組織として活動する上で、どこかで必ず求められる「リーダーシップ」。
「課長に昇進したが、リーダーとしての役割を果たせるか不安だ」
「リーダーを任命するなら、誰が向いているだろうか」
「リーダーシップ教育の担当者になった」
のように、実際にリーダーシップに関する悩みや困りごとに直面したという人もいらっしゃると思います。
そこでこの記事では、リーダーシップについて、その理論の歴史から現在主流になっている理論までくわしく解説していきます。教育担当者向けに、リーダーシップの教育方法についてもご紹介いたしますので、ぜひ参考にしてください。
そもそもリーダーシップとは、組織のまとめ役であるリーダーが、組織の目的達成のために発揮する能力を指します。「指導力」や「統率力」と表現されることもありますね。
そして、これまでにも多くの研究者が、リーダーとして成功した人物を研究対象としながら
「リーダーにふさわしい人とはどのような人物か」
「リーダーシップが発揮されるには何が必要か」
「優秀なリーダーを育成するにはどうしたらいいのか」
などとリーダーシップに関する議論を重ねてきました。
このように、リーダーシップ論とは「組織を目的達成に導くリーダーについて、“その人物像や必要な素質に関する共通点”や“リーダーシップを発揮するための法則” などを模索する理論」をいいます。
■参考記事はこちら
リーダーシップとは?マネジメントとの違いから各リーダーシップ論までわかりやすく解説!
最初のリーダーシップに関する研究は、紀元前にまでさかのぼります。そして、時代の移り変わりとともにリーダーシップに対する考え方も大きく変化してきました。
ここでは、リーダーシップ論の変遷を大きく5つの時代に分けてご紹介していきますが、時代が古いからといって、理論がまったく使えないわけではありません。どの理論も、状況に応じて活用できる理論ですので、ぜひ最後までご覧ください。
紀元前、リーダーシップ研究のはじまりは、当時の政治家や軍人などといった“偉人”と呼ばれる人々が対象でした。なかでも主流だった考えが、「優れたリーダーには、共通する性格や資質がある」とする特性理論だったのです。
共通する性格や資質としては、知能や社交性、責任感、指導力などが挙げられ、これらは生まれながらにして持っている、いわば先天的なものであると言われていました。
1948年、ストグディルの研究により「特性とリーダーシップとの関連には一貫性が見られない」ことがわかりました。すると、次に多くの研究者が、優れたリーダーたちの「行動」に着目するようになります。リーダーシップの行動にはどのような特性があるのか、これを研究したのが行動理論です。
また、行動理論が主流となったこの時代では、多くの理論が「仕事」と「対人」の2軸で語られました。この行動理論に基づいた具体的な理論は多く存在しますが、ここでは、行動理論の代表例といえるPM理論をご紹介しましょう。
PM理論は、九州大学の社会心理学者である三隅二不二(みすみじゅうじ)氏によって提唱された行動理論です。
PM理論は、P機能(Performance)とM機能(Maintenance)の2軸で定義された理論であり、P機能は目標達成を促進するために発揮されるリーダーシップを、M機能は組織やチームをまとめ維持するために発揮されるリーダーシップを指しています。
また、PM理論では、下図のようにP機能とM機能の強さ(高い・低い)によって4種類のリーダー行動に区分されています。
PM理論では、P機能とM機能の両方が低い「pm型」のリーダー行動は目標達成への効果が最も低く、反対に、P機能とM機能の両方が高い「PM型」のリーダー行動こそが、最も目標達成への効果が期待できるリーダー行動であると定義されています。
行動理論の研究が進むなか、特性や行動が同じであるにも関わらず、リーダーシップを発揮できる人とできない人がいることが分かりました。そこで次に、リーダーが置かれている「状況」に着目した理論が生まれていきます。これが「条件適合理論」です。
条件適合理論では、“リーダーとメンバーの関係性”や“リーダーに与えられた権限の大きさ”などといったリーダーを取り巻く状況が、どのようにリーダーシップの効果に影響するかを考えた理論です。
ここでは、条件適合理論として有名な次の3つの理論を簡単にご紹介しましょう。
<条件適合理論の例>
コンティンジェンシー理論は、簡潔にいえば「いかなる状況にあっても力を発揮できるリーダーシップは存在しない」という理論です。
この理論では、リーダーシップの効果に影響を与える要因として次にあげる“3つの状況要因”を明らかにし、それぞれの状況に合うリーダーの在り方を結論づけています。
<リーダーシップに影響を与える3つの状況要因>
つまり、「状況に応じて最適なリーダーシップの在り方も変化する」というのがコンティンジェンシー理論の考え方ともいえます。
パス・ゴール理論は、「リーダーは、メンバーの目標達成のために、状況に応じた有効な働きかけをすることが必要だ」との考え方に基づいた理論です。
この理論では、タスク要因とメンバー要因の2つの状況要因を軸に、それぞれの状況に適したリーダーシップ(働きかけ)の在り方を結論づけています。
<4つの状況に応じた適切なリーダーシップ>
SL理論は、「リーダーは、メンバーの状態に応じて働きかけ方を変えた方が効果的である」という理論です。
この理論では、メンバーの状態をその能力や意欲などから大きく4つの状態に分類し、それぞれの状況に適したリーダーシップ(働きかけ)の在り方を下図のとおり結論づけています。
また、納得度の高い理論であることから、企業のリーダーシップ教育に取り入れられるなど、実践の場で広く普及しています。
実際のところ、リーダーシップは、メンバーがリーダーを受け入れてこそ成り立つものです。1970年代のリーダーシップ研究では、こうした“リーダーとメンバーの関係性”に着目した研究が広がっていきました。それが「交換理論」です。
交換理論という名目は、リーダーとメンバー双方の立場に着目した(立場を交換した)ことから、このように呼ばれています。
ここでは、交換理論として有名な次の2つの理論をご紹介していきます。
<交換理論の例>
信頼蓄積理論は、「リーダーシップはリーダー個人的に発生するものではなく、メンバーからの信頼獲得によって成り立つ」とする理論です。
また、信頼獲得には、メンバーが大切にしている規範を尊重するような「同調性」とチームへの貢献度を示す「有能性」を示す必要があるともいわれています。
なお、リーダーがメンバーの信頼を獲得するまでのプロセスについては下図をご覧ください。
LMX理論は、「リーダーとメンバーの相互作用は一律ではなく、メンバー個人個人で異なる」という考えを示した理論です。
もう少し具体的に説明をしましょう。たとえば、メンバーがリーダーから受け取る報酬には給料や昇進などがありますが、この報酬の交換関係は必ずしも各々のメンバー間で一律ではありません。リーダーと各々のメンバーの関係性の質(良し悪し)によって、多くも少なくもなるということです。
また、リーダーとメンバーの関係性の方向(良し悪し)は初期に構築されてしまい、その後はほとんど変化が見られないといいます。
つまり、LMX理論の一連の研究からいえることは、「リーダーの立場にある人も、メンバーの立場にある人も、双方が質の高い関係性を築けるように留意することが重要である」ということです。
1980年代、アメリカでは厳しい経済状況が続きました。多くの企業において経営環境は激変し、リーダーにはこの状況を打開するための“変革的なリーダーシップ”が求められるようになっていったのです。
そして、こうした時代背景のもと誕生したのが「変革型リーダーシップ理論」でした。この理論では、メンバーのマインド面から変化をもたらしていくという、これまでのリーダーシップ論とは視点が大きく異なる理論として注目を集めました。
ここでは、変革型リーダーシップ理論として、次の3つの理論をご紹介していきます。
<変革型リーダーシップ理論の例>
ビジョナリー・リーダーシップとは、「リーダーとして、ビジョンを描き・ビジョンを伝えることが重要である」とする理論です。
書籍「これからのリーダーシップ 基本・最新理論から実践事例まで」では、ビジョナリー・リーダーシップについて次のように紹介しています。
ベニスは、レーガン、カーターなどのアメリカ大統領のアドバイザーを務めた人物でもありました。ベニスらは、激変するアメリカ経済の真っ只中に企業変革を推進した経営者および公共センターの卓越したリーダーなど合計90名に綿密な調査を行い、90名のリーダーが体現していた4つの共通点を明らかにしました。
<変革を推進している優れたリーダーに共通していた4つの戦略>
(引用:堀尾志保、舘野泰一著(2020)『これからのリーダーシップ 基本・最新理論から実践事例まで』日本能率協会マネジメントセンター)
カリスマ型リーダーシップは、「カリスマ性を感じさせるリーダーの特性」について示した理論です。
カリスマ型リーダーシップ理論で有名な、コンガーとカヌンゴによる研究をご紹介しましょう。彼らは、カリスマ性を感じさせるリーダーがとる行動特性について、次の6つのポイントを示しています。
<カリスマ型リーダーシップ・6つの行動特性>
コッターによる変革型リーダーシップ論は、「変革のために必要な8段階のプロセス」を示した理論です。今までになかった「マネジメント」と「リーダーシップ」を分けて考えた理論になります。
ここでは、コッターが示した「リーダーシップとマネジメントの違い」および「変革に必要な8段階のプロセス」を簡単にご紹介しましょう。
<マネジメントとリーダーシップの違い>
マネジメント |
リーダーシップ |
|
役割 |
確実な既存システムの運営 |
変革の実現 |
プロセス |
①計画立案・予算策定 ②組織編成・人員配置 ③統制・問題解決 |
①方向性の設定 ②メンバーの連携促進 ③動機づけ・啓発 |
<変革に必要な8段階のプロセス>
さてここからは、最新のリーダーシップ論についてご紹介していきたいと思います。
これまでのリーダーシップ論では、優れたリーダーの特性や行動をもとに研究を行う、いわば「リーダーありき」の理論でした。しかし、最新のリーダーシップ論では「リーダーシップは成長させられるもの・リーダーは育てるもの」という考えが主流になっています。
ここでは、最新のリーダーシップ論を4つ、これまでのリーダーシップ論との違いに触れながらご紹介いたします。
<最新のリーダーシップ論>
リーダーシップ開発論は、リーダーシップが育まれるプロセスに着目した理論です。なかでも、アメリカの教育思想家であるコルブは「経験学習モデル」として、リーダーシップが育まれるプロセスを下記のとおり4段階のサイクルで示しています。
<コルブの経験学習モデル>
たとえば、①リーダーがチームの連携値を高めようとある企画をしたが思うようにいかなかった(具体的経験)とします。そこで、②リーダーは「なぜ思うようにいかなかったのか」と反省をし(省察的観察)、③もっとチームメンバーの意見に耳を傾けるべきだったことに気づき(抽象的概念化)ます。その結果、④次回はメンバーの意見を聞くことからはじめてみる(能動的実験)ようになります。これが、コルブの経験学習モデルの流れです。
そして、これまでのリーダーシップ論では、あるべきリーダー像を示す形で理論を展開していましたが、このコルブの理論において「リーダーシップは育むもの」という考え方に変化を遂げました。
シェアド・リーダーシップは、その言葉どおり「複数のメンバーでリーダーシップをシェア(共有)する」、共有型のリーダーシップです。コルブの経験学習モデル>
これまでのリーダーシップ論では、リーダーシップはカリスマ性をもった個人が発揮するものでしたが、サービスや雇用形態などあらゆる面での多様化が進む現代では、個人に頼りきる形では立ち行かなくなりました。そこで、メンバー全員をリーダーシップの担い手と捉える「シェアド・リーダーシップ」の考え方が広まっていったのです。
また、シェアド・リーダーシップでは、メンバー全員が同時にリーダーシップを発揮するのではありません。メンバーはそれぞれが適所でリーダーシップを発揮し、その他のメンバーはリーダーシップを発揮しているメンバーをサポートする“フォロワー”側にまわります。
サーバント・リーダーシップは、「リーダーとは、まず相手に奉仕し、その後相手を導くものである」という考えのもと、リーダーがメンバーの支えとなる支援型リーダーシップの形です。リーダーはメンバーがそれぞれの能力を発揮できるよう、サポート体制をとります。
この理論を提唱したグリーンリーフによる、サーバント・リーダーシップ10の特徴をご紹介しておきましょう。
<サーバント・リーダーシップ10の特徴>
また、これまでの理論では、変革型リーダーシップ論のようにリーダー個人がチームをけん引するようなイメージでしたが、サーバント・リーダーシップではリーダーが目立たない存在として力を発揮する、正反対のイメージへと変化したことが分かります。
オーセンティック・リーダーシップは、「モラルを保ちながら、自分自身の価値観や信念を軸に発揮するリーダーシップ」です。
2000年代のアメリカにおいて企業破綻が相次いだとき、その原因の一つとされたのが、リーダーの高額すぎる年収など倫理観に関わる問題行為でした。こうした時代背景のもと、「リーダーは個人の利益(報酬や名声など)にとらわれることなく、自分自身の価値観や信念に正直であるべきだ」とされたのが、このオーセンティック・リーダーシップの理論が生まれたきっかけでした。
オーセンティック・リーダーシップの特性
リーダーシップ論について理解いただけたところで、ここからはリーダーシップ教育の方法について解説していきたいと思います。研修型・実践型に分けてご紹介します。
研修型の教育方法は、いわば「Off-JT」と呼ばれる方法です。Off-JTは研修やセミナー形式の教育方法を指し、具体的には次にあげるような方法があります。
<Off-JTの具体例>
また、書籍「これからのリーダーシップ 基本・最新理論から実践事例まで」によると、リーダーシップ行動を促し、リーダーシップの発揮に効果的な4つの要素として次の点をあげています。Off-JTでは、これらの要素を重点的に学習していくとよいでしょう。
<リーダーシップ行動を促す4つの要素>
(参考:堀尾志保、舘野泰一著(2020)『これからのリーダーシップ 基本・最新理論から実践事例まで』日本能率協会マネジメントセンター)
さらに、近年では「オンライン研修サービス」や「クラウド型eラーニングシステム」などのサービスも多数展開されています。動画マニュアルを活用し理解を深めやすくなっていたり、学習内容へのフィードバックを実施できる仕組みも好評ですので、導入を検討されてみてはいかがでしょうか。
なお、Off-JTについてはこちらの記事でもくわしく解説していますので、ぜひ参考にご覧ください。
■参考記事はこちら
Off-JTとは?実施するメリットや方法を事例からわかりやすく解説!
実践型の教育方法は、Off-JTとは反対の「OJT」による方法です。OJTは現場での実務を通した教育を指し、具体的には次にあげるような方法があります。
<OJTの具体例>
OJTによる教育方法を実践する場合は、コルブの「経験学習モデル」にしたがって取り組むとよいでしょう。メンバーからのフィードバックをもらうことで、より効果的な学習にもつながります。
なお、OJTの実施は、企業側にも教育担当者にも次のようなメリット&デメリットがあります。くわしくは下記の参考記事でご紹介していますので、そちらもぜひ参考にご覧ください。
■参考記事はこちら
OJTとは?実施時の注意点や必要な準備についてわかりやすく解説!
組織として活動する上で、どこかで必ず求められる「リーダーシップ」。今回はリーダーシップについて、その理論の歴史から現在主流になっている理論までくわしく解説いたしました。
リーダーシップ研究のはじまりは紀元前にまでさかのぼり、リーダーシップ論は時代の背景や求められるリーダー像の変化によって大きく進化を遂げています。最新のリーダーシップ論では、自分らしさを重視する点や、価値観や信念・倫理観がポイントになってきてる点もご紹介しました。
なお、それぞれのリーダーシップ論に関する内容については、本文中でくわしく解説しています。ぜひ、貴社のリーダーシップ教育にお役立てください。