苦情対応を行う際のフローチャートとは?対応手順やマニュアル化の方法についてわかりやすく解説!
「注文した商品と違うものが届いた。」「店員の接客が無愛想だった。」と、日々企業に寄せられるさまざまな苦情やクレーム。誠実に対応したつもりがさらに怒りを買ってしまった......と対処に悩まされている担当者も多いでしょう。
すべての苦情・クレームをスムーズに解決することはできないとしても、可能な限りトラブルは避けたいもの。そこで企業が取り組むべきなのは、対応方法の見直しです。
今回は、苦情対応を適切に処理する方法を解説します。フローチャートを使って対応方法を整理するやり方や、マニュアル例などもご紹介しますので、苦情・クレーム対応に困っている担当者、責任者の方はぜひ参考にして下さい。
苦情とクレームの違い
「苦情」と「クレーム」は似たようなシーンで使われることが多いため、同じ意味の言葉と捉えてしまいがち。しかし、厳密には違います。
苦情・クレームの対応方法を知る前に、まずは言葉の意味を確認しておきましょう。
苦情とは
「苦情」を辞書で調べてみると、以下のように記載されています。
“他から害や不利益などをこうむっていることに対する不平・不満。また、それを表した言葉。苦しい事情。”
(引用元:「デジタル大辞泉」小学館)
ビジネスに置き換えると、企業が提供した商品・サービスなどに対する、お客さまの不平・不満を指します。例えば「店員の態度が悪く不快だった。」と言うお客さまの不満、嫌な気持ちが「苦情」です。
また取引先企業など、消費者以外の組織・人の不平、不満も「苦情」に含まれます。
「苦しい事情」という意味が含まれるように、苦情は感情に関する言葉。つまり、お客さまが抱いた嫌な感情であり、企業に対する率直な意見とも言えます。真摯に受け止めて業務改善に取り組めば、顧客満足度の向上も期待できるため、ただ穏便に処理すれば良いというものではないのです。
クレームとは
一方「クレーム」という言葉については、辞書で以下のように述べられています。
商取引で、売買契約条項に違約があった場合、違約した相手に対して損害賠償請求を行うこと。苦情。異議。
(引用元:「デジタル大辞泉」小学館)
「商取引」という言葉が含まれているように、基本的に「クレーム」はビジネスで使う言葉。金銭のやり取りが発生した場合、売買契約条項に違約があった場合など、「苦情」よりも使うシーンの条件が厳しい特徴があります。
また、英語に訳した「claim」には以下のような意味があります。
(当然のこととして)要求する、要求する、請求する、返還を要求する、(要求によって)獲得する、(矛盾や意義があっても自信をもって)(...を)主張する、主張する、言い張る、引く、値する
(引用元:「weblio英和辞典・和英辞典」)
このように「クレーム」には「主張する」「要求する」「請求する」といったニュアンスも含まれます。不平・不満などの”感情”を指す「苦情」とは違って、クレームは”行動”を指す言葉なのです。
ただし「クレーム」という言葉には「苦情」「異議」という意味もあります。そのため、苦情の言い換え表現として扱われることが多いのです。
苦情やクレームを発生させる主な原因
苦情やクレームは、そもそもなぜ発生するのでしょうか。主な4つの原因について見ていきましょう。
商品・サービスからの損害
(引用元:「消費者行動に関する実態調査」連合(日本労働組合総連合会))
「連合(日本労働組合総連合会)」が2017年に行ったアンケート調査では、言ったことがある苦情・クレームの内容として、「食べ物に異物が混入していた」「商品が不良品」が特に多く挙げられるという結果に。企業が提供する商品・サービスの不備は、苦情・クレーム発生の原因となる可能性が高いのです。
具体的には「商品のサイズが違う」「商品が破損している」「予約時間に遅れる」「商品の渡し間違い」などがあります。
本来受け取るはずだった商品・サービスとは異なり、お客さまが損をすることとなると、当然嫌な気持ちになるもの。対価に見合わないと感じ、苦情・クレームへと発展してしまうのです。
接客態度ミスからの損害
「言葉遣いが悪い」「お客さまを無視する」「横柄な態度」なども、苦情・クレームが発生する原因に。接客業はもちろん施設の受付や電話応対など、お客さまと直に接する機会がある限り、どの仕事においても発生しうることです。
接客態度ミスが原因の苦情・クレームは、金銭の受け渡しを行う前に発生することもあります。例えば、レストランでの料理の提供中や、アパレルショップでの接客中の態度が悪い、というようなパターンです。
また、接客の基本である笑顔や明るい表情が原因で、苦情・クレームが発生することも。真剣な話をしているときに従業員が笑顔で接したことにより、お客さまが「馬鹿にされた。」と感じてしまう場合もあります。苦情・クレーム対応中の笑顔が原因で、「謝罪の気持ちが感じられない。」と二次クレームに発展するケースも少なくありません。
このように、接客態度は時と場合に合わせて変化させることが大切。それを間違えてしまうと、苦情・クレームが発生してしまうのです。
自社のルールの押し付けからの損害
企業への損害を防ぐため、トラブルを防止するために設けられる自社独自のルール。スムーズかつ穏便に顧客とやり取りするのに欠かせないものですが、そのルールの押し付けによって苦情・クレームが発生する場合があります。
具体的な例としては、「条件を満たした人のみ購入できる」「購入後3日以上経つと返品不可」などのルールをお客さまに押し付ける、といった行動が挙げられます。「ダメ」「無理」「断る」など、相手の要望を否定するようなルールは、怒りを買ってしまう可能性が高いのです。
しかし、苦情・クレームを恐れて闇雲にルールを破り、要求を受け入れるのは危険。そのお客さまのみ許され、他のお客さまにはルールを守ってもらう、といった対応の差別が起きるからです。また「前回は許してもらえたのに......」と、次回以降トラブルになる可能性もあります。
そのため苦情・クレームが発生した際は、対応方法を周囲とよく相談しながら、慎重に取り組むことが大切です。また、押し付けがましい態度にならないよう注意する、お客さまの要望を許容する範囲を決めるなど、発生防止のための対策を練る必要もあります。
お客さんの勘違い
苦情・クレームは、必ずしも企業側に非があるとは限りません。お客さまの勘違いが原因の場合もあります。
例えば「購入した商品のサイズが違っていた。」という苦情があった場合、従業員が間違って商品を渡した可能性ももちろんあります。しかし、実際は注文通りに商品を渡しており、お客さまが間違って選んでしまった、というケースもあるのです。
このような苦情・クレームに対応する際は、事実確認を徹底することが大切です。ただし、お客さまを疑っているようにも見えるので、慎重に取り組まなくてはなりません。
また、お客さまが勘違いをしてしまった原因を突き止めることも重要です。説明不足や確認不足がなかったかどうか、業務を見直す必要があります。
苦情とクレームを見極めるには
「お客さまの勘違い」が原因のひとつとして挙げられるように、苦情とクレームは企業側に非がない場合もあります。正しく誠実に対応したにも関わらず、執拗に責め立てる、担当者に怒りをぶつけて営業妨害をするといった、悪質なクレームも少なくありません。
不当なクレームを鵜吞みにし、要求にこたえてしまうと、企業が損をすることになります。とはいえ、悪質なクレームだと決めつけた対応は、お客さまにとって気持ちの良いものではありません。二次クレームに発展する恐れもあります。
そのため、苦情・クレームが正当か不当か、正しく見極めることが大切です。見極める方法を3つご紹介しますので、ぜひ判断に迷った際の参考にしてください。
見極める方法1:事実を調査する
苦情・クレームが本当に正当か確かめるには、事実確認の徹底が欠かせません。いつ、誰が、何をしたときに問題が発生したのか、原因と経緯を探ることが重要です。
調査により、商品・サービス・接客態度などに問題があると断定できた場合は、正当な苦情・クレームと言えます。企業は真摯に受け止め、誠意をもって謝罪すべきでしょう。
一方、お客さまの勘違いや記憶違いが原因とわかった場合は、企業側に非はありません。勘違いをさせてしまったことに対する謝罪は必要だとしても、企業側に落ち度がない以上、すべてに対して責任を負う必要はないのです。
また、お客さまでも自社でもない、他に原因がある可能性もあります。自社の業務を徹底調査しても問題点が見つからない場合は、取引先など、社外へと調査範囲を広げる必要があるでしょう。
事実をきちんと確かめずに対応すると、さらなるトラブルにつながります。二次クレームへ発展する、自社が損をする、取引先から信用を失うなど大事になりかねないので、確認を徹底することが重要です。
見極める方法2:行動を見て判断
苦情とクレームが正当か、悪意があるか見極めるのは簡単ではありません。対応を開始した時点ではわからず、後になって悪質なクレームだと気づくことも少なくないでしょう。
そのため対応中は、相手の行動をよく観察して見極める必要があります。
通常であれば、誠意をもって謝罪し、主張を理解し、適切な解決策を提案すれば引き下がってくれるものです。お客さまに原因がある場合も、事実を確認して丁寧に説明することで、納得してくれます。
もしも、謝罪・傾聴・提案を適切に行っても引き下がらない場合は、悪意がある可能性を疑います。過激な言動や執拗な訴求があれば、悪質クレームとして対応を変えなくてはなりません。
とはいえ疑ってばかりいては、誠実な対応は難しいです。謝罪の気持ちが伝わりにくくなりますし、疑っていることに気づかれ、さらなる苦情・クレームになる恐れもあります。
よって対応中は、固定概念にとらわれずに判断できるよう、冷静でいることが大切です。そして冷静でいるためには、対応方法の理解やスキルの習得など、事前準備が欠かせないでしょう。
見極める方法3:傾聴する
苦情とクレームをきちんと見極めるには、よく話を聞くことも重要。話し方や言葉遣いからも、真意を探ることができるからです。
例えば「おまえのために教えてやる」「世の中を良くするために」というようなフレーズが出てくる場合は、ただ自分の欲求を満たすために発言している可能性があります。このようなケースは、苦情・クレーム担当者に精神的なストレスを与えるため、複数人で対応する、時間を決めて対応するなどの特殊な対応が必要です。
また、苦情・クレーム対応には謝罪と対処の両方が求められますが、人によって求める内容の重要度には差があります。「気持ちを理解してもらえなかった。」「謝るばかりで何もせず、誠意が伝わらない。」と、対応に不満を抱えることになりかねないので、何を求めているのか見極めるためにも、よく話を聞くことが大切です。
担当者が一方的に話してしまうと、これらの情報を掴むことができません。そして、うまく聞き出すためのスキルも必須です。そのため、研修でシミュレーションするなど、担当者の能力を高めておく必要があると考えられるでしょう。
苦情とクレームへの対応方法
苦情・クレーム対応にはさまざまな方法があり、正解はありません。お客さまもシチュエーションも毎回違うため、どの方法が最適と言い切ることができないのです。
とはいえ、会社として取るべき行動に共通点はあります。主な5つの方法をご紹介しましょう。
苦情とクレームに対する基本方針を策定
苦情・クレーム対応を標準化するには、基本方針を策定しておくことが大切です。
どのように対応するのかを決めておかないと、従業員によって対応が変わってしまいます。「以前は全額返金できたのに、今回はできない」といったトラブルになりかねません。お客さまからの信頼を失うほか、二次クレームへと発展する恐れもあります。
また、曖昧な基本方針は混乱を招きます。
例えば「誠実に対応する」という基本方針を掲げた場合、苦情・クレームが不当なものであっても、誠実に対応することになります。しかし、話が通じない相手に対して誠実に会話をしようとしても、担当者の精神がすり減るだけです。
よって「いつ」「どのような人に」「どのように対応する」のかを、明確に決めておく必要があります。
具体的な基準が設けられれば、対応担当者は臨機応変に行動しやすくなります。方針に沿って、取るべき行動の方向性が定まるのです。全く同じ苦情・クレームはないからこそ、担当者が迷わないよう方針を策定しておきましょう。
担当者のスキル向上に努める
適切な苦情・クレーム対応を可能にするには経験が必要です。しかし、経験豊富な従業員が毎回担当できるとは限りません。上司の不在時、若手社員が代わりに請け負うことも多々あります。
そのようなときにトラブルにならないよう、役職や入社年数に関係なく、知識を身につけておくことが大切です。少しでも知識があれば、大きなトラブルの回避へとつながるでしょう。
苦情・クレーム対応のスキルアップには、研修の実施が必須です。学ぶべき内容は多岐にわたりますが、例として以下のようなことを教育すると良いでしょう。
このような知識をより多くの従業員が身につけておくことで、企業の苦情・クレーム対応力が高まります。迅速かつ穏便に対応できるようになるのはもちろん、苦情・クレームを新たなファン作りのきっかけへと変えるチャンスも増えます。
ただし、高いスキルを持つ従業員を育てるのには時間がかかるもの。研修を頻繁に実施するのが難しい企業も多いでしょう。
その際は、オンライン研修などを活用するのもひとつの手です。クラウド型eラーニングサービス「shouin+」の機能にあるような、動画視聴で学ぶスタイルの研修システムを導入すれば、遠方で働く従業員にも教育できます。動画を何度も見返して、知識を深めることも可能です。
店舗型ビジネスを展開している企業や、リモートワークを導入している企業は特に、オンライン研修を活用してみると良いでしょう。
会社としての対応ツールを決める
苦情とクレーム対応時は、記録をとるのが基本です。記録が証拠となり、お客さまと担当者のやり取りに行き違いが生じるのを防止できます。また、対応方法に不備がなかったか分析するときや、担当者を代えて引き継ぐときなどのデータとしても役立ちます。
そのような記録をどのような手法で行うのか、会社のルールとして決めておく必要があります。記録方法が人によって違うと、共有が難しくなるからです。また、本人以外確認しにくい、内容を理解できないといった状況にもなりかねません。
記録に利用されるツールとしては、例として以下が挙げられます。
紙を使用して記録する方法は、技術や知識を習得する必要がなく手軽です。記載すべき項目を並べてフォーマットを作成すれば、記録漏れも防止できます。
しかし、企業の苦情・クレームをすべて記録するとなると、膨大な量になります。保管に苦労しますし、データを探すのにも時間がかかるでしょう。
そこで便利なのが、デジタルを活用したツールです。
録音システムは、一語一句聞き漏らすことなく記録でき、トラブルが起きた際の証拠になります。顧客データベースへの記録は、苦情・クレームを言った顧客の情報をまとめて管理でき、検索も簡単です。事実確認後の連絡や、返品・返金対応時の連絡に役立ちます。
また教育システムの利用は、対応方法を記したマニュアルなど、他データとの連携を可能にします。記録とマニュアルを比較し、対応が適切だったか分析・改善したい場合に役立つでしょう。
「shouin+」にある日報機能を使えば、苦情・クレームに関するデータの共有も簡単です。対応方法の改善、社員教育、共有と活用の幅が広いので、手法のひとつとして取り入れてみましょう。
対応の流れをフローチャートなどでマニュアル化する
苦情・クレーム対応のスキルアップには時間がかかるもの。研修を行っても、従業員の全員が意欲的に学び、着実に能力が向上するとは限りません。
しかし、能力不足の従業員も、対応しなければならない場面に直面することがあります。そのようなときに必要となるのがマニュアルです。
いつ、どのような内容の苦情・クレームに対し、どのような流れで対応するのかを明確化するには「フローチャート」が便利。フローチャートは、物事のプロセスを、図を使って表すツールで、業務手順の可視化などに活用されています。
フローチャートは、シチュエーションに合わせた対応手順を記すことも可能です。「このような場合は、〇〇をする」といった、対応パターンが分岐する際の取り組み方も可視化できるため、苦情・クレーム対応手順の見える化に向いています。
わかりやすいマニュアルが設置されていれば、スキルや知識が不十分な従業員も、最低限の対応はできるようになります。また、取り組み方の統一化にもつながるため、作成しておいて損ないでしょう。
苦情やクレームの原因と対策を考える
同じ苦情・クレームを何度も繰り返さないようにするには、業務改善と従業員の教育が欠かせません。そして、そのような対策を練るには原因追及が必須です。
原因を考える際は、先ほど挙げた以下の4つのタイプに分類すると良いでしょう。
- 商品・サービス
- 接客態度
- 自社ルールの押し付け
- お客さまの勘違い
商品・サービスの不備が原因なら、業務の見直しや、ミスを起こさない仕組みづくりに取り組みます。接客態度が原因でクレームがあった場合は、従業員の接客スキルを向上させる必要があるでしょう。
自社ルールの押し付けが原因の場合は、どこからどこまで許容するのか、方針の見直しが必要です。また、押し付けがましいと感じさせない話し方、伝え方を教育することで、トラブルの防止につながります。
お客さまの勘違いが原因でクレームがあった場合は、お客さまへの説明の仕方や、商品の表記方法などの見直しが必要です。
苦情・クレームは向き合い方次第で、顧客満足度の向上や業績向上に役立てることができます。会社が成長するチャンスなので「ただ対処するだけ」で終わらせないようにしましょう。
苦情・クレームの種別対応手順をフローチャートで整理する
苦情やクレームにどう対応すべきなのかを考える際は、現在の取り組み方を可視化し、一度整理する必要があります。そして、対応手順の可視化にはフローチャートが有効です。
では、フローチャートを使って手順を整理する方法をご紹介します。
ステップ1:シチュエーションと担当者を明確にする
まず「いつ」「どのようなシチュエーション」における苦情・クレーム対応手順を可視化するのかを明確にします。閲覧する人はもちろん作成する人も、何についてのフローチャートなのかわからず、混乱してしまうからです。
通常の苦情・クレーム、悪質な苦情・クレーム、商品に関すること、接客態度に関することなど種類分けしましょう。
また、誰の行動を図式化・整理するのか、役割も明確にしておきます。苦情・クレーム対応における役割は、「担当者」「支援者」「責任者」の3タイプに分かれます。
「担当者」は、直接苦情・クレーム対応にあたる人です。「支援者」は、担当者が1人で対応しきれない場合に、サポートする役割を担います。「責任者」は、苦情・クレームにおける会社としての責任を担う人を指します。
例えば「担当者」の対応手順には、謝罪や傾聴、提案などのほか「支援者に相談する」などの行動も含まれます。「責任者」は対応担当者と支援者に指示する、対処法を決断する、というような行動をとる人です。
このように、それぞれやるべきことが違うため、誰のための対応手順を整理するのか明確にしておきましょう。
ステップ2:現状を把握・調査
フローチャートは、現状を把握して改善に役立てるもの。そのため、現在どのように苦情・クレームに対応しているのか調査する必要があります。
日々、苦情・クレーム対応している従業員は、最も状況を把握しており、フローチャート作成の責任者として理想的です。しかし業務の都合上、難しい場合もあります。その際は、担当者に入念にヒアリングを行い、調査しましょう。
また調査する際は、できるだけ多くの人に聞き込みをするのがポイント。より良い取り組み方の発見につながりますし、標準化にも役立ちます。のちのマニュアル化にも活用できるため、可能な限りさまざまな対応担当者にヒアリングを行いましょう。
ステップ3:図式化する
調査で集めた情報をもとに、フローチャートを作成していきます。
わかりやすいフローチャートを作成するため、ポイントとして以下のようなことを意識すると良いでしょう。
- 「上から下へ」もしくは「左から右へ」と図の流れを一方向に定める
- 記号を統一する
- 用語・記号を定義する
フローチャートで対応手順を整理・分析する際は、基本的に複数人で行います。そのため、誰でも内容を理解できるように作ることが大切です。
またフローチャートは、そのままマニュアルとしても活用できます。苦情・クレームの対応中など、緊急時に閲覧する可能性も考慮して、簡潔かつわかりやすい図を作成しましょう。
わかりやすいフローチャートの作成方法については、下記リンクの記事にて解説しています。より詳しく知りたい方はぜひこちらもご覧ください。
■参考記事はこちら
【2021年12月更新】フローチャートとは?書き方のポイント5つや作成手順などについて、わかりやすく解説!(無料テンプレート付き)
ステップ4:整理・分析
ヒアリングや図を作成する段階を踏むだけでも、対応手順を整理することはできます。ですが、図をもとに話し合い、分析すると、さらに活用の幅が広がるでしょう。
フローチャートを見ながら「対応手順に問題はないか」「お客さまへの配慮に不足がないか」「無駄がないか」などを分析し、改善策を考えましょう。二次クレーム発生の防止や、対応方法の改善につながります。
また整理・分析を行う際は、「担当者」「支援者」「責任者」と立場の違う従業員で集まり、共に考えるのがおすすめです。そうすることで、それぞれが「いつ、何をしているのか」互いの行動を把握できます。「〇〇さんがやってくれているはず」というような思い込み、コミュニケーションのすれ違いを防止できるでしょう。
『どんなクレームも絶対解決できる!』という書籍の中で、著者の津田卓也氏(以下津田氏)は以下のように述べています。
困っているときにお互い協力してフォローし合うことでチームワークが育まれ、組織も成長し、クレーム対応力も向上します。
(引用元:「津田卓也(2017)『どんなクレームも絶対解決できる!』株式会社あさ出版」)
苦情・クレーム対応力を高めるには、チームワーク力と連携の効率化が欠かせません。よって、役割の違う従業員が協力して対応方法を考えること、話し合うことが大切なのです。
【マニュアル例付き】クレーム対応の流れ
それでは、具体的なクレーム対応の流れをご紹介します。通常時と、悪質な苦情・クレーム発生時の対応と分けて解説しますので、対応方法がわからず悩んでいる方はぜひ参考にしてください。
なお今回は、実際にお客さまと会話し、対応する「担当者」の対応手順をご紹介します。「支援者」と「責任者」の対応手順は省略しておりますので、ご注意ください。
通常の苦情・クレーム発生時
それでは、通常の苦情・クレーム対応の流れをご紹介します。解説後にマニュアルも載せていますので、ぜひご覧ください。
1:謝罪
苦情・クレームが発生した際は、まず謝罪します。企業側に非がない場合でも、お客さまに不満を抱かせたことに変わりないので、謝罪は欠かせません。
ただし、全面的に非を認めるのではなく、不満を抱かせたことに対してお詫びをするのがポイント。すべてに対して謝罪をすると、原因が自社にない場合でも認めることとなり、後に不利な立場になります。
「ご不快な思いをさせてしまい申し訳ございません。」というように、部分的に謝罪するよう伝え方を工夫することが大切です。
2:話を聞く
次に、お客さまの話を聞きます。苦情・クレームを言うお客さまの多くは、「話を聞いて欲しい」と思っています。要望を聞き出すためや、適切な対応を見極めるためのヒアリングでもありますが、気持ちを落ち着かせるためにもよく話を聞くことが重要です。
話を聞く際は、態度や言葉遣いに気を配ります。具体的には、以下のようなことを意識すると良いでしょう。
- 積極的なうなずき
- 相づち
- アイコンタクト
- オウム返し
- 復唱
うなずきや相づち、アイコンタクトは「きちんと話を聞いている」という姿勢を示す立ち振る舞いです。またオウム返しや復唱も、「こちらの話を受け止めてくれている」と安心感を与えます。
これらはコミュニケーションスキルのうちです。急にできることではないので、研修を通して担当者を教育し、練習してもらいましょう。
3:共感する
お客さまの気持ちが高ぶっている場合は、冷静に会話をすることが難しいです。原因追及や判断の見極めの妨げになるため、クールダウンしてもらう必要があります。
気持ちを落ち着かせるには、なぜ怒っているのかを考え、寄り添うことが大切です。お客さまが「この担当者はわかってくれる」と感じれば、ヒートアップせず、徐々に気持ちが落ち着いていきます。
ここでも”聞く姿勢”が鍵になります。特に「オウム返し」は、共感する上で欠かせない行動です。「がっかりした」という言葉に対して「それは残念でしたね」と返すように、気持ちを共感するような言葉を投げかけましょう。
4:事実確認
適切な対応方法を判断するため、事実を徹底的に確認します。可能な限り細かいことまで聞き出し、メモを取りましょう。
メモを取る際は、主に以下のような項目を書き留めておきます。
- お客さまの情報(氏名や連絡先など)
- 担当者の指名
- 日時
- 苦情・クレーム内容
- 経緯
聞き漏らしのないよう、専用のフォーマットを作成しておくのもおすすめです。
また対面で苦情・クレーム対応をする場合は、メモがお客さまの視界に入ることもあります。見られても失礼のないように書きましょう。
5:提案
事実確認を行った上で、解決案を提示します。
提案する際は「このように対処する」と押し付けてしまわないよう、注意が必要です。「ひとつご提案したいことがございます。」「いかがでしょうか?」など、断る選択肢を与えるような言い回しを意識しましょう。
また、提案を断られた場合は代替案を提示します。とはいえ、その場で代替案をいくつも思いつくのは難しいので、よくあるケースの対処法を、事前に社内で決めておくのがおすすめです。
6:改めて謝罪・感謝
提案が承諾されたら、最後に改めてお詫びをします。
お客さまの怒りが静まり、解決案が定まると、つい気を抜いてしまいがちです。「早く終わらせたい」「早く解放されたい」という気持ちから、終了間際の対応を厳かにしてしまう人もいます。
しかし最後にお詫びがないと、ぞんざいな印象を与えてしまいます。締めくくりに謝罪がないことが理由で、新たなクレームが発生するケースも少なくありません。反対に、お客さまが帰るまで、電話が切れるまで気を抜かず、誠実に謝罪することで好印象を持たれます。
また、自社商品・サービスを利用、購入してくれたことに対し感謝の気持ちを伝えることで、さらに良い印象を与えます。自社に「お金を払っても良い」と判断してもらえたことを忘れず、感謝を述べることが大切です。
最後まで誠実かつ丁寧に対応し、もしも好印象を持ってもらえたならば、自社のファンになってもらえる可能性も高まります。失敗をチャンスに変える大切な時間なので、気を抜かずに締めくくりましょう。
以上、対応手順をマニュアル化すると下の画像のようになります。ひし形の図形は、フローチャートでよく使われるJIS規格の記号で、「判断」を意味します。
悪質な苦情・クレーム発生時
荒々しい口調で担当者を責めたり、執拗に要求したりするような悪質な苦情・クレームには、通常とは違う方法で対応する必要があります。ケースバイケースですが、主な対応手順は以下の通りです。
1:見分ける
おきゃくさまの口調が激しいと、つい悪質な苦情・クレームと判断してしまいがちですが、正当である可能性も捨てきれません。「悪質だ」と決めつけてトラブルになるなど、対応方法を間違ってしまう恐れがあるので、慎重に見分けることが大切です。
通常の苦情・クレーム対応時と同様、ヒアリングや事実確認などを行い、正当性を判断します。その際、原因が自社にあると発見された場合は、通常対応に切り替えましょう。
ただし、あまりにも言葉遣いが激しい場合、しつこく長時間責められる場合は、担当者の精神的負担が大きくなってしまいます。この後に続く「記録する」「応援を求める」などのステップを踏み、従業員を守りましょう。
2:記録する
悪質な苦情・クレーム対応時は、特に記録が重要です。きちんとデータをとっておくことで、不当な要求をされた場合の証拠や、主張するための材料として活用できます。
相手の連絡先やクレーム内容、経緯など、可能な限り細かく記録しましょう。なかでも重要なのが、対応日時とかかった時間の記録です。
企業側に非がないのに、長々と執拗に責める、何度も連絡・訪問するといった行動は業務妨害にあたります。人件費の損害として主張することができ、相手から訴えられた場合の盾となるのです。
また「言った」「言っていない」などのトラブルを防止するため、録音しておくのもおすすめです。悪意のある苦情・クレームから企業を守るため、正確かつ詳細な記録を残しておきましょう。
3:応援を求める
悪質な苦情・クレームは、基本的に1人で対応しません。鋭い言葉遣いや長時間の拘束により、肉体的にも精神的にも疲弊してしまうからです。
そのため、対応する際は他の従業員に声をかけ、応援を求めます。上司がその場にいる場合は直ちに報告し、交代するのも良いでしょう。特に、何日も繰り返し連絡・訪問するクレーマーに対しては、複数人で担当を交代し、従業員の負担を軽減することが大切です。
4:タイプを見極める
不当な苦情・クレームを言う人の中にもさまざまなタイプがあり、それぞれ取るべき対応が違います。
例えば、担当者を拘束して粘着するタイプの人について、津田氏は著書の『どんなクレームも絶対解決できる!』にて以下のような特徴を挙げています。
“粘質タイプのクレーマーの多くは、寂しくて誰かに相手をしてほしいだけの、元は常識ある人です。そのため、大事になり、非常識な人という扱いを受けることを嫌がります。”
(引用元:「津田卓也(2017)『どんなクレームも絶対解決できる!』株式会社あさ出版」)
このような特徴を持つ人には、「これ以上続けるのであれば大事になる」と言うようなニュアンスを伝えます。相手が引き下がるしかないと判断するよう、促すのがポイントです。
また、揚げ足をとろうとするタイプや、恐喝するタイプの人には、会話の趣旨をズラしながら対応します。相手のペースにのまれないよう、毅然とした態度で臨むことが大切です。
それぞれのタイプに適した対応をしなければ、苦情・クレームが長引いたり、企業に損害が生じたりする恐れがあるので、慎重かつ迅速な見極めが必要です。
5:対処
タイプを見極めたら、対応方法を定めて行動に移します。
とはいえ、決めていた手順通りにスムーズに進むとは限りません。トラブルが起きることも多々あるので、その都度周囲と相談しながら対応しましょう。責任者は、企業と従業員を守るよう、最後まで観察と判断、指示を怠らないことが重要です。
以上の対応手順をマニュアル化した例が、下記の画像です。他にもさまざまな取り組み方が考えられるので、自社に合わせてアレンジしながらご活用ください。
まとめ
苦情・クレーム対応は、業界に関係なくどの企業でも発生するもの。どんなに業務改善を行っても、ゼロになることはありません。
しかし、二次クレーム発生の防止や、対応の効率化は可能です。また、適切に処理できる仕組みづくりに努めることで、社内のチームワーク力アップも期待できます。スムーズに対応できれば従業員の自信につながりますし、すべてが悪いことばかりではないのです。
失敗を可能な限り少なくするため、従業員のスキル向上や対応手順の可視化など、まずはできることから始めてみましょう。