オンライン研修とは?質が上がらない原因やメリット・デメリットをわかりやすく解説!
2020年春、コロナ禍で人が集まることが難しくなり、従来から企業で行われていた集合型の研修の見直しを迫られる事態になりました。そこで注目されたのがオンライン研修です。
多くの企業が手探りでオンライン研修を導入し、企業によりオンライン研修が各段に進んだところもあれば、出口の見えない迷路に入ってしまったところも出てきました。
本記事では、オンラインでの研修に切り替えて成功しているアパレル大手株式会社ユナイテッドアローズと美容脱毛大手株式会社ミュゼプラチナムの成功事例をご紹介するとともに、どのようにオンライン研修を活用していくと質を高めることができるのかについて、オンライン研修の基本をおさえつつ解説します。
オンライン研修とは?
オンライン研修とは、パソコンやタブレット、スマートフォンを使い、インターネットを介して流れてくる映像などをみながら受講する研修スタイルです。講師と参加者は別の場所にいて、場所を問わず参加できます。
オンライン研修は大きく2種類に分類されます。1つは、Web会議ツールなどを用いてリアルタイムに行うもの。このライブ配信型のオンライン研修は、従来から行われていた対面型の集合研修と同様、双方向でコミュニケーションをとりながら進めます。
もう1つは、専用のサービスを活用したeラーニング形式のものです。参加者は自分の都合にあわせて受講します。教材は、録画した動画やテキストに加えて、確認テストなどバラエティに富んだ内容を準備でき、進捗や理解度などの記録が残ります。
オンライン研修拡大の背景
2019年12月に新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が武漢で発見され、2020年1月末に世界保健機関は「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」を、同年3月に「世界的大流行(パンデミック)」を宣言。日本では同年2月に指定感染症および検疫感染症に指定され、同年4月に第1回目の緊急事態宣言が出されたのは記憶に新しいところです。
それに伴い、在宅勤務(テレワーク)の推奨や時差出勤など、人との接触を減らす取り組みが呼び掛けられ、私たちの働き方は大きく変化しました。多くの企業では、新入社員研修を行う時期に、突然従来から行われていた対面での集合研修が行えなくなったわけです。
eラーニング戦略研究所が2020年12月に発表した報告書によると、74.7%もの企業が「コロナで新入社員研修が実施できなくなった」と回答しています。
(参照元:eラーニング戦略研究所)
そこで多くの企業が手探りで始めたのが、非対面で行えるオンライン研修でした。実際、同報告書によると、オンライン研修の導入時期は2020年2月以降が65%で、そのうち3~5月が全体の52%を占めており、集合研修の代替としてオンライン研修が導入された様子が読み取れます。
(参照元:eラーニング戦略研究所)
また国の施策として、雇用調整助成金の対象となる教育訓練の範囲に、緊急対応期間内に限り、通常の雇用調整助成金では助成対象外となる、オンライン研修も支給対象となりました。加えて、半日訓練半日就業も可能になっています。
従来の研修とオンライン研修の違い
次に、従来型の研修である対面型の「集合研修」とオンライン研修の違いについて、見ていきましょう。HRインスティテュート著『図解 オンライン研修入門』がとても参考になりますので、こちらの書籍に基づいて解説します。
(参照元:図解 オンライン研修入門)
研修についての詳しい解説は以下の記事をご覧ください。
■参考記事はこちら
研修とは?種類や効果的な方法をわかりやすく解説!
従来の研修
従来の研修、つまり対面型の集合研修の最大の特徴は、教育担当者と研修参加者とが直接会って時間と場を共有できること。その結果、人間関係作りや人的ネットワーク作りが進みます。
一方で、集まるための負担も少なくありません。時間が拘束されることから、忙しい人ほど参加しづらかったり、日程の調整が必要だったりします。また会場までの交通費や宿泊費などが必要です。
オンライン研修
オンライン研修の最大の特徴は、場所を問わず参加できること。参加者からみると、会場までの移動が必要なく、遠隔地からでも参加でき、忙しい人でも参加しやすくなります。運営側からみても、会場の手配や交通手段の手配など準備の負担を減らすことが可能に。
一方で、途中で接続が切れるなどネットワーク環境によるトラブルが起きる可能性があるため、良好な接続環境を用意するなどの対策は必要になります。
オンライン研修のメリット
ここからは前章でご紹介した『図解 オンライン研修入門』の表で取り上げられている特徴について、もう少し掘り下げて解説します。まずはオンライン研修のメリットを3つご紹介しましょう。
メリット1:時間と場所を問わずに参加できる
前述した通り、場所を問わずに参加できるのはオンライン研修の最大の魅力です。移動時間もかからず、効率的に業務を習得することができます。対面型の集合研修だと多くの場合、丸一日研修で拘束されますが、オンライン研修であれば、短時間で何回かに分けて開催することも可能。録画をしておけば、都合がつかなかった人が後日確認したり、不明点があった場合に見返したりすることもでき、集合研修にはない良さがあります。
オンライン研修の事例として、総務省統計局で国・地方公共団体の職員(教員を含む)向けに実施している統計研修があります。Webサイトに受講者の声が掲載されていましたので、いくつか抜粋して紹介します。時間と場所を問わずに参加できるメリットをご理解いただけるでしょう。
- 職場でできないときは、自宅でスマートフォンを利用して受講することができた。出張が多い職場でも受講しやすい。
- 統計という知識について、日常業務の中で学べる機会がなく、いつでも、場所を選ばずに専門家から学ぶことができ、大変よかった。
- モバイル対応なので、こちらの時間に合わせて学習できる。
- 一つの講義が短いので、スマートフォンで通勤時間帯に行うことができた。また、後からでも疑問に思った部分を繰り返し見ることができる点も知識の定着に繋がると思う。
メリット2:継続的な学びの場を作りやすい
場所を問わず、短時間での参加も可能なオンライン研修は、継続的な学びの場を作りやすいというメリットがあります。
例えば、事前にeラーニング形式で、業務内容を自主学習でインプットしてもらい、同じ時間に集まって実施するオンライン研修では学習内容をアウトプットする場に。そして後日、研修での学びを実践に生かすためのフォローをオンラインで実施するといったことが、従来の集合研修と比較すると手軽に行えます。いわゆる「反転学習」と呼ばれるスタイルも作りやすくなりますね。
人は時間の経過とともに忘れますが、学習に触れる期間を伸ばすことで、記憶が定着しやすくなり、学習効果の高まりも期待できます。反転学習(反転授業)については以下の記事で詳しく解説しています。
■参照記事はこちら
反転授業とは?研修に導入するメリットや失敗しない実践方法について、事例からわかりやすく解説!
メリット3:費用を抑えられる
企業側からすると、集合研修を実施する必要がないため会場の手配が不要で、旅費や宿泊費もかからないため、研修に伴うコストを抑えられるのは、大きなメリットです。費用対効果という側面から考えても、詳細は後述しますが集合研修とオンライン研修を組み合わせることでより効果を高められるでしょう。
オンライン研修のデメリット
オンライン研修を実施した企業は多くのメリットに気付いた一方で、デメリットも実感されていることと思います。よく言われるデメリットを3つご紹介します。
デメリット1:受講生同士の交流が減り、反応が得にくい
オンライン研修の場合、休憩時間に近くの席の人と雑談をする、研修終了後に親睦会を行い交流をするといった機会が各段に減少します。研修中もオンラインだと話すタイミングを見計らう必要があり、ディスカッションが盛り上がりにくいのも事実です。
また講師側からすると参加者の反応が得にくいという側面もあり、実習など内容によってはオンライン研修だけでは実施が難しいものもあります。
デメリット2:集中力を保ちにくい、受け身になりやすい
一般的にオンライン研修の場合、集中力が保ちにくく、受け身になりやすいと言われています。長時間モニターを見続けると、どうしても目が疲れますし、ヘッドフォンで聞き続けるのも耳への負担が大きいもの。
また周囲に参加者がいないうえ、カメラをオンにしても講師から見えるのは一部分だけ。このため少し集中力が切れると、仕事のメールが気になってしまったり、携帯を見てしまったり、気が散りやすくなります。
デメリット3:ネットワーク環境に左右される
オンライン研修特有のものとしては、接続の品質がネットワーク環境に左右されることが挙げられます。画面が止まってしまったり、音声が聞き取りにくかったりといった環境面でのストレスがかかりやすくなります。
参加者の中にはパソコンの操作やインターネットの利用に詳しくない方もいるかもしれません。そうした方へのフォローなど、運営側としてどうするかも事前に検討しておかないといけません。
反対に、講師側がネットワークやパソコンのトラブルに巻き込まれる可能性もあります。代替のパソコンやモバイルルーターの用意など、集合研修にはない準備が必要になってきます。
オンライン研修を導入した店舗運営企業が抱える課題
オンライン研修のメリットとデメリットが分かったところで、導入した店舗運営企業が具体的にどのような課題を抱えているのかみていきましょう。
課題1:研修の理解度と満足度の低下
MON株式会社が2021年2月に「コロナ禍における企業研修に関する調査」を発表しました。
同調査にて、オンライン研修を実施したと回答した方へ、研修を受けた社員の理解度はどうだったか尋ねたところ、「対面の時と比べて理解できていないと思う」と答えた方が46.8%、研修を受けた社員の満足度についても「対面の時と比べて満足できていないと思う」と答えた方が45.5%だったとのこと。半数近くが、理解度と満足度という面で納得いく内容になっていないことが分かります。
(参照元:コロナ禍における企業研修に関する調査)
課題2:社員同士の関係性の深まり
同調査によると、「社員同士の関係性が強くならない」という回答が53.2%、「他者からの発見、気づき、刺激がない」という回答が42.9%でした。オンライン研修のデメリットでもご紹介した「受講生同士の交流の減少」を不安、不満に感じている方が約半数に上るといった結果となっています。
(参照元:コロナ禍における企業研修に関する調査)
また「ロールプレイング」や「グループワークによる演習授業」など、研修受講生間の会話や交流がポイントとなる研修を取りやめた企業もあったとのこと。オンライン研修ならではの難しさを感じている企業も少なくないようです。
課題3:参加者の様子・理解度が分からない
対面型の集合研修であれば、講師は参加者の表情などから「メモをとりながら集中して受けているな」「講義に飽きてきたかな」「眠そうな人がいる」といった状況を把握できます。集中力が切れてきたなと思えば、声を掛けたり、休憩をとったり、様子を見て臨機応変に対応することが可能です。
しかしオンライン研修の場合、同じ時間にアクセスしてカメラをオンにしていても、得られる情報には限りがあり、参加者の様子が分かりにくいのです。この分かりにくさは、肌感的なものだけでなく、理解度についても同様です。配信中心のオンライン研修の場合は、専用のシステムを導入していないと、どこまで研修が終わっているかの進捗確認もできません。
オンライン研修導入で質が上がらない3つの原因
コロナ禍になり、研修をオンラインに切り替えた多くの企業では、研修をオンラインで行えることは分かったものの、次のステップとして研修の質への議論が始まっています。オンライン研修導入で質が上がらない原因を3つご紹介します。
原因1:全ての研修をオンライン化しようとしている
コロナ禍ということもあり、できる限りの研修をオンライン化しようと動いた企業も少なくないでしょう。しかし前述した通り、オンライン研修にはメリットだけでなくデメリットもあり、全ての研修に向いているわけではありません。
アフターコロナの時代には、どんな内容の研修をどの手段で行うかを見極めることが大事になってきます。例えば、社員同士の交流を促したいなら、3回の研修のうち、初回だけ対面で実施して、残りの2回はオンラインにするなど工夫をすると、集合とオンラインのどちらの良さも享受できます。
原因2:参加者主体の研修にできていない
デメリットの章でご紹介した通り、集中力を保ちにくく、受け身になりやすいのがオンライン研修です。これまでの集合研修と同じ方法で実施しても、残念ながらオンラインでは参加者も巻き込めません。
オンライン研修の場合は、教育担当者が意識して研修参加者を惹きつけ、巻き込む工夫が必要になってきます。
原因3:デジタル活用率が低い
パーソル総合研究所が実施した「コロナ禍における研修のオンライン化に関する調査」によると、オンライン集合形式の研修の場合、成果が出ていない企業と出ている企業でデジタル活用率に大きな差がありました。
オンライン集合研修だけを行うのではなく、動画視聴や学習履歴の分析、研修後のフォローに専用のオンライン研修サービスを活用することで、よりオンライン研修の成果を上げられる可能性があることが分かります。
(参照元:コロナ禍における研修のオンライン化に関する調査)
オンライン研修の質を高めるポイント
コロナ禍になり急に導入されたオンライン研修。まずは実施すること、実施できることが最優先でした。ですが、そろそろアフターコロナを見据えて、研修の質を高めるステージに入ってきています。オンライン研修の質を高めるにはどうしたらいいか、ポイントを2つ解説します。
ポイント1:ブレンド型研修の実施
前述した「コロナ禍における研修のオンライン化に関する調査」によると、現時点では知識獲得はeラーニング、対人関係スキル習得は対面集合研修、態度・マインド形成や専門技術スキル習得、人間関係構築はオンライン集合形式が選択されている傾向が見られます。
(参照元:コロナ禍における研修のオンライン化に関する調査)
急に始まったオンライン研修でしたから、まずはオンライン化することが最優先されました。しかし今後は研修手段の特性を見極めたうえで、使い分けていくことが重要です。
同調査では、研修テーマによって、対面とオンラインの研修で成果の出やすさに差が見られるという結果が出ています。
(参照元:コロナ禍における研修のオンライン化に関する調査)
またeラーニングとオンライン集合研修でも成果の出やすさに差が見られました。
(参照元:コロナ禍における研修のオンライン化に関する調査)
オンライン研修にメリット・デメリットがあるように、集合研修やeラーニングにも一長一短があります。その特徴を踏まえたうえで、ひとつの研修スタイルに固執せず、ブレンド型の研修を考えていくのが、オンライン研修の質を高めるためのひとつのポイントです。
ポイント2:「研修後のフォロー」と「没入感向上」
同調査では、研修形式別の有効な要因比較を発表しています。対面集合研修とオンライン集合研修を比較すると、学習期待感(学んだらいいことがありそう)は大きな違いはありません。
一方で没入感(集中できた)は、講師のインストラクションや服装のガイドラインがないことが影響。職務効力感(現場で使えそう)には、研修を受ける意味づけや資料の分かりやすさが影響しています。また研修の最終的な目標である行動変容(やってみた)へは、研修後のテストや実践成果を振り返る機会が影響していることが分かりました。
(参照元:コロナ禍における研修のオンライン化に関する調査)
オンライン研修の成功事例
最後にオンライン研修の成功事例として、2社ご紹介します。
事例1:株式会社ユナイテッドアローズ
オンライン研修で、内定期間で基礎レベルの底上げを行っているのが、アパレル大手の株式会社ユナイテッドアローズです。接客サービス業界は、対面のキャッチボールをしながらOJT中心で人材育成を行っている企業が少なくありません。そうした業界にある企業であっても、オンライン研修で一定の成果を上げています。
当初は、内定者に向けて行っていた集合研修の内容をより濃いものにするべく、オンライン研修を導入しました。従来の集合研修では、理念や心構え、挨拶、社会人として必要な基礎知識など、基本的な内容に時間を取られ、本当に対面で教えたい服の畳み方などの具体的な業務レクチャーができていませんでした。
そこでオンライン研修サービス「shouin+」を導入し、理念や心構え、挨拶など基本的な知識に関する動画をアップして、内定者はそれを見てから集合研修にのぞむように仕組みを変えたところ、業務習得が加速し、従来の研修では時間的に触れることができていなかった、より深い業務知識の習得や具体的な業務のレクチャーまで、集合研修内でできるようになりました。このようにオンライン研修には集合研修の質を高める効果も期待できます。
また「shouin+」の機能、遠隔ロールプレイング機能(動画レビュー)も有効活用しています。従来では、集合研修や実際の店舗に足を運んで直接見るしか確認の方法がなかった従業員のスキルチェックも、オンラインでできるようになりました。
例えば笑顔の作り方や服の畳み方といった課題に対して、自分で動画を撮影し、shouin+の中で本部宛に投稿してもらいます。そしてその動画を研修担当者が確認してフィードバックをします。内定者は、そのコメントを受けとめて改善することで、日々レベルアップしています。このようなオンライン研修特有の付加価値も上手く活用することで、従来の研修よりも効果を高めることができるのも大きな特徴です。
もともとは内定者研修からオンライン化しましたが、現在はその他の研修も基本オンラインで実施しています。コロナ禍ということもあり、集合研修(束矢大學)もweb会議ツールであるMicrosoft Teamsを使ったオンライン形式に切り替えており、「shouin+」と役割を分担して、さまざまな研修手法を上手くブレンドすることで研修・OJTの効果を高めています。
事例2:株式会社ミュゼプラチナム
美容脱毛サロンの運営・管理、化粧品の商品開発や販売を行う株式会社ミュゼプラチナム。全体で新人に寄り添い育成にあたっており、入社直後、入社3ヶ月、入社1年と定期的に研修を行っています。
技術力を高める必要があるため、本部から受講者への一方的な研修・座学では育成できず、大人数での集合研修を実施していたものの、日報やそれぞれのスキル記録を紙で管理していたため、煩雑になってしまっていました。育成体制に限界を感じて、導入したのがオンライン研修です。
これまで実施していた一連の研修の半分以上を、それぞれオンライン化。その結果、研修の効率化、質の向上、日報等の提出忘れが減少、管理もシンプルになりました。
日報にはリアルタイムで教育担当者からコメントを付けて返しており、それが新人のモチベーションにつながっています。動画トレーニングは自分のペースで理解しながら進められる点が好評です。
まとめ
従来の集合型研修に加えて、オンライン研修という新たな手段を手に入れた多くの企業。まだ試行錯誤は続きますが、ひとつの研修手段に固執せず、複数の手段を組み合わせたブレンド型の研修を考えていくことで、より会社としての目的達成に近づけるでしょう。