業務の生産性を高めたい。そう考え、業務改善に取り組む企業は少なくありません。
しかし、実際のところ業務改善を進めるなかで、
「具体的に何をどう改善したらいいんだろう?」
「これ以上、何を改善すればいいんだろう?」
と、悩みを抱えてはいませんか?
業務改善とひと口に言っても、そのアイデアを出すのは簡単なことではありませんよね。そこでこの記事では、業務改善のアイデアにつながるよう、これまでに企業で実施された9つの事例をご紹介していきたいと思います。
業務改善を進める上で重要な「業務改善のやり方」や「注意点」についても解説していきますので、ぜひ最後までご覧ください。
業務改善とは、業務上の課題を見つけ改善し、業務をより良くする取り組みのことをいいます。
たとえば、作業手順を効率化し生産性向上につなげたり、不要な業務をカットして残業時間の短縮につなげたりする取り組みが業務改善の例としてあげられるでしょう。ミスの低減や労働環境の改善などの目的から実施されることもあります。
業務改善の目的
効率化 |
より短い時間で、少ない手順で、これまでと同様の成果を得られるようにする |
生産性アップ |
業務の成果をより大きくする |
ミスの低減 |
業務のミスを減らす、予防する |
労働環境の改善 |
労働時間を短縮する、労働場所を改善する |
なお、本記事では業務改善を目的としたマニュアルテンプレートを配布しています。下記リンクよりダウンロードいただくことですぐにご活用いただけますので、ぜひ貴社の業務改善のお役立てください。
具体的な事例を紹介する前に、まずは業務改善のやり方を簡単に整理しておきましょう。ここでは、業務改善の具体策を考える上で必要になる「6つの視点」をご紹介します。
業務改善の方法~6つの視点~
くわしく見ていきましょう。
業務改善を進めるなかで最初に検討していただきたいのが、この業務を「削る」方法です。業務フローの変更などの手間をかけずに実施できる、非常に効果的な業務改善方法といえます。
とくに、日常業務のなかで“目的が分からない”業務があれば、それが業務改善のチャンスです。改めて業務目的を見直して必要性がないと判断できれば、「業務廃止」の検討・提案をしてみましょう。
なお、不要な業務としては次のようなパターンがあります。業務フローを見直し、これらに当てはまる業務がないか、今一度確認してみてください。
「削れる」業務のパターン
目的を見いだせない業務 |
時代や事業の変化から不要となっていたが、そのまま残り続けている業務など |
(部署の)目的に合わない業務 |
目的はあるが、部署のミッションとの関連性が低い業務 |
長期で成果を出していない業務 |
活用されていない書類の作成業務など |
重複している業務 |
部署間で重複しているチェック業務など |
業務を完全に廃止しなくても、業務量を「減らす」ことで改善を見込める場合があります。具体的には、次の3つのポイントから業務量を減らせる部分がないかチェックしてみましょう。
業務量を「減らせる」ポイント
たとえば、会議に関しては「出席者の範囲・人数は適切か」「頻度は多すぎないか」といったポイントから、資料作成に関しては「作業時間は多すぎないか」といったポイントから業務を減らせる可能性がありますね。一つひとつの業務に対して丁寧にチェックをしていきましょう。
システムなどを活用し、業務の「効率化」を図ることも業務改善に向けた一つの方法です。具体的には、次のようなやり方があげられます。
業務「効率化」の例
業務の効率化には、Excelを用いたデータ管理のような簡単なものから、勤怠管理システムの導入のような規模の大きいものまで、その方法は実にさまざまです。
とくに近年では、企業向けのクラウドサービスがかなり多様化してきており、「クラウドストレージ」や「クラウド会計システム」「人材育成クラウドサービス」などあらゆるサービスが存在しますので、活用を検討してみてはいかがでしょうか。
業務を実施する「人を変える」ことで、業務改善が図れるケースもあります。
適材適所という言葉があるように、好きな業務や得意な業務は人により異なるものです。そのため、ほかに適任者がいる場合は、配属や担当者の変更をするのも選択肢として検討してみるとよいでしょう。
また、とくに“業務のレベル”に応じた担当者の見直しも大切です。よくよく考えてみると、「係長クラスのスタッフが新人レベルの業務を行っている」といったケースも少なくありません。
この場合、新人スタッフに業務を受け渡すことで係長クラスのスタッフにはより高度な仕事を振り分けることができるようになり、結果として効率化につながるのです。
このように、定期的に業務担当者の見直しをすることも、業務改善を進める上で大切なポイントといえるでしょう。
人手不足やスキル不足を課題として抱えている場合は、業務の「外注」も一つの選択肢として検討してみるとよいでしょう。
一般的に外注というと、会計や法務など専門領域の分野がイメージされると思いますが、近年では簡単な事務作業からお任せできるオンラインアシスタントをはじめ、人事系や営業系などさまざまな分野の外注サービスが広まりつつあります。
下表では、各分野の外注サービスの一例を簡単にご紹介しますので、ぜひ参考にご覧ください。
外注サービスの例
分野 |
外部委託先の例 |
事務 |
リモートアシスタントサービス「CASTER BIZ」 |
総務 |
総務アウトソーシング・総務代行サービス「 NOC」 |
法務 |
契約書管理クラウドサービス「Hubble」 |
経理 |
クラウド型ERP「マネーフォワード クラウドERP」 |
人事(人材育成) |
クラウド型eラーニングサービス「shouin+」 |
フローが複雑な業務や技術が必要となる業務においては、マニュアルの作成が効果的です。マニュアルを作成することで、業務の効率化やスキルの平準化、エラーの防止などが期待できます。
また、一般的にマニュアルといえば「紙」をイメージする方が多いと思いますが、今の時代には「動画」によるマニュアルもおすすめです。
動画マニュアルは、言葉では表現しにくい部分をひと目で伝えられる点や、オンラインでの共有がしやすい点から、紙のマニュアルとは違ったメリットが得られる方法といえるでしょう。
なお、下記リンクでは、無料のマニュアル作成テンプレートを配布しています。利用方法もくわしくご紹介していますので、ぜひご活用ください。
■参考記事はこちら
動画マニュアルとは?メリットや効果、作り方のコツについてわかりやすく解説!
みなさんは、「なかなか業務改善案が浮かばない…」と困った経験はありませんか?
具体策のアイデアが求められる場面において適切な提案をするためには、日頃から業務改善提案の引き出しを持っておくことが大切です。
そこでここからは、実際にあった業務改善事例を一緒に見ていきましょう。それぞれの事例において、「どのような角度から業務改善を図ったのか」に注目してご覧ください。
国立大学法人 金沢大学では、業務過多による職員の負荷増大に悩んでいました。紙やハンコを用いた決裁処理がボトルネックとなり、意思決定の遅れにつながっていたのです。
そこで金沢大学では、国立大学向け電子決裁システム「e-決裁plus」を導入。紙・ハンコの処理から電子処理に移行したことでスムーズな意思決定を実現したほか、ブラウザ上での書類のやり取りも可能となり、業務効率化に成功しました。
参考:PrizmDoc「導入事例 | 高機能ビューアを簡単実装
自動車部品を製造する水島機工株式会社では、受注データの入力作業に対する業務負荷に悩みを抱えていました。
メールに添付された受注ファイルから基幹システムに手入力をしたり、取引先のWebサイトからデータを一つひとつダウンロードしシステムに取り込むなど、手作業の業務が多く発生していたのです。
そこで水島機工株式会社では、Webアプリ開発クラウドサービス「CELF(セルフ)」を導入。受注データと基幹システムを連携するシステムを開発し、データ入力を1~2クリックで完結させることに成功しました。また、これにより作業時間(1日4時間程度)の50%削減を実現しています。
自動車部品の製造・販売を行うユタカ技研では、社員への給与・賞与明細の配布に関するコスト負荷および担当者の業務負荷に悩みを抱えていました。
給与明細を紙で配布していたことにより、海外拠点への輸送コストや担当者の業務負荷が大きく、輸送費と労務費をあわせて年間140万円以上のコストがかかっていたのです。
そこでユタカ技研では、ノーコードのデータ連携ツールを導入。基幹システムから取得した給与情報をPDFに変換する仕組みを開発したことで、給与明細の電子化に成功しました。あわせて、手作業で行っていた勤怠入力のエラーチェックも自動化できるようになったといいます。
こうしてユタカ技研では、給与・賞与明細の電子化により年間140万円のコストの削減に成功。一方で、1万4千枚もの紙の削減にも成功しました。印刷業務など、これまでには出社が必要だった業務を自動化できたことで、リモートワークにもスムーズに対応できたそうです。
参考:アステリア「ASTERIA Warp導入事例:株式会社ユタカ技研」
カルビー株式会社では、既存システムの老朽化による処理速度の低下に悩みを抱えていました。また、手入力によるミスも多く発生しており、そのチェック作業や差戻しに多くの時間がとられている状況にも課題を感じていたのです。
そこでカルビー株式会社では、経費精算をはじめ様々なワークフロー業務を一元管理できる、ワークフローソフトウェアを導入。これによりシステムの処理速度が改善されたのはもちろん、ミスが起こらない入力の仕組みを構築できたことで、申請の差戻しも以前の半分程度まで減少しました。また、作業に必要なスタッフ数も7人から5人まで減らすことができたといいます。
参考:MAJOR FLOW Z「導入事例:カルビー株式会社」
東京都足立区の保育施設では、保育料の還付処理で発生する膨大な業務量に悩みを抱えていました。
担当者は通常業務をこなした後、夜間に分担しながら還付作業を行っていましたが、新型コロナウイルスの影響によって業務量は大幅に増加。月数十件だった業務が、ピーク時には月3,000件にまで膨れ上がったのです。
これに対し、東京都足立区はRPAの導入を決定。還付作業の自動化に成功したほか、保育所入所の申請も自動で受付ができるようになりました。
RPA導入前は残業に追われ、体力が限界を迎えたら帰宅するような状況だったのが、RPA導入後はメイン担当者以外の残業がなくなる状態に改善されました。
参考:UiPath株式会社「ニュースルーム:UiPath、足立区のオンライン申請受付時における 業務効率向上をRPAで支援」
家庭向けエアコンや業務用空調機、冷凍機などをグローバルに手がけるダイキン工業株式会社では、繰り返しの多いバックヤードのルーティン業務が課題となっていました。
そこで、これらを自動化し生産効率を高めることを狙いとしてRPAの導入を決意。年間10万時間の作業の自動化を目標に、検証を進めました。
結果、約1年半という短時間で目標の10万時間の作業の自動化を達成。また、RPA導入によって現場の社員自身が業務効率化を強く意識するようになったといいます。
参考:TIS株式会社「ダイキン工業株式会社様 | 導入事例」
新薬メーカーの田辺三菱製薬では、年々難易度が高まる新薬開発の市場において、新薬創出にあてる時間捻出を課題に感じていました。
そこで、業務生産性改革による新薬創出の時間捻出を目指し、RPAの導入を決意。500以上のワークフローを作成し自動化を進めた結果、約7万時間の時間捻出に成功しました。
また、田辺三菱製薬では、あわせて社員向けの独自の研修メニューを用意し、自走型かつ内製型の開発も推進。これにより、ワークフローの開発ができる人材育成およびRPAに関する人材育成につなげたといいます。
参考:UiPath株式会社「導入事例:田辺三菱製薬株式会社」
レストラン運営などの飲食事業と食を中心としたホスピタリティを提供する株式会社きちりでは、2,000名を超える従業員に対する人材育成に悩みを抱えていました。
教育担当者の人材不足をはじめ、担当者の違いによる指導内容のバラつきが原因となり、増え続ける従業員の人材育成が追いつかなくなっていたのです。
そこで株式会社きちりでは、動画マニュアルによる人材育成クラウドサービス「shouin+」の導入を決定、人材育成の効率化に向けて整備を進めていきました。
すると、人伝いの伝言ゲームになるなど間違った認識で理解が進みやすかった教育現場でも、動画マニュアルを用いることで教育内容の平準化につながったといいます。
実際に現場からは「『なみなみスパークリングの注ぎ方』の動画を使ったパートナーの研修を行いました。動画を使うことで今まで勘違いしていた部分の修正も行え上手く注ぐことが出来るようになりました。動画を使うことで分かりやすくムラの無い研修を行うことができると感じました。」との声があがっているそうです。
グループの基幹事業として学童保育サービス事業を展開するシダックス大新東ヒューマンサービス株式会社(以下、シダックス)では、支援員に対する人材育成に悩みを抱えていました。およそ1,000施設もの学童施設を運営していくなかで、教育訓練を全支援員に実施することが難しくなっていたのです。
そこで、シダックスでは動画コンテンツを活用したクラウド型eラーニングサービス「shouin+」の導入を決定。動画は、発達障害児童への対応やアレルギー対応、いじめ防止や感性保育などのテーマで分類し、整備を進めていきました。
すると、動画コンテンツを使用することで各施設での研修を実現し、研修会場までの移動時間や新人オリエンテーションなどのコスト削減に成功。最大で月間約50%ほどの時間が削減され、保育や業務の時間に充てることができるようになりました。
上記では業務改善事例をご覧いただきましたが、まだまだ「自社の業務改善にどうつなげたらいいか分からない」と感じている方が多いことと思います。そこで、もう少し具体的に「業務改善のアイデアを引き出すためのコツ」についてご紹介しておきたいと思います。
業務改善のアイデアを引き出すためには、簡単に次の3つのポイントを抑えるとよいでしょう。
業務改善のアイデアを引き出す3つのコツ
①柔軟に考える |
前提条件(コスト、規則、設備条件など)を考えすぎず、なるべく自由に考える |
②フローチャートをもとに考える |
業務の流れを可視化し、改善課題を探す |
③複数人で意見を出し合う |
小さなアイデアに対して複数人で意見を出し合い、ブラッシュアップしていく |
あらゆる条件を考えはじめてしまうと、「あれもこれも出来ない」とアイデア出しが滞る原因となってしまいます。そのため、まずは柔軟な思考を持って「どのような意見でもいいからとにかく多くの案を出そう」という気持ちが大切でしょう。
アイデアが多少粗いものでも、そのあとに会議を設けてほかの人の意見を取り入れつつ、案をより良くブラッシュアップしていけばよいのです。
また、フローチャートを作成して業務を“可視化”するのも、アイデア出しのコツになります。業務上の課題を発見しやすくなりますので、ぜひ実践してみてくださいね。
なお「フローチャートってどうやって作るの?」という方は、下記の記事でくわしく解説していますので、ぜひ参考にご覧ください。
■参考記事はこちら
業務マニュアルにフローチャートを活用する意味とは?わかりやすい業務フローの作り方について解説!
フローチャート作成のコツとは?エクセル形式のテンプレート活用方法を解説!
業務改善は、改善案が完成して完了ではありません。また、素晴らしい改善案ができたとしても、その案を実行していくのは難しいことです。
そこで最後に、業務改善を適切に進める上での注意点についてお伝えしたいと思います。
日々の業務をこなす合間に業務改善を進めることは、容易なことではありません。
また、ほとんどの場合は、自身の担当業務に対して業務改善を実施するケースかと思いますが、実際のところは業務改善が成功しなくても日常業務は問題なく進められるため、どうしても後回しになってしまうのが実情かと思います。
そこでポイントになるのが、「複数人で業務改善を推進すること」です。
複数人または組織的に実施することで、お互いに進捗をチェックし合ったり手助けをし合ったりでき、業務改善を完遂しやすくなるでしょう。業務改善は、一人に任せきりにしないことが大切なポイントです。
改善案をブラッシュアップしていく過程で大切なのが、リスクに目を向けることです。とくに、大規模なシステム改修やシステム導入を考えている場合には、意識的な管理が必要でしょう。
下記には、参考までにコンプライアンスリスクの一例を記載しました。業務改善を進める場合には、客観的な視点で今一度見直してみていただければと思います。
コンプライアンスリスクの例
今回は、業務改善に取り組むみなさんに向けて、9つの改善事例をはじめ、業務改善の方法や注意点についてくわしく解説いたしました。
業務改善は、その改善案のアイデア出しから最後までやり切るところまで、根気のいる作業です。今回ご紹介したポイントを押さえながら実践していただくことで、少しでもみなさんの負担が軽減できれば幸いです。