人手不足に多くの企業が悩む現在。優秀な人材を採用し、入社した折には最高のパフォーマンスを発揮してもらいたい、というのが経営者、人事担当者の願いです。その方法の一つとして注目されるのが「従業員満足度」です。
一般に従業員満足度を高めることで、人材確保や社員のモチベーション向上、生産性アップ、離職率の低下などが期待できると言われていますが、決して魔法のような手法というわけではありません。
当記事では、従業員満足度を高め、従業員も企業も幸せになれような取り組みについて解説します。従業員満足度をどのように捉えるかが一つのポイントになりますので、従業員満足度とは何かという定義づけを丁寧に行いました。
これから取り組み始める企業はもちろんのこと、既に取り組んでいるけれど結果が出ていないとお悩みのご担当者様も、基本に立ち返りお読みください。
従業員満足度とは、従業員が会社などの所属組織に対してどれだけ満足しているかを表す指標です。英語では「Employee Satisfaction」と呼ばれることから、頭文字をとり「ES」と呼ぶこともあります。
従業員満足度という言葉が語られるようになったのが、ちょうど2005年前後。少子高齢化が進み、経済がやや落ち着いた頃です。「ダイバーシティ」「ワークライフバランス」といった言葉も流行しました。
人事コンサルタントの坪谷邦生氏は、著書「図解 人材マネジメント入門 人事の基礎をゼロからおさえておきたい人のための「理論と実践」100のツボ」の中で、日本の人材マネジメントは、「人」と「事」の縞模様が交互に訪れていると解説しています。
経済が成長・安定している平時には中長期を見据えた「人」への投資がなされるが、経済危機になると企業の成果「事」に向けて短期的に人をモノとして扱ってしまう、そしてまた経済的に余裕が出ると人に再注目する、この人と事の縞模様に働く人は翻弄されてきました。
(参照元:図解 人材マネジメント入門を参考に弊社で作成)
従業員満足度は、「人」が再度注目された頃に生まれた経営指標というわけです。そして2008年の世界同時不況によりまた「事」がフォーカスされることに……。
つまり人材マネジメントは、経済状況により、ある種の流行があるのです。
一方で、30年以上好業績かつ100年以上の長寿企業「いい会社」がやっている原理原則は変わらないと坪谷氏は言います。
「世のため、人のため」という当たり前をやり続けているのです。つまり、人を尊重し、人の能力を十分に生かす経営、従業員満足度を高めるといった点は変わらないのです。
(図解 人材マネジメント入門を参考に弊社で作成)
今後も経済状況や会社を取り巻く環境は変わるでしょう。そしてまた新たな人材マネジメント手法が生まれるかもしれません。
そんな時代がきても、上記の図の「4. 人を尊重し、人の能力を十分に生かす経営」、従業員満足度を高めるといったことを継続してやれるかどうかが、「いい会社」になれるかどうかにかかっていると言っても過言ではないでしょう。
人材マネジメントという大きなくくりの中での従業員満足度の位置づけが分かったところで、自社における「従業員満足度」をどう定義づけるか解説します。
ここでは、従業員満足度研究所代表 藤原清道氏が執筆した著書「新・従業員満足度ES2.0~業績に連動する従業員満足度の上げ方~」から引用しながらポイントを絞って紹介します。「従業員満足度」を定義するにあたって、重要になるのが「誰を対象にするか」という点です。
従業員という言葉は、組織が掲げる、ビジョンや理念に「従う」という意味と解釈すれば、正規労働者も非正規労働者も経営者も役員も含めたすべての人間が「従業員」となる。
従業員満足度の対象は、正規労働者も非正規労働者も経営トップも役員もすべてです。月に1日しか勤務しないアルバイトの人も対象にするのがいいでしょう。
書籍「うまくいかないホテル・旅館・飲食店を従業員満足(ES)の再構築で蘇られる―ママインド編―(著:合同会社ディライティングオール)」の中で、個人表彰を行うことで従業員満足度をアップさせたホテルの事例が紹介されています。
このホテルでは、派遣社員も対象です。契約上、報酬を出すことが難しい場合は、グループで使える金券を渡したり、ご家族全員をレストランの食事に招待したりするなど工夫をされています。
またこちらの書籍の中では「現場にいるすべての人を対象にすべき」としており、委託先の清掃会社なども対象にしてもいいぐらいとのこと。従業員満足度の向上に取り組む際は、誰を対象にするのか、しっかりと検討しましょう。
顧客満足度(CS)のほうが先に生まれた言葉ですが、従業員満足度(ES)と顧客満足度(CS)は並列に語られることがあります。両者の関係性について解説しましょう。
従業員満足度と顧客満足度の関係を語るうえで参考になるのが「サービス・プロフィット・チェーン(SPC)」と呼ばれる考え方です。
1994年にハーバードビジネススクールの名誉教授、ジェームス・L・ヘスケットらによって発表された論文「サービス・プロフィット・チェーンの実践法(原題:Putting the Service-Profit Chain to Work)」の中で提唱されました。
従業員満足度が向上すると、顧客に対してのサービス品質が高まるため顧客満足度が向上します。そして顧客満足度が上がると企業に対するロイヤリティが高まり、顧客の確保・維持、リピート率の向上、口コミなどでの紹介が期待でき、企業の業績アップにつながるといったことを意味しています。
(参考情報:Putting the service-profit chain to work)
■参考記事はこちら
顧客満足度(CS)とは?調査方法や向上させるポイントをわかりやすく解説!
従業員満足度の向上は、顧客満足度につながるというSPCの考え方は多くの方が納得するでしょう。そして顧客満足度の向上は、業績アップにつながります。
従業員満足度の向上 ⇒ 顧客満足度の向上 ⇒ 業績アップ |
この流れを期待して「従業員満足度の向上」に取り組む場合、従業員満足度の向上は顧客満足度の向上、業績アップのための「手段」という位置づけになります。
この点について、藤原氏は書籍の中で「従業員満足度を高めないと顧客満足度は高まらないのか?」と問題提起をしています。
何が言いたいかというと、従業員満足度の向上を「手段」と位置づけるのか、単独での「企業目的」と位置づけるのかということです。
手段として位置づけると、前述した人材マネジメントの流れが変われば、企業は従業員満足度の向上に消極的になる日がくるかもしれません。でも企業目的そのもの、組織の存続意義であるならば、長きにわたり続くものであり、「従業員満足度とは?」の中で紹介した「いい会社」の取り組みの一貫として行っていけるでしょう。
ここで参考までに、どれくらいの企業が従業員満足度、顧客満足度の取り組みをしているのかご紹介します。
これらの取り組み状況は、平成28年3月に発表された「今後の雇用政策の実施に向けた現状分析に関する長さ研究事業報告書~企業の雇用管理の経営への効果~」に掲載されています。
同報告書によると、企業規模によらず、従業員満足度もしくは顧客満足度のどちらかを重視している企業割合は4割ほど。そして従業員満足度よりも顧客満足度を重視する傾向が見られます。両方を重視している企業割合は、企業規模が大きくなるほど増加しています。
(参照元:今後の雇用政策の実施に向けた現状分析に関する長さ研究事業報告書~企業の雇用管理の経営への効果~)
従業員満足度が低い、つまり従業員が会社に対して不満がある状態の場合、企業にとってどのようなデメリットがあるのか主なものを3つピックアップしました。
従業員満足度が低いと多くの場合、顧客満足度は低下します。顧客満足度が低いというのは、お客様の期待値に応えられていない、何かしらの不満が残っている状態です。
新規顧客が定着しにくい状況になり、リピーターや常連客が離れてしまう可能性もあります。場合によっては、TwitterやFacebookなどのSNSで悪評が流れてしまい見込み客を失うことさえあるのです。
従業員満足度の向上に取り組むと、従業員は自ら積極的に行動するようになります。顧客に喜んでもらえるよう心を込めた対応ができるようになり、より良くするための提案も出てくるでしょう。そしてその頑張りが適切に評価されると、さらに従業員は努力するようになり、良い循環が生まれます。
仕事の動機付けであるモチベーションには、内面から生まれるものと、評価や待遇といった外発的なものがあります。
どちらも従業員個人の気持ちに大きく影響されるため、仕事への満足度が下がると、気持ちを維持したり、上げたりするのは容易ではなく、多くの場合モチベーションが低下します。
当然、モチベーションの低下は、生産性の低下にもつながります。
従業員満足度の向上への取り組みは、仕事へのモチベーションが高まるだけでなく、エンゲージメントが高い組織構築への第一歩になります。つまり、会社と従業員がお互いの意思に基づき、対等につながり、信頼し合い、お互いの関係を深めていくことで、互いの成長が促進され、より高い熱意を持った働きが期待できるというわけです。
従業員満足度が低いと、離職率が上昇し、採用力がダウンします。
藤原氏が著書の中で「従業員満足度が高いのに、人が定着しない会社は、私の知る限り世の中に一社も存在しません。従業員満足度を向上させれば、定着率の問題は必ず解決します。」と断言するほど、従業員満足度と離職率は深い関係があるのです。
離職率の上昇と採用力のダウンは、人材不足を招くだけでなく、採用や研修にかかわるコストの増加、人事担当者の負担増につながります。
従業員が会社に対して何を求めているかは違います。給与や待遇が重要という人に対しては、これらを高めることで従業員満足度が向上します。でもそれ以外のことが重要だと考えている人の従業員満足度は低いままで、遅かれ早かれ離職につながる可能性が高いのです。
だからこそ「採用段階で価値観を基準にした選考を行うことが大事」だと藤原氏は訴えるのでしょう。価値観を分かりやすく求職者に伝え、その価値観で人を惹きつけ採用することが重要なのです。
従業員満足度に影響を与える要素には、どのようなものがあるのか解説します。
創業者や経営トップの思いや価値観が込められた企業理念。企業としてのあるべき姿を表したもので、従業員が企業理念にどの程度共感しているかで、従業員満足度は変わってきます。
多種多様な人材を集めながらも、仕事における価値観は一致している状態、足並みが揃っている状態を作ることができれば、従業員満足度は高まるでしょう。
離職理由の中で多いもののひとつが職場での人間関係です。ギスギスした職場であったり、人間関係がこじれたりするとストレスが増えるのは想像できますね。
職場には、年齢も性別も働き方も多様な人材が集まっていますので、良好な人間関係の構築には努力が必要です。
また上司のマネジメント能力も従業員満足度を左右します。仕事ぶりをみて、適切に評価し、サポートしてくれる職場は従業員満足度が高まる傾向があります。
会社の成長に貢献できている実感を持てたり、顧客に喜んでもらえたりすることから生まれる仕事へのやりがいも従業員満足度に影響します。
従業員が仕事へのやりがいを感じられるよう、表彰制度の導入やお互いを褒める文化の構築など、組織としての取り組みも大事になってくるでしょう。
報酬や処遇、福利厚生も従業員満足度に影響します。ただし報酬が高くても離職率が高い企業があるように、必ずしもこれらの充実度と従業員満足度は一致しません。従業員のニーズを捉えた施策が重要になってきます。
終身雇用が崩れ、企業と個人は相互依存関係から個別化への動きがもたらされ、2016年以降キャリア開発支援の重要性が増しています。
従業員は自分で将来なりたい姿をイメージし、キャリア開発を行っていかなければいけないため、研修体制の充実も従業員満足度の向上を目指す際は、考えていく必要があるでしょう。
厚生労働省・都道府県労働局・ハローワークでは、「魅力ある職場づくり」のサポートを行っており、従業員の視点に立った取り組みのポイントが次のようにまとめています。ご覧いただくと、具体的にどのような取り組みがあるのかのイメージが持てるでしょう。
(参照元:従業員の職場定着など、雇用管理面でお困りの事業主の皆さまへ)
藤原氏は、従業員満足度を向上させるためには、前提条件として、平等に何かを与えるのではなく、頑張っている人を評価するなど、公平な組織作りが重要と述べています。
従業員満足度の高い組織とは、決して甘く優しい組織ではなく、共通した理念やビジョン、目的や目標に向かって、一丸となって行動を共にしていく集団です。
従業員満足度の高い組織とは、理念やビジョン、目的や目標に向かって「頑張っている人が損をしない組織」です。頑張っている人をより厚遇すること。
頑張っても頑張らなくても、会社からの評価が変わらないような組織では、誰も頑張ろうとしなくなります。
この点を年頭において、次に紹介する従業員満足度を向上させるための5つの取り組みポイントをお読みください。まとめるにあたって、藤原氏の書籍を参考にしました。
採用や離職率に大きな影響を与えるのが会社の経営方針・ビジョンの共有です。従業員はそれぞれ固有の価値観を持っているので、モチベーションが上がる方法は様々。従業員満足度を向上させる画期的なノウハウは存在しないのです。
だからこそ、仕事における価値観を共有し、浸透させて価値観を統一しないといけません。そして採用を行う際には、その価値観を軸に行い、応募者の考え方やあり方が企業理念と一致しているかを重視すべきなのです。
藤原氏は著書の中で会社への貢献度が高いベテラン従業員が辞めたいと思うときは、次の2つだと述べています。
従業員が右肩上がりの会社に対して夢を持てなくなっていくのは、会社の理念やビジョンと経営者の生き方や仕事の仕方の乖離が分かったときとのこと。
ビジョンは掲げるだけではなく、経営者やリーダーがそれに基づく行動ができて初めて機能し始めます。
ビジョンを組織に浸透させるのに欠かせないのが、経営者、幹部従業員の意識改革です。従業員は、本音と建前が違う経営者を一瞬で見分けます。藤原氏は自身の書籍の中で、経営者・幹部従業員の意識改革について、次のように述べています。
売り上げや利益を追求することは、今までどおり変えずにいても構いません。しかし、なぜ売り上げや利益を追求するのか、という「なぜ」をお互いに問うことの重要性を認識させるように、リーダーである皆さんが導いていくことが大切です。売り上げも利益も、従業員の幸福度向上のため。そのような意識改革こそが、従業員満足度アップのための第一歩です。
「なぜ働きがいのある会社をつくるのか」という根本にも立ち返りながら、進めていきたいですね。
「優秀な人材が心から働きたいと思うような組織を作ることが、結果として従業員満足度を高める」と藤原氏は言います。
こうした優秀な人材は、自分の頭で自由に考え自由に行動しようとします。逆に言うと、ここを他人から制限され続けると離職につながるのです。現在は組織に属さなくても稼げる時代になりました。それでもそこに属して働き続けたいと思えることが重要なのです。
とはいえ、気の向くままに従業員が自由に行動を始めていいわけではありません。企業理念など会社としての価値観の軸といった緩やかな制限の中で、自由に思う存分、自ら考え働ける環境作りが求められます。
従業員満足度を高めるために、できるだけ給与を上げたいと考える経営者は少なくありません。
しかし、現在は誰もが収入を最重視する時代ではありません。嫌なことをやるぐらいなら、そこそこの給与でいいと考える人が増えています。このため給与など金銭的なアップが必ずしも従業員満足度に直結しません。
会社としてすべきなのは、従業員ごとの貢献度に応じた報酬体系の構築です。誰の目から見ても納得のいく公平な評価制度が、従業員満足度につながります。
ただしここでいう「貢献度とは売り上げや利益などの数字的なものだけではなく、ビジョンに沿ったものにする必要がある」と藤原氏は強く訴えます。売り上げや利益などの数字的なものは貢献度を測る物差しの一部だとお考えいただくといいでしょう。
「多種多様な働き方を受容することができる環境を整えていくことで、企業は今まで以上に高い実績に直結する優秀な人材を確保することができるようになる」と藤原氏は言います。
長時間労働が美徳である時代は終わりました。転勤を廃止しテレワークを中心とする働き方を基本とする企業も出てきています。
長時間働きたい人もいれば、週に1日だけ、1日数時間だけ働きたい人もいます。また直接雇用だけでなく、フリーランスとして仕事をしたい人、オフィスではなく自宅やサテライトオフィスで働きたい人など、幅広い働き方の要望が生まれています。
フルタイムで働きたいけれど、小さな子どもが体調不良のときは気兼ねなく有給を使いたいなどの希望もあります。
これら全てを急に受け入れることは難しいかもしれませんが、こうした声に真摯に耳を傾けてくれる企業に従業員は感謝の気持ちを覚え、従業員満足度も向上するでしょう。
環境さえ整えばまだまだ成長できる人材が日本にはたくさん埋もれています。素晴らしい人材に化ける可能性を秘めているのです。
藤原氏は次のように述べています。
一人ひとりの伸びしろを使い切る社風があり、個々人の成長率を超える成長を企業がしていれば、優秀な人ほど、「独立してもやっていけるが、この組織を離れないほうが自分の実力以上の仕事ができる。早く成長できる。そして組織は私の成長を求めてくれている」と理解することができますので、独立起業するような優秀な人材が辞めず、さらにそれらの既存従業員が、さらなる伸びしろのある人材を呼び込むことになります。
キャリアパスに応じた教育研修制度の充実やメンター制度の導入など、できることから始めたいですね。
従業員満足度の向上を目指し改革を行う際、従業員や組織の現状を把握したいというのは、よくあるニーズです。でも、この点についても藤原氏は「従業員満足度調査は必要か?」と疑問を投げかけています。
従業員の状態に日頃から関心を持っていれば、外部に調査依頼するまでもなく、ある程度把握できているはずだと言うのです。
「現状でも、ある程度のレベルで、自社の従業員と組織の状態が分かっている」「日々、改善活動もしていてそこそこ成果も上がっている」「しかし、自分たちには見えていないものがあるかもしれない」「思いがけない穴があるかもしれない」
このようなレベルにある会社だけが従業員満足度調査を有効利用できると私は考えています。
こうした考え方があることを知ったうえで、調査を行うのか、行うならどのような手法が自社には最適なのか考えながらお読みください。
調査を行う場合は、自社で行うのか、外部の調査会社を利用するのか、まずは検討が必要です。近年は外部調査の種類も豊富で、自社では把握しきれない状態を知りたいときには有効な手段でしょう。
ここではまずは自社で行いたい場合に絞りご紹介します。
Googleフォームなどを活用すれば、低コストで簡単に実施できるのがアンケートによる定量調査。現状を知る目的でも利用できますし、半年に1回、1年に1回など、定期的に実施することで組織の変化を数値として把握するのにも使えます。
数値では測れない、従業員の生の声を知りたい場合は、インタビューによる定性調査が有効です。具体的に気になっている点などを深掘りしやすい半面、自社で行う際は、誰の意見なのかが分かるため本音で話をしてもらうような工夫が必要でしょう。
手法1と手法2は、それぞれ単独で行うのも一つですが、定量調査の後に定性調査を行うという選択肢もあります。簡単に調査の手順とポイントを解説します。
調査を実施することが決まったら、以下の流れで実施の準備を進めます。
従業員に快く調査に応じてもらえるよう、調査の目的を明確にし、対象者に伝えられるように言語化することが重要です。目的が決まれば調査手法や対象者も自ずと絞られてきます。
従業員にしっかりと回答してもらいたかったら、繁忙期を避け日程を決めましょう。そして質問項目を決めたら調査を実施。調査結果は、内部用と全体報告用の両方を作り、結果を報告できるよう進めていきましょう。
社内向けの調査を実施する際は、本音で回答してもらえるよう、どのような回答であっても人事評価などには一切影響しない旨、丁寧に伝えることが重要です。
匿名にするか、記名式にするかの検討も必要でしょう。匿名のほうが本音を集めやすくなりますが、追加での聞き取りが不可能です。一長一短あるので、質問内容や社風に合わせて検討しましょう。
経営層はネガティブな回答を避けたいと考えがちですが、本当の課題を把握したいのであれば、質問項目を経営層に合わせすぎないよう注意が必要です。
従業員満足度を高めることに成功した事例を3つご紹介します。従業員満足度を高めることで、どのような良い効果があったのかも触れていますので、ぜひ参考にされてください。
めっきや表面処理加工を主力に小ロット多品種生産を得意とする「日本電鍍工業株式会社(従業員73名、資本金1,000万円)」。「従業員満足度を高めるには、トップダウンではなく、従業員が自らの事業に対する当事者意識を高め、判断していく力を築き上げていくことが重要である」と考えた伊藤麻美社長が取り組んだのが、従業員の教育の強化とリーダー層の育成です。
社外で開催される様々な勉強会へ積極的に参加を促し、リーダーを目指したい従業員については、外部講師によるリーダー教育を受けてもらっているとのこと。この結果、従業員の意識がかわり、様々な意見が出てくるようになったそうです。そして、新たな事業領域への参入を果たしました。
事例2は、書籍「うまくいかないホテル・旅館・飲食店を従業員満足(ES)の再構築で蘇られる―ママインド編―」からの紹介です。
グループ内他企業から赤字分を補填してもらい生き延びている状況だったホテル。3年間ほど給与ベースアップなし、ボーナスなしの状況で、従業員もその状況が仕方ないという雰囲気だったそうです。
そこで従業員には経営状況の把握をしてもらい、前年同月を上回る売り上げを目標に設定。そして前年同月比で20%以上アップした場合は、上回った金額の5%をスタッフに還元、大入袋を出すことにしたそうです。
開始した翌々月には100円程度、10カ月後には数千円の大入袋まで成長。一般のスタッフも売り上げを気にするようになり、夏や年末年始の超多忙期も大入袋が働くモチベ―ジョンになっているそうです。
年中無休でフル稼働することが多いホテルや旅館業界で閑散曜日を休みとした事例が書籍「うまくいかないホテル・旅館・飲食店を従業員満足(ES)の再構築で蘇られる―マインド編―」の中で紹介されています。
シフト制で働くことが多いホテルや旅館の従業員にとって、毎週決まった曜日が休みというのは、自分のスケジュールを立てやすいと想像以上に好評だったそうです。火曜日を休館日にすれば、月曜休みのスタッフと水曜休みのスタッフに分け、それぞれ2連休を取りやすくすることも可能。
閑散曜日は売り上げより経費のほうが掛かっている状態だったそうで、経営、従業員満足度の両面からよい効果が生まれているとのことです。
従業員が会社などの所属組織に対してどれだけ満足しているかを表す指標である「従業員満足度(ES)」。多くの企業が企業の生産性向上や業績アップにつながると期待しています。
しかし従業員満足度向上のための施策は、決して魔法のような手法ではなく、地道な努力が必要なことがお分かりいただけたことでしょう。加えて、従業員満足度を高めることで生まれる可能性についても存分に感じていただけたことと思います。
できることから従業員満足度の向上施策を始めていきたいですね。