組織には、さまざまな背景・価値観を持つ人材が多数集まっています。まとまりのない集団を統率し、組織として機能させるには、方針や指標といった「軸」が必要です。
その役割を担っているのが「ガイドライン」です。本記事では、ガイドラインの定義や役割、マニュアルとの違いについて解説しています。作成する際のポイントなどもご紹介していますので、ぜひ最後までご覧ください。
ガイドラインとは?
ガイドラインは、ビジネスに限らず、さまざまなシーンで使われている言葉です。デジタル庁が発行する「デジタル社会推進標準ガイドライン」や、医療・福祉関連の「診断ガイドライン」などが有名です。よく耳にする言葉ではあるものの、改めて意味を聞かれると、よくわからないという人も多いのではないでしょうか。まずは「ガイドライン」という言葉の定義と、ビジネスにおける役割について解説していきます。
ガイドラインの定義
ガイドライン(guideline)は、英語で「指針」「指標」を意味する言葉です。辞書的には「行動や判断の目安となる基本的な方針」と定義されます。
ビジネスシーンでは、組織や個人が何らかの行動をとる際の「方向性を示す文書」として広く使われます。法律やルールのように強制力を持つわけではなく、「こうすることが望ましい」という推奨の性格を持つ点が大きな特徴です。
たとえば企業の「SNS投稿ガイドライン」であれば、投稿の際に避けるべき表現や意識すべき観点を示しますが、細かな手順を規定するわけではありません。状況に応じて担当者が自分で判断を下せる余地が残されています。このような「柔軟な指針」としての性質がガイドラインの本質といえます。
ビジネスにおける指針としての役割
ビジネスにおけるガイドラインは、組織としての「意思」を示す役割を担っています。組織全体でどのように考え、行動するか、共通の認識を持つことで管理が可能になります。品質や公平性の維持や、トラブル発生の防止などが狙いです。
また、ガイドラインは迷いを減らすためのものでもあります。組織および組織のメンバーが判断に迷ったとき、どちらへ進めば良いか示す「コンパス」のような役割を担っていると言えるでしょう。
マニュアル・手順書・ルールとの違い
ガイドラインという言葉を使っていても、中身を見るとマニュアルや規則に近いものになっているケースがあります。それぞれの違いを明確に理解しておくと、文書の目的に合った設計ができるようになります。
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比較項目
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ガイドライン
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マニュアル・手順書
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ルール・法律
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目的
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考え方・方向性の提示
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作業手順の明示
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行動の強制・禁止
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内容
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原則・判断基準
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具体的な操作・手順
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禁止事項・義務
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具体性
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低め(原則ベース)
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高い(ステップ形式)
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高い(明確な条文)
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裁量
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担当者に委ねる部分が大きい
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手順通りに行う
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なし
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強制力
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なし
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組織内での遵守を求める場合も
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あり(違反は罰則等)
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マニュアル・手順書との違い
マニュアルとは、業務の目的や取り組み方、注意点など、業務遂行に必要な情報が書かれた文書のこと。業務の標準化・効率化を目的とするもので、読み手全員に「マニュアル通りに行動すること」が求められます。
手順書は、「作業の手順」に焦点を当てたマニュアルの一種。具体的な作業の手順を示した文書のことで、「手順書を見れば、誰でも迷わず作業できる」状態を目指します。マニュアルと同様、読み手には”書かれている通り”に行動することが求められます。
一方、ガイドラインは方向性のみを示すもの。業務や改革の進め方や、向き合い方などを大まかに記したもので、マニュアルや手順書とは、内容も抽象度も異なります。また、ガイドラインに強制力はなく、最終的な判断は使用者各々に委ねられます。
ガイドラインは、大まかな道筋とゴールを示すもの。マニュアルや手順書は、そこへたどり着くまでのプロセスを具体的に記したもの。ポジションが異なるので、性質も違うのです。
ルール・法律との違い
ルールは強制力を伴う点でガイドラインとは根本的に異なります。社内規則であれば違反した場合に懲戒の対象となり得るし、法律であれば罰則が科されます。
ガイドラインは「推奨」であり、その方針に反したとしても直ちに罰則が生じるわけではありません。ただし、ガイドラインの多くは法令や業界標準を踏まえた上で策定されます。たとえば個人情報保護に関するガイドラインは、個人情報保護法の趣旨を前提にしながら、各組織が自主的に定める指針として機能します。
「強制されないから守らなくていい」という性質のものではなく、法令の精神を組織内に浸透させるための「自主的な指針」として位置づけると理解しやすいです。
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ガイドライン作成の重要性とメリット
組織が”組織”として成り立つには、秩序が必要です。秩序がなければ、それぞれが自分勝手に行動する無法地帯となります。そのような状態では生産性が上がらないどころか、経営を続けることさえ難しくなります。人材の多様性が進み、異なる価値観を持つ人との協調性が求められる今こそ、ガイドラインの重要性はますます高まっていると言えるでしょう。
ガイドライン作成の主なメリットとして「属人化の防止と標準化」「リスク管理」に注目して解説します。
属人化の防止と品質の均一化
特定の担当者しか対応できない業務は、その人が休んだり退職したりした途端に業務が止まるリスクを抱えています。経験や勘に頼るだけでは、組織としての安定した品質維持は難しいです。
ガイドラインを整備することで、個人のノウハウを組織の共有財産として蓄積することが可能になります。「あの人に聞けばわかる」という状態から、「ガイドラインを見ればわかる」という状態へ移行させることが目標です。
業務が標準化されると、教育の効率も上がります。新しいメンバーが加わった際に、先輩社員が一から口頭で説明する必要がなくなり、ガイドラインを起点にした研修設計も可能になります。全員が同じ水準の知識と判断基準を持てるようになると、チームとしてのアウトプットが安定しやすくなります。
コンプライアンス遵守とリスク管理
企業における不祥事の多くは、「何がアウトかを知らなかった」または「判断に迷ったまま行動してしまった」ことから生じます。ガイドラインはそのような状況を防ぐための判断基準として機能します。
たとえばハラスメント防止ガイドラインがあれば、管理職が部下との関係において「これはパワハラにあたるか」と迷ったときの参照先として使えます。情報セキュリティガイドラインであれば、「このデータは外部に持ち出していいか」という判断を個人の感覚に頼らずに済みます。
社会的信用を守る観点からも、ガイドラインの存在は重要です。取引先や顧客に対して「当社ではこのような基準で行動しています」と示せることは、組織への信頼につながります。
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ガイドライン作成の具体的な手順
ガイドラインは、組織が進む方向を決めるという重要な役割を担っています。継続的に見直し・改善を行うとはいえ、組あらぬ方向へ進まないよう、慎重に進めるべきと考えられます。
そのためには、準備が必要です。ガイドライン作成をどのように進めれば良いか、流れをご紹介します。
目的と対象者の明確化
最初に決めるべきは「誰に」「何を」伝えるためのガイドラインかという点です。目的と対象者が曖昧なまま作成を始めると、内容が散漫になりやすく、読み手にとって使いにくい文書になります。
対象者が新入社員であれば、業界用語や略語を避けてわかりやすい言葉を選ぶ必要があります。ベテラン社員向けであれば、前提知識を踏まえた上でより実践的な内容にするほうが有効です。
また、「このガイドラインが遵守されることで、何が改善されるのか」というゴールを設定しておくと、盛り込むべき内容と省くべき内容を判断しやすくなります。作成チーム内で認識を合わせるためにも、最初の段階でこの点を言語化しておくことが重要です。
構成案の作成と運用ルールの策定
目的と対象者が決まったら、次は構成案(目次)を作成する段階に入ります。全体の章立てを先に設計することで、情報の抜け漏れや重複を防ぎやすくなります。
構成案を作る際は、現場の担当者にヒアリングを行い、実際に判断に迷う場面やよくあるトラブルを洗い出すことが有益です。現実の業務で役立つ内容にするためには、机上だけでの検討には限界があります。
作成後は運用ルールの策定も欠かせません。ガイドラインは一度作って終わりではなく、法改正やビジネス環境の変化に合わせて定期的な見直しが必要です。「いつ・誰が・どのように更新するか」を事前に決めておかないと、古いまま放置されるリスクがあります。公開先・周知方法・改訂履歴の管理方法まで合わせて整備しておくと、長期的な運用がしやすくなります。
業界別のガイドライン事例と活用
ガイドラインは、業務で「迷った際の判断材料」として、さまざまなシーンで活用されています。なかでも医療・福祉業界、IT業界のガイドラインが広く知られています。
医療・福祉分野のガイドラインは、診断および治療、対応に迷ったときの指針として使われています。IT・セキュリティ分野のガイドラインは、企業のデジタル化に役立つ”手引き”のような位置づけです。具体的な例を挙げてみましょう。
医療・福祉分野のガイドライン
医療・福祉業界では「診断ガイドライン」が広く活用されています。「公益財団法 日本医療機能評価機構」が管理・運営しているもので、定義は以下の通りです。
健康に関する重要な課題について、医療利用者と提供者の意思決定を支援するために、システマティックレビューによりエビデンス総体を評価し、益と害のバランスを勘案して、最適と考えられる推奨を提示する文書。
引用元:「Minds診療ガイドライン作成マニュアル2020 ver.3.0.」Minds診療ガイドライン作成マニュアル編集委員会 公益財団法人日本医療機能評価機構 EBM 医療情報部
診断ガイドラインの役割は「医療者の意思決定を手助けする」こと。あくまでガイドラインなので、強制力はありません。状況に応じた判断が必要になりますが、参考材料として対応法を提示することで、医療・福祉業界の水準保持を図っています。
「診断ガイドライン」のほかにも、「一般社団法人 日本循環器学会」が運用する循環器病に特化したガイドラインなどもあります。いずれも基本理念、課題の一覧、対応法および推奨度などが記載されているのが特徴です。
IT・セキュリティ分野のガイドライン
IT業界におけるガイドラインの主な役割は、デジタル技術の導入・活用を試みる企業のサポートです。DX改革や情報セキュリティ対策を行うときの手続き、手順、ノウハウ、共通ルールなどが記載されています。
たとえば「デジタル社会推進標準ガイドライン」とは、その名の通りデジタル社会の実現に向けて作成されたガイドライン。企業のサービス・業務改革や、それに伴う政府情報システムの整備・管理に関する手続き、手順、参考資料などがまとめられたものです。
ほかにも「デジタルガバナンス・コード(旧 DX推進ガイドライン)」や「中小企業の情報セキュリティ対策ガイドライン」などがあります。経営者が実践すべき経営の指針や、主な課題、対策の重要性などが書かれており、デジタル化に向けた手引きとして活用されています。
まとめ
ガイドラインとは、強制力を持たない「指針」であり、組織や個人が判断に迷う場面での拠り所となる文書です。マニュアルが具体的な手順を定めるのに対し、ガイドラインは「あるべき姿」や「考え方の方向性」を示す点で異なります。
作成にあたっては、対象者と目的を最初に明確にすることが重要で、現場の実態に即した内容にするためのヒアリングも欠かせません。定期的な見直しを前提とした運用設計まで含めて整備することで、長く機能するガイドラインになります。
ガイドラインをどれだけ丁寧に作っても、社員に読まれなければ意味をなしません。整備した内容を組織全体に浸透させるための仕組みづくりが、次のステップとして重要になります。
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