2021年3月3日(水)に株式会社ユナイテッドアローズで販売員育成に携わる小林貞裕様をお迎えし、webセミナー「小売業の人材育成DX~ユナイテッドアローズ流育成術~」を開催しました。
コロナ禍により社会情勢が大きく変化し、多くの小売業が今までとは違う時代に沿った育成の在り方について、見直しを測り始めているのではないでしょうか。
全国250店舗とオンラインストアを展開するセレクトショップの最大手ユナイテッドアローズは「店舗での顧客体験」を重視し、まさにコロナ流行前からオンライン研修を取り入れ、これまで手厚い教育をおこなってきました。
今回、「どうして人材育成DXに舵を切ったのか」、「どのようにして従来の集合研修+紙マニュアルからフルリモートでの研修に切り替えたのか」など、小林様に語っていただきました!
実店舗において8年ほど勤務経験がある筆者の視点から見ても、本セミナーは大変貴重な情報も多い、興味深い内容となっています。
ぜひ最後までお読みくださいませ。
目次
- ユナイテッドアローズ流人材育成とは
- 時代に対応したテクノロジーシステムの検討
- 新しいオンラインによる研修ステップの完成
- 2020年3月世界を激震させたコロナウイルスより育成方法の改善
- 研修フルリモート化の効果とは
- 今後の時代にあった育成について、小林様よりみなさんへメッセージ
- 終わりに
1.ユナイテッドアローズ流人材育成とは
ユナイテッドアローズは、「店舗のお客様の期待に応え、満足を叶えるのは店頭スタッフであり、店頭スタッフの接客力に力を入れることがお客様の体験価値を高めるものになる」という考え方があります。
その考えのもと、約10年前より行っていたのが集合研修「束矢大学」。
OJTを店舗だけに任せるのではなく、本社でロールモデルを確立し、クオリティを一律化するために教育制度の評価基準の基盤を作っていました。
小林様は当時をこう語ります。
「当時は従業員教育を紙のマニュアルで行っていましたが、勤勉なスタッフはボロボロになるまで使用していましたが、見ない人は見ない。従業員みんなに活用してもらうことができていませんでした。内定者に対しても、集合研修を実施していたものの、半年に1回の集合研修では、店舗に配属される頃には教わったことを忘れてしまっているスタッフも少なくありませんでした。そのため店舗で先輩についてもらってロールプレイングをする等、接客において活字のマニュアルでは伝えられない「感覚的」な基本を、店舗でのOJTで伝えるようにしていました。しかし営業中ではなく閉店後に行うため、膨大な残業が発生し、生産性の低下を感じていました。」
筆者自身も7年前まで店舗で教育担当を任されていたため、この現場の苦労は痛いほどわかります。人を育てることよりも、日々疲労との闘いであった事が思い出されます。
その後4年ほど前からは、スキマ時間に確認ができるという利便性や印刷コストの削減を加味したうえで、マニュアルを紙での配布からオンラインでの配布に変更しました。
しかし活字では伝わらない「感覚的」な内容をどう伝えるのかについては、解決できていませんでした。
そこで小林様が目をつけたのが「動画」でした。
SNSやYouTubeといったデジタルが全盛の現在において、活字を読んで行動を理解することが難しくなってきているとされる中、動画から情報を得たり学習したりする人が増えてきました。特に映画を見た際に、「一度見れば忘れない。役柄になりきれる。」と感じたことが、研修手法改善のヒントになったと小林様は語りました。
動画は実際の動きが活字ではなく、見てすぐわかるため、より「感覚的」な内容を理解しやすく、動画で用意したマニュアルをいつでも手軽に見ることが出来る環境を整えることが研修の生産性向上につながる、そう考えたことから、ユナイテッドアローズのオンラインによる研修の検討が始まりました。
2.時代に対応したテクノロジーシステムの検討
オンラインでの研修を検討していく上で、動画をアップしたり、作った動画を従業員に体系立てて展開したり出来る、オンライン研修サービスが必要になり、比較検討をはじめました。その中で絶対に譲れない選定条件が6つありました。
- スマホで対応できる
- テスト環境がある
- 動画で返信ができる
- 製作が簡単
- 運用面のチェックができる
- 報告ができる
「いろいろなサービスのご提案を受ける中で、すべてが叶っていたのがオンライン研修サービスshouinでした。」と小林様。
対象者が明確、一斉に始められるため進捗管理がしやすい、研修効果が見えやすいといった理由により、まずはトライアルとして「新卒内定者研修」からスタートしました。
内定期間中に、入社後に販売員として営業時間中に教えにくい「接客の基盤」が身につくことは、内定者にとっても既存の従業員にとっても大きなメリットと言えます。
トライアルでは「shouin」での動画マニュアル視聴率と課題提出率の目標を75%と置いていましたが、結果は95%と大きく上回りました。デジタルネイティブ世代である内定者が、慣れ親しんだスマートフォンで研修を行うことで、前のめりに取り組めるようになったことがこのような結果を生みました。
活用されることで従来の研修ではできなかった内定期間中の基礎レベル習得を実現することができました。
「shouin」の機能の中でも、対面しなくても動画のやりとりでロールプレイができる「動画レビュー機能」は内定者からの反響がとにかく大きかったと小林様。
たとえば動画マニュアルで「笑顔の作り方」についてお客様視点で学び、その後自身の笑顔をスマホで撮影して本部に送付します。教育担当者はその動画を見てフィードバックをするといった、インプットとアウトプットを一連の流れを「shouin」で行うことができました。
「お客様視点を養う上で、動画は時代対応し効果的となったと言えるでしょう。」と小林様。
3.新しいオンラインによる研修ステップの完成
以前まで、束矢大学で行っていた集合研修をオンライン化しTeamsを使用していた育成に加え、新しく弊社の人材育成サービス「shouin」を導入したことで、
- 束矢大学での集合研修
- 「shouin」を利用したオンラインマニュアルによる研修
- 店舗でのOJT
という研修の3ステップが完成しました。
これにより集合研修の際に発生していた移動や印刷コストを全面カットできました。また従業員は必要な資料はネットにアクセスするだけで簡単に閲覧できるようになったため、研修後の復習も容易になりました。
ここまでがコロナが世間を賑わせる以前の運用です。
4.2020年3月世界を激震させたコロナウイルスより育成方法の改善
世界を激震させたコロナウイルスの流行により、2020年4月から2ヶ月間、新卒は自宅待機しつつ引き続きshouinで研修を行うことができました。また、既存従業員の研修ステップを更に最適化するために以前と運用方法を変更しました。
shouinによるオンラインマニュアルより事前学習を行い、束矢大学でのTeamsを使用したオンライン研修後、店舗OJTを実施するフローが完成しました。
5.研修フルリモート化の効果とは
動画マニュアルや動画レビュー機能によって、感覚的なことが身に付きルーティン業務の理解が向上したほか、以前まで残業時間に行っていた接客ロールプレイングを無くすことができました。
研修をフルリモート化することの効果は、大きく3点挙げることができます。
- スキマ時間の有効活用
デジタル化したマニュアルは、スキマ時間や必要な時にスマホやタブレット、PCで確認ができるため、紙のマニュアルと比較してスキマ時間を効率化
- 研修にかかる時間の効率化
予習済みの状態で研修を行うため、これまで1日8時間行っていた研修を2〜4時間にまで削減
- 会場手配の手間、移動コストから解放
Teamsやshouinを用いて集合研修を置き換えたことで、大きな会場が必要なくなり、移動費や出張費といったコストを全面カット
以上が「生産性の向上」に繋がっています。
またDX化により経営理念の具現化についても触れています。
「ユナイテッドアローズでは「すべてはお客様のためにある」という社是があります。これはお客様のお役に立つ、喜んでいただくことが基本的な姿勢であることを表しています。これを文字で伝えるのはなかなか難しいです。時代対応で動画化することで若い世代にも脈々と伝えていくことができると感じています。最終的に顧客体験極大化、接客力向上につながっていくのではないかと思います。」と小林様は力強く語りました。
6.今後の時代にあった育成について、小林さまよりみなさんへメッセージ
「コロナ禍より、今後お客様が戻って来て頂いた時により満足して頂くため印象面などのクオリティを上げていくことが、小売業には大切ではないかと考えています。そのためには真似して学ぶ=真似ぶことが重要かと思っています。動画は時代対応した良い方法です。お客様のことを想って動画を作っていますので、皆さんも時代に対応した育成をしていくという意味で、ぜひ動画を使って「真似ぶ動画コンテンツ作り」から始めてはいかがでしょうか?」
7.終わりに
今回のセミナーで、筆者自身もアパレル企業での勤務経験が長かったため、当時販売スタッフの育成に関して多くの課題をもっていたことを思い出しました。
「時代に対応した従業員の育成が、お客様に感動を伝えることに繋がる」とおっしゃる小林様。顧客体験を大切にするユナイテッドアローズの考え方は、小林様のやわらかい物腰、お話いただいた内容、研修に取り組む熱意から、深く感じることができました。
ぜひ、今後の人材育成のヒントとしてお役立て頂ければと思います。