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リカレント教育とは?生涯学習やリスキリングとの違い・背景・メリットなど、わかりやすく解説!

研修 ノウハウ ナレッジ
2023.01.23
松木 謙介

終身雇用が当たり前だった20世紀の日本。

近年では急速に変化する社会情勢の中、変化に対応するための学び直しが必要となっています。基礎教育だけで生涯働ける時代とはいえなくなりました。

そのような時代の中、注目を集めているのが「リカレント教育」です。

厚生労働省でも、経済産業省・文部科学省等と連携したキャリア相談や学びにかかる費用の支援に取り組むなど、国をあげてリカレント教育を推進しています。

ところが、リカレント教育と聞いても、次のような疑問を持つ方が多いのではないでしょうか。

「そもそもリカレント教育って何?」

「リカレント教育が必要とされる理由は何?」

「企業で導入するにはどうしたらいいの?」

そこでこの記事では、リカレント教育の基本から必要とされる背景やそのメリット・導入方法までくわしく解説していきます。実際の企業事例もご紹介いたしますので、ぜひ参考にしてください。

 

リカレント教育とは

リカレント教育とは、義務教育を終えた社会人が、自身のキャリアのために生涯にわたって学び直しを繰り返すことをいいます。「リカレント(Recurrent)」は「回帰」を意味する言葉です。

たとえば、スウェーデンやフランスでは勉学のために有給で一定期間仕事を休める「有給教育制度」が、アメリカでは地域住民が主体的に集まって学習を行う「コミュニティ・スクール」が、リカレント教育の事例として有名です。

しかし、欧米諸国では上記のようにリカレント教育が広く浸透している一方、残念ながら日本ではまだまだ浸透していないのが現状です。

 

リカレント教育の歴史

リカレント教育が注目されるようになったのは、1969年にフランスで開催された第6回ヨーロッパ文部大臣会議がきっかけだと言われています。

スウェーデンの文部大臣であったオロフ・パルメ氏が、自身のスピーチ内でリカレント教育について語ったのだそうです。

そして、1970年にはOECD(経済協力開発機構)がリカレント教育を提唱し、世界的に広く認知されていきました。

 

リカレント教育と似た言葉との違い

リカレント教育に似た意味の言葉として、「生涯学習」や「リスキリング」があります。違いについて簡単にご紹介しましょう。

 

生涯学習との違い

リカレント教育と生涯学習の違いは、大きくその目的にあります。リカレント教育は「仕事・キャリアに活かすこと」を目的としている一方、生涯学習は「豊かな人生を送ること」を目的としています。

とくにリカレント教育では、人生100年時代と言われている昨今において「生涯働き続けられること」を重要視しているため、学習を仕事・キャリアに活かすことがポイントとなるのです。

 

リカレント教育

生涯学習

目的

仕事・キャリアに活かすこと

豊かな人生を送ること

内容

生涯働き続けられるように、仕事やキャリアに活かせる知識や技術を習得する

仕事や趣味・スポーツなどの人生を豊かにするための知識を習得する

 

 

リスキリングとの違い

リカレント教育とリスキリングは、大きく「仕事・キャリアに関する学習」という点では共通しています。しかしもう少し掘り下げていくと、リスキリングでは「新しいスキルを獲得すること」といった、より具体的な目的があります。

これは、DX(デジタルトランスフォーメーション)が推進される時代においてデジタルやコンピュータに関する知識の需要が増してきたことが理由の一つです。新型コロナウイルスの流行によって、オンラインによる働き方が求められるようになったことも大きく影響しているでしょう。

 

リカレント教育

リスキリング

目的

仕事・キャリアに活かすこと

新しいスキルを獲得すること

内容

生涯働き続けられるように、仕事やキャリアに活かせる知識や技術を習得する

デジタル化にともなって必要とされる新たな職種や大幅に変化が生まれる職種に就くためのスキルを習得する

 

リカレント教育が必要とされる背景

リカレント教育が必要とされる理由には、主に次の3つの背景があります。

リカレント教育が必要とされる背景

  • 人生100年時代の到来
  • デジタルディスラプションの時代へ
  • 終身雇用が当たり前ではない時代

くわしく見ていきましょう。

 

背景1:人生100年時代の到来

ある研究によると、2007年生まれの日本人の半数が107歳より長生きすると予想されています。定年が60歳なら、余生は45年以上です。退職金と年金だけでは、充実した暮らしをするのは難しいでしょう。

2007年生まれの子どもの半数が到達する年齢

(出典:大前研一著(2019)『大前研一 稼ぐ力をつける「リカレント教育」』株式会社プレジデント社)

そこで、リカレント教育が必要になります。生涯現役を前提とし、自分自身でお金を稼ぐ力を身に着けることが重要となるからです。人生100年時代の到来を見据えて、国民一人ひとりが自身の人生を充実したものにするためにも、リカレント教育が必要とされているのです。

 

背景2:デジタルディスラプションの時代へ

デジタルディスラプションは、デジタル化によるイノベーションが原因となって、デジタル業界に破壊的変革が起きることをいいます。

たとえば、Netflixを代表とするインターネット動画配信サービスの登場により、レンタルビデオ業界が倒産に追い込まれる事例などがこれに当たります。

そしてこのような時代では未来が読めないからこそ、新しい知識や技術をもってアイデアを生み、変革を起こし続けるしかありません。デジタル化の時代で生き残っていくために、リカレント教育による継続的な自己アップデートが必要とされているのです。

 

背景3:終身雇用が当たり前ではない時代

20世紀の日本では終身雇用が当たり前でした。しかし今は、もうその価値観は大きく変わっています。

実際に総合転職エージェントの株式会社ワークポートが全国の転職希望者405人を対象に実施した調査によると、「現在の会社(直近まで働いていた会社)に入社したとき定年まで働くことを想定していたか」という質問に対し「はい」と回答したのはわずか31.4%でした。なんと7割近くの人が「定年まで働くことを想定していなかった」というのです。

回答者のコメントとしては、「後に独立する計画を立てていた」や「転職してキャリアアップしていく時代だと思う」などと、転職=キャリアアップとの考えが目立つ結果に。終身雇用が当たり前ではない時代はもうすでに到来しているといってよいでしょう。

現在の会社(直近まで働いていた会社)に入社したとき定年まで働くことを想定していたか)

(参照:<転職希望者のホンネ調査>「終身雇用」について調査を実施|株式会社ワークポートのプレスリリース)

とはいえ、転職およびキャリアアップには新しいスキルの獲得が必要不可欠です。リカレント教育が必要とされる背景には、このような時代の変化もあるのです。

 

リカレント教育を導入するメリット

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リカレント教育の必要性やその背景を理解いただけたところで、ここからはリカレント教育のメリットについてご紹介したいと思います。

リカレント教育を企業で導入するメリットは、大きく次の3つです。

  • メリット1.業務効率化につながる
  • メリット2.従業員満足度の向上につながる
  • メリット3.離職率の低下につながる

くわしく見ていきましょう。

 

メリット1.業務効率化につながる

リカレント教育は、従業員が時代に即した知識や新しいスキルを身に着けることで、直接的に業務効率化につながります。

とくにデジタルトランスフォーメーション(DX)が急速に進む現代では、これらをサポートできるデジタルスキルが役に立つでしょう。デジタルスキルには、たとえばプログラミングスキルやセキュリティに関する技術、情報処理に関する知識・技術などがあります。

 

メリット2.従業員満足度の向上につながる

学び直したいと思うか学び直しやスキルアップのための支援を行っている企業に魅力を感じるか

(参照:<働くみんなのホンネ調査> 「リカレント教育」について調査を実施|株式会社ワークポート)

従業員満足度は、従業員が会社などの所属組織に対してどれだけ満足しているかを表す指標です。

そしてリカレント教育は、この教育を実施すること自体が従業員満足度の向上につながります。実際に総合転職エージェントの株式会社ワークポートが転職希望者を対象に実施した調査によると、社会人以降も「学び直したい」と感じている人は全体の77.3%におよんだ上、「学び直しやスキルアップのための支援を行っている企業に魅力を感じる」と答えた人も全体の93.5%におよんでいます。

つまり、リカレント教育は企業にとっても従業員にとってもメリットの大きい教育であるということです。また、リカレント教育によって身に着けた知識や技術で業務効率化が実現することで、さらなる従業員満足度向上が期待できるでしょう。

 

メリット3.離職率の低下につながる

みなさんは「従業員エンゲージメント」という言葉をご存じでしょうか?

従業員エンゲージメントとは、従業員がその職場や組織に対して貢献したい!と思う意欲を表す指標です。企業で働く人々の従業員エンゲージメントが高い(=貢献意欲が高い)と、仕事の生産性が上がり、結果として顧客満足度の向上や従業員の定着率が向上すると言われています。

そして従業員エンゲージメントは、書籍『組織の未来はエンゲージメントで決まる』(新居佳英著 2018 英治出版株式会社)によると、次の9つの要素から成り立っているといいます。

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リカレント教育を企業で実施することは、このうちの「自己成長」「支援」「組織風土」につながります。そのため、リカレント教育が従業員エンゲージメントの向上をサポートし、結果として離職率の低下につながることが期待できるのです。

■参考記事

従業員エンゲージメントとは?言葉の意味、構成要素、向上策、調査方法などについてわかりやすく解説!

 

リカレント教育を導入するためにすべきこと

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さてここからは、リカレント教育導入に向けた内容をご紹介していきたいと思います。後ほど、リカレント教育導入に関する国の支援制度もご紹介しますので、そちらも合わせてご覧ください。

 

社内での学習環境を整える

リカレント教育を企業で導入する上で、まずは社内の学習環境を整えることが望ましいでしょう。

学習環境を整える方法としては、たとえば外部講師による研修を定期的に実施することや、eラーニングなどのオンライン学習環境を用意することが挙げられます。

近年ではオンライン学習をサポートするクラウドサービスも多く展開されていますので、活用してみるといいかもしれません。

オンライン研修サービスの例

  1. shouin+(ショウインプラス)
  2. ClipLine(クリップライン)
  3. Careership(キャリアシップ)
  4. Coursebase(コースベース)
  5. Teachme Biz(ティーチミービズ)

なお、これら5つのサービスの違いについては下記の記事でくわしく解説しています。ぜひ参考にご覧ください。

■参考記事

オンライン研修はどこまで進化しているの?組織の未来を変える研修サービス5選

 

学習支援制度を整える

企業の場合、従業員が自主的に行う学習やチャレンジを支援する形でリカレント教育を推進する方法もあります。下記にあげる事例を参考に導入をぜひ検討してみてください。

学習支援制度の例

制度名

内容

自己啓発支援制度

働きながら資格を取得しようとする従業員を支援する制度。資格取得に対する書籍購入の補助金支援や報奨金の支給、また有給休暇を取得しやすい環境づくりなどを行う。

教育研修奨励金制度

自主的に受講する外部研修費用を支援する制度。

社内公募制度

人材募集を行っているポジションに対して、従業員が自発的に応募できる制度。従業員のチャレンジを支援する。

 

 

キャリア支援制度を整える

学習支援だけでなく、従業員の「キャリアアップ」にフォーカスをした支援制度も多くの企業で取り入れられています。転職をしなくてもキャリアアップが目指せる企業になれば、定着率アップも期待できます。ぜひ参考にしてください。

キャリア支援制度の例

制度名

内容

キャリア面談

キャリアシートを用いて今後のキャリアについて考える機会をつくる。

従業員は職務経歴や業務経験、得意分野、これまでのキャリアなどを踏まえて今後希望する職種やキャリアについて考え、キャリアシートをもとに定期的に上司と面談を行う。

キャリアアドバイザー制度

キャリアアドバイザーを設置する。従業員一人ひとりが自身のキャリア形成について考え実践できるよう、面談や研修(レクチャー)を通じて支援を行う。

育成コース別人事制度

目指すべき人材像や育成段階に応じて、コース別にキャリア支援を行う制度。配置や等級・昇格・支援プログラムをコース別に設定する。従業員は上司との相談の上でコースを選択できる。

 

 

リカレント教育導入をサポートする支援制度

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厚生労働省では、リカレント教育推進のため、次のような支援制度を設けています。企業向けに活用できる支援制度をピックアップしてご紹介します。

 

人材開発支援助成金

企業が従業員に対して研修等を実施した場合に、経費等の助成が受けられる制度です。研修のために新たに休暇制度を導入した場合は、研修費用に限らず「制度導入にかかった経費」や「研修期間中の賃金」なども助成の対象となります。リカレント教育導入の第一歩として活用しやすい制度といえます。(参考情報:事業主への助成金 |厚生労働省

 

生産性向上支援訓練

独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構が提供している、企業の生産性向上のため、必要な知識・スキル習得をサポートする職業訓練制度です。生産管理をはじめ、IoT、クラウド活用、組織マネジメント、マーケティングなどさまざまな分野の講座が用意されています。(参考情報:生産性向上支援訓練|独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構

また、目的に合わせた個別企業の課題に合わせてカリキュラムモデルをカスタマイズする「オーダーコース」を選択することも可能です。有料(一人あたり2,200円〜)ではありますが、人材開発支援制度を利用できるため低コストで訓練を受講することができるでしょう。

なお令和4年度からは、DX(デジタルトランスフォーメーション)に関する要素を含むコース「DX対応コース」が新たに追加されています。

 

企業内のキャリアコンサルティング(セルフ・キャリアドック)

キャリア形成サポートセンターによる支援を無料で受けることができます。企業向けに実施されている内容は主に次の3つです。

企業向けサポート内容

①ジョブカードを活用したキャリアコンサルティング

企業・団体の従業員に対して実施される、ジョブ・カードを活用したキャリアコンサルテイング。ジョブ・カードは能力評価や採用時の応募書類にも活用可能。

②セルフ・キャリアドックの導入支援

キャリアサポート支援を体系的に導入したい企業向けのサポートを行う。導入コンサルタントが企業に伴走しながら支援を行ってくれる。

③雇用型訓練

雇用型訓練を実施したい企業向けの支援。キャリアコンサルタントが、ジョブ・カードを活用した個別面談や、キャリアコンサルタントの紹介・派遣、訓練計画の策定支援、訓練担当者や評価者への講習やアドバイス等を実施する。

 

 

大手企業のリカレント教育事例

それでは最後に、実際に企業で導入されているリカレント教育の事例を見ていきましょう。下記2社をピックアップしてご紹介いたします。

  • 株式会社ファーストリテイリング
  • イオンリテール株式会社

 

株式会社 ファーストリテイリング

ユニクロ、ジーユーなど複数のブランドを世界中で展開する、株式会社ファーストリテイリング。ファーストリテイリングでは、「人生のハンドルは自分で握るべき」という考えのもと、キャリア形成に関する支援制度を下記のとおり実施しています。

ファーストリテイリングで導入されている、4つのキャリア支援制度

①社内公募制度

半期に一度、各事業や各部署に自ら手をあげて応募できる制度。年次・年齢・希望先の制限はない。従業員はあらゆるフィールドへチャレンジができる。応募後は面接および選考を実施する。

②個別育成計画

従業員一人ひとりが自身の「キャリアゴール」を設定する。その実現のために必要な経験やスキルを認識した上で、日々の仕事の中での成長をうながす。

③自己申告制度

半期に一度、自身の希望する将来のキャリアイメージを申告する制度。目標に対する「必要な経験」や「希望する働き方」などといった意思を会社に伝えることができる。

④教育

業務に必要な研修やスキル習得のための教育を実施。集合研修(Off-JT)および現場での実践を通じての育成(OJT)でサポートをおこなう。

 

 

イオンリテール株式会社

イオンリテール株式会社では、「自分のキャリアは自分で切り拓く」「教育は最大の福祉」という考え方のもと、多様なキャリアアップ制度および教育制度を実施しています。ここでは、その中からいくつかピックアップしてご紹介しましょう。

イオンで導入されている、多様なキャリア支援制度・教育制度

①イオンビジネススクール

希望するポストの獲得に向け、自主的に参加できる教育制度。


【コース例】・店長コース・商品部員コース・マーケティングコース・財務経理コース など

②国内留学(MBAコース)

国内の優良大学院(経営学修士課程)への人材派遣を推進している。卒業後は経営幹部として成長できる機会を積極的に提供する。

③公募制度

さまざまな事業や新業種・新業態などで活躍を希望する人材を広く募る制度。従業員は自分の意思で希望する事業・職種に応募できる。社内に限らず、グループ内応募も可能。

④メンター制度

入社1年目に実施する面談制度。年齢の近い先輩社員との面談を定期的に設けることで、業務上の悩みを質問・相談できる。

 

 

まとめ

近年、急速に変化する社会情勢の中、注目を集めている「リカレント教育」。今回は、リカレント教育の基本から必要とされる背景やそのメリット・導入方法までくわしく解説いたしました。

リカレント教育の導入には「学習環境の整備」や「支援制度の導入」などがありますが、はじめは厚生労働省が実施する導入支援制度をぜひ活用してみてください。

著者
松木 謙介
2017年にピーシーフェーズ株式会社に新卒で入社。大手飲食チェーン店のマニュアルデジタル化プロジェクトに携わり、2年目から人材育成クラウドサービス「shouin」の立ち上げ、現在までプロダクト開発に携わる。「研修をもっとラクラクに」できるよう、試行錯誤を続ける日々。趣味はサッカー観戦、ゲーム、読書、他多数。

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