日本の多くの企業で取り入れられている目標管理の手法として、MBOやOKRがあります。それぞれ、目的や運用方法に少しずつ違いがありますが、実際のところ
- MBOとOKRは何がどう違うの?
- 導入する上で気を付けるポイントはあるの?
と分からないことが多いことと思います。
そこでこの記事では、MBOとOKRの違いについてくわしく解説していきます。MBOとOKRに共通する課題点もご紹介いたしますので、ぜひ参考にしてください。
そもそもMBOとは
MBO(Management by Objectives)は、直訳すると「目標による管理」という意味になります。具体的には、従業員一人ひとりの目標を設定し、各々がセルフマネジメントを行う目標管理手法です。
そして、目標管理の目的はもっとも企業の目標達成にありますが、MBOではとくに従業員の「自主性」を引き出すことも大きな目的の一つです。
これは、企業の事業目標と従業員の個人目標をリンクさせ、かつ従業員が自ら目標管理(セルフマネジメント)を行うことで自然とモチベーションを引き出せる、という考えが根底にあります。
なおこの考えが誕生したのは、1954年に経営哲学者のP.F.ドラッカーが、自身の著書『現代の経営』内で「目標管理の最大の利点は、支配によるマネジメントを自己管理によるマネジメントに置き換えることにあり、自己管理によって最善を尽くしたという強い動機がもたらされる」と解説したのがきっかけとなりました。MBOの基本に関しては、以下の記事でわかりやすく解説しています。
■参考記事
MBOとは?言葉の意味、目標設定の方法、効果的な運用管理のポイントなどわかりやすく解説!
OKRとは
OKR(Objectives and Key Results)は、直訳すると「目標と主要な結果」という意味になります。1970年代にアンディ・グローブおよびジョン・ドーアによってMBOから発展した手法として開発されました。
MBOとは違い「目標管理によって企業やチームのあり方に変化をもたらすことで、企業の目標達成につなげる」といった目的をもつOKRは、実施ステップとしてはMBOと同様ですが、目標設定のやり方や運用方法には少しずつ違いが見られます。くわしくは次の章で解説いたしましょう。
MBOとOKRの違いとは?
MBOとOKRは、最終的な目的である「チームや個人の目標管理によって企業の目標達成につなげる」点と、過程的な目的である「目標管理によって従業員のモチベーションを向上させる」点においては、共通しています。
ところが、次にあげる点においては明確な違いがあり、この違いがMBOから発展したOKRの特徴になります。
<MBOとOKRの違い>
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MBO
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OKR
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目的
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個人の自主性を引き出す
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チーム・組織の成長
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目標設定期間
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6ヶ月~12ヶ月
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1ヶ月~3ヶ月
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目標設定のポイント
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何をやるか
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何を、どうやるか
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公開範囲
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プライベート
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オープン
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目標の達成度
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100%
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60〜70%
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くわしく見ていきましょう。
目的
MBOとOKRは、その目的から少し違いがあります。
MBOでは、目標管理のセルフマネジメントによって個人の「自主性」を引き出すことが一つ目的にありますが、OKRでは目標管理によって「チームや組織の成長」に重きを置いています。
この目的の違いから、MBOは目標の達成度(人事評価)を報酬に反映させる企業が多い反面、OKRでは組織の成長を促せるような難易度の高い目標設定をし、報酬には反映させない企業が多いという特徴があります。
目標設定期間
期間として6ヶ月~12ヶ月を目安に目標設定を行うMBOと比べて、OKRでは1ヶ月~3ヶ月と短い期間で目標の見直しを行います。
そしてMBOによる長期的な目標設定では、次のような事態になりがちでした。
- 「管理者に与えられた目標があいまいで、どうしたらいいか分からない」
- 「状況の変化により、目標の達成が困難なものになってしまった」
- 「時間が過ぎていくにつれて、課題への意識が薄れてしまった」
一方、OKRでは四半期ごとに目標設定を見直すことで、MBOにおけるこれらのリスクを低減しているといえます。とくに、短いスパンで目標の見直しが行われるOKRは「会社の変化に対応しやすい」といったメリットがあるため、「変化の激しい企業」にはOKRがおすすめです。
目標設定のポイント
MBOとOKRの違いは、目標設定のポイントにもあります。MBOは「何をやるか(What)」に重きを置く点に対し、OKRでは「何を、どのようにやるか(What、How)」の2つに重きを置きます。
これは、MBOではシンプルに企業目標に対しての個人目標(What)を設定するのに対し、OKRではこれに加えて「具体的に何を達成基準とするのか、可能性はどうか、企業目標との関連性はどうか」などの指標を設定することで、MBOよりも客観的に達成度を測定するということです。
さらに具体的に説明すると、OKRでは目標(Objective)を定性的な表現で表します。定性的とは、定量的な数値を具体的に表したものではなく、たとえば「新商品をヒットさせる」や「A製品の収益増加」といったように、数字を使わずに目標を設定することです。
加えてOKRでは、この定性的な目標(Objective)に対して、さらに定量的な指標(Key Results)を設けます。定量的な指標とは、たとえば「新商品の売上1,000万円」や「期限は当年の12月31日」といった具合です。
この点、MBOでは定性的や定量的などの指定はなく、企業によって自由に目標が設定されるのが特徴です。
公開範囲
MBOとOKRの違いは、目標達成に関する情報が非公開かどうかといった点にもあります。
MBOでは目標に対する達成度(人事評価)が報酬に直接影響する場合が多いことから基本は非公開ですが、OKRではチームや組織の成長を目的としているため、これらの情報はオープンに共有されるのが基本です。
この点、OKRは目標を全体で共有することにより、MBOと比べて組織全体で同じ方向に力を発揮しやすいと言えるでしょう。
目標の達成度
MBOとOKRでは、その目的の違いから、求められる目標の達成度にも違いが見られます。
MBOでは、達成可能だと考えられる範囲内で目標設定を行うため、基本的には100%の達成度が求められます。これは、セルフマネジメントにより自主性を引き出すことがMBOの目的であるため、目標を必要以上に高く設定する必要がない、または目標の達成度が報酬に影響するため「目標設定が保守的になる」と言ってもいいでしょう。
一方OKRでは、そもそもの目的がチームや組織の成長にあるため、目標設定の段階で「達成基準を高めに設定」します。これは、あえて難易度の高い目標設定を行うことで従業員のチャレンジ精神が引き出され、チームの成長につながると考えられているためです。
そのためOKRでは、求められる達成度はせいぜい60~70%程度であり、むしろ達成度が100%に達した場合は目標設定が甘かったとみなされる場合もあります。
MBOとOKRに共通する課題点
それでは最後に、MBOとOKRに共通する課題点についてご紹介いたします。
目標管理導入前の方や、目標管理がうまく運用できていないと感じる方は、ぜひこれらのポイントを押さえてみてください。
<MBOとOKRに共通する課題点>
- 目標管理と人事評価の結びつけは慎重に
- 管理者と部下のコミュニケーションが欠かせない
- 人材のMBO遂行能力を高めることが欠かせない
くわしく見ていきましょう。
目標管理と人事評価の結びつけは慎重に
目標管理を人事評価のためのツールだと考えている人も少なくないと思いますが、それは少し違います。MBOもOKRも、最大の目的は企業の目標達成につなげること。
上記では、MBOが人事評価に反映されやすく、OKRは人事評価に反映されにくいと解説しましたが、それは単にMBOが人事評価として便利(使いやすい)という理由であって、MBOを人事評価に結びつけることが望ましいということとは話が別です。
つまり何が言いたいかというと、MBOもOKRも人事評価に結びつけられるものではありますが、そこには次のようなリスクも潜んでいるということです。
- 評価に納得がいかず、従業員のモチベーションを下げてしまう
- 報酬のために、あえて低い目標を設定する人がでてくる
もちろんこのような事態になれば、目標管理は本末転倒です。企業は従業員の信頼を失い、人材を失うきっかけにもなり得るでしょう。だからこそ、目標管理を人事評価に結びつけることには慎重になる必要があるのです。
では、どうしたらよいのでしょうか。目標管理を人事評価に結びつけること自体を慎重に検討することは第一として、人事評価に反映させる場合には、あらかじめ対策を打っておくとよいでしょう。
たとえば、達成度(%)をそのまま評価項目として反映するのではなく、達成度(%)×重要度(%)×難易度(%)で業績評価をつけるという手があります。これによって、目標設定の基準や難易度によって評価に差がでるリスクを回避できるでしょう。
(参考:山田谷勝善、杉浦祐子、木村善昭著(2018)『最新 目標管理(MBO)の課題と解決がよ~くわかる本 』 を参考に弊社で作成)
また、OKRでは目標を高めに設定する性質から人事評価には結びつけない方がいいとされていますが、どうにも反映せざるを得ない場合は、影響をなるべく小さく抑えるとよいでしょう。
このように、目標管理を人事評価に結びつける場合はリスクを回避するための対策がカギになりますので、自社の評価制度にあった方法で解決策を見出してみましょう。
管理者と部下のコミュニケーションが欠かせない
MBOおよびOKRの運用には、上司(管理者)と部下のコミュニケーションが欠かせません。
実際に、書籍「最新 目標管理(MBO)の課題と解決がよ~くわかる本」では、目標管理におけるコミュニケーションの効果として次の4つのポイントが紹介されています。
- 実行計画の進捗状況がわかる
- 上手くいかない原因を明確にし、改善策を早めに打てる
- 環境変化等への対応で、目標修正を行う場合もある
- 定期的面談により信頼関係を深め、組織が成長する
管理者として部下とのコミュニケーションを図るには、たとえば隔週1回の面談や、目標設定から実行、評価段階におけるそれぞれのフェーズで定期的な面談を実施するとよいでしょう。
また、普段からの積極的な声かけや、ポジティブな呼びかけによって部下を率いる心持ちも重要です。決して、放任主義のような形になることのないよう注意しましょう。
人材のMBO遂行能力を高めることが欠かせない
社員のセルフマネジメント能力をはじめ、管理者のリーダーシップ能力およびマネジメント能力は、MBOやOKRといった目標管理で非常に役立つスキルです。
実際に、書籍「最新 目標管理(MBO)の課題と解決がよ~くわかる本」では、目標管理導入の成功ポイントとして次のように解説されています。
(1)マネジメントに対する理解
成功企業は、マネジメントに対する深い理解があります。人事制度、とくに人事評価に対しては、制度全体の整合性が取れており、経営方針に立脚したものになっています。
(2)経営者、管理者のマネジメント能力のレベルが高い
成功企業では、管理者に対する育成をしっかりやっています。目標管理導入にあたって、体系的に研修を実施する企業もあります。マネジメントの仕組みができていても、それを体現して実行してゆくマネジメント能力が、経営者、管理者に求められています。
(引用:山田谷勝善、杉浦祐子、木村善昭著(2018)『最新 目標管理(MBO)の課題と解決がよ~くわかる本 』株式会社秀和システム)
目標管理の運用の成功には、これらマネジメントスキルが大きく関わっていると言えるでしょう。スキルを養うために、管理者研修やマネジメント研修といった研修プログラムを導入してみてはいかがでしょうか。以下の記事で社員研修についてはわかりやすく解説しています。
■参考記事
社員研修とは?目的、教えるべき内容、eラーニングを交えた効果的な研修方法についてわかりやすく解説!
まとめ
MBOとOKRは、どちらも企業の目標達成を大きな目的とする目標設定のフレームワークです。今回はこれら二者の違いや共通の課題点をご紹介いたしました。ぜひ参考にして、自社にあった評価制度を検討して見てください。