アップスキリングとは?リスキリングとの違いや実施方法を解説
継続的な事業を行うなかで必要不可欠な「進化」。この進化を支えるのが、働く人々の知識やスキルの「成長と蓄積」です。そして近年、目まぐるしく変化していく世の中において、働く人たちのスキルアップに関係する「アップスキリング」という言葉に関心が集まっています。
ところが、アップスキリングに関して「アップスキリングって何?リスキリングとは違うの?」「具体的にどうやるの?」「注意すべきことは?」というような疑問を抱いている方も多いのではないでしょうか。
そこでこの記事では、アップスキリングの基礎から実践方法、失敗しないためのポイントまでくわしくご紹介していきたいと思います。最後には、アップスキリングに成功した事例紹介もありますので、ぜひ最後までご覧ください。
アップスキリングとは?
アップスキリングとは、現在の職務に必要な知識やスキルを向上させること、またはそのためのトレーニングや教育を指します。世の中の技術の進化や業界の変化に対応するために実施され、従業員が新しい知識やスキルを身につけることで企業競争力の強化などが期待できます。
またアップスキリングには、下記に示すような似た言葉があります。まずはこれらの言葉との違いを整理していきましょう。
アップスキリングと似た言葉
- リスキリング
- リカレント
- アウトスキリング
- クロススキリング
リスキリングとの違い
リスキリングとは、キャリアチェンジもしくは仕事内容の大幅な変化に適応するため、全く新しいスキルを身につけることを指します。社会人の「学び直し」と表現されることもあります。リスキリングによって、企業は人材を採用することなく求めているスキルを持った人材を確保できるのがメリットです。
リスキリングとアップスキリングの明確な違いは、リスキリングはキャリアの転換を目的とする一方で、アップスキリングは現在のキャリアの強化を目的としている点です。なお、リスキリングについてよりくわしく知りたい方は、下記記事を参考にご覧ください。
■参考記事はこちら
リスキリングとは?意味・注目されている背景・ステップと注意点など、事例を交えてわかりやすく解説!
リカレントとの違い
リカレント(リカレント教育)とは、自身のキャリアのために生涯にわたって定期的に学び続けることを指します。仕事やライフステージに応じて、必要な知識やスキルを継続的に学び続けることを推奨する概念です。※リカレント(Recurrent)は「回帰」の意
つまり、リカレントは生涯学習の全般的な考え方であり、そのなかでアップスキリングはリカレントの一環として特定のスキル向上に焦点を当てた施策といえます。なお、リカレントについてよりくわしく知りたい方は、下記記事を参考にご覧ください。
■参考記事はこちら
リカレント教育とは?生涯学習やリスキリングとの違い・背景・メリットなど、わかりやすく解説!
アウトスキリングとの違い
アウトスキリングとは、従業員が会社を離れた後に新しい職業に就くための知識やスキルを提供する取り組みのことを指します。解雇の可能性がある社員が再就職しやすくなるよう支援することが目的で、需要の高いスキルの習得に必要な教育やトレーニングを提供します。
アウトスキリングとアップスキリングの違いとしては、アウトスキリングは退職後のキャリア支援に焦点を当て、アップスキリングは現職でのスキル向上に焦点を当てている点です。
クロススキリングとの違い
クロススキリングとは、現在の職務以外の他の分野や役割に必要なスキルを習得することを指します。これは、従業員が複数のスキルを習得することで組織内の柔軟性や対応力を向上させることが目的です。たとえば、エンジニアがマーケティングの知識を学ぶことで、プロジェクト全体への理解を深めることができるでしょう。
クロススキリングとアップスキリングの違いとしては、クロススキリングは異なる分野のスキルを習得することを目的とし、アップスキリングは現職のスキルを強化することを目的としている点です。
アップスキリングが必要とされている背景
アップスキリングは、企業や労働者の「生き残り」のために欠かせない取り組みですが、なぜこれが重要視されているのでしょうか。ここでは一度、企業におけるアップスキリングの必要性について具体的に見ていきましょう。
加速する技術の進化
技術の進化が急速に進む現代では、新しいツールやプラットフォームが次々と登場しており、企業や個人はこれらに対応するためスキルを更新し続けなければなりません。
とくにAIやIoT、ビッグデータなどの新技術が業務の効率化や新たなビジネスチャンスを生み出す可能性を秘めている一方で、従来のやり方やスキルだけでは十分に対応できないケースが増えています。そのため、技術革新に遅れずについていくためには、アップスキリングが必要不可欠なのです。
避けられないデジタル化
企業内では多くの業務においてオンライン化や自動化が進み、従来のアナログなスキルでは業務遂行が困難な場面も少なくありません。たとえば、リモートワークの普及によりWeb会議ツールやプロジェクト管理ツールの利用が必須となるなど、デジタルスキルの習得は欠かせないものとなっています。
このように、デジタル化の進展により、いまや企業のDX推進は避けられないものとなりました。これも、アップスキリングが重要視される背景のひとつです。
少子高齢化に伴う労働力不足
少子高齢化に伴う労働力不足も、アップスキリングが必要とされる背景の一つです。労働人口の減少により企業は限られた人材を最大限に活用する必要があるため、既存の従業員のスキルを向上させるアップスキリングが求められています。
とくに中高年層の労働者には、最新の技術や知識を習得してもらうことで長く活躍できる環境を整えることができるでしょう。労働力不足の問題を緩和する一つの手立てになるはずです。
市場競争の激化
グローバル化や市場の成熟によってますます競争が激化する現代。そのような中で、企業は絶えずイノベーションを追求し、変化する時代や環境の変化に対応できるよう、競争力を維持する必要があります。
その点、企業がアップスキリングによる従業員のスキル向上を図ることで、これが企業の差別化や持続的な成長に繋がり、競争力の強化につながるでしょう。
アップスキリングによるメリット
上記ではアップスキリングが必要とされる背景についてご紹介しましたが、実際にアップスキリングは上記の課題に対してどのような効果をもたらしてくれるのでしょうか。
ここからは、アップスキリングによるメリットについて具体的に見ていきましょう。
生産性の向上
アップスキリングの1つ目のメリットには「生産性の向上」があります。従業員が新しいスキルや知識を習得することで、当然ながら従来よりも業務をより効率的に進めることができるようになります。
ここで具体例を見てみましょう。たとえば経理部門において、これまでは紙の請求書を手動でエクセルに入力していたとします。この過程では入力ミスや確認漏れが発生しやすく、修正に時間がかかることもありました。
ところが、アップスキリングによって経理担当者がデジタルツールのトレーニングを受けるとどうでしょうか。経理担当者が請求書処理システムに関するスキルを身につけることで、請求書をスキャンして自動的にデータを読み込んだり、データをそのまま会計ソフトにインポートすることもできるようになります。
またシステムは自動でデータの整合性チェックを行い、エラーがあれば通知する仕組みになっているため、請求書の入力エラーは各段に少なくなることでしょう。
このように、経理担当者のアップスキリングによって請求書処理のスピードが向上するだけでなく、正確性も同時に向上し、結果として業務全体の生産性の向上が期待できます。
そしてこの生産性の向上は、企業課題とされる「労働力不足」を補うという意味でも非常に価値のあるメリットといえるでしょう。
競争力の向上
アップスキリングのメリットには「企業競争力の向上」も挙げられます。従業員が新しいスキルや知識を身につけることで自然とアイデアが生まれやすい環境になり、結果として新製品の開発につながったり顧客のニーズに応えやすくなるなど、競争力が向上していくのです。
具体例を見てみましょう。たとえば、マーケティング部門の従業員らがデジタルマーケティングやデータ分析のスキルを習得したとします。すると従業員らは、そのスキルを使ってウェブサイトの訪問者データやターゲット広告のデータを分析し、顧客の行動パターンやニーズ、市場のトレンドを深く理解できるようになります。
すると、部内ではこれらの情報をもとに新製品のアイデアが生まれやすい状態になり、企業は競争力のある製品やサービスを生み出しやすくなることで企業競争力が向上するのです。このように、アップスキリングは製品やサービス面の強化といった側面から企業競争力の向上が期待できるでしょう。
従業員満足度の向上
アップスキリングは「従業員満足度の向上」という側面でも効果が期待できます。従業員が新しいスキルや知識を習得する機会を得ることで、自己成長やキャリアの発展を実感できるようになり、結果として企業に対する満足度が向上するのです。
そもそも、従業員満足度というのは「従業員が会社などの所属組織に対してどれだけ満足しているか」を表す指標です。一般的には、従業員満足度を高めることで社員のモチベーションアップや離職率の低下などが期待できると言われているため、満足度を高めることで企業の寿命を高めることができるでしょう。
また、従業員満足度を構成する要素の一部には「仕事のやりがい」や「研修体制の整備」も含まれます。アップスキリングは従業員にとって仕事の成果やキャリアアップに大いに関係する部分であるため、これにより従業員満足度の向上が期待できるでしょう。
なお、従業員満足度についてよりくわしく知りたい方は、下記記事を参考にご覧ください。
■参考記事はこちら
従業員満足度(ES)とは?測り方や高める方法、改善事例を解説!
社員定着率の向上
アップスキリングは「社員定着率の向上」にも大きく貢献します。従業員に自己成長の機会を与えることで従業員エンゲージメントが高まり、その結果として社員定着率の向上が期待できるのです。
そもそも、従業員エンゲージメントというのは、従業員がその職場や組織に対して「貢献しようとする意欲」を表すものであり、この従業員エンゲージメントは高ければ高いほど、社員の離職率が低下すると言われています。
そしてこの意欲というものは、仕事に対するやりがいをはじめ、自己成長を感じられるかどうか、仕事量やストレス量などさまざまな要素が絡み合っており、ポイントはこの従業員エンゲージメントに「やりがい」や「自己成長」が含まれている点です。
この点、アップスキリングはまさに、従業員に成長機会を与え仕事のやりがいにつながりやすい施策といえます。そのため、結果として社員定着率の向上が期待できるでしょう。
なお、従業員エンゲージメントについてさらに知りたい方は下記記事をご覧ください。従業員エンゲージメントの構成要素から調査方法までくわしく解説しております。
■参考記事はこちら
従業員エンゲージメントとは?言葉の意味、構成要素、向上策、調査方法などについてわかりやすく解説!
また次の記事では、定着率の具体的な計算方法をご紹介しております。業界別の離職率についても確認いただけますので、ぜひ参考にご覧ください。
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定着率の計算方法とは?業界別の平均と目安や離職率との違いについてわかりやすく解説!
アップスキリングを実施する8ステップ
さて、ここからはアップスキリングを実施するための具体的な方法をご紹介いたします。全部で8ステップありますが、決して難しい作業ではありませんのでご安心ください。貴社で実施するようなイメージを持ちながらご覧いただくとよいと思います。
ステップ1.目的の設定
アップスキリングの第一歩は、目的の設定です。明確な目的設定をすることで、より効果的なアップスキリングが期待できます。会社にとって、なぜアップスキリングが必要なのか、どのような成果を期待するのかを明確にしていきましょう。
ここで参考までに、アップスキリングの目的の例をご覧ください。
アップスキリングの目的の例
- 顧客サービスの向上
- デジタル化の推進
- 新技術の導入
- 新市場への参入
- リーダーシップの育成
このように、目的は具体的なビジネス目標に基づいて設定します。明確に設定することで、全員が同じ方向に向かってスキルの習得に取り組むことができ、学習のモチベーションが高まるでしょう。また、ここで目的を明確にすることで、後の学習計画の設計がしやすくなります。
ステップ2.スキルの整理
目的設定が完了したら、次にスキルの整理を行っていきます。従業員が現在持っているスキルと、必要なスキルのギャップを整理していきましょう。こうすることで、目的を達成するためにどの分野でどの程度のスキルアップが必要かを見極められ、適切な学習設計ができるようになります。
また、スキルの整理を実施する際には、スキルマッピングや評価ツールを用いながら、従業員それぞれのスキルセットを分析していきましょう。次のようなフレームワークを活用しながら進めると効率的に実施できます。
スキル整理に活用できるフレームワーク
コンピテンシーモデル |
特定の職務や役割に必要となるスキルや行動特性を定義したもの |
スキルマトリックス |
各従業員のスキルを分野ごとに表にまとめ、どの従業員がどの分野についてスキルを備えているかを示す |
360度評価 |
同僚、上司、部下など、複数の視点から従業員のスキルやパフォーマンスを評価する方法 |
9ボックス(9ブロック) |
従業員のパフォーマンス(業績)を縦軸、ポテンシャル(それをどう達成したか)を横軸に評価する評価式 |
ステップ3.具体的な目標設定
スキルの整理ができたら、次に具体的な目標を設定していきましょう。「ステップ1:目的の設定」ではアップスキリング全体の大きな目的を設定するのに対して、ステップ3ではステップ1で設定した目的を達成するための具体的で測定可能な目標を設定していきます。
また、ここでのポイントは「達成可能な目標を立てること」です。たとえば「1か月以内に接遇の基礎を習得する」、あるいは「特定のソフトウェアの認定資格を取得する」など、具体的かつ達成可能な範囲で設定していきましょう。
なお、目標設定の際には、フレームワーク「SMARTの法則」を活用すると適切な整理がしやすくなります。
SMARTの法則
概念 |
概要 |
Specific |
具体的であること |
Measurable |
測定・定量化可能であること |
Achievable |
達成可能であること |
Relevant |
関連性があること |
Time-bound |
期限が明確であること |
ステップ4.手段の検討
目標設定が完了したら、次にこの目標を達成するための手段を検討していきます。具体的にどのようなトレーニング方法で実施するのか、またどのような教材を使用するのかなどを決めていきましょう。
手段の一例
- OJTによる学習
- eラーニングを活用した学習
- 外部講師による教育プログラムの利用
例で挙げたように、学習の手段としては社内トレーニングをはじめ、オンラインツールを活用した学習や外部講師の利用など、さまざまな手段があります。各従業員の学習スタイルやスケジュール、必要コストを検討しながら最適な方法を選択するとよいでしょう。
ステップ5.学習計画の設計
手段が決まったら、次に具体的な学習計画を設計していきます。下記、例として新入社員を対象としたアップスキリングの学習計画を設定してみました。こちらを参考に学習計画の設計に取り組んでみてください。
例:新入社員を対象としたアップスキリングの学習計画
項目 |
内容 |
学習の最終目標 |
新入社員が独立して基本業務を遂行できる |
学習の小目標 |
①業務プロセスを理解する ②主要なツール(Excel、CRM)を習得する ③複数部門の業務を把握し、チームに貢献する ④業務プロジェクトを完遂し、成果を発表する |
学習スケジュール |
1週目:オリエンテーション 2~4週目:ツールトレーニング 5~8週目:部門ローテーション 3~6ヶ月:プロジェクト実施 |
学習方法 |
eラーニング、ワークショップ、OJT、メンターシップ |
カリキュラム |
オリエンテーション、業務プロセス理解、ツールトレーニング、プロジェクト管理、コミュニケーションスキル |
必要な教材やツール |
eラーニングプラットフォーム、トレーニングマニュアル、Microsoft Office、CRMシステム、プロジェクト管理ツール |
対象となる社員 |
新人研修担当者:Aさん 部門マネージャー:Bさん メンター:Cさん 社内講師:Dさん |
評価方法 |
テスト、自己評価、上司評価 |
ステップ6.学習の実施
学習計画が完成したら、この計画に基づいて実際に学習を開始していきましょう。
研修担当者は、定期的に学習が計画通りに進められているかを確認しながら、必要に応じてサポートをしていきます。他にも、受講者が集中して学習できる環境を整えたり、学んだ内容を実務にすぐに適用できるようにOJTの機会を設けたりすると、アップスキリングをより効果的なものにできるでしょう。
一方、受講者は学習のモチベーションを維持するよう努める必要があります。学習内容が実務にどのように役立つかを常に意識したり、他の受講者との交流できるコミュニティを作り気持ちを共有し合うなどの工夫を行うとよいでしょう。
ステップ7.成果の確認・評価
学習が完了したら、その成果の確認と評価(フィードバック)を行います。具体的には、習得したスキルを実務でどのように活用しているかを評価し、本来の学習目標が達成されたかを確認します。
評価方法としては、テストや実務評価、フィードバックの収集などがあります。これにより、学習の効果を客観的に測定し、次のステップへの改善点を明確にします。
なお、評価のやり方としては以下の例を参考にしてください。
例:成果の評価方法
目標達成度 |
設定した学習目標に対する達成具合を評価する |
自己評価 |
受講者が自身の成長や課題を自己評価する |
プロジェクト評価 |
学習内容を応用したプロジェクトの成果を評価する |
定量的な評価 |
売上や効率などの定量的な指標で評価(測定)する |
テストの正解率 |
学習内容に関するテストを実施し、理解度を評価する |
実務への適用度 |
習得したスキルや知識の、実務での活用度を評価する |
ソフトスキルの評価 |
コミュニケーションスキルやリーダーシップなどを評価する |
ステップ8.フォローアップ
アップスキリングは評価を実施して完結ではありません。長期的に見ながら受講者へのフォローアップを行い、受講者が習得したスキルを維持・発展させるためのサポートを行っていきましょう。
たとえば、オンライン学習プラットフォームやeラーニングを活用した学習環境を整えることで、受講者は学習を維持することができます。
また、習得したスキルを実務で活用できるプロジェクトやタスクを受講者に与えることで、スキルの発展も期待できるでしょう。新しいスキルを実際の業務に適用することで実践的な経験を積ませ、スキルの定着と応用に活かすことができます。
なお、受講者の成長を促すフォローの方法には、いくつかポイントがあります。下記の記事でくわしく解説しておりますので、ぜひ参考にご覧ください。
■参考記事はこちら
教育を効率化するフィードバックの方法とは?心理学的な観点からも解説!
アップスキリング実施のコツと注意点
アップスキリングの進め方が分かったところで、ここからはさらに効果を高めるための、実施にかかるコツや注意点をご紹介していきます。
目的が曖昧なままスタートしない
アップスキリングを進める際は、第1ステップとしての目的設定が欠かせません。目的が漠然としたまま学習をスタートすると、学習の方向性が定まらず、受講者は迷いながら学習を進めることになります。こうなると、アップスキリングの効果が得られにくくなるどころか、受講者のモチベーション低下にもつながってしまうでしょう。
そして、目的設定のやり方としては「会社にとって、なぜアップスキリングが必要なのか、どのような成果を期待するのかを明確にする」と前述しましたが、ここで一つコツがあります。それは、「経営陣や現場の責任者を巻き込む」ことです。
担当者一人で考え込んでいても、会社にとって必要なスキルというものを見出すのが難しい場面もあることでしょう。そのような時は、会社のビジネス戦略を理解している上層部の人の意見を取り入れることによって、課題がクリアになるはずです。多くの人の意見を取り入れた目的設定を行うことで、周囲からのサポートも得られやすくなるでしょう。
受講者の負担を考慮した学習設計にする
アップスキリングを実施する際は、受講者に過度な負担がかかっていないか常に配慮する必要があります。学習時間が過度に長い場合など、受講者への負担が重くなってしまうと、ストレスやバーンアウト(いわゆる「燃え尽き症候群」)の原因となるため注意が必要です。また、この事態を防ぐためには、以下の方法を参考に学習を進めるとよいでしょう。
受講者が無理なく学べるようにするためのコツ
柔軟な学習スケジュール |
受講者が業務と学習を両立できるように、学習のタイミングやペースに柔軟性を持たせておく |
業務に直結するカリキュラム |
学習内容は、日常業務ですぐに役立つスキルや知識を中心に設計し、受講者のモチベーションを維持させる |
定期的なフィードバック |
学習進捗や内容に対して定期的にフィードバックを行い、必要に応じてプログラムを調整する |
成果に対して適切な評価を行う
2016年にリクルートマネジメントソリューションズが正社員519名を対象に実施した「人事評価制度に対する意識調査」によると、約半数の人が人事評価に「不満を持っている」という結果に。いかに、対象者本人が納得する人事評価というのが難しいものなのかが、ご理解いただけると思います。
とはいえ、アップスキリングの受講者にとって、その評価は重要な意味を持ちます。その後の学習に対するモチベーションはもちろんのこと、仕事に対するモチベーションにも影響が及ぶことも。なるべく受講者本人が納得する適切な評価の実施を心がけたいものです。
そこで、下記、受講者が納得しやすい評価を行うためのポイントを整理しましたので、納得感のある評価実施にご活用ください。
評価に納得感を持たせるためのポイント
- 評価軸を可視化すること
- スキルの可視化(能力評価)
- 実績の可視化(業績評価)
- 仕事に対する姿勢の可視化(情意評価)
なお、具体的な方法については下記の記事で解説しております。ぜひ参考にご覧ください。
■参考記事はこちら
人事評価制度を構築する方法とは?不満の原因、納得感の高い制度の特徴についてわかりやすく解説!
フォローアップを欠かさない
アップスキリングでは、一度きりではなく継続したフォローアップを行うことが大切です。フォローアップを疎かにしてしまうと、受講者の習得した知識やスキルが時間と共に薄れてしまう恐れがあります。
また、スキルが定着しにくいことで受講者は自分自身の成長を感じられなくなったり、努力が認められていないと感じることにもつながり、モチベーションの低下まで引き起こす恐れも否定できません。
そのため、アップスキリングにおけるフォローアップでは、以下のポイントに注意しながら実施していくとよいでしょう。
フォローアップのポイント
- 話しやすい雰囲気を作る
- 内容を詰め込まない
- 参加者同士でフィードバックさせる
- PDCAサイクルを意識する
アップスキリングの成功事例
それでは最後に、アップスキリングの成功事例を2件ご紹介いたします。アップスキリングのイメージづくりにお役立てください。
株式会社ユナイテッドアローズの事例
紳士服・婦人服および雑貨等の商品を販売するセレクトショップを展開している株式会社ユナイテッドアローズ。この会社の社員教育では、「真心と美意識をこめてお客様の明日を創り、生活文化のスタンダードを創造し続ける。」という経営理念のもと、常にお客様のことを第一に考えて行動できる販売員の育成(アップスキリング)に力を入れています。
具体的な方法としては、クラウド型eラーニングサービス『shouin+』を活用し、コーストレーニングや動画コンテンツ視聴で業務知識の習得を促し、さらにはクイズやチェックリスト、検定機能を活用し、学んだ業務内容のチェックを行っているといいます。
この効果的な学習方式によって、ユナイテッドアローズでは社員の接客スキルの底上げに成功。接客レベルは、その目標値に対する達成率を比較すると、例年の約2.5倍に向上したそうです。
とくに、接客に関するアップスキリングは、口頭で言われるよりも百聞は一見にしかずで、動画コンテンツが視覚的に理解できることで役立ったといいます。
■株式会社ユナイテッドアローズの事例|目標達成者数を2.5倍に!フルリモート化で効果を高めたUAの研修とは?
株式会社オンリー
ビジネスウェアを全国で約60店舗運営している、株式会社オンリー。この会社では、各店の店長・トレーナーが新入社員を指導する形をとっていましたが、どうしてもそれぞれのやり方でのレクチャーになってしまっている部分があり、同時期入社の社員でもスキルに差が出てしまう点を課題として抱えていました。
そこで株式会社オンリーでは、この解決策としてクラウド型eラーニングサービス『shouin+』の導入を決定。動画コンテンツを指導手段のメインとしながら、動画レビュー機能および検定機能をスキル把握に活用するなど、アップスキリングの基盤を整えました。
すると、これにより社員一人ひとりに同じ内容で指導ができるようになったほか、学習状況の把握がしやすくなったことで個々に合わせたフォローアップがしやすくなり、結果としてスキル平準化を実現しました。
■株式会社オンリーの事例|新入社員一人ひとりのスキルを見える化し、平準化を実現!
まとめ
目まぐるしく変化する社会において、働く人々のスキルアップ(アップスキリング)は企業を維持するために欠かせないものです。
今回は、そんなアップスキリングについて、その概要から実施方法、コツと注意点までくわしく解説いたしました。
アップスキリングは、効果的に実施することで、生産性の向上や企業競争力の向上、従業員定着率の向上など、あらゆる面からメリットが見込まれるものです。
今回お伝えしたアップスキリング実施のコツと注意点を参考に、ぜひ貴社のアップスキリング実施にお役立てください。