HRテックとは?言葉の意味や市場規模などについてわかりやすく解説!
近年リモートワークの普及や働き方改革の影響で、HR(Human Resources)と呼ばれる人事系分野にも、テクノロジーによる効率化の波が押し寄せています。例えば、人事管理、勤怠管理、採用管理、オンライン面接、リモート研修などが該当します。このような人事系領域をテクノロジーの力で効率化するソリューション全般のことを、「HR」+「テクノロジー」を組み合わせて「HRテクノロジー」と呼びます。日本では「HRテック」という呼称が一般的です。
これをお読みの方も気付かぬうちに利用しているかもしれないHRテックですが、そもそもHRテックとはどんなものなのか、なぜ現在多くの企業から注目されているのか、わからないという方も少なくありません。
今回はHRテックの生まれた経緯や普及してきた流れから、現状の活用について、さらに今後どのように発展していくのか、その展望についても解説します。
HRテックとは
HRテックとは、人的資源を表すHR(Human Resources)とテクノロジーを組み合わせた造語です。労務管理や採用管理、人材活用などの人事業務全般をテクノロジーを活用して効率化するソリューションとして注目されています。特に近年広がっているHRテックでは、AI(人工知能)、クラウド、ビッグデータ、これらを活用して、より膨大なデータを簡単に処理できるものも増えており、人事担当者の日々の業務を効率化しています。
ではHRテックという言葉はいつ生まれ、普及するに至ったのかについて、以下で説明していきましょう。
HRテックの普及
慶應義塾大学大学院経営管理研究科の特任教授である岩本隆氏の資料「HRテクノロジーの現況と今後の展望」によると、HRテックもといHRテクノロジーという言葉は、アメリカをはじめ海外では1990年代後半から使われており、日本国内に入ってきたのは2015年頃から使われ始めたとされている比較的新しい言葉です。
HRテックの変遷について書かれた、慶応義塾大学教授の岩本隆氏と株式会社groovesの池見幸浩氏による論文「HR Tech の変遷」によると、HRテックは次の3つに対応する課題解決方法として普及してきたといいます。
①ソーシャルメディアの浸透
2010年になると日本でFacebook が浸透してきました。Facebookは実名登録であり、これによって個人と企業人事が直接コンタクトを取ることができるようになりました。SNSの浸透は企業のリクルート方法が変化するきっかけとなりました。
当時9兆円という規模の国内人材サービス市場はそれまで大手数社でほとんど占められていましたが、Facebook や Twitter などに代表される SNS のアプリを活用することで、資金力や開発リソースが乏しいスタートアップ企業もソーシャルリクルーティング領域に参入できるようになりました。
これらの企業によって、HRテックを活用したさまざまなシステムが提供されるようになりました。
②人工知能の進化
論文「HR Tech の変遷」ではHRテックは「人に関するさまざまなパラメータにおいてデータ化する」→「データを分析する」→「分析結果 を表示し経営に生かす」という三つのレイヤで構成されていて、それぞれのレイヤでさまざまなテクノロジーが活用され始めているといいます。
中でも「データを分析する」 レイヤにおいて、人工知能を含むデータ分析技術が 急速に進化しており、HR テクノロジー としても活用されていると言及しています。
③働き方の多様化
コロナ禍で緊急事態宣言が発令されるなど外出自粛が呼びかけられるなか、企業も出社せずに自宅で働くことが推奨されたことをきっかけにリモートワークが急速に広がりました。近年では、働き方の多様化に対応する新しい形の人材活用サービスが登場しています。企業が切り出した仕事とワーカーをつなぐクラウドサービスを展開するクラウドソーシング大手のクラウドワークスは、前述の論文「HR Tech の変遷」で、2017年前期において約53億円の報酬をワーカーに支払ったと発表しています。日本が抱えている労働市場、人材不足などの課題解決に効果的です。
なぜ今HRテックが注目されているか
今、HRテックが注目されているのはなぜでしょうか。
政府は持続的な経済成長に向けて「人材」を経済政策の最重要テーマとし、働き方改革、人事採用の一元化など、人材を重視した政策を掲げています。このように、人材を重要視する背景にはさまざまな環境の変化が存在しています。
HRテックが重要視され、取り組まれるようになった背景を3つ説明します。
背景1:技術革新(AI・データ)の進展
HRテックが注目される背景の一つには、AI(人工知能)やビッグデータの進展が挙げられます。
IoT(Internet of Things:モノのインターネット)が発達し交通や気候、工場の稼働などがネットワークで情報を共有できるようになり、そのデータは蓄積されてビッグデータとなっています。必要に応じてビッグデータを解析して利用することがあらゆる産業や職種にまで及んでいます。
またAIはデータを分析するだけではなく、学習して知識を蓄えるようになりました。情報として取れるデータ量が増える中で、AIはさらに高度な進化を遂げています。
HRテックによって業務効率化を図るのはもちろんですが、人材に関するデータを集積させて最適な活用につなげることが期待されています。
背景2:人口動態の変化
日本における人口動態の変化も、その背景のひとつです。
書籍『編集代表 倉重公太朗氏 「HRテクノロジーで人事が変わる」労務行政研究所』には、少子高齢化による「人口減少」「人生100年時代」に表わされた「人口動態の変化」がHRテックの活用を進める要因だと書かれています。
総務省の人口推計を参照すると、日本の総人口は2010年を境に減少傾向に転じていて、生産年齢人口(15~64歳)に至っては、2060年には2017年に対して約6割になると、書籍『HRテクノロジーで人事が変わる』の中で言及されています。
人材不足が懸念される中で、企業は多様な人材を受け入れて、労働力の数と質を確保しなければならないという現状があります。
「人生100年時代」が現実になりつつある中、働き手としてもキャリアの再設計が必要となります。
これまでは人生を「教育・仕事・引退」という3つのステージに分けて考え、20代から仕事に従事し、60歳で退職、引退するというライフステージを標準としていましたが、この従前の標準的人生キャリアは、人生が100年と長くなった現代には当てはまらなくなってきています。
スキル、知識の再取得や定年後の起業など、多様な働き方を模索していく必要があります。
背景3:テレワークの浸透
近年は新型コロナ感染拡大防止の観点から、多くの企業でリモートワークが広がりました。テクノロジーの発展によって「同じ場所・時間で働く」という勤務条件の縛りから働き手が解放されているのです。
さらに育児や介護をはじめとした様々な事情を持った働き手が増えている中で、兼業や副業、フリーランスなど外部の人材の活用が重要になってきています。
書籍「HRテクノロジーで人事が変わる」によると、人事機能を向上させ、生産性を向上していくにはAIやデータによるHRテクノロジーの活用がきわめて重要だとされています。
これは、人事部門の効率化と高度化を実現するということと、もうひとつ従業員の一人ひとりが望むはたらき方を実現するということを意味しています。
HRテックに関わる代表的なテクノロジー
HRテックにはさまざまな技術・テクノロジーが活用されています。HRテックの分野で利用される代表的な技術を3つ紹介します。
1: AI(人工知能)
AIとはArtificial Intelligenceの略称で、人工知能のことです。コンピューターの性能が大きく向上したことにより、データを読み込ませることでコンピューターが学習できるようになりました。取り込んだデータをもとに分析し結果を提示します。
データをどんどんと読み込んで機械学習を繰り返すなどのAI技術の進化によって、翻訳の分野や自動運転、囲碁や将棋などの人間の知的活動に、AIが活躍するようになってきました。
HRテックは新しい分野であり、データ化がこれからというところもあり、まだまだ進化していくと言われてます。
2:クラウド
クラウドとはクラウド・コンピューティング(Cloud Computing)の略称で、ネットワーク経由でユーザーがデータやアプリケーション等のコンピューター資源を利用できる仕組みを指します。
つまり、データを社内ネットワークからしかアクセスできないオンプレミス型サーバーに置くのではなく、クラウド上に置くことで、会社外からでもアクセスできるようになりました。特にインターネットがつながる場所ならどこからでも接続できるクラウド型のサービスは、SaaS(Software as a Service:サービスとしてのソフトウェア提供)と呼ばれ、近年のBtoBサービスの在り方として一般的なものになりました。近年テレワークが定着してきましたが、事業所以外で就業の機会が増えており、一層クラウドやそれらを利用したシステムが注目されています。
3:ビッグデータ
ビッグデータとは、「事業に役立つ知見を導出するためのデータ」で、これを運用し、分析できる能力を超えるほどに蓄積されたサイズのデータを指します。
従来はコンピュータが処理できるデータ量には限界があり、限られたデータで分析を行っていました。しかしAIの普及やコンピュータがより高性能になったことで、より多くのデータを解析できるようになりました。例えば気温や湿度によってビールがどれだけ需要があるか売上予測、生産管理などに活用されています。AIが解析結果を出力するもとになる材料です。ビッグデータは大量であるほど、また多様性があるほどに精度の高い解析ができます。
HRテックにおいては、採用なら、応募者のパーソナリティを測定するテストやエントリーシート、アンケート、これまでの経歴などのデータがビックデータとなります。人材配置においては従業員の持っているスキルや資格、経験などがビッグデータのひとつとなります。
HRテック市場はどうなる?現況と展望
HRテックの市場は、今後どのように変化していくのでしょうか。ここでは現在の市場規模とこれからの展望についてみていきます。
1:現在の市場規模と予測
現在のHRテックの市場規模をみてみましょう。
デロイトトーマツミック経済研究所が発表した中期予測「HRTechクラウド市場の実態と展望 2021年度版」によると、2020年度のHRテック市場は444.0億円、2021年度には前年比130.2%の578.0億円に成長してきました。
コロナ禍において対面せずにwebで行う会議や商談、オンライン面接が浸透しました。事務所に集まって仕事をするスタイルから自宅でのテレワーク主体に切り替わり、チーム内の連絡や情報をチャットシステムを利用する、クラウドでの情報管理を進めるなど、企業は就業に関してDX(デジタルトランスフォーメーション)を推進しています。DXに関しては、以下の記事でわかりやすく解説しています。
■参考記事
デジタルトランスフォーメーション(DX)とは?どこよりも詳しく&わかりやすく解説!
就業の多様性を反映し、労働人口が減少する中で、今後は採用、人材確保・活用・育成などの人事マネジメントにおいて、HRテックがさらに重要度を増しています。
デロイトトーマツミック経済研究所の中期予測では、2022年度には764.0億円、2026年度には2,270億円の市場規模まで拡大するとしています。
(参照:デロイトトーマツミック経済研究所 中期予測「HRTechクラウド市場の実態と展望 2021年度版」 HRTechクラウド市場の中期予測)
2:HRテック市場の課題と展望
厚生労働省の発表した論文「HRテクノロジーの現況と今後の展望」では、HRテック市場の課題と展望について指摘しています。
この論文において、職場でAIの活用度合いについて調査した結果、日本は先進11カ国の中で11位と最下位だったと指摘しています。日本の企業はまだまだHRテックを活用しきれていないことが分かります。
(参照:厚生労働省「HRテクノロジーの現況と今後の展望」)
中小企業やスタートアップ企業においてはクラウド導入が進んでいる一方で、大手企業ほど従前の人事制度(終身雇用制や年功序列など)を崩すことが難しく、データ活用やクラウド化が進みにくいといいます。
日本におけるHRテックの活用を阻む課題には「技術革新が人の雇用を脅かす」という意識があるといいます。
この点についてレポートでは「AIと人材の力を合わせることで、新しい価値を生み出すことができ、さらなる発展につながる」と言及しています。
作業はテクノロジーで開発された機械が行い、人材は作業に取られていた時間を創造性のある仕事に集中することができます。AIと人材を合わせたチーム全体として生産性を高めることができ、新しい価値を生み出せると論じています。
日本・海外のHRテックの動向
海外と日本それぞれにおいて、HRテックの動向はどのようになっているのでしょうか。
リクルートワークス研究所 奥本英宏氏の報告書「今後の人材サービスの展望(2021年1月)」によると、米国においては人材派遣と人材紹介を中心に様々な領域でのテクノロジー活用がすでに進んでいることが分かります。
AIやアルゴリズムといった先進テクノロジーは、人材獲得プロセスのさまざまなサービスで活用されていて浸透しています。報告書ではHRテックの導入と進化は、大きく次の3つの方向性を持っているといいます。
- より個人にあった仕事、より企業にあった人材の絞り込み
- 求職者の活動負荷、求人企業の業務負荷の大幅低減
- アクションを起こしていない求職潜在層へのアプローチ
2016年におけるHRテックの活用市場規模は約1兆8000億円と非常に大きな額となっています。新たに参入する企業も多く、HRテックのサービスを提供する企業が一斉に集まるイベントなども世界中で行われていて、市場はさらに拡大をみせています。
日本におけるHRテックの方向性は、アメリカの上記3点と同じですが、採用ルールの違いなどから日本において提供されるサービス内容は一部限定的になるといいます。
書籍「HRテクノロジーで人事が変わる」によると、日本もまたHRテックに取り入れる企業が増えていて、HRテックの開発を新たにスタートアップする企業も増えているといいます。
日本では2017年以降に、従前の長時間労働の廃止などを盛り込んだ「働き方改革」が提唱されていて、これを実現する新たなソリューションのアイディアが集まっています。新しいHRテックのサービスが市場で展開されていくことが期待されています。
HRテックが提供される領域とシステム
HRテックが人事においてどのように活用されているのでしょうか。ここでは領域にわけてどのようなシステムが利用されているのかをみていきます。
(参照:HRテックカオスマップ2022年最新版)
採用に関する領域
企業が人材を採用するとき、一般的には書類審査や複数回にわたる面接を踏まえて選考します。しかしこの方法は、エントリーシートの確認や面接日程の調整など作業工数が多いこと、また面接官の採用基準のバラつきが生じることなどが課題でした。
HRテックには、AIによる統計技術を活用した採用活動の効率化を図るものや、合否判定の精度を高めるものなどがあります。
採用管理システム(ATS:Applicant Tracking Systemの略称)は採用までのプロセスを一元管理できるサービスで、たとえば応募者が採用のどの段階にいて、どのような評価を受けているか追跡することができます。
採用に関する領域のシステムには、サイト作成、採用管理、求人票支援、適性検査、面接などがあります。
求人に関する領域
HRテックには、求人情報を管理するシステムがあります。以下は機能の一例です。
- 求人媒体への一括掲載、管理
- 求職者情報の自動取り込み
- 求人媒体の分析
上記のような機能があり、求人情報管理システムを活用することで、それまでは求人情報を担当者が各サイトに登録していた手間を省くことができます。
求人に関わる領域として、アルバイト、中途採用、新卒採用、副業、転職、エンジニア向けなど業界に特化したものなどがあります。
さらに複数の求人サイトのなかで、自社の求める人材が登録しているサイトを特定する機能もあり、次回からの求人・採用に利用するサイトの選定の参考になります。
書籍「HRテクノロジーで人事が変わる」によると、求人募集に関しては、企業が人材データベースにアクセスし、スカウトメールを送るというものや、社内ネットワークを活用して、社員の知り合いを中心に募集を告知する、社員の紹介など、企業側が応募候補者を探す形式が増加しているといいます。
採用手法が形を変えて多様化している中で、求める人材を獲得するために、一層HRテクノロジーを駆使していくことになると指摘しています。
労務管理に関する領域
HRテックには、出退勤の時間管理や労務関連の申請に対応する労務や勤怠を管理するシステムがあります。
勤怠管理システムによって、労働時間の自動集計、従業員からの休暇・各種申請管理などの業務の効率化が期待できます。また、勤怠管理システムの情報を給与計算システム・ソフトと連携することで、これまで担当者が手作業で行っていた計算や転記などの作業を効率化できます。
労務管理システムを活用することで、従業員に確認しながら進めていた入退社の手続きや社会保険の届出、年末調整の手続きなどの業務を効率化できます。
労務関係の書類作成に必要な項目をWeb上で従業員自身にこれらの情報を入力してもらえば、労務担当者の作業負担が減ります。また、管理画面から書類の提出状況をチェックできるので、必要な書類の不足など未然に提出漏れを防ぐことができます。
給与計算システムは、給与や賞与の計算、明細発行、給与等の振り込みなど、給与に関わる一連の作業を効率化できます。
給与計算は、残業手当や社会保険料、住民税などを踏まえて計算する必要がある上に、月末に業務が集中して担当者の作業負担は大きいものでした。
給与計算システムを導入することで、残業手当やを反映させることができる、また正社員や契約社員、嘱託など、さまざまな雇用形態の従業員一人ひとりに合わせて計算式を設定できるため、煩雑で手間のかかった給与計算を自動化して担当者作業効率が高まります。
勤怠管理システムと連携すれば、リアルタイムで給与が計上できるシステムもあり、締日に業務が集中するデメリットの解消も期待できます。
エンゲージメントに関する領域
エンゲージメントとは、従業員の企業に対する帰属意識の高さ、目標達成、業績向上に寄与するための思いの強さを示すものです。エンゲージメント向上のための施策として注目されているのがHRテックでできる「パルスサーベイ」という調査手法です。
パルスサーベイとは、従業員エンゲージメント調査によって従業員の声を聞くための調査手法です。従業員の声を網羅的に集める「従業員満足度調査」とは異なり、質問数を3~5問程度に絞って、四半期に一度など頻度を上げて調査するものです。
リアルタイムで従業員の声を聞くことができ、浮彫になる問題点が特定されやすいのが特徴です。HRテックを活用して従業員エンゲージメント向上の課題点を見つけることができます。
書籍「HRテクノロジーで人事が変わる」によると、将来的には部門ごとの調査結果の傾向や特徴を明らかにして、他の人事データとの相関関係を調査することによって課題解決に有効なアクションプランを提示するところまで自動的に行われるようになる、と言及してます。
従業員エンゲージメントについては以下の記事で詳しく解説していますので、合わせてご覧ください。
■参考記事
従業員エンゲージメントとは?言葉の意味、構成要素、向上策、調査方法などについてわかりやすく解説!
タレントマネジメントに関する領域
タレントマネジメントとは人材管理のことで、従業員が持ち合わせるスキルや経験、資格、これまでの評価、教育などを管理するシステムで、人事評価、目標管理、モチベーション管理などのシステムが該当します。
HRテックによって従業員の人材能力を可視化し把握することで、能力開発や適切な人材配置に活かすことができます。従業員は適正な業務に就くことで一人ひとりが高いパフォーマンスを発揮できる環境を整えることで、事業全体のパフォーマンスが向上します。
また、得意とする業務を与えることでやりがいを見出しモチベーションの向上にもつながります。
その他の領域
HRテックは、従業員の健康を把握する「安全配慮」の領域や、「退職リスク」を予測することに役立てることができます。
従業員の健康管理に向けた企業の意識は近年高まっています。従業員の健康保持や増進に向けた取り組みにAIやビックデータが活用されています。
具体的には、従業員の健康診断結果を分析し、従業員の健康についての将来像のシミュレーションをすることができ、個人ごとに有効と思われる施策が提示できるようになっています。
ビックデータ解析によってメンタルヘルスの不調者の予兆を検出することができます。過去にメンタルヘルス不調で休職した従業員の休職直前の勤怠状態を分析し、その特徴をモデル化し、モデルと対比することで不調に陥りそうな従業員を早期に発見して支援することが可能になります。
退職リスクに関しては、勤怠データから数か月後の退職確率を予測するクラウド型勤怠分析サービスがあります。
その会社の過去の退職者の勤怠行動(出退勤時刻、遅刻、残業、早退、有給休暇の取得状況など)の軽微な変化を多数の切り口で指標化し、指標分析から退職者をモデル化して、モデルと従業員の勤怠行動にどれほど適合しているか、を評価することで退職確率を算出するしくみです。
書籍「HRテクノロジーで人事が変わる」では、数か月後の退職確率予測ができれば、面談などの施策から配置転換や待遇向上など手を打つことができるほか、外部からの中途採用などを早期に検討することができます。
HRテック導入のメリット
HRテックを導入するメリットにはどのようなことがあるのでしょうか。HRテックによって得られるメリットは3つあります。
メリット1:作業の自動化・効率化
HRテックの導入によって得られるメリットには、まず定型的な作業を効率化、あるいは自動化できることが挙げられます。
人事における給与計算や労務管理などの事務作業にかかる手間を軽減できれば、その分コア業務に時間を充てることができます。個人に関わる情報はデータベース化することで、必要な情報を各自が取り出すことができるため、人事担当者による出力や発送などの手間も省略できます。
また、個人情報については書類の紛失などがなくなり、情報管理におけるリスクを抑えることにも効果的です。
メリット2:客観的データによる人材活用
書籍「HRテクノロジーで人事が変わる」によると、人材マネジメントにおいてもHRテックの効果が期待されるとあります。
人事異動での配属先を検討する際は、人材の適性を考慮する必要があります。業務で求められるスキルや資格といった表面的な要素に加え、個人の性格や考えかた、業務に対する取り組み姿勢など、内面的な部分も重要な検討材料となります。
個人に関する情報をビッグデータとしてデータベース化して一元管理しておくこと、また、各部署での優秀なパフォーマンスを見せている人材の行動特性を分析しておくことで、「この人は数値管理に適している」「営業に向いている」などの配属先の方向性を捉えることができます。
また、人事評価においてもビッグデータは役立ちます。人が行う評価は、どうしても主観が入りバイアスがかかってしまいます。これによって正当な評価が実施できないということにつながります。
個人に関する情報と一緒に、目標に対する実績や行動をデータベースで管理しておくことで、客観的な評価が可能になります。
メリット3:離職率の低減
書籍「HRテクノロジーで人事が変わる」では、配属や異動において、人事の主観的な判断のみで決定するのではなく、AIやデータ分析を用いて客観的かつ定量的な判断手法を参考にして決定することでより適正に合った人材活用ができるとしています。
人材活用の適正化は、結果的に離職率の低減に大きく寄与します。従業員に適した業務や役割を与えることは、働きがいやモチベーション向上にもつながります。
個人の資質や思考スタイルに合わない職場では力が発揮できず自信を喪失し、その結果として離職にもつながってしまいますが、HRテックの活用で、適合する業務への配置転換を促すことができれば、大切な人材を失わずに済みます。
まとめ
HRテックは、働き手や企業が求めるニーズに対応して進化してきました。人材不足のなかで自社にマッチした人材を獲得するために、変容する労働環境や多様な働き方に対応するために、ますますHRテックの活用への期待が高まっています。
HRテックは、用途、目的に合わせてさまざまなシステムが提供されています。 自社の課題解決に必要なシステムを選んで活用しましょう。