経営者や部長、課長、店長など、組織を導く役割を担う「リーダー」。企業の存続・発展に欠かせない重要な人材です。
しかし「優秀なリーダーが見つからない」「リーダーを任せられる従業員がいない」と悩む企業が少なくありません。そんな時に有効なのが、リーダー育成のために実施される”リーダーシップ研修”です。
今回は、リーダーシップ研修について解説します。基本的な知識はもちろん、具体的なやり方や研修で教えるべき内容などもご紹介しますので、リーダーの育成に悩んでいる方はぜひ最後までご覧ください。
そもそも「リーダーシップ」とはどのような意味なのでしょうか。辞書を引いてみると、以下のように記載されています。
指導者としての素質・能力。統率力。
(引用元:「デジタル大辞泉」小学館)
ビジネスにおいては、チームを統率し、成功へと導くリーダーとしての素質・能力を指します。そして、そのようなスキルを学ぶために実施されるのが「リーダーシップ研修」です。
年齢、経歴、能力の違う人々が集まるチームを導き、成果へとつなげるのは簡単ではありません。メンバーのモチベーションを維持したり、育成を行ったり、問題を解決したりするのにはスキルが必要です。
経験豊富で高いスキルを持つ人材を外部から採用し、リーダーを任せる方法もありますが、なかなか実現しにくいもの。そのため既存社員を育成する必要があり、リーダーシップ研修の実施が必要不可欠なのです。リーダーシップの基本的な内容に関しては、以下の記事で詳しく解説していますので、あわせてご覧ください。
■参考記事
リーダーシップとは?マネジメントとの違いから各リーダーシップ論までわかりやすく解説!
HR総研(ProFuture株式会社)が2020年に行った調査によると、リーダーシップ研修の実施率は40%で、「コンプライアンス研修」「ハラスメント研修」に続く第3位にランクインしています。
(引用元:「HR総研:人材育成(テーマ別研修)に関するアンケート 結果報告(2020年)」HR総研)
さまざまな研修が行われている中で、なぜリーダーシップ研修はこれほどまでに重視されているのでしょうか。注目されている理由は主に以下の4点。次はこの4点について見ていきましょう。
リーダーシップ研修が注目されている理由として、まず第一に挙げられるのが「リモートワークの普及」です。
従業員同士が離れた場所で働くテレワークは、コミュニケーションがとりにくく、チームワークが乱れてしまいがち。チームを先導する役割を担うリーダーには、より高い統率力が求められます。
2019~2020年にかけて、新型コロナウィルス感染症発生の影響を受け、リモートワークを実施する企業が増えました。
(引用元:「令和元年通信利用動向調査の結果(概要)」総務省)
総務省の調査によると、2019年時点でテレワークを導入している企業の割合は20.2%。2011年と比較すると約2倍にまで増えており、リモートワークの普及が進んでいることがわかります。
このような環境下でリーダーがチームを統率するには、高いコミュニケーション力が必要です。よって、リーダーとしてのスキルを向上させるリーダーシップ研修に注目が集まっている、と考えられます。
企業の存続と成長には、日々変化する経済環境への適応力が必要です。柔軟に対応できなければ市場での競争に負け、最悪の場合、倒産に追い込まれることもあります。
企業がさまざまな環境に適応し、ピンチを乗り越えていくためには、団結力とイノベーションが欠かせません。その責任と役割を担っているのが、経営者をはじめとする各リーダーたちです。
(引用元:「日本企業のグローバル戦略動向調査」PwC Japanグループ)
最近では、企業のグローバル化が進むなど、経済環境の変化はさらに激しくなってきています。
PwC Japanグループが2021年に行った調査のデータを見てみると、中期的(今後3年程度)な成長マーケットとして「海外市場」を上げている企業は全体の28.8%、「どちらかといえば海外市場」と回答している企業は37%とあります。
今後3年程度で海外事業を「強化・拡大する」と答えている企業の割合に至っては、半数を超えており、グローバル化に対し積極的な企業は多いことがわかります。そして、今後も経済環境は変化し続けていく可能性があるため、企業はリーダーを育成する必要があるのです。
さまざまな経歴、年齢、性別、雇用形態の人材を雇用する「人材の多様化」。人材・人員の確保や生産性向上などのメリットが得られるとして、多くの企業が今、人材の多様化に取り組んでいます。
(引用元:「国土交通白書 2021 第3節 多様化を支える社会への変革の遅れ」国土交通省)
国土交通省発行の資料を見るとわかる通り、2001〜2020年にかけて、女性の就業者および65歳以上(男女)の就業者は増加傾向にあります。年齢、性別の制限を緩め、幅広く雇用を行っている企業が増えてきているのです。
さまざまなメリットが得られる人材の多様化ですが、一方、従業員の能力の差や価値観の差が大きくなるというデメリットもあります。「意見の食い違いが起きる」「社員が同じ方向を向いていない」といった問題が起きるなど、統率をとることがさらに難しくなるのです。
その対策として挙げられるのが、リーダーのスキル向上です。よって、リーダーシップ研修を実施する企業が多いと推測できます。
少子高齢化の影響もあって、現在多くの企業が抱えている「人員不足問題」。特に小売業は、人員不足に悩まされている業界です。
(引用元:「人手不足に対する企業の動向調査」株式会社帝国データバンク)
株式会社帝国データバンクが行った調査によると、「家具類小売」や「自動車・同部品小売」「飲食料品小売」など、小売業の多くが、人員が不足している業種ランキングの上位にランクインしています。
人手が足りていない職場は、従業員1人1人にかかる負担が大きく、生産性が下がってしまうもの。人材採用を行う等の対策が必要ですが、日本全体が労働者不足である今、人員を十分に確保できない可能性が高いです。
そのような状況でも企業は、生産性を維持し、業績を向上させなければなりません。そこで必要となるのが、効率よくチームの成果を上げる優秀なリーダーであり、能力向上に効果的なリーダーシップ研修なのです。
新入社員研修は入社して間もない従業員に、フォローアップ研修は中堅社員に向けて行うように、研修の対象者は内容や目的によって変わるものです。では、リーダーシップ研修は誰に向けて行われるのでしょうか。主な対象者は以下です。
主な対象者である「次世代を担う若手社員」「中堅社員」「管理職社員」について詳しく見ていきましょう。
どんなに優秀なリーダーでも、いつかは退職してしまいます。その際、代わりにリーダーの役割を担う人材が必要となりますが、後任者にリーダーシップの知識がなければ、代役は務まりません。生産性が下がる、成果の質が落ちるなどのロスが発生する恐れがあります。経営者や経営幹部の世代交代を行う場合は、経営が傾くことも。
そのようなリスクを避けるため、将来的に経営者・経営幹部・管理職に就く可能性のある若手社員を対象に、リーダーシップ研修が行われることがあります。
事前に知識やスキルを身につけておくことで、いざ交代する際、スムーズに引き継ぐことができます。前任者ほどの能力を発揮できなくとも、失敗するリスクは軽減されるでしょう。
また、リーダーシップ研修を若手社員に実施し、その効果を測定することで、リーダー候補を発見するきっかけになることも。自社が求めているリーダー像に沿うかどうか、早い段階で見極めることができます。
入社して数年経つ中堅社員は、次期管理職の候補です。リーダーを任される可能性が高いため、早いうちにリーダーシップ研修を行い、知識やスキルを身につけておく必要があります。
また、プロジェクトごとにチームを編成するチーム型組織においては、中堅社員がチームのリーダーを担うこともあります。そのため研修の実施が必要です。
リーダーを任されるチームの規模が小さくとも、責任は決して軽くありません。何も知らないまま急に任命された場合、誰しも戸惑ってしまうものです。「自信を失いモチベーションが下がる」「本来の力を発揮できない」といった事態になり兼ねないので、事前のインプットが重要と言えるでしょう。
「リーダー」と「管理職」は同じことと思ってしまいがちですが、実はそれぞれ役割が違います。『リーダーシップの「基本」が身につく本』という書籍の中で、著者の高城幸司氏(以下高城氏)は以下のように述べています。
管理職は「タイムマネジメント」や「目標設定」、そして「業績評価」など、社員の行動に責任を負う役割を担っています。
(引用元:「高城幸司(2021)『リーダーシップの「基本」が身につく本』株式会社 学研プラス」)
一方、「リーダー」は以下のように定義されています。
一方でリーダーは現場の牽引車です。(中略)部下に任せ、チェックする役割より、率先した行動をとる役割が求められます。
(引用元:「高城幸司(2021)『リーダーシップの「基本」が身につく本』株式会社 学研プラス」)
管理職はその名の通り管理する役割、リーダーはチームを引っ張って導く役割を担うもの。スポーツで言う「監督」が管理職、「キャプテン」がリーダーと例えられることもあります。
しかし、管理職社員がリーダーを任されるケースも珍しくありません。部長は部署のリーダー、店長は店舗のリーダーで、所属するメンバーを管理しつつ牽引する必要があります。そのため、管理職の社員にもリーダーシップ研修が行われているのです。
リーダーシップ研修は、実施さえすれば必ず効果が得られる、というものではありません。有意義な研修にするため、入念な計画と準備が必要です。
では、実際にどのようなことを決めておくと良いのでしょうか。主な3つの項目について解説していきます。
リーダーシップ研修を実施する際は、目的とゴールを定めることが非常に重要です。「どのような能力を高めたいのか」「どれほどまでのレベルを目指すのか」を決めておかなければ、研修を行っても求めていた効果が得られず、無駄になってしまいます。
また、目的とゴールが定まっていないと、受講者も何のために参加すべきなのかわからず、戸惑ってしまうものです。「受講する意味がない」と参加を控えたり、参加してもやる気が出なかったりする可能性があります。
最悪の場合、研修に対するマイナスイメージがついてしまうことも。リーダーシップ研修はおろか、その他の研修に対しても消極的になってしまう可能性があるので、目的とゴールの設定・共有が大切です。
リーダーシップ研修を実施する際、「期間」も決めておくべき項目のひとつ。明確かつ適切な期間を定めておくことで、無駄なく、効率よく能力を向上させることができます。
研修期間の長さは、目的とゴールによって異なります。例えば、短期間研修は意識づけに向いており、業務への影響が比較的小さいのがメリット。一方長期間研修は、じっくりと時間をかけて育成することができ、フォローアップの実施も可能です。詳しくは後ほど解説しますが、期間の長さはそれぞれにメリット・デメリットがあるため、見極めが重要です。
期間を決めた後は、具体的な研修スケジュールの設定も必要になります。
準備、実施、フォローアップにそれぞれどれくらい時間をかけるのか、いつから行動を開始するのかを決めることで、段取り良く研修を進めることができます。反対に計画性がなければ、準備不足で研修効果が下がる恐れがあります。
リーダーシップ研修には、受講者や講師、管理者などさまざまな人々が関わります。スケジュールが曖昧だと、それだけ多くの人の業務に支障が出るため、入念に計画を練っておくことが大切です。
リーダーシップ研修を実施する際は、当然のことながら内容も決めておかなくてはなりません。
研修内容は、目的とゴールに合わせて決めます。「リーダーシップ研修と言えば......」といった曖昧なイメージで構成したり、「過去に好評だったから」と成功例にばかり目を向けたりしてしまいがちですが、それでは受講者にとって本当に必要な研修を実施することができません。得た知識を実際の業務に活かすことができず、無駄になってしまうでしょう。
例えば「リーダーとしての意識づけ」を目的・ゴールとするならば、リーダーシップの概要や役割、リーダーとしての姿勢などを教える内容が適切です。課題を克服するための能力アップを目指す場合は、「コミュニケーションスキル」「フィードバックの方法」など、細やかなスキルを学べる内容が適しているでしょう。
リーダーシップ研修の目的は、指導者としての能力を高めること。具体的には以下の5つが挙げられます。詳しく見ていきましょう。
リーダーを任される従業員は、スキルを身につける前にまず「指導者・先導者として何をすべきなのか」を理解しておく必要があります。役割を認識していない状態では、研修を受けても知識や能力の活かし方がわからないからです。
よって研修を通して、リーダーとしての役割を理解してもらいます。リーダーは主に、以下のような役割を担っています。
また、リーダーの働きが会社にどのような影響を与えるのか、会社から何を求められているのかといった関連性も明確にしておくことが重要です。与えられている役割を認識することで、リーダーとしての自覚、責任が生まれるでしょう。
リーダーは「チームで成果を出す」という重要な役割を担っています。その責任を果たすためには、成果を出す方法を習得しなければなりません。
成果を出すための具体的な方法は、状況によって違いますが、一般的には以下のような行動が挙げられます。
まず、会社から期待されている成果を把握し、それを達成するために何をすべきか考えます。店舗型ビジネスを例にすると、会社が提示している各店舗の予算が「期待されている成果」です。そして、「スタッフが質の高い接客を行う」などが取るべき行動に該当します。
やるべきことを把握した上で、その行動を実行するための時間を確保します。先ほどの例で言えば、「スタッフが接客する時間を作るため、他業務の効率化を図る」「接客について指導する時間を設ける」などの行動が挙げられます。
また、成果達成のための行動に集中するため、業務に優先順位をつけることも大切です。
業務を行っていると、突発で仕事が入ることが多々あります。しかし、頼まれたからと言ってすべての仕事を受け入れてしまうと、「成果を出すためにやるべきこと」が厳かになってしまいます。そのようなやり方では、チームとして成果を出すことができないので、リーダーは優先順位をつけて行動することが大切です。
もちろん、成果を出す方法は自力で見つけ出すこともできます。ですが研修を通して学んでもらう方が、より早く、かつ着実にリーダシップを発揮する人材へと育成できるでしょう。
リーダーは、チームの方向性を示す役割を担っており、決断を迫られる場面が多々あります。しかし、知識や経験が無ければ間違った判断をしてしまうことも。ちょっとした判断ミスが、チームに大きな損失を与える可能性があります。
そのためリーダーは、判断力の習得が必須です。リーダーシップ研修を通して、状況を分析するスキル、論理的に物事を考えるスキルを身につけることで、失敗するリスクが軽減するほか、トラブル発生時に冷静に対応することができます。
判断力は、経験を積むことで磨かれるもので、失敗することも大切です。とはいえ、リーダーを任された本人はもちろん、会社としてもできればミスは防ぎたいもの。よって研修を実施し、知識を身につけておく必要があると言えます。
チームを導くリーダーには、カリスマ性も求められます。メンバーが「この人について行きたい」と思うような憧れの存在となることで、チームの団結力が高まりますし、モチベーションアップも期待できるでしょう。
そんなカリスマ性のあるリーダーになるには、飛躍的な成果を出すことが重要。高城氏は『リーダーシップの「基本」が身につく本』の中で以下のように述べています。
大切なのは≪新しい仕事のやり方で劇的な成果を上げる≫ことです。
引用元:「高城幸司(2021)『リーダーシップの「基本」が身につく本』株式会社 学研プラス」
とはいえ、劇的な成果を上げることは簡単ではありません。過去の成功例や固定概念に囚われていては、大きな飛躍は見込めないでしょう。よって、リーダーには発想力が求められます。
特に、ビジョンをデザインするときや、ピンチが訪れたときは発想力が”カギ”になります。今までにない、新たな発想によるイノベーションを起こすことで、チームの大きな成長へとつながります。ピンチをチャンスに変えることも可能になるでしょう。
チームが結果を出すため、ビジョンに向かって行動するためには、各メンバーの働きが必要不可欠。メンバーの能力が不足していると、十分な成果を得られません。
そのため、リーダーには育成能力も求められます。どのように指導すれば従業員が成長するのかを学ぶことで、チームの継続的な発展が見込めるでしょう。
リーダーが行うメンバーへの教育は、ただ知識を教えるだけではありません。経験を積むことで得られる学びも多いので、「仕事を任せる」という手法で教育することも大切です。教育担当者が行うOJT研修とはやや違うものになるので、リーダーシップ研修にて学ぶべきと言えます。
一般的にリーダーシップ研修の期間は、半日~2日間と言われています。とはいえ、この期間はあくまで例で、自社に合わせて適切な期間を設定することが大切です。
では、どのように期間を設定すれば良いのでしょうか。研修スケジュールの立て方について見ていきましょう。
研修期間は、受講者に必要な学習量によって決まるものです。そのため、期間を決める前にまずは受講者の分析を行います。
例として、以下のような項目を確認すると良いでしょう。
リーダー経験がない人は、知識がほとんどない状態なので、時間をかけて一から学ぶ必要があります。「リーダーシップとは何か」を知らない人を対象に研修を実施する際は、さらに時間がかかると分析できます。
一方、リーダー経験があり、課題や問題点を把握している受講者に対しては、未経験者を対象とするよりも短時間で教育できます。改善方法を学ぶだけ、といった効率的な研修が適しているでしょう。
このように受講者の分析は、適切な期間設定のための重要な判断材料となるのです。
次に目的・ゴールとの照らし合わせを行います。「どこまで教えるのか」「どのレベルまで達成することを目的とするのか」を明確にすることで、研修期間を長くすべきか、短くすべきかを判断することができます。
短期間のリーダーシップ研修は、スケジュールが組みやすく、業務への影響も小さいです。また、かかる費用が比較的安いのもメリットと言えます。
ただし、学んだことが定着するまで、しっかりとフォローアップするのがやや難しいとされます。そのため、リーダーとしての意識づけや、概要の把握、ピンポイントでのスキルアップ等を目的とする研修に向いています。
一方長期間の研修は、「受講者と講師の時間を合わせにくい」「業務が滞る」といったデメリットがあるものの、フォローアップまで時間をかけて行うことができます。より着実なスキルとして身につくため、リーダーを任されたばかりの従業員、リーダーを任される予定のある従業員に向いていると言えるでしょう。
期間の長さに正解はありません。受講者の状況と目的に合わせて設定することが大切です。
研修期間の日数が定まったら、次に、いつから開始するのかを決めます。
スケジュールを立てる上で重要なのは、業務との兼ね合いを見て決めること。受講者にとって都合が悪い時期に実施すると、参加者数が少なくなる恐れがあるためです。強制的に参加させたとしても、受講者は業務のことが気になって集中できず、きちんと学ぶことができなくなります。
特に研修期間が長い場合は、よりスケジュールを合わせるのが難しくなりますが、研修を無駄にしないためにも慎重に選びましょう。
最後に、「いつから準備を始めるのか」「何時から何時までフォローアップを行うのか」といった具体的な日程を決めます。
リーダーシップ研修を社内で実施する場合は、席の準備や会議室の確保が必要です。社外のレンタルスペースを利用する場合は、予約などの段取りがあります。また講師を招く場合も、予約や打合せなどの準備になります。
研修をスムーズに行うため、これらのスケジュールを細かく決めていくことが重要です。また、準備期間には十分な時間を設けましょう。
スケジュールが決定したら可視化し、共有します。のちに「知らされていなかった」というトラブルを避けるため、受講者や講師、受講者の上司など、関係者に共有しておきましょう。
リーダーシップ研修の肝となる内容ですが、どのように構成すれば良いのか迷ってしまう人も多いはず。そこで、ここからは研修内容の考え方について解説していきます。
受講者にとって有益な内容にするため、まずは受講者の分析を行います。期間を決める際に分析した情報をもとに、受講者の状況を把握しましょう。
そして「受講者に必要な知識・スキルは何か」を考え、情報を洗い出します。洗い出し作業にはさまざまな手法がありますが、付箋にメモしておくと、内容の組み立てる際に便利なのでおすすめです。
また、頭で描いたものを図式で表すフレームワーク「マインドマップ」を利用する方法もあります。どのような課題・目的に対し、どのようなことを学ぶ必要があるのか、といった情報整理に役立つので、そちらも活用してみましょう。
さらにリーダーシップには多くの研究がなされており、様々な論が存在します。それら理論に従って内容を構築することで、ゼロベースで研修を作るよりも有益な内容になりやすいです。各リーダーシップ論に関しては以下の記事で詳しく解説していますので、あわせてご覧ください。
■参考記事
リーダーシップの具体例を紹介!サーバントリーダーシップについてもわかりやすく解説!
研修内容を考える際、つい全ての知識を詰め込みたくなりがちですが、時間には限りがあります。また情報量が多すぎると、何が重要なのかわかりにくくなってしまうものです。
そのため、ここで洗い出した内容に優先順位をつけ、重要な項目を選ぶ作業を行います。「目的・ゴールを達成するために今学ぶべきか」を基準に選ぶと良いでしょう。
研修で伝える内容が定まったら、いよいよ組み立ての段階に入ります。
関連性のある内容がいくつかある場合は、まとめておくとわかりやすくなります。受講者がスムーズに理解できるよう、整理することがポイントです。
またどのような順番で行うのか、どの項目に時間をかけるのかなども決めておきます。特に、優先度が高い重要な内容は時間をかけるようデザインしましょう。
リーダーシップ研修に限らずですが、研修は始めと終わりに「オープニング」と「クロージング」を行います。オープニングとクロージングは、受講者のモチベーションや内容の吸収率、その後の行動などに関わる大切な時間なので、あらかじめデザインしておくと良いでしょう。
オープニングでは主に、受講者の現状と、研修を実施する目的を話します。「なぜ研修を行う必要があるのか」を理解してもらうことで、研修への集中力が高まり、吸収率アップが見込めます。
クロージングでは、研修で学んだ内容を今後どのように活かすのか、考える時間を設けます。具体的なアクションプランを立ててもらうことで、「学んだだけで身についていない」といった事態を避けることができるのです。
当日になって慌てないよう、内容を考える際に併せてデザインしておきましょう。
受講者の全員が、研修で学んだことを活用できるとは限りません。理解したつもりで理解できていない、行動に移しているつもりで何もできていない......という人もいる可能性があるので、サポートが必要です。
研修内容の理解度チェックには、テストや報告会などの方法があります。また、職場を訪問するのもひとつの手です。
これらのフォローアップも、研修内容を考える際に決めておくと、段取り良く行うことができます。具体的な手段や日程なども決めておきましょう。
リーダーシップ研修で教える内容は多岐にわたります。目的や研修期間の長さによって変わりますが、いくつか例をご紹介しましょう。コンテンツ作成に迷った際はぜひ参考にしてください。
メンバーの成長を促す質の高い指導も、成果のつながる素晴らしいビジョンも、うまく伝えることができなければ意味がありません。そのため、リーダーはコミュニケーションスキルの習得が必須です。
コミュニケーション能力には、「伝える能力」だけでなく、相手が発言しやすい話し方も含まれます。そのため、リーダーシップ研修では「心理的安全性の確保」についても解説しておくと良いでしょう。
心理的安全性とは、メンバーが委縮することなく意見を述べたり、認め合ったりする環境のこと。『心理的安全性のつくりかた』という書籍の中で以下のように定義されています。
心理的安全なチームとは、一言でいうと「メンバー同士が健全に意見を戦わせ、生産的でよい仕事をすることに力を注げるチーム・職場のこと」です。
(引用元:「石井遼介(2020)『心理的安全性のつくりかた 「心理的柔軟性」が困難を乗り越えるチームに変える』日本能率マネジメントセンター」)
つまりリーダーは、成果を出すチームを作るため、心理的安全性の高い環境を整える必要があるのです。そこで重要なのがコミュニケーション能力であり、研修で教えるべき内容と言えます。
リーダーは、チームメンバーを導くために指導する場面が多々あります。そのため、メンバーの行動に対するフィードバックの伝え方も、研修を通して学んでおくと良いでしょう。
例えば、メンバーの行動がチームのビジョンに沿っていないとき、リーダーは指摘や改善方法の提案を行います。その際、フィードバックの内容が曖昧だと「何が問題なのか」「どう改善すべきなのか」を理解してもらうことができません。
また、フィードバック方法がわからないリーダーは、アドバイスや指摘をすることさえ放棄してしまう可能性があります。それではメンバーの行動が改善されず、チームの生産性が下がってしまうため、リーダーシップ研修にて教育すべきでしょう。
リーダー経験のない従業員は、そもそもビジョンの描き方を知らない可能性があります。経験があっても、どのようなビジョンを描くべきなのか曖昧な人もいるため、研修で教えておくと良いでしょう。
また、ビジョンを描くだけではチームを導くことができません。メンバーに伝える能力の習得も必要です。
『リーダーシップの「基本」が身につく本』という書籍の中で、高城氏は以下のように述べています。
“ジョンとは、伝える方が「もういいだろう」と思うくらいに繰り返して、「やっと」メンバーの頭に、「少しだけ」すりこまれるものです。
(引用元:「高城幸司(2021)『リーダーシップの「基本」が身につく本』株式会社 学研プラス」)
このように、ビジョンをチームに浸透させるには”繰り返す”ことが大切。知らずに「ビジョンを理解してもらえない」と悩むリーダーが少なくないので、ぜひ研修で教えましょう。
どんなに優秀なリーダー・メンバーが揃っていても、ピンチは訪れるもの。そこで慌てずに乗り越え、チャンスに変えられるリーダーこそ理想的です。
そのため、リーダーシップ研修では「問題解決能力」を教育する必要があります。状況を冷静に把握・分析するスキル、適切な判断を下すスキルを身につけることで、トラブル発生時の対応力が高まるでしょう。
センスが良く、カリスマ性のあり、コミュニケーションをとることに長けた人がリーダーに向いていて、自分は適さないと考える人もいます。しかし、知識とスキルを習得していないだけで、向き不向きは関係ないというケースが少なくありません。慎重で控えめな人も、優秀なリーダーとして活躍することが可能なのです。
効果的なリーダーシップ研修を行えば、そのような新たな逸材を見つけられる可能性があります。ぜひ研修を実施し、企業の要となる人材の発見に役立ててください。