ワークフローとは?ワークフローシステムのメリットや活用事例をわかりやすく解説
契約書にハンコを押して欲しいのに、いつも上司が不在。契約書にサインするだけで一日が終わる。書類を誰に渡せば良いかわからない……。そのような現場の悩みを解消するカギを握るのが「ワークフロー」です。
本記事では、基本的な言葉の意味からワークフローシステム導入のメリット、企業事例まで幅広く解説しています。ツール選びのポイントなどもご紹介していますので、職場の業務改善に取り組んでいる方、ITツールを使ったワークフローの導入を検討中の方はぜひ最後までご覧ください。
ワークフローとは?
ワークフローとは「業務の流れ」もしくは「業務の流れを可視化したもの」のこと。「仕事」を意味する”work”と、「流れ」を意味する”flow”を組み合わせた言葉です。
ワークフローは、経費計算や社内稟議、総務諸届などの業務の流れを指します。「申請→承認→決裁」のプロセスを可視化・整理し、業務の効率化を図ります。
承認が降りなくて業務が進まない、稟議書が繰り返し差し戻される、休暇後は書類確認で一日が終わる……このような悩みや問題を解消する策として、いまワークフローの見直し、およびデジタル化に注目が集まっています。
業務フロー、フローチャートとの違い

単語だけ並べると「ワークフロー」と「業務フロー」は似ていますが、実際は意味が異なります。
業務フローは「組織の業務の流れ」という意味。業務プロセスとも言います。組織で行われる業務全体の流れを指します。
一方、ワークフローは「ある1つの業務における一連の作業の流れ」を意味します。業務遂行における作業、コミュニケーション、意思決定のプロセスをより細かく把握し、改善へと繋げるのがワークフローです。また「承認」「決裁」という概念があるのも特徴です。
なお、フローチャートとは「図形や矢印を使って業務の流れを可視化した図」のこと。フローチャートは「図」を、ワークフローは「仕組み」を指します。混同させないよう注意しましょう。
ワークフローが求められる背景と目的
ワークフローの見直しが重要視される理由として、まず「環境の激変する現代の環境」が挙げられます。
承認が下りるのが遅い、確認作業に時間がかかるなど、ワークフローのムダは業務効率を低下させます。それに伴い意思決定の速度も下がり、組織は成長のチャンスを失います。環境がスピーディーに変化する現代において、生産性の低さ、意思決定の遅さは致命的です。よって、フローを可視化し、最適化する必要があるのです。
また、働き方の多様化も関係していると考えられます。
リモートワークやフレックスタイム制の導入などにより、近年は「全員が同じ場所で同じ時間に働く」という機会が減りました。書類を確認して欲しいのに、相手がいつも不在……といった光景が日常です。従来のワークフローのままでは、返信待ち、承認待ちなど無駄な時間が多く発生するため、見直しが必要なのです。
中小企業におけるワークフローの具体例
効率的なワークフローの実現は、まず実態を把握することから始まります。誰から誰へ、どのような流れで承認・決裁が行われているか、現状を整理することで課題点が見えてきます。
とはいえ、どこから手をつければ良いか迷うこともあるはず。そこで、ここからは中小企業におけるワークフローの具体例を5つ挙げていきます。
具体例1.稟議確認ワークフロー
稟議確認ワークフローは、組織内で新たな事案を承認・決裁するまでの流れ全般を指します。稟議書を作成・提出し、複数人が承認、その後最終決定権を持つ人によって決裁される、というフローが基本です。
稟議確認ワークフローには、以下のような課題があります。
- 内容によって承認、決裁者が変わる
- 稟議書の書き方がバラバラ
- 承認待ち、決裁待ちが発生する
- 承認者、決裁者の不在時はフローが滞る
- 添付ファイルが多い、渡し忘れや確認漏れが発生する
物品購入、業者への発注、新規契約など、稟議の内容はさまざまです。内容によって承認者・決裁者が変わるため、流れを整理しておかないと「誰に」「何を」見せるべきなのかわからなくなります。
また、稟議書の書き方やフォーマットも内容や提出者によって変化することが多いです。属人化を防ぐためにもワークフローの見直しが必要でしょう。
具体例2.店舗申請ワークフロー
残業届、休暇申請、イベント実施の申請など、日々本社には店舗からの書類が数多く届けられます。店舗申請ワークフローに不備があると、例として以下のような問題が発生します。
- 書類の数が多く管理しきれない
- 確認漏れが発生する
- 店舗ごとに書き方、フォーマットが違う
- エリアマネージャーの業務負担が大きい
- 申請や決裁の通知が遅くなる
特に、紙ベースのワークフローは、書類の管理に苦戦するものです。書類の受け渡しに手間がかかるうえ、タイミングが合わなければ、提出・承認・決裁のすべてに遅れが発生する恐れがあります。エリアマネージャーが書類を回収したり、郵送したりと手段はさまざまですが、いずれも非効率的と言わざるを得ません。
店舗数が多い企業、店舗と本社が離れている企業は特に、ITシステムを活用したワークフローの導入が推奨されるでしょう。
具体例3.経費計算ワークフロー

出張費の申請・精算、備品購入など経費計算のワークフローは、申請者から経理へ送るという流れです。金額が大きい場合や内容によっては、間に承認が必要なこともあります。
経費計算ワークフローでは、例えば以下のような課題が挙げられます。
- 本社に行く時間がなくて出張申請書、出張精算書の提出が遅れる
- 経理部が申請状況を把握できてない
- 領収書を紛失してしまう
- 記入ミスが発生する
- 申請書、精算書の書き方がバラバラ
例えば、出張申請書・精算書を紙で作成している場合、従業員は書類を提出するために経理部門へ出向かなければなりません。出張先でのイレギュラーな支払いに承認が必要なのに、なかなか経理から返信が来ない……なんてトラブルもあります。
経理部側も、申請状況をリアルタイムで把握することができません。タイムラグが発生することにより、提出漏れや決裁漏れ、不正が起こる可能性もあります。正確性が求められる業務こそ、明確かつスムーズなワークフローを設定することが重要です。
具体例4.総務諸届・勤怠諸届ワークフロー

休暇申請、設備利用届など、総務へ送られる書類も数多くあります。申請者から総務部へ送られるのが一般的ですが、内容によっては承認が必要になるケースもあります。
総務諸届・勤怠諸届ワークフローにありがちな課題として、例えば以下が挙げられます。
- 書類の種類が多くて管理が難しい
- フォーマットを変更するたびに通知、データ共有が必要
- 社外にいる際、申請・承認できない
出張や長期休暇中に勤怠諸届を出さなければならないシーンもあります。紙ベースのワークフローの場合、それらの書類を用意できず「申請不可」といったことになりかねません。決裁後の通知も、相手が社内にいないとスムーズにいかないものです。
多様な働き方が重視される現代は、場所や時間に縛られないワークフローの実現が強く求められていると言えます。
具体例5.人材考課表ワークフロー
人事評価、異動申請、キャリアアップ申請などの承認を行うための人材考課表ワークフロー。申請者から複数の承認者へ、そして決裁者へと渡り、最後に決裁の結果を申請者へと戻す、という流れがメジャーです。
人材考課表ワークフローには、以下のような課題があります。
- 複数人にリレーされる書類の管理が難しい
- 受け取る側の不在時はフローが滞る
- 申請者、承認者、決裁者それぞれで記入項目が異なる
- 閲覧権限の設定が必要な場合がある
人事評価シートなどのように、申請者、承認者、決裁者それぞれで記入すべき項目が異なる場合、記入ミスが発生する恐れがあります。勝手な書き換えなど、不正行為が発生するリスクもゼロではありません。
また、「申請者」に承認者のコメントを見せたくない、「承認者」に決裁結果を知らせたくないなど、閲覧権限を設けたい場合も紙のワークフローでは困難です。さまざまな観点から、ITツールを活用した「ワークフローシステム」の導入に注目が集まっています。
ワークフローシステムとは?活用するメリット
「ワークフローシステム」とは、ワークフローを自動化・電子化するシステムのこと。ITツールを使って申請、承認、決裁の管理を行い、業務効率の向上を図ります。
申請フォームの作成、オンラインでの申請・承認、承認依頼や決済結果の自動通知など、ワークフローシステムにはさまざまな機能があります。それらがどのように業務に影響するのか、主な4つのメリットについて見ていきましょう。

メリット1.ミスの削減
手作業にはヒューマンエラーがつきものです。ITツールを活用すれば、そのようなミスを削減することができます。
例えば、似た内容の申請書を繰り返し使う場合、ツールの複製機能を使うことで書き損じを防げます。紙の書類とは違って「文字が読みにくい」「ハンコが上手く押せない」といったストレスもありません。
また、記載漏れや、記入禁止項目への記入ミスも減らせます。業務の質と効率、両方の向上が期待できるでしょう。
メリット2.可視化による業務効率向上
「可視化」もワークフローシステムの強みのひとつ。現在、申請・承認・決裁のどの段階まで完了しているのかがわかるようになり、無駄な待ち時間、無駄な行動を減らせます。上手く進んでいないときは対象者に催促するなど、組織で協力して取り組めるようになるのです。
また、可視化によってワークフローに潜む問題点も明らかに。感覚ではなく「事実」をもとに指摘し合うことができ、指摘される側も受け止めやすくなります。組織全体でワークフローを改善する良い循環が生まれるでしょう。
メリット3.意思決定スピードの向上
承認待ち、決裁待ちの時間が短くなると、組織全体の行動が早くなります。従業員が提案し、その意見を速やかに確認、そして決断、実行……とサイクルがスピーディーに回ることで、組織が活性化されます。
提案が放置されなくなることから、従業員のモチベーションおよび主体性の向上も期待できます。変化の激しい現代において、意思決定スピードの速さと従業員の積極性は、企業にとっての強い”味方”となるでしょう。
メリット4.内部統制の強化
ワークフローシステムには、不正を防止できるメリットもあります。閲覧制限や記入制限を設けることで、経費の不正利用や誤情報の記入、書き換えなどを防げます。書類の紛失による情報漏洩対策にも役立つでしょう。
そもそも「誰が・いつ・何をした」という情報がオープンになること自体、不正行為の抑止力となります。
起こりうる不正を防ぐことは、会社の未来を守ること。ワークフローシステムは、持続可能な経営の実現に貢献するでしょう。
ワークフローシステム導入の主な流れ
ワークフローシステムを活用し、着実に業務改善へと役立てるためには、しっかりとした準備が必要です。では、導入に向けて何をすべきか、大まかな流れを確認しておきましょう。
ステップ1.導入目的の明確化
システムを導入したのに変化がない、ツールが使いづらい……そのような問題の多くは「目的が不明確」であることが原因です。ただ漠然と「業務効率化」を目標として掲げるだけでは、失敗する可能性が高いです。
ワークフローシステムを導入して何を成し遂げたいのか。何を改善したいのか。電子化にどのような効果を求めているのか。取り組みが無駄にならないよう、まずはビジョンを明確にしましょう。
ステップ2.現状調査・分析
目的達成に向けて何をすべきか見極めるため、現状調査を行います。
ワークフローの現状、いま起きているトラブル、ルール、組織体制を洗い出し、問題点と原因を分析しましょう。調査する際は、ワークフローの実行にかかる時間や、差し戻しの回数など、具体的な指標を決めるのがポイントです。
また、現場への調査も欠かせません。業務の状況を一番よく理解しているのは、現場の従業員だからです。言わないだけで、実はいまのワークフローに疑問を抱いていた……なんてケースもあるので、ヒアリングを行いましょう。
ステップ3.フローの改善・設定
ツールは、あくまでワークフローを改善するための「手段」です。どれほど高機能なシステムを導入しても、ワークフロー自体に問題があるようでは意味がありません。
よって、システムを導入する前に、ワークフローの見直しを行う必要があります。無駄なフローの排除、承認者の変更、書類の提出方法の変更など、調査・分析をもとに最適なワークフローを構築していきます。どの工程を電子化・自動化したいのかも決めておくと、後のツール選びがスムーズに進みます。
ステップ4.ツールの選定
次に、設定したワークフローに合わせてツールを選びます。予算やランニングコストのほか、操作性、機能、オンプレミス型かクラウド型かなど、多角的に見て選ぶことが大切です。
利便性に惹かれて、つい「あの機能も」「この機能も」と欲張りたくなるものですが、機能が多すぎるとかえって使いにくくなります。はじめに定めた導入目的を軸に、従業員の目線に立って選ぶことが重要です。
ステップ5.従業員教育
ツールを実際に使用するのは従業員です。何の説明もなく導入すると、トラブルが起きる恐れがあります。
また、変化に抵抗感を抱く従業員から反発が起きる可能性も。導入の目的、必要性、想定している効果、従業員が得られるメリットなどを事前にきちんと説明しておくことが大切です。
運用中のサポート体制についても説明しておくと、従業員はより安心できます。事前に従業員とのコネクションを強めておくことが、取り組みの成功率を上げるコツです。
ツール選びのポイント
最近ではさまざまなワークフローシステムが開発されており、どれを選べばよいか迷ってしまうこともあるでしょう。
そこで、主な3つのポイントについて解説します。ツールを選ぶ際の参考にしてみてください。

ポイント1.従業員にとって使いやすいか
高機能なツールも、従業員にとって使いづらいのであれば意味がありません。業務を効率化するどころか、かえって作業時間が長くなることもあります。
操作画面が見にくい、操作が覚えづらいツールは、従業員に遠ざけられる可能性が高いです。ほかのツールと連携できないワークフローシステムも、不便だと感じやすいでしょう。
また、長年、紙ベースのワークフローをまわしてきた従業員は、電子化に抵抗感を抱く恐れがあります。そのような場合は、既存の書類のデザインをそのまま活用できるツールを選ぶと良いでしょう。利用者の目線に立って選ぶことが何より重要です。
ポイント2.メンテナンスしやすいか
最適なワークフローとは、常に変わり続けるものです。ワークフローシステムも、変化に合わせてアップデートし続ける必要があります。
そのため、メンテナンスしやすいかどうかも、ツール選びの重要なポイントになると言えます。例えば、人事システムと連携可能なワークフローシステムなら、人事改革にもスムーズに対応できます。現場の従業員が自らフローを組み替えられるようなツールも、管理側の負担が軽減され便利です。
利用者だけでなく「管理者」にとっても使いやすいワークフローシステムを選ぶのがポイントです。
ポイント3.目的に適した機能か
申請フォーム作成機能、チャット機能、フロー作成機能など、ワークフローシステムにはさまざまな機能があります。しかし、多機能であれば良いというものでもありません。
ツールを比較する際は「目的達成に必要な機能かどうか」を基準に見極めることが大切です。承認待ちの時間を減らしたいのであれば、通知機能や進捗管理機能のあるツールを。既存のワークフローの電子化を目的とする場合は、インポート機能のあるツールを選ぶのがおすすめです。
目的を明確にし、必要な機能の「優先順位」をつけて選ぶことが大切です。
ワークフローシステムによって業務改善した事例
ワークフローシステムの導入により、業務改善に成功した企業も多数存在します。具体的にどのような取り組みを行ったのか、どのような効果があったのか、3つの事例を見てみましょう。
事例1.株式会社ベルク
「株式会社ベルク」は、埼玉県発祥のスーパーマーケット。関東地方を中心に100以上もの店舗を展開している企業です。
以前はアナログでワークフローをまわしていた当社。当時、各種申請書は人の手で店舗から本社へ運んでいました。それ以外にも「書類を保管・管理するのが大変」「承認ステータスがわからない」など、紙ベースのワークフローに多くの課題を感じていました。
そこで、ワークフローシステムを導入し、いつでもどこでも申請書を提出できる環境を実現。社外からでも承認・決裁できるようになったことで、稟議が滞ることなく進められるようになったそうです。
申請書の確認や承認のために会社に出向く必要もなくなったため、従業員は休暇や外出の予定を入れやすくなったとのこと。ワークフローシステムにより、業務効率化ひいては労働環境の改善に成功した事例です。
◾️参考:
「小売No1のデジタル企業を目指すスーパーマーケットチェーンの挑戦ーーkickflowの導入で「紙」の稟議を脱却|株式会社ベルク様」kickflow
事例2.株式会社NEW ART
ジュエリー事業、ヘルス&ビューティー事業と幅広く手掛けている「株式会社NEW ART(旧:株式会社シーマ)」。当社も、以前は紙ベースのワークフローを行っていました。
全国に展開する店舗から、膨大な量の申請書や稟議書が届く日々。コストを抑えるためにまとめて郵送するようにしたところ、今度は書類同士が混ざって確認漏れが起きる……など、トラブルが続いていました。
そこで、ワークフローシステムを導入し、コスト削減および郵送トラブルの削減に成功。フローの進捗が確認できるようになったことで、従業員の不安も解消されたそうです。
電子化する際は、既存の書類デザインをそのまま採用したとのこと。従業員に新システムを受け入れてもらえるよう工夫した点に注目です。
◾️参考:
「株式会社シーマ 様 使い慣れた手書きスタイルで全国店舗の社内書類をインターネットでワークフロー化」Create!Webフロー
事例3.ファーストキッチン株式会社
ハンバーガーチェーンの経営およびフランチャイズ事業を行っている「ファーストキッチン株式会社」。
当社は以前から会計システムを導入していましたが、ワークフローのほとんどは手作業で行っていました。紙の領収書の添付、事前に提出された申請書との照合、データ入力と手間のかかる作業が多かったことを受け、ワークフローシステムの利用を開始しました。
システムを導入してからは、経費の事前申請と精算申請の照合が容易に。約3時間かかっていた経費精算作業が、約30分にまで短縮されたそうです。
また、未承認や差し戻しには催促メールを送り、モレの防止を徹底。経費が透明化されたことで、内部統制も強化されたとのことです。
◾️参考:
「経費精算が3時間から30分に!電子帳簿保存法機能の活用で効率化」楽楽精算
まとめ
業務のデジタル化が進むいま、ワークフローの見直しと聞くと「システムを導入しなければ」と焦ることもあるかもしれません。しかし、ツールはあくまで業務改善を”手助け”するためのもの。現在のフローを可視化するだけで道が開けることもあります。
まずは、何をどのように変えたいのか、いまどのような問題を抱えているのかを「知る」ことが大切です。身近な業務を書き出し、話し合うところから始めてみてはいかがでしょうか。

