「せっかく採用した新入社員が育たず、すぐに辞めてしまう」「新人にどう対応していけば良いのかわからない」「指導しても手ごたえがなく、これまでのやり方では効果的な研修にならない」など、新人教育に関して悩みを抱えている人事、管理部門の方も多いのではないでしょうか。
新人の即戦力化を実現するには、新人育成のゴール設定をした上で、現場と連携しながら研修、育成を進めていくことが重要です。また、今の新人の持つ価値観の傾向や特徴を踏まえた上で、新人研修を進めていくことで効果的な人材育成が期待できます。
今回は、新人の即戦力化を目指す理由から新人の即戦力化が難しい理由について、また新人育成のポイントについて詳しく解説していきます。
新人の即戦力化とは、新入社員を早期に一人前の戦力となるように育成することです。
企業にとって人材は大切な資源であり、新人の育成、戦力化は企業の発展にとって不可欠なものです。
現代の日本においては、多くの企業が「少子高齢化にともなう人材不足」に直面しています。将来的にみても労働人口の絶対数が減少するという予測がでており、企業は戦力としての人材の確保に迫られています。採用した新人を育成し早期に戦力化できれば、企業の生産性の向上につながります。
■参考記事はこちら
新卒・新入社員研修では何をするべき?よくある課題や育成のポイントを解説
新人が一人前になるまで育つには、どれくらいの期間が必要なのでしょうか。
業務内容によって一人前の定義も変わってきますので一概にはいえませんが、一人前に関する意識調査によれば、「仕事仲間や取引先と仕事上の信頼関係を築くには、3年ぐらい必要」「3年でやっと全体が見渡せ、責任のある仕事もできるようになる」などと、「3年」ほどの時間が必要だという意見が多くみられています。
また、「守破離」という言葉があります。守破離とは茶道・武道・芸術を教わる際、師弟関係における礼儀の作法や修行の在り方に関する考え方です。一人前になるための修行の具体的な進め方として、成長の度合いに合わせ「守・しゅ」「破・は」「離・り」の三つの過程に分かれます。この考え方はビジネスの場面にも活用されています。
「 守」とは、ビジネスにおける基本的なルールやプロセスを学び、それを正確に守ることから始まります。ビジネスにおける基礎的なスキルや知識を習得することで、成功に必要な基盤を築きます。
「破」とは、基礎的なルールやプロセスを打ち破り、新しいアイデアや方法を生み出すことです。創造性や発想力を発揮し、ビジネスの成長につながる新しいアイデアを提案します。
「離」とは、基礎と応用を習得した上で、自分自身のビジネススタイルを確立することです。自分自身の強みや特徴を活かし、独自のビジネススタイルを構築します。
守破離は、ビジネスにおいても、基礎的なスキルや知識を習得した上で、自分自身のアイデアや発想力を活かし、自分自身のビジネススタイルを確立するための基本的な考え方となります。一人前になるには、おおよそ3年の時間が必要であると言われています。
多くの企業が早期戦力化を自社の課題として認識しています。
株式会社日本能率協会マネジメントセンターの行ったアンケート調査結果によると、約85%の企業が「新人・若手の早期戦力化」を重要な課題ととらえており、新人・若手研修の見直しを検討、もしくは検討を予定していることがわかりました。(回答者数140名、調査日2022年11月9日~10日)。
引用: 『8割強が「新人・若手の早期戦力化」を「重要な課題」と認識」株式会社日本能率協会マネジメントセンター
企業はどうして新人の早期戦力化を望んでいるのでしょうか。
現在のビジネスを取り巻く環境は変化のスピードが早く、企業の成長のためには多様な人材の活躍が欠かせません。アンケート結果から、新人の育成にゆっくり時間をかけるのではなく、早期に戦力化して、企業の成長に貢献して欲しいと考える企業が多いことが明らかになりました。
企業側からみると、新人とは一人で稼げるようにはなっていない状態です。
一人前に成長すれば、新人の生産性が上がり、企業の生産性向上につながります。
また、新人が独り立ちできれば、育成担当者の生産性も向上します。新人は日々業務を教わることが多く、育成担当者の時間を割いているのです。
早期戦力化とは「できるだけ早く一人前になって、育成担当者の業務時間から育成に割く時間をゼロにする」ことにつながります。指導役の担当者の指導にかける時間がなくなれば、その育成担当者個人の業務パフォーマンスが上がり、チームや企業全体の生産性が向上することになるのです。
企業は新人の早期戦力化を目指していますが、今の新人を即戦力化に導くことは難しいと言われます。
新人に対して即戦力化を求めすぎると、新人の感じるプレッシャーが大きくなり、メンタルへルスの悪化を引き起こし、離職に繋がってしまう恐れもあります。
また、受けてきた教育環境や育ってきた時代背景から、いまの新人の持つ特性、特徴があることも無視できません。
新人の早期戦力化が難しいと言われる理由には以下のようなものがあります。
新人の早期戦力化が難しい理由として、いまの新人はできないことをできるように努力して克服する、失敗してもいいからチャレンジする、という経験が不足していることが挙げられます。
今の新人は、「できないことを克服するよりもできることを伸ばす」「競争しないで自分の個性を生かす」という教育方針の中で育ってきました。このため、今の新人はチャレンジして失敗した経験から何かを学ぶ経験や、周りの人たちと競争して上を目指し努力してきた経験がなく、困難を乗り越えることで得られる経験を積むことができていません。
また、失敗することに慣れていないため、失敗することで「できない社員だ」と思われることに不安を感じ、「こんなことも知らないのか」と思われることを恐れて、素直に質問できないという傾向があります。このような受け身な姿勢の新人は戦力化することは難しいといえます。
欲しいものを我慢せずに与えられる、手に入れやすい環境で育ってきたことも、今の新人の即戦力化を難しくさせる要因の一つです。
いまの新人は経済的に豊かな環境で育ってきたことや少子化によって、欲しいものが手に入りやすい環境に育っています。欲しいものを我慢する経験や、努力して欲しいものを手に入れる経験が積みにくくなっているのです。
このため、働いていく上で必要な困難な状況を解決していく発想が生まれにくいのです。
職場環境や与えられた職務にやりたくないことや苦手なことがある場合や、過去の事例がなく正解がないことに取り組まなければならない場合に、自分で考えて何とか解決していくという意識が生まれにくいのです。
さらに、想像していた研修制度や配属先の業務と実際に違いが大きいと感じると、会社が自分には合わない、適職ではないと安易に判断して、離職につながってしまう可能性があります。
若手社員の早期戦力化が難しい理由として、企業側の研修体制が整っていないことも挙げられます。
新人側に高い習得意欲があったとしても、企業が研修体制を整えていなければ、効果的に育成することはできません。
また、研修制度の内容が精査されておらず、新人のモチベーションが高められるような研修が実現していない状況では、新人のやる気が失われてしまいかねません。
早期戦力化を目指すならば、新人が自ら学ぶ、習得するという主体性を持つことが不可欠ですが、企業側は育成制度において新人の主体性を引き出す工夫が必要となります。
新人の特徴や価値観について育成担当者や上司が理解不足であることも、新人の即戦力化を難しくする要因のひとつです。
教育方針の変化によって、失敗して叱られることに慣れていない特性のある新人の行動は、積極的に行動することをしない、また自分の意見や本音を話さない傾向があります。このため育成担当者や上司は、新人を受け身であると捉えるようになります。
指示しなければ行動しないため、育成担当者は、事細かに指示を出すという育成方法を取らざるを得ません。上司や育成担当者は、新人・若手の本音がわからないために、育成側も新人側もともにストレスが大きくなり、新人の育成を効果的に進めにくくなります。
上司や育成担当者が今の時代の新人の特徴を理解して、人材育成に関わっていくことが非常に重要になります。
いまの新人を即戦力化するには、いまの新人の特性をつかみ、育成を進めていく必要があります。それでは企業はどのように新人育成に取り組んでいけばよいのでしょうか。
「困難な環境下で自ら動き成長する力の育成」にあります。いま私たちを取り巻くビジネス環境は、情報や技術の進化が早く、業務は複雑になり難易度が高くなっています。業務において困難に向き合い、自分で乗り越えながら努力し成果をあげていくことのできる力を育てていくことが、大切なポイントとなります。
新人を育成するポイントのひとつは、新人を褒めて、承認することが挙げられます。
いまの新人を取り巻く教育環境においては、叱られたり失敗して恥をさらしたりという経験が少ないため、新人はできないことや失敗することを嫌がります。失敗することで、叱られたくない、できない人だと思われることに対して不安に感じています。
人は褒められるともっと頑張ろうという気持ちになり、意欲が倍増するものです。
『新人社員を1年で一人前に育てる36のポイント すごい人材育成』によると、新人の行動を見て「ここまでできた」「よくやっている」と小さな成功を見逃さないで承認し、褒めることで、新人は伸びていくとあります。
心理学的にも認められたことは大きな安心につながると言われていて、自分の存在そのものを認められたという「存在認知」の状態になります。集団の中で馴染めない人はどこにでもいますが、人間は誰しも自分を認めて欲しいという欲求を持ってます。環境に慣れていない新人に対しては承認する、褒めることを意識して行う必要があります。
新人を早期戦力化するポイントとして、研修内容を自分にとって必要だ、実施する意味があると感じられるものにすることが挙げられます。
新人世代の多くは研修内容を意味あるものと感じられ、腹落ちしていれば、新人も納得して取り組むことができ、実務にも活かそうという意識が生まれます。これによって新人の早期戦力化に繋がります。
この流れを繰り返すことで「なぜその研修を受ける必要があるのか」について、新人が納得しながら研修に取り組むことができます。
新人を早期戦力化するポイントとして、やりがいが感じられる仕事を任せることも必要になってきます。例えば突発的な雑用ばかりを指示し、新人がやりたくないと感じる仕事ばかり任せていれば、新人は仕事へのモチベーションが下がってしまいます。
新人それぞれの経歴や保持資格などを考慮し、できそうな仕事や興味が持てるような仕事を与えることも大切です。得意な分野で才能を発揮してもらうことで、自分に自信を持ち、仕事に前向きな姿勢で取り組むことが期待できます。
会社員は得意なことや好きなことだけを選んで仕事ができる場所ではありませんが、できるだけ希望に沿った場所、適材適所に配置できるよう心がけることも、新人の育成には大切です。"
新人に対して業務を任せて責任を持たせることも、新人の即戦力化につながるポイントです。
書籍によると、新人を即戦力化するには経営者の視点を体感させることが大切だとあります。
新人のうちからどんどん仕事を任せて、失敗から学ぶことも含めて経験させることが重要だと言います。「新人だからまだ早いだろう」と安直に新人に過保護になってしまうと新人の成長にブレーキをかけることになります。小さなことでも良いので、何か責任を持たせることでやる気に火が付くのだと、書籍には書かれています。
役職が人を変えると言われますが、責任を伴う職務が人材の成長を促進するのです。
新人や若手社員を早期戦力化するには、達成感を得る経験をさせることも重要なポイントです。
何かをやりきったという経験は、人を大きく成長させます。ひとつの業務をはじめから終わりまで担うことで、自分でできるという自信を持つことができます。
自分の能力を発揮して業務をやり遂げることができれば「自分はできるんだ!」という高揚感を感じます。そして、自身の力がチームの成果に貢献できていると感じた時に、達成感を感じることができます。
自分自身で責任を持って体験したことが、「できるという自分への期待・自信」を持たせてくれます。自分でやり遂げた達成感は、モチベーションを上げ、主体的に考え、行動するエンジンとなります。
育成担当者は業務を任せっきりにするのではなく、新人の行う経過を見守ることが必要です。新人が悩んでいれば相談に乗り、アドバイスをする、励ますなどによって、新人が最後までやりきれるようサポートするようにしましょう。
そのようにして達成感を得た経験が、今後の成長にも大きく影響していきます
実践に強い「即戦力」となる社員を育てる方法には、どのようなものがあるのでしょうか。ここでは6つの方法について解説します。
実践に強い即戦力となる社員を育てるためには、研修内容やOJTでの指導方法が影響してきます。
新人が業務を行うためには実践に必要な知識を習得することが不可欠ですが、学んだ知識を実践の場ですぐに活かせるように、
など実践の場での動き方を学べるようにカリキュラムを組み立てましょう。
OJTとOff-JTをうまく組み合わせるなどして、学びと実践を効率よく回していくことを意識しましょう。
一貫性のある研修を行うためにも、OJTを含めて全体指導のOff-JTと連動した指導計画を綿密に立てることが重要です。
実務で迷った際に、すぐチェックできるようなマニュアル環境を整えることも、即戦力となる社員を育てる方法のひとつです。
業務がマニュアル化されていないと、不明点を自ら確認し、解決することができません。新人が教わったことを一度にすべて習得することは難しいものです。分からない点を自分で調べることができるマニュアルがなければ、疑問も解決せず、それだけ習得までに時間がかかるでしょう。
また、新人が不明点を質問したい場合、育成担当者や上司が不在、あるいは忙しそうで声をかけにくいということがあります。いつまでもヘルプを出せないという状態を引き起こす恐れがあります。
このように、新人が疑問をすぐに解決できない環境にいると、先に教育過程が進んでいくにつれて遅れてしまうのではないかと焦りを感じたり、期待されていないのではないかと感じやすくなります。これによって自信が徐々になくなり、働く意欲が下がってしまう恐れがあります。
このように業務のマニュアル化を進めることで、新人が自分でチェックできるような環境を整えておく必要があります。
■参考記事はこちら
業務をマニュアル化するメリット・デメリットとは?効率的に進める方法や成功事例も紹介
OJTにおいて、育成担当者が実際に業務をやって見せることを怠らずに、丁寧に育成することも、即戦力となる新人を育てる方法として挙げられます。
『人事考課ハンドブック』 によると、技能を習得させる方法として、大事なことは「示範(やってみせる)」ことだとあります。示範とは育成担当者や上司が正しいやり方を示すことです。このとき作業手順書などに従って、正しく教える必要があります。
書籍には示範を含めた教え方が示されています。
第一段階として新人に習う準備をさせます。これから何の作業をするのか、新人がその作業についてどれだけ知っているかを確認します。
第二段階では、作業について説明します。主なステップを一つずつ説明し、やって見せ、書いて見せ、重要なポイントを強調します。
第三段階で、やらせてみます。新人にやらせてみて間違いを直す、やらせながら説明する。これを繰り返して、技能を習得させていくとあります。
OJTは現場で実務に触れながら業務を習得していく指導方法です。面倒に感じて、やって見せる「示範」を怠ると、新人は正しい手順を覚えないままに、業務を進めてしまうことになりかねません。即戦力となる新人を育てるには、まずはしっかりと手本を見せることです。
■参考記事はこちら
OJT教育のやり方や担当者のあるべき姿とは?成功に導くポイントを具体例を交えて解説!
新人育成の目標設定をし、育成担当者や上司、人事と新人が共有しておくことも、新人を即戦力化する方法に挙げられます。
新人育成の目的は「業績向上・長期的な利益の最大化・会社の成長」です。単に新人のスキルアップを図ることではなく、会社の利益に貢献できる人材を育てることが目的です。
目的を目指した目標設定をすることで、研修などの新人育成を通して、新人に求めるものを明確化することが重要です。
新人に求めるもtのが明確になれば、どのような方法によって、どのような能力を習得させれば会社利益に貢献できる人材が育つかを具体的にイメージでき、それを目指して研修内容を構築することになります。
また新人育成の目標を新人が知ることで、新人は会社に求められる人物像がわかるため、自ら理想の人材に近づくように行動することができます。
OJT期間中において、1on1の面談やフィードバック手段をあらかじめ明確にしておくことも、新人の即戦力化を進める方法のひとつです。
効果的なフィードバックを実践するためには、実施するタイミングとフィードバックの視点を明確にしておくことが大事です。
例えば、新人がミスをした場合はまず問題の解決を優先し、トラブルが解消した後に「今後同じミスをしないためにはどうしたら良いか改善策を探る」という順序・視点でフィードバックするといったイメージです。
なにが良かったのか、なにに気をつけなければいけなかったのかについて、新人が自ら気づくことは難しいものです。
適切なタイミングでフィードバックを行うことが、新人が期待されている社員像を上司と共有し、成長していくためのアドバイスを受けることができます。このため面談、フィードバックの実施によって、新人の働きやすさが向上する可能性が示されています。
■参考記事はこちら
教育を効率化するフィードバックの方法とは?心理学的な観点からも解説!
新人教育においては、職場と人事が連携していくことが早期戦力化を実現していく上でのポイントとなります。
人事が現場と連携する例としては、以下のようなものがあります。
育成のゴールイメージを、全社で共有して会社全体で新人育成をするという意識が大切です。
配属後は、新人育成を現場に任せっきりにしてしまいがちです。人事は日々の活動に忙しい育成担当者を支援し、新人の即戦力化、育成のゴール達成に向けて積極的に働きかけて、新人が育ちやすい環境を整えることが重要です。
新人を即戦力化するには、研修体系や指導体制を整えておくことなどのポイントがあることについて説明してきました。
研修内容が自分が仕事をしていくために必要なものだと認識すると、新人は前向きな姿勢で自主的に学ぶようになります。インプットとアウトプットを組み合わせて、効果的な研修となるように工夫しましょう。
また、今の新人・若手社員の特性、特徴への理解を深めた上で育成・指導することが大切です。
また企業側は研修を行うにあたって育成担当者だけに任せっきりにするのではなく、職場全体で新人を育成するという意識で取り組みましょう。
企業の継続的な発展に貢献する人材へと成長できるよう、新人が積極的に働きたいと思える環境作りに努めて、新人のモチベーションを上手く保ちながら、即戦力化の実現に向けて全社で取り組んで行きましょう。