請求書の電子化、ポイントカードや来店予約のアプリ化、人材育成研修のオンライン化etc…
デジタルの活用による業務効率化は、日々あらゆる場面でめまぐるしく進行しています。このような世の中において、デジタルに関する知識やスキルは業界に関係なく企業に欠かせないものと言えるでしょう。
ところが実際のところ、デジタル化を進めたいと考えていても、
「人材を確保できない(採用がうまくいかない)」
「人材を育てるにはどうしたらいいのか?」
「そもそも、デジタルに詳しい人材は本当に必要なのか?」
と、疑問も多く浮かんでくることと思います。
そこでこの記事では、デジタル人材にまつわる内容を下記のとおりくわしくご紹介していきます。とくに、デジタル人材不足でお悩みの企業様にご活用いただける内容となっていますので、ぜひ最後までご覧ください。
<この記事でご紹介する内容>
デジタル人材とは、デジタル技術を活用し、企業に価値をもたらすことができる人材を指します。
たとえば、最先端テクノロジーのAI、IoT分野をはじめ、プログラミング、ウェブデザイン、SNSマーケティング、データ分析などの分野を得意とする人材、またそれを企業のDX(デジタル・トランスフォーメーション)推進に活用できる人材はデジタル人材といえるでしょう。
なお、DXについては、こちらの記事でくわしく解説しています。ぜひ参考にご覧ください。
■参考記事はこちら
デジタルトランスフォーメーション(DX)とは?どこよりも詳しく&わかりやすく解説!
IT人材とデジタル人材は、似たような意味に捉えられがちですが、実は少しずつ異なります。
経済産業省が発表した「平成30年度 IT人材需給に関する調査」の中では、IT人材およびデジタル人材を、それぞれ次のように定義しています。
IT人材:主に情報サービス業及びインターネット付随サービス業(ITサービスやソフトウェア等を提供するIT企業)及び、ユーザー企業(ITを活用する一般企業)の情報システム部門等に属するIT人材
デジタル人材:ユーザー企業のデジタル化を推進するための組織(例えばデジタルビジネス事業部など)に所属する人材
引用:みずほ情報総研株式会社「IT人材需給に関する調査 調査報告書」
簡単にまとめると、IT人材は、情報技術(IT)に関するスキルや知識をもって活動する人材を広く指し、デジタル人材はIT人材のなかでも、企業のDX推進を目的として活動する人材といえます。
スイスの国際経営開発研究所(IMD)が策定・公表している、各国のデジタル競争力を評価しランキング化した「デジタル競争力ランキング」というものがあります。
デジタル競争力に関する国際指標”とも言われるこのランキングにおいて、2022年、日本は63か国中29位にとどまり、過去最低の結果となりました。とくに、「デジタルスキル」の項目においては62位と最下位に近い結果に。
引用:IMD「世界デジタル競争力ランキング2022」
日本のデジタルスキルの評価が低いことについては、意外だと感じる方が多いかもしれません。しかし、日本の現状では、デジタル人材の7割強がIT企業内に偏在していることが分かっています。残念ながら、デジタル人材が活躍しているのは一部の企業だけというのが現状のようです。
現代社会においてデジタル人材の需要が高まる一方、深刻な供給不足が発生しているのが日本の現状です。
実際に、独立行政法人 情報処理推進機構(IPA)社会基盤センターが発表した「IT人材白書2020」によると、IT企業によるIT人材の“量”に対する不足感は2015年から2019年にかけて大きく差がなく、慢性的な人材不足を感じていることがうかがえます。
引用:独立行政法人情報処理推進機構社会基盤センター「IT人材白書2020 概要」
そして、デジタル人材が不足する原因は、主に次の3つです。くわしく見ていきましょう。
デジタル人材が不足している3つの原因
株式会社電通デジタルが2022年に発表した調査内容によると、日本企業の81%がすでにDXに着手済みであり、2019年から2年間で11%増加しています。
さらに「新型コロナの影響により自社のDXへの重要度が高まった」と回答した企業は65%にのぼり、デジタル人材の需要が今後ますます高まっていくことが予想されます。
DXの取り組み状況
引用:株式会社電通デジタル「『顧客の期待に応えられていない』企業が4割も コロナ禍で、DXがさらなる全社重要課題に」
一方で、デジタル人材の需要が拡大している反面、供給が追いついていない現状が否めません。実際に2021年に総務省が実施した調査によると、DXを進めるうえでの課題として、「人材不足(53.1%)」が1位にのぼりました。
急速なテクノロジーの進歩に対して、デジタル人材の育成が間に合っていない点も、デジタル人材が不足している原因の一つです。
とくに、経済産業省ではこの事態を深刻に受け止めており、2024年度末までに年間45万人育成する体制を整えるとともに、2026年度末までに230万人の育成を目指すことを「デジタル田園都市国家構想基本方針」の中で公表しました。
現在は、デジタル知識・能力を身につけるための実践的な学びの場として、オンラインでデジタルスキルが学べるデジタル人材育成プラットフォーム「マナビDX(デラックス)」が開設されています。
デジタル人材が不足する原因には、その流動性の低さも関係しています。
実際にデジタル人材の流動性の低さについては、独立行政法人 情報処理推進機構(IPA)の調査や国勢調査の結果によって明らかにされており、まとめると次のとおりです。
このように、デジタル人材は業界の格差や都市部および地方での地域格差が生まれており、流動性が低いのは明らかです。そしてこの流動性の低さが、デジタル人材不足を加速させていると考えられます。
企業のDXを推進し価値をもたらすのが、デジタル人材の役割です。ところが、デジタル人材が企業にもたらすメリットはこれだけではありません。DXを推進するうえで、間接的にあらゆる価値をもたらすのです。
DXの導入は、生産性の向上やコスト削減にも効果が期待できます。たとえば、手作業で行っていた請求書作成業務をシステムで自動に行えるようになれば、作業時間の短縮や人件費の削減につながるでしょう。
実際に、2021年に実施された調査では、DXによって達成された内容として「業務効率化・コスト削減」が一位にあがりました。また、DXに取り組む企業のうちの7割がこれに成功しており、その達成率の高さがうかがえます。
Q.DXの目的のうち、成果が出ているものをお答えください(複数可)
引用:公益財団法人日本生産性本部「イノベーション会議 提言『企業のDXを進めるための人材戦略』」
デジタル人材によるDX推進は、新たなサービスやビジネスモデルの開発に役立つのもメリットの一つです。
実際の例として、大手コンビニエンスストアの「ローソン」が、AIを活用したレシート広告配信を開発したケースがあります。AI導入前は、会員データの購買履歴や性年代・価値観から、対象となる商品に興味を持ちそうな顧客を推測し広告を配信していましたが、AIを導入し、より個々の顧客の価値観に合わせた広告デザインやキャッチコピーを用いたレシート広告を発行できるようになったといいます。
参照:ローソン公式サイト「AIを活用したレシート広告を配信」
また、前述した調査でも、DXによって達成された項目として「新製品・サービスの創出(47.0%)」「新規事業の創出(30.8%)」が報告されており、もはや新規ビジネスを考えるうえでデジタル人材は必要不可欠といっても過言ではありません。
従業員がその職場や組織に対して「貢献しようとする意欲」を示す従業員エンゲージメント。DXは、従業員の働き方を支え、業務上のストレスを低減させることなどにより従業員のモチベーションややりがいを高めると言われています。
たとえば、従業員の個や多様性を重視した働き方で注目を集めてきた「ソニーグループ株式会社」では、IT技術を用いた業務の自動化や効率化をはじめ、新たな繋がりを生み出す社内向けアプリケーション『Talent Network』の開発など、従業員の働きやすい環境づくりにデジタル人材が貢献しています。
参照:ソニーグローバルソリューションズ株式会社「ITソリューションの力で、誰もが働きやすいソニーグループへ」
そしてソニーグループ株式会社は、採用企業のクチコミ情報サイトを運用するOpenWorkが実施した調査『社員が選ぶ「働きがいのある企業ランキング2022」』において8位にランクインするなど、その働きやすさがしっかりと評価に表れているのです。
なお、従業員エンゲージメントについては下記記事にてくわしく解説しています。ぜひ参考にご覧ください。
■参考記事はこちら
従業員エンゲージメントとは?言葉の意味、構成要素、向上策、調査方法などについてわかりやすく解説!
さて、ここからは実践の場をイメージした内容について触れていきましょう。まずは、デジタル人材に必要とされるスキルについてご紹介いたします。各スキルに応じた資格等もあわせてお伝えしますのでぜひご覧ください。
ビジネス発想力は、デジタル人材として必要不可欠なスキルの1つです。なぜなら、DXを成功させるためには経営改革およびビジネス改革が重要であり、このためには、ビジネス課題や顧客ニーズを把握しどのような価値を提供できるかを考える「ビジネス発想力」が必要だからです。
また、ビジネスを実現するための企画力や構築力も、顧客ニーズに合わせたビジネスプロセスやシステムを構築していくうえで非常に重要なスキルとなります。デジタル人材がこれらのスキルを持つことで、企業は競争力を維持し、市場の変化に柔軟に対応できるようになるでしょう。
なお、ビジネス発想力(企画力・構築力)に関する資格としては、以下のようなものがあります。
ビジネス発想力(企画力・構築力)に関する資格の例
DXでは複数のプロジェクトを同時に進めることもあるため、スケジュール管理をはじめ、プロジェクトの進捗管理、予算管理など複雑な業務が求められます。そのため、デジタル人材はプロジェクトマネジメント力が高いに越したことはありません。
また、DXを実施するうえでは、多くの人と一緒にプロジェクトを進行する必要があります。複数の人が関わるプロジェクトでは、時に問題が発生し業務プロセスの見直しやスケジュール調整が必要とされることもありますが、プロジェクトマネジメント力が備わっていれば適切な対応をとることができるでしょう。
なお、プロジェクトマネジメント力に関する資格としては、以下のようなものがあります。
プロジェクトマネジメント力に関する資格の例
DXでは、システムの要件定義で決められたあらゆる要件(システム機能要件など)を設計に反映させる能力が必要となるため、デジタル人材にはシステムデザイン力が求められるでしょう。
また、当然のことながらDXを進めるうえでは、プログラミング言語やツールを使いシステムを開発する場面も多くあります。そのため、システムデザイン力だけでなく、システム開発力も欠かせないスキルの一つです。
なお、システムデザイン力やシステム開発力に関する資格としては、以下のようなものがあります。
システムデザイン力・開発力に関する資格の例
データをどのようにビジネスにつなげられるかを考える「データビジネス発想力」と、取得したデータを整理・分析し問題解決に活用する「データ分析力」も、DXに欠かせないスキルの一つです。
ビジネス戦略(例:クーポン発行)のために、どのようなデータ(例:購入商品情報)が必要かを設計したうえで、データを取得/整理/分析していく、これら一連の流れに上記2つのスキルが必要になります。
なお、データビジネス発想力/データ分析力に関する資格としては、以下のようなものがあります。
データビジネス発想力/データ分析力に関する資格の例
UI/UXはそれぞれ、次のような意味をもちます。
UI(ユーザーインターフェース):ユーザーとサービスの接点を示します。具体的には、Webサイトのデザインやフォントなど、ユーザーの視界に触れる情報がこれに当てはまります。
UX(ユーザーエクスペリエンス):サービスを通して得られるユーザー体験を示します。具体的には、サービスを使う中で得られる「使いやすかった」「対応が良かった」などの感情や満足度が当てはまります。
とくに、消費者がWebやスマホから商品を購入するのが当たり前になっている現代では、DXにおいてこのUI/UXのデザインは必要不可欠です。社内のデジタル人材がこれらのスキルを発揮することで、サービスを通したユーザー満足度および信頼性の向上が期待できるでしょう。
なお、UI/UXに関する資格としては、以下のようなものがあります。
UI/UXの知識に関する資格の例
深刻なデジタル人材不足が続くなか、デジタル人材を確保するために企業として何ができるでしょうか。ここからは、デジタル人材の採用と育成の両面から解説していきたいと思います。
前述したように、デジタル人材の採用はその人材不足の現状から、決して容易なものではありません。そのため、採用戦略や慎重な選考がより重要となります。
人材の採用方法としては主に「新卒採用」「中途採用」「外部委託」がありますが、以下にはそれぞれのメリット・デメリットをまとめていますので、会社の状況に見合う方法で検討されるとよいでしょう。
採用方法 |
メリット |
デメリット |
新卒採用 |
・デジタル人材を早期に確保できる ・長期的な人材確保が見込める ・ノウハウを蓄積できる |
・即戦力にはなりにくい ・育成コストがかかる ・育成が成功するか不確実 |
中途採用 |
・即戦力になる ・育成コストがかかりにくい ・新たなノウハウを獲得できる |
・転職の可能性がある ・採用コストが高い |
外部委託 |
・必要な人数/期間だけ確保できる ・育成コストがかからない ・ミスマッチに対応しやすい |
・採用コストが高い ・契約/発注の手間がかかる |
なお、中途採用や外部委託を実施する場合は、実績やポートフォリオを確認したうえで、スキルや知識をきちんと持っているかどうかのチェックを行うことが大切です。
採用以外にも、内部育成によりデジタル人材を確保する方法があります。社内研修等で従業員のデジタルスキル向上を図る方法で、人材の採用とは異なるメリット/デメリットがあります。
デジタル人材育成のメリット/デメリット
メリット |
デメリット |
・採用コストがかからない ・社内事情を把握しているため、効率的に教育できる ・人材の有効活用になる ・従業員のモチベーション維持につながる |
・一時的な人手不足に陥る可能性がある ・育成コストがかかる |
具体的な育成方法については、次の章でくわしくご紹介いたします。
デジタル人材を育成する方法としては、主に次の3つの方法があります。
テキストや書籍による学習をはじめ、インターネットを活用したeラーニングを実施することで、デジタルスキルの自己学習が可能です。
とくにeラーニングに活用できるツールとしては、有料の「クラウド型eラーニングサービス」をはじめ、経済産業省と独立行政法人情報処理推進機構(IPA)が共同で制作したポータルサイト『マナビDX』などがあります。
近年のeラーニングサービスは、スマートフォンでの学習や動画視聴による学習を取り入れるなど、ユーザーの心理的ハードルが低いといったメリットもありますので、自己学習によるデジタル人材の育成でも効果は十分に期待できるでしょう。
また、厚生労働省による「人材開発支援助成金」を申請すれば、デジタル人材育成にかかる経費の支援が受けられる可能性もあります。ツールの導入や自己学習支援に活用してみてはいかがでしょうか。
なお、eラーニングに関するくらしい内容(メリットやデメリット、効果的な活用方法など)については、下記の記事でくわしく解説しています。ぜひ参考にご覧ください。
■参考記事はこちら
eラーニングとは?メリット・デメリットから企業研修での効果的な活用方法までわかりやすく解説!
集合型研修は、受講者が会場に集まり、講師による授業を受ける形の教育方法です。
専門講師による授業を受けられたり、受講者同士の交流が図れる面ではメリットがありますが、一方で講師費用や会場使用料、受講者の交通費など、開催コストが高くなりやすいデメリットもあります。
また、集合型研修には大きく講師による授業がメインの「座学型」と受講者同士のグループワークがメインになる「ワークショップ型」がありますが、デジタル人材の育成においては受講者同士で学習意欲を高め合うことができるワークショップ型が有効でしょう。
デジタル人材を育成するためには、以下の理由からOJTによる教育は必要不可欠です。
デジタル人材の育成にOJTが必要な理由
同じOJTでも、デジタル人材を育成するうえではやはり実践演習は欠かせません。要件に沿ったシステムの設定やプログラミングなどを行うには、実務を通して試行錯誤を繰り返すのが最も効果的な学習方法になります。
また、OJTを実施する際には次のポイントを意識すると、より高い学習効果が期待できます。ぜひ実践してみてください。
OJT実施のポイント
OJTのくわしい内容については、下記の記事で解説しています。ぜひ参考にご覧ください。
■参考記事はこちら
OJT教育のやり方や担当者のあるべき姿とは?成功に導くポイントを具体例を交えて解説!
今後も深刻な人材不足が予測される「デジタル人材」。今回はそんなデジタル人材について、現状の課題をはじめ、デジタル人材に求められるスキルや、採用/育成の方法まで広く解説いたしました。
デジタル人材の採用難易度が高まっている現状で、デジタル人材の「育成」は多くの企業にとって重要な課題となっているはずです。幸いにも、コロナ禍によって急速に進んだ学習のオンライン化により、職場や自宅でも無理なくスキルの習得が可能となりましたが、まだまだ十分に活用できていない部分もあるかと思います。
本文中では、デジタル人材の育成方法についてもくわしくご紹介していますので、貴社の人材育成にお役立ていただけますと幸いです。