業務体制の整備が行き届いていない職場では、業務の進行がスムーズに行かず、無駄な作業が増えて生産性が低下したり、情報共有が不十分でトラブルが発生します。
一方で、業務体制の見直しは一筋縄ではいかないものです。業務体制の見直しを図ろうと思っても「どこから手を付ければ良いか分からない」とお悩みの方もいらっしゃることと思います。
そこでこの記事では、業務体制を整えるための具体的なステップやポイントについて、くわしく解説していきます。最後には実際の成功事例もご紹介しますので、業務体制見直しのイメージづくりのためにも、ぜひ最後までご覧ください。
企業の成長と発展には、効率的な業務体制の構築が欠かせません。では、業務体制とは具体的に何を指し、なぜ重要なのでしょうか。ここでは、業務体制の定義や概要、そしてその重要性について詳しく解説していきます。
業務体制とは、企業が目標を達成するために構築する組織的な仕組みのことを指します。具体的には、業務の分担や役割、指揮命令系統、情報の流れなどを含む総合的な体制のことです。
たとえば、営業部門では顧客対応や販売促進を担当し、製造部門では商品の生産を行うといった具合に、各部門の役割や責任を明確にすることで、効率的な業務遂行が可能になります。
また、業務体制には、社内のコミュニケーション方法や意思決定プロセス、業務の標準化なども含まれます。これらの要素が適切に機能することで、組織全体の生産性向上につながるのです。
適切な業務体制の構築は、企業の持続的な成長と競争力の維持に欠かせません。なぜなら、業務体制の質が業務遂行のスピードや意思決定のスピードに大きく関わるからです。
適切な業務体制が整っていると、変化の激しい市場環境に対して柔軟に対応することができ、企業の適応力が高まっていくのです。
効率的な業務体制を整えることで、企業には具体的にどのようなメリットがあるのでしょうか。4つのメリットについてご紹介していきます。
業務体制を整えるメリットとしてまず挙げられるのが、生産性の向上です。業務体制とひと口に言ってもその対応方法はさまざまですが、具体的には以下のような効果が期待できます。
実施内容 |
期待できる効果 |
無駄の削減 |
重複作業や不要な手順を見直すことで、業務遂行のスピードが上がる |
役割分担の明確化 |
明確な役割分担により、各自の時間管理がしやすくなる |
人員配置の見直し |
適材適所の人員配置により、個々の能力を最大限に発揮できるようになる |
ITツールの導入 |
情報共有がスムーズになり、意思決定のスピードが上がる |
業務体制が整うことで業務遂行のスピードが上がり、残業時間や必要人員の削減が期待できます。とくにコミュニケーションエラーが原因となるミスも減り、あらゆる面から人件費削減につながるでしょう。
また、在庫管理方法の見直しや製造プロセスの改善を行うことで、限りある資源を有効活用することもできます。過剰在庫や期限切れによる廃棄を減らしたり、不良品や端材の発生を最小限に抑えるなど、工夫次第で大きな節約につながるかもしれません。
このように、業務体制を見直すということは、限られたリソースから最大の効果を引き出せる可能性があるということです。また、資源の有効活用はコスト削減と同時に環境負荷の低減にもなり、結果として持続可能な経営にもつながるでしょう。
業務体制を整えることは、社員の労働環境改善にも良い影響を与えます。なぜなら、業務の効率化により残業時間が削減でき、ワークライフバランスの向上が期待できるからです。
また、明確な役割分担を行うことで、特定の社員への過度な負担や責任の集中を防ぎ、ストレス軽減にもつながるでしょう。さらには、業務プロセスを標準化すれば、ヒューマンエラーによる作業事故のリスクを低減し、職場の安全性を高めることもできます。
なかでもヒューマンエラーが引き起こす作業事故は、労働者の生命に関わる重要な課題です。業務体制の工夫次第でリスクを最小限に抑えられますので、後回しにせず出来る限り早い段階で対応するとよいでしょう。
業務体制を整えることは、社員のモチベーション向上にも大きく貢献します。
主な効果として、まず目標の明確化が挙げられます。社員一人ひとりの役割と責任が明確になることで、達成感を得やすくなるのです。
また、業務の効率化により余裕ができることで、新たにスキルを習得するための時間も生まれます。これにより、成長機会が与えられた社員はモチベーションが向上しやすく、さらには人事評価として目に見える形で評価されることでモチベーションを保ちやすくなるでしょう。
実例として株式会社サイバーエージェントでは、業務体制の工夫により、87%の社員が「働きがいがある」と答えるほどの職場環境を実現しています。具体的には、社員の適材適所を実現する仕組みづくりを行っていたり、特定の曜日をリモートワークとする「リモデイ 」を導入するなど、社員の能力を活かし一人ひとりが働きやすい環境を整えています。
■参考:87%の社員が「働きがいがある」と答える環境を実現ーーCHO曽山が語るエンゲージメントを高める人事施策 | CyberAgent Way)
ここからは、具体的にどのように業務体制を見直していけばよいのかという方法について以下の6つのステップから解説していきます。
業務体制の見直しの第一歩は、現状を正確に把握することです。このステップは、次のステップで適切な課題を見つけ出すために必要な作業になります。
なお、業務フローの書き方については下記の記事でくわしく解説しています。今すぐ使える【無料テンプレート】もご用意しておりますので、ぜひ貴社の業務体制改善にご活用ください。
■参考記事はこちら
フローチャート作成の参考例!5種類の書き方をわかりやすくご紹介!
現状把握ができたら、次はそれらの情報をもとに課題を洗い出していきます。下記のポイントを参考に、業務体制の見直しが必要な部分を探っていきましょう。
この時のコツとしては、業務フローを1つずつ客観的に見直してみることです。とくに、「なぜ?」を繰り返しながら考えると、問題の根幹が自ずと見えてくるでしょう。
たとえば、「なぜこの業務は一人の担当者に依存してしまっているのか?」「なぜ他の社員がサポートできないのか?」「サポートが可能なのに、なぜそれを実現できていないのか?」と考えていくと、実は問題の背景には、日頃の社員同士のコミュニケーション不足が原因として浮かび上がってきたりします。
課題の洗い出しが完了したら、次は課題それぞれに優先順位をつけていきましょう。一度に多くの改善案を同時進行するのはリスクが大きいため、この優先順位に従って改善に取り組んでいくことになります。
また、課題に対して優先順位を付ける際は、次のようなポイントを考慮しながら決めていくとよいでしょう。それぞれにポイントをつけながら、合計点数で判断するのも一つの方法かと思います。
なかでも、重要度の高い課題は早急に対応しないと深刻な問題につながる可能性があるため、優先的に取り組むべきでしょう。一方、効果の大きい課題は組織全体に大きな変化をもたらす可能性があるため、慎重に検討しながら進める必要があります。
優先順位が決まったら、具体的な実行計画を立てる段階に入ります。
業務体制の改善は、決して一人で行うものではありません。関係者全員で共通認識がとれるよう、改善計画案を丁寧に作成していく必要があります。
また、計画案を作るうえでは、次のようなポイントを意識するとよいでしょう。
具体的な目標設定は、プロジェクトの方向性を決定する重要なポイントとなります。また、実施スケジュールの設定も、プロジェクトの進行状況を把握するうえでの基準となるため、実現可能な範囲で設定していきましょう。
さらには、各タスクに責任者を割り当てることで、スムーズな進行を促進するとともに、予算や人員などの必要リソースを事前に明確にすることで、プロジェクト遂行中のリソース不足を防ぐことができます。
準備が整ったら、ついに計画実行です。実施スケジュールにそって進めていきましょう。なお、実行中は以下のポイントを意識しながら進めると、失敗のリスクを最小限に抑えられます。
計画を実行する際は、まずは会社全体への共有を忘れずに行いましょう。業務改善を行ううえでは、思わぬところで他部署に影響を及ぼす恐れがあります。
そのため、いざという時の被害を最小限に抑えるためにも、あらかじめ周囲からの理解を得られていると安心です。
また、実行中は、定期的に関係者への共有を行っていきましょう。とくに改善計画を進めるうえでは、関係者の協力が必要不可欠です。できるだけ関係者間での齟齬が生まれないよう、認識のすり合わせを行っていく必要があります。
実行後は、その効果を測定し、結果をフィードバックします。効果測定の方法としては、以下のようなポイントを抑えて実施するとよいでしょう。
なお、業務体制の改善には完成形がなく、改善に改善を重ねてアップデートしていくしかありません。時代の変化や社内の変化にあわせながら、その時の最適な業務体制の構築に努めていきましょう。
業務体制の改善には、社内の人員にかかる負担はもちろん、時には大きな予算が必要となることもあります。決して簡単なことではないからこそ、業務体制を見直すうえで注意すべき2つのポイントについて解説します。
経営戦略や研究開発などに精通する株式会社日本能率協会コンサルティング(JMAC)が発行する書籍『はじめの1冊!オフィスの業務改善がすぐできる本』によると、業務改善について次のように書かれています。
業務改善は、組織的に対応してお互いにチェックし合い、励まし合い、支援し合いながら推進していくことが最後までやり切るためのコツです。そこで、改善の実施計画を策定し、組織的に見えるようにしておきます。改善の実施計画は、ひとりの担当者のものではなく、部門としてみんなが意識していくものといえるでしょう。
引用:日本能率協会コンサルティング(JMAC)『はじめの1冊!オフィスの業務改善がすぐできる本』
この記述のように、業務体制の改善を成功させるためには、社員の意識改革と協力が必要不可欠です。以下のような取り組みを参考に実践してみるとよいでしょう。
業務体制の見直しは一度で完了するものではありません。課題を一つずつクリアにしながら、理想形に近づけていく継続的な改善が必要です。
また前述したように、業務体制の改善には完成形がなく、時代の変化や社内の変化にあわせて最適解も変わっていくものです。そのため、以下のようなポイントを意識しながら、継続的に改善に取り組める仕組みづくりを行っていきましょう。
業務体制の見直しの重要性が理解できたところで、次に具体的にどのような改善案があるのか見ていきましょう。ここでは、多くの企業で効果を上げている3つの改善案についてご紹介いたします。
業務プロセスの効率化は、即効性のある改善策として多くの企業で取り組まれています。具体的には以下のような取り組みが例として挙げられます。
無駄の排除 |
価値を生まない作業を排除する・無駄な時間を排除する |
簡素化 |
過剰な確認作業や頻度の多い定期実施作業の回数を減らす |
業務の標準化 |
共通のマニュアルやチェックリストを作成し、業務の質を均一化する |
業務プロセスを効率化するには、「無駄の排除」が最も即効性があり取り組みやすいポイントでしょう。毎日対応している作業に疑問を持つことはなかなか難しいかもしれませんが、今一度、本当に必要な作業かどうかを考えてみると、意外と無駄が見つかるものです。
とくに、「この手順は、業務の目的達成に対して少しでも貢献しているか?」という視点で考えてみるのがおすすめです。
ITツールの導入も、業務体制の改善として効果が大きく期待できる方法です。とくに近年では、下記のような便利なサービスが数多くリリースされており、ITツールを導入するだけで課題が解決できるケースも少なくありません。
コミュニケーションツール |
社内SNSやビデオ会議システムで情報共有を円滑化する |
プロジェクト管理ツール |
タスクの進行具合や期限を可視化し、進捗管理をサポートする |
人材育成ツール |
マニュアルの作成や管理、eラーニングシステムの構築をサポートする |
人材不足が加速する現代の企業において、ITツールの活用はもはや避けられません。企業課題に対してコストをかける価値のあるサービスを検討し、効果的に活用していきましょう。
同じ業務を行っても、担当者によって作業時間が違ったりクオリティに差があったりすることがありますが、このような事態を改善するためには、社員のスキルアップが有効です。
具体的には、以下のような取り組みを参考にしてください。
研修の実施 |
業務に有効なスキルを学ぶ機会を与える |
クロストレーニング |
他部門の業務を学ぶことで、柔軟な人員配置を可能にする |
メンター制度 |
経験豊富な社員が若手を指導し、ノウハウの継承を促す |
■参考記事はこちら
ここまでに、業務体制に関するステップや意識したいポイントなどをご紹介しましたが、より具体的にイメージするために、多くの企業で見られる3つの典型的な課題をピックアップして解説しますので、ぜひ参考にしてください。
ある特定の社員に業務が集中し、残業が常態化している状況は、多くの企業で見られる光景です。みなさんも、一度は目にしたことがあることと思います。では、このような問題を改善するには、どのような対策が効果的なのでしょうか。
まず、この問題の原因から考えてみると、おそらく次のような点が挙げられます。
次に、これらの原因をもとに対策法を考えてみると、次のような方法が挙げられます。
タスク管理の徹底 |
各社員の業務内容と所要時間を明確にしながら、進捗管理を徹底する |
業務の再分配 |
特定の社員に集中している業務を他の社員に分散させる |
ツールの導入 |
定型業務はITツールを活用して自動化を図る |
■参考記事はこちら
属人化とは?何が悪いのか、もたらすデメリット、原因、対策方法をわかりやすく解説!
部門間や社員間のコミュニケーション不足は、業務のエラーや誤解を生む原因となります。
みなさんも、言葉足らずな指示に翻弄された経験や、相手の顔が見えないテキストコミュニケーションで不信感を抱いた経験などがあるのではないでしょうか。しかしながら、これらの経験も普段のコミュニケーションが十分に取れていれば解消できたはずです。
そして、とくにこの問題に対しては、次のような対策が効果的でしょう。
定期的なミーティング |
定期的な情報共有の場を設ける |
オープンスペースの活用 |
物理的な距離を縮め、自然なコミュニケーションを促す |
社内SNSの導入 |
リアルタイムで情報共有ができる環境を整える |
チームビルディング活動 |
部門を超えた交流の機会を創出する |
新人や経験の浅い社員へのサポート不足は、適切な成長を阻害するだけでなく、モチベーション低下を招く恐れもある深刻な問題です。とくに、女性の多い職場ではメンタルケアも重要なポイントとなり、ケアが遅れると取り返しのつかない状態になってしまうことも。そのため、早急な対応が求められます。
そして、この問題に対しては以下のような対策が効果的です。
メンター制度の導入 |
経験豊富な社員が新人をサポートする体制を整える |
定期的なフィードバック |
上司や先輩社員が定期的にアドバイスを行う機会を設ける |
マニュアルの整備 |
基本的な業務手順をマニュアル化し、いつでも閲覧できる体制を整える |
オンライン学習システムの導入 |
eラーニングなど、自己学習ができる環境を整える |
このように、新人をサポートする方法としては、メンターのように担当者を設ける方法と、マニュアルや学習システムの導入のように会社としてサポートする方法があります。
前者は互いの信頼関係の構築につながるという意味でもメリットがあり、一方で後者は多くの社員を一度にサポートできるメリットがあります。どの方法が良いとは一概には言えず、目的に応じて使い分けられるのが理想です。
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見やすいマニュアルの作り方とは?レイアウトなどのコツを7カ条にまとめてわかりやすく解説!
それでは最後に、業務体制の改善に成功した企業の実例をご紹介したいと思います。3つの成功事例とそこから得られる学びについて解説していきます。
フィットネスクラブ「フィットネス&スパ ココカラ」のココカラ本厚木店では、新人トレーナーの育成には約80時間を要しており、育成担当者の過度な残業が問題となっていました。特に1~3月の人員入れ替わりが激しい時期には、トレーニングマシンの使用法やレッスンの進行方法などの説明を何度も繰り返す必要があり、非効率な状況が続いていたのです。
そこで、この課題を解決するため、同社は動画研修ツール「shouin+」を導入し、研修内容を動画形式のマニュアルに置き換える改善策を実施しました。するとその結果、大幅な業務体制の改善に成功。具体的には以下のような効果が得られました。
この成功事例は、動画を活用した研修システムが、とくに実技指導の多いフィットネス業界との親和性が高いために、業務効率化と人材育成の質向上に大きく貢献できたのだと考えられます。
また、ITツールを活用し、業務の洗い出しからコンテンツ制作までプロのサポートを一貫して受けられた点も、成功のポイントだったのではないでしょうか。
■shouin+導入事例|ココカラ本厚木店(人の森株式会社)
ジムトレーナー研修を動画に置き換えて、育成担当者の残業時間を70%削減!
美容脱毛事業を展開するミュゼプラチナムでは、新人研修で店舗と本社で合計5週間の研修を実施していましたが、紙ベースの日報管理や情報共有の非効率性が課題となっていました。とくに、本社トレーナーが店舗研修中の新人スタッフの状況をリアルタイムで把握できない点や、日報の持参忘れが多い点が大きな課題となっていたのです。
そこで、これらの課題を解決するため、同社は動画研修ツール「shouin+」を導入。日報のデジタル化や情報の一元管理、コミュニケーションの活性化に取り組みました。するとその結果、業務体制の改善に成功。具体的には以下のような効果が得られました。
■shouin+導入事例|株式会社ミュゼプラチナム
研修期間中の新人スタッフの様子を日報で把握!モチベーションアップやメンタルフォローを実現。
全国で約1,000の学童保育施設を運営するシダックス大新東ヒューマンサービス株式会社では支援員研修の受講機会における地域格差が生まれてしまっていました。
原因は、事業拡大につれて、支援員研修を社員全員に行き届けることが難しくなったことが挙げられます。また、現場主導でマニュアル作成を行っていたため、体系的に研修が行える仕組みもありませんでした。
そこで同社では、支援員研修の効率化を目指し人材育成のICT化を図りました。これにより地理的な制約を克服し、大規模な組織でも、全社員に対して均一に研修を行うことが出来るようになりました。
■shouin+導入事例|シダックス大新東ヒューマンサービス株式会社
児童教育のICT化で支援員の研修時間を50%削減!
業務体制の改善は、企業の生産性向上と競争力強化に直結する重要な取り組みです。本記事では、業務体制の意味や重要性から具体的な改善方法、さらには成功事例まで幅広く解説してきました。
業務体制の改善は一朝一夕には実現しません。しかし、地道な取り組みを続けることで、必ず成果は表れます。
本記事を参考に、自社に合った改善策を見出し、より効率的で働きやすい職場づくりにぜひ取り組んでみてください。