働き方の多様化が進むなか注目を集めている、バウンダリーレスキャリア。この概念を理解することは、終身雇用が崩壊したこれからの時代において、企業として取り組むべき課題を理解することと同義と言えます。
しかし実際のところ、バウンダリーレスキャリアについて「よく分からない」という方が多いのではないでしょうか。また、
- 終身雇用とはどう違うのか
- 企業にとってどのようなメリットがあるのか
- 会社として今後どう動いていけばいいのか
といったように、気になる部分も多くあることと思います。
そこでこの記事では、バウンダリーレスキャリアについて、その概念からメリット、企業として取り入れるべき対策法までくわしく解説していきます。ぜひ最後までご覧ください。
バウンダリーレスキャリアとは
世界的に雇用の流動化が進むなかで、バウンダリーレスキャリアという概念は生まれました。
会社・職種にとらわれないキャリア形成
バウンダリーレスキャリアとは、1996年にArthur and Rousseauによって提唱された、キャリア論における概念の一つです。会社や職種などの境界(バウンダリ)を超えて、自由にキャリアを形成していくという考え方を示しています。
終身雇用のような、一つの組織内で完結するような伝統的なキャリアとは対照的であり、全く新しい考え方といえるでしょう。
リスキリングとの関係性
バウンダリーレスキャリアとリスキリングには深い関係性があります。
リスキリングとは、キャリアチェンジや仕事内容の大幅な変化に適応するための「学び直し」を意味します。働き方改革や新型コロナウイルスの影響による働き方の多様化にともない、このリスキリング(学び直し)が注目を集めているのです。
そして、バウンダリーレスキャリアを実現するためには、このリスキリング(学び直し)が欠かせません。とくに近年では「教育訓練給付」や「公共職業訓練」の対象にならないフリーランスや非正規雇用者等に対するリスキリング機会の創出にも注目が集まるなど、キャリア形成とリスキリングは切り離せない関係にあるといえます。
(参考:キャリアシフトプラットフォーム | 株式会社Waris)
バウンダリーレスキャリアが注目される背景
バウンダリーレスキャリアが注目される背景には、主に次の2つの事がらがあります。
くわしく見ていきましょう。
終身雇用制度の崩壊
厚生労働省が実施した調査を見ると、現代の日本において終身雇用が当たり前ではなくなったことが分かります。とくに30歳台~50歳台半ばまでの年齢層で見れば、男性の約半数、女性の約7割が「初職から1回以上の離職を経験している」ことが分かり、転職はもはや珍しいものとはいえません。
(参照:厚生労働省「職業生涯を通じたキャリア形成」)
そしてこの終身雇用の崩壊が、労働者自身が主体となってキャリアを考えるきっかけとなり、結果としてバウンダリーレスキャリアを後押ししているのです。
ジョブ型雇用の普及
ジョブ型雇用とは、職務内容に対して人材を募集する採用方法です。会社の理念や社風に合った人材を採用してから職務をあてはめるメンバーシップ型雇用とは対照的で、ジョブ型雇用では職務に適したスキルや経験を条件とし、人材を採用します。
そして、現代の日本では少子化の影響による新卒学生の確保の難しさや新型コロナウイルスによるテレワーク推進などの理由からジョブ型雇用の普及が進んでおり、これがバウンダリーレスキャリアに注目が集まる一つの背景となっているのです。
ジョブ型雇用では、景気や経営方針変更の影響等により仕事を失うリスクがあることから、雇用者は自然とキャリアチェンジへの意識が高くなります。そのため雇用は流動的になり、結果としてバウンダリーレスキャリアを後押しする一つの背景となるわけです。
バウンダリーレスキャリアが企業にもたらすメリット
一般的にバウンダリーレスキャリアは、企業にとってのデメリットとして扱われることが多いのが現状です。これは、バウンダリーレスキャリアが早期離職を促し人材育成コストを回収できないまま人材を手放すことにつながることや、残される社員へのダメージが大きいことなどが理由です。
しかし、これはバウンダリーレスキャリアがもたらす一つの側面にすぎません。企業としてバウンダリーレスキャリアを理解し、向き合い方や対策方法を知っていただくことで、メリットも十分にあることを理解いただけると思います。
そこで、ここからは「バウンダリーレスキャリアのメリットと企業としてできる対策」について触れていきたいと思います。ぜひご覧ください。
メリット1. 若手社員の活躍をうながす
バウンダリーレスキャリアによって人材の流動化が活発になると、若手社員のモチベーションを自然に引き出すことができます。
たとえば、若手社員ばかりの職場環境では「上司に頼る」という選択肢が叶わない場面もあるでしょう。この場合、若手社員は業務をやらざるを得ない環境に置かれ、否応なく成長の機会を与えられます。
また、新入社員からの刺激や、キャリアチェンジを理由に離職していく社員からの刺激も増えることになります。社員一人ひとりが自らのキャリアについて考える機会を与え、結果として仕事へのモチベーションアップにつながるでしょう。
メリット2. コスト削減につながる
バウンダリーレスキャリアによる人材の流動化は、「コスト削減」という面でもメリットがあります。人材の流動化は一見、採用活動費の増加によりコスト削減とは真逆かと思われがちですが、一方で社内の平均年齢が下がることで給与支給額が抑えられる面もあり、一概には言えません。
実際に、マイナビの調査によれば入社予定者一人あたりの採用コストは平均約29.4万円と報告されている一方で、dodaの調査によると日本の平均年収は30代で435万円、40代で495万円と言われています。30代と40代の年収に60万円もの差があることから、採用コストの増加よりも人件費の削減の効果が大きいことは明らかです。
年代
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全体
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男性
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女性
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全年代
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403万円
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449万円
|
347万円
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20代
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342万円
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365万円
|
319万円
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30代
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435万円
|
474万円
|
377万円
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40代
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495万円
|
562万円
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400万円
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50代以上
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596万円
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658万円
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424万円
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(参考:HUMAN CAPITAL サポネット「新卒採用の予算について」)
(参考:doda「年齢・年代別に見る日本の平均年収(平均年収ランキング最新版)」)
メリット3. 離職した社員が利益を還元してくれる
バウンダリーレスキャリアによって離職者が増加することはマイナスイメージとして捉えられがちですが、彼らが将来的に自社に利益を還元してくれる可能性にも目を向けてみましょう。
たとえば、離職した社員が将来的な取引先となったり、あるいは企業間のバウンダリー(境界)を超えたバウンダリーチームのメンバーとして利益を生み出してくれることがあるかもしれません。
また、自社で成長した社員が別の場所で力を発揮することにより、自然と自社のブランド力が向上していくことも期待できます。ブランド力が上がれば、新たな人材確保も難易度が下がり、バウンダリーレスキャリアによる好循環が生まれることも考えられるでしょう。
企業がやるべきバウンダリーレスキャリア対策
バウンダリーレスキャリアを強みとするには、企業としてやるべきことがあります。
- 教育期間の短縮
- 個人の待遇強化
- 対策3.キャリア支援の環境を整える
くわしく見ていきましょう。
対策1.教育期間の短縮
前述したように、バウンダリーレスキャリアが一般的にデメリットとして扱われる理由には、人材育成コストが回収できないまま社員が退職していく実態にあります。そして、このリスクを最小限に抑えるための対策方法として「教育期間の短縮」が重要なのです。
また、教育期間を短縮させる工夫としては、次のような手法があげられます。
- OJTの実施
- 教育マニュアルの充実化
- eラーニングの導入
「現場で育てる」を基本とするなら、教育期間の短縮にOJTの実施は必要不可欠です。机上で知識を蓄えるより、実際に体で覚える方が効率的でしょう。
また、教育マニュアルの充実化およびeラーニングの導入でも、人材育成の効率化が図れます。具体的には、教育マニュアルおよび教育研修の動画化やオンライン化を検討するとよいでしょう。近頃はクラウド型の人材育成サービスも多数ありますので、導入を検討してみてはいかがでしょうか。
対策2.個人の待遇強化
バウンダリーレスキャリアの恩恵を受けるには、個人の待遇強化も重要です。いくら雇用の流動化が高まったとしても、自社が「選ばれる会社」にならなければ意味がありません。報酬の拡充はもちろんのこと、福利厚生の面でも待遇の強化を検討する余地があるでしょう。
ここで、株式会社ビズヒッツが2021年に実施した「あったら嬉しい人気の福利厚生ランキング」の結果をご紹介しましょう。
ランキング
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あったら嬉しい福利厚生
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人数
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1位
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家賃補助・住宅手当
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79
|
2位
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特別休暇
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58
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3位
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旅行・レジャーの優待
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47
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4位
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社印食堂・食事補助
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30
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5位
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スポーツクラブの利用補助
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28
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6位
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資格取得・教育支援
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21
|
7位
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保養所
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20
|
8位
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生理休暇
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17
|
9位
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慶弔金の支給
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14
|
10位
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通勤手当
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11
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n=501(複数回答)
(参考:株式会社ビズヒッツ「あったら嬉しい人気の福利厚生ランキング【働く男女501人アンケート調査】」)
家賃補助および住宅手当が1位となっていることから、働く人々が「金銭的支援を求めている」ことは明らかですね。報酬面での拡充が難しい場合は、福利厚生としての支援を検討されてみてはいかがでしょうか。
また、特別休暇が2位、旅行・レジャーの優待が3位にランクインしていることから、働く人々が「ワークライフバランスを重視している」ことも垣間見えます。福利厚生を充実させること以前に、休暇の取りやすさなど、社員のプライベートに配慮した雰囲気づくりにも取り組みたいところです。
対策3.キャリア支援の環境を整える
自社を“選ばれる会社”にし、バウンダリーレスキャリアのメリットを引き出すには「キャリア支援の環境を整える」ことも一つの方法です。
そもそもバウンダリーレスキャリアは、転職(キャリアチェンジ)を前提とした概念です。そのため、キャリアチェンジが叶う組織・キャリアチェンジの後押しをしてくれる企業というのは雇用者から魅力的に映るのです。
キャリア支援の具体的な施策をご紹介しましょう。
- キャリア面談
キャリアシートをもとに定期的に上司と面談を行い、社員自身が今後のキャリアについて考える機会をつくります。
- キャリアアドバイザー制度
社内にキャリアアドバイザーを置くことで、社員は自由にキャリア相談や研修支援を受けることができます。
- 社内公募制度
社内もしくはグループ会社内で募集されている職種に対し、社員が自発的に応募できる制度です。
なお、下記の記事ではキャリア開発について企業目線で解説しております。ぜひ参考にご覧ください。
■参考記事
キャリア開発とは?企業に必要な理由や具体的な研修方法について、事例を交えてわかりやすく解説!
まとめ
働き方の多様化が進むなか注目を集めている、バウンダリーレスキャリア。今回はバウンダリーレスキャリアについて、
- バウンダリーレスキャリアとは何か
- バウンダリーレスキャリアが注目される背景
- バウンダリーレスキャリアが企業にもたらすメリット
- 企業がやるべきバウンダリーレスキャリア対策
の4つの内容を解説いたしました。
バウンダリーレスキャリアは一見、早期離職を促したり、人材育成コストを回収できないまま人材を手放すことにつながるイメージがあることから、デメリットとして扱われがちです。
しかし、それはバウンダリーレスキャリアの一つの側面にすぎず、大切なのはバウンダリーレスキャリアを正しく理解し、企業としてどのように向き合っていけばいいのかを考えることです。
この記事では、バウンダリーレスキャリアを企業目線で解説いたしました。この記事を通して、多くの企業様がバウンダリーレスキャリアとの向き合い方を考えるきっかけになれば幸いです。