「エンゲージメントの向上は企業にメリットがある」
「エンゲージメントを向上させるために企業は努力をすべきだ」
こんなことを、みなさんは聞いたことがあるのではないでしょうか?
しかし実際のところ、「エンゲージメントって結局何なの?」「高めろって言われても、具体的にどうすればいいか分からない…」と、お困りの方もいらっしゃるのではないでしょうか。
そこでこの記事では、エンゲージメントについて、その概要から効果、向上させるための方法までくわしく解説していきます。ぜひ最後までご覧ください。
エンゲージメントという言葉には確立された意味合いがあるわけではありませんが、書籍「組織の未来はエンゲージメントで決まる」の中では次のように定義されています。
(エンゲージメントとは、)従業員の一人ひとりが企業の掲げる戦略・目標を適切に理解し、自発的に自分の力を発揮する貢献意欲
(引用:新井佳英、松林博文(2018)『組織の未来はエンゲージメントで決まる』英治出版)
つまり、企業において従業員自身が「会社のために頑張りたい」「貢献したい」という気持ちがエンゲージメントと表現されているわけです。また、会社への貢献意欲だけに留まらず、場合によっては職場に対する理解や信頼度合いを意味したり、働きがいを意味したりすることもあります。
ちなみに日本は、世界各国と比較してエンゲージメントが低いと言われており、ギャラップ社が実施した調査によると調査対象139ヵ国中132位であることが分かっています。
「引用:State of the Global Workplace - Gallup Report (2017)」
実際のところ、エンゲージメントはどのような状態になれば「エンゲージメントが向上している」と言えるのでしょうか。
簡単にいえば、エンゲージメントの測定によってその数値が高く示されることと表現できます。計算方法には「eNPS」という、「自分の職場を、親しい知人や友人にどのくらい勧めたいか」といった気持ちを数値化できる評価方法を用いますが、くわしくは下記の記事で解説していますのでそちらをご覧ください。
■参考記事
従業員エンゲージメントとは?言葉の意味、構成要素、向上策、調査方法などについてわかりやすく解説!
また、エンゲージメントが向上すると、会社の実態としても次のような変化がみられるでしょう。
これらの具体的な内容については、次の章でくわしく解説していきます。
ここで一度、言葉として混同されやすい「エンゲージメント」と「従業員満足度」との違いについて簡単に触れておきましょう。
両者の違いは、その「視点」にあります。エンゲージメントは「他人に勧めたいか」といったように視点が他者に向かうのに対し、従業員満足度は「自分がどれほど満足しているか」といった自己視点の評価なのです。
なお、従業員満足度については下記の記事でくわしく解説しています。ぜひ参考にご覧ください。
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ここでは、前述した「エンゲージメント向上による会社の変化」を、次の3つの効果にまとめて解説していきます。
<エンゲージメント向上による3つの効果>
世界30ヵ国以上の国で世論調査を実施するギャラップ社の調査では、エンゲージメントの向上により「生産性が上がること」「収益性が上がること」「サービスの品質が上がること」が報告されており、結果的としてこれらの相乗効果で会社の業績がアップすると考えられています。
(参考:「The Relationship Between Engagement at Work and Organizational Outcomes」ギャラップ社)
これもまた、ギャラップ社の同調査により「エンゲージメント向上によって顧客満足度が上がる」ことが分かっています。
たとえば、ハーバードビジネススクールの名誉教授、ジェームス・L・ヘスケットらが提唱した「サービス・プロフィット・チェーン(SPC)」や「サティスファクション・ミラー(鏡面効果)」という言葉を聞いたことはありませんか?
これらはどちらも、従業員満足と顧客満足との関連性について示した考え方です。簡単にそれぞれの内容をご紹介しておきます。
従業員満足度の向上が、顧客満足度や企業の業績向上につながり、最終的に従業員への投資に戻ってくるというサイクルを示した考え方です。以下で流れを図解しました。
(参考情報:Putting the service-profit chain to work を参考に弊社で図を作成)
上はフロー図ですが、実際は以下のようなサイクルをイメージしていただく方が良いと思います。従業員の満足度が上がると、顧客へのサービスが向上し顧客満足度が向上する、そうすると業績が上がり、勤務条件や労働環境の改善などで従業員に還元できるようになるので、さらに従業員満足度が高まるという正のスパイラルを企業にもたらします。
サービス提供者(従業員)とサービス利用者(顧客)は合わせ鏡のような関係性であり、従業員満足と顧客満足は相互に影響し合うことを示した考え方です。
アメリカの経営・人事管理コンサルティング会社CEB社は、世界の会社59社およそ5万人を対象に実施した調査結果を報告しています。
これによると、エンゲージメントの低い従業員が一年以内に離職する可能性は9.2%であるのに対し、エンゲージメントが高い従業員が一年以内に離職する可能性は 1.2%と低い数値を示しました。
これは、エンゲージメントを低い状態から高い状態へ持っていくことにより、社員の離職を約87%防ぐことが出来る、とも言い換えられるでしょう。
(参考:Driving Performance and Retention Through Employee Engagement/Corporate Executive Board の6ページを参考に弊社で図を作成)
なお、会社の定着率に関してはこちらの記事でくわしく解説していますので、ぜひ参考にご覧ください。
■参考記事
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これまでに、エンゲージメント向上による会社の変化についてご紹介してきました。では一方で、エンゲージメントが高い「従業員」には、どのような特徴があるのでしょうか。
ここからは、従業員個人にフォーカスして解説をしていきましょう。エンゲージメントが高い従業員の特徴は主に3つあります。
<エンゲージメントが高い従業員3つの特徴>
くわしく見ていきましょう。
2019年に厚生労働省が実施した調査によると、エンゲージメントと個人のパフォーマンス(労働生産性)には相関があることが報告されています。
実際に下図をご覧いただければ、エンゲージメントのスコアが高いほど個人の労働生産性が高いと感じる率が高くなっていることが分かるでしょう。
これは人手不足に陥っている企業でも同様の結果が得られており、厚生労働省によれば「1単位のワーク・エンゲイジメントのスコアの上昇によって、企業の労働生産性は1%〜2%ほど上昇する」と言われています。
(引用:厚生労働省「令和元年版 労働経済の分析 -人手不足の下での「働き方」をめぐる課題について-」)
エンゲージメントが高い社員は、バーンアウト(燃え尽き)しにくい特徴を持ちます。
バーンアウト(燃え尽き)とは、「仕事に対して過度のエネルギーを費やした結果、疲弊的に抑うつ状態に至り、仕事への興味・関心や自信を低下させた状態」です。
厚生労働省による同調査の中では、このバーンアウトをワーク・エンゲージメントの対局の概念として説明されており、このことから「ワーク・エンゲージメントが高い状態=バーンアウト(燃え尽き)からは遠い状態」と考えられるでしょう。
(引用:厚生労働省「令和元年版 労働経済の分析 -人手不足の下での「働き方」をめぐる課題について-」)
同調査では、ワーク・エンゲージメントが職業人生の長さに関係する可能性が強く指摘されています。
これは下表で見ると、(1)職業人生の長さに関する所感において「職業人生は可能な限り長い方が望ましい」と考える人が63.0%であるのに対し、(2)の結果ではワーク・エンゲージメントのスコアが向上するほどこの値が上昇し、また(3)の結果ではいずれの年齢階級でもワーク・エンゲージメント高いこの値が上昇していることからも理解いただけるでしょう。
(引用:厚生労働省「令和元年版 労働経済の分析 -人手不足の下での「働き方」をめぐる課題について-」)
ギャラップ社の調査においても、従業員のエンゲージメントが高い会社ほど離職率が低くなる結果が報告されており、エンゲージメントが高い従業員の勤続年数が相対的に長くなることは明らかです。
(参考:「The Relationship Between Engagement at Work and Organizational Outcomes」ギャラップ社 を参考に弊社で図を作成)
エンゲージメント向上によるメリットを理解いただけたところで、ここからはエンゲージメントを高めるための方法について考えていきましょう。
まずは、エンゲージメントを低下させる要因を3つに絞り、世界的にエンゲージメントが低いと言われる日本企業の背景と一緒にご紹介していきます。
<エンゲージメントを低下させる3つの代表的要因>
人間関係の悪さには、たとえば「上司との意見が合わない」や「仕事仲間とうまくいかない」などが挙げられます。とくに上司と部下の関係性では、パワハラやモラハラといった問題も少なくありません。
令和2年に厚生労働省が調査した「転職入職者が前職を辞めた理由別割合」の中でも、「職場の人間関係が好ましくなかった(22.1%)」が1位に挙がるなど、職場の人間関係の悪さがエンゲージメントを低下させ、離職に繋がっていることは明らかといえます。(※男女別データの合計値で集計。「その他の理由(出向等を含む)」、「定年・契約期間の満了」、「会社都合」を除く。)
ランキング |
理由 |
割合(男女合算) |
1位 |
職場の人間関係が好ましくなかった |
22.1% |
2位 |
労働時間、休日等の労働条件が悪かった |
19.9% |
3位 |
給料等収入が少なかった |
18.2% |
4位 |
会社の将来が不安だった |
10.5% |
5位 |
仕事の内容に興味を持てなかった |
9.9% |
(「令和2年雇用動向調査結果の概況(厚生労働省)」を元に表を作成)
職場環境および労働条件の悪さには、たとえば次のような問題が挙げられます。
上記で示した調査結果「転職入職者が前職を辞めた理由別割合(厚生労働省)」においても、労働条件や給与条件が退職理由として上位に挙がっていることから、労働条件の悪さがエンゲージメントの低下に繋がっているのは明らかでしょう。
また、肉体労働がハードな環境や休暇を取りにくい職場環境などは、肉体面や精神面からダイレクトに健康へ影響するものです。近年では過労死やメンタルヘルスといった課題が多く取り上げられるようになったことからも、労働者の職場環境への意識は高くなっていると考えられます。
介護業界において2年連続で社員定着率95%以上を達成した小池修氏の著書『日本一社員が辞めない会社』では、「社員が幸せを感じるポイント」について次のように紹介しています。
私が尊敬する『日本で一番大切にしたい会社』という本でも紹介された日本理化学工業株式会社の大山泰弘会長は、人間の究極の幸せは次の4つであるとおっしゃっています。
①愛されること
②ほめられること
③人の役に立つこと
④人に必要とされること
つまり、この4つのことが満たされていれば、人は幸せを感じることができるというわけです。
(引用:小池修著(2018)『日本一社員が辞めない会社』株式会社ぱる出版)
この言葉から考えると、やりがいの低さや評価への不満感というのは、たとえば次のように従業員のエンゲージメントを下げてしまっているかもしれません。
なお、従業員エンゲージメントを構成する要素については、こちらの記事でよりくわしく解説しています。ぜひ参考にご覧ください。
■参考記事
従業員エンゲージメントとは?言葉の意味、構成要素、向上策、調査方法などについてわかりやすく解説!
ここでは、エンゲージメント向上のために企業が実際に取り組んでいる内容について触れていきましょう。今回は書籍『組織の未来はエンゲージメントで決まる』から3つの事例をご紹介いたします。
and factory株式会社では、社員が経営陣と2人でランチに行く「シャッフル1on1」という取り組みを実施しているそうです。これは、普段は交流する機会の少ない社員と経営陣のコミュニケーションの機会を創出する狙いがあります。この取り組みによって、思いがけずお互いの考えや思いを知ることができるなど、職場の人間関係に良い影響を与えているといいます。
株式会社ホワイトプラスでは、仲間を賞賛する風土を築くために感謝の言葉を贈る「感謝箱」制度を設けているそうです。月末には投稿タイムを設け、仲間のありがたかった行動などを一人ひとりが投稿します。投稿されたメッセージは集計後に1つのレターとしてまとめられ、給与明細に同封して渡されます。経営陣からの「いつも陰で支えてくれてありがとう」という感謝メッセージなども好評だといいます。
前述したように、人は褒められたり、誰かの役に立つことで幸せを感じます。この感謝箱制度は、そういった意味から従業員を幸せにし、エンゲージメントを高めるための非常に有効な制度と言えるでしょう。
アシアル株式会社では、「必要な時だけ働いて、それ以外は育児の時間に使う」ことが可能なフレキシブルな育児休暇制度を取り入れているそうです。
育児休暇は「仕事を完全に休まなければならない」となることで、休暇取得のハードルが非常に高くなります。この点を、アシアル株式会社では、業務の内容上どうしても必要な場合のみ出社を許可することで、フレキシブルな形を可能にしているのです。
休暇を取得しやすい職場環境やワークライフバランスを重視した制度づくりは、従業員のエンゲージメント向上に非常に有効だと考えられます。
それでは最後に、エンゲージメント向上を目指すための具体的な方法についてご紹介します。比較的取り組みやすい方法からご紹介しますので、ぜひ貴社のエンゲージメント改善にお役立てください。
労働環境の改善は、小さな取り組みを含めるといち早く改善できるポイントです。具体例を見てみましょう。
<具体案>労働環境の改善
業務量の見直しおよび調整は、比較的すぐに始められる改善点かと思います。業務量が多くなりすぎている場合は、どのような理由があるのか、どのような改善策が考えられるのかを同時に追及するとよいでしょう。またその他の施策については、社員と経営陣との面談時間を設けるなど、「社員が具体的にどのような改善を求めているのか」といった現場の声を収集するよう努める必要があるでしょう。
人間関係の構築・改善はすぐに結果がでるものではありませんが、取り組みとしてはすぐに始められるものが多くあります。
<具体案>人間関係の構築・改善
人間関係の構築・改善は、まず「お互いを認め合うこと」が必要です。このためにも、株式会社ホワイトプラスの事例のように「感謝箱」の設置は効果的でしょう。必ずしも感謝箱という形でなくても、お互いに感謝を伝え合える仕組みであれば効果は期待できます。
また、職場の人間関係の中では、社員同士のコミュニケーションおよび社員と経営陣のコミュニケーションも欠かせません。定期的に面談のタイミングを設けるなど、積極的に機会を創出するとよいでしょう。テキストコミュニケーションの学習も、社内社外問わず人間関係構築に効果的です。
従業員が抱く人事評価制度への不満は、離職に直結する場合も少なくありません。見直しには少し時間がかかるかと思いますが、エンゲージメント向上のためにぜひ実施してほしいポイントです。日本能率協会コンサルティングが示す、次のポイントをもとに見直しを行うとよいでしょう。
<人事評価制度の見直しポイント>
「制度自体」の見直し |
・自社の人事コンセプトをはっきりさせる ・評価要素と評価項目を明確にする ・評価基準を整備する |
「実施プロセス」の見直し |
・自己評価を検討する ・双方向のコミュニケーションを仕掛ける ・人事部門とライン部門の役割分担に取り組む |
運用する「人」の見直し |
・考課者のスキルアップと評価基準のすり合わせを行う ・被考課者の理解向上を図る ・人事部門の機能強化に取り組む |
(参考:日本能率協会コンサルティング 阿部正和「人材育成・処遇決定にフル活用するための人事考課制度見直しのポイント」)
今回はエンゲージメントについて、その概要から効果、向上させるための方法までくわしく解説しました。
ひと口に「エンゲージメントを高めるための施策」と言うと、なんだか難しそうな、規模の大きそうなイメージが浮かぶかもしれませんが、取り組みによっては意外と小さなことから始められるものです。ぜひ本記事を参考に、貴社の従業員エンゲージメント向上に取り組んでみてください。