メンバーを率いて目標を達成するために必要となる能力がリーダーシップです。リーダーシップは部署や限られたチーム内だけでなく、企業が今後の外的圧力や競争社会に打ち勝ち、新しい価値を創造するためにも必要となります。
この記事では、リーダーシップの定義やマネジメントとの違い、必要な要素や目的、身に付ける方法を解説します。これからの企業のリーダー育成やリーダーシップの発揮にぜひ役立ててください。
厚生労働省が公開しているリーダーシップ発揮のためのワーク、「リーダーシップを発揮しよう」では、リーダーシップとは目標を達成しようとしているチームやグループに対して、リーダーが目標達成に対して与える影響と定義しています。
ジョン・P・コッター著「人と組織を動かす能力 リーダーシップ論」では、リーダーシップとは職務遂行において核となる行動様式であり、時代や文化、業務の違いなどで内容が変わるものではないとしています。つまり、時代や文化などの変革に合わせてリーダーシップは変容するものではなく、中身は不変のものであると言えるのです。
さらに上記厚生労働省の資料では、リーダーとは、以下にあてはまる立場と定義しています。
(引用:厚生労働省『リーダーシップを発揮しよう』より)
さらに、リーダーは1人だけでなく複数いても問題ない、組織の役職に就いている立場以外でもなれるとも定義しています。
リーダーシップと似ている言葉に、マネジメントがあります。マネジメントも、リーダーシップと同じく目標達成に対して行うことです。経済法令研究所発行の「管理者のあり方とリーダーシップ」では、マネジメントとは、「集団が目指す目標を達成するにあたって、集団内で使用する人、物、金、情報などを最大限に活用し、できる限りの機会損失を防ぐための管理」と定義しています。
リーダーシップを発揮する人がリーダーであるのに対し、マネジメントを行う人は管理者(マネージャー)と呼ばれます。管理者は、目標達成のための資源の重要なポイントをおさえながら、事象をうまく処理、収集することが求められます。たとえば、人事マネジメントなら部下や従業員などの人にあたる資源を、うまく活用かつ処理、収集することです。
ジョン・P・コッター著「人と組織を動かす能力 リーダーシップ論」では、リーダーシップとマネジメントの違いを以下のように比較しています。
・リーダーシップの役割とは競争の激化や変化に対処すること
・マネジメントの役割とは複雑な状況にうまく対処すること
ジョン・P・コッター著「人と組織を動かす能力 リーダーシップ論」
技術革新、国際競争や市場競争の激化、規制緩和や労働力の人口構成の変化などの新しい環境に対して企業が生き残っていくためには、大胆かつ大規模な変革が求められます。大規模な変革が大きければ大きいほど、対処できる力としてリーダーシップが求められることになるのです。リーダーシップは、生身の人間や組織文化など、ソフト面に対して発揮されるものとも述べられています。
一方、企業の複雑な状況にうまく対処し、ある程度の秩序や一貫性を保つために行うのがマネジメントです。そのために、マネジメントでは既存システムである予算や人材など資源を設定し、将来の目標設定を行います。マネジメントは組織の改装や制度など、ハード面を通じて実行させるものとも述べています。
リーダーシップとマネジメントでは、対処する対象や状況が異なります。一方、マネジメントとリーダーシップはいずれにも以下の3つが共通しています。
上記から、リーダーシップとマネジメントとは相違関係にあるものの、補完しあう行動体系であるとも述べられています。
ジョン・P・コッター著「人と組織を動かす能力 リーダーシップ論」では、リーダーが直面する事業環境の重要な変化に対する「10の教訓」がまとめられています。10の教訓の背景にある、リーダーシップが重視される理由を解説します。
大きな変革への対応という最終目的を達成するために、ジョン・P・コッターは変革のための8つのプロセス(後述)を提唱しています。各プロセスそれぞれを着実に達成させるには、長い時間が必要です。変革へのプロセスを飛ばす、または間違った順番で進める、時間をかけずその場しのぎで進めようとすると、当然最終的な目的は達成できません。これらのプロセスを適切な順序で時間をかけて進めるために、リーダーシップは必須となります。
変革のプロセスではそれぞれの段階で多くの課題が発生します。個別の課題解決のためにリーダーシップを発揮し、臨機応変な対応が求められます。リーダーシップのないリーダーの場合、メンバーや部下の変化に鈍感など課題に気付けない、柔軟性がないためひとつのやり方ですべてを解決しようとするでしょう。プロセスの段階的な成果を出すためにも、リーダーシップが必要です。
経験や知識が豊富、マネージャーとして有能な人材でも、組織の変革推進に失敗することがあります。この背景になるのが、今までの組織文化や安定した環境への依存による、リーダーシップ不足です。多くの人が、変化が少なく安定した環境を前提とした教育を受けています。そのため、いざ変革が必要となったときには、優秀なマネージャーでもリーダーシップをどのように発揮するべきか分かりません。現在の環境や組織文化を当たり前と思わず、変革へ対応できる力を身に付けるために、リーダーシップが求められています。
前述通り、マネジメントとリーダーシップは互いに補完しあうものである一方、相対的な関係にあります。既存システムや資源を活用するマネジメントでは、変革に必要な社員の意識改革やエンパワーメントは実現できません。逆に、リーダーシップはあってもマネジメント力不足のリーダーの場合、既存の組織や体制に大きな混乱が生じる可能性があります。
リーダーシップとマネジメント力、いずれか一方のみが必要な業務環境はほとんど存在しません。企業の保持と飛躍、両面を実現させるためにはマネジメントだけではなく、リーダーシップも欠かせないものとなっています。
市場や企業をとりまく環境の変化に対応するためにも、リーダーシップは重要となります。たとえば、日本労働組合総連合会の「消費者行動に関する実態調査」によると、消費者が、店員・係員に対して、迷惑行為を行うことが、近年増えていると思うかどうか聞いたところ、「増えている」は 一般消費者で48.9%、接客業務従事者で56.4%とほぼ過半数が消費者の迷惑行為の増加を感じているという調査結果となりました。
(出典:日本労働組合総連合会「消費者行動に関する実態調査」12ページより)
消費者による迷惑行為をなくすためには何が必要か、の質問に対しては、「消費者への啓発活動」が一般消費者で46.0%、接客業務従事者で49.5%、「企業のクレーマー対策の教育」が一般消費者で42.0%、接客業務従事者で40.6%、「法律による防止」が一般消費者で36.0%、接客業務従事者で37.3%と、上位いずれも変革を伴う対処法が挙げられています。
(出典:日本労働組合総連合会「消費者行動に関する実態調査」13ページより)
時代の変遷など、外の変化へ企業が対応するためにもリーダーシップは重要視されています。
既存システムや内部統制のために発揮されるマネジメントは、おもに上司と部下など縦の改装を軸とした人脈の中で展開されます。一方、大きな変革のためには他部署のマネージャーや他部署の上司、部下など他に変革をしようとしている人と同じビジョンを共有し、実現に向けて行動することが必要です。
縦の階層から干渉を受けずに人脈を築くためには、マネジメントではなくリーダーシップが求められます。マネジメントの考え方に固執し、自分の部署内や部下にのみ変革のためのプロセスを踏もうとしても、企業の大きな変革は実現できないでしょう。
前述の通り、大きな変革を実現するには階層を介さない、横の人脈を展開していくことが重要です。これを踏まえて、組織を動かすリーダーという立場には支配や統制などの権力を行使するのではなく、積極的に依存しながら仕事を進めることが求められるようになった、とも述べられています。
依存する対象は上司や部下、部署内の人間、他部署の人間、社外の人間にまでおよびます。立場としてはもっとも低い従業員のひとりが、上層部の役員の大きな助けになったり、逆に逆行に追い込んだりする可能性もあるのです。権力ではなく、依存関係に着目し良好な人間関係を構築して仕事を進めるためにも、階層を介さず人脈を広げられるリーダーシップが求められています。
リーダーシップの研究者、ノエル・ティッシーとマリアンナ・ディバナは抜本的変革の必要性の増加により、変革の担い手である「変革型リーダー」のニーズが高まっていると指摘しています。変革的リーダーとは、日常的マネジメント業務を行うマネージャーとは異なる以下の7つの特徴を持っていると定義されています。
変革的リーダーの果たすべき役割を体系的に表した「ティシー・ディバナのリーダーシップ理論」より、リーダーシップによって成し遂げられる目的を解説します。
(引用:京都マネジメントレビュー第8号 東 俊之「変革型リーダーシップ論の問題点―新たな組織変革行動論へ向けて―」9ページより)
競争の激化や外の環境変化へ対応するためには大きな変革が必要となりますが、組織内の人間の中には「大きな手間やリスクを負ってまで今までのやり方を変える必要はない」と変革に懐疑的、否定的な考えを持つ人もいるでしょう。
リーダーには変革へのきっかけとなる環境からの圧力を認識し、組織や個人の改革に対する抵抗、特に感情面の調整を行うことが求められています。リーダーが組織や個人へ危機意識と変革の必要性を認識させることで、変革のためのビジョンや考え方の共有につなげられるでしょう。
変革のために必要なプロセスの中に、変革の必要性を持つことと、目的達成のためのチーム結成、そして新しいビジョンの創設があります。この新しいビジョンを創設するのもリーダーの役割です。ビジョンを構築するための現在の状況の診断、さらに率いる人材(以下フォロワー)の動機付けやコミットメントの引き出し、終結と新しいスタートの見通しを行い、新しいビジョンを創設します。
新しいビジョンを創設したら、チームへ周知させるためにリーダーがフォロワーへ積極的にコミュニケーションを取ります。フォロワーの信頼を得るためのコミュニケーションとしても、階層を介さないリーダーシップを発揮することが必要です。新しいビジョンをフォロワーへ周知し、信頼を得ることでチームの方向性が定まり、一体性を持って改革へ取り組めます。
ジョン・P・コッターの述べた、企業や制度変革のための8つのプロセスの最後、変革や新しい行動様式を組織や企業に根付かせることも、リーダーシップによってもたらされる目的のひとつです。変革や新しい行動様式の創設につながったとしても、既存の組織に根付かなければ変革の制度は上げられません。
変革の障害となっているのが、既存の組織や企業の風土です。これまでの組織や社会的なネットワークの再構築、既存の組織やシステムの持つ硬直性との対峙、新しい人的資源の管理システムの構築にはリーダーシップが求められます。
リーダーシップに関する研究が進められるなかで、多くのリーダーシップ理論が登場しました。そのひとつが、「PM理論」です。PM理論とは、日本の社会心理学者「三隅二不二(みすみじゅうじ)」が提唱した行動理論を指します。行動理論とは、リーダーの取るさまざまな行動に着目、分析したリーダーシップ理論の総称です。
PM理論では、生産性やタスクを重視する生産志向や課題に関連する行動(Performance function)と、人間関係を重視する従業員志向や対人に関連する行動(Maintenance function)のふたつの次元からリーダーの行動を分析し、どちらを得意・不得意としているかを判断します。
(出典:東レ経営研究所「リーダーシップ理論の流れとリーダーシップの実践的開発方法」43ページより)
優れている行動特性を大文字、劣っている行動特性を小文字で表現し、リーダーの持つ行動特性によって以下4つの方に分類します。
目標達成も気にしながら、人間関係にも気を配れるリーダーです。
目標達成を重視し、人間関係にはあまり配慮を行わないリーダーです。
目標達成よりも、周囲の人間関係を重視するリーダーです。
目標達成、人間関係いずれにも消極的なリーダーです。
PM理論では、目標達成、人間関係いずれも重視する「PM」型のリーダーのみを良しとするのではありません。どちらが得意、どちらが苦手かを分析し、得意とする方の強みを活かしつつ、苦手とする方の改善を行うのがPM理論の目的です。リーダーが苦手とする行動を改善するために、2人以上のリーダーによってリーダーシップが発揮される、コ・リーダーシップという手法もPM理論と併用されることが多くなっています。
リーダーが集団に与える行動にはさまざまなものがあり、タイプによってリーダーシップの種類が分けられます。アメリカの科学ジャーナリストであるダニエル・ゴールマンはリーダーの行動やスタイルの特徴から、リーダーシップのスタイルは以下の6種類に分けられると提唱しています。
(引用:愛媛大学「リーダーシップのスタイル byダニエル・ゴールマン」より)
リーダーは自分で意識しないうちに6種類のリーダーシップのスタイルのいずれかを採用し、使い分けているとも提唱しています。これらの6種類のリーダーシップのスタイルについて解説します。
ビジョン型リーダーシップとは、共通の夢に向かって人々を動かすことで、ビジョンへの共感や共鳴を引き起こすタイプのリーダーです。6種類のリーダーシップのスタイルの中ではもっとも前向きで、変革のための真のビジョンや方向性が必要なシーンに向いています。
ビジョンの内容や将来の展望などは語る一方、到達までの方法はリーダーが提示することなく、メンバーの自主性に任せられます。ビジョンを提示、明確にすることでメンバーのチームへの帰属意識を高められることと、リーダーシップのタイプでももっともバランスが良いことがメリットです。
一方リーダーよりも専門性が高い、知識やスキルがあるメンバーからは、リーダーの提示するビジョンに先見性や将来性が見いだせず、共感が得られない可能性があります。また、リーダーが威圧的な態度を取ることで、チームの平等性が損なわれるリスクがあるのがデメリットです。
ビジョン型リーダーシップを発揮するために必要な能力やスキル、行動は、以下の通りです。
コーチ型リーダーシップとは、個々人の希望を組織の目標に結びつけて共鳴を得るリーダーシップです。1対1の対話によって発揮されるリーダーシップで、特にモチベーションの高いメンバーに対して効果があります。コーチ型リーダーシップで行われるリーダーの行動は、以下のふたつです。
メンバーの長期的な才能を伸ばす、またはパフォーマンスの向上にも有効です。ビジョン型に次いで前向きなリーダーシップのスタイルとなります。
一方、リーダーがメンバーに対する個人的な理解や部下を指導するための専門知識、スキル、さらに思いやりがないと発揮できません。またモチベーションの低いメンバーや、結果のみにこだわった接し方では効果が出ないでしょう。部下の能力だけでなく、心情や気持ちの部分にまでアプローチしなければいけないため、コーチ型リーダーシップを実行できるリーダーはとても少ないとされています。
コーチ型リーダーシップを発揮するために必要なスキルや行動は以下の通りです。
関係重視型リーダーシップとは、チームに携わる人々を互いに結びつけてハーモニーを作ることで共鳴を得るリーダーシップのスタイルです。課題や目標達成よりも部下の感情面のニーズを重視している特徴があります。そのため、組織の融和やモラルの向上、意思疎通の改善、信頼関係の修復、結束を高めるなどおもにチームの人間関係の調和を図りたいときに効果を発揮します。特にアジアの大半、ラテンアメリカ、ヨーロッパの一部では非常に重視されるスタイルと言われています。
メンバーの気持ちを重視するため、目的や目標が後回しになります。そのため、ビジョン型など目的達成を見据えたスタイルとの併用が必須です。対立を避けるためにリーダーは自分の気持ちをおさえてメンバーに合わせるため、多用すると改善や能力向上のためのフィードバックが消極的になる、リーダーが自身の行動を犠牲にしてしまうデメリットがあります。
関係重視型リーダーシップに必要なスキルや行動は以下の通りです。
民主型リーダーシップとは、メンバーの提案を歓迎し、参加を通じてコミットメントを得るリーダーシップのスタイルです。結果よりもプロセスを重視し、結果がどのようなものでも関係者全員に前向きな印象を与えられます。
民主型リーダーシップはメンバーの意見の収集と情報の開示の両方の側面を持っているため、以下のシーンに効果的です。
メンバーからの意見や提案が集まらないと効果が発揮できないため、知識やスキル不足のメンバーには向いていないデメリットがあります。結論が出にくく即効性がないため緊急の課題解決には不向き、メンバー同士の意見が衝突する可能性があるのもデメリットです。
民主型リーダーシップを発揮するには、以下のスキルや行動が求められます。
ペースセッター型とは、リーダーが高レベルのパフォーマンスを目指して手本を見せるリーダーシップのスタイルです。難易度ややりがいの高い目標達成を目指すときや、リーダーやメンバーの個人的な能力が高いときに向いています。成果とスピードの向上をリーダーにもメンバー自らにも求めますが、メンバーが失敗した場合にはリーダーが状況改善を行います。
目標を提示して共鳴を求めるビジョン型と相性がよい一方、「できて当たり前」というプレッシャーがメンバーにかかることになります。リーダーからの重圧に加えて、メンバーへの思いやりも欠如しやすいため信頼関係が築きにくい、メンバーが不安になりやすい、リーダーがひとりで何でもやってしまうためチームが機能しないなどのデメリットがあります。
高い効果が見込める一方で、リーダーとメンバーとの間に亀裂が入って関係が崩壊しやすい、諸刃の剣とも言えるリーダーシップのスタイルです。関係重視型リーダーシップと併用するなど、人間関係へのフォローも必要となります。
ペースセッター型リーダーシップに求められるスキルや行動は以下の通りです。
強制型リーダーシップとは、リーダーが理由を説明せず命令に即座に従うことをメンバーに求めるスタイルのリーダーシップです。メンバーが疑問や意見を述べると脅すなど発言を認めず、裁量権はリーダーがひとりで握ります。メンバーやチームの状況をすべて支配、管理し、メンバーの落ち度を指摘することはあっても褒めることはありません。
メンバーのモラル、自尊心、モチベーションの低下や組織への帰属意識、愛着の喪失につながり、チーム内に不協和音が起き、組織文化の悪化、さらに衰退や崩壊もまねくもっとも非効率なリーダーシップスタイルとされています。一方、世界のいろいろな場所で強制型リーダーシップが強く根付いているとも言われています。
変革をはじめとした目的達成のためのリーダーシップスタイルとしては不適切ですが、災害時や危機的状況を脱したい緊急時、さらにほかの方法では通用しない問題の多いメンバーへの対処法としては、効果を発揮することがあります。あくまで緊急時の最終手段であることを覚えておきましょう。
強制型リーダーシップに必要なスキルや行動は以下の通りです。
サーバントリーダーシップとは、1970年にロバート・グリーンリーフによって提唱されたリーダーシップ論です。「人の役に立ちたい、奉仕したい」という人間の本質に基づいた「リーダーである人は、まず相手に奉仕し、その後相手を導くものである」という考えを展開しています。
(出典:東レ経営研究所「リーダーシップ理論の流れとリーダーシップの実践的開発方法」45ページより)
英語の召使を意味する「サーバント」から由来したリーダーシップ論で、日本語では「奉仕型リーダーシップ」とも訳されています。リーダー自らが行動するのではなく、メンバーを献身的にサポートするのが特徴です。ただし、ビジョンの設定や最終決定、プロジェクトやミッションの責任はリーダーにあります。
ロバート・グリーンリーフは、彼の著書「サーバントリーダーシップ」の前書きにて「サーバントリーダーシップの存在は世界的に認識され始め、注目度も上がっている。その要因になっているのが、低コストで高品質のものを求める世界経済である。しかも、かつてないほどのスピードを要求されている」「そうした状況を長く保つためにできる唯一の方法は、人々に権限を与えて能力を高めること(エンパワーメント)だ。こうしたエンパワーメント(これこそサーバントリーダーシップの意味するところだが)は組織が息長く成功するか、結局は消滅するかを決める机上の空論ではなく、実践に基づいた重要な原理の一つだ」と述べています。
日本サーバントリーダーシップ協会理事長 真田茂人氏のコラム「サーバントリーダーシップの効用」では、マーケットが拡大中の「右肩上がりの環境」ではカリスマ型や支配型のリーダーシップも効果がある一方、日本を含め単純なビジネスでは成功しない「成熟した環境」では、サーバントリーダーシップが有効であると述べられています。
(引用:日本サーバントリーダーシップ協会理事長 真田茂人氏「サーバントリーダーシップの効用」4ページより)
右肩上がりの環境は、市場や顧客のニーズに合わせて足りないものを生産する、という比較的シンプルなミッションを達成すれば問題ありません。一方成熟した環境では、ただものを作れば売れるのではなく、多様化する顧客のニーズや、高度化する顧客要望への対応が必要です。さらに、顧客ニーズや要望の正解はひとつだけではありません。
市場や顧客のかかえるニーズや課題の発見には現場や若手社員などの顧客接点がヒントとなります。部下の協力を得る、または部下のモチベーションを高めるために行うのが、リーダーからの支援です。
リーダーがメンバーをサポートし、メンバーが成果を出し、結果顧客満足度が向上します。ビジネスが好循環するため成熟したビジネス環境では、サーバントリーダーシップが求められているのです。サーバントリーダーシップや様々なリーダーシップ論の詳細に関しては、以下の記事で詳しく解説していますので、あわせてご覧ください。
■参考記事
リーダーシップの具体例を紹介!サーバントリーダーシップについてもわかりやすく解説!
大阪市立大学経営学研究科教授狩俣正雄氏の「リーダーシップスキルとリーダーシップ開発」によると、リーダーシップは生まれつき持った特性によるものである考えと、リーダーに必要なスキルは経験や教育から開発できるものであるという考えに二分されていると述べられています。いずれの場合でも、リーダーとして欠かせない要素やスキルを明らかにすることが、リーダー育成には重要です。
前述通り、リーダーシップのスタイルによって必要となるリーダーのスキルは異なります。ジョン・P・コッター著「人と組織を動かす能力 リーダーシップ論」より、リーダーシップとマネジメントの違いをふまえて求められるリーダーとしての要素を解説します。
マネジメントが既存のシステムの統制や保持を目的としている一方、リーダーシップの役割は変革を起こすことです。変革の方向性を決めることが、リーダーには求められます。変革の方向性を設定のためのパターンや関係性、関連性のもととなるデータの収集および分析をしなければいけません。
方向性を設定すると、事業や技術、企業文化の長期的なあり方と、変革の達成へ向けた現実的な道筋を明示するビジョンと戦略が生み出されます。ビジョンや戦略を明示するために求められるスキルは、以下のように述べられています。
方向性の設定が明確なら、変革への計画立案プロセスもスムーズに進みます。一方方向性の設定やビジョン、戦略が間違っていると、ステークホルダーの正当な権利を無視してしまうことにもなります。
近代組織では、人と人との相互依存性が特徴として表れています。社員の大半が仕事や業務、階層、システムなどを通じて多くの人と結びつき、他人に一切依存していない人間はいない、ということは明白でしょう。相互依存性により、組織の変革では全員が同じ方向を目指して一緒に動かないと、変革の実現は不可能です。そのため、リーダーには人をひとつにまとめることが求められます。
人をひとつにまとめることは、人を組織化するのではなく、多くの人とコミュニケーションを取ることで実現できます。リーダーが会話によってコミュニケーションを取る対象は、部下以外にも上司や同僚、他部署の社員、顧客など多岐にわたります。リーダーが多くの人とコミュニケーションを取ることで信頼を得られ、リーダーの発するメッセージを皆が信じ、人をひとつにまとめることができるでしょう。
人がひとつにまとまることで、以下のふたつの面でエンパワーメント(権限委譲)が進むと述べられています。
変革には、企業の風土や変革への不信感など、障害となるものがあります。リーダーがメンバーをうまく動機付けることで、障害を克服できる力を身に付けられます。動機付けられた行動とは、人が触発されたことで大きなエネルギーを持つ行動であり、設定したビジョンや変革の達成には不可欠です。
メンバーの動機付けのために、リーダーは以下の人間の基本的欲求を満たす必要があります。
メンバーの基本的欲求を満たすための方法の例には、以下のものがあります。
メンバーのモチベーションややりがいを引き出すための取り組みを行うことも、リーダーに求められています。
リーダーシップが発揮される背景にあるのが、組織改革や環境の大きな変化への対応です。ジョン・Pコッターは変革を実現させ、大きな成果を収めるためには以下の8つのプロセスを踏む必要があると提唱しています。
それぞれのプロセスにおいてのリーダーの行動や役割について解説します。
現在の職場環境が安定している、幸せであると感じている場合、メンバーや社員、従業員は危機意識を持つことは難しいです。幸せな状況を手放してまでリスクを承知で変革を行おうとする人はいないでしょう。リーダーはメンバーに対して危機意識を持たせるために、変革は緊急の課題であることを徹底して認識させなければいけません。
まず市場分析によって競合状態を把握すること、さらに現在の危機的状況や今後表面化する課題、現在が変革の大きなチャンスであることを周知します。そのうえで、業績指標についてメンバーがいつでも議論できる環境を提供しておくことが重要です。企業の風通しを良くしておくことで、業績に関する悪い情報も忌憚なく持ち込み、議論ができます。議論がしにくい環境の場合、悪い情報を持ってくる社員は敵にされやすく変革の障害となってしまいます。
変革のためのプログラムを率いる力のあるグループを結成します。規模も1~2人体制の小さなチームからスタートさせる場合も多いですが、変革へのプロセスが順調に進むたび、チームの人数が増えて大規模になっていく傾向にあると述べられています。
また、変革推進のためのチームに執行役員全員が参加することはほぼないとも言われています。執行役員の中には、変革に賛同しない人物もいるためです。ただし、執行役員がいなくても優秀なメンバーがそろえば、変革は成功します。
変革には組織の境界線や常識を超えたメンバーが必要になるためです。そのために、階級を超えてチームのメンバーをまとめるリーダーシップが発揮されます。リーダーはメンバーに対して自社の問題点やビジネスチャンスを認識させることと、チームでの信頼関係とコミュニケーションの構築が求められています。
短期間でチーム内の結束を高める有効な方法として、合宿などを行っている企業もあります。
変革を成功させるポイントに、明確なビジョンの策定があります。明確なビジョンの目安となるのが、以下の要素を含んでいるものです。
適切なビジョンが示されていない場合、変革に関するプロジェクトも矛盾したものが乱立する、組織が誤った方向へ進むリスクがあります。変革に必要となるのは、計画や方針、プログラムが乱立したマニュアルではなく、適切なビジョンです。
ビジョンが明確になれば、ビジョン実現のために戦略を立て、変革に向かって動き出していきます。
メンバー全員が変革へ同じ方向を向いて進むためには、組織全体へビジョンを周知、共有することが必須となります。あらゆる手段を活用し、ビジョンを伝達しなければいけません。ビジョンの周知や共有の方法の例として、以下のものが挙げられています。
上記の例は、いずれも既存の重要視されていなかったメディアや慣習を活性化させ、ビジョンの周知や共有へ活用したことが共通しています。
コミュニケーションに長けた執行役員がいれば、日常会話などでビジョンについて周知や共有をすることも可能です。適切な手法やコミュニケーションを取り、ビジョンを周知、共有させ組織全体の信頼を勝ち取ることが求められています。
ビジョンが知れ渡り、組織全体が編値して信頼を得られるようになれば、少しずつ社員たちを巻き込んでいきます。社員たちのなかには、自発的な行動を行う人も出てくるでしょう。大勢の人が参加すれば参加するほど、変革プログラムの成果は大きくなります。ただし、自発的な行動がビジョンから大きく外れている場合には、軌道修正が必要になります。
社員たちが変革に向けて自発的な行動をしようとした場合、障害となるものがあります。障害を取り除かなければ、変革に向けての連携やエンパワーメントの実施は不可能です。障害となるものとは、以下のものがあります。
社員のやる気を起こして変革プログラムへの信頼を維持するためには、リーダーは自らが重大な処分と対峙し、取り除かなければいけません。リスクを恐れずに、伝統や慣例にとらわれない考え方や行動を奨励することも求められます。
変革の実現には、長い時間がかかります。ところが、せっかく加速化した社員の変革への行動スピードは、時間がたてばたつほど失速してしまいます。変革への行動スピードを維持するためには、短期的に達成できる目標の設定が重要です。1970年、ハウスによってメンバーのモチベーションを理論化した「パス・ゴール理論」では、状況に応じてメンバーやチームへ道筋をつけないと、徐々にモチベーションが低下していくと述べられています。
(引用:厚生労働省『リーダーシップを発揮しよう』7ページより)
目に見える短期的成果を上げるための計画策定や実行には、以下のプロセスを踏みます。
短期的な成果を出すという責務を社員に課すことで、変革の緊急性は常に意識しつつも設定したビジョンにより磨きをかける努力が後押しされることになります。
数年間変革に向けての行動を数年間進めると、業績が改善したなどの大きな成果が出てきます。目に見える成果が出れば「変革に成功した」と判断しがちですが、ここで変革プロセスが終了したわけではありません。活動を加速化させ、さらに難しい課題へ取り組むための基礎作りの段階に入ります。改善の成果の定着と、さらなる変革の実現のために、以下の行動が求められます。
変革によって新しい行動様式が誕生すれば、企業の風土として制度的に根付かせるための行動が必要です。せっかく数年間かけて気付いた変革も、新しい行動様式として社内の規範や価値観として根付かなければ、すぐに廃れてしまいます。
新しいアプローチを根付かせるためのふたつの要素は、以下の通りです。
新しいアプローチや行動様式が、業務改善にどれくらい貢献したかを積極的にアピールしていきます。業務改善への関連性がどれくらいあるかを社員任せにしてしまうと、業務改善と変革との間違った因果関係が伝わってしまうリスクがあります。
次に、次世代の経営陣に新しいアプローチや行動様式、考え方が根付くように時間をかけて対策をします。トップの交代人事でも、誤った後継者を選ばないようにしましょう。
リーダーシップを身に付ける方法や、リーダーシップスキルの開発方法を解説します。
理論や考察によって生み出された、リーダーシップスキルの開発方法を取り入れるのも、リーダーシップを身に付ける方法として有効です。例として、EQ パートナーズ株式会社 代表取締役、立教大学大学院ビジネスデザイン研究科特任教授の安部 哲也氏によるビジネスパーソン向けのリーダーシップ開発方法「4つのリーダーシップタイプによるリーダーシップ開発方法」を紹介します。
(出典:東レ経営研究所「リーダーシップ理論の流れとリーダーシップの実践的開発方法」46ページより)
以下の4つのリーダーシップのタイプから環境や状況、メリット・デメリットを踏まえて適切なものを選び、実践していきます。
リーダーシップのタイプ |
実践方法 |
セルフ・リーダーシップ | 他人をリードするために自分自身で目標を持ち、モチベーションを保ち、自分自身をリードする |
チーム・リーダーシップ |
以下の3要素によりチームをリードする (1)チームのミッション、ビジョン、戦略などの方向性を作り出す (2)メンバーへの声掛け、励ましなどにより動機づける (3)相手に答えを教えるティーチングや答えを引き出すコーチングなどによりメンバーを育成する |
グローバル・リーダーシップ |
以下の3要素により国境や人種を超えてリードする (1)国や地域の文化、習慣の違いなどを理解する (2)互いの違いを否定せずに尊重する (3)共通点、相違点を有効活用する |
ソーシャル・リーダーシップ |
自社・自部門・自分たちの利益のみではなく、環境、貧困、教育、人権などの社会的な問題の解決をしていく リーダーシップ |
数名のメンバーによるグループワークで、リーダーシップとは何かを認識し、身に付けさせる方法があります。たとえば、「東京都女性活躍推進ポータルサイト」では「リーダーシップを身に付けよう」のグループワークに関する資料が公開されています。
以下の手順によってグループワークを進めていきます。
リーダーシップに関する研修を受けるのも、リーダーシップを身に付けるうえで有効です。日本大学商学部『商学集志』第 90 巻第1号堀尾 志保著の「リーダーシップ研修の研修効果に関する研究」によると、リーダーシップ研修の受講前と受講後の受講者の評価を比較した結果、受講後は平均値、中央値ともに評価があがり、研修の有効性が認められています。
(引用:日本大学商学部『商学集志』第 90 巻第1号「リーダーシップ研修の研修効果に関する研究」15ページより)
リーダーシップ研修によって、リーダーシップに関する認識への変化も現れています。たとえば「リーダーシップ は、役職者が発揮するものであり、自分には関係のないものだと思う」という質問に対して、研修前と研修事で考えが変わったのは全体の52.8%、いずれも「そう思う」から「そう思わない」へと考えが変わっています。研修前から「そう思わない」と評価していた層を含めれば、リーダーシップ研修受講後全体の97.2%の受講者が「リーダーシップとは役職に関係なく発揮されるもの」という認識を持っていることが調査結果から分かります。(参考情報:日本大学商学部『商学集志』第 90 巻第1号「リーダーシップ研修の研修効果に関する研究」17ページより)
リーダーシップ研修は対面、オンラインがあります。自社の状況や研修を受講するメンバーの状況に応じたリーダーシップ研修を選びましょう。リーダーシップ研修の具体的な内容に関しては、以下の記事で詳しく解説していますので、あわせてご覧ください。
■参考記事
リーダーシップを身につける研修とは?おすすめの研修内容や具体的な設計方法までわかりやすく解説!
リーダーシップの概要やマネジメントとの違い、リーダーシップに求められる要素や目的、リーダーシップを身に付ける方法について解説しました。リーダーシップは既存の風土や慣習を取り壊し、企業や部署、業務内容へ変革をもたらすために必要となります。業績の悪化や競争の激化に立ち向かうためには、リーダーシップを発揮できる存在の有無が鍵です。企業のビジネスを最大化させるために、リーダーシップを持つ人材の育成が急務と言えるでしょう。