マニュアルと手順書は、どちらも明確な定義があるわけではありません。社内で定義付けを行い、それをもとに作成・運用するものです。その際に意識したいのが、マニュアルと手順書の違い。この点が曖昧だと、せっかく作成しても、読まれない、活用されないマニュアルや手順書になってしまうk可能性があります。
本記事では、マニュアルと手順書は何が違うのか明確にしたうえで、作成する際のポイントと運用のための7ステップを解説しました。伝わりやすくするためのコツも5つご紹介しています。
無料のマニュアルテンプレートもご用意しております。ぜひ作って終わりではなく、業務の中で重宝されるマニュアル作りの参考にされてください。
マニュアルも手順書も、業務の効率化や生産性の向上などを目指して作成します。両者の最大の違いは、「誰が」「何の目的で」使うものかという点です。
マニュアルは、業務全体を理解し、判断が必要になったときの基準・ルールになるもの。初めてその業務を担当することになった方が、業務全体を把握する目的で使います。
一方の手順書は、それ通りに作業を行えば、誰がやっても同じ結果になるよう、細かく手順を記したもの。実際に作業を行う人が使用します。
飲食業、アパレルなどの小売業の企業が用意するマニュアルは、上記で定義したマニュアルの内容と手順書の内容のどちらも含んで「マニュアル」としているケースが少なくありません。
これはマニュアルと手順書の定義が曖昧だからどちらの要素も入っているという側面もたしかにありますが、1スタッフに対して、マニュアルの要素である「業務全体を理解し、基準を把握すること」と、手順書の要素である「実際の作業手順を細かく把握すること」のどちらもが求められている、と考えることもできます。
つまり、活用されるマニュアルや手順書を作成するためには、使う人の目的に合致した、必要な情報が過不足なく網羅的に記載されていることが重要です。それぞれについてもう少し詳しく見ていきましょう。
広義にはマニュアルとは、「会社や組織の持つよき伝統、個々の社員の持つ知識やノウハウといった暗黙知を組織ぐるみで共有・伝承していくための形式知ー文章(ドキュメント)」のことです(小林隆一著『仕事力がアップする!マニュアルのつくり方・生かし方』より)。
マニュアルは、目的に合わせて、業務マニュアル、マインドマニュアル、ユーザーズマニュアル、教育訓練マニュアルなど、いくつかの種類に分けられますが、ここでは手順書と合わせて作られることが多い業務マニュアルに焦点をあわせてご説明します。
業務マニュアルは、業務の効率化や定常業務の平準化、業務品質の向上と安定、責任の明確化、安全性の確保などを目的に、業務の全体像を把握できるようにまとめたものです。企業が持つノウハウを蓄積したものでもあります。
多くの場合、テキストを中心に必要に応じて図や写真などを入れた文書の形で作成されていますが、近年は必要に応じて部分的に動画を取り入れるケースも増えています。マニュアルについてより詳しく知りたい方は、以下の記事もあわせてお読みください。
■参考記事はこちら
マニュアルとは?活用されるマニュアルの特徴と作り方をわかりやすく解説!
マニュアルの最大の特徴は、業務の背景やこれまでの経緯、全体の流れ、基準が明記されている点です。
業務の背景
なぜその事業をやっているのか、どんな方針でやっているのかを記します。
これまでの経緯
業務がいつスタートして、どのような経緯で現在に至り、この先目指す着地点までをまとめます。過去の経緯とゴールを記すことで、現在地が把握しやすくなり、今後の見通しを立てやすくなるでしょう。
全体の流れ
業務をどのように進めていくのかをまとめます。業務内容や業務そのものの流れに加えて、業務にかかわる人の構成やシステム的なことなども明記。関連する法令や注意事項などもあれば入れておきます。
基準
マニュアルが必要な業務は多くの場合、その時々で判断が必要です。業務の判断基準や、品質に対する合格と不合格の基準など、その基準をマニュアルの中で明確化しておくと、人により判断がぶれず業務がスムーズに進みます。
必要に応じて時間的な目安も入れておくと、初めて取り組む方も計画を立てやすくなるでしょう。
マニュアルは業務の全体像を理解する目的で作成します。
正社員が大半を占め、終身雇用が当たり前だったときは、マニュアル化しなくても自然と伝承が行われました。
しかし終身雇用が崩壊、非正規雇用が増え、仕事の分業化や国際化が進み、ノウハウを共有する仕組みが必要不可欠になりました。その方法のひとつとして多くの企業が作成しているのがマニュアルです。複雑な業務でも、マニュアル化することで再現性を高めることができ、品質の維持や向上、業務の属人化を防ぐことができます。
特に近年は、長時間労働の抑制やワークライフバランスを推進する動きがあり、それに伴い、お互いの業務をサポートし合えるよう、マニュアルを作成する企業が増えています。
大きな流れとしては、以下の4ステップで作成するといいでしょう。
ステップ1では、5W1Hを明確化し、「誰のために、どんな目的で、マニュアルを作るのか」を具体的に決めます。
そしてマニュアルに盛り込む内容を洗い出し、整理するのがステップ2です。業務の棚卸が必要不可欠な作業になります。各業務にかかる時間、各業務の対応関係、優先順位を意識して書き出し、内容を整理。マニュアルの目次まで作成できたらステップ2は終了です。
ステップ3では、具体的な実施手順をまとめ、適宜、気を付けたほうがいいポイントなどを加えてマニュアルを作成します。過去の失敗例なども掲載しておくと、再発防止に効果的です。
マニュアルは作成したら終わりではありません。マニュアルに目を通してもらい業務に生かされるよう、マニュアルを周知し、活用される仕組みを作ることが重要です。マニュアルを作成する段階でステップ4として位置づけ、ここまで考えておきましょう。詳しい作成方法は後述します。
マニュアルが業務全体に焦点を当てたものだったのに対して、手順書は業務の中の一つ一つの作業に焦点を当てたものになります。作業の流れや手順をより具体的に明記し、それ通りに作業を行えば、誰がやっても同じ結果になるよう作成します。
例えば、何かを切るという作業。マニュアルであれば、「切る」と明記すればOKですが、手順書にするときは「どんな道具を使い」「どれぐらいの大きさに切るか」など、詳細に記載する必要があります。
作業に必要な物、作業にかかる時間、判断が必要な場合はその基準も入れておくといいでしょう。
手順書の最大の特徴は、誰がやっても同じ結果になるように作成するという点です。つまり作業者のスキルや経験により結果が変わるようなら、再考の余地があります。
手順書の目的は、業務の進め方と結果の平準化。作業者のスキルや経験によらず、同じやり方、同じ時間で作業ができ、同じ質となることを目指します。
作業を予め手順書としてまとめておくことで、作業を効率化し、教育のための人件費を削減できます。
手順書の作り方の詳細は後述しますが、大きな流れとしては、以下の4ステップで作成するといいでしょう。
ステップ1では、ひとつの作業を完了させるために必要な手順を洗い出します。手順書では、単位作業ごとに作成するのがポイントです。単位作業とは、以下の例の「いらっしゃいませ」と声をかける、のような、分類した際の最小単位となる作業のことです。
(例)作業:飲食店にきたお客様を席まで案内し、注文をとる
ステップ2では、ステップ1の単位作業ごとに注意事項や判断基準、補足事項などを整理します。「いらっしゃいませ」と声を掛ける際の声の大きさや頭を下げる角度、予約の確認方法など、それ通りにやれば単位作業が完結できるよう記載する内容を整理します。
ステップ1と2で書き出したものをまとめるのがステップ3です。
そして手順書を作成するうえで欠かせないのが、ステップ4の確認作業と修正。既に作業をした経験のある複数の方に確認してもらうのはもちろんのこと、初めての方にも実際に手順書のみで作業が完結できるか試してもらいましょう。その結果に応じて修正や再考を行い、本格運用へと進めます。
マニュアルも手順書も、必要な人が理解できなければ意味がありません。伝わりやすいものにするためのポイントを5つご紹介します。
マニュアルや手順書は、読み手が「これってどういうこと?」と迷ってしまっていては、内容として不十分です。できる限り具体的に書くことが、伝わるマニュアル・手順書の第一歩になります。
具体的に書くコツの一つは、「5W1H」の要素を満たすようにすること。書き終わった後に、「What(なに)」「Who(誰)」「Where(どこ)」「Why(なぜ)」「When(いつ)」「How(どのように)」が入っているか確認する習慣をつけるといいでしょう。
あとは、「多い」「少ない」のような人の感覚により判断が分かれる表現ではなく、できる限り具体的な「数字」を入れると誤解が生まれにくくなります。
例えば、「お客様が減ったら、ペーパー類の補充をする」だと、「お客様が減る」ということの定義が個人によって異なります。それを「お客様が残り2組になったら、ペーパー類の補充をする」としておけば、読み手が迷うことはありません。
マニュアルや手順書の読み手はロボットではなく、人間です。なぜその作業が必要なのか、なぜそのような手順で行うのかも合わせて記載しておくと、より理解が進みます。
例えば、やり方がAとBの複数ある場合。Aを選択した理由が記載されていないと、Bのやり方で進める人が出てくるかもしれません。でも「Bの方法だと、過去にこの点でミスが起きたため、Aの方法で進める」と記載してあれば、読み手はAの方法で進めるでしょう。
また、「なぜ」を記載しておくことで、マニュアルや手順書にないイレギュラーなことが発生した場合にも適切な判断ができるようになります。
伝わりやすいマニュアル・手順書とするために欠かせないのが見やすいデザインです。予めフォントやデザインを決めておくことで、複数の人が作成に関わっても、必要な情報に目がいきやすくなり、分かりやすくなります。
例えば、ある人は重要なポイントを囲みにし、また別の人は事例を囲みにすると、読み手は混乱しますね。
またマニュアルや手順書を作る側も、デザインが決まっていたほうが見た目を整える作業の負担が減り効率的です。
以下の記事では、デザインについて解説するとともに、そのままパワーポイントで使える無料テンプレートを配布しています。あわせてご覧ください。
■参考記事はこちら
初めて作業する人にとって、多くの場合、一番分かりやすいのは他の人がやっている作業を見せてもらいながら理解すること。でもこうした指導を何回も行うのは時間的にも作業コスト的にも難しいのが現状でしょう。だからこそマニュアルや手順書が生きてくるわけです。
なので、何回も実際にやって見せるのは難しくても、できるだけマニュアルや手順書でそれを再現できると分かりやすくなります。つまり、イラストや図解を用いると、グッと理解度が高まり、誤解が減ります。特に間違いが多い作業は、丁寧すぎるぐらいにイラストや写真を入れたり、図解を用いたり工夫をするといいでしょう。
マニュアルや手順書は、ある程度作業に慣れている人が作ることが多いため、専門用語や業界特有の表現を使いがちです。新しく業務に加わる人にとって、これらの用語理解は必要になるので、使用不可ではありませんが、使う際は必ず解説を入れましょう。
伝わりやすいマニュアル・手順書を作成するポイントが分かったところで、ここからは具体的な手順を解説していきます。
マニュアル・手順書を誰に向けて、何を目的に、最終的なゴールは何にするのか決めたら、対象となる業務を洗い出し、整理します。
内容を洗い出す際には、各業務にかかる時間、各業務の対応関係、優先順位なども書き出しましょう。書き出してみると、作業の重複が発生していたり、担当を変えたりしたほうがいいものが出てくることも少なくありません。そうしたことが見つかったら、一つひとつ業務の見直しも行います。
内容が決まったら整理して、習得の順序と何を記載するのかを決めましょう。どこまでマニュアルに入れるのか、どこから手順書に入れるのかの内容の整理も行います。習得の順序は、多くの場合マニュアルの目次となります。
例:予約電話応対マニュアル・手順書を作成する場合
各業務において、気を付けたほうがいいポイントなどの留意事項を書き出します。過去の失敗例やミスを起こしやすいポイントなども掲載しておくと、再発防止に効果的です。
特に留意事項は蓄積していくと、企業独自のノウハウになることが多いので、できれば複数人で出し合い、運用する中で加筆修正していくとベストでしょう。
あとは内容を作成していきます。テキストだけで作成することにこだわらず、必要に応じて動画を取り入れるのも効果的です。
動画は、テキストだけよりも伝えられる情報量が増えるため理解度が高まりやすい傾向にあります。一方で大まかな手順をひと目で確認したいときや、複数の項目をリストアップして伝えたいときなどは、紙のマニュアルのほうが分かりやすいです。
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テキストで作る場合は読みやすく分かりやすい文章になっているか確認し、必要に応じて表やチャート、図を挿入して理解の促進を図りましょう。
フローチャートは作業の全体像が把握できるものが望ましく、業務の流れがひと目で分かるように上から下へ記載していくと効果的です。
完成したマニュアルを運用する段階です。運用するうちに、作成段階で想定していなかった課題が見つかることがあります。課題はより良いマニュアルを作るための通過点としてプラスにとらえて活用しましょう。
最初から完璧なマニュアルや手順書とすることは難しいため、内容によっては一気に社内全体に展開するのではなく、一部の部署など限定して公開し、試運用の工程をはさんだほうがいいケースもあります。
見つかった改善点を踏まえてマニュアル・手順書をアップデートします。利用者から意見をヒアリングする試みも効果的です。
運用した結果の振り返りと改善は、一度だけでなく定期的に行いましょう。日々業務を行う中で得られた新たな知見や状況が変わったことによる変更点も反映します。
改訂が行われないマニュアル・手順書は混乱のもとです。現状と異なる点が多々出てきて、判断に迷うだけでなく、マニュアル・手順書は参考にならない、自分たち独自のノウハウでやろうという空気が生まれてしまいます。そうならないためにも、常にアップデートし続けることが大切です。
そうは言っても、日々の業務に追われていると、マニュアル・手順書のアップデートは後回しになりがち。できるときにやろうではなく、定期的に見直せる体制をどう作るかも、ぜひご検討ください。
オンライン研修サービスなどの便利なツールをうまく活用するのもひとつです。
初めて業務を担当することになった方が、業務全体を把握する目的で使うマニュアルと、実際に作業を行う人が使用する手順書。両方とも、業務の効率化や生産性の向上などを目指して作成するものですが、「誰に」「何の目的で」使うものかという点が大きく違います。
現場で活用されるマニュアルを作成するには、それぞれの違いを理解したうえで作成し、常にアップデートし続けられる体制作りが重要です。