組織と個人を取り巻く環境が大きく変化している現在、人材マネジメントに注目が集まっています。一方で、人材マネジメントの重要性は理解しつつも、やり方ひとつで、プラスにもマイナスにも影響がでるため、経営者や人事担当者、管理職を悩ませているのも事実でしょう。
そこで当記事では、人材マネジメントを考える基本ステップなど基礎的なことを解説した後に、よくある課題、課題解決に役立つフレームワークを紹介しました。
人材マネジメントとは
企業経営に欠かせないもののひとつである「人材」。特に近年は少子高齢化による労働人口の減少や企業活動のグローバル化などの背景もあり、人材マネジメントが注目されています。
人材マネジメントとは、「人」に投資することで組織のパフォーマンスを最大化する手法です。人材マネジメントの取り組みには、対組織と対個人の両方があり、具体的には、大きく「人事評価」「報酬」「等級」「リソースフロー」「人材開発」「組織開発」の6つがあります。
(参照元:図解 人材マネジメント入門)
<人事評価>
人材マネジメントの中心になるのが人事評価。報酬や等級、異動、退職、人材開発と結びつき、処遇による格差の根拠を明確にするために行われるもの。
<報酬>
給与だけでなく福利厚生なども含む、働くことで得られるもの全て。
<等級>
社員をランク付けする際の基準になるもの。
<リソースフロー>
人材が入社してから退職するまでの一連の流れのこと。採用要件は、等級に紐づけて設定し、異動・配置は人事評価の結果をもとに適材適所で検討が行われる。
<人材開発>
研修の実施など、一人ひとりの成長に対して企業が意思を持って行う投資のこと。
<組織開発>
人と人との関係性を高め、組織をより良くしていく計画的な取り組みのこと。
人材マネジメントを行うことで得られる経営上のメリットとしては、「リソースフローがスムーズになる」「生産性の向上・競争力アップ」が挙げられます。一方の個人メリットとしては、エンゲージメントが向上し、仕事のやりがいが高まったり、モチベーションが上ったりなどの効果が期待できるでしょう。
より詳しく知りたい方は、以下の記事も合わせてご覧ください。
■参考記事はこちら
人材マネジメントとは?企業が取り組むメリット、成功させるポイント、事例までわかりやすく解説!
人材マネジメントはなぜ必要なのか
現在、日本企業を取り巻く環境は「働き手不足」「人生100年時代の到来」「グローバル化」「デジタル化」という4つの観点で大きな変化を迎えています。そうした環境の中で、企業が市場で生き残るために必要なのが他社との差別化により生まれる優位性です。そして、その優位性を生み出す際に重要になってくるのが人材マネジメントです。
どんな企業にも目標やビジョンがあります。それは一人では達成できないものであり、個々がバラバラに動いていては結果につながりません。組織として高いパフォーマンスが出せるよう、目標やビジョンを従業員に共有し、何をすれば達成できるのかを伝え、個人目標まで落とし込む必要があります。当然、こうした戦略を構築するリーダーの育成も欠かせません。
従業員個人という視点でみてみると、頑張っても頑張らなくても処遇は同じだと、仕事へのモチベーションを上げるのは難しいですね。公平に評価され、相応の処遇が提供されてこそ、組織への貢献意欲が高まり、自発的に行動するようになります。そして当然、働きやすい環境、成長できる環境も大事になってきます。
つまり人材マネジメントこそが目標達成への近道だと言えるでしょう。
人材マネジメントを考える基本のステップ
企業としての目標やビジョンの達成を目指し、組織のパフォーマンスを最大化するために行われる人材マネジメント。どのように取り組んでいくといいのか解説します。
ステップ1:目標達成のために必要な人的資源を明確化
目標やビジョンを達成するためには、どのような人材が、どのポジションに、何人必要なのか、まずは明確化しましょう。短期的な視点だけでなく、中長期的な視点でも考えておくことが重要です。
ステップ2:現在の人的資源を把握し、課題を抽出
現在、在籍する従業員の能力やスキル、パーソナリティを把握します。その上で、ステップ1で明確化した目標達成のために必要な人的資源との差分を出し、人材マネジメントにおける課題を抽出します。具体的な例は以下です。
- ○○のスキルを持つ人材が○人不足している
- スタッフを取りまとめるリーダー層が薄い
- 新入社員が一人前になるのに時間が掛かりすぎている
- 個々の能力は高いはずなのに、そのスキルを発揮できていない
このときに目に見える課題だけでなく、その背景にある要因まで深掘りしておくことが重要です。従業員から丁寧にヒアリングを行いましょう。
ステップ3:課題に対する取り組みを決め実行
課題を抽出したら、どのような方法で解決するのか検討しましょう。考えるポイントは、前述した「人事評価」「報酬」「等級」「リソースフロー」「人材開発」「組織開発」の6つの要素です。
例えば「○○のスキルを持つ人材が○人不足している」といった場合は、中途採用に力を入れたり、外部パートナーを活用したりといった人材獲得(リソースフロー)も一つの方法ですし、既に在籍している従業員に研修を行うことでスキルを身に付けてもらう「人材開発」もひとつですね。
「新入社員が一人前になるのに時間が掛かりすぎている」といった場合は、研修などの「人材開発」を真っ先に考えるかもしれませんが、課題を深掘りすると別の要因が出てくることもあります。新入社員を適切に評価する仕組みがなく、モチベーションが上がらなかったり、先輩との信頼関係が構築できず相談できない環境であったり……。
課題解決の取り組みを実行する際は、期待した効果が上がっているのか、定期的に確認しつつ、必要に応じて調整しながら進めていきましょう。
人材マネジメントでよくある課題
株式会社リクルートマネジメントソリューションズが2021年8月に発表した「人材マネジメント実態調査2021」。同調査をもとに人材マネジメントでよくある課題をご紹介します。
課題1:人材・組織・経営面における人材マネジメントの課題
人材、組織、経営面における人材マネジメントの課題として、半数以上が挙げたのが以下です。
- 次世代の経営を担う人材が育っていない(55.2%)
- ミドルマネジメント層の負担が過重になっている(55.2%)
- 新人・若手社員の立ち上がりが遅くなっている(51.9%)
- 中堅社員が小粒化している(51.1%)
(参照元:「人材マネジメント実態調査2021」より)
これら4項目は、コロナ禍において課題感が高まっているとした割合も高いことが分かります。コロナ禍で大きく変化したことのひとつが人材教育でした。集合型の研修実施が難しくなったり、テレワークの導入などにより先輩社員を見て学ぶ機会が減ったり、人材開発の面では試行錯誤が続いていることが伺えます。
また、同調査の担当研究員のコメントを要約すると「ミドルマネジメント層頼りのマネジメントに限界がきており、管理職の機能不全が、経営人材の枯渇、若手の立ち上がりの遅れにもつながっている」と言います。
課題2:人事評価の課題
人事評価における課題として多かったのが以下でした。
- 人事評価制度への従業員の納得感が低い(48.7%)
- 評価基準があいまいである(48.3%)
- テレワーク下での部下の仕事ぶりの評価が難しい(46.0%)
- 管理職によって取り組みや意識・スキルにばらつきがある(40.3%)
(参照元:「人材マネジメント実態調査2021」より)
識学の調査「自社の人事評価について不満に思う点」でも同じような傾向が出ており、「評価の基準が不明確」が48.3%で1位で、次いで「評価結果が報酬に反映されない」が30.9%、「評価する人によって厳しさに差がある」で28.1%でした。
人事評価とは、従業員の成果や能力、パフォーマンスなどを評価する仕組みです。評価結果は昇進・昇格や給与・賞与に反映され、人事管理の効率化や従業員のモチベーションアップなどを目的として実施されます。
一方で、適切に設計しないと逆に従業員のモチベーションを下げてしまう可能性もあり、運用には注意が必要です。
■参考記事はこちら
やる気をなくす人事評価の特徴とは?辞める原因、モチベーションを高める方法など、わかりやすく解説!
課題3:昇進・昇格の課題
昇進・昇格に関する課題としては、等級制度そのものに関するものもあれば、管理職になることへの関心の低下や、管理職の資質に関するものなどが上げられています。具体的には以下です。
- 昇進・昇格そのものに魅力を感じない者が増えている(57.4%)
- 昇進・昇格要件(基準)があいまいで納得性がない(42.6%)
- 現管理職の後に続く人材が枯渇してきている(41.8%)
- 管理職全体の質(レベル)が低下してきている(41.8%)
(参照元:「人材マネジメント実態調査2021」より)
以前は年功序列が当たり前だったので、勤続年数や年齢などが処遇に大きく影響していました。しかし、近年は成果主義を導入する企業が増え、適切な評価にもとづいた昇進・昇格を行う企業が増えています。一方で管理職の資質がより厳しく問われるようになってきているのも事実でしょう。
人材マネジメントに役立つフレームワーク7選
前述した課題を見ても分かりますが、人材マネジメントは表面的な課題だけ解決しようとしてもうまくいきません。人材マネジメントの6つの要素が歯車のようにかみ合わさっているため、課題を一つ見つけたら、それを単独で解決しようとするのではなく、深掘りし根本的な原因がどこにあるのかを見極め、多面的に考えていくことが大事です。
その際に役立つのがフレームワーク。ビジネスにおけるフレームワークは、経営戦略やマーケティング戦略で使われることが多いですが、人事戦略にも応用可能です。フレームワークを有効に使うことで、課題解決・情報整理を行いやすくなります。また何から始めたらいいか悩む際にもフレームワークは、ひとつの道しるべになるでしょう。
ここでは人材マネジメントに役立つフレームワークをご紹介します。
MVV
MVVとは、「Mission(ミッション)」「Vision(ビジョン)」「Value(バリュー)」の頭文字をとったもので、経営のフレームワークです。これらを言語化することで、全従業員が会社の価値観や目指している方向性を共有するのに役立ちます。
- Mission(ミッション):やるべきこと、使命
- Vision(ビジョン):あるべき姿、理想像
- Value(バリュー):価値観、行動指針
また新規事業を立ち上げる際にMVVを策定するのも有効です。チームが同じ方向を向き、まとまるとともに、事業の軸が定まることで、意思決定のスピードが上がるなどのメリットが期待できるでしょう。
PEST分析
目標達成に必要な人的資源を明確化し人材強化を行うためには、長期的なスパンでの外部環境予測が欠かせません。外部環境とは市場の成長性や政治情勢など自社で影響をコントロールできない要素のことです。その外部環境の予測に使えるフレームワークがPEST分析です。
PEST分析では、自社を取り巻く外部環境を4つの視点「政治・法要因(Politics)」「経済要因(Economy)」「社会・文化要因(Sosiety)」「技術要因(Technology)」から分析します。
SWOT分析
人的資源の現状を把握したいときなどに使えるフレームワークがSWOT分析です。
SWOT分析は、各要素を自社を取り巻く環境(内部環境と外部環境)と自社の現状(プラス要因とマイナス要因)に分けて分析を行うフレームワークです。SWOTとは、「強み(Strength)」「弱み(Weakness)」「機会(Opportunity)」「脅威(Threat)」を指します。
外部環境に該当する「機会(Opportunity)」「脅威(Threat)」には、PEST分析の結果を当てはめます。
クロスSWOT分析(TOWS分析)
SWOT分析の結果をもとに戦略、対策を立てるために使えるフレームワークが「クロスSWOT分析(TOWS分析)」です。SWOT分析で洗い出した「強み(Strength)」「弱み(Weakness)」「機会(Opportunity)」「脅威(Threat)」をそれぞれ掛け合わせて対策を考えます。
- 強み×機会:強みを活かしてチャンスを掴む方法
- 強み×脅威:強みを活かした脅威に対処する方法
- 弱み×機会:弱みを克服してチャンスを最大化する方法
- 弱み×脅威:最悪のシナリオを回避する方法
ロジックツリー
ロジックツリーは、クロスSWOT分析と同様に、課題解決に使えるフレームワークです。課題をツリー状に書き出すことで解決方法を導き出します。
ロジカルシンキングの手法のひとつで、課題を分解して可視化するため、複雑な事柄であっても理解しやすくなるのが良さです。また、要素ごとに課題を洗い流しながら検討するため、アクションの優先順位を付けやすいのもメリットでしょう。
PPM分析
経営の投資配分を決めるのに使われることが多いフレームワークがPPM分析です。人的リソースをどう再配分するか検討するのに使えます。
PPM分析とはProduct Portfolio Management(プロダクト・ポートフォリオ・マネジメント)の略。「市場成長率」と「市場占有率」の2軸で事業や製品・サービスを分類し、経営資源の投資配分(人的リソースなど)を判断します。
PPM分析では、自社事業を「花形(Star)」「金のなる木(Cash Cow)」「問題児(Problem Child)」「負け犬(Dog)」の4つに分類します。それぞれのポジションには以下の意味があります。
- 花形:現時点では利益は出しやすいが、市場成長率が高く競争が激しい
- 金のなる木:安定した利益が出やすい。競争が穏やかで積極的な投資は不要
- 問題児:投資を行い市場占有率を高められれば、利益につながる可能性あり
- 負け犬:事業の成長が見込めない
ビジネスロードマップ
課題の解決策がまとまり実行に移す際に活用したいフレームワークがビジネスロードマップです。ビジネスロードマップとは、目標達成に必要な事項を時系列でまとめたものです。最終的なゴールだけでなく、中間目標を期限を決めて設定します。
まとめ
人材マネジメントにおける課題は、6つの要素が歯車のようにかみ合わさっているため、多面的に考えていくことが大事です。現状を整理し、解決策を考え、実行に移す際は、フレームワークの活用が有効でしょう。まずは、できる部分から取り組んでみてはいかがでしょうか。