接客業では、お客さまに対する従業員の話し方で、店やブランドのイメージが大きく変わるもの。言葉遣いひとつで良くも悪くも印象が決まります。
しかし、どのような言葉遣いが適切なのか、不快な気分にさせずに済むのか、明確にはわからないという人も多いのではないでしょうか。
そこで今回は、お客さまの満足度を高める接客、「接遇」での言葉遣いについて解説します。
そもそも接遇とは何か、正しい言葉遣いを行うメリットなどのような基本的な知識はもちろん、接客で使える言葉遣いの事例も紹介しますので、ぜひ参考にしてみてください。以下バナーから、今日から使える接遇マナー全体と言葉遣いに特化したチェックリストを無料でダウンロードいただけますので、こちらも合わせてご活用ください。
接遇とは、相手(お客さま)のことを理解し、もてなすことを意味します。よく耳にする「接客」と混同してしまいがちですが、2つの言葉にはそれぞれ違う意味が込められています。
「接客」は、相手に不快感を与えない応対をすること。飲食業界やサービス業界において使われる言葉で、お客さまが代金を支払うに値する価値を提供するため、必要最低限のサービスを行うことを指します。
対する「接遇」は、相手に満足感を与えるためにプラスアルファの応対をすること。お客さまに喜んでもらうため、満足感を与えるためにサービスし、もてなすことを意味します。
例えば、飲食店で注文を聞くことは「接客」に当たります。一方、「ごゆっくりお楽しみください」と一声添えることは、必ずしも必要ではないもののお客さまに気遣う行動で、「接遇」に当たります。
このように、「接遇」は接客の一歩先を行くおもてなしであり、サービス業や飲食業、介護職など、人と直接接する機会のある職種において重要視されています。接遇については、以下の記事で詳しく解説していますので、ぜひご覧ください。
■参考記事はこちら
接遇とは?接客との違いや5原則などを業種別事例からわかりやすく紹介!
接客が良いか悪いかの感じ方は、受ける側個人によって違うもの。しかし、多くの人が心地よいと感じる接遇には、いくつか共通点があります。
これら5つのマナーが良ければ、接客が良いと感じてもらえる可能性が高いです。それぞれ内容を詳しく見ていきましょう。
接客業では、従業員の身だしなみが大切。身なりが整っていないと第一印象が悪くなり、店や商品に対するイメージも悪くなってしまうためです。
身だしなみを整えるには、相手に不快感を与えないか、清潔感があるかがポイントになります。また、多くの場合は落ち着いた雰囲気の服装、ヘアメイクが好まれますが、アパレル販売員や美容部員のように華やかさを求められる職業もあり、TPOに合わせることも大切です。
どんなに丁寧な言葉遣いで応対しても、身だしなみが良くなければお客さまは不信感を抱いてしまうため、常に整えておく必要があるでしょう。
接客業に限らずではありますが、あいさつは基本中の基本。お客さまを迎える際に「いらっしゃいませ」、代金などを頂戴する際に「ありがとうございます」ときちんと伝えることで、良い印象を与えられます。反対に、商品やサービス、その他の応対が良くても、あいさつができていなければ「接客態度が悪い」と思われてしまうことも。
さらに接遇では、お客さまに心地よいと感じてもらえるよう、声のトーンや表情、声量にも気を配ることが求められます。ただ言葉を発すれば良いのではなく、お客さまに心地よいと感じてもらうことがゴールである、ということを忘れてはなりません。
お客さまは、店員の身だしなみだけでなく表情も良く見ています。正しい言葉遣いで話していても、表情が固かったり冷たかったりすると、「接客がそっけない」と嫌な気分になってしまうでしょう。
以上が、相手に好印象を与える笑顔のポイント。感じの良い表情を作れるよう、普段から練習しておく必要があります。
ただし、悩みを聞いたり苦情を聞いたりするときも笑顔だと、お客さまは「気持ちを無視されている」「バカにされている」と感じてしまいます。そのようなときは真剣な面持ちになるなど、気持ちに寄り添って表情を変化させることも、接遇マナーとして大切です。
話し方ももちろん、接客における重要なポイント。「何気ない言葉遣いで思わぬクレームが発生してしまった」というようなケースも珍しくなく、決して侮れません。
接客では正しい敬語を使うことが基本。間違った言葉遣いやタメ口は幼稚な印象を与え、お客さまからの信頼を失うことへと繋がってしまいます。反対に、正しく丁寧な言葉遣いで応対すれば、「接客態度が良い」「信頼できる店(スタッフ)だ」と思ってもらえるでしょう。
また、話す声のトーンや声量も、接遇における重要なマナー。真剣な話をするときは落ち着いた声のトーンで話す、お客さまを楽しませるときは明るくハキハキと話すなど、TPOに合わせた話し方で接することで、気持ちに寄り添った接遇ができます。
「言葉遣いは悪くないけれど、マニュアルのような話し方だった」「気持ちがこもっていないように感じた」という経験はないでしょうか? これは、お客さまの気持ちに寄り添っていない話し方が原因。シーンに合わせてトーンや声量を変えることで、相手の満足感は高まるのです。
言葉遣いや話し方は個人の癖が出やすく、かつ改善するのも簡単ではないため、できるだけ早いうちから知識と習慣を身につけておかなくてはなりません。教育者は、新人に正しい言葉遣いと話し方を教えるとともに、その重要性も教えておくべきでしょう。
お客さまと接するときは、言葉や表情だけでなく態度にも気を配ることが大切。歩き方や立ち方、物の受け渡し方などの所作が丁寧だと、接客全体の印象も良くなり、店舗や企業のイメージアップに繋がります。
また、お客さまと話していないときの姿勢にも注意。姿勢が悪いとだらしなく、やる気がないように見えてしまいます。第一印象が悪くなり、「接客を受けたくない」とすら思われてしまう可能性があるため、常にお客さまから「どう見られているか」を意識することが大切です。
お客さまの気持ちに寄り添い、もてなすには、まずお客さまについて知ることから始まります。そのため、話を聞く姿勢にも気を配ることが重要です。
例えば、「相槌がない・アイコンタクトがない・腕を組みながら聞く」といった態度は、お客さまの気分を害してしまう行動です。話をする気が失せてしまい、「接客を受けたくない」と思わせてしまいます。
反対に、適度に相槌を打ち、相手の目を見ながらきちんとした姿勢で聞くことで、お客さまは気持ちよく悩みや質問を話すことができます。接遇に役立つ情報をスムーズに引き出すため、話の聞き方にも注意しましょう。
接客業は、いかにお客さまに満足してもらえるかが最も重要。そして顧客満足度を高めるには、接客態度の向上、改善が欠かせません。
兵庫県にある龍野商工会議所が2020年に行ったアンケートでは、利用したくない、利用しづらい飲食店の特徴として、「接客態度の悪さ」が最も多く挙げられる結果に。このことから、接客態度が悪いと利用したくないと思うお客さまが増え、接客が良ければ利用したいと思うお客さまが増える、ということがわかります。
そして接客の良さは、接遇マナー5原則で説明した通り、従業員の言葉遣いに影響されます。不適切な言葉遣いで接していると、接客態度が良くないと判断され、来店者・利用者が減る原因となる恐れがあります。
また、近年多くの企業が、自社の接客態度を調査するために覆面調査やアンケートを行っていますが、チェック項目に「言葉遣い」を加えるケースが多いです。そのことからも、接遇における言葉遣いは、顧客満足度を確認するひとつの指標として重要視されている、と考えられるでしょう。
つまり、売上げをアップさせるため、安定させるためには、顧客満足度を上げること。そして顧客満足度を上げるためには、正しく適切な言葉遣いで接客することが大切なのです。
丁寧かつ正しい言葉遣いを行うことで、具体的にどのような効果が得られるのでしょうか。接遇における言葉遣いのメリットについて詳しく見ていきましょう。
正しく適切な言葉遣いを行うことで、「お客さまは丁寧な接客を受けている」と感じます。接客が良ければ従業員やブランドに対して良い印象を抱くことになり、また「利用したい」と思うきっかけになるでしょう。
その結果、ブランドや店のリピーターを増やすことに。「またあのスタッフに接客してもらいたい」と思ってもらうことで、特定の従業員のファンになる場合もあります。
特に、アパレル販売員や保険販売員などのような、上顧客(ロイヤルカスタマー)の獲得が売上げに大きく関わる仕事では、接客が要。また、個人のファンが増えることで、従業員のモチベーションがアップするなど、さまざまな相乗効果が得られます。
さまざまな店で似たような商品が販売されている場合、できれば接客態度の良いところで購入したい、というのが購入者の心理。また、「特に購入するつもりがなかったが、接客が良くてつい買ってしまった」という経験がある人も多いのではないでしょうか。
つまり、適切な言葉遣いで丁寧に接客することで、「代金を支払う価値がある」と判断してもらえるチャンスが増えるということ。競合との差別化にもなり、売上アップへと繋がるでしょう。
また「メリット1」で伝えた通り、正しく適切な言葉遣いは、リピーターやファンの獲得にも貢献します。リピーター・ファンが増えれば、安定して売上げを確保でき、結果的に店・ブランド・会社の利益へと繋がるでしょう。
間違った言葉遣いやぶっきらぼうな言葉遣いは、お客さまの怒りを買う可能性が高く、危険。お客さまが嫌な気分になり、大きなクレームへと発展する恐れがあります。
丁寧で正確な言葉遣いを行えば、そのようなクレームの発生を防ぐことができます。また、商品や会社に対する不信感が生まれた場合でも、誠実に対応することで、お客さまの怒りを最小限に抑えることができるでしょう。
このように、適切な言葉遣いは、店や会社に良い影響をもたらすだけでなく、損失を防ぐことにも貢献してくれるため、多くの企業が接遇マナーのひとつとして重要視しているのです。
接遇には、正しく丁寧な言葉遣いが必要不可欠とわかったところで、次に、具体的にどのような言葉遣いが不適切なのかを解説していきます。自分は正しい言葉遣いができているか、また自社従業員の言葉遣いが適切かどうか確認するため、ぜひ参考にしてください。
お客さまを子供扱いするような幼児言葉は、接遇として不適切。「バカにされている」「下に見られている」と、相手を不快な気分にさせてしまいます。
具体的には、「こちらに置いておきますね〜」「大丈夫ですか〜?」というように語尾を伸ばす話し方などが挙げられます。「偉いね」などのような、上から目線の言葉遣いも大変失礼です。
ややくだけた言葉の方が親しみやすく感じる、という意見もあります。しかし「注意しないだけで、実は嫌な思いをしていた」という可能性もあるので、許可されていない限り、くだけた言葉は使わない方が良いでしょう。
タメ口も、幼児言葉と同様、相手を不快にさせてしまう言葉遣い。お客さまはタメ口で話しかけられた途端、ぞんざいな扱いをされていると感じ、担当した従業員や会社全体のイメージが悪くなってしまいます。
一般的に、タメ口で接客している人はあまり多くありません。しかし、高齢者や未成年者に対し、タメ口を使って接する場面は度々見かけます。また、アパレルショップやヘアサロンなどでも、「お客さまの方が年下だから」「常連客で親しいから」という理由で、ついタメ口で話してしまうケースも。
「タメ口で話すのはやめて」と注意できるお客様は少なく、次第に顧客が離れてしまうことになりかねません。気を許せるほどの信頼関係が構築できたとしても、「相手はお客さまであり、タメ口は失礼にあたる」ということを忘れず、正しい敬語を使うことが大切です。
「〇〇して!」「〇〇をしないで!」などのような命令口調も、不適切な言葉遣いです。このような話し方をされると、相手は責められていると感じ萎縮してしまいます。
たとえ敬語であっても「〇〇してください」と強要する口調は、命令されているように感じる話し方。「失礼な接客をされた」とクレームになる恐れがあるほか、顧客が離れる原因にもなります。
他のお客さまの迷惑にならないよう注意する際、また何かお願いをする際は、「〇〇していただけますか?」とお伺いをたてるのが正しい言葉遣いです。そうすることで、相手に強要することなく要望を伝えられるでしょう。
特に、現場が忙しく切羽詰まっているときは、つい命令口調になりがちなので、より一層注意が必要です。
丁寧な言葉遣いを意識しすぎると、敬語を重複させてしまうことがあります。これは「二重敬語」と呼ばれる、間違った言葉遣いです。
例えば「お帰りになられる」という言葉は、「お」と「られる」の2つの尊敬語が重複しています。この場合は、「お帰りになる」が正しい言葉遣いです。
また、「ご覧になっていらっしゃいますでしょうか」という言い回しは、「ご覧になる」「いらっしゃる」「でしょうか」と3つの敬語を使用しています。敬語を多用しすぎて回りくどい印象になるため、「ご覧になりましたか」とまとめるのが適切です。
丁寧に言っているつもりでも、かえって嫌味に聞こえてしまったり、うわべだけ丁寧な対応をしていたりするように見えてしまうので注意しましょう。
「ら抜き言葉」とは、名前の通り「ら」を抜いて話す言葉遣いのこと。「見られる」「来られる」など「可能」を意味する言葉を、「見れる」「来れる」というように、「ら」を省略して話すことを指します。
友人や家族など、親しい間柄の人と話す分には問題ないでしょう。しかし、これは間違った言葉遣いであり、接遇には適していません。
最近では、「ら抜き言葉」を話し言葉として認める動きもあるようですが、文化庁の文献では下記のように記されています。
この言い方は現時点ではなお共通語においては誤りとされ、少なくとも新聞などでは用いられていない。
言いやすさを優先してつい省略してしまいがちですが、間違った話し方なので、接客時は避けましょう。
謙譲語は、相手の言動を高めて丁寧に言い表す言葉。対する尊敬語は、自分の言動をへりくだることで丁寧に表現する敬語です。
どちらも丁寧な言葉遣いではありますが、それぞれ誰に対して使うかを間違えると失礼になるので、注意する必要があります。
例えば、自分の行動を指して「〇〇してくださる」「ご覧になる」などの尊敬語を使うと、お客さまよりも自分の方が上の立場にあるように聞こえます。反対に、お客さまの行動を指して「参る」「拝見する」などの謙譲語を使うと、お客さまをへりくだっていうこととなり失礼です。
尊敬語も謙譲語も接遇には欠かせない丁寧な言葉遣いですが、使い方を誤らないよう注意しましょう。尊敬語と謙譲語については、のちに詳しく解説しますのでぜひそちらもご覧ください。
参考元:尾形圭子著(2017)『どんな場面・どんなお客様でもきちんと話せる 接客用語辞典』株式会社すばる舎発行
言葉遣いを正そうとしても、原因を理解していなければなかなか改善しにくいもの。また、不適切な言葉遣いをしている従業員を指導する際も、原因がわからなければ的確に教育できないでしょう。ここでは、なぜ不適切な言葉遣いを行ってしまうのかについて、主な原因を3つご紹介します。
不適切な言葉遣いによって、どのようなトラブルが起こりうるのか理解できていないと、ないがしろにしてしまいがち。「お客さまが嫌な思いをするかもしれない」「クレームになるかもしれない」と予測できていれば、不適切な言葉遣いをしないように自然と意識するでしょう。
また、正しい言葉遣いが売上アップや顧客獲得に繋がると知っていれば、積極的に正そうとするはずです。
言葉遣いの癖は、簡単に直せるものではありません。つい習慣で使っている言葉で話してしまうものです。そのため、接客態度と顧客満足度にどのような影響を与えるのか、そしてなぜ重要なのかをきちんと理解しておく必要があります。
親しみやすい雰囲気づくりのために、あえて不適切な言葉遣いを行なっているケースもあります。また、難しい言葉遣いでは伝わりにくいと思いこみ、くだけた言葉を使っていることも。
しかし、この考え方は接客する側の主観によるもの。本当に相手にとって良いのか、心地よいと感じてもらえているかどうか確かめずに、不適切な言葉遣いをするのはリスキーです。
もしも自分が、良かれと思って不適切な言葉を使っているのであれば、相手が接客に対してどのように感じているかをチェックする必要があります。
また、接客を教育する立場にいる人は、あえて不適切な言葉遣いを行なっている従業員に対し、「お客さまが嫌な思いをしている恐れがある」と、危険性を教えておくと良いでしょう。
そもそも、正しい言葉遣いとは何かを知らなければ、直すものも直せません。間違った言葉を使っている自覚もなく、改善できないでしょう。
また、周りでよく聞く言葉遣いを「正しい」と勘違いし、真似して使ってしまうこともあります。
そのため、どのような言葉遣いが正しいのか、間違っているのか、きちんと知識を身につけておくことが重要です。教育担当者は、従業員に正しい言葉遣いを教えると共に、間違っていることを指摘する必要があります。
正しい言葉遣いの例は次で詳しくご紹介いたしますので、ぜひ参考にしてみてください。
接遇に求められる言葉遣いをするには、具体的にどのようなことを意識すれば良いのでしょうか。ここからは、適切かつ丁寧な言葉遣いのコツをいくつか紹介します。
正しい敬語を使うだけでも丁寧な印象を与えますが、「クッション言葉」を活用すると、より配慮の行き届いた言葉遣いになります。「クッション言葉」とは、相手に要望や依頼を伝えたり、質問したりする際に添える言葉のこと。目上の人に対して使われる表現で、相手に威圧感を与えないため、角を立てないために用いられます。
接遇で使われる主な例としては、
などが挙げられます。
例えば、「少々お待ちくださいませ」という言葉だけでも丁寧な印象を受けますが、「恐れ入りますが、少々お待ちくださいませ」とクッション言葉を添えると、より物腰が柔らかい表現になります。
また、「お名前をお伺いできますか?」という質問をする際、「失礼ですが、お名前をお伺いできますか?」と添えると、相手に不快感を与えにくいでしょう。
特に、名前や住所、電話番号などの個人情報は、お客さまが教えるのを控えたくなる情報。「住所を教えてください」といったような命令口調で質問すると、お客さまから「失礼だ」「嫌な接客だ」と思われかねないので、クッション言葉を活用しましょう。
先に解説した通り、シーンに合わせて敬語をきちんと使い分けることが、接遇で求められる言葉遣いのスキルです。
そのためには、尊敬語と謙譲語を、それぞれ誰に対して使うものなのか理解しておくことが大切。お客さまの行為に対して謙譲語を使ったり、自分の行為に対して尊敬語を使ったりしてしまわないよう注意しましょう。
特に気をつけなければならないのが、自社従業員に関する事柄に触れながら接客する場合。先輩や上司は自分にとっての目上の人に当たるため、つい癖で尊敬語を使ってしまいがちです。しかし、お客さまにとっては目下なので、接客では、先輩や上司の行為に対して謙譲語を使います。
「店長が〇〇とおっしゃっていました」というフレーズを例に見てみましょう。「おっしゃる」は尊敬語なので、「店長」つまり身内のことを高めていることになります。お客さまよりも上、もしくは同等の扱いをしているように聞こえてしまうので、ここでは「〜と申しておりました」というのが正しいです。
また、自社社員のことを「〇〇さん(〇〇様)」と呼ぶのも、お客さまとの会話では間違いです。接客では、「社長の〇〇」「〇〇課の〇〇」というように、敬称をつけないのが正しい言葉遣いなので注意しましょう。
正しい敬語を使っていれば、それだけでも十分丁寧な印象を与えられるでしょう。しかし、敬語の表現方法を何通りか覚えておくと、より一層、お客さまに心地よいと思ってもらえるようなおもてなしが可能になります。
敬語のボキャブラリーを増やすことで、シーンに合わせて適切な言葉遣いができるようになります。例えば、「教えて欲しい」という意味の敬語は、「教えてください」「教えていただけますか」「教えてくださいますか」という3通りの言い方があります。言葉のバリエーションの幅が広ければ、内容の重要度やシーンに合わせて、これらを適切に使い分けられるのです。
また、全てのお客さまに対して、常に同じ言い回しで声をかけていると「マニュアル感」を感じさせてしまうことも。気持ちがこもっていないように聞こえ、言葉の価値が下がってしまいます。
そこで何通りかの言葉遣いを覚えておけば、一人一人に合わせて伝え方を変化させることができます。例えば、ある新規のお客さまには「ありがとうございます。またお越しくださいませ。」と伝え、リピーター客には「いつもご来店くださりありがとうございます。」というようにです。
そうすることで、「自分のために接客をしてくれている」という特別感を与えることができます。ワンランク上の接遇を行うため、敬語のボキャブラリーを増やしておいて損ないでしょう。
丁寧な言葉遣いを心がけていると、メールや文書で使う「書き言葉」を使用してしまいがち。ですが、このような表現はしらじらしく聞こえてしまう可能性があるため、場合によっては避けると良いでしょう。
「本日」「ご多忙」などのような言葉を使わず、「今日は」「お忙しいなか」と伝えても十分丁寧な印象を与えられます。フォーマルな言葉を使おうとしすぎず、自然な言葉の流れを意識することも、心地よい接遇をするコツです。
参考元:合田敏行(2017)『超解 敬語の使い方が面白いほど身につく本』株式会社あさ出版
敬語は、接遇で求められる言葉遣いの基本。そんな敬語には、「丁寧語」「尊敬語」「謙譲語」の3種類があります。それぞれどのような言葉なのでしょうか。ここからは、敬語の種類と具体的な使用事例を紹介していきます。また、以下に実際に使われることの多い敬語の一覧表も添えているので、ぜひ接遇にご活用ください。
ここでは、接遇で使われることの多い敬語をいくつか紹介します。言葉の意味や使われるシーン、間違った言い方なども紹介するのでぜひ参考にしてください。こちらの敬語早見表は、本記事のバナーからダウンロードできる「今日から使える!接遇&言葉遣いチェックリスト」の付録としてご用意しております。
意味・利用シーン |
間違った言葉遣い |
|
いらっしゃいませ |
(お客様を)出迎える、歓迎する際に使う | いらっしゃいませ〜(語尾を伸ばしている) |
ありがとうございます |
感謝の気持ちを表す際に使う |
ありがとう/どうも/すみません |
かしこまりました |
了解したことを表す際に使う | 了解しました/わかりました |
申し訳ございません |
謝罪の気持ちを表す際に使う | すみません/ごめんなさい |
恐れ入ります |
申し訳なさ、恐縮の気持ちを表す際に使う 相手に依頼する際のクッション言葉としても使う |
申し訳ないです/悪いです |
少々お待ちください | 待ってもらうようにお願いする際に使う | ちょっと待ってください |
〇〇はあちらにございます | 物や場所を案内する際に使う | 〇〇はあちらです/〇〇はあっちにあります |
よろしいでしょうか | 許可をもらう際、確認する際に使う | いいですか/よろしかったですか |
ぜひご利用ください | 利用を促す際に使う | ぜひ利用してください |
こちらにおかけください | 座る場所を案内する際に使う | ここに座ってください |
失礼いたします | 申し訳ない気持ち、謝罪を表す | 失礼します/すみません |
何時にいらっしゃいますか? | (お客様が)何時に来店、来場するのかを聞く際に使う | 何時に来ますか? |
お名前をお伺いしてもよろしいでしょうか? | (お客様の)名前を質問する際に使う | どちら様ですか?どなた様ですか? |
参考元:「尾形圭子著(2017)『どんな場面・どんなお客様でもきちんと話せる 接客用語辞典』株式会社すばる舎発行」を元に当社で作成
「丁寧語」とは、丁寧に言い表す言葉遣いのこと。「です」「ます」「ございます」を語尾につけて使うもので、相手や内容に関係なく使用することができます。
例えば、「見ます」「行きます」「知っています」などの言葉があります。接客では「こちらは〇〇でございます」というように使われることが多いです。
ただし、丁寧な印象を受けるものの、接遇で求められるレベルには達しないことも。接客ではさらに丁寧な言葉遣いである「尊敬語」や「謙譲語」をより多く使います。丁寧語はそれらの基本である、と覚えておく程度で良いでしょう。
「尊敬語」とは、相手を立てて敬意を示す言葉。接客においては、お客さまの言動を高めて表現する際に使います。
丁寧語で挙げた例を尊敬語に変換すると、「見ます」は「ご覧になる」に、「行きます」は「いらっしゃる」に、「知っています」は「ご存知だ」になります。
「こちらの商品もぜひご覧ください」「お連れ様がいらっしゃいました」というように、接客で多く使われる言葉遣いなので、ボキャブラリーの幅を広げておくと良いでしょう。
「謙譲語」とは、自分や身内をへりくだって表現する言葉のこと。お客さまを立てるために、自分(従業員)の言動をへりくだって言い表す際に使います。
丁寧語で挙げた例を謙譲語に言い換えると、「見ます」は「拝見する」に、「行きます」は「参ります」に、「知っています」は「存じ上げる」になります。
接客業でよく使われる「かしこまりました」は、「わかりました」の謙譲語に当たります。「伺います」も頻繁に使用される言葉で、これは「行きます」の謙譲語です。
「尊敬語」は相手の言動を言い表す際に使う言葉でしたが、「謙譲語」は自分の言動に対して使う言葉。お客さまの言動を謙譲語で表現すると失礼に当たるので、混同してしまわないよう注意しましょう。
参考元:尾形圭子著(2017)『どんな場面・どんなお客様でもきちんと話せる 接客用語辞典』株式会社すばる舎発行
接客業は、お客さまとの会話によって成り立つもの。商品や店、会社が魅力的に見えるのか、低質に見えるのかは言葉遣いで決まるといっても過言ではありません。
正しく適切に使いこなせるようになるには、時間も努力も必要です。しかし、一度身につければ接遇スキルがアップし、よりお客さまに満足してもらえる機会が増えるはず。自分を気に入ってくれる顧客がつくこともあり、接客業ならではの喜びも実感できることでしょう。
ぜひ正しい言葉遣いを身につけて、お客さまに感動してもらえるような接遇を目指していきましょう。