経済産業省が2018年に発表したDXレポートの中で警告している「2025年の崖(詳細は後述)」まで4年となりました。今、日本企業は、DXを推進し業績を伸ばせるか、逆に加速度的に下がるかという瀬戸際です。
DXは企業規模、業種にかかわらず、どんな企業でも進められます。本記事では、DXとは何か、できるだけ失敗せずに推進するにはどうしたらいいのかについて、流通・小売業向けに、事例を交えてわかりやすく解説しました。ぜひ最後までお読みください。
DXという言葉を多々耳にするようになりましたが、使う相手や使われている場面によって、何を指すのかが異なるケースがあります。そこで最初にDXとは何か言葉の定義から確認しておきましょう。
DXとは、デジタルトランスフォーメーション(Digital Transformation)の略です。経済産業省が2018年12月に発表した「デジタルトランスフォーメーションを推進するためのガイドライン(DX推進ガイドライン)」ではDXを次のように定義しています。
企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること。
DXの目的は、業務のICT化やデジタル化ではありません。ITやデジタルを活用することで、業務そのものやビジネスモデルを変革すること、消費者・顧客の生活をより良くし、企業の生産性を上げる(売り上げや利益を伸ばす)仕組みを作ること、これがDXです。DXによって変革した企業は、「デジタルエンタープライズ(デジタル企業)」と呼ばれます。
自社でデジタル化したデータ、世の中にあるデータを活用してビジネス戦略を立て(P)、実行に移し(D)、実行と同時に市場からの反応を得て(C)、戦略を再考(A)……。こうしたPDCAの高速化が可能になるのです。つまりビジネスの刷新スピードを速くすることができ、それが企業の成長へとつながります。
引用:経済産業省「デジタルトランスフォーメーションの河を渡る~DX推進指標診断後のアプローチ~」
「デジタルトランスフォーメーション(Digital Transformation)」を、なぜ「DT」ではなく「DX」と略すのか不思議に思った方もいらっしゃることでしょう。
英語圏では「Trans」を「X」と略し、「Transformation」を「X-formation」と表記するため、この頭文字をとりDXという表記が使われるようになりました。
官公庁や企業でも「DX」と略しており、「DT」といった表記は使われていないためご注意ください。
DXは一気に進められるものではなく、一般的に次の3つの段階を踏んで進めていきます。
それぞれの意味と関連性について簡単に見ていきましょう。
DXを進めるにあたり、まずは紙などのアナログデータをデジタルに変更する必要があり、このことを「デジタイゼーション」と呼びます。
例えば、紙でやり取りをしている見積書や請求書、納品書などを電子発行に変更する、ペーパーレス化することがデジタイゼーションです。これらをデジタル化することで、紙の印刷や保管場所が不要になり管理コストを減らせます。またキーワードでの検索も可能になることから、瞬時に目的の書類を見つけだすことも可能です。
デジタイゼーションにより生み出されたデジタルデータを活用して、業務フロー全体を効率化することを「デジタライゼーション」と言います。
例えば、請求書関連業務で言えば、Google Chrome、Microsoft Edge、MacOSではSafariなどに代表されるウェブブラウザで利用可能なクラウドサービスを導入することで、オンラインで請求書の作成と送付が可能になり、テレワークの場合でも自宅で作業ができるので、書類を作成するためだけに出社を余儀なくされるといったことがなくなります。
中には請求データを自動で受け取る仕組みを導入することで、システム入力などを自動化できるサービスもあり、請求書のやり取りが多い企業ではかなりのコスト削減が見込めます。
令和3年度情報通信白書を参考に弊社で作成
業務全体の効率化、デジタライゼーションの一歩先がDXです。デジタライゼーションを通じて変わった業務をもとに、新たなサービス、ビジネスの仕組みを生み出し、新しい価値として消費者や顧客に影響をもたらすことまでがDXだと考えるといいでしょう。
つまり、デジタイゼーションはデジタライゼーションを実現するためのステップであり、デジタライゼーションはDXを実現するために必要なステップなのです。
<DX実現の3段階>
DXとは何か、が分かったところで、昨今DXが注目されている理由、背景をみていきます。
私たちの生活に欠かせないものになったスマートフォン。これだけ多くの人に広がったのは2007年にAppleがiPhoneを発売したのがきっかけでした。
昔は「デジタル」というと、IT企業が考えることであり、一部のITリテラシーの高い人だけがその恩恵を享受し、業務を効率化し、生産性を上げることができるものでした。
しかしスマートフォンが普及すると、誰もがITを利用できるようになりました。スマートフォン1台で、公共交通機関を利用できたり、買い物ができたり、出先から会議や研修に参加できたり、私たちの生活は大きく変化しました。
引用:経済産業省「デジタルトランスフォーメーションの河を渡る~DX推進指標診断後のアプローチ~」
企業にとってもITは特別なものではなくなり、いつの間にか利用しているようなものになりました。今までITに縁がなかったような家具や自動車などの工業分野でも、スマホで家のドアを開錠/施錠を行えるなどのIoTや自動運転技術などにITが活用されています。
例えば、広告一つ出すにしても、以前なら全員に同じものを見せていたのが、今は一人ひとりに合わせた広告を出し、適切なタイミングでコンタクトをとれる仕組みができました。「この間まで〇〇という商品を調べていたら、SNSに表示される広告が全部それになった」という経験もあるのではないでしょうか。これもITの進歩によるターゲティング精度の向上に起因しています。
その結果、消費者の生活は豊かになり、企業は生産性が向上、まさにこれが"DX"なのです。
引用:経済産業省「デジタルトランスフォーメーションの河を渡る~DX推進指標診断後のアプローチ~」
そして機械学習をはじめとするAIやビッグデータの活用が進んだことで、DXが進んでいる企業は何かを生み出す原石、宝とも言える「データ」を手に入れました。企業にとってこうしたビッグデータを持っていること自体が強みになる時代になったとも言え、これを活用できない企業は淘汰されていく、といった状況が生まれています。
皆さんご存じのように、海外ではGAFAと呼ばれる、Google、Amazon、Facebook、Appleといった企業がデータを活用したビジネスを世界的に展開しています。一方で、日本はこうしたデジタル競争に遅れをとっており、このままでは市場変化についていけないのではないかという危機感があるのです。
日本でDXが注目されるようになったのは、2018年に経済産業省が発表した「DXレポート~ITシステム「2025年の崖」の克服とDXの本格的な展開」がきっかけです。
もしDXが進まなければ、2025年以降、最大で年間12兆円(2018年現在の3倍の額に相当)の経済損失が生じる可能性があるというのです。
引用:DXレポート サマリー
データの活用が日本で進まない要因のひとつにITシステムの老朽化が挙げられます。「ITは物理的に存在するものではないのに老朽化するの?」と疑問をお持ちの方もいらっしゃると思いますが、建物や道路と同じようにITシステムも老朽化するのです。
日本のシステムは個別にカスタマイズして開発されることが多いのが特徴です。海外の企業は、ほとんどのサービスやサーバーがクラウドと呼ばれる専門のサービス上に存在するのに対して、日本の企業は自社内にサーバーを設置(オンプレミス)して、その上で動作するサービスを展開・運用している企業が少なくありません。
その結果、長年使い続けてカスタマイズを続けているとシステムが複雑化する、開発当初の社員がいなくなったことで中身がブラックボックス化してしまう、結果として誰も改修することができない、という状態に陥ってしまいます。
またセキュリティの面から見ても、カスタマイズ開発はリスクが高まります。こうした状況は、システムの維持管理費を高額化し、経営を圧迫(これを「技術的負債」と呼びます)。システムの刷新を行うのをより難しくしており、政府が支援するという流れになっているのです。
例えば、経済産業省は東京証券取引所と共同で、戦略的なIT活用に取り組む企業を「攻めのIT経営銘柄」として選定し公表。日本企業のIT投資への評価引き上げを狙っています。
経済産業省がDXレポートを発表したのが2018年。その2年前の2016年9月から政府主導で動き始めたのが「働き方改革」です。少子高齢化で不足した労働力を補おうと、労働環境を改善し、働ける人を増やそうという試み。当然、企業の生産性の向上も狙っています。
こうした背景に加えて、新型コロナウイルス感染症拡大に伴い、企業の事業環境が激変。出社を控えたテレワークという働き方が推奨されるようになり、特にITシステムやインフラに関する機能不足が表出し、変化への対応が待ったなしの状況になっています。実際に流通・小売業、飲食・サービス業などの研修を必要とする企業では、集合研修の実施が避けられるようになり、動画マニュアル等を活用して、オンライン上で研修を実施する企業もここ1〜2年で一気に増加しました。
スマートフォンの普及やWithコロナ時代の到来により、日本企業はメリットがあるからDXを推進するという立ち位置ではなく、DXに取り組まなければ生き残れないという心境なのが本音でしょう。
ここではDXに取り組むと得られるメリット、企業の姿をご紹介します。
「いちばんやさしいDXの教本」の中でデップ株式会社の亀田重幸氏と進藤圭氏がDXのメリットとして上げるのが「コスト削減」です。
どこにIT技術を活用するかの設計を行う過程で、業務の棚卸を行うため、無駄な業務があぶり出されます。つまり、DXを始める前の段階で、社内業務のスリム化、コスト削減が可能に。そしてDXによってIT技術の活用が浸透すると、人間が携わる業務が減り、さらにコストが下がり、事業の利益率が向上すると解説しています。
また老朽化、複雑化、ブラックボックス化したITシステムを刷新できれば、その後の保守・運用コストも下げられるでしょう。そして次で紹介するビッグデータの活用もコスト削減につながります。
リアルタイムでデータを収集し、大量のデータを扱えるようになると、ビッグデータ分析が可能になります。そのための第一歩が紙などのアナログデータのデジタル化です。
ビッグデータを持つと高い精度で「予測」ができるようになります。
例えば、過去の実績データをもとに予測したうえで仕入れ量を決めれば、過不足なく適切に管理でき、無駄なコストが省けるのです。また「この商品を買っている人はこんな商品も買っています」などとPRすることで、消費者に次の行動を促すといったマーケティングなどへの活用も進んでいます。
富士通が提供する農業経営の支援サービスを利用することで、気象データから生育や収量を予測。温室のコントロールを行い、無駄をなくしたり、コスト削減につなげたりできている事例ありもます(平成27年版情報通信白書より)。
他にビッグデータはビジネス上の意思決定を行うのにも役立ちます。例えば、ダイドードリンコは自動販売機にて飲料を販売する際の商品サンプルの配置を決めるのに活用し、売り上げが増加したという報告もありました(平成27年版情報通信白書より)。
DXを推進する際、ビジネスプロセスのデジタル化「デジタライゼーション」を行う必要があります。このときに活用できるのがRPA(Robotic Process Automation)。RPAを活用することで人間を介さずに、システム間に大量のデータを安定して流すことができるのです。
「いちばんやさしいDXの教本」で紹介されているRPAに向いているリストが以下。単純作業ではあるものの、意外と時間がとられ面倒なものが多いですね。こうした作業が自動化できれば、当然、業務効率が上がり、企業における生産性が向上するというわけです。
<RPAに向いている業務のリスト 共通・人事>
想定される 部門 |
業務の例 | 業務の内容 |
共通 | 連絡、督促 | 入力依頼したフォームへの入力状況のチェック、督促メールの配信 |
定期書類発行 | 定期的に各種システムから利用状況レポートなどを配信 | |
メール送受信 |
・メールの差出人や内容から受信ボックスを振り分ける ・提携メールを配信する |
|
書類スキャン | スキャンした書類をPDF化し、業務システムに登録 | |
人事 | 過重労働管理 | 勤怠システムをチェックして、過重労働者にメールで通知 |
人事考課管理 | 人事考課の入力状況を確認して、未入力者への督促メールを配信 | |
給与台帳管理 | 給与の変更などに応じて、給与台帳を更新 | |
採用システム入力 | 各媒体のデータを採用管理ツールにアップロード | |
媒体利用 | 各媒体のスカウト検索、メール配信 | |
カスタマー サポート |
問い合わせ対応 | 問い合わせメールに対して、自動返信メールを配信 |
「いちばんやさしいDXの教本」を参考に弊社で作成
ほかにも飲食店などでは、キャッシュレス決済やスマートフォンで注文ができるモバイルオーダーが広がりつつあります。これにより従業員の接客業務の負担が軽減され、生産性が向上。人手不足にも一役買っています。
事業や業務がデジタル化している場合、市場の変化に柔軟に対応できるようになります。当然、新サービス・新たなビジネスモデルの開発にもつながるでしょう。
実際、社会活動の解決という視点で3~4年前からDXに取り組んでいた中国では、コロナ以前に仕組み化できていた企業は資金が入ってきていて、そこに至っていなかった企業は倒産しているといいます
参考:『「Withコロナ時代、生活はDXでどう変わるのか?」中国事情から考えてみる~変わる世界とDX(デジタルトランスフォーメーション)第1回~』
日本でDXの実現を困難にしている課題について、主なものを3つ、2018年に経済産業省が発表した「DXレポート~ITシステム「2025年の崖」の克服とDXの本格的な展開」や書籍「デジタルトランスフォーメーションの実際」をもとにご紹介します。
「DXレポート」によると、約8割の企業がレガシーシステム(過去の技術や仕組みで構築されたシステム)を抱えており、約7割の企業がレガシーシステムがDXの足かせと感じていると指摘されています。
引用:DXレポート(サマリー)
デジタルエンタープライズの中心を担うシステムは、これまでの基幹システムとしての役割に加えて、変化する市場の状況に対して素早い機能の拡張やデータ連携が求められます。このため新規で構築するシステムと相互に連携しながら、既存システムの段階的な見直しが必要です。
これからDXに取り組み始める、もしくは取り組みの途中の担当者は、IPA(独立行政法人情報処理推進機構)が公開した「DX実践手引書 ITシステム構築編」が参考になるでしょう。
新しい技術を使って何ができるのかを考え、自らデジタル事業をリードして成功に導いた創業者がCEOを務めるケースが多いのが、DXが進んでいるスタートアップ企業です。
一方で歴史のある企業のCEOはITに関する知識が不足していることが多いのが現状。そのため現場(デジタル組織)に対して「デジタルを活用した新事業を考えてほしい」といった曖昧な指示で、ビジョンが伝わってこないため、DXがうまくいっていないケースがあります。
スタートアップ企業と歴史のある企業のトップの違いは、経営陣のITに関する知識とリーダーシップ力。例えば、DXレポートによると、DX実行のために欠かせない既存システムを刷新するといった判断を行っている企業は必ずと言っていいほど経営層の強いコミットがあると言います。
またDX推進には既存業務の見直しが求められますが、その際に現場サイドが抵抗することも少なくありません。その際に各事業部の反対を押し切り、実行に移すには経営陣の存在が欠かせません。
歴史のある企業でDXが進みにくいのは、経営陣個人の問題だけでなく、組織の問題でもあります。日本の大手企業の経営陣の任期は長期にわたることは少ないのです。つまり、書籍「デジタルトランスフォーメーションの実際」で以下のように記載されているように、短期的な成果が求められ、DXを推進しにくい状況と言えるでしょう。
デジタルトランスフォーメーションという変革を目指すのであれば中長期的なビジョンと計画が必要だ。にもかかわらず、担当事業に長期間コミットするわけではなく、短期間で成果を上げなければならないのであれば、中長期な取り組みを行うインセンティブはなく、常に後回しになる。
総務省が2021年7月に発表した「令和3年度情報通信白書」によると、DXを進める際の課題として、デジタル人材の不足を挙げる企業が半数を越え、米国の約2倍とかなり高い数値が出ています。
引用:令和3年度情報通信白書
具体的にどのような人材が不足しているか尋ねた結果が次のグラフです。いずれの人材も「大いに不足している」「多少不足している」と回答した企業が6割を越えています。また「UI・UXに係るシステムデザインの担当者」、「AI・データ解析の専門家」については、1割程度の企業が「そのような人材は必要ない」と回答しており、米国やドイツと比較して2倍以上でした。
引用:令和3年度情報通信白書
DXレポートの中でも、社内にシステムに精通した人やプロジェクト・マネジメントできる人材が不足しており、ベンダー企業に経験・知見を含めて頼らざるを得ないと指摘。またITエンジニアの7割以上がベンダー企業に偏在しており、ユーザー企業はITエンジニアの確保と教育が難しいという側面もあるとのこと。
IT人材不足は多くの企業でDX推進時の根強い課題となっていることが分かります。
DXを推進する上でおさえておきたいポイントを3つご紹介します。
DXを進める上での最大のポイントはDXの目的の明確化とゴール設定です。DXは長期的なプロジェクトであり、社内全体に影響が及ぶもの。新しいことを始めるのですから予期しない壁もあるでしょう。そうしたときに適切な判断ができるためには、DXの目的の明確化とゴール設定が欠かせません。
「とりあえずDXをやろう」だと、RPAやAIを使ってみたといったIT活用で終わってしまいがちです。
計画書を作成する際は、DXまでのフェーズがわかるのはもちろんのこと、各フェーズをどのように進めるのか、その先にどのような未来が待っているのか、どんなビジネス価値が生まれるのかを社内のあらゆる立場の人に伝わるように作成します(「いちばんやさしいDXの教本」より)。
書籍「デジタルトランスフォーメーションの実際」では、社内のコンセンサスを重視する日本企業は、全てを同時並行して変革を進めるのではなく、3ステップで進めることを提案しています。
DXを推進する際は、「ビジネスモデル」「オペレーション」「IT」「組織・人材」の4要素の変革を進める必要があります。これを「デジタルパッチ」「デジタルインテグレーション」「DXの完遂」という3ステップで進めるのです。
<DXの構成要素>
<DXの進化>
「デジタルトランスフォーメーションの実際」を元に弊社で作成
「スマートフォンのアプリを導入する」「AIを使って業務を効率化する」など、顧客が普段から使っているデジタル環境に自社のサービスを適用したり、今の業務の生産性を向上させたりする取り組みがデジタルバッチです。既存モデルへの部分的なデジタル適用を指します。
ステップ1では、事業部門が必要だと感じているデジタル化の取り組みを、デジタル組織が担います。その過程で互いに信頼関係を構築し、ステップ2のデジタルインテグレーションへとつなぐのです。小さく始めて、理解者を増やしながら大きくしていくとイメージください。
ステップ2は、既存モデルへのデジタル融合の段階。デジタル技術を活用して、全社を挙げて顧客を丸ごと囲い込むサービスを展開したり、リアルとデジタルに関係なく顧客体験(CX)に訴求したりするのがデジタルインテグレーションです。
ビジネスモデルを変革し、収益構造まで変える段階がステップ3のDXの完遂です。
どんどん進化していくITの世界において、DXは集大成ではありません。今後、ITの世界がどのようになっていくのかを予測し、変化に合わせて対応していける体制を今から作っておくことが重要です。
労働人口が減少しており、業務の効率化がますます進むでしょう。また業務のスピード化も求められるようになってきます。「いちばんやさしいDXの教本」によると、ITを支える要素「計算」「通信」「インフラ」「開発」「ビジネス」が高速化することで、世の中の変化も早くなると言うのです。
計算を繰り返すことで学習するAI。当然、多く計算をするほど性能が高まります。つまり計算速度の進化はAIの進化に直結するのです。誰でもAIをつくれる時代が間近に迫っています。
一度に多くの情報を、リアルタイムに送受信できるようになる「5G」。これが普及すると、車の自動運転や医療現場などシビアな精度が要求される場面での活用が進みます。5Gによって、バーチャルリアリティ(VR、仮想現実)やオーグメンテッドリアリティ(AR、拡張現実)といった技術も伸びてくるでしょう。
クラウドサービスの普及やノンコーディングサービスが登場したことで、システムの内製化も行いやすくなっています。内製することで、自社のビジネスを理解した人が現場とコミュニケーションをとりながらスピード感のある開発が可能に。コスト削減も見込めます。
テクノロジーの変化によりビジネスモデルも進化しています。無料でサービスを提供することで顧客を多く集める「フリーミアムモデル」や、NetflixやAmazon Prime Videoをはじめとした定期利用する権利を売ることで収益を得る「サブスクリプション」といったビジネスモデルが生まれており、今後も新たなビジネスモデルが登場する可能性も大いにあるでしょう。
DXがどれくらい進んでいるのか、統計データを見てみましょう。
2021年3月に総務省から発表された「デジタル・トランスフォーメーションによる経済へのインパクトに関する調査研究の請負報告書(株式会社 情報通信総合研究所)」によると、22.8%の企業がDXを実施しており、その内訳を規模別にみると、大企業で42.3%、中小企業で13.8%と差があることが分かります。
業種別では、最も取り組みが進んでいるのが情報通信業で45.0%。続いて、商業・流通業が24.5%、製造業が22.8%、エネルギー・インフラが22.6%とほぼ横並びで、最も進んでいないのがサービス業等で15.8%となっています。
引用:デジタル・トランスフォーメーションによる経済へのインパクトに関する調査研究の請負報告書
また地域間でもDXの推進状況に違いがあり、東京都に本社がある企業では35.8%がDXを実施しているのに対して、地方圏では16.2%にとどまっています。「実施していない、今後実施を検討」と回答した割合は、地域差で大きな差は見られません。
引用:デジタル・トランスフォーメーションによる経済へのインパクトに関する調査研究の請負報告書
DXに関連する取り組みが行われている範囲は、業種・規模による大きな差異はなく、いずれの業種・規模においても2020年度に範囲が拡大。2020年度に全社的なDXの取り組みを行っている企業は59.1%と、過半数を越えました。
引用:デジタル・トランスフォーメーションによる経済へのインパクトに関する調査研究の請負報告書
DXの目的としては、「業務効率化・コスト削減」が最も多く44.8%(2020年度)、次いで「既存製品・サービスの高付加価値化」が39.0%(2020年度)となっています。2019年度と2020年度で差が大きかったのが「企業文化、働き方の変革」と「ビジネスモデルの変革」。DX本来の目的に徐々に近づいてきていることが伺えます。
引用:デジタル・トランスフォーメーションによる経済へのインパクトに関する調査研究の請負報告書
DXに取り組むことによる具体的な効果としては、大企業も中小企業も「業務効率化・コスト削減」が最も多く、それぞれ47.2%、37.6%という結果が出ています。一方でDXによる効果として最も期待したい「新規事業の創出」は大企業で19.3%、中小企業で12.8%にとどまっているのが現状です。
引用:デジタル・トランスフォーメーションによる経済へのインパクトに関する調査研究の請負報告書
その他、世界における日本のDXの状況など、さらに詳しくお知りになりたい方は、総務省が発表している「情報通信白書(令和3年版)」をご覧ください。
日本では、約半数の企業が業種や規模によらず、経営企画、バックオフィス系業務(総務、人事、経理、財務、法務、IT等)のDXに取り組んでいます。
その中のひとつ、人材育成の領域でもDX化が加速。研修のオンライン化や映像を配信できるようなサービスを利用した自己学習の導入などが進んでいますのでご紹介します。
引用:デジタル・トランスフォーメーションによる経済へのインパクトに関する調査研究の請負報告書
2020年春の新型コロナウイルス感染症の拡大により一気に広がったもののひとつが、オンラインでの研修や教育です。人が集まることが難しくなり、従来から行われていた集合型の研修の見直しを迫られる事態に。そこで注目されたのがオンライン研修です。
インターネット回線を通じて遠隔でも受講できるのがオンライン研修の大きなメリット。録画をすることで、場所だけでなく時間の制約も受けません。
このタイミングで集合研修のオンライン化に踏み切れた背景には、クラウドサービスの充実があります。自社で何かツールを開発しなくても、安価で安定したサービスが受けられます。
例えば、ZoomなどのWeb会議システムは、オンライン研修にも活用できます。今は、学校等でのオンライン授業でも利用されていますので、新入社員であっても抵抗なく使えるというのは大きいですね。
学習管理システム(LMS)を使えば、受講状況や理解度テストの結果なども含めて、管理者が把握できます。つまり従来実施してきた集合研修でできたことの多くをオンライン上で実施できる機能が揃っているのです。
当然、対面型の集合研修には交流も含めた人間関係の構築のしやすさなど、メリットもあります。このため、全ての研修がオンライン化されるとは現状とは考えられませんが、知識をインプットするような研修はLMSを使った学習へ、集合研修も可能なものはオンライン研修へと変化していくでしょう。
全国に9か所設置されている中小企業大学校でも、長年にわたり対面型の集合研修を実施していましたが、2018年にオンライン研修に特化した中小企業大学校web校が設置されました。web会議システムを活用したリアルタイム双方向通信の研修サービス「WEBee Campus(ウェビーキャンパス)」を開始しています。オンライン研修については、以下の記事で詳しく解説していますので、ぜひこちらもご覧ください。
人手不足が深刻になり、入社したての社員には一日も早く戦力に、教育担当者の負担は最小限にといった企業や組織が増えています。またDXが進むほど、変化のスピードが早くなり、知識がすぐに陳腐化。早い学び、知識や情報の共有スピードのアップなどが求められています。
そうしたときに有効なのがマニュアルのデジタル化です。クラウドサービスを利用すれば、テキストのマニュアルだけでなく、動画マニュアルも容易に共有可能。文字だけでは伝えにくかったことも、動画マニュアルなら分かりやすく伝えられます。
またテキストのマニュアルは、印刷版だと頻繁な改訂が難しいですが、デジタル版であれば改訂も容易。業務の変化スピードにマニュアルが追い付かないといった事態を避けられるでしょう。
デジタル化されたマニュアルは、パソコンだけでなく、スマートフォンやタブレットからも確認ができるため、知りたいときに、知りたい情報をその場で確認しやすくなります。確認したいときにマニュアルを閲覧できる環境を作ることで、よりマニュアルが組織に根付きます。社内のDXの推進状況にあわせて人材育成の方法を変えていく必要があるのです。マニュアルに関しては、以下の記事を参考になさってください。
ここからは、中小企業のDX推進に向けた取り組みの事例をご紹介しますので、自社へ導入する際の参考にされてください。参考にする際は、自社に活かせるのはどこで、活かせないのはどこか考えながら読むことが大切です。
「2021年版 中小企業白書」などにも多数事例が紹介されています。ここでの紹介は割愛しますが、ご興味のある方はぜひ参考にされてください。
引用:アサヒフォージ株式会社
岐阜県にある鍛造会社「アサヒフォージ株式会社」は、ビジョンの策定や戦略・体制の整備などをすでに行い、DX推進の準備が整っている事業者として経済産業省より「DX認定事業者」に認定されています。
顧客に頼りにされるトップメーカーであり続けるためには、IoT、AI等を有効活用したスマートファクトリーを確立して安全で働きやすい環境と生産性アップの実現を進めています。DXに対しての予算は、売上高の1%。IT人材として海外から4名の高度外国人材を受け入れ予定とのことです。
会計とシステム、データとセキュリティに関するノウハウを活かし、クライアントの状況を総合的に検討し、将来を見据えたうえで、クライアントにとって最適と思えるサービスを提供する「菅井公認会計士事務所」。
DXへの取り組みを実施するための体制を整備し、担当者に権限を付与。加えてDXの推進を加速させるため、挑戦することに対するインセンティブを付与しているのが特徴です。
積極的にテクノロジーの導入を進めているトライアルカンパニーが運営する「スーパーセンタートライアル長沼店」。ここではセルフレジ機能を備えた「スマートショッピングカート」を導入しています。
スマートショッピングカートは、カート付属のタブレット端末を操作することで、会計まで済ますことができ、レジに並ぶ必要がありません。レジ待ち時間の解消と小売業における人手不足の解消に寄与しています。
他にもAIカメラを利用した商品棚の欠品情報・店内の人の流れのデータ化&分析など先進的な試みが行われています。
ここまで、DXについて網羅的に解説してきました。この記事を読んで、「DXについては理解できたけど、何から始めればいいかわからない...」という方もいらっしゃるのではないかと思います。
いきなりすべてを変えるのではなく、まずは経費精算のシステムから、まずは人材育成から、など部分的に始めることが大切です。ステップを踏み、一つずつ進めていけば、どのような企業であっても必ずDXを推進することができます。
時代の変化は待ったなしではありますが、参考になる事例も多数出てきました。ぜひ貴社の業態や課題に近い事例を参考にして、今できることから始めましょう。