いまマーケティングの世界では、α(アルファ)世代の動向が注目されているといいます。
アルファ世代とは、今の20代を中心としたZ世代の「次の世代」を指しています。実際はまだ小学生以下のアルファ世代ですが、消費動向や購買の決定に対してすでにアルファ世代の意思が大きな影響を与えているといいます。
今回は、いま注目されはじめた、今後の経済の担い手になっていくアルファ世代について、アルファ世代とはなにか、定義やほかの世代との違いについて、またアルファ世代の生まれた背景や世代にある特徴について解説していきます。
α(アルファ)世代の対象となるのは、どのような人たちなのでしょうか。
アルファ世代は、2010年以降に生まれた世代のことを表現しています。2022年の現時点において、アルファ世代の最高齢は12歳ですが、数年が経過するようになると、アルファ世代の上の年齢は高校生になります。高校生になれば、アルファ世代対象者もアルバイトとして自社の店舗で働くようになるでしょう。
今回は、数年後には自社の戦力になる可能性もあるアルファ世代について、生まれた環境や背景、特性について解説します。次世代を担うアルファ世代について、今のうちから理解を深めておくことが大切です。
アルファ世代の意味、定義についてもう少し説明を加えます。
アルファ世代というネーミングは、オーストラリアのコンサルタントで世代研究者でもあるマーク・マクリンドル氏が2005年に考案しました。
マーク マクリンドル氏とアシュリー フェル氏の共著である「ジェネレーションアルファ(Hachette Australia)」によると、アルファ世代は2010 年から 2024 年の間に生まれた子どもたちを指していて、グローバルにつながった世代であり、急速に変化する環境や情報に溢れた時代を生きている世代であると紹介しています。
アルファ世代の語源は、Y世代と呼ばれるミレニアル世代に続くZ世代の次世代に当たるため、ラテン文字の最後である「Z」に次として、ギリシャ文字の最初となる「α」を採用し、ラテン文字からアルファベットの進行に移行したことで新時代のスタートをイメージした世代名として名づけられたと書籍に記されています。
アルファ世代を含めて各世代を時系列に並べてみましょう。
生年 |
2022年現在の年齢 |
親子関係 |
|
ベビーブーマー |
1946-1964 |
76歳〜58歳 |
ミレニアル世代の親 |
ジェネレーションX |
1965-1979 |
57歳〜43歳 |
|
ジェネレーションY |
1980-1994 |
42歳〜28歳 |
ミレニアル世代 |
ジェネレーションZ |
1995-2009 |
27歳〜13歳 |
|
ジェネレーションα |
2010-2024 |
12歳〜 |
ミレニアル世代の子 |
(Markezine「ジェネレーションα(アルファ)」の輪郭 を参考に弊社で作成)
ニッセイ基礎研究所の報告書「ジェネレーションαの時代 Z 世代の次を考える」によると、「Generation X 」は、1950 年代から活躍していた写真家のロバート・キャパのフォトエッセイ「Generation X」に由来するといいます。フォトエッセイは第二次世界大戦後に成長した若者らをテーマにしたもので、そこから当時の若者(1965 – 70 年頃の生まれ)がジェネレーションXと呼ばれるようになったとあります。
「Generation Y 」は、 1980 年〜1995 年頃に生まれた“ポストX世代”のことを指しています。アルファベットの順にならってジェネレーションYと呼ばれるようになりました。
Y世代は、成人や社会人となるのが 2000 年代にあたることから「ミレニアル世代」とも称されています。Y世代・ミレニアル世代は、子どものころからインターネットの環境が整っていて、学生時代にはインターネットによる新しいシステムや技術を取り込み、適応していった世代です。「デジタルネイティブ」という意味合いとして表現されています。
「Generation Z」は、1995 年ー2010頃に生まれた世代を称しています。インターネットが普及した後に生まれているので「ネオ・デジタルネイティブ」とも呼ばれます。
Y 世代と Z 世代を分けている1995年には、 Windows95が登場しました。これによってインターネットが普及して、個人でもインターネットを使用できるようになりました。Z世代は成長期が日本経済の低成長期と重なっていて、就職氷河期を経験するなど好景気を知らない世代です。
「Generation α 」は、2010 年から2024年頃までに生まれる世代を指します。2010年はiPadの発売、Instagramが作られた年です。
マクリンドル氏の調査会社であるマクリンドルのブログ「アルファ世代を形成する影響」によると、アルファ世代はデジタルに親しんでいるミレニアル世代の親たちが理解していない新しいテクノロジーやプラットフォームにアクセスすることができ、しかもアルファ世代の子供たちは自分で決定を下し、親を導く場面もあるといいます。
ブログでは、アルファ世代は、自らが運営する領域(SNS等)において所有権や権限を持っていて、同年代の人々に影響を与えていると言及しています。
アルファ世代が他の世代とどのような違いがあるのかについて、アルファ世代とひとつ前のZ世代を比較することで探っていきましょう。
まず、生まれた時代背景に影響される違いについてみていきます。
今の20代を中心とするZ世代は、その多くがスマートフォンを持ち、アプリを取りこんで自分好みにカスタムし使いこなしています。このことから「スマホ世代 (iGen)」とも呼ばれるZ世代のIT利用のメインは、手の中の画面を見て、指で操作する方法だといえます。
アルファ世代は、生まれたときにはすでにスマートフォンは浸透しています。前述のマクリンドルのブログには、アルファ世代は幼い頃から目の前に画面が置かれた環境にいて、これをマクリンドル氏は「偉大なスクリーン」と呼んでいますが、この偉大なスクリーンによって幼少期という人格形成期を迎えているアルファ世代は大きな影響を受けていると指摘しています。
印刷技術が発達した15世紀以降、今まで長い間コミュニケーションの間にいたのは紙でした。紙媒体のテキストや書籍、辞書からスクリーン、グラスを通してコミュニケーションを取るようになるアルファ世代をマクリンドル氏は「グラス世代」とも呼ばれていると言及しています。具体的にはアルファ世代では、学校の机の表面にあるスクリーンを通して、学習や人とのつながり、または遊びを実現していくのだとマクリンドル氏はブログで考察しています。
Z世代とアルファ世代の違いはやはり時代背景によるところが大きいのですが、マクリンドルの報告書「UNDERSTANDING GENERATION ALPHA」において、いくつかの項目において比較しています。
(UNDERSTANDING GENERATION ALPHA を参考に弊社で和訳・作成)
これらは一例ですが、世代の背景から、さまざまな項目において違いがみられています。
アルファ世代はミレニアル世代(Y世代)の子どもにあたる世代です。
マーク・マクリンドル氏の試算によれば、アルファ世代の人口は世界中で毎週250万人増えていて、年を50週として換算すると1億2500万人、2022年の現在から3年経過した2025年までに3億7500万人増加する計算です。
2025年は、アルファ世代が全員出生する年でありますが、マクリンドル氏は世界のアルファ世代は合計約20億人にまで増えて、歴史上でも最大数の世代になると言及しています。
アルファ世代が育つ時代背景とはどのようなものなのでしょうか。ここでは3つ取り上げて解説します。
1つ前のZ世代もまた「デジタルネイティブ」ではありますが、Wikipediaによると、アルファ世代は生まれた時点ですでにiPadやInstagramが存在している環境で育つため、動画が身近でありSNSを通して多様な人たちと繋がりを持ちながら成長する世代であると記載されています。
学校教育においては現在もタブレットなどが取り入れられてすでにITが活用されていますが、アルファ世代の受ける教育にもIT活用はさらに進化して取り込まれていきます。Wikipediaによると、アルファ世代は幼少期からプログラミング教育を受けている世代であり、「完全なデジタルネイティブ」だと書かれています。
ニッセイ基礎研究所の報告書「ジェネレーションαの時代 Z 世代の次を考える 」によると、アルファ世代の後半に生まれる人は、 2020 年に世界中で猛威を振るい、多くの人の健康とともに経済や社会のルールや常識を大きく変容させた新型コロナウイルスのパンデミック後に成長期を迎えます。
私たちは、コロナ前の生活を基準として考えているので、現状のafter コロナの変化した生活様式に慣れないなかで、当面は感染症が落ち着くまでは適応していかなければならないと思いながら過ごしています。
これに対してα 世代は、 before コロナの生活様式や仕事や学校での生活や旅行や、マスクをしないで外出する姿を見たことがありません。
同報告書では、私たちがコロナ前後の生活を比較しながら、仕方なく感染症ありきの生活に順応していく with コロナの時代を、アルファ世代は当たり前の世界として認識し、価値観や行動様式を形成していくことになる、と指摘しています。
具体的には外出や人と会うことが制限される、マスクの着用が推奨される、人の集まる場所での会話を控えるなど、この3年で変化した行動を当たり前として受け入れているということです。
ニッセイ基礎研究所の報告書では、α世代の子どもたちはAIが生活の身近な分野にまで取り込まれていき、ゆくゆくはITがさらに進化した時代に生きていくことになると記しています。
例えば超小型のITデバイスが普及して、「ウエラブル(身につける)」デバイスがどんどん開発されると予想されていて、衣類にITを取り込んだ「スマートウエア」の開発が進んでいるといいます。スマートウエアを着用することで、心拍数などの生体情報が読み取れ、医療や介護の分野、あるいはスポーツで活用が期待されていると言及しています。
マクリンドル氏は書籍において、医療の進化とともに、健康状態に異常があれば、即時に検知されるため、病気が進行する前に適切な治療を受けることができるようになることから、アルファ世代はもっとも長生きする世代であると記しています。
アルファ世代はどのような特徴を持っているのでしょうか。特徴を4つ挙げています。一つずつ見ていきましょう。
SDGsの理念が提唱されて、今でこそ多様性を認めようという動きが出始めていますが、アルファ世代は生まれたときから、ダイバーシティ(多様性)の環境にあります。
マクリンドルの報告書「UNDERSTANDING GENERATION ALPHA」には、アルファ世代は違うものを排除するのではなく、他者との違いや多様性を当たり前のように認めている世代になるといいます。アルファ世代は人種についても差別がなく、性別や年齢、宗教や、さらに同性同士の恋愛観などへのマイノリティも含めた多様な価値観が存在することを容認し、尊重していく世代だと報告書に記しています。
マクリンドルの報告書によると、アルファ世代は社会的平等やサステナビリティなどの社会問題に対して意識が高く、自分の意見を持ち、SNSなどを使って発信していきます。
現在も、差別のない平等な社会の提唱や持続可能な資源の使い方などに対する意識改革については、ゆるやかにスタートしていますが、アルファ世代のにおいては、環境を破壊する要因とされることから「使い捨てのプラスチック製品は選ばない」など消費行動も、いっそう強く表れてくるといいます。
マクリンドルの報告書「UNDERSTANDING GENERATION ALPHA」には、現在8〜12歳であるアルファ世代は、まだ小学生である年齢でありながらYouTubeで動画を発信したり、Facebookで友人たちと繋がっているといいます。
アルファ世代は、前世代のZ世代よりも若い(幼い)ころからテクノロジーにアクセスでき、友人たちや他の国の同世代の人々たちと繋がっているうえに、団体など大人たちも含めた外部に自分からアプローチし意見交換することに抵抗がなく、影響を与えているといいます。
生まれた環境・背景から読み解けるように、α世代はITツールの活用が当たり前のことになっていて、最新のテクノロジーの扱いに慣れ親しんでいます。
アルファ世代は遊びでも教育の場面でも効率的にITツールを活用して情報を収集し、親が理解していないテクノロジーやプラットフォームにもアクセスしていきます。
また、前世代のZ世代にも見られる傾向ですが、情報は文字よりも動画から得ていきます。
これらの特徴を踏まえると、いずれα世代が就職をするときの企業のα世代の受け入れや教育体制・研修には、ITツールの活用が適しているといえます。テキストを配布して研修を行うスタイルは古いのかもしれません。
アルファ世代の入社を待つ以前に、Z世代の社内研修においてもITツールを導入し、活用することで研修の精度を高めることに成功している企業があります。ここではITツールを活用した研修事例として3社をご紹介します。
紳士・子供・婦人服のセレクトショップ、企画販売を展開するユナイテッドアローズ。
内定者研修〜新入社員研修をフルリモート化し、効果の高い研修を実現しています。
研修内容はe-ラーニングによるインプットにとどまらず、学んだ内容を店舗でアウトプットし、うまくできたことできなかったことへのアドバイスを受けることができるというもので、接客レベルの目標達成率が前年の2.5倍と高い効果が得られたといいます。
ユナイテッドアローズの事例は以下からご覧ください。
美容脱毛事業のほか、化粧品開発やEC事業など女性の美容に関わる事業を展開しているミュゼプラチナム。
お客様に1対1で行う施術には、きめ細かなサービスが不可決となるおもてなしの接客を習得しなければなりません。
研修は紙の報告書を止めて、店舗の先輩や本社のトレーナーなど複数の指導者が、同時に報告内容を確認できるようになり、必要なフォローやアドバイスを早く受講者に与えることができるようになり、結果として研修中の新人スタッフのモチベーションを上げることができたといいます。
レストラン経営を中心に、食によるホスピタリティ事業を展開しているきちりホールディングス。
2,000 名を超える店舗スタッフへの教育が教育担当者不足のため追いつかず、一定の高いレベルでのサービスの提供が難しくなっていたといいます。
研修にITツールを導入したことにより、接客に必要なポイントを動画で学ぶことができるようになり、新人スタッフに対して、仕事を正しく伝えることができているといいます。
世代ごとに生まれ育った時代背景が異なり、目に見えるもの、触れてきたものが違います。この数十年をとおしてテクノロジーの目覚ましい発達や取り巻く社会情勢などから受ける影響によって、それぞれの世代には共通する価値観が生まれて形作られています。これから世に出てくるアルファ世代にアプローチを行っていく上で、アルファ世代をターゲットとした、彼ら世代に合わせた施策を打ち出すことが重要になります。
世代間で生じる認識や常識、考え方の違いは良し悪しで判断するものではありません。企業は新人研修や配属後の職場において、アルファ世代の考え方を認識して、他世代とは違う価値観を持っていることを理解し、世代を超えて理解し合えるように伝え方やツールを工夫しましょう。