企業が成長し続けるために欠かせない「人材育成」。その重要性は、企業規模、業種にかかわらず多くの人が感じていることでしょう。一方で、次のような理由から人材育成が思うように進まないと悩んでいる企業も少なくありません。
そこでこの記事では、人材育成の手段のひとつである「研修」について取り上げ、ビジネス上での成果につなげるためにはどうしたらよいか詳しく解説します。
研修とは、そこで得た知識を仕事で活用し、職場で結果を出すために行われるものです。主なものとして、OJT研修、新入社員研修、管理職研修、職種別研修、コンプライアンス研修、自己啓発研修などが挙げられます。
また誰が講師を務めるかで、社内研修と外部研修の2つに分類可能です。
社内研修 |
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外部研修 |
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社内研修は、外部に委託せず社内で実施する研修を指します。企業の社風や経営理念、ビジョンに沿い、実態にあったコンテンツを企画しやすいのが特徴です。
外部研修は、外部の企業や個人に委託して実施。講師はその分野のプロフェッショナルが務めることが多いです。社内にないスキルや思考方法を学べるのが最大のメリットでしょう。近年は集合型の研修だけではなく、オンラインによる研修も増えています。
研修の目的は、ビジネス上で結果につなげること。受講することにより、認識や能力、態度、行動などが変わり、仕事で成果につながれば、その研修は成功と言えます。そういう意味で、「多くの知識が得られた」「参考になる情報が多かった」で終わる場合は、研修の目的を達成していないと言っても過言ではありません
この点を念頭において、企業側と受講生側から研修の目的を考えてみましょう。
企業経営において重要になってくるのが「ヒト」。そのヒトを最大限に生かすために行うのが人材育成であり、育成する手段のひとつが研修です。
独立行政法人 労働政策研究・研修機構は、2017年8月に「人材育成と能力開発の現状と課題に関する調査結果(企業調査)」を発表。この中で、従業員に対して実施する人材育成・能力開発において、「効果がある」「ある程度効果がある」と考える企業割合が多い項目は以下の順でした。
(参照元:人材育成と能力開発の現状と課題に関する調査結果(企業調査))
つまりスキル的な向上に加え、従業員のやる気にも大きく影響するのが人材育成・能力開発と言えます。
受講者側、つまり従業員目線で考えると、研修を受ける目的はスキルアップ。一般社団法人 日本経済団体連合会は、2020年1月に「人材育成に関するアンケート調査結果」を発表しました。
(参照元:人材育成に関するアンケート調査結果)
同調査によると、7割強が会社主導のキャリア形成となっており、「自律的にキャリア形成をしている」の回答を大きく上回っています。つまり会社主導の研修が従業員のキャリア形成に大きな比重を占めているのが現状です。
研修には主に「OJT研修」「OFF-JT研修」「自己啓発」の3種類があります。このうち「OJT研修」と「OFF-JT研修」は企業側が提供し、業務としての位置づけで実施。一方の「自己啓発」は従業員が自ら学ぶもので、企業によっては補助や支援制度などが用意されています(参考:HRインスティテュート著『図解 オンライン研修入門』)。
(参照元:図解 オンライン研修入門)
研修の種類 | 解説 |
OJT | 日常の業務に就きながら行われる教育訓練のことをいう。直接の上司が、業務の中で作業方法等について、部下に指導することなどがこれにあたる。 |
OFF-JT | 業務命令に基づき、通常の仕事を一時的に離れて行う教育訓練(研修)のことをいい、例えば、社内で実施する教育訓練(労働者を1か所に集合させて実施する集合訓練など)や、社外で実施する教育訓練(業界団体や民間の教育訓練機関など社外の教育訓練機関が実施する教育訓練に労働者を派遣することなど)を含む。 |
自己啓発 | 労働者が職業生活を継続するために行う、職業に関する能力を自発的に開発し、向上させるための活動をいう(職業に関係ない趣味、娯楽、スポーツ健康増進等のためのものは含まない)。 |
(出典:令和元年度の「能力開発基本調査」)
それぞれに特徴がありますので、メリット・デメリットも含めてみていきましょう。
OJTとは「On the Job Training」の略で、現場での実務を通して部下の力を上げる指導法のこと。新人教育で用いられることが多く、先輩や上司が教育担当として部下に技術や知識を教えます。実務を体験しながら覚えてもらうという点が最大の特徴です。
厚生労働省が実施した令和元年度の「能力開発基本調査」によると、計画的にOJTを実施しているのは66.2%で、対象は新入社員が56.5%、中堅社員が40.1%、管理職層が24.2%となっています。
(参照元:能力開発基本調査)
具体的にどのような取り組みを行っているかは、「人材育成と能力開発の現状と課題に関する調査結果(企業調査)」によると、「とにかく実践させ、経験させる」(59.5%)が最も多く、次いで「仕事のやり方を実際に見せている」(55.2%)、「仕事について相談に乗ったり、助言している」(50.8%)の順で高い割合になっています。
(参照元:人材育成と能力開発の現状と課題に関する調査結果(企業調査))
また同調査によると、OJTがうまくいっている企業は、うまくいっていない企業と比較して、現在の従業員の仕事上の能力に対して満足している割合が、管理職の正社員で31.5ポイント、非管理職の正社員で39.5ポイント高いという結果が出ています。
(参照元:人材育成と能力開発の現状と課題に関する調査結果(企業調査))
つまり、OJT研修をうまく機能させることで、会社が求める能力を持つ従業員を育成できる可能性を高められると言っていいでしょう。
OJT研修は、現場で実務を通して教えるため、習熟度に合わせた指導を行いやすく、実践に生かしやすいのが最大のメリットです。また職場内でのやり取りから学ぶため、人間関係の構築にも一役かっていると言えるでしょう。
人事コンサルタントで社会保険労務士の松下直子氏は、著書『OJTで面白いほど自分で考えて動く部下が育つ本』の中で、仕事の現場におけるOJTの利点として次の8点をあげています。
独立行政法人 労働政策研究・研修機構は、「人材育成と能力開発の現状と課題に関する調査結果(労働者調査)」を2017年8月に発表。この中で、OJTにより「仕事の幅」(38.7%)、「専門性」(30.8%)が高まったと感じている人の割合が高いという結果が出ています。
(参照元:人材育成と能力開発の現状と課題に関する調査結果(労働者調査))
前述したOJT研修のメリットは、あくまでもOJTがうまくいった場合の利点。「人材育成と能力開発の現状と課題に関する調査結果(企業調査)」によると、「あまりうまくいっていない」が20.1%、「うまくいっていない」が1.2%で、2割程度の企業はOJTがうまくいっていないのも現状です。
業種別にみると、OJTがうまくいっていない企業の割合は、「卸売業、小売業」(計25.9%)、「宿泊業、飲食サービス業」(計29.8%)、「生活関連サービス業」(計26.4%)が若干高くなっています。
(参照元:人材育成と能力開発の現状と課題に関する調査結果(企業調査))
松下直子氏は、同著書の中で、OJTの特質・難しさについて、次のように指摘しています。
また「人材育成と能力開発の現状と課題に関する調査結果(企業調査)」によると、人材育成・能力開発全般における課題として、「指導する人材が不足している」(33.2%)の回答が最も多くなっています。
(参照元:人材育成と能力開発の現状と課題に関する調査結果(企業調査))
つまり教える側の上司の負担が大きいのがOJT研修の難しさであり、最大のデメリットと言えるでしょう。OJTの基礎知識に関しては、以下の記事で詳しく解説しています。
業務命令に基づき、通常の仕事、実務から一時的に離れて行われるのがOFF-JT研修。座学やグループワークなどを通して仕事に必要な知識・スキルを学びます。
OJTの場合は、上司の負担が大きく、OJTの成功は上司による部分が大きいという面がありますが、この部分を補完する意味合いから効果的なのがOFF-JT研修です。
「能力開発基本調査」によると、令和元年度にOFF-JT研修を実施した事業者は76.0%で、対象は新入社員が64.2%、中堅社員が63.8%、管理職層が51.3%と、OJT研修よりも実施割合は高くなっています。
(参照元:能力開発基本調査)
またOff-JT研修の効果については、「人材育成と能力開発の現状と課題に関する調査結果(企業調査)」によると、従業員数が9人以下の小規模企業で約8割、それ以上の規模の企業で約9割が、「効果があった」もしくは「ある程度効果があった」と回答しています。
(参照元:人材育成と能力開発の現状と課題に関する調査結果(企業調査))
利用したOFF-JT研修の実施機関は、「業界団体」(41.7%)が最も多く、次いで「自社で行った」(29.2%)となっています。
(参照元:人材育成と能力開発の現状と課題に関する調査結果(企業調査))
OFF-JTの内容については、「仕事をする上での基本的な心構えやビジネスの基礎知識を習得する研修」(44.8%)の回答割合が最も高く、次いで「新規採用者、主任、課長、部長など各階層ごとに求められる知識・技能を習得させる研修」(34.1%)、「仕事に関連した資格の取得をめざすための研修」(31.3%)の順で割合が高いという結果が出ています。
(参照元:人材育成と能力開発の現状と課題に関する調査結果(企業調査))
OFF-JT研修は、一度に複数の社員に研修ができ、均質的な教育ができるのがメリットです。また必要な知識を体系的に学べます。
近年は新型コロナウイルス感染症の影響もあり、集合・対面型の研修からオンライン研修へ切り替える企業も増えています。書籍『図解 オンライン研修入門』の中では、集合型とオンライン型にわけてOFF-JT研修のメリット・デメリットが分かりやすく紹介されていました。
(参照元:図解 オンライン研修入門)
集合型の場合、受講生同士の交流から得られるメリットが多く、オンライン型の場合は、費用・時間効率が良いのが特徴ですね。
OFF-JT研修のデメリットは、現場から離れて学ぶため、学びっぱなしになりやすく実践に活用できないケースがあると多々言われます。
また前述した「集合型研修とオンライン研修の違い」の表より、集合型の場合は時間や場所の拘束、費用がかかる点などがデメリットで、オンライン型の場合は集合型のデメリットは改善される傾向があるものの、ネットワーク環境やシステム面などがデメリットになりやすいことがわかります。
コストについては、「人材育成と能力開発の現状と課題に関する調査結果(企業調査)」によると、従業員一人当たりの支出金額の平均は14,345.4円とのこと。また従業員規模が少ないほど、従業員一人当たりでみたときの費用的な負担が大きいという結果が出ています。
(参照元:人材育成と能力開発の現状と課題に関する調査結果(企業調査))
自己啓発の明確な定義はありません。一般的には、社員が職業生活を継続するために行い、職業に関する能力を自発的に開発し、向上させるための活動のことを指します。資格取得も自己啓発のひとつ。ポイントは「何を学ぶか」。あくまでも仕事に関する内容を指します。OJT研修やOFF-JT研修を補完する役割だとお考えいただくとよいでしょう。
自己啓発本を読んだり、セミナーや講習会、異業種交流会に参加したり、eラーニングで学んだり、大学や大学院に通ったり、さまざまな形で行われています。特に近年はオンラインで学べるセミナーや講座が人気です。
「人材育成と能力開発の現状と課題に関する調査結果(企業調査)」によると、会社として支援を行っているのは、30.3%。業種別だと「金融業、保険業」が57.1%と最も高く、規模別だと規模が大きくなるほど支援を行っている割合が高く、300人以上だと58.2%が支援を行っていることが分かります。
(参照元:人材育成と能力開発の現状と課題に関する調査結果(企業調査))
OJTやOFF-JTは会社主導で行われる一方、自己啓発は、自発的な学びである点が大きく違います。このため自分の課題が明確になり、自分が必要なスキルを自分のペースで学べるのがメリットです。またキャリアを考えるよいきっかけにもなるでしょう。
自分で進めなければいけないため、優先度が下がりがちで、続かないケースが少なくありません。また学んだことをどうビジネスに活かしていくかが課題になりやすいのがデメリットです。
研修を開催するまでの流れは、中村文子、ボブ・パイク著の『研修デザインハンドブック』にとても詳しくまとめられています。とても参考になる一冊ですので、研修を開催する立場の方は、ご一読いただくことをおすすめします。ここでは、大きな流れを概要だけご紹介します。
目指す形と現状に差異があり、それを埋めるために行うのが研修です。会社が求めている成果を出すために課題になっているのか何か、必要な能力は何かといったことを掘り下げていきます。
課題解決に必要なのは、研修とは限りません。システム面で解決できることもあれば、既にスキルを持つ人の採用、人材配置の見直しが最適な場合もあります。しっかりと検討を行い、研修の目的を定めましょう。この段階で、研修に参加することで得られるメリット、習得できる内容とレベルまで明確にできると理想です。
研修の目的、内容により、誰を対象にするかは変わってきます。新入社員、管理職といった階層を対象にするのか、部・課単位、事業部単位などの職種別なのか、はたまた個人、会社全体なのか。
どこの層に課題があるのか見極めたうえで、研修の対象者を決定します。
次に、目的を達成するために最適な研修方法を検討します。
例えばスキルの習得が目的の場合、講師がレクチャーした後に、役割を決めたロールプレイや、実際の場面を想定したスキルの練習を組み合わせると良いなど、アイデアを出し合いましょう。
基本的な知識の習得は、事前にeラーニングでインプットしてもらい、研修当日はその知識をもとに自分たちで考える時間を作ったり、ディスカッションをしたりする時間にあてるのもひとつの方法です。
予算やスケジュールも考慮しつつ研修方法を決めていきましょう。
研修の概要が決まったら、運営スタッフを決定し、詳細を詰めていきます。以下のような担当者が必要です。
研修内容が決まったら、対象者への案内を進めます。日時や研修の目的、テーマ、事前に準備してきてほしいことなどを伝えましょう。必須の研修でない場合は、締切までに参加の有無を連絡してもらいます。
準備段階で入念に検討をしたほうがよいことを3つご紹介します。こちらも『研修デザインハンドブック』で詳しく紹介されていますので、ぜひお読みください。研修の成功は、準備が8割だとお考えいただくといいでしょう。
研修の目的を決める際の材料になるのがニーズ調査と分析。繰り返しになりますが、研修を実施するという前提から入るのではなく、そもそも研修が必要なのか、もっと言えば、課題解決のために最適な方法は何なにか、一度フラットに検討することが重要です。
具体的には以下のような視点でニーズ調査を行うとよいでしょう。このときに一般社員だけでなく、管理職や経営層、クライアントにも行うと、より実態に沿った結果が得やすくなります。
調査を行ったら、望む形を作るためにはどうしたらよいのか分析を行います。
研修の対象者が決まったら、参加者がどの程度知識を持ち、研修で何の知識を習得する必要があるのか分析します。専門用語をどの程度知っているのかも把握しておきたいところです。
加えて、研修で学んだことを現場で実践可能な環境があるのかもリサーチしておきましょう。上司の理解がない、繁忙期だと実践する時間的な余裕がとれないといったことが予想できる場合は、研修前に対策を考えておく必要があります。
研修の内容をビジネスに生かし成果を上げるために、研修後のフォローアップについても準備段階で詰めておきましょう。参加者が研修終了後に、「どう実践し、どんな成果を出すか」まで考えて研修を企画します。
例えば、成果発表の場を設けるのはフォローアップのひとつです。また参加者が実践に移しにくい環境であれば、定期的にフォローアップメールを送ったり、上司との面談を設けたり、課題を出したり、相談し合える場を用意したり。準備の段階でどうするか決めておきましょう。
経済産業省は、2019年に「変革の時代における人材競争力強化のための9つの提言」を発表。人材育成のための研修は、人事施策の域を超え、経営層を巻き込んだ長期的な視点を持ち実施することが重要なことが分かりますね。この点は、研修の前提として常に意識しておくといいでしょう。
(参照元:変革の時代における人材競争力強化のための9つの提言)
眠くなる研修と眠くならない研修。何が違うと思いますか。講師の面白さでしょうか? もちろんそれもひとつですが、講師頼みではなく、工夫次第で眠くない、効果的な研修が可能です。そのポイントについて、『研修デザインハンドブック』を参考に、科学的な根拠も紹介しつつ、3つ解説します。
医学的、生理学的に、人間の集中力の持続時間は90分が限界だと言われています。実際、大学の講義も90分単位ですね。つまり研修に集中してもらうためには、少なくとも90分に1度休憩をとれるように時間配分を考える必要があります。半日の研修であれば、90分×3コマといったイメージです。
ただし、90分というのはあくまでも集中力の限界持続時間。90分ずっと講師が話す形式、受け身の状態で参加者に集中してもらうのは無理があります。つまり、90分を大きなくくりとして、90分の中の構成をどう作るかも大事です。
そのときに基準としたいのが20分という単位。忘却曲線を発見したドイツの心理学者Hermann Ebbinghaus(ヘルマン・エビングハウス)氏による実験から、「20分後に42%が忘れられ、短時間で繰り返すと長期記憶に結びつく」ことが分かっています。
この結果をもとに考えると、今習ったことを半分以上記憶している20分をひとつの単位として構成を考え、重要なことは繰り返し触れて、参加者の記憶への定着を目指すのが有効です。
具体的には、90分のうち、最初と最後の5分ずつをオープニングとクロージングにあて、残りの80分を20分×4単位に分けて考えます。20分でひとつの項目をマスターできるよう組み立て、その中で「レクチャー(情報提供)」→「クイズなどの参加型のもの」→「レクチャー」→「まとめなど振り返りの時間」といった構成を基本に考えてみてください。
受け身の状態が続くのも集中力を欠く原因になりますので、間で積極的に参加できるような時間を組み込むのも大事です。
参加者の印象に残りやすいのがオープニングとクロージング。効果的な研修を行おうと考えるなら、この2つの組み立てには細心の注意を払いましょう。
参加者が研修に集中できるようスイッチを入れ、学ぶ意欲を高める役割を担うのがオープニング。
最初にクイズを出し答えを紙に書いてもらったり、近くの席の人と自己紹介しあったり、参加者を巻き込んだ取り組みをすると、自然と気持ちが研修へ向きます。学ぶ意欲を高めるためには、「へー!」と驚くようなもの、好奇心をくすぐるようなものを用意しておくのはひとつ。自発的な学びの意欲を引き出すきっかけになります。
研修での学びを実践に移すために重要になるのがクロージングです。ポイントを記憶に定着させ、職場に戻ってからのアクションプランを立てる時間だと考えるとよいでしょう。90分単位で学んだ内容を結び付け、全体を俯瞰し、整理する時間を設けます。
最後は、「もっと勉強しなくては」という意識を持ってもらうよりも、研修に参加した達成感を味わってもらえるような流れにするのがおすすめです。達成感こそ、次のアクションへの原動力になるでしょう。
高いモチベーションを持ち、研修に望んでもらいたい、そのためのヒントが『研修デザインハンドブック』で詳しく紹介されています。
特に方法1と2は、研修の準備段階からアプローチできる内容です。参加者に学ぶ必要性を認識してもらい、自分事に感じてもらうのが最初の一歩だと考え、積極的に関わっていきたい部分ですね。
モチベーションを参加者自身に委ねるのではなく、積極的に高める工夫をしていくことが大事でしょう。
新型コロナウイルス感染症の影響で、これまで一般的だった対面型の集合研修を行えなくなり、注目が集まり増えているのがオンライン研修です。研修担当者にとっては、積極的にオンライン研修を選んだというよりは、仕方なくやるというスタンスが大半だったことでしょう。
しかしその取り組みは、代替的な研修の変化ではなく、今後の教育のあり方や人材育成のあり方、講師や人事担当、人材開発担当の役割、位置づけを見直す機会をもたらしたと、コンサルティング会社「HRインスティテュート」は、著書『図解 オンライン研修入門』の中で述べています。変化として得られたものは次の3つとのこと。
まさに今、人材育成、研修そのものが大きく変わろうとしていると言ってもよいでしょう。
オンライン研修の最大の特徴は、場所を問わずに参加できること。移動時間もかからず効率的に学べるのがメリットです。丸一日拘束せず、短時間で何回かに分けて開催できたり、スケジュールの都合で参加できなかった場合に、録画を確認してもらえたり、集合研修にはない良さもあります。
また集合型の研修だと、存在感がある人や声の大きい人が中心になりがちですが、オンラインの場合は対等な関係を築きやすくなります。チャットで質問を受け付けるケースも多く、その場合、会場で挙手するよりも、心理的なハードルが下がりますね。
企業側からすると、会場の手配が不要で、旅費や宿泊費もかからないため、費用を抑えられるのも魅力です。
一方でデメリットも。オンラインの場合、一般的に集中力が保ちにくく、受け身になりやすいと言われています。カメラを付けて参加している場合も、講師から見えるのは一部分だけ。このため仕事のメールが気になりチェックしたり、携帯を見たり、気が散りやすくなります。
また受講生同士の交流が減ったり、講師側からすると参加者の反応が得にくかったりといった面も。内容的なものだと、実習には不向きなことが多いです。
オンライン研修特有のものとしては、ネットワーク環境に左右されること。接続が不安定になったり、音声が聞き取りにくかったりといった環境面でのストレスがかかりやすくなります。
前述した通り、オンライン研修にもメリット・デメリットがありますので、その特徴をいかした活用がカギになります。
講師が一方的に話をする形式ではなく、受講者の参加を促すようなメリハリのある運営がオンライン研修を成功させる秘訣です。アウトプット重視で研修を組み立てるとよいでしょう。
投票機能などを使いリアクションをもらったり、チャットに考えを書いてもらったり。グループワークも効果的です。話すタイミングをとる難しさがあるので、ひとグループの人数は集合研修より少な目の3~4人に。
知識の補完が必要な場合は、研修の事前課題としてeラーニングを受講してもらったり、動画を用意して観てもらったりしておくと、研修当日はアウトプットに集中できますね。参加者にとっても、eラーニングや動画は、都合のよい時間に、繰り返し確認できるなどの良さがあります。
企業がオンライン研修を実施する場合、Web会議ツールを用い独自の研修を組み立てる方法と、外部のオンライン研修サービスを用いる方法の2パターンがあります。集合研修と違う部分を中心に、それぞれ解説します。
自社で独自のオンライン研修を行う場合は、Web会議ツールを用います。不慣れな場合は、少ない人数、短い時間から始めるのがおすすめです。運営スタッフでまずはテスト的に実施するのもよいでしょう。
研修当日は機器の不具合が発生する可能性もゼロではありません。事前に確認を行うのはもちろんのこと、パソコンの予備もあると安心です。パソコンにチャットなどの通知が届くように設定している場合はオフにしておきましょう。
研修を行うにあたり、必要な機能は、「画面共有機能」「ビデオ通話機能」「チャット機能」の3つ。
集合研修でいうところのプロジェクターの役割をするのが「画面共有機能」です。手元で資料を見てもらう形だと、講師と資料の両方を一度に見ることができず集中力が切れる要因になります。
「ビデオ通話機能」は、顔を見て話せることで講師と受講生、受講生同士の関係を深める効果が期待できます。常時、カメラをオンにしておくのは落ち着かないという考えもあるため、社風にも合わせて使いたいところですね。
参加者が受け身にならないよう有効に活用したいのが「チャット機能」です。質問をチャットであげてもらい講師が解説をするのに使ったり、発表がわりに使ったり、アクセスしてほしいWebサイトのURLを伝えるのに使ったり。もしWeb会議ツールのチャット機能が使いにくい場合は、外部のチャットサービスを利用するのもひとつです。
その他、グループワークをメインにするなら「セッション設定機能」があると当日のオペレーションが楽になります。アンケートや投票機能を備えたツールだと、その場で回答してもらい結果をグラフ等で表示させることも可能。研修にメリハリをつけやすくなります。
研修の準備の流れは、集合研修と同じです。オンラインの特徴を意識して組み立ててましょう。
オンライン研修のノウハウが自社にない場合は、外部のオンライン研修サービスを用いるのが、準備の面や研修の質を担保するという意味からも有効です。
オンライン研修サービスは、研修やOJTのオンライン化をサポートし、育成の質向上とコスト削減の両立を実現するものです。
ここまでに研修には、OJT研修、OFF-JT研修、自己啓発の3種類があり、それぞれに良さと課題があることをお伝えしました。例えば、OJTの有効性は多くの企業が感じているものの、教える側の上司の力量に左右されやすく、上司の負担が高いというのがありましたね。
一般的なオンライン研修サービスは、場所や時間を選ばずに研修が進められることが特徴です。動画やPDFで基本的な知識・マニュアルを学ぶことができ、教育担当者は研修受講者の進捗状況も管理できるようになります。
受講者と教育担当者間での密なコミュニケーションが取れるサービスもあるので、一人ひとりに合ったきめ細かなサポートも可能になります。
基本的な知識やマニュアル的な内容を個別に教える必要がなくなり、教育の質が担保できるうえ、上司の負担は軽減。その分、個々の足りない部分や間違っている部分の指導に集中できるので、OJTや集合研修の効果を最大化することができます。オンライン研修に関しては以下の記事を参考になさってください。
ビジネス上での成果につなげるために実施するのが「研修」。社員、経営層、顧客のニーズを調査したうえで、研修の目的を明確にするのが、最初の第一歩です。
その上で、研修後のフォローアップまで含めて計画を立てます。研修当日のプログラムは、時間配分を意識して、組み立てるのがポイント。参加者の自発的な学びへの意欲を高め、研修後につなげましょう。