっかり話せるのに電話には抵抗がある」という場合は、電話での対応、あるいは電話機の操作に不安があるという特徴があります。外線を受けて内線で取り次ぐ方法など、間違った操作をしたらどうしようという心配があると、電話が苦手という意識が強くなります。
ビジネスの場で使われる言い回しに慣れていない人は、電話応対に苦手意識を持ってしまいます。きちんとした言葉遣いができないのではないかと心配になり電話を取れないというケースもあります。ビジネスマナーとしてプライベートとはまったく異なる言い回しやルール、言葉を知らないことを、周りに聞かれたり指摘されるのが恥ずかしいと感じる人は、プライドが高いという特徴があります。
ベテランのオペレーターはもちろんですが、電話応対が上手な従業員もいます。
ここでは電話応対が優れた人の特徴を取り上げます。自信をもって電話応対できるようになるにはどのような点を真似れば良いか参考にしてください。
電話応対に限りませんが、ビジネスシーンでの会話にはコミュニケーションを円滑にするためのコツがあります。ビジネスマナー講師の尾形圭子氏の著書『電話応対&敬語・ビジネスマナー
』によると、相手の話をしっかりと聞くことがビジネス会話の基本だと言及しています。そしてあいづちなどのアクションを取ることで、話を聞いているという合図を送り、相手が話しやすくなるように反応することが大切だとしています。電話応対の上手な人は聞き上手で、相手に共感する態度を示すことができているという特徴があります。
言葉が詰まらずになめらかに出てくる人は電話応対が上手いという印象を持たれます。
「はい」を「さようでございます」「おっしゃる通りです」と違う表現を織り交ぜながら話せると、電話での会話が単調で機械的にならず生きた会話が生まれます。
また、会話の途中にあいづちやクッション言葉を適切に入れることで、会話をテンポよくスムーズに進める効果があります。
同じ内容を伝えるにも、言い方によって印象がポジティブにもネガティブにも変わります。受けた注文の出荷が明日になることを伝える場面で、「発送は明日になってしまいます」と伝えるのではなく「すぐに出荷準備を整えますので、明日の発送に間に合います」とすると、受け手はできる限り早く発送の手配をしてもらっている、という気持ちになります。
電話応対が上手な人は、ボキャブラリーが多く、場面に応じて言い換えるバリエーションが豊富だという特徴があるといえます。
いくら相手の話をしっかりと聞き取っても、それだけではビジネスシーンで望まれる電話応対としては不十分です。その話からどの結論へ導いていくのか、状況に応じて出口を探して話を組み立てられる人は電話応対が上手だといえます。
電話応対以外の場面でも、人に説明する時には、話すべき内容、流れを全体から細部へと順序だてて話すことで相手に伝わりやすくなります。尾形圭子氏の著書によると、結論を先に提示してから、理由、詳細を説明するのがビジネスの基本だと言及しています。
電話応対が丁寧でスムーズな人は、順序立てて説明できているという特徴があります。
フローチャートとは、図や箱で示した手順と手順の間を矢印でつないだもので、業務全体の流れを分かりやすく表したものです。ここでは電話応対をフローチャートでマニュアル化するメリットを3つ取り上げます。
マニュアルを作成する一番の目的は、対応する社員のスキルによることなく均一な応対を提供し、顧客満足につなげることにあります。
商品やサービスに関する情報やよくある対応事例をフローチャートでマニュアル化しておくことで、誰が対応しても一定の対応レベルが保てます。
電話応対の手順はフローチャートで作成すると、見やすく分かりやすいマニュアルになります。このためフローチャートでマニュアルを作ることで対応品質を均一化できるのです。
フローチャートでマニュアルを作成する際に、電話応対業務について全体を見直すことになります。1件の電話に対する対応が終了するまでのステップを書き出して明確にし、フローチャートにまとめておくと、誰が受電対応しても最初から終了するまでの担当を完結することができます。
電話対応に長けたベテランの言い回しやコツを取り込むことで精度の高いものにできますし、誰が電話を受けても一定レベルの対応ができるようになります。
さらにフローチャートでマニュアルを作成することで、電話応対での抜け漏れを未然に防ぐことができ、上長によるチェックや対応のフォローなど手間を減らすことができます。
クレームのようなイレギュラーな内容の電話に対しても対応方法をフローチャートでマニュアル化されていれば、スムーズな対応ができ、リスクマネジメントにもつながります。
過去に起きたイレギュラーな案件やクレームなどを例にとって、解決方法をフローチャートにしておくと、いざというときにはマニュアルを見ながら対応できます。対応に手間取ることで、クレーム自体が大きくなることがあります。
起こり得る事案に対応してフローチャートでマニュアルを作り、事前に対策を考えておくことがリスクマネジメント上、重要になります。
■参考記事はこちら
【2022年7月更新】フローチャートとは?書き方のポイント5つや作成手順などについて、わかりやすく解説!(無料テンプレート付き)
電話応対のマニュアルにはフローチャートが有効です。ここでは4つの場面のフローチャートを紹介します。見やすいフローチャートを作るには、時系列順に並べることや、文章を最小限にすることなどがポイントです。
自分宛の電話を受けたときの対応手順は以下のとおりです。
上記をフローに落とし込むと以下のようになります。
引用:書籍『ゼロから教えて電話応対』
社内に在席している人宛の電話を受けたときの対応手順は以下のとおりです。
上記をフローに落とし込むと以下のようになります。
引用:書籍『ゼロから教えて電話応対』
不在の人宛の電話を受けたときの対応手順は以下のとおりです。
上記をフローに落とし込むと以下のようになります。
引用:書籍『ゼロから教えて電話応対』
自分から電話をかけるときの対応手順は以下のとおりです。
上記をフローに落とし込むと以下のようになります。
引用:書籍『電話応対&敬語・話し方のビジネスマナー』
電話応対のマニュアルはひと目で手順が読み取れるフローチャートにすると、電話対応が苦手な人でも次のアクションがとりやすくなり、誰でも企業の代表として求められるレベルで対応できるようになります。
自分以外の人に宛てた電話の受け答えの経験が乏しく、苦手と感じる世代の新入社員がスムーズに電話応対できるように人材教育においても最適なマニュアルを準備しましょう。