企業では、情報を正しく共有し、活用することが、生産性を高める上で非常に重要なポイントとなります。しかし、いざ自社で「情報共有を徹底しよう」と考えても、具体的に何から始めれば良いのか、どのような仕組みを作れば良いのか悩むケースも多いと思います。
本記事では、そもそも情報共有とは何かといった基礎知識から、情報共有不足が企業へもたらす問題点、そして情報共有不足を解消するための方法や効率的に行うためのポイントについて解説します。また「価値ある」情報共有を行うためのノウハウもご紹介します。ぜひ最後までお読みください。
情報共有を考える前に、そもそも情報とは何なのかを考えてみたいと思います。ブレインワークス著『情報共有化の基礎知識』では以下のように記載されています。
「情報」を辞書で引くと「ある特定の目的について、適切な判断を下したり、行動の意思決定をするために役立つ資料や知識」(三省堂・大辞林第二版)とあります。これをビジネスに置き換えて考えてみると、「ある事業を展開するために適切な判断を下したり、行動の意思決定をするために役立つ資料や知識」ということになるでしょう。
参考:ブレインワークス著(2008):『情報共有化の基礎知識』
ここから考えると、情報共有とは、「ある事業を展開するために適切な判断を下したり、行動の意思決定をするために役立つ資料や知識を、情報を必要とするであろう然るべき他者に共有すること」となります。
例えば、店舗運営企業であれば、新商品などの最新情報を店舗に伝えること、各店舗や従業員が持っているノウハウを、他の店舗に横展開することなどです。下記は前述した書籍に掲載されている企業が取り扱う情報の一例です。
(参考:ブレインワークス著(2008):『情報共有化の基礎知識』)
会社というのは組織ですので、特定の目的達成は一人の力では到底なし得ません。そのため複数人で協力して事業を行う必要がありますが、その際に必要なものが情報です。もし情報がないまま動けばどうなるでしょうか?非効率な動きをしてしまったり、自社が大きな損害を被る可能性も少なくありません。
しかし、ひとことで「情報共有」といっても、自社の施策が上手くいっているかどうか判断することは、なかなか難しいものです。
実際に、HR総研が2020年に企業の人事担当者向けに実施したアンケートでは、社内で情報共有が「十分に共有できている」と回答した担当者は3%、「ある程度は共有できている」と回答した担当者は48%とその2つを合わせても半数程度にとどまる結果となっており、情報共有というシンプルなコミュニケーション手段においても、約半数の担当者が共有できていると言えていない現状がわかりました。
(参照:HR総研:「社内コミュニケーション」に関するアンケート調査)
そもそも情報共有がなぜ企業にとって必要なのか、出来ていないとどのようなデメリットが生じるのかについて、3つ解説します。
円滑な情報共有ができなくなった時に、まず生じる問題が「業務の属人化」です。業務の属人化とは、ノウハウや知識の共有が他の社員になされず、特定の人しかその業務を遂行できない状態のことを指します。
例えば、店舗ではレジ締めという、一日の売上を整理する作業を行いますが、レジや周辺機器の操作がわかっている人が1人しかいない、その情報が他の従業員に共有されていない、となると、その業務は属人化してしまっています。
このようなケースでは、担当者の退職してしまった際に誰も業務ができない状態に陥る可能性があります。また、担当者が1人しかいないため、ダブルチェックができず、ミスが起こりやすい・ミスに気が付きにくいという側面もあります。属人化を防ぐために、日頃からなるべく多くのスタッフに正確な情報を共有しておくことが大切です。
円滑な情報共有が行われないと、コミュニケーションミスが発生し、伝達漏れや誤った情報が伝わるといったトラブルが起こりやすくなります。「伝えたはず」「聞いていない」など、社員によって情報に関する齟齬が生まれ、職場環境の悪化を招いてしまう可能性があります。
例えば、本社が店舗に新商品の販売開始日に関する情報を伝えたつもりが伝えておらず、当日になって店舗から「この商品について何も聞いていない」という連絡を受けるケースなどです。この場合、情報共有を受けていなかった店舗は、本社への不満を抱くことになるので、職場環境の悪化を招くこととなります。
日常的に情報共有がなされていない環境だと、いざ締め切りという際に「業務が終わっていない」「そもそも自分の仕事だと思わずに、手もつけていない」といったことが起こりかねません。
飲食店を例に考えてみましょう。新商品の肉料理Aについて、実際に店舗で配布されたレシピ通りに作ったら、中まで火が通らなかったとします。その場合、この問題を店舗から本社に報告、そして他の店舗にもレシピの修正を伝達する必要があります。しかしこの報告と伝達という2つの情報共有ができていなかった場合、トラブルへの対応ができない、もしくは遅くなってしまいます。「早く情報を共有しておけば防ぐことができた...」という事態に陥らないよう、日頃から情報共有しやすい体制を整えておくことが大切です。
アパレルなどの小売店や飲食店をはじめとするサービス業など、多くの店舗を運営している企業においては、本部と各店舗でスムーズな情報共有ができないという課題を抱えているケースが多くあります。
例えば、新たに店頭で発売する新商品・新サービスに関して、本部が意図した訴求方法と実際の店舗での接客・販売方法が異なるといった課題はよく聞かれるものです。
また、リアルタイムでの店舗の状況を本部で確認できず、本部から店舗に対して明確な指示が出せないといった課題も聞かれます。ここでは、情報共有不足に陥る原因を3つご紹介します。
自社の情報共有が不足しているとお悩みの方も多いのではないでしょうか。情報共有が進まない原因は、主に3点あります。
情報共有不足に陥る最大の原因と言えるのが、まず「情報の重要性」を全社的に理解していないという点です。企業に蓄積される情報は、生産性を向上させるための資産に他なりません。
よく企業において必要不可欠な経営資産として、「ヒト」「モノ」「金」「情報」の4つが挙げられます。つまり、いくらヒトやモノ・金を集めたとしても、事業成長を推し進める情報がなければ、企業の成長はストップしてしまいます。
例えば、お客さんとの会話が得られたニーズや、事業を展開したことによる新しい発見といったものは、市場の変化をいち早く捉えるためのヒントや、現状のビジネスをより改良するためのキーポイントになるかもしれません。
日々の業務で得られた情報を、社員一人ひとりが重要なものと思わなければ、情報共有を進めることはできません。情報を重要なものとして捉えるカルチャーを作り、素早く共有ができる仕組みを作ることが大切です。
また、そもそも然るべき人に情報を共有するための環境が整っていないケースも考えられます。冒頭でも触れましたが、情報共有とは、「ある事業を展開するために適切な判断を下したり、行動の意思決定をするために役立つ資料や知識を、情報を必要とするであろう然るべき他者に共有すること」です。
例えば、店舗で発生したクレームと明日返金してもらいにお客様が来店するということを店長には電話で伝えたが、店長はその情報を翌日勤務する従業員に伝えるすべがなく伝えられなかったため、翌日従業員たちは、そのお客様に対して不遜な態度をとってしまった、などです。
この場合は、店長から翌日勤務する従業員への情報共有する環境、問題に立ち会った従業員から店舗全員への情報共有する環境のどちらもがなかったことが原因です。情報鵜を共有する環境をきちんと整備しておくことで、迅速に情報共有ができ、仮に店舗で問題が発生したとしてもスマートに対応してくれた、という評価になり、顧客満足度を向上させる結果となることも考えられます。顧客満足度に関しては、こちらの記事を参考にしてください。
3つ目は情報共有に関する明確なルールがないことです。もし仮に情報共有を円滑にするために何かしらのツールを導入したとしても、ツールの利用に関する明確なルールを決めなければ、情報共有は進みません。どんな情報を、どのタイミングで、どこに共有するのかを社内でしっかりとルール化することが求められます。
例えば、問題Aが発生したときにはまず店長に報告する、問題Bが発生した時はツールを使って迅速に本社に報告する、などです。各店舗で自由に使わせてしまうと、ルールがないことに関して店舗が困ってしまいますし、実際に対応する本社の負担も増えてしまうので、あらかじめルールを決めてから運用をすることが大切です。
人の記憶というものは曖昧で、初めのうちはしっかり覚えていることでも、時間の経過とともに、だんだんと薄れていきます。「自分は記憶力がいいから!」と過信していると、後で重大な問題を招く恐れもあります。「記憶より記録」を意識して、他者に共有していくことをルール化し、社員に習慣化させるようにしましょう。業務連絡だけでなく、ぱっとひらめいたアイディアなども同様です。
(参考:ブレインワークス著(2008):『情報共有化の基礎知識』)
ここまで、情報共有がいかに企業にとって大切か、また情報共有が不足するとどのような問題が発生するのかについて解説しました。ここからは、実際に情報共有不足を解消するために、具体的にどのような対策を取ると効果的なのかについて見ていきます。
情報共有不足を解消するために、まずはツールの導入を検討されるかもしれませんがツールは手段であって目的ではないため、どんなに良いツールを導入したとしても、社員が情報共有の重要性を理解し、積極的にツールを活用する体制を作らなけば意味がありません。
そのため、まずは現場レベルからではなく、トップダウンで情報共有の目的や重要性を認識してもらい、全社的に意識改革を進めることが効果的です。前述した書籍には、情報共有化のポイントは、各個人の情報に対する高い意識と責任、という記載があります。最初のうちは情報の軽重もわかりませんし、誰に情報共有すれば良いかの判断もつかないと思います。そのため、日常の業務から情報を迅速かつ正確にまとめて伝達する訓練を行うことが重要です。
情報共有の大切さを理解し、積極的に発信できる人材が集まると、「情報感度の高い組織」が生まれ、そういった人材が多い会社と少ない会社とでは、将来の展望に大きな違いが生まれてきます。
(参考:ブレインワークス著(2008):『情報共有化の基礎知識』)
全社に情報共有の重要性を周知する準備が整ったら、情報共有ツールの導入を検討することも良いかもしれません。従来はメールや紙媒体を使って行われることが多かった情報共有ですが、近年では、効率的に情報の蓄積、共有、活用をするために、クラウドサービスやツールを導入する企業が増えています。これらのツールを活用することで、開発コストや手間をかけずに組織内でのスムーズな情報共有が可能になります。
それぞれのタイプによって、使用用途が若干異なるので、自社の状況に適したものを選ぶことをおすすめします。
(引用:Chatwork)
チャットツールとは、テキスト形式でリアルタイムにコミュニケーションが取れるツールです。テキストの他に、画像や動画・音声ファイルにも対応している他、スタンプを送ることもできるため、メールのような堅苦しい文面にならずコミュニケーションを促進するというメリットもあります。
代表的なチャットツールには、「チャットワーク」「Slack(スラック)」といったサービスがあります。
(引用:Backlog)
タスク管理ツールとは、一つの作業や業務の進捗状況を把握するために用いられるツールです。一方のプロジェクト管理ツールとは、タスクの集合体であるプロジェクトの進捗状況をモニタリングするために用いられます。こちらは本社店舗間での情報共有や店舗で利用してもらうというよりかは、本社内での情報共有、販促などのプロジェクト進捗の可視化、円滑化を目的に使用することをおすすめします。
タスク管理ツールを用いることで、社員一人ひとりが「いつまでに、何の作業を行うべきなのか」を認識できる上に、日報のような進捗状況の報告をしないで済むといった業務効率化の側面もあります。
またツールによっては、締め切りに対して進捗が遅れた際に、アラートを発してくれるものもあります。プロジェクトの管理者であるマネージャーは、アラートに応じて個々の社員に業務を早く進めるように指示したり、適切なタイミングで社員が困っていることをヒアリングすることができます。
代表的なツールとしては、「Backlog(バックログ)」「Trello(トレロ)」といったサービスがあります。
ファイル共有ツールとは、オンラインストレージにファイルを共有することで、閲覧権限を持っているユーザーが、ファイルの閲覧やダウンロードができるツールです。比較的、容量の大きいファイルに関しても、短時間で共有ができるため、業務の効率化に繋がります。
共有できるファイルは、テキストをはじめ、動画・画像・音声など様々な形式のファイルを共有でき、ストレージ容量がある限り、アップロードすることができます。
例えば、新商品の情報をドキュメント形式で展開する、新商品の作成手順を動画にして、共有する、など、使い方は多岐にわたります。
代表的なツールとしては、「Googleドライブ」「Dropbox」といったサービスがあります。
(引用:Google Workplace)
最後に紹介するグループウェアは、チャット、ファイル共有、タスク管理、スケジュール管理、WEB会議などの複数の情報共有ツールを内包し、組織で情報共有を迅速に行うために設計されたツールです。
グループウェア一つで情報共有の体制が構築できると言っても過言ではありませんが、この項で紹介した他のツールと比較すると、影響範囲は多岐にわたるので、全社的な導入が必要な部類のツールです。
代表的なツールとしては、「Google Workspace」「Microsoft Office 365」といったサービスがあります。
ITツールの導入は確かに業務を効率化し、作業をする上で非常に便利になります。グループウェアを導入したら、社員のスケジュールが一目瞭然、誰がどの店舗に何の情報を伝達したかなども、可視化することができます。情報を共有することは一見メリットしかないように感じますが、便利になるツールには必ずリスクが伴います。
例えば、機密情報が記憶媒体にコピーされて持ち出されてしまう、ITツールのデータが外部に漏れてしまう、外出先にノートパソコンを置き忘れてしまい情報が漏洩してしまう、などが考えられます。
情報共有化とセキュリティ対策は表裏一体のものと考えること、人間は完璧ではなくミスをする「性弱説」という視点を持つ、この2つが大切です。導入するITツールは、セキュリティに配慮されているか、どのような対策がとられているか、というツール側のリスク管理と次項で説明する社内ルールを決めるなどの社内でのリスク管理を欠かさず行いましょう。
参考:ブレインワークス著(2008):『情報共有化の基礎知識』
ITツールの選定が終わったら、運用に関する社内ルールを決めましょう。例えば、チャットツールを導入したとしても、利用のルールがわからない、どんな情報なら共有して良いのかわからない、結果活用されない、では意味がありません。そこで、「いつ・どのようなタイミングで」「誰に向けて」「どんな情報を共有するのか」を明確にしましょう。
更新のタイミングや報告のタイミングは、企業やチームごとに適切な頻度を選べば良いですが、少なくともメンバー全員が共有認識として、いつ何を誰に共有するのかを持つことが大切です。
情報共有を促進する具体的な施策について解説しましたが、ここからは情報共有を効率的に行うために担当者が頭に入れておくべきポイントについて3つご説明します。
情報共有において大切なことは、社員が自発的に共有する環境を作ることです。
上下関係が厳しい職場や、コミュニケーションが活発に行われない職場環境においては、「上司は忙しそうだから、いま共有するのは辞めておこう」「こんな情報は既に知っているから、わざわざ共有しない方が良いかもしれない」と、社員が情報共有を積極的に行う機会を失ってしまいがちです。
そのため、役職や年齢・立場に限らずに積極的に情報共有ができているかを、担当者は確認する必要があるでしょう。
例えば、チャットツールにおいては、社内イベントやプライベートに関すること、クライアントとの些細な会話など、直接的に業務に関わる事柄ではない内容でも気軽に発言できるといった運用ルールを設けている企業もあります。
情報共有のフォーマットを策定することで、情報共有のハードルを下げるだけでなく、情報共有自体に時間をかけず業務に集中できるというメリットがあります。
「忙しいのに、わざわざ自分でフォーマットを作ってまで...」と情報共有を敬遠してしまうと、いざという時に大事な情報の伝達漏れが発生してしまいます。
時間をかけずに手軽に情報共有をしてもらうために、決められたフォーマットを一つ用意しておくと良いでしょう。
最初に決めた情報共有に関するルールが、そのままうまく運用できるとは限りません。一度、ルールを作ったら終わりではなく、運用を通じて分かった問題点を改善するために、体制を定期的に見直しましょう。
企業にとって、自社に蓄積されるノウハウや知識、また日常的に発生する業務連絡など、情報共有をスムーズに行うことは、競争力を高める源泉になります。しかし、情報共有を活発化しようと考えても、その道のりは簡単なものではありません。
闇雲にツールを導入するのではなく、まずは自社の従業員に情報共有の重要性を理解してもらうこと、そして運用ルール決めやリスク管理を行った上で、ITツールを上手に活用していくことが大切です。