人間は、ロボットのように常に同じパフォーマンスと精度を発揮することはできません。そのため、業務の中でミスや事故を起こしてしまう場合もあります。多くの従業員をかかえる企業にとって、そのようなミスが発生しやすい環境を放置しておくことはリスクとなります。
しかし、ヒューマンエラーに関する研修を行い対策をすることで、事故の予防と発生に備えることは可能です。
今回は、ヒューマンエラー研修の内容や実施方法、および研修を成功させるためのポイントについてご紹介します。研修の効果的な実施方法についても触れているので、ぜひ最後までご一読ください。
なお弊社の「ヒューマンエラー防止対策ブック」は、ミス対策だけでなく業務改善にも活用できる内容が満載です。以下より無料でダウンロードいただけますので、ぜひご活用ください。
ヒューマンエラー研修は、人的ミスの予防と発生時の対応などを周知する教育です。研修を実施することでミスを犯す要因を知り、繰り返さないように対策するだけでなく、万が一事故が起きても被害を最小限にとどめることができるでしょう。
とくに小売り店や飲食店におけるヒューマンエラーは接客が業務の一部となることから、ミスを犯すと顧客に向けた「不適切な対応」になりがちです。クレームや顧客満足度の低下にもつながりかねません。
そのため、研修によってヒューマンエラー対策を社内に浸透させ、業務の質を向上させることがとても重要なのです。
ヒューマンエラーとは、簡単に言うと「人的ミス」のことです。勘違いや確認不足によって起きる小さなミスもあれば、企業として信用を問われる大きな事故まで大小さまざまなケースがあります。
たとえば会社の電話窓口で、電話相手の名前を聞き間違えて担当者に取り次ぐことは些細なミスと言えるでしょう。一方で人命に関わる重大なヒューマンエラーもあります。たとえば航空業界では、機体の整備工程で些細な見落としがあっただけでも、重大事故につながりかねません。
そして、ヒューマンエラーには前提があります。それは、「エラーの発生を100%防ぐことは難しい」ということです。人間は思い込みや見間違いをしやすいため、エラーを完全に無くすことはできないのです。
そのため、ヒューマンエラー防止対策をおおむね実施した後は、「エラーが起こってしまった時、被害を最小限に抑えるために何ができるのか」といった方向性にシフトしていくとよいでしょう。
ヒューマンエラーの定義については、以下の記事でくわしく解説しています。理解を深めたい方はあわせてご一読ください。
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ヒューマンエラー研修の目的は人的ミスの発生を予防することはもちろんですが、加えて、エラーが起きた際に重大なトラブルを回避する目的もあります。
自社が顧客から信用を失わないために、過去にあったヒューマンエラーを分析し、再発防止に努めましょう。
ヒューマンエラーは100%の予防が難しいからこそ、業務工程のシステム化や規則・マニュアルを強化するなどの施策を実施し、従業員ができるだけ間違わない仕組みを構築することが大切です。多くの研修では、そのヒントとなる考え方や具体的な施策について取り上げています。
上記では研修の目的について触れてきましたが、さらに理解を深めるためにヒューマンエラーの分類について補足します。
既述の通り、ヒューマンエラーには大小さまざまなケースがありますが、それらは大きく「ついつい・うっかり型のエラー」と「あえて型のエラー」の2つに分類できます。くわしく見ていきましょう。
まず、ついつい・うっかり型のエラーは「ついつい・うっかり」したことで起きるタイプの人的ミスです。上記のとおり4つの種類があります。
なかでも「記憶エラー」「行動エラー」は、何らかの理由で規則どおりの行動ができない場合を指しています。業務を覚えておらず不慣れな場合や、慣れていても心に余裕がない状況で起きやすいエラーです。
また「認知エラー」「判断エラー」は、とっさの思い込みや判断間違いによって発生します。勘違いや判断の誤りが原因のため、そのまま業務を進めることで事故に発展してしまいます。
あえて型のエラーは、規則を守らなかったり手抜きをしたりして「あえて」起きたタイプの人的ミスです。職場の従業員が自己判断で手順を変えたり、慢心して通常の方法を無視したりすることで起きやすくなります。
なお、ヒューマンエラーの分類や具体例については以下の記事でよりくわしく解説していますので、ぜひ参考にご覧ください。
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ヒューマンエラーの分類と分類別の防止対策の方法をわかりやすくご紹介!
前章ではヒューマンエラーの分類について触れてきましたが、研修ではどのように取り入れればよいのでしょうか。ここでは、ヒューマンエラー研修で扱われる3つの内容についてご紹介します。
研修では、ヒューマンエラーがなぜ発生するのか原因を押さえてその防止策を知り、参加者が演習で実際に事例について考えてみるという展開が一般的です。それではくわしく見てみましょう。
研修ではまず、参加者にヒューマンエラーの概念や発生原因を理解してもらいます。不注意や知識・経験不足、また手抜きなどが原因と思われるヒューマンエラーでも、今後に活かすにはその過程を論理的に理解する視点が必要だからです。
間違いを犯す人間の情報処理過程には、3つの段階があります。
たとえば、ニュースで天気予報を見るとします。
天気図を数秒見て「降水確率が10%なので、今日は雨が降らない」と思い込み(入力過程:入力エラー)、今日は傘はいらないと判断しました(媒介過程:媒介エラー)。
ところが実際の降水確率は90%だったため、完全な見間違いです。そのまま傘を携帯せずに外出し(出力過程:出力エラー)、夕方になって雨が降ってしまいました。これは「降水確率を見間違う」という認知エラーからくる失敗と言えます。
参考:ヒューマンエラーは何故起こる?人間の情報処理システムとの関係性から解き明かす | コンサルタントコラム | 株式会社テクノ経営総合研究所)
またヒューマンエラーは、認知心理学でも以下の3つから分析が可能です。
このような視点は、ヒューマンエラーが起きる原因を分析するうえで大切なポイントとなります。
ヒューマンエラーの原因を理解したら、あわせて再発防止策についても学んでいきます。ここでは、厚生労働省が発表している「職場のあんぜんサイト」をもとに、ヒューマンエラーを防止する4つの方法について見ていきましょう。
各々の防止策の具体例
01.人が間違えないように訓練する。
規則やマニュアルを完備して従業員教育を実施する
02.人が間違いにくい仕組み・やりかたにする。
複雑な業務を細分化してひとりにかかる負担を減らしたり、定型業務をツールで自動化したりして間違えにくい環境を作る。たとえば小売店の場合、レジにて計算ミスをなくすために機械を導入する方法がある。
03.人が間違えてもすぐ発見できるようにする。
チェック工程を二重三重にし、確認体制を強化する。その結果ひとりが間違えても他の人がミスを発見して修正することが可能になる。
04.人が間違えてもその影響を少なくなるようにする。
人的ミスの発生を前提として、リカバリー体制を構築する。
これらの方法について、研修では業務内容にそって具体的な施策を学ぶことが可能です。自社の業務にあわせてカスタマイズするとよいでしょう。
なお、具体的な施策については以下の記事でくわしくご紹介しておりますので、ぜひ参考にご覧ください。
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ヒューマンエラーを防止する対策方法とは?分類別のエラー例や具体的な対策方法をわかりやすく解説!
ヒューマンエラーの原因や防止策について押さえたら、対策演習を行ってさらに理解を深めましょう。一方向のコミュニケーションからなる講義ではなく、参加型の研修が効果的です。
具体的には、以下の4つの方法で行うことが一般的です。
対策演習は、ヒューマンエラーの事例や現場の課題からテーマを取り上げて実施します。参加者や講師とコミュニケーションをとりながら進めるため印象に残り、覚えやすいことがメリットです。また参加者間でアイデアを交換することで、実践的な施策を生み出すことも期待できます。
なお、ヒューマンエラーの事例については以下の記事でご紹介しています。研修の参考にしたい方はぜひご覧ください。
■参考記事はこちら
ヒューマンエラーの事例とは?具体的な流通小売業での事例とその対策方法をわかりやすく解説!
上記ではヒューマンエラー研修の内容についてみてきました。一方で「業種によってさまざまなミスがあるけど、研修を効果的に実施するにはどうすれば?」と思った方もいるのではないでしょうか。ここでは、研修を成功させるためのポイントについて事例も交えてご紹介していきたいと思います。
研修を実施するには、円滑に進めるためのマニュアルが必要です。そこでまずは、ヒューマンエラーの防止に向けた対策を整理することから始めましょう。
ヒューマンエラーの防止策は以下の手順で整理し、マニュアル化するとスムーズです。
ここでフィットネス&スパ ココカラを運営中の人の森株式会社の事例をご紹介します。同社では、ジムトレーナーの育成にかかる教育担当者の負担が課題でした。
スポーツクラブのスタッフは、運動器具を安全に扱うと共に会員に対しても正しい使用方法を指導しなければなりません。しかし施設にはさまざまな器具があり、スタッフに正しい使用方法を一つずつ教えるには時間と労力を要します。また、毎年人が入れ替わる時期には新人トレーナーにそれぞれ大量の説明をしなければならず、同じことを何度も繰り返す手間が発生していました。
そのため、教育担当者の負担を増やさずにヒューマンエラー研修を行うためにも、理解しやすいマニュアルが必要でした。
そこで、同社ではクラウド型eラーニングサービス「shouin+」を利用して研修マニュアルを整備し、研修用コンテンツを繰り返し視聴してもらうようにしました。とくに、動画による研修マニュアルは視覚的なアプローチに長けており、知識の早期定着にも貢献しました。その結果、教育担当者の残業時間が月55時間も削減できたそうです。
ヒューマンエラー研修を実施するうえでは、従業員が集中して受けられる研修環境を整えることも大切です。研修を実施しても従業員が忙しく途中で席を外していては、せっかくの学びの機会が台無しになってしまうからです。
そこで意識して研修環境を整える必要があります。社内で研修を行う場合は会議室やセミナー室などを確保しましょう。携帯電話の電源をオフにするなどのルールを遵守するようにしてください。
しかし、それでも「なかなか研修を実施する時間も場所も確保できない」という場合もあるでしょう。そのような場合は、eラーニングや動画マニュアルを用いて時間と場所にとらわれない研修を実施するのも良策です。
また、研修そのものを支店共通の内容で実施すれば、ヒューマンエラーのみならずスキルの平準化にもつながります。
美容脱毛・エステサロンを約50店舗展開しているセピアプロミクスでは「shouin+」を導入し、作成したマニュアルをクラウド上で保管しました。
スタッフのスキルアップ教育に課題があった同社は、各店からの確認や問い合わせ連絡が後を絶たない状態でした。しかしツールで全店に向けた連絡や動画マニュアルの共有が簡単になったことで問い合わせが減り、スタッフのスキルの偏りも軽減できています。
同じ動画マニュアルを全店に共有して研修を行うことで、店舗で教える内容に差がなくなり、スタッフ全体のスキルアップと同時にサービスの質を保てるようになりました。
研修は一度実施すれば終わりではありません。実施したらそのままにせず、管理者が従業員の様子をフォローアップしていくことも大切です。日報などを通してスタッフの状態を把握し、フォローアップをしていくとよいでしょう。
忙しくて新人スタッフとのコミュニケーションが取れていないという場合は、オンラインを活用した日報もおすすめです。
たとえばクラウド型人材育成サービスの「shouin+」では、オンラインでやり取りができる日報機能もあるため、時間や場所に縛られずに新人スタッフのフォローができます。
事例として美容脱毛事業を展開するミュゼプラチナムをご紹介しましょう。ミュゼプラチナムでは、研修期間中のスタッフに日々の振り返りを日報として書いてもらい、コメントでアドバイスを記入しフォローしています。
しかし、紙の日報では本社と支店などの担当者間で確認する際、物理的に日報を移動させなければならないことが課題でした。
そこで「shouin+」を導入したところ、日報の共有がしやすくなり、スタッフの状態を把握しやすくなりました。もちろんスタッフは研修で習った内容の復習も行えるため、スキルの定着に役立っています。
前章ではヒューマンエラー研修を成功させるポイントをご紹介しましたが、実際に研修を行う際にどのような手段があるのか気になる方もいるのではないでしょうか。そこで最後に、ヒューマンエラー研修の実施方法についてご紹介します。
それぞれの特徴を解説していきますので、ぜひ貴社に合う方法で実践してみてください
研修を店舗や社内などで作成し実施する方法があります。具体的には研修マニュアルやプログラムを社内の教育担当者が作成し、実施までを行います。社内で研修を実施する方法としては以下を参考にしてください。
新人スタッフを集めて対面・非対面(オンライン)で研修を実施する方法のほか、自社の研修用動画を視聴してもらう方法があります。社内で研修を内製化し実施する場合のメリットは、業務に精通した社員によって、実務に即したヒューマンエラー研修を実施できることです。
実際にあったヒヤリハットや過去事例を取り上げて、ディスカッションやケーススタディを行いやすいでしょう。
一方、社内で研修を実施するには、教育部門に負担がかかることも事実です。そこで「研修の制作に時間をかけていられない…」という方は、クラウド型のeラーニングサービスなどを活用するとよいでしょう。
研修資料を内製化する手間が省けるうえ、従業員のスキル情報や研修履歴をクラウドで管理しやすくなり、教育部門の負担も最小限に抑えることができますよ。
外部研修を活用する方法もあります。専門の研修会社では専門家によるヒューマンエラー対策に特化した教育を提供しているため、ヒューマンエラーが起きる要因や防止法、再発を防ぐ方法など全般を学ぶことができます。
また、研修会社によっては自社業務にあわせて研修内容をリクエストし、オーダーメイド式の研修を実施することも可能です。
外部研修を活用する場合、研修形式としては次のようなパターンがあります
なお、外部研修の費用は参加人数や講座内容によって変わるものの、全般的な費用の目安としては下記の通り高額になりがちです。
参考までに、オンライン型の「ヒューマンエラーの基礎研修」の費用を比較してみました。
公開講座型や講師派遣型、オーダーメイド型の講座の場合、さらに費用は上がります。また上記費用は1名あたりの価格です。実際は受講者数によって数十万円単位の費用がかかることも念頭に置いておきましょう。
これらのことから、外部研修を利用してヒューマンエラーについて教育するには、1人あたり最低1万円以上の予算が必要になることがわかります。
数人向けの研修を1回合計3~4万円で検討しているなど予算に制限がある場合は、研修そのものを自社で内製化したほうがコスパがよいと言えるでしょう。
今回は、ヒューマンエラー研修についてその目的や効果をはじめ、研修を成功させるポイントや実施方法までくわしくご紹介いたしました。
研修を成功させるには、ただ研修マニュアルを整備するだけでなく、学習環境そのものを整えることが大切です。そして研修は一度実施すれば終わりではなく、スタッフのモチベーションやスキルアップを目指して、継続的なフォローアップを行うとよいでしょう。
また、予防だけでなく事故発生時の対処法を習得することも大切です。今回ご紹介した内容を活かして、ぜひ貴社のヒューマンエラー対策にお役立てください。
なお「ヒューマンエラーの防止に向けた取り組み手順」をくわしく押さえたいという方には、以下の資料もあわせてご参考ください。