人的資源管理(HRM)とは?目的や5つの機能モデルを元にくわしく解説!
企業の成長と発展に不可欠な要素として、人的資源管理(HRM:Human Resource Management)が注目を集めています。
優秀な人材を採用してもすぐに離職してしまったり、人材育成のための効果的な仕組みが作れないという悩みを抱える企業も少なくありません。こういった企業では従業員の採用から育成、評価、退職に至るまでの一連のプロセスを適切に管理することが重要な課題となっているのではないでしょうか。
本記事では、人的資源管理の基本から、5つの機能モデル、具体的な実践例、企業の成功事例など幅広く解説していきます。ぜひ最後までご覧ください。
人的資源管理(HRM)とは
人的資源管理(Human Resource Management:HRM)は、企業の最も重要な資産である「人材」を戦略的に活用し、育成・管理する経営手法です。従来の人事労務管理(Personal Management:PM)と異なり、従業員を単なるコストではなく、企業の成長に不可欠な「資源」として捉える点が特徴です。
また、人的資源管理の目的は、組織と従業員の双方にとって価値のある成果を生み出すことにあり、企業の生産性向上と従業員の満足度向上を同時に実現することを目指しています。
人的資源管理の例
- 採用・配置:適材適所の人材配置
- 評価・報酬:公平な評価制度と報酬体系の設計
- 教育・研修:従業員のスキル向上支援
- キャリア開発:長期的な人材育成計画の策定
また、近年のHRMでは、従業員のワークライフバランスや心理的安全性にも注目が集まっています。働き方改革の推進や、メンタルヘルスケアの充実など、従業員が長期的に活躍できる環境づくりも重要な課題となっています。
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そもそも人的資源とは?
人的資源(Human Resource)とは、組織が持つ「人材そのもの」を経営資源の一つとして位置づける考え方を指します。
経営を行ううえでは、「ヒト・モノ・カネ・情報」の4つの経営資源が必要と言われますが、人的資源はこの中でも「ヒト」に該当する資源です。
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人的資本との違い
人的資源と似た概念として「人的資本(Huma Capital)」がありますが、これは従業員のスキルや知識を資産として捉える考え方です。
つまり、人的資源は組織内の「人そのもの」をリソースとして考える概念であり、一方で人的資本は従業員が持つ「スキルや知識」に焦点を当て、それらを企業の成長を支える資産として捉える概念だということです。
人的資源と人的資本は、どちらも企業における「人」の価値に着目した概念という点では似ていますが、その捉え方には、このような違いがあるのですね。
ここで簡単に、人的資源と人的資本の違いを、それぞれの具体例から見てみましょう。
項目 |
人的資源 |
人的資本 |
焦点 |
人材そのもの |
知識・スキル・経験などの資産 |
管理の目的 |
効率的な配置・活用 |
スキル向上や能力開発による企業価値の向上 |
具体的な対象例 |
ライン作業員、事務職など |
エンジニア、マーケターなど専門職 |
製造業におけるライン作業を行うスタッフは、その個々の存在が組織の生産性に直接関与するため、「人的資源」として扱われます。一方、IT企業におけるエンジニアは、その人が持つプログラミングスキルやプロジェクト管理のノウハウが「人的資本」として評価されます。
このように、人的資源は「人材をどう活用するか」、人的資本は「人材の能力をどう高めるか」という異なる観点から、企業における人材の価値を捉えているのです。
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人的資源管理が注目されている理由
人的資源管理(HRM)が企業経営において大きく注目される背景には、いくつかの社会環境の変化があります。ここでは、大きく3つの理由に分けて解説します。
理由1.人材獲得競争の激化
まず、人的資源管理が注目されている理由の一つとして「人材獲得競争の激化」が挙げられます。
少子高齢化による労働人口の減少に伴い、優秀な人材の確保は企業の重要課題となりました。とくに、IT人材やグローバル人材などの専門性の高い人材をめぐる競争は年々激化の一途をたどっています。このため、採用戦略の見直しや、魅力的な職場環境の整備など、戦略的な人材マネジメントが不可欠となっているのです。
また、現代の企業は他社との差別化を図るために、製品やサービスだけでなく組織の中核を担う人材の能力を最大限に活用する必要があります。そのため、人的資源は企業の競争力を左右する重要な要素となっているのです。
理由2.働き方の多様化
次に「働き方の多様化」も、人的資源管理が注目される一つの理由です。
働き方改革関連法の施行により、企業は従業員の労働環境の改善や働き方の多様化への対応を迫られています。テレワークの導入や副業・兼業の容認、フレックスタイム制の活用など、柔軟な働き方を可能にする制度設計が必要になったことで、従来の人事管理の枠を超えた戦略的な人的資源管理が求められるようになったのです。
理由3.デジタル化による人材活用の変革
さらに、「デジタル化による人材活用の変革」も人的資源管理が注目される理由の一つです。
デジタル化やグローバル化の進展により、ビジネス環境は急速に変化しています。従業員に求められるスキルも日々変化しており、継続的な学習と成長の機会を提供することが企業の競争力維持に直結します。そのため、計画的な教育研修の実施や、キャリア開発支援など、人材育成を重視した人的資源管理の重要性が増しているのです。
人的資源管理の目的
人的資源管理(HRM)には、大きく4つの目的(役割)があります。それぞれ、くわしく見ていきましょう。
目的1.経営的短期目標(経営戦略の達成と企業への貢献)
人的資源管理の目的の一つは、「経営的短期目標の達成」です。
これは、従業員の成果を最大化し、企業の経営戦略を実現することに焦点を当てています。たとえば、新製品の市場投入や業務プロセスの改善といった具体的な経営課題に対して、従業員が効率的かつ効果的に貢献することが求められます。
具体的な施策としては、適切な人材配置やスキルマッチングの活用が挙げられます。これにより、各従業員が自分の強みを発揮し、チーム全体で迅速な目標達成が可能となるでしょう。また、短期的な目標に対するモチベーションを維持するための報酬制度や評価システムの整備も重要です。
このように、経営的短期目標は、組織の競争力を短期間で高めるための基盤として機能しています。
目的2.経営的長期目標 (従業員の能力向上と経営戦略の構築)
人的資源管理のもう一つの目的として、「経営的長期目標の達成」があります。
これは、従業員一人ひとりの能力を向上させ、将来的な経営戦略の構築に寄与することを目指しています。組織全体の持続可能な成長を支えるための基盤作りともいえるでしょう。
たとえば、教育や研修プログラムを通じて専門スキルを磨くだけでなく、リーダーシップやコミュニケーションスキルといった汎用的な能力を向上させる取り組みも挙げられます。また、定期的なキャリアプランの見直しを通じて、従業員が長期的な視野で目標を設定できる環境づくりも大切でしょう。
こうした施策は、将来的な経営戦略に必要な人材を育成するだけでなく、企業全体の競争力を持続的に強化する要素としても機能します。
目的3.個人的短期目標(公平な評価と適切な処遇の提供)
人的資源管理の目的は、経営的目標だけではありません。3つ目の目的として「経営的短期目標の達成」もあります。
これは、従業員が現在の成果に応じた公正な評価を受け、適切な処遇を得られるようにすることを目指すもので、モチベーションの向上や組織への信頼感の構築に直接的な影響を与えます。
たとえば、360度評価や目標管理制度(MBO)を活用することで、従業員一人ひとりの貢献を公平に評価する仕組みが構築できるでしょう。また、評価に基づいた昇給やボーナスといった報酬制度を整えることで、従業員の満足度を向上させることも可能です。
このように、個人的短期目標は、成果を適切に評価し、従業員が自己の役割にやりがいを感じながら働くための基盤を形成します。
目的4.個人的長期目標(従業員の成長支援とキャリアパスの構築)
最後に、人的資源管理4つ目の目的は「個人的長期目標の達成」です。
これは、従業員一人ひとりが自己の可能性を最大限に発揮し、将来的に組織にとって重要な役割を担えるようにするため、従業員の成長を支援し、キャリアパスを構築することを目指すものです。
たとえば、従業員がスキルアップを目指せる研修プログラムや、希望するキャリアパスを実現するための人事異動や昇進制度の適用が挙げられます。また、メンター制度や定期的なキャリア面談を導入することで、社員の成長を長期的に支援することも可能です。
このように、個人的長期目標は、従業員が自己実現を果たすと同時に、企業が将来必要とする人材を内部で確保するための重要な人材戦略にもなるでしょう。
人的資源管理の5つの機能モデル
人的資源管理(HRM)は、組織が効果的に人材を活用するためのフレームワークとして、さまざまなモデルが提案されています。今回は、その中でも代表的な5つのモデルについてくわしく解説します。
①ミシガンモデル
ミシガンモデルは、1980年代にミシガン大学で実施された研究をベースに確立されたモデルです。経営戦略との整合性を重視し、「採用と選抜」「人材評価」「人材開発」「報酬」の4つの基本機能を循環させることで組織全体のパフォーマンス向上を目指します。
- 採用と選抜:適切な人材を組織に迎える
- 人材評価:社員のパフォーマンスを測定し、適切に評価する
- 人材開発:スキルアップを支援し、組織全体の生産性を向上させる
- 報酬:業績に基づく公正な報酬を提供する
このモデルは、とくに業績向上を目的としたHRMにおいて広く活用されています。
②ハーバードモデル
ハーバードモデルは、1980年代にハーバード大学で実施された研究に基づくモデルです。このモデルでは、「従業員への影響」「人的資源のフロー」「報酬システム」「職務システム」の4つの要素で構成され、従業員を組織の「パートナー」として扱い、長期的な視点で関係を築くことを目指します。
- 従業員への影響
- 人的資源のフロー
- 報酬システム
- 職務システム
ハーバードモデルは、人的資源を単なる「資産」ではなく、組織の成長を支える「パートナー」として捉える点が特徴です。
③高業績HRM(AMO理論)
高業績HRM(AMO理論)は、従業員の「能力(Ability)」「モチベーション(Motivation)」「機会(Opportunity)」の3要素を最大化することで組織の競争力向上を目指すモデルです。
- Ability(能力):個人のスキルや経験
- Motivation(やる気):仕事への意欲
- Opportunity(機会):能力発揮の場
このモデルは、生産性の向上や社員満足度の向上に効果的で、とくに成果主義を採用する企業に適しています。
④高業績HRM(PIRK理論)
高業績HRM(PIRK理論)は、「Power(権限)」「Information(情報)」「Reward(報酬)」「Knowledge(知識)」の4つの要素に焦点を当てたモデルです。従業員の帰属意識を高め、離職率の低下を目指します。
- Power(権限):従業員への権限委譲
- Information(情報):組織内の情報共有
- Reward(報酬):公平な評価と報酬
- Knowledge(知識):従業員の知識活用
⑤タレントマネジメント
タレントマネジメントは、組織の将来的な成功を担う人材を特定し、育成・維持することに重点を置いたモデルです。人材の能力や資質を最大限に活用し、経営目標の実現を目指します。
タレントマネジメントの例
- 才能の発見:ハイパフォーマーや潜在的なリーダー候補を特定
- 育成プログラム:リーダーシップ研修やスキルアップ研修の実施
- キャリアプランニング:従業員のキャリアを組織目標に沿って設計
このモデルは、競争が激しい業界や変化の激しい環境において、とくにその有効性が認められています。
なお、タレントマネジメントに関してよりくわしく知りたい方は、下記記事をご覧ください。
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タレントマネジメントとは?実施の目的や具体的な手法、システムの活用について詳しく解説!
モチベーションアップにも繋がる人的資源管理の実践例
人的資源管理(HRM)と言っても、実際のところイメージが湧かないという人も多いのではないでしょうか。そこでここからは、多くの企業で取り入れられるような汎用的な施策についてご紹介していきます。
実践例1.ナレッジ共有の仕組み作り
ナレッジ共有の仕組み作りは、社内にあるノウハウや知識を全員で共有することで、従業員のスキル向上や業務効率化を図る施策です。
下記のような施策を実施することで、社内のコミュニケーションが活性化し、社員は必要としている情報に素早くたどり着くことができるようになるでしょう。
たとえば、IT企業では、最新技術に関する情報をエンジニア全体で共有することで、プロジェクトの効率化やイノベーションの創出が期待できます。
具体的な施策内容
- 社内ポータルサイトの活用
→業務に関する資料やノウハウを一元管理し、社員が簡単にアクセスできるような仕組みをつくる - ナレッジ共有ツールの活用
→チャットツールやマニュアル管理ツールを活用し、リアルタイムで情報を共有する仕組みを構築する - 勉強会やワークショップの開催
→従業員が持つノウハウを他の社員と共有する場を定期的に設ける
このように、ナレッジ共有の仕組みを整えることで、社員一人ひとりの能力を最大限に引き出し、組織全体の成長を促進することができるでしょう。
実践例2.キャリア開発支援プログラムの導入
キャリア開発支援プログラムは、従業員が自己成長を感じられるような環境を提供する施策の一つです。これには、職務スキルの向上やキャリア目標の達成を支援する仕組みが含まれます。
たとえばIT企業であれば、プログラミング研修を実施し社員が新しいスキルを習得することで、プロジェクトの成功率の向上を図ることができるでしょう。この他にも、下記のような施策を通した支援の方法があります。
具体的な施策内容
- 研修プログラム:リーダーシップ研修や専門スキル向上のための研修を提供
- メンター制度:経験豊富な社員が新人や若手社員の相談役を務める仕組み
- キャリア相談窓口:キャリア形成について個別に相談できる専門部署を設置
これにより、従業員は自らのキャリアパスを描きやすくなり、目標達成に向けて積極的に取り組むことができるようになるでしょう。
実践例3.柔軟な働き方を実現する制度の導入
柔軟な働き方を実現するための制度の導入は、ワークライフバランスを重視する現代のニーズに応え、従業員満足度を高めることを目的とした施策です。とくに、リモートワークの導入やフレックスタイム制度の導入はその効果を発揮しやすいでしょう。
具体的な施策内容
- リモートワーク:働く場所を自由に選べる環境を提供し、通勤時間の削減や集中力の向上を図る
- フレックスタイム制度:勤務開始・終了時間を自由に設定できるようにし、生活リズムに合わせた働き方を可能にする
- 週4日勤務制度:一部の企業では週休3日制を導入し、長期的な従業員の健康と生産性向上を目指している
これらの施策により、従業員は仕事とプライベートの両立がしやすくなり、モチベーションが向上するだけでなく、生産性向上や離職率の低下も期待できます。
実践例4.インセンティブ制度の強化
インセンティブ制度の強化は、従業員のやる気を引き出す意味では効果的な施策です。目標達成や業績向上に対する報酬を用意することで、組織全体のモチベーションを高めます。
<具体的な施策内容>
- 成果報酬
→営業成績やプロジェクトの成功に応じたボーナスを支給する - 表彰制度
→優れた業績を上げた従業員に対して公に表彰する場を設ける - チームインセンティブ
→個人だけでなくチーム全体での成果を評価し、報酬を分配する仕組みをつくる
たとえば、製造業の企業であれば「生産性向上キャンペーン」を実施し、一定の目標を達成したチームに対して特別手当を支給するのも有効です。
インセンティブ制度を設ける際は、職場の雰囲気や業務のやり方に見合った適切な形式を検討し、導入しましょう。
実践例5.公平な評価・報酬制度
公平な評価・報酬制度の整備は、従業員のやる気や会社への信頼感を高めるために欠かせない施策です。特定の従業員だけが評価されるといった不公平感をなくし、全員が納得できる制度を構築することがポイントです。
具体的な施策内容
- 360度評価の導入
→上司、同僚、部下など複数の視点から従業員のパフォーマンスを評価する仕組みを導入する - 目標管理制度(MBO)
→個人の目標を明確に設定し、その達成度に応じて評価や報酬を決定する制度を導入する - 透明性のある報酬制度を導入する
→報酬の基準を明確化し、誰もが納得できる形で公表する仕組みをつくる
たとえば、小売業界の企業であれば、販売実績に基づくインセンティブ制度を導入し、店舗ごとの目標達成を評価する仕組みが有効でしょう。チーム全体のモチベーションアップと生産性向上が期待できます。
なお、公平で納得感のある評価制度のつくり方については、下記の記事でくわしく解説しています。ぜひ参考にご覧ください。
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人事評価制度を構築する方法とは?不満の原因、納得感の高い制度の特徴についてわかりやすく解説!
人的資源管理に取り組んでいる企業事例
人的資源管理(HRM)の重要性が高まる中、多くの企業が独自の取り組みを展開しています。ここでは、特徴的な施策を実施している企業の事例を3つご紹介いたします。
事例1.Google
Googleは「優秀なマネージャーとはどういう人物か」を科学的に明らかにすることを目的として、大規模な社内調査プロジェクト「Project Oxygen」を2009年に実施しました。
そして、従業員から収集したフィードバックや業績データを詳細に分析し、理想的なマネージャーの特徴を明確化した結果、優れたマネジャーには「8つの特性」があることが明らかになりました。Googleはこの結果をもとに研修プログラムを設計し、管理職の能力向上を図っています。
このようにProject Oxygenは、科学的アプローチを用いてリーダーシップの改善に成功した事例として、人的資源管理の優れた実践例と言えるでしょう。
優れたマネジャーの8つの特性
- 良いコーチである
- チームをエンパワーメントし、マイクロマネジメントを避ける
- チームメンバーの成功と幸せに関心を示す
- 生産性が高く結果を重視する
- 効果的なコミュニケーションができる
- キャリア開発をサポートし、パフォーマンスについて話し合う
- チームに対して明確なビジョンと戦略を持つ
- チームにアドバイスできる技術的なスキルを持っている
事例2.日産自動車
日産自動車は、グローバルな競争力を高めるために、人材育成に注力した取り組みを行っています。
その代表例が2005年に導入された「日産ウェイ」です。これは単なる人材育成プログラムではなく、企業理念や行動指針を示したものであり、評価制度や教育施策など、人的資源管理の基盤となっています。2020年度には、この「日産ウェイ」を基にした新しい評価制度を導入し、5つの価値観と人材育成・協働の促進を重視した内容に刷新しました。
また、グローバル人材の育成プログラムとして「Global Challenge Program (GCP)」を実施。若手社員に海外拠点での勤務機会を提供し、グローバルな視点とリーダーシップスキルの養成を図っています。さらに、従業員一人ひとりの自発的な学習を支援するため、キャリア形成支援やスキルアップのための研修制度も充実させています。
これらの取り組みは、人的資源を短期的な業務成果に結びつけるだけでなく、長期的な成長を支える統合的な人的資源管理の実践例といえるでしょう。
事例3.セブン&アイグループ(ヨークベニマル)
セブン&アイグループの食品スーパーであるヨークベニマルでは、パートタイマー社員を含めた全従業員の戦力化を目指し、効果的な人材育成がなされています。
そしてその中核となるのが「目標設定カルテ」による人材育成制度です。このシステムでは、接客、売場管理、発注、調理技術など、職務遂行に必要な能力を具体的な評価項目として設定します。たとえば鮮魚部門では139項目の作業基準を明確化し、従業員が自己の成長度合いを確認できる仕組みを整えています。
加えて、人材育成の実効性を高めるため、以下の3つの施策を展開しています。
- 年3回の上長との面談による進捗確認と目標設定
- パソコンによる「カルテ支援ツール」の導入で自己学習を支援
- 部門マネジャー約2,500名への「コーチング研修」実施
ヨークベニマルではこれらの取り組みにより、パートタイマー社員からエキスパート、正社員へのキャリアアップが促進され、女性マネジャーが全社の約3割を占めるなどの成果が得られました。
この事例は、非正規雇用者を含めた包括的な人的資源管理の成功事例といえるでしょう。
まとめ
人的資源管理(HRM)は、企業の成長を支え、従業員の満足度を高めるための重要な取り組みです。今回は、人的資源管理の基本や代表的なモデル、企業の実践事例を中心に、その実践的な効果や成功要因についてくわしく解説しました。
人的資源管理の本質は、従業員を単なるコストではなく、企業の成長を支える重要な「資源」として捉えることにあります。そのため、戦略的な採用・育成・評価の仕組みづくりが重要となります。
とくに、今回ご紹介した実践事例は、人的資源管理を計画・改善するための具体的なアイデアとしてご活用いただけることでしょう。本記事を通して、貴社の人的資源管理が向上することを心より願っております。