業務の属人化を解消する方法とは?属人化が起こる原因から課題、解消するメリット、企業事例まで紹介
業務が属人化している組織では、「お客様が怒っているが、担当者が不在で対応できない」「前任者が突然入院し、引継ぐことになったが状況が分からず困っている」といったことが、時折起こります。こうした業務の属人化は、時と場合によっては大きなトラブルになることから、企業にとって重要な課題のひとつです。
一方で、属人化は悪くない面もあるため、どういった業務に対して、どのように属人化の解消を進めていくといいのか悩むのも正直なところでしょう。そこで当記事では、属人化がリスク・デメリットになるケース、逆にメリットになるケースについて解説した後に、属人化解消の方法や企業事例をご紹介します。
業務の属人化とは
業務の属人化(読み方:ぞくじんか)とは、特定の人しか内容や進め方が分からない、対応できない状態を指します。業務がブラックボックス化しているため、担当者が不在の場合に業務ができないといった事態に陥るため、属人化の解消は企業にとって重要な課題のひとつです。
「特定の人しかできない」と聞くと、特定の分野の専門家である「スペシャリスト」が担っている業務はどう考えるといいか疑問がわくかもしれませんね。ここでのポイントは「業務が見える化・共有されているかどうか」です。情報共有がなされていないために、特定の業務ができないのであれば「属人化」、情報共有はされているが特別なスキルが必要なためスペシャリストしかできないということであれば、属人化ではありません。
属人化は、時に「サイロ化している」と言い換えられることもありますが、サイロ化の場合は、特定の個人というよりも、部署やチーム間で情報共有や連携ができていない状態、システムの連携が取れていない状態を指すことが多いです。
業務の属人化の反対、対義語は「業務の標準化」です。業務の作業手順や方法を基準化することで、誰もがその基準にしたがって同様に作業ができる状態を指します。
また、「業務の標準化」と似た言葉に「スキルの平準化」という表現もあります。スキルの平準化とは、従業員一人ひとりのスキルを均一化することです。従業員のスキルの均一化をすることで、個人に頼らずとも業務を継続的に安定して行える状態にできるため、属人化の解消のために有効な手段といえます。
「業務の標準化」も「スキルの平準化」も、属人化の解消のためには欠かせないので、ここでは言葉だけでも覚えておいてください。
属人化のリスク・デメリット
業務の属人化により起こるリスク・デメリットは、主に次の7つです。
- 知識や技術・ノウハウが引き継がれず失われる
- 人材育成が困難になる
- 担当者不在により業務が停滞する
- 品質を一定に保つのが困難になる
- 特定の社員への負担が大きくなる
- 業務効率を改善できない
- 不正の温床になる可能性がある
ひとつずつ見ていきましょう。
知識や技術・ノウハウが引き継がれず失われる
業務が属人化している状態というのは、業務を行う中で得られた知見やノウハウ、知識、技術、経験などが社内に蓄積されず、担当者の異動や退職と同時にこれらが失われます。会社にとっては、貴重な経営資源が蓄積されないということです。
人材育成が困難になる
「知識や技術・ノウハウが引き継がれず失われる」ということは、担当者以外の従業員は新しいスキルを受け継げず、成長の機会を失っているとも言えます。また属人化している業務を担っている担当者も、その業務に追われ新たなスキルを身に付けることができず、成長が止まります。業務の属人化は人材育成の観点からも非常にリスクがあると言えるでしょう。
担当者不在により業務が停滞する
担当者の急な入院、急な退職などの不測の事態が起きたときに、業務が属人化していると、誰も代わりに対応できないため業務が停滞します。どうにか対応できたとしても、締め切りに間に合わなかったり、品質が伴っていなかったりということが起きれば、顧客からの信用を失いかねません。
品質を一定に保つのが困難になる
業務が属人化している組織では、マネージャ―は業務の全体像を正確に把握できません。担当者がミスをしても報告がなければ気付かずそのまま、トラブルが起きて相談されても詳細を理解できないためベストな解決策を提案できない……。その結果、商品やサービスの品質が低下してしまうといったことが起きてしまうのです。
特定の社員への負担が大きくなる
業務が属人化していると、他の従業員にサポートをお願いできず、「自分で全てやるしかない」という状況に陥り、特定の社員への負担が大きくなります。マネージャ―が業務改善を行おうとしても、どの部分に無理があるのか把握できないため、人員を増やす判断も、業務効率向上を考えてツールなどを導入するといった判断もしにくく、なかなか解決に向かいません。その結果、必然的に担当者は長時間労働となりやすく、企業にとって深刻な問題のひとつとなっています。
業務効率を改善できない
人手不足や競争力強化のために欠かせないのが業務効率の改善、生産性の向上です。これは各個人でできることには限界があり、組織としての取り組みが必要です。しかし業務が属人化していると、業務プロセスが最適化されているのか、無駄がどこにあるのか分かりません。つまり適切なマネジメントが難しく、業務効率の改善ができないのです。
不正の温床になる可能性がある
業務がブラックボックス化するということは、ミスや不正があっても周りの従業員が気付けないということを意味します。その結果、データの改ざんであったり、横領であったり、会社の存続を脅かすような不正の温床になる可能性があるのです。
属人化のメリット
最初に属人化のリスク・デメリットから説明しましたが、必ずしも属人化は悪くありません。属人化のメリットとして、主に次の2つがあげられます。
- 顧客との長い付き合いから生まれる信頼関係
- 裁量権を持ち業務を遂行でき、モチベーションが上がる
ひとつずつ見ていきましょう。
顧客との長い付き合いから生まれる信頼関係
頻繁に担当が変わるよりも、長く同じ従業員が担当しているほうが顧客との信頼関係は築きやすいですね。お客様にとっては、馴染みの従業員であれば、阿吽の呼吸で依頼できますし、「○○さんに任せれば大丈夫」といった安心感にもつながります。
一方で、顧客との信頼関係が企業よりも従業員個人との間に強く築かれているため、従業員の退職などがあれば、そのまま顧客までも失う恐れがあります。従って、リスクを事前に洗い出し、対策も講じておきたいですね。
裁量権を持ち業務を遂行でき、モチベーションが上がる
属人化した業務は、自分のペースで仕事を行いやすく裁量権を持って遂行できるのはメリットです。裁量権があると、責任が増す一方で、達成感を得やすく、仕事のやりがいを感じられ、モチベーションの向上が期待できるでしょう。
属人化してはいけない業務と属人化が問題ない業務の具体例
業務には、属人化してはいけないものと、属人化しても問題ないものの2通りがあります。
属人化してはいけない業務
属人化してはいけない業務の具体例としては、次のようなものがあります。
- 問い合わせ窓口の対応
- 顧客のトラブル対応・ヘルプデスク業務
- 顧客管理
- 自社製品・サービスに関する説明業務
- バックオフィス業務
1の問い合わせ窓口や2の顧客対応は、回答までに時間がかかるとトラブルが大きくなる可能性がある業務です。1度の回答で終わらない場合もあるので、全てのやり取りを共有し、迅速かつ臨機応変に対応できるようにするのがいいでしょう。
また回答を毎回イチから作成すると時間が掛かってしまうので、同じような問い合わせが多い場合は回答をテンプレート化して社内共有すると効率が上がります。
3の顧客管理は、個人でそれぞれのやり方で行っていると、急に担当者が休んだ場合などに対応できないだけでなく、退職により顧客まで失いかねません。社内で共通のルールを決めて、管理しましょう。
4の自社製品・サービスに関しては、職種を問わず聞かれることが多く、回答できないと信用に関わるケースもあるため、一通り全員が説明できるようにしておきたいですね。
5の経理や人事などのバックオフィス業務は、急な休みなどで対応が遅れると給与の支払が滞ったり、税金の支払に間に合わなかったりと重大な問題になることがあります。また属人化すると不正の温床になる可能性もあるため、属人化を特に防ぎたい業務です。
属人化が問題のない業務
属人化が問題のない業務の具体例としては、次のようなものがあります。
- 新規事業や新規案件など立ち上げ段階の業務
- 高い専門性が求められる業務
1の立ち上げ業務ように、やり方が手探りで共有が難しい段階の業務もあります。こうした業務は先に手順化できるところまで整えてから、標準化を考えるほうがいいでしょう。
2の高い専門性が求められる業務は、マニュアル等を作成して社内共有するのは難しいため属人化が問題のない業務と位置づけます。案件によって臨機応変な対応が求められるような業務もこちらに該当します。ただし、そうした業務であっても、ある一定の部分までは標準化が可能なケースもありますので、全てをブラックボックス化しないことも大事です。
属人化の解消(業務の標準化・スキルの平準化)が求められる理由
現在は、次の2つの点から、属人化の解消(業務の標準化・スキルの平準化)が求められています。
- 人手不足が深刻化しているから
- 人材の流動が活発になっているから
それぞれ見ていきましょう。
人手不足が深刻化しているから
企業規模、業種を問わず、人手不足が深刻化している現在、従業員の退職が決まってから後任を探しても、希望するような人材をすぐに補強するのが難しくなっています。運よく新たな人材を雇用できたとしても、人手不足の組織では教育に割ける時間が限られるため、マニュアルなどを見れば新人でも対応できる体制が必要なのです。
人材の流動化が活発になっているから
終身雇用が一般的だった頃は、ノウハウが社内に蓄積されやすい環境にありました。しかし終身雇用が崩壊し、人材の流動化が活発になり、ノウハウが共有されないまま離職するケースが出てきています。
時間をかけて従業員を育てても一定の割合で退職します。正規職員だけでなく、アルバイトやパートなど非正規雇用の人材も同様です。そのため退職者が増えても業務の品質を保ち、ノウハウを蓄積していく必要性が増しています。
属人化を解消し、業務の標準化・スキルの平準化をするメリット
会社にとってリスクになるような属人化した業務は、属人化の解消が求められます。属人化の解消に欠かせないのが記事の冒頭で紹介した業務の標準化とスキルの平準化です。
属人化を解消し、業務の標準化およびスキルの平準化を行うことは、属人化によるリスクを減らせるのはもちろんのこと、会社にとって次のようなメリットもありますので、一つずつ解説します。
- 安定した品質を提供できるようになり、顧客満足度が上がる
- 生産性が向上・業務効率が改善
- 従業員も企業も成長し続けられる
安定した品質を提供できるようになり、顧客満足度が上がる
業務の標準化およびスキルの平準化を行うことで、商品の品質を一定の水準に保ち、誰が対応しても同じ水準でサービスを提供できるようになります。その結果、顧客満足度(CS)の向上につながります。
顧客満足度が高いと、新規顧客およびリピーター獲得につながったり、売上アップにつながったり、企業の認知度やイメージアップにつながったり、メリットは多いです。
■参考記事はこちら
顧客満足度(CS)とは?調査方法や向上させるポイントをわかりやすく解説!
生産性が向上・業務効率が改善
業務の属人化を解消する際に行われるのが業務の見直し。個人任せにしていると気付けなかった、「やらなくてもいい仕事」「もっと効率よく終わらせられる方法」「人に任せられる仕事」などが見つかります。その結果、業務フローの改善などが行われ、業務効率の改善、生産性の向上につながります。
従業員も企業も成長し続けられる
業務の標準化およびスキルの平準化を行うと、ノウハウが企業に蓄積されるようになります。さらに、業務効率が向上するとともに、人に任せられる仕事が増えますので、時間的な余裕が生まれます。時間的な余裕が生まれれば、さらに効率をあげる方法がないか検討したり、新たなスキルを身に付けたりと従業員も企業も成長し続けられる環境が生まれるのです。
なぜ属人化が起きるの?原因は4つ
この後に属人化を解消する方法を説明しますが、その前に「そもそも、なぜ属人化が起きるのか」を押さえておきましょう。属人化の原因は、業務の共有不足です。組織に共有する風土がなかったり、多忙すぎて目の前のことで精一杯だったりすると共有不足が起こりやすくなります。
そして属人化の解消が必要だと考えていても、業務の属人化が起きるのには、次の4つの原因があります。
- 業務に専門性が求められるため
- 属人化解消に向けた取り組みが評価されないため
- 会社での自分の立場を守るため
- テレワークが浸透し、担当業務以外が把握しにくくなったため
この4つの原因について、ひとつずつ解説していきます。
業務に専門性が求められるため
デザイナーやエンジニアなど専門性が求められる人が担当する業務は、属人化しやすい傾向があります。特に小規模な組織の場合、専門スキルを持つのは自分だけというケースもあり、「自分で全てやらないといけない」という気持ちになりがちです。
その結果、特定の担当者以外は、この業務に関するスキルを身に付ける機会、情報を得る機会が減り、業務の属人化が加速します。
属人化解消に向けた取り組みが評価されないため
属人化の解消は、トータルで見れば自分の業務を他の人ができるようになるため、休みを取りやすくなったり、残業を減らせたりと従業員個人にも大きなメリットがあります。一方で、共有するという工数が増えるため、一時的な負担が増しますね。
それなのに会社が評価するのは、従業員の目の前にある数値目標の達成などのみだとどうでしょうか。会社から評価されやすい業務に注力しがちなのが自然な流れでしょう。評価制度から再検討しないと、属人化の解消は難しいのです。
会社での自分の立場を守るため
属人化した業務とは、「自分にしかできない業務」であり、組織目線で見ると課題になりますが、従業員個人目線で見れば自分の優位性にもなります。自分が担当している業務が誰でもできるものになれば、自分の立場が危うくなる不安もあるでしょう。このため、積極的に業務を共有しようとせず、属人化してしまうというわけです。
テレワークが浸透し、担当業務以外が把握しにくくなったため
新型コロナウイルス感染症の影響で、多くの企業でテレワークが導入されました。出社をしていれば、電話の声や上司との打合せの様子などから、なんとなく業務の様子が分かる部分もありますが、テレワークの場合は意識して共有しないと担当業務以外の様子が分かりにくくなってしまいがちです。
共有する仕組みがあれば、テレワークでも属人化は解消できますが、意識してそういった仕組みを作っていないと属人化が進む環境を誘発しやすいでしょう。
属人化を解消する方法(業務の標準化・スキルの平準化)
属人化を解消する方法として多くの組織で取り入れやすい次の6つについて解説します。
- 業務マニュアル・手順書を作成する
- チェックシートを作成する
- 業務の見える化を行い、仕組みはシンプルにする
- ITツールを活用する
- 権限を分散させる・複数の社員に与える
- 定期的に業務改善を行う機会を作る
ひとつずつ見ていきましょう。
業務マニュアル・手順書を作成する
他の人に自分の仕事を任せられるようにするために有効なのが「業務マニュアル」と「手順書」の作成です。業務全体の理解を促すために作成するのが「業務マニュアル」で、実際に作業する人に向けて手順を順番に説明するのが「手順書」だとお考えください。
■参考記事はこちら
マニュアルと手順書の違いとは?伝わりやすい書き方を例をもとにわかりやすく解説!(接客業向けテンプレート付き)
知識やノウハウを共有する際、OJTや研修の一環で口頭で伝える組織もありますが、口頭だと一度教えたことを他の人に教える際はまた同じ説明を繰り返さないといけません。でも業務マニュアルや手順書を用意しておけば、それを読んでもらえばいいので、教える工数を減らせます。
チェックシート(チェックリスト)を作成する
業務マニュアルと手順書に加えて、作成しておきたいのが「チェックシート(チェックリスト)」です。初めての業務、慣れない業務は、作業漏れやミスが起こりやすいため、漏れてはいけない項目を予めチェックシートとしてまとめておき、傍らにおいて作業できるようにしておくといいでしょう。
業務の見える化を行い、仕組みはシンプルにする
属人化解消のためには、普段から業務が見える化されるように仕組みを整えるのがポイントです。業務の見える化とは、業務を「いつ」「どこで」「誰が」「どのように仕事をしているか」を把握できる状況を作ることを意味します。具体的には、「業務フロー」「タイムスケジュール」「ナレッジ」「タスクの状況」の可視化を検討しましょう。
業務の見える化は、仕組みを作って終わりではありません。改善を繰り返しながら継続して取り組むことが大切です。誰がやっても同じ品質を維持できるようにするためには、業務の仕組みはできる限りシンプルにするのがいいでしょう。
ITツールを活用する
業務マニュアルや手順書、チェックシートの作成・共有、業務の見える化を効率的に行うのに欠かせないのがITツールの活用です。
例えば、業務マニュアルを作成しても、確認するのに手間が掛かったり、見たいときに見れなかったりすると、次第に使われないものになってしまいます。また作成するのと同じぐらい大事なのが、必要なタイミングでの更新ですので、更新のしやすい環境作りもポイントです。
業務の見える化も闇雲に共有するだけでは、使えるデータになりません。共有しやすいITツールがありますので、そういったツールを活用すると効率的に進められます。
権限を分散させる・複数の社員に与える
属人化の解消を進める際に、見直したいのが権限のあり方です。特定の人に権限が集中していると、そこで属人化が起き不正なども発生しやすくなるため、権限を分散させましょう。
責任の範囲を定めて複数の社員に権限を付与することで、担当者不在でも業務が滞りなく進むようになります。業務の相互理解が深まるという良さもあります。サブ担当者を決めることから始めるのが進めやすいでしょう。
定期的に業務改善を行う機会を作る
業務の標準化、スキルの平準化の取り組みとして、マニュアルなどを作成した場合、一度で完璧に仕上げるというよりは、定期的に改善しながら行っていくのがベストです。業務内容が変わったタイミングなどで見直すのはもちろんのこと、定期的に業務全体を再確認する機会を作るのがいいでしょう。
属人化を解消する際に気を付けるポイント3つ
属人化の解消を組織として進める際、気をつけたいポイントを3つご紹介します。人事教育部門、マネージャーなど従業員の業務クオリティやパフォーマンスを管理している担当者は、ぜひお読みください。
従業員のスキルに頼らない
業務の標準化を行う際は、従業員のスキル頼りにならない仕組みを考えるのが、属人化解消のポイントです。
例えば、システムに何かデータを入力する場合。マニュアルに入力が必要な項目を書いておくだけだと、抜け漏れが発生するなど、人によってはミスが起きます。でも必須項目は入力しないと先に進めないようにしたり、数値の入力欄は、数字以外の文字は入力できないようにしたり、編集してはいけない項目は編集不可にしたり、ミスが起きにくい仕組みを作ると、誰が作業しても同じ成果物ができます。
記録し保管する習慣を作る
マニュアルを作成しようとゼロから始めると大変ですね。でも概略だけでも最初にできていれば、進めやすくなります。この概略になるのが、普段の記録です。例えばイベントを実施する際、やるべきことを書き出すなどします。この書き出したメモがマニュアルの外枠として使えるのです。途中で追加されたToDoなどもその場で書き足す習慣を作っておくと、属人化の解消を進めやすくなるでしょう。
継続できる仕組みを作る
突然の入院や退職などは、頻繁に起きることではありません。このため、業務が属人化していて本気で困ることもあまりないため、属人化の解消を継続できる仕組みを作っておかないと、目先の多忙さなどを理由に元の状態に戻りがちです。
そうならないよう業務の標準化、スキルの平準化を継続できるよう、ルールや評価制度、仕組みをしっかりと作っておくことが大事でしょう。
属人化解消に成功した企業事例
最後に属人化の解消に成功した企業事例をご紹介します。
事例:TEPCO光ネットワークエンジニアリング株式会社
電気通信工事業を営むTEPCO光ネットワークエンジニアリング株式会社(社員数:275名)では、属人化を解消するために連続5日間の休暇取得を目標に掲げ、休暇取得促進と業務の標準化を連動して進めたそうです。「連続5日間の休暇取得」は、管理職も対象で、取得状況は部署ごとで管理され、社長へ報告がなされます。「5日休んだら5日分の仕事が残っている」状態にならないように、互いにフォローするようにしているとのこと。
社員にとってのメリットが明確であり、従業員のモチベーションを下げずに業務の標準化を行っている好事例です。
事例:森口製粉製麺 株式会社
兵庫県にて手延べそうめん作りを手がける森口製粉製麺株式会社(従業員:29名)では、小麦粉をこねる最初の工程を担当できる従業員が1名のみで、専門的な作業であり残業が発生していたそうです(10年程前の話)。この特定の従業員だけが過重労働に陥る状況を変えるために、同じ作業ができる従業員を2番手、3番手と育成し、早出出勤ができる従業員を増やし、属人化を解消していく取り組みを進めてきました。
属人化解消の取り組みを後押ししたのが、2019年より全従業員に対し導入した勤務間インターバル制度です。11時間のインターバル時間の確保を目標にすると就業規則に定めています。従業員の顔つきが健康的になったとのことで、こちらも従業員がメリットを感じやすい形で取り組みを行っており、参考になるでしょう。
事例:ライオンパワー株式会社
石川県で製造業を営むライオンパワー株式会社 (社員数:107名)では、年度末など仕事が集中する時期に、平均残業時間が80時間/月を超えることがありました。そこで取り組んだのが多能工化。社長直轄の部門の中心的社員1名に依頼し、その社員から他の社員に仕事を教えることで、1人ができる仕事の量を増やしたそうです。
いきなり1人が2人分の仕事をできるようにすることを目指すのではなく、1.4人分程度の仕事ができることを目標にした点、まずは一つの部署で試し効果が出たら他の部署にも広げていった点など、スモールステップで進めている部分は企業規模、業種を問わず参考になります。
まとめ
業務の属人化は、全てが悪いわけではありませんが、リスク・デメリットになる場合は、属人化の解消(業務の標準化・スキルの平準化)が必要です。具体的には、「業務マニュアル・手順書の作成」「チェックシート(チェックリスト)の作成」「業務の見える化」「ITツールの活用」「権限の分散」「定期的な業務改善」などを行うといいでしょう。
企業事例としてご紹介した、企業メリットだけでなく従業員メリットも意識した取り組み、スモールステップでの取り組みは、企業規模、業種を問わずマネしたいポイントです。ぜひ参考にしてください。