やる気をなくす人事評価の特徴とは?辞める原因、モチベーションを高める方法など、わかりやすく解説!
人事評価は企業の成長や業績向上に欠かすことができないものですが、人事評価に不満を感じて従業員がやる気をなくしてしまうことがあるといいます。
従業員にいくら実力があっても、その力を発揮するにはやる気が伴わなければいけません。仕事へのモチベーションを左右する要因はさまざまですが、やる気に対して大きな影響を与えているのが人事評価だといいます。
今回は従業員がやる気をなくしてしまう人事評価の原因はなにか、また不満を防ぎ、モチベーションを高める方法について紹介します。
なお、人事評価に関してより詳しく知りたい方は以下も参考にしてください。
多くの人が人事評価に納得できていない?
HRM(Human Resource Managementの略称、人材マネジメントを指す)分野の専門家であり、(株)日本能率協会コンサルティング常任顧問の高原暢恭氏の著書「人事評価の教科書 悩みを抱えるすべての評価者のために 労務行政」によると、人事評価は本来、人が人をマネジメントしていく手段であり、人事評価を軸として「方針が見える」「やる気がでる」「信賞必罰を感じる」ことによって仕事を成功に導いて、達成感を得られるように設計することが大切だといいます。
(参照:書籍「人事評価の教科書」:人事評価の目的 を参考に弊社で作成)
しかし実際には多くの人が人事評価に納得できていないといいます。
「識学」を使った経営・組織コンサルティングや従業員向け研修を展開する株式会社識学が2021年8月に行った「人事評価の“モヤモヤ”に関する調査」によると、「自社の人事評価に満足かどうか」と質問したところ、満足、やや満足と答えた人が55%で、45%の人が人事評価に不満足としています。
(参照:識学 アンケート「自社の人事評価に満足しているか」)
「自社の人事評価について不満に思う点」について調査したところ、「評価の基準が不明確」が48.3%で1位で、次いで「評価結果が報酬に反映されない」が30.9%、「評価する人によって厳しさに差がある」で28.1%でした。
(参照:識学 アンケート「人事評価について不満に思うこと」)
またITツール比較サイト・STRATE[ストラテ]が、2022年4月に行った『人事評価制度への満足度に関するアンケート』によると、「勤務先の人事評価に満足していますか?」という質問に対して、以下の5つの選択肢のなかから選んだ回答は、このようになりました。選択肢は次の通り。
- 評価制度がない・認識していない
- 不満があり、制度が不透明・納得しにくい
- 不満があり、人事担当を信頼していない
- 満足している
- その他
(参照:STRATE[ストラテ]アンケート「人事評価に満足しているか」)
調査結果を見ると、「2.不満があり制度が不透明・納得しにくい」が31%と1位で、次いで「1.評価制度がない・認識していない」、「3.不満があり人事担当を信頼していない」と合わせると75%の人が人事評価に不満を持っていることがわかりました。
従業員の人材マネジメント、育成という点から「やる気を引き出し」業績向上に貢献すべきである人事評価によって、評価結果の低さや評価理由に納得できていないという調査結果から、人事評価によって従業員のモチベーションは大きな影響を受けるといえます。
人事評価で従業員がやる気をなくす原因
人事評価は従業員の仕事に対するやる気に大きな影響を与えていることがわかりました。人事評価によって従業員のやる気を低下させる原因にはどのようなものがあるのでしょうか。ここでは従業員のモチベーションを下げてしまう原因を4つ挙げて説明します。
原因1:評価基準がわかりにくい
前述のアンケートによると、人事評価に対する不満として「評価基準が不明確」「評価基準がわかりにくい」という意見が1位でした。
何をすれば評価されるのか、何を重視して評価されるのかが明確に提示されていない、評価が複雑でわかりにくいなど、評価制度、評価基準の設計に問題がある、あるいは評価制度内容を公開していないために従業員の理解が得られていないことで、評価自体に不満を感じることがあります。
原因2:正当に評価されない
仕事ぶりを見てもらえていない、頑張って成果を出したにもかかわらず評価されていないという点に不満があるという意見もあります。
高原氏の書籍によると、評価基準があいまいである、評価者の自覚がないなどの問題点も指摘されますが、自己評価と上司評価におおきな乖離がある場合には、実績と評価に対する認識に違いがみられている場合があります。
原因3:結果重視で努力やチャレンジが評価されない
評価において、数値で見える成果のみが重視されてしまうことも、やる気をなくす原因のひとつです。成果に至るまでの交渉や調整など積み重ねてきた工程や取り組んでいることの難易度などが考慮されない、と感じてやる気をなくしてしまうという意見もあります。
原因4:評価する上司を信頼できない
評価者の上司を信頼できない、という意見もあります。
「評価者の主観で評価されていないか」「バイアスがかかっていないか」「一部の人だけを良く評価するなど差別していないか」といった評価者への不信感や、評価者が一人しかいない(2次評価者がいない)という制度運用の問題、また評価者の評価スキル不足などによって、自分への評価内容に不満を感じているという意見も見られました。
適切な対処が必要な理由
人事評価によって従業員のやる気が損なわれているのであれば、すぐに適切な対処が必要です。
厚生労働省の「働きやすい・働きがいのある職場づくりに関する調査報告書」によると、「評価処遇・配置」や「人材育成」の項目において、「実施されている」と回答した者の方が、「実施されていない」と回答した者よりも、「働きがいがある」又は「どちらかといえば働きがいがある」と回答した割合が高いことが分かっています。
評価結果と評価の理由について本人へのフィードバック・説明が実施されている場合の「働きがいがある」と回答したのは64.0%で、それらが実施されていない場合の49.4%に比べて14.6%も高いという結果がみられました。
厚生労働省の報告書では、人事評価に対する取り組みと離職率には相関関係があるといいます。
人事評価を取り入れて、効果を感じている企業と効果を感じていない企業の離職率を比較したところ、すべての項目において人事評価に効果を認めている企業の離職率は効果を認めていない企業の離職率よりも低いという結果になりました。
人事評価に対する不満をそのままにしておくことで、やる気の低下は職場環境の不満につながり、ひいては退職につながってしまいます。このため、従業員のモチベーションを向上させるためには、フォローが不可欠です。これは次の章で解説します。
一方で、人事評価について従業員に正しく理解してもらうことも重要です。会社全体、部署、チームで自社の評価制度についての説明をし、従業員の評価制度への理解を深めることで、それぞれの従業員が求められるレベルを認識することで、評価者との評価基準が共有され、人事評価への不満の解消に役立ちます。
従業員のモチベーションを向上させるために必要なこと
従業員のモチベーションを向上させるために必要なこととはどのようなものなのでしょうか。ここでは3つのポイントを説明します。
1:評価基準を明確にする
高原氏の書籍によると、評価を受ける側からの納得を得られる人事評価にするには、
- 「公正な評価」
- 「評価基準の明確化」
- 「評価基準の理解」
- 「評価基準の遵守」
- 「評価責任の自覚」
の5つの原則を守る必要があると言及しています。
評価制度は目的に沿って正しく運用されることが前提です。評価制度がパワハラなどの多様なハラスメントに悪用されることから守られる必要があります。
また評価対象と評価の尺度を確認することは重要です。どのような評価基準をもって評価するかはあらかじめ明記して公開しておく必要があります。従業人に対して何をして欲しいのかを明らかにするために「評価基準を明確化」するのだとあります。
さらに明確化された評価基準は評価される従業員が理解し、またその評価基準を評価者が守って評価しなければいけません。評価を行う者は評価対象者の人材育成に対して責任を持っていること、評価が評価される者へ影響をもたらすことを自覚していることが大切だと指摘しています。
2:部下とのコミュニケーションをとり、信頼関係を構築する
人事評価で従業員のモチベーションを上げるためには、評価される従業員が評価に納得できるかどうかにかかってきます。人が人を評価するため、評価に納得できるかは評価者と部下の間に信頼関係が築かれている必要があります。
日頃から部下への声がけをするなどで、コミュニケーションを積極的に取り、部下から話しかけやすくしておく環境作りを心掛けましょう。日常的に上司からの指示と部下からの報告がある関係性を築いておくことが大切です。
例えば、面談で話した目標に対して「よくできているね」など声をかけることで、部下には「見てもらえている」「期待に応えたい」という前向きな気持ちが生じます。
3:企業の従業員同士のコミュニケーション活性化への取り組み
企業としても、従業員同士のコミュニケーションを活性化させる取り組みによって、社内のコミュニケーションを円滑化させる効果を実感しているケースもあります。
人事制度構築に詳しい宮川淳哉氏の著書「中小企業のための人事評価の教科書(総合法令出版)」によると、やる気、モチベーションにはその人の内面で生じる満足によって行動する「内発的動機付け」と「外発的動機付け」があるといいます。
人ががんばるきっかけの中には「ご褒美」があるから頑張るという側面があります。ご褒美とは昇給や賞与のみならず、昇進、昇給、表彰、周りの人からの承認など広い意味での報酬を指しますが、人がやる気を出すことと、このご褒美、つまり外発的動機づけが関連しているといいます。
厚生労働省の報告書によると、企業に対する調査において「業務管理・組織管理、人間関係管理」に関する取組みとして、効果があったと思われるものについて、自由記述欄を設けたところ、全体の20.1%の企業から具体的な記述があったといいます。
内容をみると、「表彰・報奨の実施」、「改善提案制度」、「朝礼、会議等を通じたコミュニケーション」等に関するものの記述が多く、これらの社内活動が、社内の円滑な人間関係構築や円滑なコミュニケーション、モチベーション向上などに貢献しているといった回答が多く見られた、とあります。
これらの結果から企業全体で、社員に光を当てるような取り組みをすることも、従業員のやる気を引き出すことにつながるといえます。
4:人事評価のフィードバックの場を設定する
人事評価のフィードバックをする職場においては、しない職場に比べて従業員がやる気を出して仕事に取り組んでいることが、厚生労働省の調査結果で見ることができます。
厚生労働省の報告書によると、評価・処遇制度の有無ではなく、評価制度を実施して効果があると事業主が評価している企業は、人事評価の結果とフィードバックをすることによって、従業員が前向きに業務に取り組むようになっているという結果になっています。
前向きな取り組み姿勢のひとつの項目の「熱心に仕事に取り組む」では96.8%の企業が効果を感じていると回答しました。これは効果がみられなかったと回答した企業において「従業員が熱心に仕事に取り組む」という項目に対して前向きな行動がみられていると答えた割合の75.9%に比べると20%もの差がついています。
適切なタイミングで行うフィードバックは、従業員の疑問やモヤモヤを払拭し、期待される社員像を上司と再確認しそこに近づくためのアドバイスを受けることができることから、従業員のモチベーション向上に繋がっていることが調査結果から見えてきます。
高原氏の書籍によると、評価基準があいまいである、評価者の自覚がないなどの問題点も指摘されますが、自己評価と上司評価におおきな乖離がある場合には、実績と評価に対する認識に違いがみられている場合があります。
自己評価の高い評価対象者と評価者による評価が低かった場合にみられる現象ですが、この場合にはまず、評価対象者の話を聞き、ねぎらうことが大切です。その上で、認識の不一致点を確認しながら本人の考えを説明してもらいます。本人の考えを聞き取ったら、上司の期待がどこにあったのか、求められるレベルと実際のレベルとの違いについて説明します。そしてその乖離を埋めるための認識のすり合わせを行って、成功へ向けた行動のアドバイスをすることが大切です。
人事評価の開示とともに、従業員が評価基準を理解する必要がありますが、もしも評価基準に対する認識のズレが感じられる場合には、フィードバックを活用して、期待される行動について認識を合わせるようにしましょう。
人事評価制度の見直しポイント
従業員へのフォローだけでなく、人事評価制度自体を見直すことも、従業員のやる気を引き出すことに貢献します。従業員のモチベーションを高める人事評価制度の見直しのポイントについて4つ説明します。
ポイント1:企業の方針に沿った人材活用を目的としている
厚生労働省の「人事評価制度の見直し」には、人事評価の見直しには、企業の経営方針やビジョンに即して、求められる人材像や人材活用の方針が設計されていることが大切だと記載されています。
経営方針との整合がとれ、企業の目指す方向性が実現できるような人材活用の方針策定を踏まえて、人事評価制度の見直しを行うことが有効と考えられます。
ポイント2:各人事制度と連動している
厚生労働省の「人事評価制度の見直し」では、人事評価は各人事制度と連動していることが、他の人事制度(採用、育成、報酬)と連動し、評価制度が育成や報酬制度に正しく繋がっていることが重要だといいます。
高原氏の書籍によると、人事評価制度の設計において、企業方針やビジョン設定の次には、各部署においてコアプロセスの明確化が必要だとあります。人事評価は人材マネジメントの手段であるといいますが、企業において人が人をマネジメントする目的は業績を向上させるためです。それには業績アップのための業務の進め方(コアプロセス)を従業員が実践していくことが求められるのです。
コアプロセスの各段階において従業員がそれぞれの職務においてどれだけ遂行できたのかを評価するために評価要素を分解して整理し、評価ウエートを検討して、人事評価を設計していきます。
このようにして設計された人事評価はすなわち人材育成や給与などの報酬に結びついています。
ポイント3:職場で公平に円滑に運用される
厚生労働省の「人事評価制度の見直し」では、人事評価が設計されたら、現場で公平にかつ円滑に運用されるようにすることが大切だと書かれています。
- 求める人材像が評価基準になっている
- 評価基準が十分に周知され教育されていて、評価者は統一された意識のもとで評価している。
- 評価ツールが使いやすい
- 適切な頻度、内容で面談・フィードバックができている。
このため、評価ルールの周知徹底のためには、評価基準・マニュアルの作成が必要となりますし、評価者は評価に際して研修を受講するなど、公平で信頼できる力を備えておくことが求められます。
また評価の実施、運用のために、評価ツールを活用することや面談、フィードバックが適切に実施されることで、より納得感を持った運用になるといいます。
ポイント4:成果・能力・情意のバランスを考えて評価する
高原氏の書籍では、人事評価には大きくわけると3つのジャンルに分かれるとあります。
1つ目は「成果評価・目標管理」があり、これによって従業員それぞれに目標を持たせていきます。組織として方針(期待されるもの)が見えるようになります。
2つ目に「能力評価」があります。これは個々の能力をつける、高めることに貢献するものです。
3つ目は「情意評価」です。これによってまじめに業務に取り組もうという意識づけを行うものです。
(引用元:「高原暢恭(2008)『人事評価の教科書 悩みを抱えるすべての評価者のために』株式会社労務行政」を参考に弊社で作成)
図は社員一人ひとりの職務行動と成果を表しています。「成果」は「職務行動」から生まれます。ただし行動したことがそのまま成果につながるわけではなく、その間には「外的要因」が入ります。
外的要因とは本人の努力で動かせるものではなく、例えば景気とか、急に取引条件が変わった、取引先が倒産したなど抗えない環境のことを指します。
「成果」は、外的要因がどうであれ、本人の成果をそのまま評価するものです。
「成果」のみを評価すると、どうしても納得性が低くなってしまいます。
そこで本人責任要因として「能力評価」と「情意評価」があります。
「能力評価」とは職務に必要な専門知識や業務知識、また職務遂行能力を指します。企画力や計画力、改善力、育成力なとを含みます。
「情意評価」とは責任性や規律性、積極性、協調性、自己啓発などを評価するものです。
評価基準を見直す場合には、この3つの評価軸を職種や等級、役職などに合わせてバランスを考えて評価するように設計することで、評価制度に納得性が得られます。
まとめ
人事評価によって従業員のモチベーションが下がるようであれば、すぐに対処が必要です。今ある人事評価において、どのような人材を求められているか共有できているか、評価基準が明確になっているか、フォードバックは適切に行われているかなど、適切に運用されているか見直しましょう。
評価制度は企業の成長や時代や環境に合わせて変化していくものです。従業員のやる気が低下している場合には評価制度自体を見直すことも良策です。従業員の働きがいやモチベーションを高めていける評価制度を設計することは、企業の成長、業績向上に不可欠です。仕組みを改善する、評価者の人事評価能力を高めるなど、継続的に日常の人材マネジメントの質を高めることが求められています。
人事評価に関するお役立ち資料
人事評価の手順や書き方を小冊子で詳しく解説しています。業種別の人事評価シート例もございますので、ぜひ参考にしてください。