サービス業、医療現場、介護現場などあらゆる場面で必要とされる「接遇スキル」。接遇スキルは顧客満足度に直結する重要なスキルとなるため、企業として積極的に高めていきたいスキルといえます。
ところが、接遇スキルを学ぶための研修については、以下のようなお悩みを抱えているご担当者様も多いのではないでしょうか。
そこで本記事では、接遇研修について「接遇研修とは」という基本から、「実施するメリット」や「具体的な実施方法」まで詳しくご紹介いたします。ぜひ最後までご覧ください。
接遇研修とは、接遇スキルの向上を図る研修のことをいいます。「接遇」は、必要最低限のサービスの枠を超え、相手の状況や気持ちをくみ取った特別な応対のことです。とくに、コミュニケーションに関する研修を主な事業としているアドット・コミュニケーション株式会社代表取締役戸田久実氏は、自身の著書の中で接遇を下記のように示しています。
接遇:相手(お客さま)を理解し、適切に迎える応対
相手を「もてなす」「思いやる気持ちをもって応対する」という意味合いが強い
「引用:戸田久実著(2012)『ゼロから教えて接客・接遇』かんき出版」
つまり接遇スキルは「相手をもてなす気持ちや思いやる気持ちを、適切な応対で表現できるスキル(接遇スキル)」をいい、接遇研修はこのスキルの向上を目的とした研修といえます。
「接遇」と「接客」には以下の2つの観点から違いがあります。
<接客と接遇の違い>
接客 |
接遇 |
|
必要最低限のサービスかどうか |
必要最低限のサービス | 必要最低限の枠を超えたサービス |
お客様目線に立った対応かどうか |
お客様目線に立っていない対応 | お客様目線に立った対応 |
「接客」は、単に「お客さまに接すること・応対すること」、一方「接遇」は「お客さまを理解し、適切に迎える応対」を表します。接遇におけるサービスは必要最低限の枠を超え、相手の状況や気持ちをくみ取った特別な応対となります。
具体的にディスカウントストアを例に考えてみましょう。たとえばお客さまが持っている商品をレジに通すことは、単に行為だけをみればこれは「接客」です。
一方、お客さまが腰を悪くされていることを察知し、購入商品をお客さまの車まで代わりに運んだ場合、これは必要最低限のサービスの枠を超え「接遇」といえます。
このように、接客と接遇の違いは「必要最低限のサービスかどうか」「お客さま目線に立った対応かどうか」といった2つのポイントから考えてみてください。接遇に関する基本的な内容は以下の記事で詳しく解説しています。
ではなぜ、接遇研修が必要とされているのでしょうか。それは、顧客満足度とのつながりにあります。
2001~2002年にかけて札幌社会保険総合病院(現札幌北辰病院)が実施した調査では、「接遇が良いと思っている人は待ち時間に対する満足度が高く、接遇が悪いと思っている人は待ち時間に対しても不満と回答している」という結果が報告されました。「参考(札幌社会保険総合病院医誌):接遇の患者満足度に及ぼす影響」
これは、「接遇スキルの度合によって顧客満足度が変化する」ことを証明しているといっても過言ではありません。そして顧客満足度は企業のイメージや売上に影響を与え、企業の存続に密接に関わる指標であるからこそ、それに影響を与える接遇スキルが重要視されているのです。顧客満足度については、以下の記事で詳しく解説しています。
接遇が必要とされる理由について触れたところで、ここからは具体的に「接遇研修を行うメリット」についてご紹介していきます。接遇研修を行うメリットは主に次の3つです。
<接遇研修を行う3つのメリット>
詳しくみていきましょう。
まず、先ほどもご紹介したように、接遇スキルは企業の顧客満足度と密接な関係があります。そして企業の顧客満足度が高いと、次のようなメリットにつながり、結果として企業の利益に貢献してくれるのです。
<顧客満足度の向上によるメリット>
接遇研修による接遇スキルの向上が、結果的に企業にとってあらゆる利益の源になるということです。なお、くわしくは下記の記事で解説していますのでぜひご覧ください。
接遇研修による接遇スキルの向上は、企業の信頼感にもつながっていきます。実際に、教育研修インストラクターとして900回以上の研修経験をもつ箕輪由紀子氏の著書のなかでは、次のように記されています。
まず、「一人ひとりがその組織の代表」とは、お店でも、病院でも、営業で他社に行った場合でも、接客したあなた、担当したあなた、営業をしたあなたの対応で、会社や組織が判断されるということです。つまり、個人のイメージが組織のイメージとなり、信頼感につながるのです。
「参考:箕輪由紀子著(2019)『人間力とホスピタリティを極める心からの接遇』ごま書房新社」
たとえば、みなさんも次のような経験があるのではないでしょうか。「店員の態度が悪く(声が小さい、友達口調で話すなど)、その店のイメージが悪くなった」
このように従業員一人ひとりの接遇スキルは、良くも悪くも店舗や企業全体の信頼感につながるものです。接遇研修は、従業員の接遇スキルを企業の信頼感アップにつなげるための施策といえます。
従業員一人ひとりの接遇スキルは、企業の信頼感だけでなく、企業の「ファン獲得」にもつながっていきます。実際に、車を購入する場合など「あのディーラーがとても素敵な人だから、車を買うならあの人からと決めている」などという話もよくある話ですね。
ほかにも、スターバックスのカップにメッセージを書いてくれるサービスは、従業員一人ひとりの心遣い(接遇)によるものです。これはスターバックスコーヒーにおけるファン獲得の一環であり、日頃からの接遇研修による成果といえるのではないでしょうか。
では、実際に接遇研修を行う場合には、どのような研修ステップを踏めばよいのでしょうか。ここでは効果的な接遇研修にするための3つのステップについてご紹介いたします。
<接遇研修3つのステップ>
詳しくみていきましょう。
まずは接遇の重要性を知ってもらうことから始めましょう。その他の研修にも当てはまることですが、目的意識を持たせることは、研修の効果を最大化する上で非常に大切です。スタンフォード大学経営大学院教授のジェニファー・アーカー氏は、自身が登壇したイベントで次のような研究結果を紹介しています。
個人が目的意識をもつという習慣を身に着けると、行動の仕方ががらりと変わります。
ヴェロニカ・フタ、リチャード・ライアンという2人の研究者がある研究で、なにか1つのことをやる際に、半分の被験者に対しては日々意義を見出すように依頼して、目的意識を持つよう促しました。
その活動は社会とのつながりを強化したり、すばらしいことを成し遂げようとしたり、あるいはしばしば努力を要求されるようなことで他者を助けるようなことでした。
3か月後、その被験者グループはネガティブな感情がより少なく、自身の社会とのつながりに対してよりポジティブな感情をいただいていることが報告されました。
目的意識を持つことが長期にわたって、ストレスの軽減や幸福感の促進につながることを示唆しています。
(引用元:目的意識の有無があなたの人生を左右する)
■元動画はこちら
上記のことから、接遇研修を実施する上で、受講者に目的意識を持ってもらうことがいかに重要であるかがわかると思います。そのため接遇研修を行う際にはまず、受講者にその意味やメリットを理解してもらうよう努めることが大切です。
目的意識を持たせることで、単に接遇スキルを向上させるだけでなく、会社とのつながりを意識させ、よりよい成果を生む働きにつながることが期待できるでしょう。
接遇研修の目的が理解できたら、次に接遇マナーを学んでいきます。具体的には接遇マナー5原則と呼ばれる以下の5つで、これらが接遇の基本となります。
<接遇マナー5原則>
身だしなみ |
髪色や髪型、爪の長さ、化粧の仕方、服装、汚れ、体臭など |
あいさつ |
声の大きさやトーン、頻度、タイミングなど |
表情 |
会話中の表情、無表情になっていないか、適切な表情の作り方など |
話し方 |
言葉遣い、言葉選び、伝え方など |
態度 |
姿勢、目線、立ち方、座り方、歩き方、指のさし方、その他所作 |
上記には基本的な接遇マナーを記載しましたが、適切な接遇マナーというものは、業界・業種によって異なる部分もありますので注意が必要です。
たとえば、キャビンアテンダントは化粧を厚めに施します。これは、薄暗い機内のなかでも表情を明るくみせ、印象をよくするためです。一方、看護師や介護士など、患者と至近距離で接する職業ではナチュラルメイクが好まれる場合もあります。
もちろん接遇マナーの大部分はどの業界・業種にも当てはまるものですが、より効果的な接遇研修を実施するのであれば、業界・業種に精通した講師を雇うなどの対応も必要でしょう。
研修で学んだあとは、実践として現場でアウトプットをしていきます。このとき、先輩社員に協力してもらって、ロールプレイング形式もしくはOJT(On-the-Job Training)形式のどちらか、もしくはロールプレイング形式→OJT形式と順番に実施するのが好ましいでしょう。それぞれ以下のような特徴があります。
<ロールプレイング形式とOJT形式の特徴>
また、効果的なロールプレイングやOJTを実現するには次のようなポイントを意識するとよいでしょう。
一つひとつの行動には必ず目的を添えます。なぜやるのか、どういう意味があるのかを伝えることで頭と体の両方で実践しやすくなるものです。
また、新人は自分で考えて動ける人ばかりではありません。慣れるまでは、手の空いた時間に何をすべきか、今の作業のあとに何をすべきかをあらかじめ伝えておくことも教育者側が意識したいところです。
さらには、平成29年に独立行政法人 労働政策研究・研修機構が行った調査によると、「日常の業務のなかで仕事を効果的に覚えてもらうための取り組み」として「仕事について相談に乗ったり、助言している」が50.8%で3位にあがっていました。
とはいえ、「人材不足でOJT担当者を設けられない」という実態があるのも事実です。そのような場合は、新人の相談相手をOJTの教育担当者とは別で設け、コストを分散させてみるのも一つの手でしょう。
「参照元(独立行政法人 労働政策研究・研修機構):人材育成と能力開発の現状と課題に関する調査」
なお、より効果的なOJTの実施方法については下記の記事でくわしく解説していますので、ぜひご覧ください。
■参考記事
OJTにおける効果的な指導方法とは?失敗例から学ぶ育成計画の立て方についても解説
それでは最後に、接遇研修の実施方法についてご紹介いたします。主な研修方法は次の3つです。
<接遇研修3つの実施方法>
詳しくみていきましょう。
OJTは、実務を通じた人材育成のことをいいます。先輩や上司が直接的に指導を行っていく方法で、座学とは対照的なアウトプット型の研修方法です。
OJTがとくに重要視されるのは、看護師や介護士などの医療業界です。医療業界は採血などの技術的な研修をはじめ、患者に寄り添った対応など現場での学習が必要不可欠な業界です。とくに医療現場には、余命宣告を受けた人や病気の症状に苦しんでいる人など、さまざまな事情を抱えた人がいらっしゃいます。
そしてもちろん、あらゆる患者さまの心に寄り添ったサービスを提供するには、接遇スキルが欠かせません。接遇研修は机上(Off-JT)でも学べることはありますが、医療業界ではとくにOJTを通した接遇研修が効果的と考えられます。
外部企業や個人講師が実施するセミナーを「外部セミナー」といいます。適切な接遇マナーというものは、業界・業種によって異なる部分もありますが、多くの業界に共通する基本的な接遇マナーであれば、その道のプロに任せるほうが効率的でしょう。
また外部セミナーではその分野のプロが講師を務めるため、社内にはなかった新しい発想を得られる機会になる可能性もあります。単に時間の節約になる研修と捉えてしまうのはもったいない考え方です。
人材不足が深刻な医療・介護現場では、1回目の接遇研修として積極的に活用してみてはいかがでしょうか。
オンライン上で実施する研修方法を「オンライン研修」といいます。受講者はパソコンやスマートフォンなどを使用し参加できるため、場所を問わず参加が可能です。時間的コスト、経済的コストの削減につながるため、近年ではオンライン研修を導入する企業も増えてきました。
オンライン研修の実施方法は主に次の2つのパターンに分類されます。
①のWeb会議ツール(Zoomなど)を用いた方法は、受講者全員が異なる場所から参加していたとしても、コミュニケーションを取りながら実施できるのがメリットです。
一方、②のeラーニング形式の方法では、受講者の時間的融通が効く点や必要状況に合わせて視聴する動画を選択できるのがメリットといえます。前述したロールプレイング形式でのトレーニングも実施できる機能のついたオンライン研修サービス「shouin+」のようなツールも出始めています。
オンライン研修は、全国に支店をもつアパレル店舗や飲食店舗などでメリットが大きくなるでしょう。研修内容の差もなく全員に同じ研修を受けさせられるため、スキルの平準化にもつながります。
サービス業、医療現場、介護現場などあらゆる場面で必要とされる「接遇」。今回はその研修について、そのメリットや具体的な実施方法などをくわしくご紹介いたしました。
接遇スキルは、企業の顧客満足度に影響を与え、その結果企業のあらゆる利益につながる重要な指標です。そのため、接遇スキルを養うための接遇研修は、どの企業においても実施価値のある研修といえるのです。ぜひ本記事の内容を参考に、今後の貴社の接遇向上に活かしてください。