流通小売業における効果的なDX施策とは?今すぐ取り組むべき理由や企業事例をわかりやすく解説!
コロナ禍で生活様式が変わり、大きな影響を受けている流通小売業。この状況からDXが加速した企業もあれば、足踏み状態の企業もあり二極化が進んでいます。DXの推進は待ったなし。流通小売業が今取り組むべきDXについて解説します。
そもそもDXとは
DXとは、ITやデジタルを活用することで「業務そのものやビジネスモデルを変革すること」「消費者や顧客の生活をより良くし、企業の生産性を上げる仕組みを作ること」です。正式には、「デジタルトランスフォーメーション(Digital Transformation)」と呼び、Digitalの「D」と、Transの略「X」の頭文字をとり、DXという表記が使われています。
日本では2018年に経済産業省が「デジタルトランスフォーメーションを推進するためのガイドライン(DX推進ガイドライン)」を策定し、国を挙げてDXを推進しています。DXの背景や進め方など、より詳細に知りたい方は、以下の記事もあわせてお読みください。
■参考記事
デジタルトランスフォーメーション(DX)とは?どこよりも詳しく&わかりやすく解説!
DX推進の波は、実店舗を構える小売業にも押し寄せ、店舗型ビジネスにおけるDXは特に「店舗DX」と呼ばれます。
店舗DXが注目されるようになった背景には、「デジタル技術の進歩」に加え、消費者の「モノに対する価値観の変化」があります。
以前はモノは所有するものでしたが、現在はサブスクリプションサービスなどが増え、モノを所有せずに利用する形も定着。以前よりもモノが売れない時代へと変わりました。また「モノ消費」だけでなく、商品やサービスを使うことにより得られる体験や経験に価値を見出す「コト消費」の価値が高まっています。
このように消費者のニーズが変わったことから、流通小売業のビジネスモデルにも変革のときがきているというわけです。
流通小売業がDXを行うメリットとは?
新型コロナウイルス感染症の拡大により生活様式が変化する中、ネットスーパーやフードデリバリーなどの宅配事業が成長。キャッシュレス化やセルフレジの導入など決済に関する部分でも変革が起きています。
それと同時に改めて注目が集まっているのが対面による販売価値。「よくお似合いですよ」といった顧客への「共感」やライブ感は店舗だからこその付加価値ですね。
ここではDXを推進中の方、これから取り組む方に向けて、流通小売業がDXを行うメリットを4つ、日経ムック「店舗DX 2022」「実践!店舗DX」も参考にご紹介します。
メリット1:顧客体験価値の向上
実店舗はもちろんのことECサイト市場も成熟化し、消費者のニーズが多様化しつつある現在。商品やサービスの質、価格だけでは他社との差別化が難しくなってきています。そこでポイントになってくるのが顧客体験価値の向上です。
つまり商品やサービスの検討段階から購入後までの一連の流れの中で、顧客に感動してもらい、喜んでもらい、楽しんでもらうための価値提供が大事であり、それを実現するために欠かせないのがDXです。顧客体験価値については以下の記事で詳しく解説しています。
■参考記事
顧客体験(CX)とは?分析手法や施策案、顧客満足との関係性を事例からわかりやすく解説!
コロナ禍で小売業の多くが模索しているのが、ネットとリアル店舗の融合です。単に通販事業を始めるのではなく、新たな購買体験を提供しようと、ビジネスモデルを変革するような動きが生まれています。他店とは違った店内体験を提供することで、予定になかった購買の喚起にもつながるでしょう。
例えば、そごう・西武が西武渋谷店にオープンさせたのが、ネット販売に特化したD2Cブランドの店舗やプロダクトが並ぶショッピングスペース「CHOOSEBASE SHIBUYA」です。半年ごとにテーマを設定し、商品ラインナップや内装を変更。商品には値札をつけず、利用者は商品のそばに表示されている二次元バーコードをスマートフォンで読み取り、商品の説明や値段を知る仕組みです。
商品を値段で判断されないようにする配慮や商品のストーリーを効果的に伝えられるように配慮されています。またスマホ上で買い物カゴに商品を登録し、レジでキャッシュレス決済を行い商品を受け取ったり、自宅に帰ってからオンラインで購入したりすることも可能です。
三越伊勢丹新宿店では、店頭で体型を3Dで計測する「マッチパレット」を導入し、データを基に、スタイリストがファッションの提案を行えるようにしました。ファッションの分野では、サイズ感や似合うかどうかなど、実際に手に取ってみないとわからず、オンラインストアでは購買の意思決定がしにくいという課題があります。
しかし、このマッチパレットを導入したことでオンラインでのショッピングを行いやすくなり、客単価は通常の40〜50%増、決定率も6割程度と好成績を収めているとか。マッチパレットではブランドを横断的に提案するため、知らなかったブランドとの出会いがありながら効率良く買い物ができる点も評価されているそうです。
メリット2:利便性価値の提供&顧客満足度の向上
コロナ禍でニーズが高まったのがネットスーパー事業。運営方法は、「実店舗で商品をピッキングする方法」と「物流センターから商品をピッキングする方法」の2種類があります。ここで課題になるのが在庫管理です。
現状では、店頭在庫が減少したらネットスーパーに掲載しないといった方策が取られている。このためネット上で確認できる商品アイテム数は店頭より少なくなる。結果、利便性が落ち、顧客の購買意欲に影響しかねない。(日経ムック「店舗DX 2022」より)
そこで注目されるのがDXによる在庫管理です。最近では店内を自動走行するロボットを導入し、AIを搭載したカメラで店頭在庫のチェックを行う小売もあります。
またネットスーパー専用のアプリを導入し、スムーズに買い物ができるユーザーインターフェースを強みにしているのがイトーヨ―カ堂です。よく購入する商品を注文しやすくしたり、献立の提案を行ったりして利便性を高めることで、従来と比べるとネットスーパーでの買い物時間が約半分に短縮できたと言います。これもDXにより利便性があがった事例です。
利便性が上がれば、当然、顧客満足度も向上しますね。
メリット3:作業の省力化や店舗の無人化
慢性的な人手不足に悩まされている流通小売業界。作業の省力化は喫緊の課題であり、その解決策のひとつになるのがDXの推進です。
カインズでは、アプリに普段行く店舗を登録しておくと、アプリ上で在庫確認ができるほか、お気に入りに登録した商品が店内のどの棚のどの位置にあるか把握できるのだと言います。これで顧客から商品の陳列場所を尋ねられる従業員が減り、業務負担の軽減につながっているのだそうです。
他にも三菱地所レジデンスでは、不動産販売にオンライン接客を導入。事前にオンライン接客をご利用いただくことで、お客様がご自身の希望に合う物件かどうかの精査ができるようになりました。そして購入意欲の高い顧客がモデルルームを訪問する流れができ、効率の良い営業が可能になったそうです。
そうすると従業員は、人にしかできないサービスに注力でき、顧客満足度にもつながりますね。
DXを行わないとどのようなデメリットがある?
多くの流通小売業がDXに取り組んでいる状況を考えると、DXを行わないのはリスクそのものです。DXを行わないのは、デメリットというよりもリスクに近くなってきています。
デメリット1:ビジネス機会の損失
以前であれば、店舗の立地の良さやブランド力だけで売上を確保できていました。広告も新聞やテレビが中心でしたね。でも今は、パソコンやスマートフォンが普及し、消費者のニーズも多様に。インターネットを活用したPRも盛んに行われるようになり、ITを活用できない店舗は、効果的なアプローチが難しくなっています。
コロナ禍で大手の店舗が廃業に追い込まれる事態を見ても、ネームバリュー、ブランド力だけでは勝負できなくなったのは明らかですね。
デメリット2:人手不足
日本は少子高齢化が進み、人手不足は深刻さを増しています。このため人員の採用活動には多くのコストがかかり、加えて育成コストもかかってきますね。他社が自動化を進めると、非効率なやり方を継続している企業は、働く側から敬遠される可能性もあります。
現在いる社員も、将来性がないと感じれば転職を考えるかもしれません。こうした人材確保の面からもDXの推進は必須と言えるでしょう。
デメリット3:変化を受け入れられない組織が作られてしまう
DXを行うということは、新しい技術を取り入れ、組織が変わることを意味します。つまりDXを行えないというのは、変化を受け入れられない組織であり、将来の見通しが立ちにくくなるデメリットがあるでしょう。
コロナ禍で多くの方が社会が変化していることを実感されていると思いますが、それに適応できないのはデメリットですね。
流通小売業の現状をデータで分析
2020年初頭から瞬く間に世界中にまん延した新型コロナウイルス感染症(COVID-19)。2020年4月には緊急事態宣言が出され、外出自粛やテレワークの普及が進み、自宅で過ごす時間が増えました。
こうした背景もあり、消費者のニーズが大きく変わり、流通小売業は変革の時期を迎えています。現状がどうなっているのかデータでみていきましょう。
現状1:コロナ禍で変化する消費者のニーズ
下記の図は新型コロナウイルス感染症が日本で拡大した2020年の商業販売額です(経済産業省 発表「2020年小売業販売を振り返る」より)。業種別に見ると「百貨店」「コンビニエンスストア」の販売額が減少したのに対して、「スーパー」「家電大型専門店」「ドラッグストア」「ホームセンター」の販売額は増加しているのが分かります。
(参照元:2020年小売業販売を振り返る)
下記のグラフから分かるように、スーパーは1店舗当たりの販売額の大幅な増加に加え、店舗数も拡大しています。また家電大型専門店、ドラッグストア、ホームセンターは、それぞれ以下の品目が増加しています。
- 家電大型専門店:情報家電等
- ドラッグストア:食品を筆頭にビューティケア以外の全ての品目
- ホームセンター:家庭用品・日用品
(参照元:2020年小売業販売を振り返る)
(参照元:2020年小売業販売を振り返る)
(参照元:2020年小売業販売を振り返る)
(参照元:2020年小売業販売を振り返る)
コロナ禍になり外出の機会が減ったことから、生活に欠かせない食品や生活雑貨を扱い、より安価に購入できる業種が伸びているのでしょう。また「スーパー」「家電大型専門店」「ドラッグストア」「ホームセンター」は、「百貨店」「コンビニエンスストア」より、ネットスーパーやECサイトでの販売など、インターネットを活用した販売方法が普及してる業種とも言えそうです。
次にコロナ禍2年目となった2021年上期のデータを見てみましょう。「百貨店」「コンビニエンスストア」は持ち直し、「家電大型専門店」はさらに販売額を伸ばしています。家電大型専門店の販売額は、通信家電、生活家電等の増加によるものです。
(参照元:2021年上期小売業販売を振り返る)
(参照元:2021年上期小売業販売を振り返る)
野村総合研究所が2021年7月と12月に実施した調査によると、コロナ禍収束後の生活について、感染拡大が深刻視されていた21年7月の調査だと全体の25%が「コロナ禍前の生活に戻る」と回答。一方12月の調査になると19%に減少し、「ある程度はコロナ禍前の生活に戻るが、完全には戻らない」が68%まで増加しています。
この点について、野村総合研究所の林裕之氏は「コロナ禍に突入して2年近く経つ中で、生活者はウィズ・コロナの生活スタイルに慣れてしまい、もはや期間限定の生活価値観や生活様式ではなくなりつつあると捉えるべき」と言います(「店舗DX 2022」より)。
(参照元:店舗DX 2022)
現状2:ネット×リアルの販売拡大戦略
グラフはインターネットショッピングを年1回以上利用する人の割合の推移とインターネットショッピング利用者の年間平均利用回数の推移です。
いずれの年代でも利用者の割合は増加し、特に2021年度は30代から60代の層で伸び率が大きくなっています。また利用者の年間平均利用回数も増加が続いています。
(参照元:店舗DX 2022)
野村総合研究所の林裕之氏によると、「アマゾンプライムやネットフリックスなど、従来は消極的だった有料サービスが受け入れられるようになってきたのも特徴的だ。非日常感の楽しみ方は、外出や他人とリアルで交流することで得るのではなく、自分なりのこだわりを見出しながら実現させるように変化している」と言います(「店舗DX 2022」より)。
こうしたECサイトでの購入割合が増える一方で、店舗のショールーム化も進んでいます。
例えば、髪の状態や好みに合ったパーソナライズヘアケア「MEDULLA」を提供するSpartyは、店舗は売る場所ではなく体験の場所と定義しています。無料でヘアケアのアドバイスを提供したり、髪質診断サービスを行ったりしているのです。香りを選べることや通販に不安を感じるユーザーに安心感を与え、オンラインを補う役割を店舗が担っているのです。
現状3:「物を売る」時代から「サービスを売る」時代へ変化
現在は、「モノが売れない時代」と言われ、「モノを売るのではなく、サービスを売る時代」へと変わってきています。この背景にあるのが消費者の価値観の変化です。
下記のグラフは、心の豊かさと、物の豊かさどちらに重きをおきたいかについて尋ねた結果です。平成に入ってからは、「心の豊かさ」を重視する人が、「物の豊かさ」を重視する人の約2倍となっています。
最新のデータである令和3年度の結果では、「心の豊かさ」を重視する人が53.4%、「物の豊かさ」を重視する人が45.1%と、その差は縮まりつつありますが、それでも心の豊かさを重視する人が多いという結果が出ています。つまり現在は、「物を所有する」ことへの意義が、昔よりも薄れているのです。
(参照元:内閣府「令和元年度 国民生活に関する世論調査」)
また「できるだけモノを持たない暮らしに憧れる」について、「当てはまる」と回答した人が51.9%と半数を越えています。
(参照元:消費者庁「平成28年度 消費生活に関する意識調査結果報告書」)
現在は安価で良質な商品が多数あり、モノを差別化しにくくなっています。また決して景気が良いとは言えず、高額な初期投資を行い「所有」するよりも、「必要なときに利用したい」というニーズが生まれているのです。車のリースやレンタルクローズ、シェアサービスなどの利用者も増えています。
現状4:サブスクリプション型のビジネスモデルの増加
「物を売る」時代から「サービスを売る」時代へ変化したことで、サブスクリプション型のビジネスモデルが増えています。中でも利用者が多いのが動画配信と音楽配信。2018年の時点で、有料動画配信の利用率は16.3%で、そのうちの86.5%が定額見放題サービスを利用しています。
(参照元:消費者庁「サブスクリプション・サービスの動向整理」)
令和3年9月に消費者庁から発表された「[参考・8月(確報)]店頭購入及びサブスクリプション・サービスに関する意識調査結果」によると、サブスクリプション・サービスを「現在利用している」のは33.7%、「現在は利用していないが、今後利用してみたい」は17.8%となっています。年代別で見ると、若いほど利用している割合が高くなっており、20歳代では47.8%と約半数が利用しているという結果が出ています。
(参照元:消費者庁「[参考・8月(確報)]店頭購入及びサブスクリプション・サービスに関する意識調査結果」)
流通小売業のデジタル活用状況の変遷
流通小売業のDXは進んでいる企業と、そうでない企業の二極化をしているとはいえ、デジタル化自体は進んできています。その変遷を振り返ってみましょう。
2015年頃まで
流通小売業においてデジタルの活用状況を肌で感じられるものの一つがレジのシステムでしょう。世界最初のレジは1878年にアメリカで生まれた、押しボタン式の購入金額を表示するだけのものでした。
日本では1897年に牛島商会がアメリカから輸入した入出金管理ができるレジスタが最初だと言われています。その後、1978年にJAN(JIS)コードが制定され、このコードを読み込めるPOSシステム(Point of Sale / 販売時点情報管理 )が、1995年にはインターネットを利用したPOSレジスターが生まれています。2000年代になると安価なPOSレジができ、小規模店舗でも導入が進みました。
ちなみに2015年頃までの小売業は、実店舗中心の販売形態で、同一フォーマットの多店舗展開が進んだ時期です。(参考:平成16年度 調査報告書「小売業を支えたレジスタ・POSの125年」)
そして流通小売業のデジタル活用で忘れてはいけないのがEC(電子商取引)、いわゆる通信販売です。
1997年に楽天市場がサービスを開始し、ノジマ、ヨドバシカメラといった大手企業がECを始めました。1999年には独自ドメインのカートシステム「Eストア」がスタートしています。そしてスマホが普及した2010年代に加速的にECが広がりました。
コロナ前
コロナ禍になる前、2019年の日本国内におけるB2CのEC市場規模は19.3兆円と、分野を問わず年々伸びていました。また「楽天経済圏」と呼ばれる言葉が生まれるなど、ポイントプログラムによる顧客の囲い込みも起きています。
(参照元:経済産業省「令和2年度産業経済研究委託事業(電子商取引に関する市場調査)」
コロナ禍になる前は、2019年10月に消費税率引き上げを受けて実施された「キャッシュレス・ポイント還元事業」などもあり、キャッシュレス決済が伸びた時期でもあります。2019年のキャッシュレス決済比率は26.8%。2019年はクレジットカードのみならず、デビットカード、電子マネー、QRコード決済が伸び、特にQRコード決済の伸びが大きい時期でした。
(参照元:経済産業省「第一回の議論の振り返り、日本のキャッシュレス決済比率、決済事業者及び国の開示の在り方について」)
コロナ禍(現在)
コロナ禍となった2020年の日本国内のB2CのEC市場規模は、前年とほぼ横ばいの19.3兆円となっています。外出自粛が呼びかけられたことで、物販系分野のEC市場規模は伸びましたが、旅行サービスの縮小に伴い、サービス系分野の市場規模が大幅に減少したためです。
(参照元:経済産業省「令和2年度産業経済研究委託事業(電子商取引に関する市場調査)」
インターネットの普及に伴い、インターネット広告市場規模も拡大しており、2020年度は2.1兆円で、2024年度には3.3兆円まで拡大するという予測もあります。こちらのデータは流通小売業に関するものだけではありませんが、流通小売業についてもインターネット広告へのシフトはさらに進むと推測できるでしょう。
(参照元:矢野経済研究所)
コロナ禍でDXが進んだ業務
コロナ禍でDXが進んだ業務を、日経ムック「店舗DX 2022」「実践!店舗DX」やクラウド型eラーニングサービス「shouin+(ショウインプラス)」の事例を参考に4つご紹介します。
ネットスーパー事業
コロナ禍で需要が増えたのがネットスーパー。例えばイトーヨーカ堂は2001年からネットスーパー事業を行っていますが、キャパシティを上回るニーズに対して、「平準化」と「センター化」を推進中です。
受け入れられる配達件数を増やせるよう、誰がやっても効率よく作業できる環境を整えるのが「平準化」。ハンディターミナルと呼ばれる端末を導入することで、注文された商品が売り場のどこにあるか一目で分かるようにしました。また効率よく配送できるよう独自の配送システムを開発しています。
加えてAIによる需要予測に基づいた自動発注システムも生まれ、在庫管理とピッキング作業のDX化を目指す動きもあります。
出前サービス
コロナ禍で利用者が急激に増えたのが出前サービス。以前は店舗ごとに行っていたものですが、「Uber Eats」や「出前館」をはじめとしたサービスが生まれています。個人事業主である配達員が、指定された店舗に物を取りに行き、依頼者の元に届けます。もともと「Uber」はタクシーなど自動車の配車アプリを提供しているアメリカの会社でした。
現在地と目的地をアプリに入力すると、乗りたい人と乗せたい人をつなぐサービスで、金額やドライバーの評価が事前にわかる仕組み。これを応用したのが今のUber Eatsです。
レジレス化の流れ
レジに並ぶことなく支払いを行える流れが加速しています。例えばマクドナルドやスターバックスコーヒーなどの大手飲食店では、スマートフォンで事前注文・支払いができる「モバイルオーダー」の導入が進んでいます。
イオン系のユナイテッド・スーパーマーケット・ホールディングス傘下のスーパー「カスミ」では、事前にクレジットカードを登録したアプリで店頭の商品のバーコードを読み取ると、レジに並ばず決済まで終わる「スキャン&ゴー」を展開しています。
ファーストリテイリングは、レジ横に商品カゴを置くだけで一括で商品登録ができるセルフレジを導入しています。
中央大学大学院 教授 中村博氏は、こうした状況に対して「ポストコロナ時代では、顧客が「3密」を回避できる非接触、省力化、無人化の店舗が増加する」と予想しています(「実践!店舗DX」より)。
研修に関する業務
コロナ前は巨大な会場1箇所に新入社員などを集めて行う集合研修が主流で、飲食店、小売店では頻繁に行われていました。
ですが、コロナ禍になり「3つの密」の回避が叫ばれるようになると、以下の3つの密のすべてを満たしてしまう集合研修を見直す動きが高まりました。
- 換気の悪い密閉空間
- 多数が集まる密集場所
- 間近で会話や発声をする密接場面
そこで注目を浴びているのがeラーニングサービスです。eラーニングとは、学生や社会人のスキルアップ面で役立ち、主に個人学習のタイミングで取り入れられることが多いサービスですが、企業研修に取り入れることで、集合研修を置き換えることができるようになりました。
アパレル大手の株式会社ユナイテッドアローズは、eラーニングを活用して、従来行っていた集合研修をフルリモート化しました。詳細な事例は後述しますが、今後もこのようなリモートワークに対応するためのオンライン化施策は増え続けると予想されます。
流通小売業におけるDX事例
ここからは、流通小売業におけるDX事例をご紹介します。
事例1:アイリックコーポレーション
来店型保険ショップ「保険クリニック」を展開するアイリックコーポレーションが展開しているのが「保険IQシステム」。
一般的に保険ショップでは、生命保険への加入などを検討する際、店頭でコンサルタントが経験や知識を基に豊富な選択肢の中から利用客に合った保険を提案します。ただ、この方法だと販売員により薦める保険がばらばらになってしまうなどの課題があったと言います。これが「保険IQシステム」を使用することで、保険提案・販売の業務効率化や利便性の向上につながっているそうです。(参考:日経ムック「店舗DX 2022」)
事例2:ワークマン
ワークマンのブルーオーシャン戦略を支えるのが「エクセル経営」。社員全員がエクセルを使いこなすことで店舗改革をスピーディに進められると言います。どの製品を店舗におけば売上が上がるのか、自社の新製品の影響を受けた自社の他の製品は何か、生産量をどうするかといった分析をエクセルで行い改善しているのだそうです。
これらのデータ経営が定着・機能した要因は次の3つ。
- トップの本気度
- 人事の評価項目の変更
- 制約をかけない
高度なデータ分析ツールではなく身近なエクセルを活用する方法や定着への取り組みなどは小規模企業も参考になるでしょう。(参考:日経ムック「店舗DX 2022」)
事例3:ローソン
店舗で買い物をしたときに受け取るレシートに付いてくる広告やクーポン券を、会員の属性や購買履歴などに基づいて効果的に出しわける試みを進めているのがローソンです。AIを活用して会員のデータを分析しているのだそうです。
初期費用がかかっても、自動化することで長期的なコストの削減につながると考えたとのこと。同じ商品でも顧客によって訴求するポイントを変えることで購入率の向上を図っているそうです。(参考:日経ムック「店舗DX 2022」)
事例4:コメ兵
ブランドリユース大手、コメ兵が取り組んでいるのが店舗とECの協力で成果を高める仕組み作りです。高額な商品になるほど、「実際に商品を見て確認したい」ニーズがあることがわかり、始めたのが取り寄せ販売です。現在はデジタル経由の販売の3分の1が取り寄せによるものだと言います。
またコメ兵のECサイトでは、自社の強みを生かすために、商品の状態を確認する上で、あえて問い合わせてもらう動線を取っているとか。コメ兵の事例は、リアルな店舗とデジタルの価値をどう融合させようか悩んでいる企業の参考になるでしょう。(参考:日経ムック「店舗DX 2022」)
事例5:株式会社ユナイテッドアローズ
アパレル大手の株式会社ユナイテッドアローズは、内定者研修において集合研修を実施していました。しかし限られた回数(1〜2回)と時間で行っていたため、会社の理念や販売員としての心構え、挨拶の研修に特化しており、商品知識や業務レクチャーなどの基本的な業務習得までできておらず、満足のいく研修ができていませんでした。教育を担当されていた方は、入社前に会社のこと、業務のこと、必要な知識をインプットできれば、販売員としてある程度仕上がった状態で入社を迎えられるので店舗での教育負担を軽減できるのでは、という仮説をもって、オンライン化に取り組まれました。
そこでeラーニングとweb会議サービスを組み合わせて活用し、フルリモート化を実現しました。基本的な業務の習得はeラーニングサービス上にアップロードしたPDFや動画形式のマニュアルで行う、提出物の提出に関してはeラーニングサービス上の日報機能や動画提出機能で行う、一度に大勢の人に講義形式で教えたい場合はweb会議ツールで行う、といった使い分けをしています。
まとめ
流通小売業で生き残るためには、今すぐDXの取り組みを始めたほうが良いということがお分かりいただけたでしょうか。費用がかかるため躊躇する企業もあるかもしれませんが、まずはできることから1つずつ始めてみることをおすすめします。