従業員の労働環境を守ることは会社の重要や義務です。特に、従業員に時間外労働や休日労働をさせるには、36協定に定められた事項を守ることが求められます。
そこで本記事では、36協定の概要や働き方改革法施行後の内容の変更点、残業時間を減らすために会社が行うべき取り組みなどについて詳しく解説していきます。
36(サブロク)協定とは、その名前の由来となった労働基準法36条に基づく、時間外および休日労働に関する協定届のことです。会社では36協定に基づく適切な労働環境の整備が求められます。
日本労働組合総連合会が2019年に行った「36 協定 」「 日本 の社会 」 に関する調査 2019によると、自身の勤め先で36協定が「締結されている」と答えた人は全体の59.1%、「締結されていない」と答えた人は10.8%という結果となりました。また30.1%もの人が「締結されているかどうかわからない」と答えており、会社側から36協定に関する情報共有が十分に行われていない企業も少なくないという結果になりました。
ただ2017年の同調査と比較すると、締結されていると答えた人の割合は13.3ポイント上昇、「締結されているかどうかわからない」と答えた人は8.5ポイント減少しており、確実に36協定の締結率、認知度は高まっていることがわかります。
(引用元:「36 協定 」「 日本 の社会 」 に関する調査 2019)
労働基準法では法定労働時間として「1日8時間、1週40時間以内」と決められており、これを超えて従業員に残業をさせる場合は、労働基準法第36条に基づいた労使協定(36協定)を締結し、所轄の労働基準監督署長に届出なければなりません。
36協定では、「時間外労働を行う業務の種類」や「1日、1か月、1年当たりの時間外労働の上限」などをあらかじめ決めておかなければなりません。
なお、届け出をせずに法定労働時間を超えて従業員に労働させた場合、労働基準法違反と見なされ、6か月以下の懲役、または30万円以下の罰金が課されます。
2018(平成30)年6月に働き方改革関連法案が改正され、36協定で定める時間外労働に罰則付きの上限が設けられることとなりました。
この法案は2019年4月に施行されましたが、中小企業への適用は2020年4月からとされています。つまり、現在すべての企業が改正された働き方改革関連法に基づいた協定の締結、運用をしなければならないのです。
36協定は、法定労働時間を超えて従業員を働かせる場合に必要な取り決めですが、「特別条項」という項目があり、事実上無限に労働時間を延長することが可能でした。そのため、36協定が形骸化しており、労働環境の改善に寄与していないと批判がありました。
そこで、働き方改革法の施行後は、問題視されていた特別条項に制限が設けられるようになりました。具体的には以下のように時間や回数が制限されています。
臨時的な特別の事情がない場合
臨時的な特別の事情があって労使が合意する場合
このように、具体的な制限が設けられ、事実上無制限に残業ができる特別条項は撤廃されました。
残業時間の規制以外にも、働き方改革法施行によって36協定の内容が変更されています。
主な変更点 | 変更前 | 変更後 |
時間外労働の延長 |
「1日」 「1日を超えて3ヶ月以内」 「1年」 |
「1日」 「1ヶ月」 「1年」 |
休日労働・時間外労働の上限規制 | 記載なし |
時間外労働と休⽇労働の合計が、⽉100時間未満 かつ 2〜6か⽉平均が80時間以内 |
働き方改革法施行後の36協定では、延⻑して労働させることができる時間を「1⽇」「1⽇を超えて3か⽉以内の期間」「1年」とされていました。法改正後後は、「1⽇」「1か⽉」「1年」のそれぞれの時間外労働の限度を定めて提出する必要があります。(参考情報:時間外労働の上限規制 わかりやすい解説の12ページ)
また、1年の上限について算定するため、協定期間の「起算⽇」も定めなければなりません。
36協定では1日、1か月、1年それぞれの期間で時間外労働の上限時間を定めることになります。今回の法改正ではさらに、実際の時間外労働と休⽇労働の合計が、⽉100時間未満であり、2〜6か⽉平均が80時間以内にする必要が出てきます。
このため、36協定で新たにこれらの条件を守ることを協定する必要があります。36協定届の新しい様式では、この条件について労使で合意したことを確認するチェックボックスが設けられており、チェックを入れて提出する必要があります。
36協定は、法定労働時間を超えて従業員を労働させるには最低限必要なものです。
協定締結をする前に、まず時間外労働と割増賃金に関する基礎知識を確認しておきましょう。厚生労働省が運営するWEBサイト「確かめよう労働条件」では、時間外労働を含めたさまざまな労働条件に関する内容を確認できます。
次に、36協定届等を作成します。必要書類は「様式第9号」から「様式第9号の4」まであり、そのうち該当の様式を提出することになります。なお、36協定に関する書類は厚生労働省が提供している作成支援ツール「スタートアップ労働条件」にて作成することができます。
作成した資料は所管の労働基準監督署に提出します。協定に関する資料は電子政府の総合窓口「e-Gov」にて電子申請が可能です。
36協定には指針が定められており、協定を締結する際には、主に次の点に留意する必要があります。
(引用元:労働基準法第三十六条第一項の協定で定める労働時間の延長及び休日の労働について留意すべき事項等に関する指針)
具体的に見ていきましょう。
36協定の指針第2条では、36協定締結の際は、時間外労働・休日労働の時間数や日数を最小限とするよう定められています。
同様に、指針第7条では、36協定で休日労働について定める際、休日労働の日数や時間数を最小限にするよう定められています。
協定における時間の上限を超えないことはもちろんのこと、上限内であっても従業員を不必要に時間外労働をさせることのないようにしましょう。
36協定指針の第4条においては、36協定で定める時間外労働や休日労働で行う業務を細分化し、その業務範囲を明確にすることが求められています。
例えば、時間外労働をさせる際の業務を「事務作業」などとした場合、他の業務と区別がつかず、なぜ時間外労働が必要なのかわかりません。協定書の作成においては具体的に何をするのか、なぜその業務が必要なのかわかるように記載しましょう。
そもそも時間外労働は当たり前に行うものではありません。36協定で定める時間外労働についても当然に行うものではなく、従業員を月45時間・年360時間の限度時間を超えて働かせることはができるのは、臨時的な特別の事情がある場合に限られます。限度時間を超えて働かせることは原則できないと考えましょう。
36協定の指針第5条では、どのようなケースで「臨時的な特別の事情がある場合」に該当するのか、できる限り具体的に定めなければならないとされています。「これまでもそうだったから」など、時間外労働を当たり前のものとすることは認められていないのです。
また、「臨時的な特別の事情」がある場合でも、1か月の時間外労働・休日労働の時間や、1年間における時間外労働時間は、できるだけ少ない時間数に設定するよう努めることが求められています。
加えて、限度時間を超える時間外労働に対して発生する割増賃金率に関しては、25%を超えた金額に設定しなければならないことも指針で定められています。
36協定の指針第3条では、36協定の範囲内で労働させる場合であっても、使用者は労働契約法5条に基づいた安全配慮義務を負うことが改めて明記されています。
また、長時間労働は従業員の過労死など健康上のリスクと関連性が高まることも留意すべき点としてあげられています。
例えば、指針3条では、「脳血管疾患及び虚血性心疾患等の認定基準について」において長時間労働と過労死の関連性が触れられていることについて留意しています。
36協定において時間外労働を定める際にも、これらの基準に配慮して最小限の時間を設定するべきでしょう。
36協定指針第8条では、限度時間を超えて従業員を働かせる場合は、健康及び福祉を確保するために健康確保措置を講じる必要がある旨記載されています。そこで、使用者と労働者代表者は、実施可能な健康確保措置を選択肢、協定に反映することが必要です。
具体的には、次の健康確保措置の中から選択する必要があります。
健康確保措置の中には、労働時間や休息のほか、健康診断やメンタルケアなどの措置も含まれています。企業は長時間労働の抑制とともに、これらの従業員への健康の配慮の取り組みが求められています。
36協定は、2021年4月以降、新しい様式で提出する必要があります。ここでは、厚生労働省が提供している資料「36協定届が新しくなります」から、新様式で新たに追加された内容を3点見ていきましょう。
労働基準監督署に届け出る36協定届はこれまで押印が必要でしたが、新様式からは使用者の押印及び署名が不要となりました。ただし、記名は引き続き必要です。
ただし、協定届と協定書を兼ねることもでき、その場合は労使で合意した上で労使双方の合意がなされたことが明らかとなるよう、記名押印や署名が必要になります。
36協定の適正な締結を行うために、労働者代表についてのチェックボックスが新設されました。労働代表者とは、事業場における過半数労働組合または過半数代表者のことを指します。
過半数代表者の選任にあたっては、次の要件を満たす必要があります。
「管理監督者」とは、労働基準法第41条第2号で規定されている「経営者と一体的な立場にある人」のことです。社内のポジションである「管理職」とは意味が違うので、注意しましょう。
従来は、複数の事業場がある企業で36協定届を提出する場合、1つの過半数労働組合と協定を締結している企業のみ本社で一括して届け出をすることが許されており、その他の企業は事業場ごとの届け出が必要など、手続きが面倒という側面もありました。
しかし、2021年3月末から、電子申請をする場合のみ、事業場ごとに労働者代表が異なる企業でも本社一括届け出ができるようになりました。(参考情報:労働基準法・最低賃金法などに定められた届出や申請は電子申請を利用しましょう!)
36協定は従来通り各事業場で締結する必要がありますが、電子申請をすれば各事業場の届け出の負担が軽減されます。
さらに、2021年4月からは押印・署名の代わりに提出が必要だった電子署名・電子証明書も不要になりました。そのため以下の2ステップで簡単に電子申請ができるようになりました。
厚生労働省は、新型コロナウイルス感染症の拡大防止の観点からも、電子申請の利用を推奨しています。(参考情報:新型コロナウイルスの感染拡大防止のため、労働基準監督署への届出や申請は、電子申請を利用しましょう!)
前述のように、残業への規制は時代と共に厳しくなっており、業務時間内に仕事を終わらせることが求められています。そもそもなぜ残業時間が増えてしまうのでしょうか。理由を3点にまとめましたので見ていきましょう。
慢性的な人手不足状態にある企業では、1人ひとりの業務負担が増加するため、自然と残業時間が増えてしまいます。こうなってしまうと、残業時間が増えて疲労がたまる→事務処理能力が低下し、生産性が低下する→労働環境に耐えられず離職してしまう→更なる人手不足に陥る、といった負のループが発生することも少なくありません。
解決策としては、人材を採用することで一人ひとりの業務負担を減らす、もしくは純粋な業務量を減らすなどが考えられます。早期に対応することが大切です。
社内で業務が標準化がされていない、または特定の従業員しか行えない業務が発生している、いわゆる属人化状態の場合、特定の従業員に多くの業務が集中し、残業が発生してしまうことになります。
特に、やる気がある、頼りがいがある従業員ほど仕事を任せられ、負担が多くなりがちです。業務の偏りが慢性化すると、特定の従業員の健康リスクも増大してしまいます。
残業時間が増える理由の一つには、残業を良しとする企業風土があります。
特に開催する趣旨が決まっていない、何を決めるための会議なのか誰もわかっていないような無駄な会議や打ち合わせは、各メンバーの業務を圧迫します。長時間、高頻度であればあるほど、多くの業務を残業してこなさなければならなくなってしまいます。
会議の時間は30分にする、開催前に何を決めるために会議を行うのかをはっきりさせるなど、他の人の貴重な時間をもらって会議や打ち合わせを開いているんだ、という感覚を従業員に身につけてもらえるような企業風土を作っていくことが大切です。
残業時間減らすためには、会社はマニュアルの整備や従業員のスキルの標準化、企業風土の見直しなどを行うことが求められます。
慢性的な人手不足などは現場レベルですぐに解決することはできません。しかし、マニュアル整備などで業務を標準化することで、業務を効率的に処理できるようになります。
業務の標準化とは、作業手順や方法に関する基準を作り、誰でもその基準にしたがって同様に作業ができる状態にすることです。
マニュアルを整備して各自がマニュアルの内容に従って業務を進めることで、属人的な仕事の進め方から脱却し、多くの業務をチームで分担できるようになるでしょう。マニュアルについては以下の記事が参考になります。
特定の従業員に業務が集中してしまうと、非効率かつ残業時間の増加が懸念されます。そこで、チームで仕事を分担しあえるように従業員のスキルを標準化することが必要です。
従業員のスキルを標準化するには、OJT(On The Job Training:現場での実務を通して仕事を覚えてもらう人材育成方法)を活用することが効果的です。
特に、OJTは定型業務よりも、ルールやパターンが決めづらい業務に向いています。定型業務はマニュアル化を進めるとともに、OJTにより非定型業務も効果的にこなせる体制にしましょう。OJTについては以下の記事が参考になります。
無駄な会議や打ち合わせ、定時に帰る従業員への無理解など、企業風土が残業の根本的な原因となっていることがしばしばあります。企業風土を刷新するには、経営層や管理職などにより定時退社の徹底を進めるなど、トップダウンでの施策も必要になるでしょう。
働きやすい環境が整えば、業務の効率化や残業代の削減、離職率の低下など大きなメリットを得られるでしょう。
36協定は働き方改革などとともに法整備が進められ、残業時間の規制が強化されています。
36協定は一定時間以上従業員を働かせるには絶対に必要な協定ですが、それでも最小限の時間に限られます。そのため、企業内部で業務を効率化するなど、残業時間の削減が求められています。
今回ご紹介した内容を参考に、もう一度働き方を見直してみてください。