会社を運営していく上で1つの課題となる「属人化」というキーワード。属人化は会社にとって多くのデメリットをもたらすため、属人化の解消・予防は会社にとって重要課題といえます。また在宅勤務が広まっている現代社会においては、これまで以上に重要視される課題となることが予想されます。
しかし、実際には多くの方が、
といった疑問を抱くのではないでしょうか。
そこで本記事では、「属人化とはどういう状態なのか」という基本から「属人化を防ぐ方法」まで、店舗運営における具体例とともに詳しく解説していきます。
属人化は、次のように解説されています。
企業などにおいて、ある業務を特定の人が担当し、その人にしかやり方が分からない状態になることを意味する表現。(出典:Weblio辞書)
例えば、みなさん自身このような場面を見かけたことはありませんか?
上司「Aさんが入院により出社できなくなりました。Aさんが退院するまでは、Bさんが代わりにAさんの業務を行ってください」
Bさん「その業務は、Aさんにしか分からない業務です。Aさんが不在である以上、私には対応できません」
この状態が、Aさんに「属人化している」といえます。決してめずらしい光景ではなく、身に覚えのある方も多いのではないでしょうか。
このようなポイントに当てはまれば、その業務は「属人化している」といえるでしょう。
そもそも、なぜ属人化は問題視されるのでしょうか?それは業務内容がブラックボックス化することにあります。
ブラックボックスとは、「大きな装置の構成ユニットとなる独立した電子装置、機能はわかっているが中の構造が不明の装置(参考:Weblio辞書)」のことで、その意味が転じて、ビジネス用語としては、インプットとアウトプットは明示的だが、実際どのような過程を踏んでいるかわからない状態のことを指すようになりました。
業務内容が属人化によってブラックボックス化することで、業務効率の悪化、業務品質の不安定化、再現性の欠如、作業内容が見えないことにより人事評価ができない、などさまざまな問題を引き起こし、会社に悪循環を作り出しかねません。まずは属人化の明確な問題点を理解するところからはじめましょう。
属人化によるデメリットは主に次の5つです。
ひとつずつ詳しく解説していきます。
業務が属人化している状態では、これまでに蓄積してきたノウハウ(知識や経験)が失われるリスクを抱えていることになります。
何らかの理由で担当者が急に不在となったとき、そのノウハウは会社のどこを探しても当然見つかりません。属人化は、会社にとっての資産が常にリスクにさらされている状態なのです。
また経営者向けセミナー「経営の12分野」にて講師・責任者を務める、ビジネスバンクグループ執行役員である黄塚森氏は、次のように解説しています。
たとえば、あなたの会社に十分な売上があり、一見すると業績が好調に思える状態にあるとします。そういった状態でも、その売上をたった一人の営業マンが属人的につくっているのであれば、実は会社は「その人がいなくなった場合にその売り上げがそっくり無くなる」というリスクを背負っているのです。
(参考情報:部下が疲へいするのは●●が原因だった!?属人的なタスクを減らす「仕組み化」のポイント)
業務が属人化していると次のような不測の事態に対応できなくなります。
誰も代わりが務まらず、大きな問題に発展する可能性が高くなるでしょう。仕事のスピードは落ち、場合によってはお客様に迷惑がかかることや業績悪化につながることも考えられます。
業務が属人化している状態では、業務のクオリティはその担当者1人に依存してしまいます。担当者のスキルや体調次第でクオリティが左右されるため、非常に不安定な状態といえるでしょう。信用問題に関わる深刻なデメリットといえます。
仕組み経営株式会社取締役の清水直樹氏も、自身が運営するWEBメディア「仕組み経営」において次のように解説しています。
人は機械と違い、その時の気分や体調によって仕事の品質が変わります。また、過去に行った仕事のやり方を忘れてしまったり、ミスをしてしまったりすることも当然起こりえます。仕事が属人化してしまうと、そのような人独自の悪い特性が仕事の品質に影響を与えてしまうのです。そのため、仕事のアウトプットが安定しません。ある時はいい顧客サービスを提供できても、別の時には、それができない、ということも起こりえます。これでは会社のブランドにも大きな悪影響を与えることになります。
(参考情報:仕組み化の3つの意味について解説)
ミスが発生したとき、通常(担当者数人で行っている場合)なら複数人で対応・スムーズな対処ができますが、1人の担当者に業務が属人化していてはそう上手くはいきません。
重大なミスが発生していても気づけないことや、意図的に隠されてしまうこともあるのです。
属人化は会社としてのリスクだけでなく、社員個人としてのリスクも大きいものです。
「自分の代わりがいないから、すべて自分でやるしかない」
といったように責任を感じ、肉体的・心理的に追いつめられる原因になってしまいます。属人化が進行する場面では担当者が多忙を極めている可能性が高いため、とくに注意が必要です。
何事も、解決策を見いだすには原因把握が大切です。そこで次に、属人化の「原因」についてみていきましょう。
属人化が生じる原因は主に3つです。
詳しく見ていきます。
最も属人化の原因となりやすいのが、「高度なスキルが必要とされる業務である」ことです。一定以上のスキルが必要となるため、対応できる人が限られる上に業務へのハードルが高い。その結果、1人の担当者に負担が集中してしまうという構図です。
高度なスキルが必要とされる業務とは、例えばアパレル店舗であれば次のようなものが考えられます。
いずれも一定以上の知識・技術・経験が必要とされる業務と考えられ、属人化しやすい業務といえるでしょう。
こちらもよくある原因の1つです。みなさんの周りにもいらっしゃるのではないでしょうか?
「多忙で日々の業務を問題なく進めるだけで手一杯、マニュアル作成をしている余裕なんてない……!」という状態の方々。
一度このような状態になってしまうと、誰かに助けてもらいたくても「他者にお願いしている余裕がない」「部下を育てる余裕もない」とさらなる属人化を促す結果となり、悪循環がどんどん加速してしまうのです。
そもそも属人化への意識が薄ければ、「マニュアル作りは面倒だからやりたくない」、「マニュアル化により自分が必要とされなくなったら困る」などといった理由で、マニュアル作成が意図的になされないこともあります。
一方で、いくら属人化のリスクへの意識が高くても、「マニュアルの作り方が分からない」、「伝わりにくいマニュアルが完成した」となってしまっては意味がありません。
つまり、属人化が改善されない原因として「マニュアルを作ろうとしない人」と「マニュアルが作れない人」がいるということです。
特に「マニュアルが作れない人がいる」という点に関しては、経営コンサルを手がけている株式会社日本総合研究所が自社運営メディアにて次のように解説しています。
意欲があっても、能力が不足していては仕組みを動かせません。ところが、この点は意外に見過ごされているような気がします。やらせる側の立場に立つと、いきなり「なぜ、やらないのか」という発想になりがちですが「やらないのではなく、できない」場合があるのではないでしょうか。スポーツ競技でも、初心者が体の動かし方やゲームのルールを理解しただけで、いきなり試合に出場して活躍できるはずがありません。ものごとに対する理解度(対応能力)の水準には、内容を正しく理解していない→内容は理解している→理解した内容を他人に説明できる→理解した内容を実際に自分が実行できる等の段階があります。目には見えにくいかもしれませんが、経営の分野で仕組みを動かす時にも同じような状況が起きているはずです。
(参考情報:仕組みが上滑りする訳)
一般的に、マニュアル作成は「評価されにくい業務」でしょう。会社の売上に分かりやすく貢献できるものではありませんし、日々の業務でも後回しにされがちな業務であるためだと考えられます。
マニュアルの重要性が理解されていない会社ではとくに起こりやすい現象で、まずは意識作りから始める必要があります。
さて、ここからは属人化を防ぐ「解決策」を具体的に解説していきます。ぜひ、みなさんが日々行っている業務をイメージしながら読み進めてください。
業務の標準化とは、業務の作業手順や方法を基準化することで、誰もがその基準にしたがって同様に作業ができる状態にすることです。業務を標準化することは属人化の解消・予防への第一歩であり、次に解説する「マニュアル作成」につながる大切なポイントでもあります。
標準化は、各業務を行う上で重要なポイントを絞り、できる限り言語化・数値化することで完成していきます。より具体的な方法は後の章(業務を標準化するためにやるべきこと)で解説しますので、ぜひご覧ください。
属人化の原因として「高度なスキルが必要とされる業務である」がありましたが、業務の標準化を行えば特別なスキルを持っていなくても、誰もがその業務を対応できるようになるのです。
属人化を防ぐには、マニュアル作成が欠かせません。実例として、独自のマニュアル作成で業績をV字回復させた無印良品の話は有名です。
例えば、無印良品のマニュアルは、合計2,000ページにおよぶ各店舗向けの業務マニュアルと、合計6,600ページにおよぶ本社向けの業務マニュアルの2種類があります。無印良品は自身で「無印良品は仕組みが9割」というほど、仕組み化(マニュアル化)を大切にし、会社を守ってきています。(参考情報:松井忠三(2015)『図解 無印良品は、仕組みが9割』角川書店)
とはいえ、マニュアル化も簡単な作業ではありません。属人化の原因で説明したように、担当者によってマニュアルを作らない・作れない人がでてくること、またマニュアルを作る上で大切な「業務の標準化」も少し難しい作業になるからです。
だからこそ、マニュアル作成は次の3つのポイントを大切にしてください。
まずはマニュアル作成を担当者個人に依存させず、会社全体の課題として取り組むことからはじめましょう。社内で完結させるほどの余裕がない場合は、専門業者へ外部委託するのも1つの方法です。
(参考情報:松井忠三(2015)『図解 無印良品は、仕組みが9割』角川書店)
マニュアル作成の基本は以下の記事で詳しく解説していますので、ぜひご覧ください。
属人化を防ぐには、従業員スキルの平準化(均一化)も欠かせません。従業員のスキルが平準化すれば、個人に頼らずとも複数人で業務を継続的に安定して行えるようになります。
しかし、スキルの平準化は非常に難しいことです。社員を教育するにはスキルが必要で、誰にでもできることではありません。教育者個人のスキルによっても経験値に差がでるため、多店舗運営ではとくに「店舗によってスキル(接客レベルなど)に差がある」なんてことはよくある話かと思います。
では、いったいどうしたらよいのでしょうか。それは方法1と方法2でご紹介した業務の標準化とマニュアル作成が鍵になります。標準化したオペレーションをマニュアルに落とし込み、正確に定義することで、誰でも迷うことなく作業ができるようになります。
また適切なマニュアルがあれば、新人だけでなく、リーダー教育など、あらゆるレベルの従業員に対して教育が可能です。そしてきちんと教育することで、結果として会社全体のスキル平準化、売上の向上を実現させます。詳しい方法はこの後の章(従業員スキル平準化の3ステップ)で解説します。
業務の標準化とは、業務の作業手順や方法を基準化することで、誰もがその基準にしたがって同様に作業ができる状態にすることです。
また平準化とは、従業員一人ひとりのスキルを均一化することをいいます。従業員のスキルの均一化をすることで、個人に頼らずとも業務を継続的に安定して行える状態にできるため、属人化の解消のために有効な手段といえます。
つまり、業務の標準化とスキルの平準化のどちらともが、属人化には欠かせないということです。次の章では、そんな属人化に欠かせない標準化と平準化のやり方を解説していきます。
なお、平準化については「サービスやスキルを平準化し、顧客満足度を向上させる方法」の記事でも詳しく解説しています。平準化を行うためのおすすめツールも紹介していますので、ぜひ参考にしてください。
マニュアル作成につながる重要な作業となる「業務の標準化」。標準化、つまり「1つの業務を誰もができる状態」にするには、3つの手順があります。
では具体的にどのように行っていけばよいのか、詳しく解説していきます。
まずは、業務の洗い出しからはじめましょう。マニュアル作成という目標の「全体像」を把握するためです。
作業方法としては、1つのポジションに対して
行っているのかを明確化してください。
業務の洗い出しを行うことによって、マニュアル作成の中身が見えてくるはずです。
業務の洗い出しが完了したら、次は作業手順に沿って流れをデザインしていきます。「業務を洗い出す」の行程で挙げた3つのポイントをもとに、フローチャートを作成してみましょう。
フローチャート内で複数の業務が並行する場合は、優先順位を明記しておくことも大切なポイントです。また、この段階で「あれ、この手順って何のためにあるんだろう?」「この手順は要らないだろう」と感じる作業がでてくることがあるかもしれません。そう感じたときは、まさに業務効率化のチャンスです。この機会に、作業手順の見直しを検討・提案してみてくださいね。
業務の洗い出し・手順の見える化が完了したら、最後は「言語化・数値化」を行っていきます。これが、業務の標準化において幹となる部分です。少し難しいところではありますが、後々のマニュアル化には欠かせない重要ポイントとなりますので、丁寧に行っていきましょう。
具体的なやり方としては、業務に必要となるノウハウを、できる限り説明がつくように言語化・数値化します。例えば無印良品では、コーディネートをするときのポイントとして次のように標準化を行っています。
マネキンのコーディネートなどは、それこそ「センスや経験が問われる作業」に思えますが、無印良品ではこれもマニュアル化しています。コーディネートを本格的に勉強するとなれば、覚えるべきことは際限なくありますが、MUJIGRAMではたった1ページのなかにポイントを絞り込んでいます。
基本はこの2点だけです。
このように、一見センスや経験でしか語れないと思われる業務でさえも、正しく定義づけさえ行うことができれば標準化することができます。
従業員のスキル平準化は、マニュアル作成がカギになります。株式会社良品計画の元会長である松井忠三氏は同著で次のように記しています。
マニュアルで「人材」も育成できる
仕事を覚えるのに一五年かかるのは、上司から部下に仕事の仕方を口頭で教えるという、いわば“口伝の世界”だったからです。私はこれを明文化しようと決めました。一五年かけていた仕事を、新入社員でも、ある程度できるようにしたかったのです。
その仕組みができたことで、経理の担当者はわずか二年間でひと通りの仕事を覚えられるようになりました。五年もあれば一人前の経理部員のレベルです。
マニュアルをつくると、効率的に人材育成ができるようになるのです。
マニュアルがあるだけで、仕事を3倍もはやく覚えられたという実話です。スキルの平準化に対するマニュアルの重要性が強くうかがえると思います。
では平準化を進めるにあたり、具体的にどのようなステップを踏めばよいのでしょうか。3つのステップでご紹介します。
まずステップ1では、マニュアルを社内全体で共有するところからはじめます。これは店舗ごとにスキルの差が生じないように、それぞれの店舗のノウハウを1カ所に集める工夫です。無印良品の店舗で使われているマニュアル「MUJIGRAM」と同じ方法ですね。
店舗ごとに従業員のスキルに差が生まれがちな多店舗運営ではとくに、社内全体で共有されたマニュアルがあることでバラつきを最小限に抑えられるでしょう。
次のステップは、「マニュアルをもとに教育を行うこと」。章の頭で紹介したように、マニュアルがあれば、人材を均一に育てることができます。社内のノウハウを結集したマニュアルをもとに、3倍効率で従業員を教育しましょう。
従業員への教育は、1回だけでは終わりません。定期的な実施とヒアリングを行い、目標や目的に合わせて教育内容を変えていく必要があります。ヒアリングの中では「現場の状況に変化はあるか」「目標に変化はあるか」「スキル不足で困っていることはないか」をたずねましょう。
また、マニュアルの見直しも忘れてはいけません。マニュアルは、常に変化していく社会に合わせて常にアップデートが必要となるものです。定期的な見直しを実施し、マニュアルを腐らせないよう注意してください。
また経営者向けセミナー「経営の12分野」にて講師・責任者を務める黄塚森氏も、リクナビNEXTジャーナルによるインタビューで次のように解説しています。
「仕組みを運用してみて「1周したタイミング」で、フィードバックやメンテナンスをする時間を設けます。実際に運用して仕組みがきちんと一周すれば(仕組みが動き初め、終了すれば)、良い点も、改善点も、どちらも必ず見えるはずです。「仕組み」はつくっただけでは意味がなく、機能してこそ意味をなすもの。メンテナンスし続けて、より良い仕組みをつくっていきましょう。」
(参考情報::部下が疲へいするのは●●が原因だった!?属人的なタスクを減らす「仕組み化」のポイント)
会社を運営していく上で1つの課題となる「属人化」というキーワード。属人化は、これまでにつちかったノウハウが継承されないなどのデメリットが多く、属人化の解消・予防は会社にとっての重要課題です。
そして属人化の解消・予防には、業務の標準化からはじまり、マニュアル作成、従業員スキルの平準化までつなげることが非常に有効です。ぜひこの記事を参考に、属人化対策に取り組んでみてください。