「ヒューマンエラーをどうにかしたい……」
「どうすればヒューマンエラーがなくなるか分からない」
このようにお悩みではありませんか?
事業内でヒューマンエラーが多発すると、重大な事故や損失につながる前にどうにかしたいと考えるのが当然です。しかし、具体的にどうすべきか、どのような対策をすべきか分からないこともあるでしょう。
そこでこの記事では、事業におけるヒューマンエラーに対する「原因」や「考え方」を解説しつつ、「防止対策の具体的な方法」についてもくわしくご紹介していきます。ぜひ参考にしてください。
ヒューマンエラーに対する効果的な防止対策方法を見出すには、原因を知ることが重要です。そこでまずは、第1ステップとしてヒューマンエラーが起こる原因について学んでいきましょう。
厚生労働省が生衛業向けに制作した「生産性&効率アップ必勝マニュアル」のなかでは、ヒューマンエラーの原因を、エラーの分類を次のように定義しています。
<ヒューマンエラーの分類と原因>
(⽣産性&効率アップ必勝マニュアル(厚⽣労働省)を参考に弊社で図を作成)
それでは、ヒューマンエラーが起こる原因について具体的にご紹介していきます。
上記のようなエラーは、情報を覚えられなかったり正しく思い出せなかったりなど、「記憶」が原因となるエラーです。
新入社員のエラーをはじめ、店舗に新しい機械やシステムが導入されたときなど「覚えること」が必要となる場合に起こりやすいエラーといえます。
上記のようなエラーは、情報を見間違えたり、読み間違える・聞き間違えたりするなどの「認識違い」が原因となるエラーです。
普段よりも相手の声が聞こえにくい電話対応をはじめ、店舗の照明が暗く文字が読みにくい場合など、認識のしにくい空間で起こりやすいエラーといえます。
上記のようなエラーは、状況理解の難しさや意思決定の難しさなど「判断力」が原因となるエラーです。
業務に不慣れな時期をはじめ、忙しさで業務に追われている場合や周囲の人間関係に問題を抱えている場合など、判断力に欠ける状況で起きやすいエラーであると考えられます。
上記のようなエラーは、機械や器具の操作において「動かしにくい」「扱いづらい」などといった不便さが原因となるエラーです。
業務上で扱いづらい機械を使用している場合や、新しい機械の扱いに慣れていない時期などに起こりやすいエラーといえるでしょう。
上記のようなエラーは、肉体的な疲労や精神的なストレスが原因となるエラーです。そしてこの肉体的・精神的な疲労は、上記で紹介したすべてのエラーにつながる可能性をもっています。
長時間労働が続き疲労が溜まっている期間や、プロジェクトの責任から精神的なストレスを受けている期間などは、あらゆるエラーに注意したいところです。
このようなエラーは、作業手順や規則に対する「理解不足」や「納得不足」が原因となるエラーです。
従業員への教育が不十分な場合や、納得度の低いマニュアルを使用している場合などに起きやすいエラーといえるでしょう。
ヒューマンエラーの基本的な内容に関してもっと知りたいという方向けに、以下の記事で詳しくご紹介していますので、こちらも合わせてご覧ください。
■参考記事はこちら
ヒューマンエラーの原因がわかったら、次に具体的な防止対策方法を考えていきます。ところが実際のところ、「具体的な防止対策の方法が思い浮かばない…」、「原因は分かったけど、結局どうしたらいいかわからない…」とお悩みの方も少なくないのではないでしょうか。
そこでここからは、ヒューマンエラーの防止対策方法を考える上で「必要な考え方」について、大きく3つに分けてご紹介いたします。
まずは、これまでに数多くの企業とヒューマンエラー防止に関する共同研究の実績をもつ中田亨氏の著書をご紹介しましょう。中田氏は、自身の著書『ヒューマンエラーを防ぐ知恵:ミスはなくなるか』( DOJIN選書)の中で、ヒューマンエラーの抑止対策として次の3つの方針を紹介しています。
作業を行いやすくする。ヒューマンエラーの発生頻度を抑制する。
人に異常を気づかせる。損害が出る前に事故を回避できるようにする。
被害を抑える。小さな事故が大きな事故に発展しないようにする。
(中田亨氏著書『ヒューマンエラーを防ぐ知恵:ミスはなくなるか』( DOJIN選書))
中田氏は、この3つの視点から導き出された防止対策の方法を組み合わせることで、ヒューマンエラーのリスクを減らせるのだといいます。
では、この考えに基づきながら「ヒューマンエラー防止に必要な3つの考え方」について、くわしくみていきましょう。
1つ目の考え方は「ヒューマンエラーの原因を取り除けば頻度は減る」です。ヒューマンエラーが発生する過程には、必ずどこかに「落とし穴」があります。構造に穴(欠陥)があるから、人が落ちる(ミスをする)というわけです。
(⽣産性&効率アップ必勝マニュアル(厚⽣労働省)を参考に弊社で図を作成)
たとえば、お客さまの注文を間違えてしまったときの落とし穴は次のようなパターンが考えられるでしょう。
このような、ヒューマンエラーの原因となる「落とし穴を塞ぐ」ことで、エラーの発生頻度を減らしていこう、というのがこの考え方です。
また前述したように、ヒューマンエラーの分類は主に次の5つに分類できます。
これらの原因を「5つの視点」ととらえ、5つの角度から防止対策の方法を検討してみるとよいでしょう。
2つ目の考え方「人が関わらなければエラーは起きない」は、ごく当然のことですが、意外と忘れられがちな考え方です。
エラーの防止対策方法を考えるとき、「ダブルチェックの回数を増やす」などと、人の関わる作業を増やすような方法が思い浮かびがちですが、これは実は「そもそも人が関わらなければエラーは起きない」ことを忘れてしまっているといっても過言ではありません。
つまり防止対策の方法を導く上では、人が関わる頻度を考慮して次のような防止対策方法を検討するとよいでしょう。
近年様々な分野で作業を効率化するITツールが登場しており、DX(デジタルトランスフォーメーション)が進められています。そういったツールの利用することで、人の作業を削減することができます。デジタルトランスフォーメーションに関しては、以下の記事で詳しく解説しています。
■参考記事はこちら
デジタルトランスフォーメーション(DX)とは?どこよりも詳しく&わかりやすく解説!
3つ目の考え方「リスクを最小限に抑える工夫を忘れない」は、前2つの考え方とは少し違った視点からお送りします。
この3つ目の考え方は、ヒューマンエラーを防ぐための考え方ではなく、ヒューマンエラーが「起きてしまったらどうするか」という考え方なのです。
ヒューマンエラーの防止対策方法を考えるとき、誰もが「防ぐためにどうするか」を考えると思います。しかしヒューマンエラーは、人が関わる限り「完全になくすことはできない」というのが事実です。どんなに注意深く作業をしていても、人はうっかりミスをしてしまうものです。みなさんも経験があると思います。
そのため、エラーを防ぐためにどうするかという考え方ももちろん大切ですが、一方で起きてしまったらどうするかという考え方も非常に大切なのです。
ヒューマンエラーを防止する対策方法を検討する際は、同時に「エラーが起きたとき、どうすればリスクを最小限に抑えられるか」も合わせて考えてみるとよいでしょう。
では最後に、ヒューマンエラーの防止対策方法について、例を交えてご紹介していきます。
まずは、ヒューマンエラー防止の考え方②「人が関わらなければエラーは起きない」の視点から防止対策の方法を考えてみましょう。エラーの具体例と、それに対応する防止対策の方法をご紹介します。
エラーの例 |
防止対策の方法 |
電話予約を受けたが、システムに反映させるのを忘れてしまった |
・予約フォームを作成し、電話予約を受ける頻度を減らす →システム化で記憶エラーを防止 |
会計時、釣り銭の金額を間違えて渡してしまった |
・自動釣銭機またはセルフレジを導入する ・電子マネー決済を導入する →会計の自動化により人の関与を減らす |
フローや作業手順を簡略化することも、ヒューマンエラーの防止対策の方法といえます。
簡略化することにより、人が関わる頻度を減らす効果や、まだ認識していなかったエラーの落とし穴を塞ぐ効果につながるでしょう。具体例は下記をご覧ください。
エラーの例 |
防止対策の方法 |
紙媒体で回収したアンケートを紛失してしまった |
web形式でアンケートを作成する →紛失防止、回収・集計のフローを簡略化し、人の関与を減らす |
なお、業務フローの簡略化についてはこちらの記事でくわしく解説していますので、ぜひ参考にしてください。
■参考記事はこちら
業務改善とは?目標の立て方やアイデア出しのためのフレームワークなど、効果的に進めるポイントを解説!
わかりやすいマニュアルがあることは、それだけでヒューマンエラーの防止対策になります。業務の全体像がわかり、業務フローや手順がひと目で理解できるマニュアルは、記憶エラーおよび判断エラーの防止につながるでしょう。
ここで1つ、実例をご紹介します。ビジネスウェア販売店「ONLY」を全国展開する株式会社オンリーは、同期入社の社員でもスキルの差があったり、マニュアルとは違う方法で業務を覚えてしまっていたりすることを課題として抱えていました。
そこで、防止対策の方法として動画マニュアルを導入し、わかりやすいマニュアル作成および社員のスキル把握に努めました。すると、シャツの採寸ひとつをとっても流れや採寸方法を動画でわかりやすく解説でき、社員が違う方法で覚えてしまうエラーの防止対策にもなったそうです。
このように、効果的なマニュアル作成は、結果としてあらゆるエラーの防止につながる重要な防止対策の方法なのです。ぜひ実践してみてください。
なお、マニュアルは主に紙(資料)ベースと動画ベースに分けられ、それぞれメリットとデメリットがあります。下記の記事では効果的なマニュアルの作り方をくわしく解説していますので、ぜひ参考にご覧ください。
■参考記事はこちら
マニュアルとは?活用されるマニュアルの特徴と作り方をわかりやすく解説!
動画マニュアルとは?メリットや効果、作り方のコツについてわかりやすく解説!
ToDoリストを作成し管理していくことも、ヒューマンエラーの防止対策方法になります。業務やり忘れの記憶エラーや、優先順位間違えの判断エラー防止につながるでしょう。
なお、ToDoリストツールとしては、以下のサービスがおすすめです。
これらのツールを活用することで、ひと目で業務の進行状況を確認できるほか、チーム単位・組織単位での共有も可能となります。ぜひ活用を検討するとよいでしょう。
ダブルチェックのプロセスを追加すると、ヒューマンエラーの発見確率を高めます。発生してしまったエラーを発見し防止することにより、結果としてエラーの対策になるのです。
ただし、ダブルチェックはエラーの数を減らすプロセスではありません。あくまで「エラーの発見」を目的としたプロセスです。安易にダブルチェックを防止対策の方法とするのではなく、まずは落とし穴を塞ぐ方法を検討することも大切です。
ヒューマンエラーを防止するには、過去のエラー事例を把握すること、また発生しそうなエラーをあらかじめ把握しておくことも有効です。とくに、事故寸前のヒヤッとした経験をあらわす「ヒヤリハット」を共有することは、まだ発生したことのないエラーを防ぐためにも有効です。
ハインリッヒの法則をご存じでしょうか。これは、1件の重大事故の背景には29件の軽微な事故があり、さらにその背景には300件のヒヤリハットがあることをあらわした法則です。つまり、ヒヤリハットの対策を地道に行うことで、いずれ1つの重大事故防止につながると読みかえられます。
ただし、ヒヤリハットやエラーを報告することは、恥ずかしい・情けないといった感情が生まれることもあるでしょう。このような事例を社内で共有していくためには、エラーをできるだけ気軽に報告してもらうための環境づくりも大切です。
ヒューマンエラー防止のための考え方③で紹介した「リスクを最小限に抑える工夫を忘れない」の視点から考えてみましょう。大切なのは、エラー発生後にどのような対応をするかを、あらかじめ「決めておくこと」です。
たとえば、次のような事例があげられます。
エラーの例 |
発生後の対応 |
お客様の注文を間違えて提供してしまった |
・すぐに謝罪し、正しい注文の品を提供する |
メールの宛先を間違えてしまい、関係ない他社に取引先の情報が漏れてしまった |
・まずは上司に報告・相談する ・関係者へ謝罪をする ・エラー防止のための対策を行う |
このようにあらかじめエラー発生後の対応を決めておくことで、あせっている状況下でも適切なプロセスを踏みやすくなるでしょう。日頃からエラー発生を前提とした意識づくりが大切です。
わからないことを「わからない」と言える環境を作ることには、次のようなメリットがあります。
業務への理解が進むことは「記憶エラー・判断エラーの対策」に、心的ストレスを抱えにくいことは「エラーの落とし穴(心的原因)を塞ぐ」ことにつながり、チームワークの強化は「チームでエラー防止に努められる」といったメリットがあるのです。
前述したように、ヒューマンエラーの分類の1つには「あえて型のエラー」があります。これは、決してエラーを起こした個人だけの問題だけではありません。
あえて型エラーが発生した背景には、次のような考えも含まれると考えられます。
このようにエラーの背景には、上司の行いや上司との関係性が理由にあるかもしれません。あえて型のエラーは「会社全体の問題」であり、社員一人ひとりの意識改善、つまり「企業風土を整える」ことが大切でしょう。
今回は、ヒューマンエラーに対する「原因」をはじめ、エラーに対する「考え方」や「具体的な防止対策方法」まで、事例を交えながらくわしくご紹介いたしました。
ヒューマンエラーは人が関わる限り完全になくすことはできませんが、本文でご紹介した内容をもとに防止対策の方法を実行すれば、着実に予防とリスク低減につながるはずです。
参考までに、今回ご紹介した、ヒューマンエラー防止に必要な3つの考え方をまとめておきます。
<ヒューマンエラー防止に必要な3つの考え方>
本記事で紹介した内容をもとに、ぜひ貴社のヒューマンエラー削減対策にお役立ていただければ幸いです。